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「黙示録講義」
第十五講 神の力
第十一章三〜一三節（三月二日）
藤井武
Takeshi Fujii
アタエルロイ、解いて「汝は覧たもう神なり」（創世一六の一三）と云う。ヨハネをして「神の宮」を測らしめたまいし者は、熟々視て知りたもう神であった。
聖所の外の庭は異邦人の属である。彼らは四十二ケ月の間、聖なる都を蹂躙するであろう。しかるに神はまたここに二人の証人に権を与えたもうた。この二人は荒布を纏うて同じ月日の間預言せしめられる。両者の何人であるかを今問題としない。兎に角いつの世にも必ず預言者がある。ヨハネの聞きし声によれば、彼らは地の主の御前に立てる二つのオリブの樹であり、二つの燈台である。昔預言者ゼカリヤが天の使いに燈台とその両側に立つ二株のオリブの樹とを示されたことがある。ゼカリヤそのオリブの意を天使にたずねたるに、彼は答えて曰った「これらは油の二箇の子にして全地の主の前に立つ者なり」と。燈台は油により、油は大地に生えるオリブのものである。キリスト者は聖書による、聖書は神の口より出でし聖言である。我々にとっていかなることが最も貴いか、真理を証明する生涯自体であろう。しからば真理の証明はいかにしてなさるべきであろうか。ある人々は自ら輝かんとした、彼らは実際光を放ちもした、しかしそれは要するに真理の枝葉の証明にすぎなかった。しかるに他の人々は自ら輝かんとはしなかった、彼らはある真理自体なるものの前に自らを据えた、この不滅の陽光を受けて彼らは光った。彼らは根幹の真理に生き且つ証した。彼らの光はその強弱を問わずすべて永遠の光である。不滅の光明に連なれる彼らには永生がある。真に偉大なる人々、また真に生きた名もなき男女、すべて真の生き方はこのごとくであった。
かくのごとき人々にあっては、ヨハネが二人の証人について聴きしがごとく、「もし彼らを害わんとする者あれば、火がその口より出でてその敵を焚き尽くす」のである。彼らは学者のごとくならず権威あるもののごとく戦う。彼らには神より来たる驚くべき力がある。将軍ゴルドンがかつて言ったことがある、自分は大工の手にある道具のようなものである、切れなくなれば大工が研ぐまでである、もし大工がこれを不要とするならばまたそれまでである、ただ大工の心のままになればよい、と。キリスト者は誰人よりも己れの弱きを知る。彼等はつまらぬ器であるけれども、名工が研げば切れるように、聖言によりて力あるものとなる。彼らは聖言の力によりて何者にも勝ち得るのである。「エホバはわが光わが救いなり、われ誰をか畏れん、エホバはわが生命の力なり、わが懼るべき者は誰ぞや」（詩二七の一）とは、彼らの賜われる権威である。
しからば彼らは果たして悪を地より絶ち滅ぼすほどの勝利を博したか。事実はまさにその反対である。この二人の証人についての預言を聴くに、「彼らがその証を終えんとき底なき所より上る獣ありてこれと戦闘をなし、勝ちてこれを殺す」と云うのである。空しき風の人は多く、真理の人は少ない。十字架の死は来たる、嘲笑の磔殺である。地に住む者らその死を喜び、その屍を曝す、彼らにとりて真理の人は蛇蝎にも等しきがゆえに。権威ある者の敗滅、この世の智者の勝利である。神は果たして彼ら証人を見棄てたもうたのであろうか。しかり、神は一度これを見棄てたもうた、底なき所より上る獣の一味徒党は勝った。されども驕戦いづくんぞよく久しからん、彼らの勝利は要するに三日天下である。この二人の証人についての輝かしきその後のおとずれを聴こう、曰く「三日半の後生命の息、神より出でて彼らに入り、かれら足にて起ちたればこれを見る者大いに懼れたり」と。復活である、勝利である、凱旋である。彼らの勝利は始めから内的であった、外的の大敗北は内的の大勝利であった、かくて彼等の勝利は終に死の彼岸に至りて輝くのである。聴け、天に大いなる声ありて「ここに昇れ」と云うを。彼らは見る見る雲に駕して天に昇り、敵は戦慄しつつこれを見遣る。天怒りて地震わざるを得ず、地震いて人死せざるを得ない、生き遣れる者ら懼れを抱き、今にして漸く栄光は義しき者に帰すべきを悟りたるもののごとく、地の極より天の神に栄光を帰するのである。
かくて我らはキリスト者の生涯にはたらく神の力を知る。神の力は信ずる者に犯すべからざる厳かなる権威を与え、地にありてはそのゆえにかえって敗北を来さしめ、ひとたび十字架の死を遂げしめ、終に復活の勝利を羸ち得しむるものである。誠に神の勝利であれば、神に限りなき栄光を帰しまつるべきである。
です。