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「黙示録講義」
第二十一講 勝利の歌
第十五章（四月二十七日）
藤井武
Takeshi Fujii
先に第七封印の解かれた時、天の沈黙の中に七人の御使いの立てるをヨハネは見た。この度もまた七人の御使いが立っている。彼らの相貌には悲壮なるものがある。彼らは手に手に苦難を持っている、この外に苦難の貯えはない。神の憤りのすべては彼らの手に盛られているのである。
また怪しげな海がある。玻璃を湛え、火が炎々と燃え立っている。その汀に立ちならぶ一群は手に手に立琴をもっている。彼らの額は勝利に輝いている。彼ら琴かき鳴らし声高らかに唱う歌は、これ神の僕モーセの歌と羔の歌とである。モーセの歌とは何か、エジプトの鰐よりイスラエルの羊を救い出したまえる神への讃美である。モーセ神に依り頼みて勝ちし古えの光輝ある歴史を思え。「モーセ民に曰いけるは、汝ら懼るるなかれ、立ちてエホバが今日汝らのためになしたまわんところの救いを見よ、汝らが今日見たるエジプト人をば汝らかさねて復これを見ること絶えてなかるべきなり、エホバ汝らのために戦いたまわん汝らは静まりておるべし」（出エジプト一四の一三、一四）。かかる信頼もてそのピスガ山巓の死に至るまで神命これ従いたるモーセ、その生活は神の勝利の証であり、その歌は神の勝利の讃美である。旧約史上における勝利の代表と見て可なりである。しからば羔の歌とは何か。いうまでもなくキリストの勝利とそれによるキリスト者の完全なる勝利をうたいたるものである。要するに、ここに歌われしは旧新約を貫く神とキリストとの勝利の歌である。その歌のこころに曰く、
主なる全能の神よ、大いなるかな妙なるかな汝の聖業。
万国の主よ、義なるかな真なるかな汝の道。
主よ、誰れか汝を畏れざる、誰れか聖名を尊まざる。
汝のみ聖なり、万ずの民来たりて汝の御前に拝せん、
汝の審判はすでに現われたればなり。（三、四節）
神に信頼して始めて勝利を得、信仰の戦いを戦って始めて真理を発見する。涙血の犠牲を払うこと大いなるだけ、真理の発見はみ前に尊く勝利の喜びは輝かしい。そのとき讃美は腸より湧く、大いなるかな妙なるかな汝のみ業、義なるかな真なるかな汝の道と。何が大きいと言うて、神のなしたもうことほど偉大なことはない。「エホバは地球の遥か上に坐り地に住むものを蝗のごとく覗たもう、大空を薄絹のごとく布きたもう」。われら眼をあげて高きを見よう、たれかこれらのものを創造せしや。「主は数をしらべてその万象を引きいだしおのおのその名をよびたもう、主のいきおい大いなり、その力の強きがゆえに一も欠くることなし」。神を仰がしめられた者は又知った、神の導きたもう道の奇しさ、そのなさり方の微妙さを。「そのわざは奇しくしていとあやし、かれらの中なる智者の智慧は失せ聡明者のさときはかくれん」である。すべてのこと偶然なるはなく、一つとして無意義なるはない。しかも神のなしたもうところは奇しくして、その必然はしばしば奇蹟としか思われない。しかり最も深い意味において、神のなしたもうところは人には奇蹟であり恩恵であるのである。外に向かいて大いなるかな妙なるかなと聖業を讃えし心は、内に向かって義なるかな真なるかなと讃美しないではいられないのである。神の道の義しさその真実さがわかって、我らは始めて神の前に人間となるのである。神に打たれて、生まれつきの我れをたたきつけられてしまった心は、神に向かって呼ばわって言う、「エホバよ我は汝の審判の義しく又汝が真実をもて我を苦しめたまいしを知る」（詩一一九の七五）、また「汝の義は永遠の義なり、汝の法は真理なり」（詩一一九の一四二）と。
神のみ業を大いなるかな妙なるかなと云うとき、そこにキリスト教的宇宙観と歴史観がある。神の道を義なるかな真なるかなと云うとき、そこにキリスト教的神観と人生観がある。この大いなる真理は、ただキリストを知ることによってのみ示される。主にありてこれら一切を有つ、こんな大きなことがどこにあろうか。勝利は主のゆえに宇宙よりも大きい。「己れの御子を惜しまずして我ら衆てのために付したまいし者は、などかこれにそえて万物を我らに賜わざらんや」である。恩恵は限りなく深い。げに主はわが歌、わが力、わが望みである。
個人の生涯と人類の歴史と宇宙の動きとを導きたもう主なる全能の神は、誠に大にして妙、義にして真なる摂理の神、キリストにおいて無限の愛を現わしたまえる恩恵の神である。
です。