付録 内村鑑三による紹介文

藤井武

本書に収録されている「十字架を負うの歓び」が「聖書之研究」誌に掲載された時、同誌主筆の内村鑑三が付した紹介文。

編者【内村】曰う、藤井武君は明治四十四年卒業の東京帝国大学出身の若き法学士である。今日まで京都府又は山形県に職を奉ぜられしが、イエスにならい十字架を負う生涯の慕わしさに、過るクリスマスを期して官職を辞せられ、君の小家族と共に上京せられ、今は余輩と同じく柏木の地に静かなる住家を構えられたのである。すでに著しく君の霊を恵みたまいし父なる神が又君の肉をも恵み、もし君のためならずば、我等君の同志のために、君に平安と健康とを賜いて、君をして長く福音の園に働かしめたまわんことは余輩の切なる祈りである。君の這般このたびの進退については人各その見る所あらん。然れども余輩は自身の実験に照らして見て、主イエスがマリヤにのたまいし言を君の心にささやきたまいつつあることを信ぜざるを得ない、曰く「マリヤはすでに善き業を選びたり、これは彼より奪うべからざる者なり」と。(ルカ十章四十二節)

まことに人に頼らずして神にのみ頼ることは最もよろこばしきことである。政府の米を食わず、また教会のパンをも食わず、補給はひとえにこれを神にのみ仰ぎて、我等は聖意みこころかなう福音の宣伝に従事することが出来るのである。自由の福音は自由の身をもってせずしてこれを伝うることは出来ない。