ペンは一度び手より落ちたり

藤井武

読者諸兄姉の同情ある祈のうちに記憶せられし彼女は遂に召されました。彼女なくして本誌はなかつたのであります。「来るべき者の来らん時まで、又はペンが著者の手より落ちん時まで」、とは創刊当時に於ける私の告白でありましたが、今や来るべき者の来らざるに先だちペンは一度び私の手から落ちました。本誌は茲に一先づその職分を終つたものと思はれます。併しながら私の霊は彼女と共に天に移されながら、私の肉はなほ地上に遺されてゐます。私は新しき霊感を以て再びペンを握らざるを得ません。今より後我等は天の消息を伝へんが為に本誌の発行を継続するでありませう。願はくは更に大なる恩恵の本誌とその読者との上に降らんことを。

「旧約と新約」第二九号 一九二二年一〇月