私は何のために書く乎

藤井武

私は読者の要求に応ぜんがために書かない。私は読者を慰めんがために書かない。勿論私は読んで貰はんがために書かない。私は書かざるを得ざるが故に書く。書けと神命じたまふが故に書く。真理の故に私は書く。私の書くところは或は読者の心に訴へるであらう、或は全く訴へないであらう。併しそれによって私の書くところは変らないのである。私の言葉は或は人を光明に導くであらう。或は導かないであらう。併しそれによって私の言葉は審判さばかれないのである。私はただ書けと命ぜられた事をそのままに書きさへすればよい。私が忠実に筆とるかぎり、私の言葉は却て日本人を審判さばくであらう。神を愛するものは之を喜ぶであらう。真理を嫌ふものは之を斥けるであらう。何となれば私の言葉は私のものではないからである。私は読者を目あてとして書かない。私はただキリストを仰ぎつつ筆とる。

「旧約と新約」第六一号 一九二五年七月