しかし、キリストはご自身を世に現さずに、どのように私たちにご自身を現されるのでしょう？第一に、彼ご自身が私たちをこの状態に導いて下さいます。彼は私たちを放っておいて、独力でそこに登らせるのではありません。彼はかなたに王宮を建てて、「あそこに行くことが出来たら、その素晴らしさがわかります」とは言われません。彼は私たちをまっすぐその王宮まで導いて下さるのです。

ジョン・バンヤンは、神が認罪の霊をもって自分に臨んだ時、幻の中で祝福と美に満ちた家を見ました。その家の中では、きよい男女が主の光の中で一緒に歌っていました。しかし、彼は外にいて、中に入れませんでした。まるで、岩壁が彼らと彼を隔てているかのようでした。彼は、彼らの幸いな様子と、その光景の明るさと、その喜びの真実さを見ました。しかし、彼は暗く寒い屋外にいました。ある人々はこれと同じような状態にあります。彼らは言います、「そのような生活を送るのは素晴らしいことです。そこには絶えざる安息と勝利があり、問題に悩まされることもありません。そこでは罪の大きな渦が私たちを巻き込むことはなく、キリストが私たちを祝福し、私たちを他の人々に対する祝福として下さいます。しかし、私たちはそこに至ることができません」。

ある集会でのことです。一人の善良な人が立ち上がって、「もしあなたがたがキリストを受け入れて、彼の御業に明け渡すなら、彼はあなたがたのために働いて下さいます」と人々に言いました。「しかし」と彼は言いました。「あなたがたはそのために準備をしなければなりません。あなたがたは、まず第一に、清められなければなりません。そうしないと、キリストは来て下さいません」。私は聴衆の顔が曇ったのを見ました。人々は、「おお、私たちはどうすれば清められるのでしょう？」と言いたげな顔をしていました。私は彼らに、「愛する方々よ、そのきよめこそキリストご自身があなたがたに与えようとしておられるものなのです」と告げたいと思いました。

私たちの聖であるキリスト

「人が自力できよくなった後、キリストがそれに報いて下さる」という教えは、主の教えではありません。キリストご自身が私たちの聖です。彼はご自身の聖を私たちに与え、私たちのところに来て、永遠に私たちの心の中に住まわれます。

ニューヨークの上の手の空き地地帯には、掘っ建て小屋がいくつも建っています。そこの人々は時々小屋を修理します。清掃婦は数ドルかけて自分の小屋を片づけ、壁を白く塗ります。それで彼女は、小屋が立派になったと思うかもしれません。しかし、億万長者の一人がその土地を買った時、彼は古い掘っ建て小屋を修理せずに取り壊し、そこに大邸宅を建てました。

私たちに必要なのは、家の修繕ではありません。キリストに空き地をささげなさい。そうするなら、彼は古いいのちを掘り起こし、もっと素晴らしい家を建てて、そこに永遠に住まわれます。キリストは祝福であるだけでなく、祝福の備えでもなければなりません。それは、ある偉大なアッシリアの王が進軍した時のようです。彼は国民に道を造るよう命じるのではなく、自分の家来たちを遣わして彼らに木を切り倒させ、倒壊した場所を立て直させ、山々を平らにさせました。それと同じように、もし私たちがキリストを来たるべき王、私たちの信仰の創始者また完成者として受け入れるなら、キリストは私たちの内で御業をなして下さいます。

自我に対する私たちの死

かつてある婦人が、キリストが彼女に語られた言葉を話してくれました。その言葉は、「私はあなたの死となり、そしてあなたのいのちとなります」というものでした。自分で死のうとしてはいけません。自己の磔殺のために、キリストを取りなさい。キリストは、自己を根絶し、廃棄し、十字架につける働きを引き受けて、それを完全に成して下さいます。解剖室の中にとどまって霊の死骸を解剖したり、自殺用のナイフを持って震えたりする必要はありません。そのような苦行はまったく捨ててしまいなさい。キリストは自己を死なせる力です。彼に信頼しなさい。自己をキリストに渡してこう言いなさい、「主よ、ここに張本人がいます。私は自己をあなたに引き渡します。私は自己を殺すことができません。しかし、私は自己に死んでほしいのです。どうか動悸する情欲の脈拍を鎮め、そのかわりに平和を来たらせて下さい。私にはできません。しかし、私はあなたに、あなたの方法で私を殺す権利を差し上げます。ここで、一度限り永久に、私は自分をあなたにささげます」。

私たちのいのちと純粋さ

キリストは彼の霊と恵みにより、自己の死となって下さり、古い自己を終わらせる力となって下さいます。それだけでなく、キリストは私たちの内で純粋な力強い新しいいのちにもなって下さいます。彼は私たちを清め、彼のいのちにあずからせて下さいます。そこで私たちは、自分のものではないいのちが自分の内にあることを感じるようになります。キリストを受け入れる時、人は自分の美点を誇らなくなります。私たちは塵の中に伏しているようであり、「私は罪人のかしら以外の何者でもありません」と言います。しかしそれと同時に、祝福された純粋な流れが自分の全身を巡っていることも感じます。私たちが誘惑に遭う時、主はご自分の霊を与えることによって誘惑を解決して下さいます。信者は高く上げられて、誘惑を超越します。積極的なものが消極的なものを滅ぼします。天的なものが地的で邪悪なものを撃退します。

それは、ある蒸し暑い夏の日に、爽やかなにわか雨がたちまちすべてを洗い清めるようなものです。草は青々と生い茂り、花は頭をもたげて美と輝きをまき散らし、大気はいのちに満ちあふれ、自然の甘い芳香が五感にしみわたります。キリストの霊が到来して、疲弊した罪深い心を生かされる時も、そのようです。彼の臨在は、霊の上に降り注いであらゆる地上の汚れを洗い流すにわか雨のようです。信者は流れのほとりにある小石のように、その絶え間ない流れによって洗われ続けます。

私たちの平安

キリストは私たちの死といのちであるだけでなく、さらに私たちの平安にもなって下さいます。これは福音書の中に多く記されています。「私は私の平安をあなたがたに与えます。あなたがたは心を騒がせてはなりません。恐れてはなりません」。^１静けさは、この内なるキリストのいのちの主要な特徴の一つです。キリストのいのちは、生来の騒がしさやいらだたしさを静めます。それは、自己が平衡を保つというよりは、キリストが平衡を保って下さることです。信者は静けさと力と安息を感じます。人生の中から嵐が過ぎ去り、信者は神の静けさを得ます。信者は心の奥底で、「人知を越えた神の平安が、キリストを通して心と思いとを守る」^２のを感じます。外側には騒動や艱難があるかもしれませんが、キリストは心の奥の部屋に来て、「私がこれらのことをあなたがたに話したのは、あなたがたが私にあって平安を持つためです。あなたがたはこの世では艱難があります。しかし、元気を出しなさい。私は世に打ち勝っています」（ヨハネによる福音書十六章三十三節）とささやいて下さいます。

^１ ヨハネによる福音書十四章二十七節（訳注）
^２ ピリピ人への手紙四章七節（訳注）

私たちの喜び

この内住のキリストは平安以上です。彼は喜びでもあります。「それは私の喜びがあなたがたの中にとどまり、あなたがたの喜びが満ち溢れるためです」（ヨハネによる福音書十五章十一節）。ゼパニヤはこの思想を把握しました。「あなたがたの真中におられるあなたがたの神、あなたがたの主は力強い。彼はあなたがたを救い、あなたがたと共に喜び楽しまれる。彼は愛にあって安息し、あなたがたのために喜び歌われる」（ゼパニヤ書三章十七節）。主はしばしば、愛の中で黙されます。彼はしばしば喜びの潮を実に静穏に保たれるので、人はそれを乱すのを恐れます。その後、喜びが信者の全身を駆け巡ります。主は安息と喜びを交互に流し出して下さいます。

平安は永続的であり、喜びは断続的です。世の試練に打ち勝つ必要がある時、喜びの泉が溢れ流れます。パウロとシラスが牢獄でむち打たれて全身の痛みを感じていた時、主は彼らを訪れました。彼らは主の訪れによって喜び歌いました。^１アンテオケの人々が彼らを町から追い出した時、「弟子たちは喜びと聖霊に満たされて」いました。^２殉教者たちが火あぶりにされた時、彼らは迫害者に向かって、「私たちは炎を感じません。喜びがあまりにも大きいからです。喜びが私たちの全身を満たして痛みを鎮めます」と言いました。これは、十字架にかかる前の晩、ご自分の苦しみに構わずに、「あなたがたは心を騒がせてはいけません」と弟子たちを慰めた方の霊によります。

^１ 使徒の働き十六章十一〜四十節（訳注）
^２ 使徒の働き十三章五十、五十一節（訳注）

私たちの信仰

私たちの内におられるキリストは、私たちの信仰になって下さいます。私たちは、「私がいま生きているその命を、私は神の御子の信仰によって生きます」^１と言うことができます。あなたがこの信仰を持つ時、神を信じることがあなたの第二の天性になります。あなたは超自然的な信仰を持つでしょう。あなたは信仰を持とうと努力するのではなく、「神の信仰を持ちなさい」という主の呼びかけに単純に応答するでしょう。

^１ ガラテヤ人への手紙二章二十節（訳注）

私たちの愛

さらに、神の愛があなたの心の中に注がれます。それはあなたの生来の愛ではなく、神の愛です。もしキリストがあなたの内におられるなら、あなたはキリストに対する神聖な愛を持つでしょう。あなたはそれがあなたの愛ではなく、神の愛であることを知るでしょう。そしてあなたは、彼にあって、ただ彼のためだけに、すべての人に対して新しい愛情と友情を持つでしょう。

私たちの知恵

もし私たちがこの内住のキリストを持つなら、彼は私たちの知恵となって下さいます。彼は何らかの方法で私たちの思想に触れて下さいます。彼は私たちに真理の新しい概念を与えて下さいます。あなたは、自分のなすべき事、なすべきではない事について、主から直感的知識を受けるでしょう。それはあなた自身の性質とまったく調和し、彼が与えて下さった才能と混ざり合います。そのため、その思想や衝動はあなた自身のものであるかのように思われるほどです。

私たちの力

キリストはあなたの内にあって神の力となって下さいます。パウロは、「私もまた、私の内に力強く働く彼の働きにしたがって、努力しながら奮闘しています」（コロサイ人への手紙一章二十九節）と言いました。ですから、それは私たちの行いではなく、キリストが私たちに行わせることなのです。キリストはご自分の力を私たちに与えて人々のために働かせ、彼の王国を実効的に建造させます。ですから、か弱い女性や十分教育を受けていない人でも、神の力によって確信を持って語ることができますし、神の御言葉はむなしく神のもとに帰ることはないのを経験することができます。

キリストの力によって働き、語り、祈ることは幸いです。キリストの力無しでそうしようとすることは、無益である以上に徒労であり、悪いことです。キリストは私たちの力になって下さいます。「私は、天においても地においても、いっさいの力を与えられています」（マタイによる福音書二十八章十八節）。「見よ、私はいつもあなたがたと共にいます」（マタイによる福音書二十八章二十節）。

私たちの祈り

私たちの内におられるキリストは、私たちの祈りの生活になって下さいます。主は私たちの内にあってとりなして下さいます。主ご自身のゲッセマネのうめきと涙が現されることもしばしばです。そして、主の御名によって、すべてを要求する祈りがふたたびささげられ、聞き届けられます。

私たちの賛美

キリストは私たちの祈りとなるだけでなく、私たちの賛美にもなって下さいます。彼はあなたが願いをささげた後、あなたの心に訪れて、感謝の声をもってあなたの心に触れて下さいます。そして、祈りがかなえられつつあることのゆえに、私たちが神を賛美できるようにして下さいます。

私たちの健康

もしキリストが私たちの心の中におられるなら、彼は私たちの肉体の力や命になって下さいます。彼は力をもって私たちの生体機能を強め、イエスのいのちを私たちの死ぬべき体に現して下さいます。^１

^１ コリント人への第二の手紙四章十、十一節（訳注）

私たちの忍耐

キリストが私たちの内におられる時、彼は私たちの忍耐です。キリストの生涯には苦難がありました。それと同じように、私たちの生涯の大部分も、キリストと共に苦難を受けることです。あの十字架が、信者の生涯のカルバリの丘の上にも立てられます。そして、信者は彼と共にそれにあずかります。それは、不必要な苦しみを受けることでも、敵を喜ばせるために苦しむことでもありません。その苦しみは、一杯の冷たい水を人々に与え、人々が重荷を負うのを助け、人々が沈みそうなところで彼らを担うためのものです。また、この世の苦しむ人々のために、キリストの重荷を共に負うためのものです。キリストは反対者や悪魔から苦難を受けました。そのように苦難があなたに臨む時、彼は私たちを圧倒的な勝利者にして下さいます。

スコットランドにいた時、私はスターリング市の古い共同墓地を訪れました。そこの一つの灰色の記念碑を見つめながら昔を回想していた時、カベナンターの物語が心に思い浮かびました。その記念碑はマーガレット・ウィルソンのものでした。その愛らしい若い聖徒、十代の少女は、イエスへの愛を貫き通しました。そのため、父母や友人たちの懇願も彼女を死から連れ戻すことができなかったのです。彼らは「マーガレット、ほんの一言でいのちが助かるのですよ」と言いました。しかし、彼女は「私はイエス様を辱める言葉を言うことはできません」と答えました。父親は彼女が亡くなる前の晩、「お父さんの悲しみ考えておくれ」と懇願しました。彼女は父親の白髪をなでながら、「私はお父様が言えとおっしゃる言葉を、言うことができません」と言いました。

翌朝、乱暴な荒々しい人々が彼女を外に連れだし、杭に縛りつけて海の中に立てました。彼らはもうひとりの白髪の年老いた聖徒を縛り、マーガレット・ウィルソンが彼女の死に様を見ることができるように、荒海の少し沖合に立てました。そして彼らは言いました、「マーガレット・ウィルソン、お前にはあの老婆の苦しみが見えないのか？そろそろ信仰を捨てたらどうだ」。彼女は答えました、「いいえ、私は彼女を見ません。私に見えるのは、苦しむ聖徒の内にあってあそこで戦っておられるイエス様だけです」。こうして数刻の後、主の戦車は彼女の勝利した霊を天のホームに運んだのでした。

私たちの合言葉は、「キリストがご自分の一肢体の内にあって、そこで苦しんでおられる」、「私ではなく、キリスト」です。こうして私たちは勝利し、生き、苦しむことができます。信者は「彼を通して圧倒的な勝利者」になることができます。

私たちの意志

もしキリストがこのように私たちの内におられるのなら、彼は私たちの存在のまさに中心である意志になって下さいます。意志は性格の舵輪です。しかし、キリストはその意志を取り上げて柔軟にして下さいます。キリストは私たちの意志を彼の御旨に従わせ、彼の選ぶものを選ばせます。彼は、私たちの意志を喜びに満ちた自発的なものにして下さいます。少年の時、私は自分のソリの滑走部を造りましたが、それはいつも壊れてしまいました。しかしある日、一人の大工が良い方法を教えてくれました。彼はそれを蒸気釜の中に入れました。すると、それはたやすく曲がるようになったのです。

キリストは私たちの意志を破壊することを望んでおられるのではありません。それを彼の愛の炎の中に入れることを望んでおられるのです。そして、私たちの内に働いて、私たちに彼の御旨を願わせ、行わせることを望んでおられるのです。こうして、彼は私たちの意志を取り上げて、それを強くして下さいます。ソリの滑走部を曲げてもらった時、大工は、それが元通りにならないよう固める方法を教えてくれました。そのように、キリストは私たちの意志を堅固にすることができるのです。

ご意見、ご感想などメールでお寄せ下さい。メールの宛先はです。