宗教は必ずしも著者の好むところではない。否（いな）彼はその儀式と制度とを嫌う。その教理の多くも又これを好まない。しかしながら彼はただナザレのイエスを信ずる。イエスは彼の主である、又兄である、又友である。イエスを識（し）ってより彼の生命は一新した。尽きざる力はイエスを源として湧き来たり、希望は輝き、歓喜は溢（あふ）れ、世と己とに対する闘いにうち勝ち、艱難の中にありて深き感謝を繰り返すことを得るに至った。かくて荒野のごとくに見えし人生は化して美（うる）わしき園となったのである。彼はこの福（さいわい）を独り恣（ほしいまま）にするに忍びない。万人と共にこれを頒たんことを希（ねが）う。イエスが彼の眼に如何（いか）に映じたか、イエスによる新生の光景の一斑（いっぱん）は如何（いかん）、彼は今拙（つたな）き筆にこれを綴（つづ）りて未（いま）だイエスを識（し）らざる人々に紹介すると共に、すでにイエスを識（し）って限りなき恩寵を味わえる人々の喜びを新たにせんと欲するのである。

大正五年三月

柏木に於て
藤井武

附言
本書収むるところみな聖書の教訓が著者の心に訴えたる感想である。しかして中「共働者イエス」「子たる者の自由」及「十字架を負うの歓び」の三篇はかつて雑誌「聖書の研究」誌上に載せられしもの、同誌主筆にして著者の恩師なる内村鑑三先生の承諾を得てここにこれを収録したのである。

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