マタイ傳福音書

第一章

1アブラハムの()、ダビデの()、イエス・キリストの系圖(けいづ)
2アブラハム、イサクを()み、イサク、ヤコブを()み、ヤコブ、ユダとその兄弟(きゃうだい)らとを()み、 3ユダ、タマルによりてパレスとザラとを()み、パレス、エスロンを()み、エスロン、アラムを()み、 4アラム、アミナダブを()み、アミナダブ、ナアソンを()み、ナアソン、サルモンを()み、 5サルモン、ラハブによりてボアズを()み、ボアズ、ルツによりてオベデを()み、オベデ、エツサイを()み、 6エツサイ、ダビデ(わう)()めり。
ダビデ、ウリヤの(つま)たりし(をんな)によりてソロモンを()み、 7ソロモン、レハベアムを()み、レハベアム、アビヤを()み、アビヤ、アサを()み、 8アサ、ヨサパテを()み、ヨサパテ、ヨラムを()み、ヨラム、ウジヤを()み、 9ウジヤ、ヨタムを()み、ヨタム、アハズを()み、アハズ、ヒゼキヤを()み、 10ヒゼキヤ、マナセを()み、マナセ、アモンを()み、アモン、ヨシヤを()み、 11バビロンに(うつ)さるる(ころ)、ヨシヤ、エコニヤとその兄弟(きゃうだい)らとを()めり。
12バビロンに(うつ)されて(のち)、エコニヤ、サラテルを()み、サラテル、ゾロバベルを()み、 13ゾロバベル、アビウデを()み、アビウデ、エリヤキムを()み、エリヤキム、アゾルを()み、 14アゾル、サドクを()み、サドク、アキムを()み、アキム、エリウデを()み、 15エリウデ、エレアザルを()み、エレアザル、マタンを()み、マタン、ヤコブを()み、 16ヤコブ、マリヤの(をっと)ヨセフを()めり。()のマリヤよりキリストと(とな)ふるイエス(うま)(たま)へり。
17されば(すべ)()をふる(こと)、アブラハムよりダビデまで十四代(じふよだい)、ダビデよりバビロンに(うつ)さるるまで十四代(じふよだい)、バビロンに(うつ)されてよりキリストまで十四代(じふよだい)なり。
18イエス・キリストの誕生(たんじゃう)()のごとし。その(はは)マリヤ、ヨセフと許嫁(いひなづけ)したるのみにて、(いま)(とも)にならざりしに、(せい)(れい)によりて(みごも)り、その(みごも)りたること(あらは)れたり。 19(をっと)ヨセフは(ただ)しき(ひと)にして、(これ)公然(おほやけ)にするを(この)まず、(ひそか)離縁(りえん)せんと(おも)ふ。 20かくて、これらの(こと)(おも)(めぐ)らしをるとき、()よ、(しゅ)使(つかひ)(ゆめ)(あらは)れて()ふ『ダビデの()ヨセフよ、(つま)マリヤを()るる(こと)(おそ)るな。その(たい)宿(やど)(もの)(せい)(れい)によるなり。 21かれ()()まん、(なんぢ)その()をイエスと()づくべし。(おの)(たみ)をその(つみ)より(すく)(たま)(ゆゑ)なり』 22すべて()(こと)(おこ)りしは、預言者(よげんしゃ)によりて(しゅ)()(たま)ひし(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。(いは)く、
23()よ、處女(をとめ)みごもりて()()まん。
その()はインマヌエルと(とな)へられん』
(これ)()けば、(かみ)われらと(とも)(いま)すといふ(こころ)なり。 24ヨセフ(ねむり)より()き、(しゅ)使(つかひ)(めい)ぜし(ごと)くして(つま)()れたり。 25されど()(うま)るるまでは、(あひ)()(こと)なかりき。かくてその()をイエスと()づけたり。

第二章

1イエスはヘロデ(わう)(とき)、ユダヤのベツレヘムに(うま)(たま)ひしが、()よ、(ひがし)博士(はかせ)たちエルサレムに(きた)りて()ふ、 2『ユダヤ(びと)(わう)とて(うま)(たま)へる(もの)は、何處(いづこ)(いま)すか。(われ)(ひがし)にてその(ほし)()たれば、(はい)せんために(きた)れり』 3ヘロデ(わう)これを()きて(なや)みまどふ、エルサレムも(みな)(しか)り。 4(わう)(たみ)祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らを(みな)あつめて、キリストの何處(いづこ)(うま)るべきを()(ただ)す。 5かれら()ふ『ユダヤのベツレヘムなり。それは預言者(よげんしゃ)によりて、
6「ユダの()ベツレヘムよ、(なんぢ)
ユダの(をさ)たちの(うち)にて(いと)(ちひさ)(もの)にあらず、
(なんぢ)(うち)より一人(ひとり)(きみ)いでて、
わが(たみ)イスラエルを(ぼく)せん」
(しる)されたるなり』
7ここにヘロデ(ひそか)博士(はかせ)たちを(まね)きて、(ほし)(あらは)れし(とき)詳細(つまびらか)にし、 8(かれ)らをベツレヘムに(つかは)さんとして()ふ『()きて幼兒(をさなご)のことを(こまか)にたづね、(これ)にあはば(われ)()げよ。(われ)()きて(はい)せん』 9(かれ)(わう)(ことば)をききて()きしに、()よ、(さき)(ひがし)にて()(ほし)(さき)だちゆきて、幼兒(をさなご)(いま)すところの(うへ)(とどま)る。 10かれら(ほし)()て、歡喜(よろこび)(あふ)れつつ、 11(いへ)()りて、幼兒(をさなご)のその(はは)マリヤと(とも)(いま)すを()平伏(ひれふ)して(はい)し、かつ(たから)(はこ)をあけて、黄金(わうごん)乳香(にうかう)沒藥(もつやく)など禮物(れいもつ)(ささ)げたり。 12かくて(ゆめ)にてヘロデの(もと)(かへ)るなとの御告(みつげ)(かうむ)り、ほかの(みち)より(おの)(くに)()りゆきぬ。
13その()()きしのち、()よ、(しゅ)使(つかひ)(ゆめ)にてヨセフに(あらは)れていふ『()きて、幼兒(をさなご)とその(はは)とを(たづさ)へ、エジプトに(のが)れ、わが()ぐるまで彼處(かしこ)(とどま)れ。ヘロデ幼兒(をさなご)(もと)めて(ほろぼ)さんとするなり』 14ヨセフ()きて、()()幼兒(をさなご)とその(はは)とを(たづさ)へて、エジプトに()りゆき、 15ヘロデの()ぬるまで彼處(かしこ)(とどま)りぬ。これ(しゅ)預言者(よげんしゃ)によりて『(われ)エジプトより()()()(いだ)せり』と()(たま)ひし(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。
16ここにヘロデ、博士(はかせ)たちに(すか)されたりと(さと)りて、(はなは)だしく(いきど)ほり、(ひと)(つかは)し、博士(はかせ)たちに()りて詳細(つまびらか)にせし(とき)(はか)り、ベツレヘム(およ)(すべ)てその(ほとり)地方(ちはう)なる、()(さい)以下(いか)(をとこ)()をことごとく(ころ)せり。 17ここに預言者(よげんしゃ)エレミヤによりて()はれたる(ことば)成就(じゃうじゅ)したり。(いは)く、
18(こゑ)ラマにありて(きこ)ゆ、
慟哭(なげき)なり、いとどしき悲哀(かなしみ)なり。
ラケル(おの)()らを(なげ)き、
()()のなき(ゆゑ)(なぐさ)めらるるを(いと)ふ』
19ヘロデ()にてのち、()よ、(しゅ)使(つかひ)(ゆめ)にてエジプトなるヨセフに(あらは)れて()ふ、 20()きて、幼兒(をさなご)とその(はは)とを(たづさ)へ、イスラエルの()にゆけ。幼兒(をさなご)生命(いのち)(もと)めし(もの)どもは()にたり』 21ヨセフ()きて、幼兒(をさなご)とその(はは)とを(たづさ)へ、イスラエルの()(いた)りしに、 22アケラオその(ちち)ヘロデに(かわ)りてユダヤを(をさ)むと()き、彼處(かしこ)()くことを(おそ)る。また(ゆめ)にて御告(みつげ)(かうむ)り、ガリラヤの地方(ちはう)退(しりぞ)き、 23ナザレといふ(まち)(いた)りて()みたり。これは預言者(よげんしゃ)たちに()りて、『(かれ)はナザレ(びと)()ばれん』と()はれたる(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。

第三章

1その(ころ)バプテスマのヨハネ(きた)り、ユダヤの荒野(あらの)にて(をしへ)()べて()2『なんぢら悔改(くいあらた)めよ、天國(てんこく)(ちか)づきたり』 3これ預言者(よげんしゃ)イザヤによりて、()()はれし(ひと)なり、(いは)
荒野(あらの)(よば)はる(もの)(こゑ)
(しゅ)(みち)(そな)へ、
その(みち)すぢを(なほ)くせよ」』
4このヨハネは駱駝(らくだ)毛織衣(けおりごろも)をまとひ、(こし)(かは)(おび)をしめ、(いなご)野蜜(のみつ)とを(しょく)とせり。 5ここにエルサレム(およ)びユダヤ全國(ぜんこく)、またヨルダンの(ほとり)なる全地方(ぜんちはう)人々(ひとびと)、ヨハネの(もと)()できたり、 6(つみ)()(あらは)し、ヨルダン(がは)にてバプテスマを()けたり。 7ヨハネ、パリサイ(びと)およびサドカイ(びと)のバプテスマを()けんとて、(おほ)(きた)るを()て、(かれ)らに()ふ『(まむし)(すゑ)よ、(たれ)(なんぢ)らに、(きた)らんとする御怒(みいかり)()くべき(こと)(しめ)したるぞ。 8さらば悔改(くいあらため)相應(ふさは)しき()(むす)べ。 9(なんぢ)ら「われらの(ちち)にアブラハムあり」と(こころ)のうちに()はんと(おも)ふな。(われ)なんぢらに()ぐ、(かみ)(これ)らの(いし)よりアブラハムの()らを(おこ)得給(えたま)ふなり。 10(をの)ははや()()()かる。されば(すべ)()()(むす)ばぬ()は、()られて()()()れらるべし。 11(われ)(なんぢ)らの悔改(くいあらため)のために、(みづ)にてバプテスマを(ほどこ)す。されど(われ)より(のち)にきたる(もの)は、(われ)よりも能力(ちから)あり、(われ)はその(くつ)をとるにも()らず、(かれ)(せい)(れい)()とにて(なんぢ)らにバプテスマを(ほどこ)さん。 12()には()()ちて禾場(うちば)をきよめ、その(むぎ)(くら)(をさ)め、(から)()えぬ()にて()きつくさん』
13ここにイエス、ヨハネにバプテスマを()けんとて、ガリラヤよりヨルダンに(きた)(たま)ふ。 14ヨハネ(これ)(とど)めんとして()ふ『われは(なんぢ)にバプテスマを()くべき(もの)なるに、(かへ)つて(われ)(きた)(たま)ふか』 15イエス(こた)へて()ひたまふ『(いま)(ゆる)せ、われら()(ただ)しき(こと)をことごとく爲遂(しと)ぐるは、當然(たうぜん)なり』ヨハネ(すなは)(ゆる)せり。 16イエス、バプテスマを()けて(ただ)ちに(みづ)より(あが)(たま)ひしとき、()よ、(てん)ひらけ、(かみ)御靈(みたま)の、鴿(はと)のごとく(くだ)りて(おの)(うへ)にきたるを()(たま)ふ。 17また(てん)より(こゑ)あり、(いは)く『これは()(いつく)しむ()、わが(よろこ)(もの)なり』

第四章

1ここにイエス御靈(みたま)によりて荒野(あらの)(みちび)かれ(たま)ふ、惡魔(あくま)(こころ)みられんとするなり。 2四十(しじふ)(にち)四十(しじふ)()斷食(だんじき)して、(のち)()ゑたまふ。 3(こころ)むる(もの)きたりて()ふ『(なんぢ)もし(かみ)()ならば、(めい)じて(これ)()(いし)をパンと()らしめよ』 4(こた)へて()(たま)ふ『「(ひと)()くるはパンのみに()るにあらず、(かみ)(くち)より()づる(すべ)ての(ことば)()る」と(しる)されたり』 5ここに惡魔(あくま)イエスを(せい)なる(みやこ)につれゆき、(みや)頂上(いただき)()たせて()ふ、 6(なんぢ)もし(かみ)()ならば(おの)()(した)()げよ。それは
「なんぢの(ため)御使(みつかひ)たちに(めい)(たま)はん。
(かれ)()にて(なんぢ)(ささ)へ、その(あし)
(いし)にうち()つること()からしめん」
(しる)されたるなり』 7イエス()ひたまふ『「(しゅ)なる(なんぢ)(かみ)(こころ)むべからず」と、また(しる)されたり』 8惡魔(あくま)またイエスを(いと)(たか)(やま)につれゆき、()のもろもろの(くに)と、その榮華(えいぐわ)とを(しめ)して()ふ、 9(なんぢ)もし平伏(ひれふ)して(われ)(はい)せば、(これ)()(みな)なんぢに(あた)へん』 10ここにイエス()(たま)ふ『サタンよ、退(しりぞ)け「(しゅ)なる(なんぢ)(かみ)(はい)し、ただ(これ)にのみ(つか)(まつ)るべし」と(しる)されたるなり』 11ここに惡魔(あくま)(はな)()り、()よ、御使(みつかひ)たち(きた)(つか)へぬ。
12イエス、ヨハネの(とら)はれし(こと)をききて、ガリラヤに退(しりぞ)き、 13(のち)ナザレを()りて、ゼブルンとナフタリとの(さかひ)なる、海邊(うみべ)のカペナウムに(いた)りて()(たま)ふ。 14これは預言者(よげんしゃ)イザヤによりて()はれたる(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。(いは)
15『ゼブルンの()、ナフタリの()
(うみ)(ほとり)、ヨルダンの彼方(かなた)
異邦人(いはうじん)のガリラヤ、
16(くら)きに()する(たみ)は、(おほい)なる(ひかり)()
()()()(かげ)とに()する(もの)に、(ひかり)のぼれり』
17この(とき)よりイエス(をしへ)()べはじめて()(たま)ふ『なんぢら悔改(くいあらた)めよ、天國(てんこく)(ちか)づきたり』
18かくて、ガリラヤの海邊(うみべ)をあゆみて、二人(ふたり)兄弟(きゃうだい)ペテロといふシモンとその兄弟(きゃうだい)アンデレとが、(うみ)(あみ)うちをるを()(たま)ふ、かれらは漁人(すなどりびと)なり。 19これに()ひたまふ『(われ)(したが)ひきたれ、さらば(なんぢ)らを(ひと)(すなど)(もの)となさん』 20かれら(ただ)ちに(あみ)をすてて(したが)ふ。 21(さら)(すす)みゆきて、また二人(ふたり)兄弟(きゃうだい)、ゼベダイの()ヤコブとその兄弟(きゃうだい)ヨハネとが、(ちち)ゼベダイとともに(ふね)にありて(あみ)(つくろ)ひをるを()()(たま)へば、 22(ただ)ちに(ふね)(ちち)とを()きて(したが)ふ。
23イエスあまねくガリラヤを(めぐ)り、會堂(くわいだう)にて(をしへ)をなし、御國(みくに)福音(ふくいん)()べつたへ、(たみ)(うち)のもろもろの(やまひ)、もろもろの疾患(わずらひ)をいやし(たま)ふ。 24その(うはさ)あまねくシリヤに(ひろま)り、人々(ひとびと)すべての(なや)めるもの、(すなは)ちさまざまの(やまひ)苦痛(くるしみ)とに(かか)れるもの、惡鬼(あくき)()かれたるもの、癲癇(てんかん)および中風(ちゅうぶ)(もの)などを()(きた)りたれば、イエス(これ)(いや)したまふ。 25ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤ(およ)びヨルダンの彼方(かなた)より、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)きたり(したが)へり。

第五章

1イエス群衆(ぐんじゅう)()て、(やま)にのぼり、()(たま)へば、弟子(でし)たち御許(みもと)にきたる。 2イエス(くち)をひらき、(をし)へて()ひたまふ、 3幸福(さいはひ)なるかな、(こころ)(まづ)しき(もの)天國(てんこく)はその(ひと)のものなり。 4幸福(さいはひ)なるかな、(かな)しむ(もの)。その(ひと)(なぐさ)められん。 5幸福(さいはひ)なるかな、柔和(にうわ)なる(もの)。その(ひと)()()がん。 6幸福(さいはひ)なるかな、()()(かわ)(もの)。その(ひと)()くことを()ん。 7幸福(さいはひ)なるかな、憐憫(あはれみ)ある(もの)。その(ひと)憐憫(あはれみ)()ん。 8幸福(さいはひ)なるかな、(こころ)(きよ)(もの)。その(ひと)(かみ)()ん。 9幸福(さいはひ)なるかな、平和(へいわ)ならしむる(もの)。その(ひと)(かみ)()(とな)へられん。 10幸福(さいはひ)なるかな、()のために()められたる(もの)天國(てんこく)はその(ひと)のものなり。 11()がために、(ひと)なんぢらを(ののし)り、また()め、(いつは)りて各樣(さまざま)()しきことを()ふときは、(なんぢ)幸福(さいはひ)なり。 12(よろこ)びよろこべ、(てん)にて(なんぢ)らの(むくい)(おほい)なり。(なんぢ)()より(さき)にありし預言者(よげんしゃ)たちをも、()()めたりき。
13(なんぢ)らは()(しほ)なり、(しほ)もし效力(かうりょく)(うしな)はば、(なに)をもてか(これ)(しほ)すべき。(のち)(よう)なし、(そと)にすてられて(ひと)()まるるのみ。 14(なんぢ)らは()(ひかり)なり。(やま)(うへ)にある(まち)(かく)るることなし。 15また(ひと)燈火(ともしび)をともして(ます)(した)におかず、燈臺(とうだい)(うへ)におく。かくて燈火(ともしび)(いへ)にある(すべ)ての(もの)(てら)すなり。 16かくのごとく(なんぢ)らの(ひかり)(ひと)(まへ)にかがやかせ。これ(ひと)(なんぢ)らが()行爲(おこなひ)()て、(てん)にいます(なんぢ)らの(ちち)(あが)めん(ため)なり。
17われ律法(おきて)また預言者(よげんしゃ)(こぼ)つために(きた)れりと(おも)ふな。(こぼ)たんとて(きた)らず、(かへ)つて成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。 18(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、(てん)()()()かぬうちに、律法(おきて)一點(いってん)一畫(いっかく)(すた)ることなく、ことごとく(まった)うせらるべし。 19この(ゆゑ)にもし(これ)()のいと(ちひさ)誡命(いましめ)(ひと)つをやぶり、(かつ)その(ごと)(ひと)(をし)ふる(もの)は、天國(てんこく)にて(いと)(ちひさ)(もの)(とな)へられ、(これ)(おこな)ひ、かつ(ひと)(をし)ふる(もの)は、天國(てんこく)にて(おほい)なる(もの)(とな)へられん。 20(われ)なんぢらに()ぐ、(なんぢ)らの()學者(がくしゃ)・パリサイ(びと)(まさ)らずば、天國(てんこく)()ること(あた)はず。
21(いにし)への(ひと)に「(ころ)すなかれ、(ころ)(もの)審判(さばき)にあふべし」と()へることあるを(なんぢ)()きけり。 22されど(われ)(なんぢ)らに()ぐ、すべて兄弟(きゃうだい)(いか)(もの)は、審判(さばき)にあふべし。また兄弟(きゃうだい)(むか)ひて、(おろか)(もの)よといふ(もの)は、衆議(しゅうぎ)にあふべし。また痴者(しれもの)よといふ(もの)は、ゲヘナの()にあふべし。 23この(ゆゑ)(なんぢ)もし供物(そなへもの)祭壇(さいだん)にささぐる(とき)、そこにて兄弟(きゃうだい)(うら)まるる(こと)あるを(おも)(いだ)さば、 24供物(そなへもの)祭壇(さいだん)のまへに(のこ)しおき、()()きて、その兄弟(きゃうだい)和睦(わぼく)し、(しか)るのち(きた)りて、供物(そなへもの)をささげよ。 25なんぢを(うった)ふる(もの)とともに(みち)()るうちに、(はや)和解(わかい)せよ。(おそ)らくは、(うった)ふる(もの)なんぢを審判(さばき)(ひと)にわたし、審判(さばき)(ひと)下役(したやく)にわたし、(つひ)になんぢは(ひとや)()れられん。 26まことに(なんぢ)()ぐ、(いち)(りん)ものこりなく(つくの)はずば、其處(そこ)をいづること(あた)はじ。
27姦淫(かんいん)するなかれ」と()へることあるを(なんぢ)()きけり。 28されど(われ)(なんぢ)らに()ぐ、すべて色情(しきじゃう)(いだ)きて(をんな)()るものは、(すで)(こころ)のうち姦淫(かんいん)したるなり。 29もし(みぎ)()なんぢを(つまづ)かせば、(くじ)(いだ)して()てよ、五體(ごたい)(ひと)(ほろ)びて、全身(ぜんしん)ゲヘナに()()れられぬは(えき)なり。 30もし(みぎ)()なんぢを(つまづ)かせば、()りて()てよ、五體(ごたい)(ひと)(ほろ)びて、全身(ぜんしん)ゲヘナに()かぬは(えき)なり。 31また「(つま)をいだす(もの)離縁状(りえんじゃう)(あた)ふべし」と()へることあり。 32されど(われ)(なんぢ)らに()ぐ、淫行(いんかう)(ゆゑ)ならで()(つま)をいだす(もの)は、これに姦淫(かんいん)(おこな)はしむるなり。また(いだ)されたる(をんな)(めと)るものは、姦淫(かんいん)(おこな)ふなり。
33また(いにし)への(ひと)に「いつはり(ちか)ふなかれ、なんぢの(ちかひ)(しゅ)(はた)すべし」と()へる(こと)あるを(なんぢ)()けり。 34されど(われ)(なんぢ)らに()ぐ、一切(いっさい)ちかふな、(てん)()して(ちか)ふな、(かみ)御座(みくら)なればなり。 35()()して(ちか)ふな、(かみ)足臺(あしだい)なればなり。エルサレムを()して(ちか)ふな、大君(おほきみ)(みやこ)なればなり。 36(おの)(かしら)()して(ちか)ふな、なんぢ頭髮(かみのけ)一筋(ひとすじ)だに(しろ)くし、また(くろ)くし(あた)はねばなり。 37ただ(しか)(しか)り、(いな)(いな)といへ、(これ)()ぐるは(あく)より()づるなり。
38()には()を、()には()を」と()へることあるを(なんぢ)()けり。 39されど(われ)(なんぢ)らに()ぐ、()しき(もの)抵抗(てむか)ふな。(ひと)もし(なんぢ)(みぎ)(ほほ)をうたば、(ひだり)をも()けよ。 40なんぢを(うった)へて下衣(したぎ)()らんとする(もの)には、上衣(うはぎ)をも()らせよ。 41(ひと)もし(なんぢ)一里(いちり)ゆくことを()ひなば、(とも)二里(にり)ゆけ。 42なんぢに()(もの)にあたへ、()らんとする(もの)(こば)むな。
43「なんぢの(となり)(あい)し、なんぢの(あた)(にく)むべし」と()へることあるを(なんぢ)()きけり。 44されど(われ)(なんぢ)らに()ぐ、(なんぢ)らの(あた)(あい)し、(なんぢ)らを()むる(もの)のために(いの)れ。 45これ(てん)にいます(なんぢ)らの(ちち)()とならん(ため)なり。(てん)(ちち)は、その()()しき(もの)のうへにも()(もの)のうへにも(のぼ)らせ、(あめ)(ただ)しき(もの)にも(ただ)しからぬ(もの)にも()らせ(たま)ふなり。 46なんぢら(おのれ)(あい)する(もの)(あい)すとも(なに)(むくい)をか()べき、取税人(しゅぜいにん)(しか)するにあらずや。 47兄弟(きゃうだい)にのみ挨拶(あいさつ)すとも(なに)(まさ)ることかある、異邦人(いはうじん)(しか)するにあらずや。 48さらば(なんぢ)らの(てん)(ちち)(まった)きが(ごと)く、(なんぢ)らも(まった)かれ。

第六章

1(なんぢ)()られんために(おの)()(ひと)(まへ)にて(おこな)はぬやうに(こころ)せよ。(しか)らずば、(てん)にいます(なんぢ)らの(ちち)より(むくい)()じ。
2さらば施濟(ほどこし)をなすとき、僞善者(ぎぜんしゃ)(ひと)(あが)められんとて會堂(くわいだう)(ちまた)にて()すごとく、(おの)(まへ)にラッパを(なら)すな。(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、(かれ)らは(すで)にその(むくい)()たり。 3(なんぢ)施濟(ほどこし)をなすとき、(みぎ)()のなすことを(ひだり)()()らすな。 4(これ)はその施濟(ほどこし)(かく)れん(ため)なり。さらば(かく)れたるに()たまふ(なんぢ)(ちち)(むく)(たま)はん。
5なんぢら(いの)るとき、僞善者(ぎぜんしゃ)(ごと)くあらざれ。(かれ)らは(ひと)(あらは)さんとて、會堂(くわいだう)大路(おほじ)(かど)()ちて(いの)ることを(この)む。(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、かれらは(すで)にその(むくい)()たり。 6なんぢは(いの)るとき、(おの)部屋(へや)にいり、()()ぢて(かく)れたるに(いま)(なんぢ)(ちち)(いの)れ。さらば(かく)れたるに()(たま)ふなんぢの(ちち)(むく)(たま)はん。 7また(いの)るとき、異邦人(いはうじん)(ごと)くいたづらに(ことば)反復(くりかへ)すな。(かれ)らは(ことば)(おほ)きによりて()かれんと(おも)ふなり。 8さらば(かれ)らに(なら)ふな、(なんぢ)らの(ちち)(もと)めぬ(さき)に、なんぢらの必要(ひつえう)なる(もの)()りたまふ。 9この(ゆゑ)(なんぢ)らは()(いの)れ。「(てん)にいます(われ)らの(ちち)よ、(ねが)はくは御名(みな)(あが)められん(こと)を。 10御國(みくに)(きた)らんことを。御意(みこころ)(てん)のごとく()にも(おこな)はれん(こと)を。 11(われ)らの日用(にちよう)(かて)今日(けふ)もあたへ(たま)へ。 12(われ)らに負債(おひめ)ある(もの)(われ)らの(ゆる)したる(ごと)く、(われ)らの負債(おひめ)をも(ゆる)(たま)へ。 13(われ)らを嘗試(こころみ)()はせず、(あく)より(すく)(いだ)したまへ」 14(なんぢ)()もし(ひと)過失(あやまち)(ゆる)さば、(なんぢ)らの(てん)(ちち)(なんぢ)らを(ゆる)(たま)はん。 15もし(ひと)(ゆる)さずば、(なんぢ)らの(ちち)(なんぢ)らの過失(あやまち)(ゆる)(たま)はじ。
16なんぢら斷食(だんじき)するとき、僞善者(ぎぜんしゃ)のごとく、(かな)しき面容(おももち)をすな。(かれ)らは斷食(だんじき)することを(ひと)(あらは)さんとて、その(かほ)(いろ)(そこな)ふなり。(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、(かれ)らは(すで)にその(むくい)()たり。 17なんぢは斷食(だんじき)するとき、(かしら)(あぶら)をぬり、(かほ)をあらへ。 18これ斷食(だんじき)することの(ひと)(あらは)れずして、(かく)れたるに(いま)(なんぢ)(ちち)にあらはれん(ため)なり。さらば(かく)れたるに()たまふ(なんぢ)(ちち)(むく)(たま)はん。
19なんぢら(おの)がために財寶(たから)()()むな、ここは(むし)(さび)とが(そこな)ひ、盜人(ぬすびと)うがちて(ぬす)むなり。 20なんぢら(おの)がために財寶(たから)(てん)()め、かしこは(むし)(さび)とが(そこな)はず、盜人(ぬすびと)うがちて(ぬす)まぬなり。 21なんぢの財寶(たから)のある(ところ)には、なんぢの(こころ)もあるべし。 22()燈火(ともしび)()なり。この(ゆゑ)(なんぢ)()ただしくば、全身(ぜんしん)あかるからん。 23されど(なんぢ)()あしくば、全身(ぜんしん)くらからん。もし(なんぢ)(うち)(ひかり)(やみ)ならば、その(やみ)いかばかりぞや。 24(ひと)二人(ふたり)(しゅ)()(つか)ふること(あた)はず、(あるひ)はこれを(にく)(かれ)(あい)し、(あるひ)はこれに(した)しみ(かれ)(かろ)しむべければなり。(なんぢ)(かみ)(とみ)とに()(つか)ふること(あた)はず。 25この(ゆゑ)(われ)なんぢらに()ぐ、(なに)(くら)ひ、(なに)()まんと生命(いのち)のことを(おも)(わづら)ひ、(なに)()んと(からだ)のことを(おも)(わづら)ふな。生命(いのち)(かて)にまさり、(からだ)(ころも)(まさ)るならずや。 26(そら)(とり)()よ、()かず、()らず、(くら)(をさ)めず、(しか)るに(なんぢ)らの(てん)(ちち)は、これを(やしな)ひたまふ。(なんぢ)らは(これ)よりも(はるか)(すぐ)るる(もの)ならずや。 27(なんぢ)らの(うち)たれか(おも)(わづら)ひて()(たけ)一尺(いっしゃく)(くは)()んや。 28(また)なにゆゑ(ころも)のことを(おも)(わづら)ふや。()百合(ゆり)如何(いか)にして(そだ)つかを(おも)へ、(らう)せず、(つむ)がざるなり。 29されど(われ)なんぢらに()ぐ、榮華(えいぐわ)(きは)めたるソロモンだに、その服裝(よそほひ)この(はな)(ひと)つにも()かざりき。 30今日(けふ)ありて明日(あす)()()()れらるる()(くさ)をも、(かみ)はかく(よそほ)(たま)へば、まして(なんぢ)らをや、ああ信仰(しんかう)うすき(もの)よ。 31さらば(なに)(くら)ひ、(なに)()み、(なに)()んとて(おも)(わづら)ふな。 32(これ)みな異邦人(いはうじん)(せつ)(もと)むる(ところ)なり。(なんぢ)らの(てん)(ちち)は、(すべ)てこれらの(もの)(なんぢ)らに必要(ひつえう)なるを()(たま)ふなり。 33まづ(かみ)(くに)(かみ)()とを(もと)めよ、さらば(すべ)てこれらの(もの)(なんぢ)らに(くは)へらるべし。 34この(ゆゑ)明日(あす)のことを(おも)(わづら)ふな、明日(あす)明日(あす)みづから(おも)(わづら)はん。一日(いちにち)苦勞(くらう)一日(いちにち)にて()れり。

第七章

1なんぢら(ひと)(さば)くな、(さば)かれざらん(ため)なり。 2(おの)がさばく審判(さばき)にて(おのれ)もさばかれ、(おの)がはかる(はかり)にて(おのれ)(はか)らるべし。 3(なに)ゆゑ兄弟(きゃうだい)()にある(ちり)()て、おのが()にある梁木(うつばり)(みと)めぬか。 4()よ、おのが()梁木(うつばり)のあるに、いかで兄弟(きゃうだい)にむかひて、(なんぢ)()より(ちり)をとり(のぞ)かせよと()()んや。 5僞善者(ぎぜんしゃ)よ、まづ(おの)()より梁木(うつばり)をとり(のぞ)け、さらば(あきら)かに()えて、兄弟(きゃうだい)()より(ちり)()りのぞき()ん。
6(せい)なる(もの)(いぬ)(あた)ふな。また眞珠(しんじゅ)(ぶた)(まへ)()ぐな。(おそ)らくは(あし)にて()みつけ、()(かへ)りて(なんぢ)らを()みやぶらん。
7(もと)めよ、さらば(あた)へられん。(たづ)ねよ、さらば見出(みいだ)さん。(もん)(たた)け、さらば(ひら)かれん。 8すべて(もと)むる(もの)()、たづぬる(もの)()いだし、(もん)をたたく(もの)(ひら)かるるなり。 9(なんぢ)()のうち、(たれ)かその()パンを(もと)めんに(いし)(あた)へ、 10(うを)(もと)めんに(へび)(あた)へんや。 11さらば、(なんぢ)()しき(もの)ながら、()賜物(たまもの)をその()らに(あた)ふるを()る。まして(てん)にいます(なんぢ)らの(ちち)は、(もと)むる(もの)()(もの)(たま)はざらんや。 12さらば(すべ)(ひと)()られんと(おも)ふことは、(ひと)にも(また)その(ごと)くせよ。これは律法(おきて)なり、預言者(よげんしゃ)なり。
13(せま)(もん)より()れ、(ほろび)にいたる(もん)(おほ)きく、その(みち)(ひろ)く、(これ)より()(もの)おほし。 14生命(いのち)にいたる(もん)(せま)く、その(みち)(ほそ)く、(これ)()(いだ)(もの)すくなし。
15(にせ)預言者(よげんしゃ)(こころ)せよ、(ひつじ)扮裝(よそほひ)して(きた)れども、(うち)(うば)(かす)むる豺狼(おほかみ)なり。 16その()によりて(かれ)らを()るべし。(いばら)より葡萄(ぶだう)を、(あざみ)より無花果(いちぢく)をとる(もの)あらんや。 17()く、すべて()()()()をむすび、()しき()()しき()をむすぶ。 18()()()しき()(むす)ぶこと(あた)はず、()しき()はよき()(むす)ぶこと(あた)はず。 19すべて()()(むす)ばぬ()は、()られて()()()れらる。 20さらばその()によりて(かれ)らを()るべし。 21(われ)(むか)ひて(しゅ)(しゅ)よといふ(もの)、ことごとくは天國(てんこく)()らず、ただ(てん)にいます()(ちち)御意(みこころ)をおこなふ(もの)のみ、(これ)()るべし。 22その()おほくの(もの)われに(むか)ひて「(しゅ)よ、(しゅ)よ、(われ)らは(なんぢ)()によりて預言(よげん)し、(なんぢ)()によりて惡鬼(あくき)()ひいだし、(なんぢ)()によりて(おほ)くの能力(ちから)ある(わざ)()ししにあらずや」と()はん。 23その(とき)われ明白(あらは)()げん「われ()えて(なんぢ)らを()らず、不法(ふはふ)をなす(もの)よ、(われ)(はな)れされ」と。
24さらば(すべ)()がこれらの(ことば)をききて(おこな)(もの)を、(いは)(うへ)(いへ)をたてたる(さと)(ひと)(なずら)へん。 25(あめ)ふり(ながれ)みなぎり、(かぜ)ふきてその(いへ)をうてど(たふ)れず、これ(いは)(うへ)()てられたる(ゆゑ)なり。 26すべて()がこれらの(ことば)をききて(おこな)はぬ(もの)を、(すな)(うへ)(いへ)()てたる(おろか)なる(ひと)(なずら)へん。 27(あめ)ふり(ながれ)みなぎり、(かぜ)ふきて()(いへ)をうてば、(たふ)れてその顛倒(たふれ)はなはだし』
28イエスこれらの(ことば)(かた)りをへ(たま)へるとき、群衆(ぐんじゅう)その(をしへ)(をどろ)きたり。 29それは學者(がくしゃ)らの(ごと)くならず、權威(けんゐ)ある(もの)のごとく(をし)(たま)へる(ゆゑ)なり。

第八章

1イエス(やま)(くだ)(たま)ひしとき、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)これに(したが)ふ。 2()よ、一人(ひとり)癩病人(らいびゃうにん)みもとに(きた)り、(はい)して()ふ『(しゅ)よ、御意(みこころ)ならば、(われ)(きよ)くなし(たま)ふを()ん』 3イエス()をのべ、(かれ)につけて『わが(こころ)なり、(きよ)くなれ』と()(たま)へば、癩病(らいびゃう)ただちに(きよま)れり。 4イエス()(たま)ふ『つつしみて(たれ)にも(かた)るな、ただ()きて(おのれ)祭司(さいし)()せ、モーセが(めい)じたる供物(そなへもの)(ささ)げて、人々(ひとびと)(あかし)せよ』
5イエス、カペナウムに()(たま)ひしとき、百卒長(ひゃくそつちゃう)きたり、 6()ひていふ『(しゅ)よ、わが(しもべ)中風(ちゅうぶ)()み、(いへ)()しゐて(いた)(くる)しめり』 7イエス()(たま)ふ『われ()きて(いや)さん』 8百卒長(ひゃくそつちゃう)こたへて()ふ『(しゅ)よ、(われ)(なんぢ)をわが屋根(やね)(した)()れまつるに()らぬ(もの)なり。ただ御言(みことば)のみを(たま)へ、さらば()(しもべ)はいえん。 9(われ)みづから權威(けんゐ)(した)にある(もの)なるに、()(した)にまた兵卒(へいそつ)ありて、(これ)に「ゆけ」と()へば()き、(かれ)に「きたれ」と()へば(きた)り、わが(しもべ)に「これを()せ」といへば()すなり』 10イエス()きて(あや)しみ、(したが)へる人々(ひとびと)()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、かかる(あつ)信仰(しんかう)はイスラエルの(うち)一人(ひとり)にだに()しことなし。 11(また)なんぢらに()ぐ、(おほ)くの(ひと)(ひがし)より西(にし)より(きた)り、アブラハム、イサク、ヤコブとともに天國(てんこく)(えん)につき、 12御國(みくに)()らは(そと)(くら)きに()(いだ)され、そこにて哀哭(なげき)切齒(はがみ)することあらん』 13イエス百卒長(ひゃくそつちゃう)に『ゆけ、(なんぢ)(しん)ずるごとく(なんぢ)になれ』と()(たま)へば、このとき(しもべ)いえたり。
14イエス、ペテロの(いへ)()り、その外姑(しうとめ)(ねつ)()みて()しをるを()15その()(さは)(たま)へば、(ねつ)()り、(をんな)おきてイエスに(つか)ふ。 16(ゆふべ)になりて、人々(ひとびと)惡鬼(あくき)()かれたる(もの)をおほく御許(みもと)につれ(きた)りたれば、イエス(ことば)にて(れい)()ひいだし、()める(もの)をことごとく(いや)(たま)へり。 17これは預言者(よげんしゃ)イザヤによりて『かれは(みづか)(われ)らの疾患(わずらひ)をうけ、(われ)らの(やまひ)()ふ』と()はれし(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。
18さてイエス群衆(ぐんじゅう)(おのれ)(めぐ)れるを()て、ともに彼方(かなた)(きし)()かんことを弟子(でし)たちに(めい)(たま)ふ。 19一人(ひとり)學者(がくしゃ)きたりて()ふ『()よ、何處(いづこ)にゆき(たま)ふとも、(われ)(したが)はん』。 20イエス()ひたまふ『(きつね)(あな)あり、(そら)(とり)(ねぐら)あり、されど(ひと)()(まくら)する(ところ)なし』 21また弟子(でし)一人(ひとり)いふ『(しゅ)よ、()づ、()きて、()(ちち)(はうむ)ることを(ゆる)したまへ』 22イエス()ひたまふ『(われ)(したが)へ、()にたる(もの)にその()にたる(もの)(はうむ)らせよ』
23かくて(ふね)()(たま)へば、弟子(でし)たちも(したが)ふ。 24()よ、(うみ)(おほい)なる暴風(あらし)おこりて、(ふね)(なみ)(おほ)はるるばかりなるに、イエスは(ねむ)りゐ(たま)ふ。 25弟子(でし)たち御許(みもと)にゆき、(おこ)して()ふ『(しゅ)よ、(すく)ひたまへ、(われ)らは(ほろ)ぶ』 26(かれ)らに()(たま)ふ『なにゆゑ(おく)するか、信仰(しんかう)うすき(もの)よ』(すなは)()きて、(かぜ)(うみ)とを(いまし)(たま)へば、(おほい)なる(なぎ)となりぬ。 27人々(ひとびと)あやしみて()ふ『こは如何(いか)なる(ひと)ぞ、(かぜ)(うみ)(したが)ふとは』
28イエス彼方(かなた)にわたり、ガダラ(ひと)()にゆき(たま)ひしとき、惡鬼(あくき)()かれたる二人(ふたり)のもの、(はか)より()できたりて(これ)()ふ。その(たけ)きこと(はなは)だしく、其處(そこ)(みち)(ひと)()()ぬほどなり。 29()よ、かれら(さけ)びて()ふ『(かみ)()よ、われら(なんぢ)(なに)關係(かかはり)あらん、(いま)(とき)いたらぬに、(われ)らを()めんとて此處(ここ)にきたり(たま)ふか』 30(はるか)にへだたりて(おほ)くの(ぶた)(ひと)(むれ)(しょく)しゐたりしが、 31惡鬼(あくき)ども()ひて()ふ『もし(われ)らを()(いだ)さんとならば、(ぶた)(むれ)(つかは)したまへ』 32(かれ)らに()(たま)ふ『ゆけ』惡鬼(あくき)いでて(ぶた)()りたれば、()よ、その(むれ)みな(がけ)より(うみ)()(くだ)りて、(みづ)()にたり。 33()(もの)ども()げて(まち)にゆき、すべての(こと)惡鬼(あくき)()かれたりし(もの)(こと)とを()げたれば、 34()よ、(まち)(ひと)こぞりてイエスに()はんとて()できたり、(かれ)()て、この地方(ちはう)より()(たま)はんことを()へり。

第九章

1イエス(ふね)にのり、(わた)りて(おの)(まち)にきたり(たま)ふ。 2()よ、中風(ちゅうぶ)にて(とこ)()しをる(もの)を、人々(ひとびと)みもとに()(きた)れり。イエス(かれ)らの信仰(しんかう)()て、中風(ちゅうぶ)(もの)()ひたまふ『()よ、(こころ)(やす)かれ、(なんぢ)(つみ)ゆるされたり』 3()よ、(ある)學者(がくしゃ)(こころ)(うち)にいふ『この(ひと)(かみ)(けが)すなり』 4イエスその(おもひ)()りて()(たま)ふ『(なに)ゆゑ(こころ)()しき(こと)をおもふか。 5(なんぢ)(つみ)ゆるされたりと()ふと、()きて(あゆ)めと()ふと、(いづれ)(やす)き。 6(ひと)()()にて(つみ)(ゆる)權威(けんゐ)あることを(なんぢ)らに()らせん(ため)に』――ここに中風(ちゅうぶ)(もの)()(たま)ふ――『()きよ、(とこ)をとりて(なんぢ)(いへ)にかへれ』 7(かれ)おきてその(いへ)にかへる。 8群衆(ぐんじゅう)これを()ておそれ、かかる能力(ちから)(ひと)にあたへ(たま)へる(かみ)(あが)めたり。
9イエス此處(ここ)より(すす)みて、マタイといふ(ひと)收税所(しうぜいしょ)()しをるを()て『(われ)(したが)へ』と()(たま)へば、()ちて(したが)へり。
10(いへ)にて食事(しょくじ)(せき)につき居給(ゐたま)ふとき、()よ、(おほ)くの取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)(きた)りて、イエス(およ)弟子(でし)たちと(とも)(つらな)る。 11パリサイ(びと)これを()弟子(でし)たちに()ふ『なに(ゆゑ)なんぢらの()は、取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)らと(とも)(しょく)するか』 12(これ)()きて、()ひたまふ『(すこや)かなる(もの)醫者(いしゃ)(えう)せず、ただ、()める(もの)これを(えう)す。 13なんぢら()きて(まな)べ「われ憐憫(あはれみ)(この)みて、犧牲(いけにへ)(この)まず」とは如何(いか)なる(こころ)ぞ。(われ)(ただ)しき(もの)(まね)かんとにあらで、罪人(つみびと)(まね)かんとて(きた)れり』
14ここにヨハネの弟子(でし)たち御許(みもと)にきたりて()ふ『われらとパリサイ(びと)斷食(だんじき)するに、(なに)(ゆゑ)なんぢの弟子(でし)たちは斷食(だんじき)せぬか』 15イエス()ひたまふ『新郎(はなむこ)(とも)だち、新郎(はなむこ)(とも)にをる(あひだ)は、(かな)しむことを()んや。されど新郎(はなむこ)をとらるる()きたらん、その(とき)には斷食(だんじき)せん。 16(たれ)(あたら)しき(ぬの)(きれ)(ふる)(ころも)につぐことは()じ、(おぎな)ひたる(きれ)は、その(ころも)をやぶりて、破綻(ほころび)さらに(はなは)だしかるべし。 17また(あたら)しき葡萄酒(ぶだうしゅ)をふるき革嚢(かはぶくろ)()るることは()じ。もし(しか)せば、(ふくろ)はりさけ(さけ)ほどばしり()でて、(ふくろ)もまた(すた)らん。(あたら)しき葡萄酒(ぶだうしゅ)(あたら)しき革嚢(かはぶくろ)にいれ、かくて(ふたつ)ながら(たも)つなり』
18イエス(これ)()のことを(かた)りゐ(たま)ふとき、()よ、一人(ひとり)(つかさ)きたり、(はい)して()ふ『わが(むすめ)いま()にたり。されど(きた)りて御手(みて)(これ)におき(たま)はば()きん』 19イエス()ちて(かれ)(ともな)(たま)ふに、弟子(でし)たちも(したが)ふ。 20()よ、(じふ)二年(にねん)血漏(ちらう)(わづら)ひゐたる(をんな)、イエスの(うしろ)にきたりて、御衣(みころも)(ふさ)にさはる。 21それは、御衣(みころも)にだに(さは)らば(すく)はれんと(こころ)(うち)にいへるなり。 22イエスふりかへり、(をんな)()()ひたまふ『(むすめ)よ、(こころ)(やす)かれ、(なんぢ)信仰(しんかう)なんぢを(すく)へり』(をんな)この(とき)より(すく)はれたり。 23かくてイエス(つかさ)(いへ)にいたり、(ふえ)ふく(もの)(さわ)群衆(ぐんじゅう)とを()()ひたまふ、 24退(しりぞ)け、少女(せうじょ)()にたるにあらず、()ねたるなり』人々(ひとびと)イエスを嘲笑(あざわら)ふ。 25群衆(ぐんじゅう)(いだ)されし(のち)、いりてその()をとり(たま)へば、少女(せうじょ)おきたり。 26この聲聞(きこえ)あまねく()()(ひろま)りぬ。
27イエス此處(ここ)より(すす)みたまふ(とき)、ふたりの盲人(めしひ)さけびて『ダビデの()よ、(われ)らを(あはれ)みたまへ』と()ひつつ(したが)ふ。 28イエス(いへ)にいたり(たま)ひしに、盲人(めしひ)ども御許(みもと)(きた)りたれば、(これ)()ひたまふ『(われ)この(こと)をなし()(しん)ずるか』(かれ)()いふ『(しゅ)よ、(しか)り』 29(ここ)にイエスかれらの()(さは)りて()ひたまふ『なんぢらの信仰(しんかう)のごとく(なんぢ)らに()れ』 30(すなは)(かれ)らの()あきたり。イエス(きび)しく(いまし)めて()ひたまふ『(つつし)みて(たれ)にも()らすな』 31されど(かれ)()でて、あまねくその()にイエスの(こと)をいひ(ひろ)めたり。
32盲人(めしひ)どもの()づるとき、()よ、人々(ひとびと)惡鬼(あくき)()かれたる唖者(おふし)御許(みもと)につれきたる。 33惡鬼(あくき)おひ(いだ)されて唖者(おふし)ものいひたれば、群衆(ぐんじゅう)あやしみて()ふ『かかる(こと)(いま)だイスラエルの(うち)(あらは)れざりき』 34(しか)るにパリサイ(びと)いふ『かれは惡鬼(あくき)(かしら)によりて惡鬼(あくき)()(いだ)すなり』
35イエスあまねく(まち)(むら)とを(めぐ)り、その會堂(くわいだう)にて(をし)へ、御國(みくに)福音(ふくいん)()べつたへ、もろもろの(やまひ)、もろもろの疾患(わずらひ)をいやし(たま)ふ。 36また群衆(ぐんじゅう)()て、その()(もの)なき(ひつじ)のごとく(なや)み、(かつ)たふるるを(いた)(あはれ)み、 37(つひ)弟子(でし)たちに()ひたまふ『收穫(かりいれ)はおほく勞動人(はたらきびと)はすくなし。 38この(ゆゑ)收穫(かりいれ)(しゅ)に、勞動人(はたらきびと)をその收穫場(かりいれば)(つかは)(たま)はんことを(もと)めよ』

第十章

1かくてイエスその十二(じふに)弟子(でし)()し、(けが)れし(れい)(せい)する權威(けんゐ)をあたへて、(これ)()(いだ)し、もろもろの(やまひ)、もろもろの疾患(わずらひ)(いや)すことを()しめ(たま)ふ。
2十二(じふに)使徒(しと)()()のごとし。()づペテロといふシモン(およ)びその兄弟(きゃうだい)アンデレ、ゼベダイの()ヤコブ(およ)びその兄弟(きゃうだい)ヨハネ、 3ピリポ(およ)びバルトロマイ、トマス(およ)取税人(しゅぜいにん)マタイ、アルパヨの()ヤコブ(およ)びタダイ、 4熱心(ねっしん)(たう)のシモン(およ)びイスカリオテのユダ、このユダはイエスを()りし(もの)なり。 5イエスこの十二(じふに)(にん)(つかは)さんとて、(めい)じて()ひたまふ。
異邦人(いはうじん)(みち)にゆくな、(また)サマリヤ(ひと)(まち)()るな。 6むしろイスラエルの(いへ)()せたる(ひつじ)にゆけ。 7()きて()べつたへ「天國(てんこく)(ちか)づけり」と()へ。 8()める(もの)をいやし、()にたる(もの)(よみが)へらせ、癩病人(らいびゃうにん)をきよめ、惡鬼(あくき)()ひいだせ。(あたひ)なしに()けたれば(あたひ)なしに(あた)へよ。 9(おび)のなかに(きん)(ぎん)または(ぜに)をもつな。 10(たび)(ふくろ)も、()(まい)下衣(したぎ)も、(くつ)も、(つゑ)ももつな。勞動人(はたらきびと)の、その食物(しょくもつ)()るは相應(ふさは)しきなり。 11いづれの(まち)いづれの(むら)()るとも、その(うち)にて相應(ふさは)しき(もの)(たづ)ねいだして、()()るまでは其處(そこ)(とどま)れ。 12(ひと)(いへ)()らば平安(へいあん)(いの)れ。 13その(いへ)もし(これ)相應(ふさは)しくば、(なんぢ)らの(いの)平安(へいあん)はその(うへ)(のぞ)まん。もし相應(ふさは)しからずば、その平安(へいあん)はなんぢらに(かへ)らん。 14(ひと)もし(なんぢ)らを()けず、(なんぢ)らの(ことば)()かずば、その(いへ)その(まち)()()るとき、(あし)(ちり)をはらへ。 15まことに(なんぢ)らに()ぐ、審判(さばき)()には、その(まち)よりもソドム、ゴモラの()のかた()(やす)からん。
16()よ、(われ)なんぢらを(つかは)すは、(ひつじ)豺狼(おほかみ)のなかに()るるが(ごと)し。この(ゆゑ)(へび)のごとく(さと)く、鴿(はと)のごとく素直(すなほ)なれ。 17人々(ひとびと)(こころ)せよ、それは(なんぢ)らを衆議所(しゅうぎしょ)(わた)し、會堂(くわいだう)にて(むち)うたん。 18また(なんぢ)()わが(ゆゑ)によりて、(つかさ)たち(わう)たちの(まへ)()かれん。これは(かれ)らと異邦人(いはうじん)とに(あかし)をなさん(ため)なり。 19かれら(なんぢ)らを(わた)さば、如何(いか)(なに)()はんと(おも)(わづら)ふな、()ふべき(こと)は、その(とき)さづけらるべし。 20これ()ふものは(なんぢ)()にあらず、()(うち)にありて()ひたまふ(なんぢ)らの(ちち)(れい)なり。 21兄弟(きゃうだい)兄弟(きゃうだい)を、(ちち)()()(わた)し、()どもは(おや)(さから)ひて(これ)()なしめん。 22(また)なんぢら()()のために(すべ)ての(ひと)(にく)まれん。されど(をはり)まで()(しの)ぶものは(すく)はるべし。 23この(まち)にて()めらるる(とき)は、かの(まち)(のが)れよ。(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、なんぢらイスラエルの町々(まちまち)(めぐ)(つく)さぬうちに(ひと)()(きた)るべし。
24弟子(でし)はその()にまさらず、(しもべ)はその(しゅ)にまさらず、 25弟子(でし)はその()のごとく、(しもべ)はその(しゅ)(ごと)くならば()れり。もし家主(いへあるじ)をベルゼブルと()びたらんには、ましてその(いへ)(もの)をや。 26この(ゆゑ)に、(かれ)らを(おそ)るな。(おほ)はれたるものに(あらは)れぬはなく、(かく)れたるものに()られぬは()ければなり。 27暗黒(くらき)にて()()ぐることを光明(あかるき)にて()へ。(みみ)をあてて()くことを()(うへ)にて()べよ。 28()(ころ)して靈魂(たましひ)をころし()(もの)どもを(おそ)るな、()靈魂(たましひ)とをゲヘナにて(ほろぼ)()(もの)をおそれよ。 29()()(すずめ)一錢(いっせん)にて()るにあらずや、(しか)るに、(なんぢ)らの(ちち)(もと)なくば、その(いち)()()()つること()からん。 30(なんぢ)らの(かしら)()までも(みな)かぞへらる。 31この(ゆゑ)におそるな、(なんぢ)らは(おほ)くの(すずめ)よりも(すぐ)るるなり。 32されど(おほよ)(ひと)(まへ)にて(われ)()ひあらはす(もの)を、(われ)もまた(てん)にいます()(ちち)(まへ)にて()(あらは)さん。 33されど(ひと)(まへ)にて(われ)(いな)(もの)を、(われ)もまた(てん)にいます()(ちち)(まへ)にて(いな)まん。
34われ()平和(へいわ)(とう)ぜんために(きた)れりと(おも)ふな。平和(へいわ)にあらず、(かへ)つて(つるぎ)(とう)ぜん(ため)(きた)れり。 35それ()(きた)れるは、(ひと)をその(ちち)より、(むすめ)をその(はは)より、(よめ)をその姑嫜(しゅうとめ)より(わか)たん(ため)なり。 36(ひと)(あた)はその(いへ)(もの)なるべし。 37(われ)よりも(ちち)または(はは)(あい)する(もの)は、(われ)相應(ふさは)しからず。(われ)よりも息子(むすこ)または(むすめ)(あい)する(もの)は、(われ)相應(ふさは)しからず。 38(また)おのが十字架(じふじか)をとりて(われ)(したが)はぬ(もの)は、(われ)相應(ふさは)しからず。 39生命(いのち)()(もの)はこれを(うしな)ひ、()がために生命(いのち)(うしな)(もの)はこれを()べし。
40(なんぢ)らを()くる(もの)は、(われ)()くるなり。(われ)をうくる(もの)は、(われ)(つかは)(たま)ひし(もの)()くるなり。 41預言者(よげんしゃ)たる()(ゆゑ)預言者(よげんしゃ)をうくる(もの)は、預言者(よげんしゃ)(むくい)をうけ、義人(ぎじん)たる()のゆゑに義人(ぎじん)をうくる(もの)は、義人(ぎじん)(むくい)()くべし。 42(おほよ)そわが弟子(でし)たる()(ゆゑ)に、この(ちひさ)(もの)一人(ひとり)(ひやや)かなる(みづ)一杯(いっぱい)にても(あた)ふる(もの)は、まことに(なんぢ)らに()ぐ、(かなら)ずその(むくい)(うしな)はざるべし』

第十一章

1イエス十二(じふに)弟子(でし)(めい)()へてのち、町々(まちまち)にて(をし)へ、かつ、宣傳(のべつた)へんとて、此處(ここ)()(たま)へり。
2ヨハネ牢舍(らうや)にてキリストの御業(みわざ)をきき、弟子(でし)たちを(つかは)して、 3イエスに()はしむ『(きた)るべき(もの)(なんぢ)なるか、(あるひ)は、(ほか)()つべきか』 4(こた)へて()ひたまふ『ゆきて、(なんぢ)らが()(きき)する(ところ)をヨハネに()げよ。 5盲人(めしひ)()跛者(あしなへ)はあゆみ、癩病人(らいびゃうにん)(きよ)められ、聾者(おふし)はきき、死人(しにん)(よみが)へらせられ、(まづ)しき(もの)福音(ふくいん)()かせらる。 6おほよそ(われ)(つまづ)かぬ(もの)幸福(さいはひ)なり』 7(かれ)らの(かへ)りたるをり、ヨハネの(こと)群衆(ぐんじゅう)()()でたまふ『なんぢら(なに)(なが)めんとて()()でし、(かぜ)にそよぐ(あし)なるか。 8さらば(なに)()んとて()でし、(やはら)かき(ころも)()たる(ひと)なるか。()よ、やはらかき(ころも)()たる(もの)は、(わう)(いへ)()り。 9さらば(なに)のために()でし、預言者(よげんしゃ)()んとてか。(しか)り、(なんぢ)らに()ぐ、預言者(よげんしゃ)よりも(まさ)(もの)なり。
10()よ、わが使(つかひ)をなんぢの(かほ)(まへ)につかはす。
(かれ)はなんぢの(まへ)に、なんぢの(みち)をそなへん」
(しる)されたるは()(ひと)なり。 11(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、(をんな)()みたる(もの)のうち、バプテスマのヨハネより(おほい)なる(もの)(おこ)らざりき。されど天國(てんこく)にて(ちひさ)(もの)も、(かれ)よりは(おほい)なり。 12バプテスマのヨハネの(とき)より(いま)(いた)るまで、天國(てんこく)(はげ)しく()めらる、(はげ)しく()むる(もの)はこれを(うば)ふ。 13(すべ)ての預言者(よげんしゃ)律法(おきて)との預言(よげん)したるは、ヨハネの(とき)までなり。 14もし(なんぢ)()わが(ことば)をうけんことを(ねが)はば、(きた)るべきエリヤは()(ひと)なり、 15(みみ)ある(もの)()くべし。 16われ(いま)()(なに)(なずら)へん、童子(わらべ)市場(いちば)()し、(とも)()びて、 17「われら(なんぢ)()のために(ふえ)()きたれど、(なんぢ)(をど)らず、(なげ)きたれど、(なんぢ)(むね)うたざりき」と()ふに()たり。 18それは、ヨハネ(きた)りて飮食(のみくひ)せざれば「惡鬼(あくき)()かれたる(もの)なり」といひ、 19(ひと)()(きた)りて飮食(のみくひ)すれば、「()よ、(しょく)(むさぼ)(さけ)(この)(ひと)、また取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)(とも)なり」と()ふなり。されど智慧(ちゑ)(おの)(わざ)によりて(ただ)しとせらる』 20(ここ)にイエス(おほ)くの能力(ちから)ある(わざ)(おこな)(たま)へる町々(まちまち)悔改(くいあらた)めぬによりて、(これ)()めはじめ(たま)ふ、 21禍害(わざはひ)なる(かな)コラジンよ、禍害(わざはひ)なる(かな)ベツサイダよ、(なんぢ)らの(うち)にて(おこな)ひたる能力(ちから)ある(わざ)を、ツロとシドンとにて(おこな)ひしならば、(かれ)らは(はや)荒布(あらぬの)()(はひ)(なか)にて悔改(くいあらた)めしならん。 22されば(なんぢ)らに()ぐ、審判(さばき)()にはツロとシドンとのかた(なんぢ)()よりも()(やす)からん。 23カペナウムよ、なんぢは(てん)にまで()げらるべきか、黄泉(よみ)にまで(くだ)らん。(なんぢ)のうちにて(おこな)ひたる能力(ちから)ある(わざ)を、ソドムにて(おこな)ひしならば、今日(けふ)までもかの(まち)(のこ)りしならん。 24されば(なんぢ)らに()ぐ、審判(さばき)()にはソドムの()のかた(なんぢ)よりも()(やす)からん』
25その(とき)イエス(こた)へて()ひたまふ『(てん)()(しゅ)なる(ちち)よ、われ感謝(かんしゃ)す、(これ)()のことを(かしこ)(もの)(さと)(もの)にかくして、嬰兒(みどりご)(あらは)(たま)へり。 26(ちち)よ、(しか)り、かくの(ごと)きは御意(みこころ)(かな)へるなり。 27すべての(もの)(われ)わが(ちち)より(ゆだ)ねられたり。()()(もの)(ちち)(ほか)になく、(ちち)をしる(もの)()または()(ほっ)するままに(あらは)すところの(もの)(ほか)になし。 28(すべ)(らう)する(もの)重荷(おもに)()(もの)、われに(きた)れ、われ(なんぢ)らを(やす)ません。 29(われ)柔和(にうわ)にして(こころ)(ひく)ければ、()(くびき)()ひて(われ)(まな)べ、さらば靈魂(たましひ)休息(やすみ)()ん。 30わが(くびき)(やす)く、わが()(かろ)ければなり』

第十二章

1その(ころ)イエス安息(あんそく)(にち)(むぎ)(はたけ)をとほり(たま)ひしに、弟子(でし)たち()ゑて()()み、()(はじ)めたるを、 2パリサイ(びと)()てイエスに()ふ『()よ、なんぢの弟子(でし)安息(あんそく)(にち)()まじき(こと)をなす』 3(かれ)らに()(たま)ふ『ダビデがその(ともな)へる人々(ひとびと)とともに()ゑしとき、()しし(こと)()まぬか。 4(すなは)(かみ)(いへ)()りて、祭司(さいし)のほかは、(おのれ)もその(ともな)へる人々(ひとびと)(くら)ふまじき(そなへ)のパンを(くら)へり。 5また安息(あんそく)(にち)祭司(さいし)らは(みや)(うち)にて安息(あんそく)(にち)(をか)せども、(つみ)なきことを律法(おきて)にて()まぬか。 6われ(なんぢ)らに()ぐ、(みや)より(おほい)なる(もの)ここに()り。 7「われ憐憫(あはれみ)(この)みて犧牲(いけにへ)(この)まず」とは、如何(いか)なる(こころ)かを(なんぢ)()りたらんには、(つみ)なき(もの)(つみ)せざりしならん。 8それ(ひと)()安息(あんそく)(にち)(しゅ)たるなり』
9イエス此處(ここ)()りて、(かれ)らの會堂(くわいだう)()(たま)ひしに、 10()よ、片手(かたて)なえたる(ひと)あり。人々(ひとびと)イエスを(うった)へんと(おも)ひ、()ひていふ『安息(あんそく)(にち)(ひと)(いや)すことは()きか』 11(かれ)らに、()ひたまふ『(なんぢ)()のうち一匹(いっぴき)(ひつじ)をもてる(もの)あらんに、もし安息(あんそく)(にち)(あな)(おちい)らば、(これ)()りあげぬか。 12(ひと)(ひつじ)より(すぐ)るること如何(いか)ばかりぞ。さらば安息(あんそく)(にち)(ぜん)をなすは()し』 13ここにかの(ひと)()(たま)ふ『なんぢの()()べよ』かれ()べたれば、(ほか)()のごとく()ゆ。 14パリサイ(びと)いでていかにしてかイエスを(ほろぼ)さんと(はか)る。 15イエス(これ)()りて此處(ここ)()りたまふ。(おほ)くの(ひと)したがひ(きた)りたれば、ことごとく(これ)(いや)し、 16かつ(われ)(ひと)()らすなと(いまし)(たま)へり。 17これ預言者(よげんしゃ)イザヤによりて()はれたる(ことば)成就(じゃうじゅ)せんためなり。(いは)く、
18()よ、わが(えら)びたる()(しもべ)
わが(こころ)(よろこ)()(いつく)しむ(もの)
(われ)わが(れい)(かれ)(あた)へん、
(かれ)異邦人(いはうじん)正義(ただしき)()(しめ)さん。
19(かれ)(あらそ)はず、(さけ)ばず、
その(こゑ)大路(おほじ)にて()(もの)なからん。
20正義(ただしき)をして()()げしむるまでは、
(そこな)へる(あし)()ることなく、
(けぶ)れる亞麻(あま)()すことなからん。
21異邦人(いはうじん)(かれ)()(のぞみ)をおかん』
22ここに惡鬼(あくき)()かれたる盲目(めしひ)唖者(おふし)御許(みもと)()(きた)りたれば、(これ)(いや)して、唖者(おふし)(もの)()()ゆるやうに()(たま)ひぬ。 23群衆(ぐんじゅう)みな(をどろ)きて()ふ『これはダビデの()にあらぬか』 24(しか)るにパリサイ(びと)ききて()ふ『この(ひと)惡鬼(あくき)(かしら)ベルゼブルによらでは、惡鬼(あくき)()(いだ)すことなし』 25イエス(かれ)らの(おもひ)()りて()(たま)ふ『すべて(わか)(あらそ)(くに)はほろび、(わか)(あらそ)(まち)また(いへ)はたたず。 26サタンもしサタンを()(いだ)さば、(みづか)(わか)(あらそ)ふなり。さらばその(くに)いかで()つべき。 27(われ)もしベルゼブルによりて惡鬼(あくき)()(いだ)さば、(なんぢ)らの()(たれ)によりて(これ)()(いだ)すか。この(ゆゑ)(かれ)らは(なんぢ)らの審判(さばき)(ひと)となるべし。 28されど(われ)もし(かみ)(れい)によりて惡鬼(あくき)()(いだ)さば、(かみ)(くに)(すで)(なんぢ)らに(いた)れるなり。 29(ひと)まづ(つよ)(もの)(しば)らずば、いかで(つよ)(もの)(いへ)()りて、その家財(かざい)(うば)ふことを()ん、(しば)りて(のち)その(いへ)(うば)ふべし。 30(われ)(とも)ならぬ(もの)(われ)にそむき、(われ)とともに(あつ)めぬ(もの)(ちら)すなり。 31この(ゆゑ)(なんぢ)らに()ぐ、(ひと)(すべ)ての(つみ)(けがし)とは(ゆる)されん、されど御靈(みたま)(けが)すことは(ゆる)されじ。 32(たれ)にても(ことば)をもて(ひと)()(さから)(もの)(ゆる)されん、されど(ことば)をもて(せい)(れい)(さから)(もの)は、この()にても(のち)()にても(ゆる)されじ。 33(あるひ)()をも()しとし、()をも()しとせよ。(あるひ)()をも()しとし、()をも()しとせよ。()()によりて()らるるなり。 34(まむし)(すゑ)よ、なんぢら()しき(もの)なるに、(いか)()きことを()()んや。それ(こころ)滿()つるより(くち)()はるるなり。 35()(ひと)()(くら)より()(もの)をいだし、()しき(ひと)()しき(くら)より()しき(もの)をいだす。 36われ(なんぢ)らに()ぐ、(ひと)(かた)(すべ)ての(むな)しき(ことば)は、審判(さばき)()(ただ)さるべし。 37それは(なんぢ)(ことば)によりて()とせられ、(なんぢ)(ことば)によりて(つみ)せらるるなり』
38ここに(ある)學者(がくしゃ)・パリサイ(びと)(こた)へて()ふ『()よ、われら(なんぢ)(しるし)()んことを(ねが)ふ』 39(こた)へて()ひたまふ『邪曲(よこしま)にして不義(ふぎ)なる()(しるし)(もと)む、されど預言者(よげんしゃ)ヨナの(しるし)のほかに(しるし)(あた)へられじ。 40(すなは)ち「ヨナが三日(みっか)三夜(みよ)大魚(おほうを)(はら)(なか)()りし」ごとく、(ひと)()三日(みっか)三夜(みよ)()(なか)()るべきなり。 41ニネベの(ひと)審判(さばき)のとき(いま)()(ひと)とともに()ちて(これ)(つみ)(さだ)めん、(かれ)らはヨナの()ぶる(ことば)によりて悔改(くいあらた)めたり。()よ、ヨナよりも(まさ)るもの此處(ここ)()り。 42(みなみ)女王(にょわう)審判(さばき)のとき(いま)()(ひと)とともに()きて(これ)(つみ)(さだ)めん、(かれ)はソロモンの智慧(ちゑ)()かんとて()(はて)より(きた)れり。()よ、ソロモンよりも(まさ)(もの)ここに()り。 43(けが)れし(れい)(ひと)()づるときは、(みづ)なき(ところ)(めぐ)りて(やすみ)(もと)む、(しか)して()ず。 44(すなは)ち「わが()でし(いへ)(かへ)らん」といひ、(かへ)りて、その(いへ)()きて()(きよ)められ、(かざ)られたるを()45(つひ)()きて(おのれ)より()しき(ほか)(なな)つの(れい)()れきたり、(とも)()りて此處(ここ)()む。されば()(ひと)(のち)(さま)(まへ)よりも()しくなるなり。邪曲(よこしま)なる()()もまた()くの(ごと)くならん』
46イエスなほ群衆(ぐんじゅう)にかたり居給(ゐたま)ふとき、()よ、その(はは)兄弟(きゃうだい)たちと、(かれ)(もの)()はんとて(そと)()つ。 47(ある)(ひと)イエスに()ふ『()よ、なんぢの(はは)兄弟(きゃうだい)たちと、(なんぢ)(もの)()はんとて(そと)()てり』 48イエス()げし(もの)(こた)へて()ひたまふ『わが(はは)とは(たれ)ぞ、わが兄弟(きゃうだい)とは(たれ)ぞ』 49かくて()をのべ、弟子(でし)たちを()して()ひたまふ『()よ、これは()(はは)、わが兄弟(きゃうだい)なり。 50(たれ)にても(てん)にいます()(ちち)御意(みこころ)をおこなふ(もの)は、(すなは)()兄弟(きゃうだい)、わが姉妹(しまい)、わが(はは)なり』

第十三章

1その()イエスは(いへ)()でて、海邊(うみべ)()したまふ。 2(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)みもとに(あつま)りたれば、イエスは(ふね)()りて()したまひ、群衆(ぐんじゅう)はみな(きし)()てり。 3(たとへ)にて數多(あまた)のことを(かた)りて()ひたまふ、『()よ、(たね)()(もの)まかんとて()づ。 4()くとき(みち)(かたは)らに()ちし(たね)あり、(とり)きたりて(ついば)む。 5(つち)うすき磽地(いしぢ)()ちし(たね)あり、(つち)(ふか)からぬによりて(すみや)かに()()でたれど、 6()(のぼ)りし(とき)やけて()なき(ゆゑ)()る。 7(いばら)()()ちし(たね)あり、(いばら)そだちて(これ)(ふさ)ぐ。 8()()()ちし(たね)あり、あるひは(ひゃく)(ばい)、あるひは六十(ろくじふ)(ばい)、あるひは三十(さんじふ)(ばい)()(むす)べり。 9(みみ)ある(もの)()くべし』
10弟子(でし)たち御許(みもと)(きた)りて()ふ『なにゆゑ(たとへ)にて(かれ)らに(かた)(たま)ふか』 11(こた)へて()(たま)ふ『なんぢらは天國(てんこく)奧義(おくぎ)()ることを(ゆる)されたれど、(かれ)らは(ゆる)されず。 12それ(たれ)にても、()てる(ひと)(あた)へられて愈々(いよいよ)(ゆたか)ならん。されど()たぬ(ひと)は、その()てる(もの)をも()らるべし。 13この(ゆゑ)(かれ)らには(たとへ)にて(かた)る、これ(かれ)らは()ゆれども()ず、(きこ)ゆれども()かず、また(さと)らぬ(ゆゑ)なり、 14かくてイザヤの預言(よげん)は、(かれ)らの(うへ)成就(じゃうじゅ)す。(いは)く、
「なんぢら()きて()けども(さと)らず、
()()れども(みと)めず。
15この(たみ)(こころ)(にぶ)く、
(みみ)()くに(ものう)く、
()()ぢたればなり。
これ()にて()(みみ)にて()き、
(こころ)にて(さと)り、(ひるが)へりて、
(われ)(いや)さるる(こと)なからん(ため)なり」
16されど(なんぢ)らの()なんぢらの(みみ)は、()るゆゑに()くゆゑに、幸福(さいはひ)なり。 17まことに(なんぢ)らに()ぐ、(おほ)くの預言者(よげんしゃ)義人(ぎじん)は、(なんぢ)らが()(ところ)()んとせしが()ず、なんぢらが()(ところ)()かんとせしが()かざりしなり。 18されば(なんぢ)(たね)()(もの)(たとへ)()け。 19(たれ)にても天國(てんこく)(ことば)をききて(さと)らぬときは、()しき(もの)きたりて、()(こころ)()かれたるものを(うば)ふ。(みち)(かたは)らに()かれしとは()かる(ひと)なり。 20磽地(いしぢ)()かれしとは、御言(みことば)をききて、(ただ)ちに(よろこ)()くれども、 21(おのれ)()なければ(しば)()ふるのみにて、御言(みことば)のために艱難(なやみ)あるひは迫害(はくがい)(おこ)るときは、(ただ)ちに(つまづ)くものなり。 22(いばら)(なか)()かれしとは、御言(みことば)をきけども、()心勞(こころづかひ)財貨(たから)(まどひ)とに、御言(みことば)(ふさ)がれて(みの)らぬものなり。 23()()()かれしとは、御言(みことば)をききて(さと)り、()(むす)びて、あるひは(ひゃく)(ばい)、あるひは六十(ろくじふ)(ばい)、あるひは三十(さんじふ)(ばい)(いた)るものなり』
24また(ほか)(たとへ)(しめ)して()ひたまふ『天國(てんこく)()(たね)(はた)にまく(ひと)のごとし。 25人々(ひとびと)(ねむ)れる()に、(あた)きたりて(むぎ)のなかに(どく)(むぎ)()きて()りぬ。 26(なへ)はえ()でて(みの)りたるとき、(どく)(むぎ)もあらはる。 27(しもべ)ども(きた)りて家主(いへあるじ)にいふ「(しゅ)よ、(はた)()きしは()(たね)ならずや、(しか)るに如何(いか)にして(どく)(むぎ)あるか」 28主人(しゅじん)いふ「(あた)のなしたるなり」(しもべ)ども()ふ「さらば(われ)らが()きて(これ)()(あつ)むるを(ほっ)するか」 29主人(しゅじん)いふ「いな、(おそ)らくは(どく)(むぎ)()(あつ)めんとて、(むぎ)をも(とも)()かん。 30(ふたつ)ながら收穫(かりいれ)まで(そだ)つに(まか)せよ。收穫(かりいれ)のとき(われ)かる(もの)に「まづ(どく)(むぎ)()きあつめて、()くために(これ)(つか)ね、(むぎ)はあつめて()(くら)()れよ」と()はん」』
31また(ほか)(たとへ)(しめ)して()ひたまふ『天國(てんこく)一粒(ひとつぶ)芥種(からしだね)のごとし、(ひと)これを()りてその(はた)()くときは、 32(よろづ)(たね)よりも(ちひさ)けれど、(そだ)ちては(ほか)野菜(やさい)よりも(おほき)く、()となりて、(そら)(とり)きたり()(えだ)宿(やど)るほどなり』
33また(ほか)(たとへ)(かた)りたまふ『天國(てんこく)はパンだねのごとし、(をんな)これを()りて、(さん)()(こな)(なか)()るれば、ことごとく(ふく)れいだすなり』
34イエスすべて(これ)()のことを、(たとへ)にて群衆(ぐんじゅう)(かた)りたまふ、(たとへ)ならでは何事(なにごと)(かた)(たま)はず。 35これ預言者(よげんしゃ)によりて()はれたる(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。(いは)く、
『われ(たとへ)(まう)けて(くち)(ひら)き、
()(はじめ)より(かく)れたる(こと)()(いだ)さん』
36ここに群衆(ぐんじゅう)()らしめて、(いへ)()りたまふ。弟子(でし)たち御許(みもと)(きた)りて()ふ『(はた)(どく)(むぎ)(たとへ)(われ)らに()きたまへ』 37(こた)へて()(たま)ふ『()(たね)()(もの)(ひと)()なり、 38(はた)世界(せかい)なり、()(たね)天國(てんこく)()どもなり、(どく)(むぎ)()しき(もの)()どもなり、 39(これ)()きし(あた)惡魔(あくま)なり、收穫(かりいれ)()(をはり)なり、()(もの)御使(みつかひ)たちなり。 40されば(どく)(むぎ)(あつ)められて()()かるる(ごと)く、()(をはり)にも()くあるべし。 41(ひと)()その使(つかひ)たちを(つかは)さん。(かれ)御國(みくに)(うち)より(すべ)ての顛躓(つまづき)となる(もの)不法(ふはふ)をなす(もの)とを(あつ)めて、 42()()()()るべし、其處(そこ)にて哀哭(なげき)切齒(はがみ)することあらん。 43()のとき義人(ぎじん)(ちち)御國(みくに)にて()のごとく(かがや)かん。(みみ)ある(もの)()くべし。
44天國(てんこく)(はた)(かく)れたる(たから)のごとし。(ひと)見出(みいだ)さば、(これ)(かく)しおきて、(よろこ)びゆき、()てる(もの)をことごとく()りて()(はた)()ふなり。
45また天國(てんこく)()眞珠(しんじゅ)(もと)むる商人(あきうど)のごとし。 46(あたひ)たかき眞珠(しんじゅ)(ひと)つを見出(みいだ)さば、()きて()てる(もの)をことごとく()りて、(これ)()ふなり。
47また天國(てんこく)は、(うみ)におろして各樣(さまざま)のものを(あつ)むる(あみ)のごとし。 48()つれば(きし)にひきあげ、()して()きものを(うつは)()れ、()しきものを()つるなり。 49()(をはり)にも()くあるべし。御使(みつかひ)たち()でて、義人(ぎじん)(なか)より惡人(あくにん)(わか)ちて、 50(これ)()()()()るべし。其處(そこ)にて哀哭(なげき)切齒(はがみ)することあらん。
51(なんぢ)()これらの(こと)をみな(さと)りしか』(かれ)()いふ『(しか)り』 52また()(たま)ふ『この(ゆゑ)に、天國(てんこく)のことを(をし)へられたる(すべ)ての學者(がくしゃ)は、(あたら)しき(もの)(ふる)(もの)とをその(くら)より(いだ)家主(いへあるじ)のごとし』
53イエスこれらの(たとへ)()へて此處(ここ)()りたまふ。 54(おの)(さと)にいたり、會堂(くわいだう)にて(をし)(たま)へば、人々(ひとびと)おどろきて()ふ『この(ひと)はこの智慧(ちゑ)(これ)()能力(ちから)とを何處(いづこ)より()しぞ。 55これ木匠(たくみ)()にあらずや、()(はは)はマリヤ、()兄弟(きゃうだい)はヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダにあらずや。 56(また)その姉妹(しまい)(みな)われらと(とも)にをるに(あら)ずや。(しか)るに(これ)()のすべての(こと)何處(いづこ)より()しぞ』 57(つひ)人々(ひとびと)かれに(つまづ)けり。イエス(かれ)らに()ひたまふ『預言者(よげんしゃ)は、おのが(さと)おのが(いへ)(ほか)にて(たふと)ばれざる(こと)なし』 58(かれ)らの()信仰(しんかう)によりて其處(そこ)にては(おほ)くの能力(ちから)ある(わざ)()(たま)はざりき。

第十四章

1そのころ、國守(こくしゅ)ヘロデ、イエスの(うはさ)をききて、 2侍臣(じしん)どもに()ふ『これバプテスマのヨハネなり。かれ死人(しにん)(うち)より(よみが)へりたり、さればこそ(これ)()能力(ちから)その(うち)(はたら)くなれ』 3ヘロデ(さき)に、(おの)兄弟(きゃうだい)ピリポの(つま)ヘロデヤの(ため)にヨハネを(とら)へ、(しば)りて(ひとや)()れたり。 4ヨハネ、ヘロデに『かの(をんな)()るるは(よろ)しからず』と()ひしに()る。 5かくてヘロデ、ヨハネを(ころ)さんと(おも)へど、群衆(ぐんじゅう)(おそ)れたり。群衆(ぐんじゅう)ヨハネを預言者(よげんしゃ)とすればなり。 6(しか)るにヘロデの誕生日(たんじゃうび)(あた)り、ヘロデヤの(むすめ)その席上(せきじゃう)(まひ)をまひてヘロデを(よろこ)ばせたれば、 7ヘロデ(これ)(なに)にても(もと)むるままに(あた)へんと(ちか)へり。 8(むすめ)その(はは)(そその)かされて()ふ『バプテスマのヨハネの(くび)(ぼん)()せてここに(たま)はれ』 9(わう)(うれ)ひたれど、その(ちかひ)(せき)()(もの)とに(たい)して、(これ)(あた)ふることを(めい)じ、 10(ひと)(つかは)(ひとや)にてヨハネの(くび)()り、 11その(かしら)(ぼん)にのせて()(きた)らしめ、(これ)少女(せうじょ)(あた)ふ。少女(せうじょ)はこれを(はは)(ささ)ぐ。 12ヨハネの弟子(でし)たち(きた)り、屍體(しかばね)()りて(はうむ)り、()きて、イエスに()ぐ。
13イエス(これ)()きて(ひと)()け、其處(そこ)より(ふね)にのりて(さび)しき(ところ)()(たま)ひしを群衆(ぐんじゅう)ききて町々(まちまち)より徒歩(かち)にて(したが)ひゆく。 14イエス()でて(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)()、これを(あはれ)みて、その()める(もの)(いや)(たま)へり。 15(ゆふべ)になりたれば、弟子(でし)たち御許(みもと)(きた)りて()ふ『ここは(さび)しき(ところ)、はや(とき)(おそ)し、群衆(ぐんじゅう)()らしめ、村々(むらむら)()きて、(おの)(ため)食物(しょくもつ)()はせ(たま)へ』 16イエス()(たま)ふ『かれら()くに(およ)ばず、(なんぢ)(これ)食物(しょくもつ)(あた)へよ』 17弟子(でし)たち()ふ『われらが此處(ここ)にもてるは、(ただ)(いつ)つのパンと(ふた)つの(うを)とのみ』 18イエス()(たま)ふ『それを(われ)()ちきたれ』 19かくて群衆(ぐんじゅう)(めい)じて(くさ)(うへ)()せしめ、(いつ)つのパンと(ふた)つの(うを)とを()り、(てん)(あふ)ぎて(しく)し、パンを()きて、弟子(でし)たちに(あた)(たま)へば、弟子(でし)たち(これ)群衆(ぐんじゅう)(あた)ふ。 20(すべ)ての(ひと)(くら)ひて()く、()きたる(あまり)(あつ)めしに十二(じふに)(かご)滿()ちたり。 21(くら)ひし(もの)は、(をんな)子供(こども)とを(のぞ)きて(おほよ)()(せん)(にん)なりき。
22イエス(ただ)ちに弟子(でし)たちを()ひて(ふね)()らせ、(みづか)群衆(ぐんじゅう)をかへす()に、彼方(かなた)(きし)(さき)()かしむ。 23かくて群衆(ぐんじゅう)()らしめてのち、(いの)らんとて(ひそか)(やま)(のぼ)り、(ゆふべ)になりて(ひとり)そこにゐ(たま)ふ。 24(ふね)ははや(をか)より數丁(すうちゃう)はなれ、(かぜ)(さから)ふによりて(なみ)(なやま)されゐたり。 25夜明(よあけ)四時(よじ)ごろ、イエス(うみ)(うへ)(あゆ)みて、(かれ)らに(いた)(たま)ひしに、 26弟子(でし)たち()(うみ)(うへ)(あゆ)(たま)ふを()(こころ)(さわ)ぎ、變化(へんげ)(もの)なりと()ひて(おそ)(さけ)ぶ。 27イエス(ただ)ちに(かれ)らに(かた)りて()ひたまふ『(こころ)(やす)かれ、(われ)なり、(おそ)るな』 28ペテロ(こた)へて()ふ『(しゅ)よ、もし(なんぢ)ならば(われ)(めい)じ、(みづ)()みて御許(みもと)(いた)らしめ(たま)へ』 29(きた)れ』と()(たま)へば、ペテロ(ふね)より()り、(みづ)(うへ)(あゆ)みてイエスの(もと)()く。 30(しか)るに(かぜ)()(おそ)れ、(しづ)みかかりければ、(さけ)びて()ふ『(しゅ)よ、(われ)(すく)ひたまへ』 31イエス(ただ)ちに御手(みて)()べ、これを(とら)へて()(たま)ふ『ああ信仰(しんかう)うすき(もの)よ、(なに)(うたが)ふか』 32(あひ)(とも)(ふね)()りしとき、(かぜ)やみたり。 33(ふね)()(もの)どもイエスを(はい)して()ふ『まことに(なんぢ)(かみ)()なり』
34(つひ)(わた)りてゲネサレの()()きしに、 35その(ところ)人々(ひとびと)イエスを(みと)めて、あまねく四方(しはう)(ひと)をつかはし、(また)すべての()める(もの)()れきたり、 36ただ御衣(みころも)(ふさ)にだに(さは)らしめ(たま)はんことを(ねが)ふ、(さは)りし(もの)はみな(いや)されたり。

第十五章

1ここにパリサイ(びと)學者(がくしゃ)ら、エルサレムより(きた)りてイエスに()ふ、 2『なにゆゑ(なんぢ)弟子(でし)は、(いにし)への(ひと)言傳(いひつたへ)(をか)すか、食事(しょくじ)のときに()(あら)はぬなり』 3(こた)へて()(たま)ふ『なにゆゑ(なんぢ)らは、また(なんぢ)らの言傳(いひつたへ)によりて(かみ)誡命(いましめ)(をか)すか。 4(すなは)(かみ)は「(ちち)(はは)(うやま)へ」と()ひ「(ちち)または(はは)(ののし)(もの)(かなら)(ころ)さるべし」と()ひたまへり。 5(しか)るに(なんぢ)らは「(たれ)にても(ちち)または(はは)(むか)ひて、()()(ところ)のものは供物(そなへもの)となりたりと()はば、 6(ちち)または(はは)(うやま)ふに(およ)ばず」と()ふ。()くその言傳(いひつたへ)によりて(かみ)(ことば)(むな)しうす。 7僞善者(ぎぜんしゃ)よ、(うべ)なる(かな)、イザヤは(なんぢ)らに()きて()預言(よげん)せり。(いは)く、
8「この(たみ)口唇(くちびる)にて(われ)(うやま)ふ、
されど()(こころ)(われ)(とほ)ざかる。
9ただ(いたづ)らに(われ)(をが)む。
(ひと)訓誡(いましめ)(をしへ)とし(をし)へて」』
10かくて群衆(ぐんじゅう)()()せて()ひたまふ『()きて(さと)れ。 11(くち)()るものは(ひと)(けが)さず、されど(くち)より()づるものは、これ(ひと)(けが)すなり』 12ここに弟子(でし)たち御許(みもと)(きた)りていふ『御言(みことば)をききてパリサイ(びと)(つまづ)きたるを()(たま)ふか』 13(こた)へて()(たま)ふ『わが(てん)(ちち)()(たま)はぬものは、みな()かれん。 14(かれ)らを()ておけ、盲人(めしひ)手引(てびき)する盲人(めしひ)なり、盲人(めしひ)もし盲人(めしひ)手引(てびき)せば、二人(ふたり)とも(あな)()ちん』 15ペテロ(こた)へて()ふ『その(たとへ)(われ)らに()(たま)へ』 16イエス()(たま)ふ『なんぢらも(いま)なほ(さと)りなきか。 17(すべ)(くち)()るものは(はら)にゆき、(つひ)(かはや)()てらるる(こと)(さと)らぬか。 18されど(くち)より()づるものは(こころ)より()づ、これ(ひと)(けが)すものなり。 19それ(こころ)より()しき(おもひ)いづ、すなはち殺人(ひとごろし)姦淫(かんいん)淫行(いんかう)竊盜(ぬすみ)僞證(ぎしょう)誹謗(そしり)20これらは(ひと)(けが)すものなり、されど(あら)はぬ()にて(しょく)する(こと)(ひと)(けが)さず』
21イエスここを()りてツロとシドンとの地方(ちはう)()(たま)ふ。 22()よ、カナンの(をんな)その(ほとり)より()できたり、(さけ)びて『(しゅ)よ、ダビデの()よ、(われ)(あはれ)(たま)へ、わが(むすめ)惡鬼(あくき)につかれて(いた)(くる)しむ』と()ふ。 23されどイエス一言(ひとこと)(こた)(たま)はず。弟子(でし)たち(きた)()ひて()ふ『(をんな)(かへ)したまへ、(われ)らの(あと)より(さけ)ぶなり』 24(こた)へて()ひたまふ『(われ)はイスラエルの(いへ)()せたる(ひつじ)のほかに(つかは)されず』 25(をんな)きたり(はい)して()ふ『(しゅ)よ、(われ)(たす)けたまへ』 26(こた)へて()ひたまふ『子供(こども)のパンをとりて小狗(こいぬ)()(あた)ふるは()からず』 27(をんな)いふ『(しか)り、(しゅ)よ、小狗(こいぬ)主人(しゅじん)食卓(しょくたく)よりおつる食屑(たべくず)(くら)ふなり』 28ここにイエス(こた)へて()ひたまふ『をんなよ、(なんぢ)信仰(しんかう)(おほい)なるかな、(ねがひ)のごとく(なんぢ)になれ』(むすめ)この(とき)より()えたり。
29イエス此處(ここ)()り、ガリラヤの海邊(うみべ)にいたり、(しか)して(やま)(のぼ)り、そこに()(たま)ふ。 30(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)跛者(あしなへ)不具(かたは)盲人(めしひ)唖者(おふし)および(ほか)(おほ)くの(もの)()(きた)りて、イエスの足下(あしもと)()きたれば、(いや)(たま)へり。 31群衆(ぐんじゅう)は、唖者(おふし)(もの)いひ、不具(かたは)()え、跛者(あしなへ)(あゆ)み、盲人(めしひ)()えたるを()(これ)(あや)しみ、イスラエルの(かみ)(あが)めたり。
32イエス弟子(でし)たちを()して()(たま)ふ『われ()群衆(ぐんじゅう)をあはれむ、(すで)三日(みっか)われと(とも)にをりて(くら)ふべき(もの)なし。()ゑたるままにて(かへ)らしむるを(この)まず、(おそ)らくは(みち)にて(つか)()てん』 33弟子(でし)たち()ふ『この(さび)しき()にて、()(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)()かしむべき(おほ)くのパンを、何處(いづこ)より()べき』 34イエス()(たま)ふ『パン(いく)つあるか』(かれ)らいふ『(なな)つ、また(ちひさ)(うを)すこしあり』 35イエス群衆(ぐんじゅう)(めい)じて()()せしめ、 36(なな)つのパンと(うを)とを()り、(しゃ)して(これ)をさき弟子(でし)たちに(あた)(たま)へば、弟子(でし)たちこれを群衆(ぐんじゅう)(あた)ふ。 37(すべ)ての(ひと)くらひて()き、()きたる(あまり)(ひろ)ひしに、(なな)つの(かご)滿()ちたり。 38(くら)ひし(もの)は、(をんな)子供(こども)とを(のぞ)きて四千(しせん)(にん)なりき。 39イエス群衆(ぐんじゅう)をかへし、(ふね)()りてマガダンの地方(ちはう)()(たま)へり。

第十六章

1パリサイ(びと)とサドカイ(びと)(きた)りてイエスを(こころ)み、(てん)よりの(しるし)(しめ)さんことを()ふ。 2(こた)へて()ひたまふ『(ゆふべ)には(なんぢ)ら「(そら)あかき(ゆゑ)(はれ)ならん」と()ひ、 3また(あした)には「そら(あか)くして(くも)(ゆゑ)に、今日(けふ)風雨(あれ)ならん」と()ふ。なんぢら(そら)氣色(けしき)見分(みわ)くることを()りて、(とき)(しるし)見分(みわ)くること(あた)はぬか。 4邪曲(よこしま)にして不義(ふぎ)なる()(しるし)(もと)む、されどヨナの(しるし)(ほか)(しるし)(あた)へられじ』かくて(かれ)らを(はな)れて()(たま)ひぬ。
5弟子(でし)たち彼方(かなた)(きし)(いた)りしに、パンを(たづさ)ふることを(わす)れたり。 6イエス()ひたまふ『(つつし)みてパリサイ(びと)とサドカイ(びと)とのパン(だね)(こころ)せよ』 7弟子(でし)たち(たがひ)に『(われ)らはパンを(たづさ)へざりき』と(かた)()ふ。 8イエス(これ)()りて()(たま)ふ『ああ信仰(しんかう)うすき(もの)よ、(なに)ぞパン()きことを(かた)()ふか。 9(いま)(さと)らぬか、(いつ)つのパンを()(せん)(にん)(わか)ちて、その(あまり)幾籃(いくかご)ひろひ、 10また(なな)つのパンを四千(しせん)(にん)(わか)ちて、その(あまり)幾籃(いくかご)ひろひしかを(おぼ)えぬか。 11()()ひしはパンの(こと)にあらぬを(なに)(さと)らざる。(ただ)パリサイ(びと)とサドカイ(びと)とのパンだねに(こころ)せよ』 12ここに弟子(でし)たちイエスの(こころ)せよと()(たま)ひしは、パンの(たね)にはあらで、パリサイ(びと)とサドカイ(びと)との(をしへ)なることを(さと)れり。
13イエス、ピリポ・カイザリヤの地方(ちはう)にいたり、弟子(でし)たちに()ひて()ひたまふ『人々(ひとびと)(ひと)()(たれ)()ふか』 14(かれ)()いふ『(ある)(ひと)はバプテスマのヨハネ、(ある)(ひと)はエリヤ、(ある)(ひと)はエレミヤ、また預言者(よげんしゃ)一人(ひとり)15(かれ)らに()ひたまふ『なんぢらは(われ)(たれ)()ふか』 16シモン・ペテロ(こた)へて()ふ『なんぢはキリスト、()ける(かみ)()なり』 17イエス(こた)へて()(たま)ふ『バルヨナ・シモン、(なんぢ)幸福(さいはひ)なり、(なんぢ)(これ)(しめ)したるは血肉(けつにく)にあらず、(てん)にいます()(ちち)なり。 18(われ)はまた(なんぢ)()ぐ、(なんぢ)はペテロなり、(われ)この(いは)(うへ)()教會(けうくわい)()てん、黄泉(よみ)(もん)はこれに()たざるべし。 19われ天國(てんこく)(かぎ)(なんぢ)(あた)へん、(おほよ)(なんぢ)()にて(つな)(ところ)(てん)にても(つな)ぎ、()にて()(ところ)(てん)にても()くなり』 20ここにイエス、(おの)がキリストなる(こと)(たれ)にも()ぐなと、弟子(でし)たちを(いまし)(たま)へり。
21この(とき)よりイエス・キリスト、弟子(でし)たちに、(おのれ)のエルサレムに()きて、長老(ちゃうらう)祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らより(おほ)くの苦難(くるしみ)()け、かつ(ころ)され、三日(みっか)めに(よみが)へるべき(こと)(しめ)(はじ)めたまふ。 22ペテロ、イエスを(かたへ)にひき(いまし)()でて()ふ『(しゅ)よ、(しか)あらざれ、()(こと)なんぢに(おこ)らざるべし』 23イエス振反(ふりかへ)りてペテロに()(たま)ふ『サタンよ、()(うしろ)退(しりぞ)け、(なんぢ)はわが躓物(つまづき)なり、(なんぢ)(かみ)のことを(おも)はず、(かへ)つて(ひと)のことを(おも)ふ』 24ここにイエス弟子(でし)たちに()ひたまふ『(ひと)もし(われ)(したが)(きた)らんと(おも)はば、(おのれ)をすて、(おの)十字架(じふじか)()ひて、(われ)(したが)へ。 25(おの)生命(いのち)(すく)はんと(おも)(もの)は、これを(うしな)ひ、()がために(おの)生命(いのち)をうしなふ(もの)は、(これ)()べし。 26(ひと)全世界(ぜんせかい)(まう)くとも、(おの)生命(いのち)(そん)せば、(なに)(えき)あらん、(また)その生命(いのち)(かわり)(なに)(あた)へんや。 27(ひと)()(ちち)榮光(えいくわう)をもて、御使(みつかひ)たちと(とも)(きた)らん。その(とき)おのおのの行爲(おこなひ)(したが)ひて(むく)ゆべし。 28まことに(なんぢ)らに()ぐ、ここに()(もの)のうちに、(ひと)()のその(くに)をもて(きた)るを()るまでは、()(あぢ)はぬ(もの)どもあり』

第十七章

1六日(むゆか)(のち)、イエス、ペテロ、ヤコブ(およ)びヤコブの兄弟(きゃうだい)ヨハネを()きつれ、(ひと)()けて(たか)(やま)(のぼ)りたまふ。 2かくて(かれ)らの(まへ)にてその(さま)かはり、()(かほ)()のごとく(かがや)き、その(ころも)(ひかり)のごとく(しろ)くなりぬ。 3()よ、モーセとエリヤとイエスに(かた)りつつ(かれ)らに(あらは)る。 4ペテロ差出(さしい)でてイエスに()ふ『(しゅ)よ、(われ)らの此處(ここ)()るは()し。御意(みこころ)ならば(われ)ここに()つの(いほり)(つく)り、(ひと)つを(なんぢ)のため、(ひと)つをモーセのため、(ひと)つをエリヤの(ため)にせん』 5(かれ)なほ(かた)りをるとき、()よ、(ひかり)れる(くも)かれらを(おほ)ふ。また(くも)より(こゑ)あり、(いは)く『これは()(いつく)しむ()、わが(よろこ)(もの)なり、(なんぢ)(これ)()け』 6弟子(でし)たち(これ)()きて(たふ)()し、(おそ)るること(はなは)だし。 7イエスその(もと)にきたり(これ)(さは)りて『()きよ、(おそ)るな』と()(たま)へば、 8(かれ)()()げしに、イエス一人(ひとり)(ほか)(たれ)()えざりき。
9(やま)(くだ)るとき、イエス(かれ)らに(めい)じて()ひたまふ『(ひと)()死人(しにん)(うち)より(よみが)へるまでは、()たることを(たれ)にも(かた)るな』 10弟子(でし)たち()ひて()ふ『さらばエリヤ()(きた)るべしと學者(がくしゃ)らの()ふは(なん)ぞ』 11(こた)へて()ひたまふ『()にエリヤ(きた)りて(よろづ)(こと)をあらためん。 12(われ)なんぢらに()ぐ、エリヤは(すで)(きた)れり。されど人々(ひとびと)これを()らず、(かへ)つて(こころ)のままに(あしら)へり。かくのごとく(ひと)()もまた人々(ひとびと)より(くる)しめらるべし』 13ここに弟子(でし)たちバプテスマのヨハネを()して()(たま)ひしなるを(さと)れり。
14かれら群衆(ぐんじゅう)(もと)(いた)りしとき、(ある)(ひと)御許(みもと)にきたり(ひざま)づきて()ふ、 15(しゅ)よ、わが()(あはれ)みたまへ。癲癇(てんかん)にて(なや)み、しばしば()(なか)に、しばしば(みづ)(なか)(たふ)るるなり。 16(これ)御弟子(みでし)たちに()(きた)りしに、(いや)すこと(あた)はざりき』 17イエス(こた)へて()(たま)ふ『ああ(しん)なき(まが)れる()なるかな、(われ)いつまで(なんぢ)らと(とも)にをらん、何時(いつ)まで(なんぢ)らを(しの)ばん。その()(われ)()れきたれ』 18(つひ)にイエスこれを(いまし)(たま)へば、惡鬼(あくき)いでてその()この(とき)より()えたり。 19ここに弟子(でし)たち(ひそか)にイエスに(きた)りて()ふ『われらは(なに)(ゆゑ)()(いだ)()ざりしか』 20(かれ)らに()(たま)ふ『なんぢら信仰(しんかう)うすき(ゆゑ)なり。まことに(なんぢ)らに()ぐ、もし芥種(からしだね)一粒(ひとつぶ)ほどの信仰(しんかう)あらば、この(やま)に「此處(ここ)より彼處(かしこ)(うつ)れ」と()ふとも(うつ)らん、かくて(なんぢ)(あた)はぬこと()かるべし』
21[なし] 22(かれ)らガリラヤに(つど)ひをる(とき)、イエス()ひたまふ『(ひと)()(ひと)()(わた)され、 23人々(ひとびと)(これ)(ころ)さん、かくて三日(みっか)めに(よみが)へるべし』弟子(でし)たち(いた)(かな)しめり。
24(かれ)らカペナウムに(いた)りしとき、納金(をさめきん)(あつ)むる(もの)どもペテロに(きた)りて()ふ『なんぢらの()納金(をさめきん)(をさ)めぬか』 25ペテロ『(をさ)む』と()ひ、やがて(いへ)()りしに、逸速(いちはや)くイエス()(たま)ふ『シモンいかに(おも)ふか、()(わう)たちは(ぜい)または(みつぎ)(たれ)より()るか、(おの)()よりか、(ほか)(もの)よりか』 26ペテロ()ふ『ほかの(もの)より』イエス()(たま)ふ『されば()自由(じいう)なり。 27されど(かれ)らを(つまづ)かせぬ(ため)に、(うみ)()きて(つり)をたれ、(はじめ)(あが)(うを)をとれ、()(くち)をひらかば銀貨(ぎんくわ)(ひと)つを()ん、それを()りて(われ)(なんぢ)との(ため)(をさ)めよ』

第十八章

1そのとき弟子(でし)たちイエスに(きた)りて()ふ『しからば天國(てんこく)にて(おほい)なるは(たれ)か』 2イエス幼兒(をさなご)()び、(かれ)らの(なか)()きて()(たま)3『まことに(なんぢ)らに()ぐ、もし(なんぢ)(ひるが)へりて幼兒(をさなご)(ごと)くならずば、天國(てんこく)()るを()じ。 4されば(たれ)にても()幼兒(をさなご)のごとく(おのれ)(ひく)うする(もの)は、これ天國(てんこく)にて(おほい)なる(もの)なり。 5また()()のために、かくのごとき一人(ひとり)幼兒(をさなご)()くる(もの)は、(われ)()くるなり。 6されど(われ)(しん)ずる()(ちひさ)(もの)一人(ひとり)(つまづ)かする(もの)は、(むし)(おほい)なる碾臼(ひきうす)(くび)()けられ、(うみ)深處(ふかみ)(しづ)められんかた(えき)なり。 7この()躓物(つまづき)あるによりて禍害(わざはひ)なるかな。躓物(つまづき)(かなら)(きた)らん、されど躓物(つまづき)(きた)らする(ひと)禍害(わざはひ)なるかな。 8もし(なんぢ)()または(あし)なんぢを(つまづ)かせば、()りて()てよ。不具(かたは)または蹇跛(あしなへ)にて生命(いのち)()るは、兩手(りゃうて)兩足(りゃうあし)ありて永遠(とこしへ)()()()れらるるよりも(まさ)るなり。 9もし(なんぢ)()なんぢを(つまづ)かせば、()きて()てよ。片眼(かため)にて生命(いのち)()るは、兩眼(りゃうめ)ありて()のゲヘナに()()れらるるよりも(まさ)るなり。 10(なんぢ)(つつし)みて()(ちひさ)(もの)一人(ひとり)をも(あなど)るな。(われ)なんぢらに()ぐ、(かれ)らの御使(みつかひ)たちは(てん)にありて、(てん)にいます()(ちち)御顏(みかほ)(つね)()るなり。 11[なし] 12(なんぢ)()いかに(おも)ふか、百匹(ひゃくひき)(ひつじ)()てる(ひと)あらんに、()しその一匹(いっぴき)まよはば、()(じふ)()(ひき)(やま)(のこ)しおき、()きて(まよ)へるものを(たづ)ねぬか。 13もし(これ)見出(みいだ)さば、まことに(なんぢ)らに()ぐ、(まよ)はぬ()(じふ)()(ひき)(まさ)りて()一匹(いっぴき)(よろこ)ばん。 14かくのごとく()(ちひさ)(もの)一人(ひとり)(ほろ)ぶるは、(てん)にいます(なんぢ)らの(ちち)御意(みこころ)にあらず。
15もし(なんぢ)兄弟(きゃうだい)(つみ)(をか)さば、()きてただ(かれ)とのみ(あひ)(たい)して(いさ)めよ。もし()かば()兄弟(きゃうだい)()たるなり。 16もし()かずば、一人(ひとり)二人(ふたり)(ともな)()け、これ()(さん)證人(しょうにん)(くち)()りて、(すべ)ての(こと)(たしか)められん(ため)なり。 17もし(かれ)()にも()かずば、教會(けうくわい)()げよ。もし教會(けうくわい)にも()かずば、(これ)異邦人(いはうじん)または取税人(しゅぜいにん)のごとき(もの)とすべし。 18まことに(なんぢ)らに()ぐ、すべて(なんぢ)らが()にて(つな)(ところ)(てん)にても(つな)ぎ、()にて()(ところ)(てん)にても()くなり。 19また(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、もし(なんぢ)()のうち二人(ふたり)(なに)にても(もと)むる(こと)につき()にて(こころ)(ひと)つにせば、(てん)にいます()(ちち)(これ)()(たま)ふべし。 20二三人(にさんにん)わが()によりて(あつま)(ところ)には、(われ)もその(うち)()るなり。
21ここにペテロ御許(みもと)(きた)りて()ふ『(しゅ)よ、わが兄弟(きゃうだい)われに(たい)して(つみ)(をか)さば(いく)たび(ゆる)すべきか、七度(ななたび)までか』 22イエス()ひたまふ『(いな)、われ「七度(ななたび)まで」とは()はず「七度(ななたび)(しち)(じふ)(ばい)するまで」と()ふなり。 23この(ゆゑ)に、天國(てんこく)はその家來(けらい)どもと計算(けいさん)をなさんとする(わう)のごとし。 24計算(けいさん)(はじ)めしとき、一萬(いちまん)タラントの負債(おひめ)ある家來(けらい)つれ(きた)られしが、 25(つくの)(かた)なかりしかば、()主人(しゅじん)、この(もの)とその(つま)()(すべ)ての所有(もちもの)とを()りて(つくの)ふことを(めい)じたるに、 26その家來(けらい)ひれ()(はい)して()ふ「(ゆる)くし(たま)へ、さらば(ことご)とく(つくの)はん」 27その家來(けらい)主人(しゅじん)あはれみて(これ)()き、その負債(おひめ)(ゆる)したり。 28(しか)るに()家來(けらい)いでて、(おのれ)より(ひゃく)デナリを()ひたる一人(ひとり)同僚(どうれう)にあひ、(これ)をとらへ、(のど)()めて()ふ「負債(おひめ)(つくの)へ」 29その同僚(どうれう)ひれ()し、(ねが)ひて「(ゆる)くし(たま)へ、さらば(つくの)はん」と()へど、 30(うけが)はずして()き、その負債(おひめ)(つくの)ふまで(これ)(ひとや)()れたり。 31同僚(どうれう)ども()りし(こと)()(いた)(かな)しみ、()きて()りし(すべ)ての(こと)をその主人(しゅじん)()ぐ。 32ここに主人(しゅじん)かれを()(いだ)して()ふ「()しき家來(けらい)よ、なんぢ(ねが)ひしによりて、かの負債(おひめ)をことごとく(ゆる)せり。 33わが(なんぢ)(あはれ)みしごとく、(なんぢ)もまた同僚(どうれう)(あはれ)むべきにあらずや」 34()くその主人(しゅじん)(いか)りて、負債(おひめ)をことごとく(つくの)ふまで(かれ)獄卒(ごくそつ)(わた)せり。 35もし(なんぢ)()おのおの(こころ)より兄弟(きゃうだい)(ゆる)さずば、()(てん)(ちち)(また)なんぢらに()のごとく()(たま)ふべし』

第十九章

1イエスこれらの(ことば)(かた)()へて、ガリラヤを()り、ヨルダンの彼方(かなた)なるユダヤの地方(ちはう)(きた)(たま)ひしに、 2(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)したがひたれば、此處(ここ)にて(かれ)らを(いや)(たま)へり。
3パリサイ(びと)(きた)り、イエスを(こころ)みて()ふ『(なに)(ゆゑ)にかかはらず、(ひと)その(つま)(いだ)すは()きか』 4(こた)へて()ひたまふ『(ひと)(つく)(たま)ひしもの、元始(はじめ)より(これ)(をとこ)(をんな)とに(つく)り、(しか)して、 5「かかる(ゆゑ)(ひと)(ちち)(はは)(はな)れ、その(つま)()ひて、二人(ふたり)のもの一體(いったい)となるべし」と()(たま)ひしを(いま)()まぬか。 6されば、はや二人(ふたり)にはあらず、一體(いったい)なり。この(ゆゑ)(かみ)(あは)(たま)ひし(もの)は、(ひと)これを(はな)すべからず』 7(かれ)らイエスに()ふ『さらば(なに)(ゆゑ)モーセは離縁状(りえんじゃう)(あた)へて(いだ)すことを(めい)じたるか』 8(かれ)らに()(たま)ふ『モーセは(なんぢ)(こころ)つれなきによりて(つま)(いだ)すことを(ゆる)したり。されど元始(はじめ)より()にはあらぬなり。 9われ(なんぢ)らに()ぐ、おほよそ淫行(いんかう)(ゆゑ)ならで()(つま)をいだし(ほか)(めと)(もの)は、姦淫(かんいん)(おこな)ふなり』 10弟子(でし)たちイエスに()ふ『(ひと)もし(つま)のことに(おい)てかくのごとくば、(めと)らざるに()かず』 11(かれ)らに()ひたまふ『(すべ)ての(ひと)この(ことば)()()るるにはあらず、ただ(さづ)けられたる(もの)のみなり。 12それ(うま)れながらの閹人(えんじん)あり、(ひと)()られたる閹人(えんじん)あり、また天國(てんこく)のために(みづか)らなりたる閹人(えんじん)あり、(これ)()()れうる(もの)()()るべし』
13ここに人々(ひとびと)イエスの()をおきて(いの)(たま)はんことを(のぞ)みて、幼兒(をさなご)らを()(きた)りしに、弟子(でし)たち(いまし)めたれば、 14イエス()ひたまふ『幼兒(をさなご)らを(ゆる)せ、(われ)(きた)るを(とど)むな、天國(てんこく)はかくのごとき(もの)(くに)なり』 15かくて()(かれ)らの(うへ)におきて此處(ここ)()(たま)へり。
16()よ、(ある)(ひと)みもとに(きた)りて()ふ『()よ、われ永遠(とこしへ)生命(いのち)をうる(ため)には、如何(いか)なる()(こと)()すべきか』 17イエス()ひたまふ『()(こと)につきて(なに)(われ)()ふか、()(もの)(ただ)ひとりのみ。(なんぢ)もし生命(いのち)()らんと(おも)はば誡命(いましめ)(まも)れ』 18(かれ)いふ『(いづれ)を』イエス()ひたまふ『「(ころ)すなかれ」「姦淫(かんいん)するなかれ」「(ぬす)むなかれ」「僞證(ぎしょう)()つる(なか)れ」 19(ちち)(はは)とを(うやま)へ」また「(おのれ)のごとく(なんぢ)(となり)(あい)すべし」』 20その若者(わかもの)いふ『(われ)みな(これ)(まも)れり、なほ(なに)()くか』 21イエス()ひたまふ『なんぢ()(まった)からんと(おも)はば、()きて(なんぢ)所有(もちもの)()りて(まづ)しき(もの)(ほどこ)せ、さらば財寶(たから)(てん)()ん。かつ(きた)りて(われ)(したが)へ』 22この(ことば)をききて、若者(わかもの)(かな)しみつつ()りぬ。(おほい)なる資産(しさん)()てる(ゆゑ)なり。
23イエス弟子(でし)たちに()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、()める(もの)天國(てんこく)()るは(かた)し。 24(また)なんぢらに()ぐ、()める(もの)(かみ)(くに)()るよりは、駱駝(らくだ)(はり)(あな)(とほ)るかた(かへ)つて(やす)し』 25弟子(でし)たち(これ)をきき、(はなは)だしく(をどろ)きて()ふ『さらば(たれ)(すく)はるることを()ん』 26イエス(かれ)らに()()めて()(たま)ふ『これは(ひと)(あた)はねど、(かみ)(すべ)ての(こと)をなし()るなり』 27ここにペテロ(こた)へて()ふ『()よ、われら一切(いっさい)をすてて(なんぢ)(したが)へり、されば(なに)()べきか』 28イエス(かれ)らに()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、()あらたまりて(ひと)()その榮光(えいくわう)座位(くらゐ)()するとき、(われ)(したが)へる(なんぢ)()もまた十二(じふに)座位(くらゐ)()して、イスラエルの十二(じふに)(やから)(さば)かん。 29また(おほよ)()()のために、(あるひ)(いへ)、あるひは兄弟(きゃうだい)、あるひは姉妹(しまい)、あるひは(ちち)、あるひは(はは)、あるひは()、あるひは田畑(たはた)()つる(もの)は、數倍(すうばい)()け、また永遠(とこしへ)生命(いのち)()がん。 30されど(おほ)くの(さき)なる(もの)(あと)に、(あと)なる(もの)(さき)になるべし。

第二十章

1天國(てんこく)勞動人(はたらきびと)葡萄園(ぶだうぞの)(やと)ふために、(あさ)(はや)()でたる主人(あるじ)のごとし。 2一日(いちにち)(いち)デナリの約束(やくそく)をなして、勞動人(はたらきびと)どもを葡萄園(ぶだうぞの)(つかは)す。 3また九時(くじ)ごろ()でて市場(いちば)(むな)しく()(もの)どもを()て、 4「なんぢらも葡萄園(ぶだうぞの)()け、相當(さうたう)のものを(あた)へん」といへば、(かれ)らも()く。 5十二(じふに)()(ころ)三時(さんじ)(ころ)とに(また)いでて(まへ)のごとくす。 6()()(ころ)また()でしに、なほ()(もの)どものあるを()ていふ「(なに)ゆゑ終日(ひねもす)ここに(むな)しく()つか」 7かれら()ふ「たれも(われ)らを(やと)はぬ(ゆゑ)なり」主人(あるじ)いふ「なんぢらも葡萄園(ぶだうぞの)()け」 8(ゆふべ)になりて葡萄園(ぶだうぞの)主人(あるじ)その(いへ)(つかさ)()ふ「勞動人(はたらきびと)()びて、(あと)(もの)より(はじ)め、(さき)(もの)にまで賃銀(ちんぎん)をはらへ」 9かくて()()ごろに(やと)はれしもの(きた)りて、おのおの(いち)デナリを()く。 10(さき)(もの)きたりて、(おほ)()くるならんと(おも)ひしに、(これ)(また)おのおの(いち)デナリを()く。 11()けしとき、家主(いへあるじ)にむかひ(つぶや)きて()ふ、 12「この(あと)(もの)どもは(わづか)(いち)時間(じかん)はたらきたるに、(なんぢ)一日(いちにち)(らう)(あつ)さとを(しの)びたる(われ)らと(ひと)しく(これ)()へり」 13主人(あるじ)こたへて()一人(ひとり)()ふ「(とも)よ、(われ)なんぢに不正(ふせい)をなさず、(なんぢ)(われ)(いち)デナリの約束(やくそく)をせしにあらずや。 14(おの)(もの)()りて()け、この(あと)(もの)(なんぢ)とひとしく(あた)ふるは、()(こころ)なり。 15わが(もの)()(こころ)のままにするは()からずや、(われ)よきが(ゆゑ)(なんぢ)()あしきか」 16かくのごとく(あと)なる(もの)(さき)に、(さき)なる(もの)(あと)になるべし』
17イエス、エルサレムに(のぼ)らんとし(たま)ふとき、(ひそか)十二(じふに)弟子(でし)(ちか)づけて、(みち)すがら()(たま)ふ、 18()よ、(われ)らエルサレムに(のぼ)る、(ひと)()祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らに(わた)されん。(かれ)(これ)()(さだ)め、 19また嘲弄(てうろう)し、(むち)うち、十字架(じふじか)につけん(ため)異邦人(いはうじん)(わた)さん、かくて(かれ)三日(みっか)めに(よみが)へるべし』
20ここにゼベダイの()らの(はは)、その()らと(とも)御許(みもと)にきたり、(はい)して何事(なにごと)(もと)めんとしたるに、 21イエス(かれ)()ひたまふ『(なに)(のぞ)むか』かれ()ふ『この()二人(ふたり)()(なんぢ)御國(みくに)にて、一人(ひとり)(なんぢ)(みぎ)に、一人(ひとり)(ひだり)()せんことを(めい)(たま)へ』 22イエス(こた)へて()(たま)ふ『なんぢらは(もと)むる(ところ)()らず、()()まんとする酒杯(さかづき)()()るか』かれら()ふ『()るなり』 23イエス()ひたまふ『()(なんぢ)らは()酒杯(さかづき)()むべし、されど()(みぎ)(ひだり)()することは、これ(われ)(あた)ふべきものならず、()(ちち)より(そな)へられたる(ひと)こそ(あた)へらるるなれ』 24(じふ)(にん)弟子(でし)これを()き、二人(ふたり)兄弟(きゃうだい)(こと)によりて(いきど)ほる。 25イエス(かれ)らを()びて()ひたまふ『異邦人(いはうじん)(きみ)のその(たみ)(つかさ)どり、(おほい)なる(もの)(たみ)(うへ)(けん)()ることは、(なんぢ)らの()(ところ)なり。 26(なんぢ)らの(うち)にては(しか)らず、(なんぢ)らの(うち)(おほい)ならんと(おも)(もの)は、(なんぢ)らの役者(えきしゃ)となり、 27(かしら)たらんと(おも)(もの)(なんぢ)らの(しもべ)となるべし。 28かくのごとく、(ひと)()(きた)れるも(つか)へらるる(ため)にあらず、(かへ)つて(つか)ふることをなし、(また)おほくの(ひと)贖償(あがなひ)として(おの)生命(いのち)(あた)へん(ため)なり』
29(かれ)らエリコを()づるとき、(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)イエスに(したが)へり。 30()よ、二人(ふたり)盲人(めしひ)(みち)(かたは)らに()しをりしが、イエスの()(たま)ふことを()き、(さけ)びて()ふ『(しゅ)よ、ダビデの()よ、(われ)らを(あはれ)みたまへ』 31群衆(ぐんじゅう)かれらを(いまし)めて(もだ)さしめんとしたれど、愈々(いよいよ)(さけ)びて()ふ『(しゅ)よ、ダビデの()よ、(われ)らを(あはれ)(たま)へ』 32イエス()ちどまり、(かれ)らを()びて()(たま)ふ『わが(なんぢ)らに(なに)()さんことを(のぞ)むか』 33(かれ)()ふ『(しゅ)よ、()(ひら)かれんことなり』 34イエスいたく(あはれ)みて(かれ)らの()(さは)(たま)へば、(ただ)ちに(もの)()ることを()て、イエスに(したが)へり。

第二十一章

1(かれ)らエルサレムに(ちか)づき、オリブ(やま)(ほとり)なるベテパゲに(いた)りし(とき)、イエス二人(ふたり)弟子(でし)(つかは)さんとして()(たま)ふ、 2(むかひ)(むら)にゆけ、やがて(つな)ぎたる驢馬(ろば)のその()とともに()るを()ん、()きて(われ)()ききたれ。 3(たれ)かもし(なんぢ)らに(なに)とか()はば「(しゅ)(よう)なり」と()へ、さらば(ただ)ちに(これ)(つかは)さん』 4()(こと)(おこ)りしは、預言者(よげんしゃ)によりて()はれたる(ことば)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり。(いは)く、
5『シオンの(むすめ)()げよ、
()よ、(なんぢ)(わう)、なんぢに(きた)(たま)ふ。
柔和(にうわ)にして驢馬(ろば)()り、
(くびき)()驢馬(ろば)()()りて」』
6弟子(でし)たち()きて、イエスの(めい)(たま)へる(ごと)くして、 7驢馬(ろば)とその()とを()ききたり、(おの)(ころも)をその(うへ)におきたれば、イエス(これ)()りたまふ。 8群衆(ぐんじゅう)(おほ)くはその(ころも)(みち)にしき、(ある)(もの)()(えだ)()りて(みち)()く。 9かつ(まへ)にゆき(あと)にしたがふ群衆(ぐんじゅう)よばはりて()ふ『ダビデの()にホサナ、()むべきかな、(しゅ)御名(みな)によりて(きた)(もの)。いと(たか)(ところ)にてホサナ』 10(つひ)にエルサレムに()(たま)へば、(みやこ)(こぞ)りて(さわぎ)()ちて()ふ『これは(たれ)なるぞ』 11群衆(ぐんじゅう)いふ『これガリラヤのナザレより()でたる預言者(よげんしゃ)イエスなり』
12イエス(みや)()り、その(うち)なる(すべ)ての賣買(うりかひ)する(もの)()ひいだし、兩替(りゃうがへ)する(もの)(だい)鴿(はと)()(もの)腰掛(こしかけ)(たふ)して()(たま)ふ、 13『「わが(いへ)(いのり)(いへ)(とな)へらるべし」と(しる)されたるに、(なんぢ)らは(これ)強盜(がうたう)()となす』 14(みや)にて盲人(めしひ)跛者(あしなへ)ども御許(みもと)(きた)りたれば、(これ)(いや)したまへり。 15祭司長(さいしちゃう)學者(がくしゃ)らイエスの()(たま)へる不思議(ふしぎ)なる(わざ)と、(みや)にて(よば)はり『ダビデの()にホサナ』と()ひをる()(ども)とを()(いきど)ほりて、 16イエスに()ふ『なんぢ(かれ)らの()ふところを()くか』イエス()(たま)ふ『(しか)り「嬰兒(みどりご)乳兒(ちのみご)(くち)讃美(さんび)(そな)(たま)へり」とあるを(いま)()まぬか』 17(つひ)(かれ)らを(はな)れ、(みやこ)()でてベタニヤにゆき、そこに宿(やど)(たま)ふ。
18(あさ)(はや)(みやこ)にかへる(とき)、イエス()ゑたまふ。 19(みち)(かたへ)なる(ひと)もとの無花果(いちぢく)()()て、その(した)(いた)(たま)ひしに、()のほかに(なに)をも見出(みいだ)さず、(これ)(むか)ひて『(いま)より(のち)いつまでも()(むす)ばざれ』と()(たま)へば、無花果(いちぢく)()たちどころに()れたり。 20弟子(でし)たち(これ)()(あや)しみて()ふ『無花果(いちぢく)()()立刻(たちどころ)()れたるは(なに)ぞや』 21イエス(こた)へて()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、もし(なんぢ)信仰(しんかう)ありて(うたが)はずば、(ただ)()無花果(いちぢく)()にありし(ごと)きことを()()るのみならず、()(やま)に「(うつ)りて(うみ)()れ」と()ふとも(また)()るべし。 22かつ(いのり)のとき(なに)にても(しん)じて(もと)めば、ことごとく()べし』
23(みや)(いた)りて(をし)(たま)ふとき、祭司長(さいしちゃう)(たみ)長老(ちゃうらう)御許(みもと)(きた)りて()ふ『(なに)權威(けんゐ)をもて(これ)()(こと)をなすか、(たれ)がこの權威(けんゐ)(さづ)けしか』 24イエス(こた)へて()ひたまふ『(われ)一言(ひとこと)なんぢらに()はん、もし(それ)()げなば、(われ)もまた(なに)權威(けんゐ)をもて(これ)()のことを()すかを()げん。 25ヨハネのバプテスマは何處(いづこ)よりぞ、(てん)よりか、(ひと)よりか』かれら(たがひ)(ろん)じて()ふ『もし(てん)よりと()はば「(なに)(ゆゑ)かれを(しん)ぜざりし」と()はん。 26もし(ひと)よりと()はんか、(ひと)みなヨハネを預言者(よげんしゃ)(みと)むれば、(われ)らは群衆(ぐんじゅう)(おそ)る』 27(つひ)(こた)へて『()らず』と()へり。イエスもまた()ひたまふ『(われ)(なに)權威(けんゐ)をもて(これ)()のことを()すか(なんぢ)らに()げじ。 28なんぢら如何(いか)(おも)ふか、(ある)(ひと)ふたりの()ありしが、その(あに)にゆきて()ふ「()よ、今日(けふ)葡萄園(ぶだうぞの)()きて(はたら)け」 29(こた)へて「(しゅ)よ、(われ)ゆかん」と()ひて(つひ)()かず。 30また(おとうと)にゆきて(おな)じやうに()ひしに、(こた)へて「()かじ」と()ひたれど、(のち)くいて()きたり。 31この二人(ふたり)のうち(いづれ)(ちち)(こころ)()しし』(かれ)らいふ『(のち)(もの)なり』イエス()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、取税人(しゅぜいにん)遊女(あそびめ)とは(なんぢ)らに(さき)だちて(かみ)(くに)()るなり。 32それヨハネ()(みち)をもて(きた)りしに、(なんぢ)らは(かれ)(しん)ぜず、取税人(しゅぜいにん)遊女(あそびめ)とは(しん)じたり。(しか)るに(なんぢ)らは(これ)()(のち)も、なほ悔改(くいあらた)めずして(しん)ぜざりき。
33また(ひと)つの(たとへ)()け、ある家主(いへあるじ)葡萄園(ぶだうぞの)をつくりて(まがき)をめぐらし、(なか)酒槽(さかぶね)()り、(やぐら)()て、農夫(のうふ)どもに()して(とほ)旅立(たびだち)せり。 34果期(みのりどき)ちかづきたれば、その()受取(うけと)らんとて(しもべ)らを農夫(のうふ)どもの(もと)(つかは)ししに、 35農夫(のうふ)どもその(しもべ)らを(とら)へて、一人(ひとり)()ちたたき、一人(ひとり)をころし、一人(ひとり)(いし)にて()てり。 36(また)ほかの(しもべ)らを(まへ)よりも(おほ)(つかは)ししに、(これ)をも(おな)じやうに()へり。 37「わが()(うやま)ふならん」と()ひて、(つひ)にその()(つかは)ししに、 38農夫(のうふ)ども()()()(たがひ)()ふ「これは世嗣(よつぎ)なり、いざ(ころ)して、その嗣業(しげふ)()らん」 39かくて(これ)をとらへ、葡萄園(ぶだうぞの)(そと)()(いだ)して(ころ)せり。 40さらば葡萄園(ぶだうぞの)主人(あるじ)きたる(とき)、この農夫(のうふ)どもに(なに)()さんか』 41かれら()ふ『その惡人(あくにん)どもを()くまで(ほろぼ)し、果期(みのりどき)におよびて()(をさ)むる(ほか)農夫(のうふ)どもに葡萄園(ぶだうぞの)()(あた)ふべし』 42イエス()ひたまふ『聖書(せいしょ)に、
造家者(いへつくり)らの()てたる(いし)は、
これぞ(すみ)首石(おやいし)となれる、
これ(しゅ)によりて()れるにて、
(われ)らの()には(くす)しきなり」
とあるを(なんぢ)(いま)()まぬか。 43この(ゆゑ)(なんぢ)らに()ぐ、(なんぢ)らは(かみ)(くに)をとられ、()()(むす)國人(くにびと)は、(これ)(あた)へらるべし。 44この(いし)(うへ)(たふ)るる(もの)はくだけ、(また)この(いし)(ひと)のうへに(たふ)るれば、()(ひと)微塵(みじん)とせん』 45祭司長(さいしちゃう)・パリサイ(びと)ら、イエスの(たとへ)をきき、(おのれ)らを()して(かた)(たま)へるを(さと)り、 46イエスを(とら)へんと(おも)へど群衆(ぐんじゅう)(おそ)れたり、群衆(ぐんじゅう)かれを預言者(よげんしゃ)とするに()る。

第二十二章

1イエスまた(たとへ)をもて(こた)へて()(たま)2天國(てんこく)(おの)()のために婚筵(こんえん)(まう)くる(わう)のごとし。 3婚筵(こんえん)(まね)きおきたる人々(ひとびと)(むか)へんとて(しもべ)どもを(のこ)ししに、(きた)るを(うけが)はず。 4(また)ほかの(しもべ)どもを(つかは)すとて()ふ「(まね)きたる人々(ひとびと)()げよ、()よ、晝餐(ひるげ)(すで)(そなは)りたり。()(うし)()えたる(けもの)(ほふ)られて、(すべ)ての(もの)(そなは)りたれば、婚筵(こんえん)(きた)れと」 5(しか)るに人々(ひとびと)(かへり)みずして、(ある)(もの)(おの)(はた)に、(ある)(もの)(おの)商賣(あきなひ)()けり。 6また(ほか)(もの)(しもべ)(とら)へて、(はづか)しめかつ(ころ)したれば、 7(わう)(いか)りて軍勢(ぐんぜい)(つかは)し、かの兇行者(きゃうかうしゃ)(ほろぼ)して()(まち)()きたり。 8かくて(しもべ)どもに()ふ「婚筵(こんえん)(すで)(そなは)りたれど、(まね)きたる(もの)どもは相應(ふさは)しからず。 9されば(なんぢ)(ちまた)()きて、()ふほどの(もの)婚筵(こんえん)(まね)け」 10(しもべ)ども(みち)()でて、()きも()しきも()ふほどの(もの)をみな(あつ)めたれば、婚禮(こんれい)(せき)(きゃく)にて滿()てり。 11(わう)(きゃく)()んとて()(きた)り、一人(ひとり)禮服(れいふく)()けぬ(もの)あるを()て、 12(これ)()ふ「(とも)よ、如何(いか)なれば禮服(れいふく)()けずして此處(ここ)()りたるか」かれ(もく)しゐたり。 13ここに(わう)侍者(じしゃ)らに()ふ「その()(あし)(しば)りて(そと)暗黒(くらき)()げいだせ、其處(そこ)にて哀哭(なげき)切齒(はがみ)することあらん」 14それ(まね)かるる(もの)(おほ)かれど、(えら)ばるる(もの)(すくな)し』
15ここにパリサイ(びと)()でて、如何(いか)にしてかイエスを(ことば)(わな)()けんと(あひ)(はか)り、 16その弟子(でし)らをヘロデ(たう)(もの)どもと(とも)(のこ)して()はしむ『()よ、(われ)らは()る、なんじは(まこと)にして、(まこと)をもて(かみ)(みち)(をし)へ、かつ(たれ)をも(はばか)りたまふ(こと)なし、(ひと)外貌(うはべ)()(たま)はぬ(ゆゑ)なり。 17されば(われ)らに()げたまへ、(みつぎ)をカイザルに(をさ)むるは()きか、()しきか、如何(いか)(おも)ひたまふ』 18イエスその邪曲(よこしま)なるを()りて()ひたまふ『僞善者(ぎぜんしゃ)よ、なんぞ(われ)(こころ)むるか。 19(みつぎ)(かね)(われ)()せよ』(かれ)らデナリ(ひと)つを()(きた)る。 20イエス()(たま)ふ『これは(たれ)(かたち)、たれの(しるし)なるか』 21(かれ)()ふ『カイザルのなり』ここに(かれ)らに()(たま)ふ『さらばカイザルの(もの)はカイザルに、(かみ)(もの)(かみ)(をさ)めよ』 22(かれ)(これ)()きて(あや)しみ、イエスを(はな)れて()()けり。
23復活(よみがへり)なしといふサドカイ(びと)ら、その()みもとに(きた)()ひて()24()よ、モーセは「(ひと)もし()なくして()なば、()兄弟(きゃうだい)かれの(つま)(めと)りて、兄弟(きゃうだい)のために世嗣(よつぎ)()ぐべし」と()へり。 25(われ)らの(うち)七人(しちにん)兄弟(きゃうだい)ありしが、(あに)めとりて()に、世嗣(よつぎ)なくして()(つま)(おとうと)(のこ)したり。 26その()その(さん)より、その(しち)まで(みな)かくの(ごと)()し、 27最後(いやはて)にその(をんな)()にたり。 28されば復活(よみがへり)(とき)、その(をんな)七人(しちにん)のうち(たれ)(つま)たるべきか、(かれ)(みな)これを(つま)としたればなり』 29イエス(こた)へて()(たま)ふ『なんぢら聖書(せいしょ)をも(かみ)能力(ちから)をも()らぬ(ゆゑ)(あやま)れり。 30それ(ひと)よみがへりの(とき)は、(めと)らず(とつ)がず、(てん)()御使(みつかひ)たちの(ごと)し。 31死人(しにん)復活(よみがへり)()きては、(かみ)なんぢらに()げて、 32(われ)はアブラハムの(かみ)、イサクの(かみ)、ヤコブの(かみ)なり」と()(たま)へることを(いま)()まぬか。(かみ)()にたる(もの)(かみ)にあらず、()ける(もの)(かみ)なり』 33群衆(ぐんじゅう)これを()きて()(をしへ)(をどろ)けり。
34パリサイ(びと)ら、イエスのサドカイ(びと)らを(もだ)さしめ(たま)ひしことを()きて(あひ)(あつま)り、 35その(うち)なる一人(ひとり)教法師(けうはふし)、イエスを(こころ)むる(ため)()36()よ、律法(おきて)のうち(いづれ)誡命(いましめ)(おほい)なる』 37イエス()(たま)ふ『「なんぢ(こころ)(つく)し、精神(せいしん)(つく)し、(おもひ)(つく)して(しゅ)なる(なんぢ)(かみ)(あい)すべし」 38これは(おほい)にして第一(だいいち)誡命(いましめ)なり。 39第二(だいに)もまた(これ)にひとし「おのれの(ごと)くなんぢの(となり)(あい)すべし」 40律法(おきて)全體(ぜんたい)預言者(よげんしゃ)とは()(ふた)つの誡命(いましめ)()るなり』
41パリサイ(びと)らの(あつま)りたる(とき)、イエス(かれ)らに()ひて()(たま)42『なんぢらはキリストに()きて如何(いか)(おも)ふか、(たれ)()なるか』かれら()ふ『ダビデの()なり』 43イエス()(たま)ふ『さらばダビデ御靈(みたま)(かん)じて(なに)(ゆゑ)かれを(しゅ)(とな)ふるか。(いは)
44(しゅ)わが(しゅ)()(たま)ふ、
われ(なんぢ)(てき)(なんぢ)(あし)(した)()くまでは、
()(みぎ)()せよ」
45()くダビデ(かれ)(しゅ)(とな)ふれば、(いか)でその()ならんや』 46(たれ)一言(ひとこと)だに(こた)ふること(あた)はず、その()より()へて(また)イエスに()(もの)なかりき。

第二十三章

1ここにイエス群衆(ぐんじゅう)弟子(でし)たちとに(かた)りて()(たま)ふ、 2學者(がくしゃ)とパリサイ(びと)とはモーセの()()む。 3されば(すべ)てその()(ところ)(まも)りて(おこな)へ、されどその所作(しわざ)には(なら)ふな、(かれ)らは()ふのみにて(おこな)はぬなり。 4また(おも)()(くく)りて(ひと)(かた)にのせ、(おのれ)(ゆび)にて(これ)(うご)かさんともせず。 5(すべ)てその所作(しわざ)(ひと)()られん(ため)にするなり。(すなは)ちその經札(きゃうふだ)(はば)ひろくし、(ころも)(ふさ)(おほき)くし、 6饗宴(ふるまひ)上席(じゃうせき)會堂(くわいだう)上座(じゃうざ)7市場(いちば)にての敬禮(けいれい)、また(ひと)にラビと()ばるることを(この)む。 8されど(なんぢ)らはラビの(となへ)()くな、(なんぢ)らの()一人(ひとり)にして、(なんぢ)()はみな兄弟(きゃうだい)なり。 9()にある(もの)(ちち)()ぶな、(なんぢ)らの(ちち)一人(ひとり)、すなはち(てん)(いま)(もの)なり。 10また導師(だうし)(となへ)()くな、(なんぢ)らの導師(だうし)はひとり、(すなは)ちキリストなり。 11(なんぢ)()のうち(おほい)なる(もの)は、(なんぢ)らの役者(えきしゃ)とならん。 12(おほよ)そおのれを(たか)うする(もの)(ひく)うせられ、(おのれ)(ひく)うする(もの)(たか)うせらるるなり。
13禍害(わざはひ)なるかな、僞善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)、パリサイ(びと)よ、なんぢらは(ひと)(まへ)天國(てんこく)(とざ)して(みづか)()らず、()らんとする(ひと)()るをも(ゆる)さぬなり。 14[なし] 15禍害(わざはひ)なるかな、僞善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)、パリサイ(びと)よ、(なんぢ)らは一人(ひとり)改宗者(かいしゅうしゃ)()んために(うみ)(をか)()めぐり、(すで)()れば、(これ)(おのれ)(ばい)したるゲヘナの()となすなり。
16禍害(わざはひ)なるかな、盲目(めしひ)なる手引(てびき)よ、なんぢらは()ふ「(ひと)もし(みや)()して(ちか)はば(こと)なし、(みや)黄金(こがね)()して(ちか)はば(はた)さざるべからず」と。 17(おろか)にして盲目(めしひ)なる(もの)よ、黄金(こがね)黄金(こがね)(せい)ならしむる(みや)とは(いづれ)(たふと)き。 18なんぢら(また)いふ「(ひと)もし祭壇(さいだん)()して(ちか)はば(こと)なし、()(うへ)供物(そなへもの)()して(ちか)はば(はた)さざるべからず」と。 19盲目(めしひ)なる(もの)よ、供物(そなへもの)供物(そなへもの)(せい)ならしむる祭壇(さいだん)とは(いづれ)(たふと)き。 20されば祭壇(さいだん)()して(ちか)(もの)は、祭壇(さいだん)とその(うへ)(すべ)ての(もの)とを()して(ちか)ふなり。 21(みや)()して(ちか)(もの)は、(みや)とその(うち)()みたまふ(もの)とを()して(ちか)ふなり。 22また(てん)()して(ちか)(もの)は、(かみ)御座(みくら)とその(うへ)()したまふ(もの)とを()して(ちか)ふなり。
23禍害(わざはひ)なるかな、僞善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)、パリサイ(びと)よ、(なんぢ)らは薄荷(はくか)蒔蘿(いのんど)・クミンの十分(じふぶん)(いち)(をさ)めて、律法(おきて)(うち)にて(もっと)(おも)公平(こうへい)憐憫(あはれみ)忠信(ちうしん)とを等閑(なほざり)にす。されど(これ)(おこな)ふべきものなり、(しか)して、(かれ)もまた等閑(なほざり)にすべきものならず。 24盲目(めしひ)なる手引(てびき)よ、(なんぢ)らは(ぶよ)()(いだ)して駱駝(らくだ)()むなり。
25禍害(わざはひ)なるかな、僞善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)、パリサイ(びと)よ、(なんぢ)らは酒杯(さかづき)(さら)との(そと)(きよ)くす、されど(うち)貪慾(どんよく)放縱(はうじゅう)とにて滿()つるなり。 26盲目(めしひ)なるパリサイ(びと)よ、(なんぢ)まづ酒杯(さかづき)(うち)(きよ)めよ、さらば(そと)(きよ)くなるべし。
27禍害(わざはひ)なるかな、僞善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)、パリサイ(びと)よ、(なんぢ)らは(しろ)()りたる(はか)()たり、(そと)(うるわ)しく()ゆれども、(うち)死人(しにん)(ほね)とさまざまの(けがれ)とにて滿()つ。 28かくのごとく(なんぢ)らも(そと)(ひと)(ただ)しく()ゆれども、(うち)僞善(ぎぜん)不法(ふはふ)とにて滿()つるなり。
29禍害(わざはひ)なるかな、僞善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)、パリサイ(びと)よ、(なんぢ)らは預言者(よげんしゃ)(はか)をたて、義人(ぎじん)()(かざ)りて()ふ、 30(われ)らもし先祖(せんぞ)(とき)にありしならば、預言者(よげんしゃ)()(なが)すことに(くみ)せざりしものを」と。 31かく(なんぢ)らは預言者(よげんしゃ)(ころ)しし(もの)()たるを(みづか)(あかし)す。 32なんぢら(おの)先祖(せんぞ)桝目(ますめ)(みた)せ。 33(へび)よ、(まむし)(すゑ)よ、なんぢら(いか)でゲヘナの刑罰(けいばつ)()()んや。 34この(ゆゑ)()よ、(われ)なんぢらに預言者(よげんしゃ)智者(ちしゃ)學者(がくしゃ)らを(つかは)さんに、()(うち)(ある)(もの)(ころ)し、十字架(じふじか)につけ、(ある)(もの)(なんぢ)らの會堂(くわいだう)にて(むち)うち、(まち)より(まち)()(くる)しめん。 35(これ)によりて義人(ぎじん)アベルの()より、聖所(せいじょ)祭壇(さいだん)との(あひだ)にて(なんぢ)らが(ころ)ししバラキヤの()ザカリヤの()(いた)るまで、地上(ちじゃう)にて(なが)したる(ただ)しき()は、(みな)なんぢらに(むく)(きた)らん。 36まことに(なんぢ)らに()ぐ、これらの(こと)はみな(いま)()(むく)(きた)るべし。
37ああエルサレム、エルサレム、預言者(よげんしゃ)たちを(ころ)し、(つかは)されたる人々(ひとびと)(いし)にて()(もの)よ、牝鷄(めんどり)のその(ひな)(つばさ)(した)(あつ)むるごとく、(われ)なんぢの()どもを(あつ)めんとせしこと幾度(いくたび)ぞや、されど(なんぢ)らは(この)まざりき。 38()よ、(なんぢ)らの(いへ)()てられて(なんぢ)らに(のこ)らん。 39われ(なんぢ)らに()ぐ「()むべきかな、(しゅ)()によりて(きた)(もの)」と、(なんぢ)()のいふ(とき)(いた)るまでは、(いま)より(われ)()ざるべし』

第二十四章

1イエス(みや)()でてゆき(たま)ふとき、弟子(でし)たち(みや)建造物(たてもの)(しめ)さんとて御許(みもと)(きた)りしに、 2(こた)へて()(たま)ふ『なんぢら()一切(すべて)(もの)()ぬか。(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、此處(ここ)(ひと)つの(いし)(くづ)されずしては(いし)(うへ)(のこ)らじ』
3オリブ(やま)()(たま)ひしとき、弟子(でし)たち(ひそか)御許(みもと)(きた)りて()ふ『われらに()(たま)へ、これらの(こと)何時(いつ)あるか、(また)なんぢの(きた)(たま)ふと()(をはり)とには、(なに)(しるし)あるか』 4イエス(こた)へて()(たま)ふ『なんぢら(ひと)(まどは)されぬやうに(こころ)せよ。 5(おほ)くの(もの)わが()(をか)(きた)り「(われ)はキリストなり」と()ひて(おほ)くの(ひと)(まどは)さん。 6(また)なんぢら戰爭(いくさ)戰爭(いくさ)(うはさ)とを()かん、(つつし)みて(おそ)るな。かかる(こと)はあるべきなり、されど(いま)(をはり)にはあらず。 7(すなは)ち「(たみ)(たみ)に、(くに)(くに)(さから)ひて()たん」また處々(ところどころ)饑饉(ききん)地震(ぢしん)とあらん、 8(これ)()はみな(うみ)苦難(くるしみ)(はじめ)なり。 9そのとき人々(ひとびと)なんぢらを患難(なやみ)(わた)し、また(ころ)さん、(なんぢ)()わが()(ため)に、もろもろの國人(くにびと)(にく)まれん。 10その(とき)おほくの(ひと)つまづき、(かつ)たがひに(わた)し、(たがひ)(にく)まん。 11(おほ)くの(にせ)預言者(よげんしゃ)おこりて、(おほ)くの(ひと)(まどは)さん。 12また不法(ふはふ)()すによりて、(おほ)くの(ひと)(あい)ひややかにならん。 13されど(をはり)まで()へしのぶ(もの)(すく)はるべし。 14御國(みくに)のこの福音(ふくいん)は、もろもろの國人(くにびと)(あかし)をなさんため全世界(ぜんせかい)宣傅(のべつた)へられん、(しか)してのち(をはり)(いた)るべし。
15なんぢら預言者(よげんしゃ)ダニエルによりて()はれたる「(あら)(にく)むべき(もの)」の(せい)なる(ところ)()つを()ば(()(もの)さとれ) 16その(とき)ユダヤに()(もの)どもは(やま)(のが)れよ。 17()(うへ)()(もの)はその(いへ)(もの)()(いだ)さんとして(くだ)るな。 18(はた)にをる(もの)上衣(うはぎ)()らんとて(かへ)るな。 19その()には(みごも)りたる(もの)(ちち)()まする(もの)とは禍害(わざはひ)なるかな。 20(なんぢ)らの()ぐることの(ふゆ)または安息(あんそく)(にち)(おこ)らぬように(いの)れ。 21そのとき(おほい)なる患難(なやみ)あらん、()(はじめ)より(いま)(いた)るまでかかる患難(なやみ)はなく、また(のち)にも()からん。 22その()もし(すくな)くせられずば、一人(ひとり)だに(すく)はるる(もの)なからん、されど選民(せんみん)(ため)にその()(すくな)くせらるべし。 23その(とき)あるひは「()よ、キリスト此處(ここ)にあり」(あるひ)は「此處(ここ)にあり」と()(もの)ありとも(しん)ずな。 24(にせ)キリスト・(にせ)預言者(よげんしゃ)おこりて、(おほい)なる(しるし)不思議(ふしぎ)とを(あらは)し、()()べくば選民(せんみん)をも(まどは)さんとするなり。 25()よ、あらかじめ(これ)(なんぢ)らに()げおくなり。 26されば(ひと)もし(なんぢ)らに「()よ、(かれ)荒野(あらの)にあり」といふとも()()くな「()よ、(かれ)部屋(へや)にあり」と()ふとも(しん)ずな。 27電光(いなづま)(ひがし)より()でて西(にし)にまで(ひらめ)きわたる(ごと)く、(ひと)()(きた)るも(また)(しか)らん。 28それ死骸(しがい)のある(ところ)には(わし)あつまらん。
29これらの()患難(なやみ)ののち(ただ)ちに()(くら)く、(つき)(ひかり)(はな)たず、(ほし)(そら)より()ち、(てん)萬象(ばんしゃう)ふるひ(うご)かん。 30そのとき(ひと)()(しるし)(てん)(あらは)れん。そのとき地上(ちじゃう)諸族(しょぞく)みな(なげ)き、かつ(ひと)()能力(ちから)(おほい)なる榮光(えいくわう)とをもて、(てん)(くも)()(きた)るを()ん。 31また(かれ)使(つかひ)たちを(おほい)なるラッパの(こゑ)とともに(つかは)さん。使(つかひ)たちは(てん)()(はて)より()(はて)まで、四方(しはう)より選民(せんみん)(あつ)めん。
32無花果(いちぢく)()よりの(たとへ)をまなべ、その(えだ)すでに(やはら)かくなりて()()ぐめば、(なつ)(ちか)きを()る。 33かくのごとく(なんぢ)らも(これ)()のすべての(こと)()ば、(ひと)()すでに(ちか)づきて門邊(かどべ)(いた)るを()れ。 34(まこと)(なんぢ)らに()ぐ、これらの(こと)ことごとく()るまで、(いま)()()()くまじ。 35(てん)()()ぎゆかん、されど()(ことば)()()くことなし。 36その()その(とき)()(もの)なし、(てん)使(つかひ)たちも()らず、()()らず、ただ(ちち)のみ()(たま)ふ。 37ノアの(とき)のごとく(ひと)()(きた)るも(しか)あるべし。 38(かつ)洪水(こうずゐ)(まへ)ノア方舟(はこぶね)()()までは、人々(ひとびと)()()ひ、(めと)(とつ)がせなどし、 39洪水(こうずゐ)(きた)りて(ことご)とく(ほろび)すまでは()らざりき、(ひと)()(きた)るも(しか)あるべし。 40そのとき二人(ふたり)(をとこ)(はた)にをらんに、一人(ひとり)()られ一人(ひとり)(のこ)されん。 41二人(ふたり)(をんな)(うす)ひき()らんに、一人(ひとり)()られ一人(ひとり)(のこ)されん。 42されば()(さま)しをれ、(なんぢ)らの(しゅ)のきたるは、(いづ)れの()なるかを()らざればなり。 43(なんぢ)()これを()れ、家主(いへあるじ)もし盜人(ぬすびと)いづれの(とき)きたるかを()らば、()をさまし()て、その(いへ)穿(うが)たすまじ。 44この(ゆゑ)(なんぢ)らも(そな)へをれ、(ひと)()(おも)はぬ(とき)(きた)ればなり。 45主人(しゅじん)(とき)(およ)びて食物(しょくもつ)(あた)へさする(ため)に、(いへ)(もの)のうへに()てたる忠實(まめやか)にして(さと)(しもべ)(たれ)なるか。 46主人(しゅじん)のきたる(とき)、かく()()るを()らるる(しもべ)幸福(さいはひ)なり。 47まことに(なんぢ)らに()ぐ、主人(しゅじん)すべての所有(もちもの)(かれ)(つかさ)どらすべし。 48もしその(しもべ)()しくして、(こころ)のうちに主人(しゅじん)(おそ)しと(おも)ひて、 49その同輩(どうはい)(たた)きはじめ、酒徒(さけのみ)らと飮食(のみくひ)(とも)にせば、 50その(しもべ)主人(しゅじん)おもはぬ()しらぬ(とき)(きた)りて、 51(これ)(はげ)しく(しもと)うち、その(むくい)僞善者(ぎぜんしゃ)(おな)じうせん。其處(そこ)にて哀哭(なげき)切齒(はがみ)することあらん。

第二十五章

1このとき天國(てんこく)は、燈火(ともしび)()りて新郎(はなむこ)(むか)へに()づる、(じふ)(にん)處女(をとめ)(なずら)ふべし。 2その(うち)()(にん)(おろか)にして()(にん)(さと)し。 3(おろか)なる(もの)燈火(ともしび)をとりて(あぶら)(たづさ)へず、 4(さと)きものは(あぶら)(うつは)()れて燈火(ともしび)とともに(たづさ)へたり。 5新郎(はなむこ)(おそ)かりしかば、(みな)まどろみて()ぬ。 6夜半(よなか)に「やよ、新郎(はなむこ)なるぞ、()(むか)へよ」と(よば)はる(こゑ)す。 7ここに處女(をとめ)みな()きてその燈火(ともしび)(ととの)へたるに、 8(おろか)なる(もの)(さと)きものに()ふ「なんぢらの(あぶら)()けあたへよ、(われ)らの燈火(ともしび)きゆるなり」 9(さと)きもの(こた)へて()ふ「(おそ)らくは(われ)らと(なんぢ)らとに()るまじ、(むし)()るものに()きて(おの)がために()へ」 10(かれ)()はんとて()きたる()新郎(はなむこ)きたりたれば、(そな)へをりし(もの)どもは(かれ)とともに婚筵(こんえん)にいり、(しか)して(もん)(とざ)されたり。 11その(のち)かの(ほか)處女(をとめ)ども(きた)りて「(しゅ)よ、(しゅ)よ、われらの(ため)にひらき(たま)へ」と()ひしに、 12(こた)へて「まことに(なんぢ)らに()ぐ、(われ)(なんぢ)らを()らず」と()へり。 13されば()(さま)しをれ、(なんぢ)らは()()その(とき)()らざるなり。
14また(ある)(ひと)とほく旅立(たびだち)せんとして、()(しもべ)どもを()び、(これ)(おの)所有(もちもの)(あづ)くるが(ごと)し。 15各人(おのおの)能力(ちから)(おう)じて、(ある)(もの)には()タラント、(ある)(もの)には()タラント、(ある)(もの)には(いち)タラントを(あた)()きて旅立(たびだち)せり。 16()タラントを()けし(もの)は、(ただ)ちに()き、(これ)をはたらかせて(ほか)()タラントを(まう)け、 17()タラントを()けし(もの)(おな)じく(ほか)()タラントを(まう)く。 18(しか)るに(いち)タラントを()けし(もの)は、()きて()()り、その主人(しゅじん)(かね)をかくし()けり。 19(ひさ)しうして(のち)この(しもべ)どもの主人(しゅじん)きたりて(かれ)らと計算(けいさん)したるに、 20()タラントを()けし(もの)(ほか)()タラントを()ちきたりて()ふ「(しゅ)よ、なんぢ(われ)()タラントを(あづ)けたりしが、()よ、(ほか)()タラントを(まう)けたり」 21主人(しゅじん)いふ「()いかな、(ぜん)かつ(ちゅう)なる(しもべ)、なんぢは(わづか)なる(もの)(ちゅう)なりき。(われ)なんぢに(おほ)くの(もの)(つかさ)どらせん、(なんぢ)主人(しゅじん)勸喜(よろこび)()れ」 22()タラントを()けし(もの)(きた)りて()ふ「(しゅ)よ、なんぢ(われ)()タラントを(あづ)けたりしが、()よ、(ほか)()タラントを(まう)けたり」 23主人(しゅじん)いふ「()いかな、(ぜん)かつ(ちゅう)なる(しもべ)、なんぢは(わづか)なる(もの)(ちゅう)なりき。(われ)なんぢに(おほ)くの(もの)(つかさ)どらせん、(なんぢ)主人(しゅじん)勸喜(よろこび)にいれ」 24また(いち)タラントを()けし(もの)もきたりて()ふ「(しゅ)よ、(われ)はなんぢの(きび)しき(ひと)にて、()かぬ(ところ)より()り、()らさぬ(ところ)より(あつ)むることを()るゆゑに、 25(おそ)れてゆき、(なんぢ)のタラントを()(かく)しおけり。()よ、(なんぢ)はなんぢの(もの)()たり」 26主人(しゅじん)こたへて()ふ「()しくかつ(おこた)れる(しもべ)、わが()かぬ(ところ)より()り、(ちら)さぬ(ところ)より(あつ)むることを()るか。 27さらば()(かね)銀行(ぎんかう)にあづけ()くべかりしなり、(われ)きたりて利子(りし)とともに()(もの)をうけ()りしものを。 28されば(かれ)のタラントを()りて(じふ)タラントを()てる(ひと)(あた)へよ。 29すべて()てる(ひと)は、(あた)へられて愈々(いよいよ)(ゆたか)ならん。されど()たぬ(もの)は、その()てる(もの)をも()らるべし。 30(しか)して()()(えき)なる(しもべ)(そと)暗黒(くらき)()ひいだせ、其處(そこ)にて哀哭(なげき)切齒(はがみ)することあらん」
31(ひと)()その榮光(えいくわう)をもて、もろもろの御使(みつかひ)(ひき)ゐきたる(とき)、その榮光(えいくわう)座位(くらゐ)()せん。 32かくてその(まへ)にもろもろの國人(くにびと)あつめられん、(これ)(わか)つこと牧羊者(ひつじかい)(ひつじ)山羊(やぎ)とを(わか)(ごと)くして、 33(ひつじ)をその(みぎ)に、山羊(やぎ)をその(ひだり)におかん。 34ここに(わう)その(みぎ)にをる(もの)どもに()はん「わが(ちち)(しく)せられたる(もの)よ、(きた)りて()(はじめ)より(なんぢ)()のために(そな)へられたる(くに)()げ。 35なんぢら()()ゑしときに(くら)はせ、(かわ)きしときに()ませ、旅人(たびびと)なりし(とき)宿(やど)らせ、 36(はだか)なりしときに()せ、()みしときに(とぶら)ひ、(ひとや)()りしときに(きた)りたればなり」 37ここに、(ただ)しき(もの)(こた)へて()はん「(しゅ)よ、何時(いつ)なんぢの()ゑしを()(くら)はせ、(かわ)きしを()()ませし。 38何時(いつ)なんぢの旅人(たびびと)なりしを()宿(やど)らせ、(はだか)なりしを()(ころも)せし。 39何時(いつ)なんぢの()みまた(ひとや)()りしを()て、(なんぢ)にいたりし」 40(わう)こたへて()はん「まことに(なんぢ)らに()ぐ、わが兄弟(きゃうだい)なる(これ)()のいと(ちひさ)(もの)一人(ひとり)になしたるは、(すなは)(われ)()したるなり」 41かくてまた(ひだり)にをる(もの)どもに()はん「(のろ)はれたる(もの)よ、(われ)(はな)れて惡魔(あくま)とその使(つかひ)らとのために(そな)へられたる永遠(とこしへ)()()れ。 42なんぢら()()ゑしときに(くら)はせず、(かわ)きしときに()ませず、 43旅人(たびびと)なりしときに宿(やど)らせず、(はだか)なりしときに()せず、()みまた(ひとや)にありしときに(とぶら)はざればなり」 44ここに(かれ)らも(こた)へて()はん「(しゅ)よ、いつ(なんぢ)()ゑ、(あるひ)(かわ)き、(あるひ)旅人(たびびと)、あるひは(はだか)、あるひは()み、(あるひ)(ひとや)()りしを()(つか)へざりし」 45ここに(わう)こたへて()はん「(まこと)になんぢらに()ぐ、(これ)()のいと(ちひさ)きものの一人(ひとり)()さざりしは、(すなは)(われ)になさざりしなり」と。 46かくて、これらの(もの)()りて永遠(とこしへ)刑罰(けいばつ)にいり、(ただ)しき(もの)永遠(とこしへ)生命(いのち)()らん』

第二十六章

1イエスこれらの(ことば)をみな(かた)りをへて、弟子(でし)たちに()(たま)2『なんぢらの()るごとく、二日(ふつか)(のち)過越(すぎこし)(まつり)なり、(ひと)()十字架(じふじか)につけられん(ため)()らるべし』 3そのとき祭司長(さいしちゃう)(たみ)長老(ちゃうらう)ら、カヤパといふ(だい)祭司(さいし)中庭(なかには)(あつま)り、 4詭計(たばかり)をもてイエスを(とら)へ、かつ(ころ)さんと(あひ)(はか)りたれど、 5(また)いふ『まつりの(あひだ)()すべからず、(おそ)らくは(たみ)(うち)(らん)(おこ)らん』
6イエス、ベタニヤにて癩病人(らいびゃうにん)シモンの(いへ)居給(ゐたま)(とき)7ある(をんな)石膏(せきかう)(つぼ)()りたる(たふと)(にほひ)(あぶら)()ちて、(ちか)づき(きた)り、食事(しょくじ)(せき)()居給(ゐたま)ふイエスの(かうべ)(そそ)げり。 8弟子(でし)たち(これ)()(いきど)ほり()ふ『(なに)(ゆゑ)かく(みだり)なる(つひえ)をなすか。 9(これ)(おほ)くの(かね)()りて、(まづ)しき(もの)(ほどこ)すことを()たりしものを』 10イエス(これ)()りて()ひたまふ『(なに)ぞこの(をんな)(なやま)すか、(われ)()(こと)をなせるなり。 11(まづ)しき(もの)(つね)(なんぢ)らと(とも)にをれど、(われ)(つね)(とも)()らず。 12この(をんな)()(からだ)(にほひ)(あぶら)(そそ)ぎしは、わが(はうむ)りの(そなへ)をなせるなり。 13まことに(なんぢ)らに()ぐ、全世界(ぜんせかい)いずこにても、この福音(ふくいん)宣傅(のべつた)へらるる(ところ)には、この(をんな)のなしし(こと)記念(きねん)として(かた)らるべし』
14ここに十二(じふに)弟子(でし)一人(ひとり)イスカリオテのユダといふ(もの)祭司長(さいしちゃう)らの(もと)にゆきて()15『なんぢらに(かれ)(わた)さば、(なに)ほど(われ)(あた)へんとするか』(かれ)(ぎん)三十(さんじふ)(はか)(いだ)せり。 16ユダこの(とき)よりイエスを(わた)さんと()(をり)(うかが)ふ。
17除酵祭(じょかうさい)(はじめ)()弟子(でし)たちイエスに(きた)りて()ふ『過越(すぎこし)(しょく)をなし(たま)ふために、何處(いづこ)(われ)らが(そな)ふる(こと)(のぞ)(たま)ふか』 18イエス()ひたまふ『(みやこ)にゆき、(それがし)のもとに(いた)りて「()いふ、わが(とき)(ちか)づけり。われ弟子(でし)たちと(とも)過越(すぎこし)(なんぢ)(いへ)にて(まも)らん」と()へ』 19弟子(でし)たちイエスの(めい)(たま)ひし(ごと)くして、過越(すぎこし)(そなへ)をなせり。 20()()れて十二(じふに)弟子(でし)とともに(せき)()きて、 21(しょく)するとき()(たま)ふ『まことに(なんぢ)らに()ぐ、(なんぢ)らの(うち)一人(ひとり)われを()らん』 22弟子(でし)たち(いた)(うれ)ひて、おのおの『(しゅ)よ、(われ)なるか』と()ひいでしに、 23(こた)へて()ひたまふ『(われ)とともに()(はち)()るる(もの)われを()らん。 24(ひと)()(おのれ)()きて(しる)されたる(ごと)()くなり。されど(ひと)()()(もの)禍害(わざはひ)なるかな、その(ひと)(うま)れざりし(かた)よかりしものを』 25イエスを()るユダ(こた)へて()ふ『ラビ、(われ)なるか』イエス()(たま)ふ『なんぢの()へる(ごと)し』 26(かれ)(しょく)しをる(とき)、イエス、パンをとり、(しく)してさき、弟子(でし)たちに(あた)へて()(たま)ふ『()りて(くら)へ、これは()(からだ)なり』 27また酒杯(さかづき)をとりて(しゃ)し、(かれ)らに(あた)へて()(たま)ふ『なんぢら(みな)この酒杯(さかづき)より()め。 28これは契約(けいやく)のわが()なり、(おほ)くの(ひと)のために、(つみ)(ゆるし)()させんとて(なが)(ところ)のものなり。 29われ(なんぢ)らに()ぐ、わが(ちち)(くに)にて(あたら)しきものを(なんぢ)らと(とも)()()までは、われ(いま)より(のち)この葡萄(ぶだう)()より()るものを()まじ』
30(かれ)讃美(さんび)(うた)ひて(のち)オリブ(やま)()でゆく。
31ここにイエス弟子(でし)たちに()(たま)ふ『今宵(こよひ)なんぢら(みな)われに()きて(つまづ)かん「われ牧羊者(ひつじかい)()たん、さらば(むれ)(ひつじ)()るべし」と(しる)されたるなり。 32されど(われ)よみがへりて(のち)、なんぢらに(さき)だちてガリラヤに()かん』 33ペテロ(こた)へて()ふ『假令(たとひ)みな(なんぢ)()きて(つまづ)くとも(われ)はいつまでも(つまづ)かじ』 34イエス()(たま)ふ『まことに(なんぢ)()ぐ、こよひ(にはとり)()(まへ)に、なんぢ()たび(われ)(いな)むべし』 35ペテロ()ふ『(われ)なんぢと(とも)()ぬべき(こと)ありとも(なんぢ)(いな)まず』弟子(でし)たち(みな)かく()へり。
36ここにイエス(かれ)らと(とも)にゲツセマネといふ(ところ)にいたりて、弟子(でし)たちに()(たま)ふ『わが彼處(かしこ)にゆきて(いの)(あひだ)、なんぢら此處(ここ)()せよ』 37かくてペテロとゼベダイの()二人(ふたり)とを(ともな)ひゆき、(うれ)(かな)しみ()でて()(たま)ふ、 38『わが(こころ)いたく(うれ)ひて()ぬばかりなり。(なんぢ)此處(ここ)(とどま)りて(われ)(とも)()(さま)しをれ』 39(すこ)(すす)みゆきて、平伏(ひれふ)(いの)りて()(たま)ふ『わが(ちち)よ、もし()べくば()酒杯(さかづき)(われ)より()()らせ(たま)へ。されど()(こころ)(まま)にとにはあらず、御意(みこころ)のままに()(たま)へ』 40弟子(でし)たちの(もと)にきたり、その(ねむ)れるを()てペテロに()(たま)ふ『なんぢら()(ひと)(とき)(われ)(とも)()(さま)()ること(あた)はぬか。 41誘惑(まどはし)(おちい)らぬやう、()(さま)しかつ(いの)れ。()(こころ)(ねつ)すれども肉體(にくたい)よわきなり』 42また二度(ふたたび)ゆき(いの)りて()(たま)ふ『わが(ちち)よ、この酒杯(さかづき)もし(われ)()までは()()りがたくば、御意(みこころ)のままに()(たま)へ』 43(また)きたりて(かれ)らの(ねむ)れるを()たまふ、(これ)その()(つか)れたるなり。 44また(はな)れゆきて、()たび(おな)(ことば)にて(いの)(たま)ふ。 45(しか)して弟子(でし)たちの(もと)(きた)りて()(たま)ふ『(いま)(ねむ)りて(やす)め。()よ、(とき)(ちか)づけり、(ひと)()罪人(つみびと)らの()(わた)さるるなり。 46()きよ、(われ)()くべし。()よ、(われ)()るもの(ちか)づけり』
47なほ(かた)(たま)ふほどに、()よ、十二(じふに)弟子(でし)一人(ひとり)なるユダ(きた)る、祭司長(さいしちゃう)(たみ)長老(ちゃうらう)らより(つかは)されたる(おほい)なる群衆(ぐんじゅう)(つるぎ)(ぼう)とをもちて(これ)(ともな)ふ。 48イエスを()(もの)あらかじめ合圖(あひづ)(しめ)して()ふ『わが接吻(くちつけ)する(もの)はそれなり、(これ)(とら)へよ』 49かくて(ただ)ちにイエスに(ちか)づき『ラビ、(やす)かれ』といひて接吻(くちつけ)したれば、 50イエス()ひたまふ『(とも)よ、(なに)とて(きた)る』このとき人々(ひとびと)すすみてイエスに()をかけて(とら)ふ。 51()よ、イエスと(とも)にありし(もの)のひとり、()をのべ(つるぎ)()きて、(だい)祭司(さいし)(しもべ)をうちて、その(みみ)()(おと)せり。 52ここにイエス(かれ)()(たま)ふ『なんぢの(つるぎ)をもとに(をさ)めよ、すべて(つるぎ)をとる(もの)(つるぎ)にて(ほろ)ぶるなり。 53(われ)わが(ちち)()ひて、十二(じふに)(ぐん)(あま)御使(みつかひ)(いま)あたへらるること(あた)はずと(おも)ふか。 54もし(しか)せば、()くあるべく(しる)したる聖書(せいしょ)はいかで成就(じゃうじゅ)すべき』 55この(とき)イエス群衆(ぐんじゅう)()(たま)ふ『なんぢら強盜(がうたう)(むか)ふごとく(つるぎ)(ぼう)とをもち、(われ)(とら)へんとて()(きた)るか。(われ)日々(ひび)(みや)()して(をし)へたりしに、(なんぢ)(われ)(とら)へざりき。 56されどかくの(ごと)くなるは、みな預言者(よげんしゃ)たちの(ふみ)成就(じゃうじゅ)せん(ため)なり』ここに弟子(でし)たち(みな)イエスを()てて()げさりぬ。
57イエスを(とら)へたる(もの)ども、學者(がくしゃ)長老(ちゃうらう)らの(あつま)()(だい)祭司(さいし)カヤパの(もと)()きゆく。 58ペテロ(とほ)(はな)れ、イエスに(したが)ひて(だい)祭司(さいし)中庭(なかには)まで(いた)り、その成行(なりゆき)()んとて、そこに()下役(したやく)どもと(とも)()せり。 59祭司長(さいしちゃう)らと(ぜん)議會(ぎくわい)と、イエスを()(さだ)めんとて、いつはりの證據(しょうこ)(もと)めたるに、 60(おほ)くの僞證者(ぎしょうしゃ)いでたれども()ず。(のち)二人(ふたり)(もの)いでて()61『この(ひと)は「われ(かみ)(みや)(こぼ)三日(みっか)にて()()べし」と()へり』 62(だい)祭司(さいし)たちてイエスに()ふ『この人々(ひとびと)(なんぢ)(たい)して()つる證據(しょうこ)(なに)をも(こた)へぬか』 63されどイエス(もだ)居給(ゐたま)ひたれば、(だい)祭司(さいし)いふ『われ(なんぢ)(めい)ず、()ける(かみ)(ちか)ひて(われ)らに()げよ、(なんぢ)はキリスト、(かみ)()なるか』 64イエス()(たま)ふ『なんぢの()へる(ごと)し。かつ(われ)なんぢらに()ぐ、(いま)より(のち)、なんぢら(ひと)()全能者(ぜんのうしゃ)(みぎ)()し、(てん)(くも)()りて(きた)るを()ん』 65ここに(だい)祭司(さいし)おのが(ころも)()きて()ふ『かれ瀆言(けがしごと)をいへり、(なに)(ほか)證人(しょうにん)(もと)めん。()よ、なんぢら(いま)この瀆言(けがしごと)をきけり。 66いかに(おも)ふか』(こた)へて()ふ『かれは()(あた)れり』 67ここに(かれ)()その御顏(みかほ)(つばき)し、(こぶし)にて()ち、(ある)(もの)どもは手掌(てのひら)にて(たた)きて()68『キリストよ、(われ)らに預言(よげん)せよ、(なんぢ)をうちし(もの)(たれ)なるか』
69ペテロ(そと)にて中庭(なかには)()しゐたるに、一人(ひとり)婢女(はしため)きたりて()ふ『なんぢもガリラヤ(ひと)イエスと(とも)にゐたり』 70かれ(すべ)ての(ひと)(まへ)(うけが)はずして()ふ『われは(なんぢ)()ふことを()らず』 71かくて(もん)まで()()きたるとき、(ほか)婢女(はしため)かれを()て、其處(そこ)にをる(もの)どもに(むか)ひて『この(ひと)はナザレ(びと)イエスと(とも)にゐたり』と()へるに、 72(かさ)ねて(うけが)はず、(ちか)ひて『(われ)はその(ひと)()らず』といふ。 73(しばら)くして其處(そこ)()(もの)ども(ちか)づきてペテロに()ふ『なんぢも(たしか)にかの黨與(ともがら)なり、(なんぢ)國訛(くになまり)なんぢを(あらは)せり』 74ここにペテロ(うけ)ひかつ(ちか)ひて『(われ)その(ひと)()らず』と()()づるをりしも、(にはとり)()きぬ。 75ペテロ『にはとり()(まへ)に、なんぢ三度(みたび)われを(いな)まん』と、イエスの()(たま)ひし御言(みことば)(おも)ひだし、(そと)()でて(いた)()けり。

第二十七章

1夜明(よあ)けになりて、(すべ)ての祭司長(さいしちゃう)(たみ)長老(ちゃうらう)ら、イエスを(ころ)さんと(あひ)(はか)り、 2(つひ)(これ)(しば)り、()きゆきて總督(そうとく)ピラトに(わた)せり。
3ここにイエスを()りしユダ、その()(さだ)められ(たま)ひしを()()い、祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)らに、かの三十(さんじふ)(ぎん)をかへして()ふ、 4『われ(つみ)なきの()()りて(つみ)(をか)したり』(かれ)らいふ『われら(なに)(あづか)らん、(なんぢ)みづから(あた)るべし』 5(かれ)その(ぎん)聖所(せいじょ)()げすてて()り、ゆきて(みづか)(くび)れたり。 6祭司長(さいしちゃう)らその(ぎん)をとりて()ふ『これは()(あたひ)なれば、(みや)(くら)(をさ)むるは()からず』 7かくて(あひ)(はか)り、その(ぎん)をもて陶工(すゑつくり)(はた)()ひ、旅人(たびびと)らの墓地(ぼち)とせり。 8(これ)によりて()(はた)は、(いま)(いた)るまで()(はた)(とな)へらる。 9ここに預言者(よげんしゃ)エレミヤによりて()はれたる(ことば)成就(じゃうじゅ)したり。(いは)く『かくて(かれ)値積(ねづも)られしもの、(すなは)ちイスラエルの()らが値積(ねづも)りし(もの)(あたひ)(ぎん)三十(さんじふ)をとりて、 10陶工(すゑつくり)(はた)(かわり)(これ)(あた)へたり。(しゅ)(われ)(めい)(たま)ひし(ごと)し』
11さてイエス、總督(そうとく)(まへ)()(たま)ひしに、總督(そうとく)()ひて()ふ『なんぢはユダヤ(びと)(わう)なるか』イエス()(たま)ふ『なんぢの()ふが(ごと)し』 12祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)(うった)ふれども、(なに)をも(こた)(たま)はず。 13ここにピラト(かれ)()ふ『()かぬか、(かれ)らが(なんぢ)(たい)して如何(いか)におほくの證據(しょうこ)()つるを』 14されど總督(そうとく)(いた)(あや)しむまで、一言(ひとこと)をも(こた)(たま)はず。 15(まつり)(とき)には、總督(そうとく)群衆(ぐんじゅう)(のぞみ)にまかせて、囚人(めしうど)一人(ひとり)(これ)(ゆる)(れい)あり。 16ここにバラバといふ(かく)れなき囚人(めしうど)あり。 17されば人々(ひとびと)(あつま)れる(とき)、ピラト()ふ『なんぢら()(たれ)(ゆる)さんことを(ねが)ふか。バラバなるか、キリストと(とな)ふるイエスなるか』 18これピラト(かれ)らのイエスを(わた)ししは(ねたみ)()ると()(ゆゑ)なり。 19(かれ)なほ審判(さばき)()にをる(とき)、その(つま)(ひと)(つかは)して()はしむ『かの義人(ぎじん)(かかは)ることを()な、(われ)けふ(ゆめ)(なか)にて(かれ)(ゆゑ)にさまざま(くる)しめり』 20祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)ら、群衆(ぐんじゅう)にバラバの(ゆる)されん(こと)()はしめ、イエスを(ほろぼ)さんことを(すす)む。 21總督(そうとく)こたへて(かれ)らに()ふ『二人(ふたり)(うち)いづれを()(ゆる)さん(こと)(ねが)ふか』(かれ)らいふ『バラバなり』 22ピラト()ふ『さらばキリストと(とな)ふるイエスを(われ)いかにすべきか』(みな)いふ『十字架(じふじか)につくべし』 23ピラト()ふ『かれ(なに)惡事(あくじ)をなしたるか』(かれ)(はげ)しく(さけ)びていふ『十字架(じふじか)につくべし』 24ピラトは(なに)(かひ)なく(かへ)つて(らん)にならんとするを()て、(みづ)をとり群衆(ぐんじゅう)のまへに()(あら)ひて()ふ『この(ひと)()につきて(われ)(つみ)なし、(なんぢ)()みづから(あた)れ』 25(たみ)みな(こた)へて()ふ『()()は、(われ)らと(われ)らの子孫(しそん)とに()すべし』 26ここにピラト、バラバを(かれ)らに(ゆる)し、イエスを(むち)うちて、十字架(じふじか)につくる(ため)(わた)せり。
27ここに總督(そうとく)兵卒(へいそつ)ども、イエスを官邸(くわんてい)につれゆき、(ぜん)(たい)御許(みもと)(あつ)め、 28その(ころも)をはぎて、緋色(ひいろ)上衣(うはぎ)をきせ、 29(いばら)冠冕(かんむり)()みて、その(かうべ)(かむ)らせ、(あし)(みぎ)()にもたせ、(かつ)その(まへ)(ひざま)づき、嘲弄(てうろう)して()ふ『ユダヤ(びと)(わう)(やす)かれ』 30また(これ)(つばき)し、かの(あし)をとりて()(かうべ)(たた)く。 31かく嘲弄(てうろう)してのち、上衣(うはぎ)()ぎて、(もと)(ころも)をきせ、十字架(じふじか)につけんとて()きゆく。
32その()づる(とき)、シモンといふクレネ(びと)にあひしかば、()ひて(これ)にイエスの十字架(じふじか)をおはしむ。 33かくてゴルゴタといふ(ところ)(すなは)髑髏(されかうべ)()にいたり、 34苦味(にがみ)()ぜたる葡萄酒(ぶだうしゅ)()ませんとしたるに、()めて、()まんとし(たま)はず。 35(かれ)らイエスを十字架(じふじか)につけてのち、(くじ)をひきて()(ころも)をわかち、 36(かつ)そこに()して、イエスを(まも)る。 37その(かうべ)(うへ)に『これはユダヤ(びと)(わう)イエスなり』と(しる)したる罪標(すてふだ)()きたり。 38ここにイエスとともに二人(ふたり)強盜(がうたう)十字架(じふじか)につけられ、一人(ひとり)はその(みぎ)に、一人(ひとり)はその(ひだり)におかる。 39往來(ゆきき)(もの)どもイエスを(そし)り、(かうべ)()りていふ、 40(みや)(こぼ)ちて三日(みっか)のうちに()つる(もの)よ、もし(かみ)()ならば(おのれ)(すく)へ、十字架(じふじか)より()りよ』 41祭司長(さいしちゃう)らもまた(おな)じく、學者(がくしゃ)長老(ちゃうらう)らとともに嘲弄(てうろう)して()ふ、 42(ひと)(すく)ひて(おのれ)(すく)ふこと(あた)はず。(かれ)はイスラエルの(わう)なり、いま十字架(じふじか)より()りよかし、さらば(われ)(かれ)(しん)ぜん。 43(かれ)(かみ)()(たの)めり、(かみ)かれを(いつく)しまば(いま)すくひ(たま)ふべし「(われ)(かみ)()なり」と()へり』 44ともに十字架(じふじか)につけられたる強盜(がうたう)どもも、(おな)(こと)をもてイエスを(ののし)れり。
45(ひる)十二(じふに)()より()(うへ)あまねく(くら)くなりて、三時(さんじ)(およ)ぶ。 46三時(さんじ)ごろイエス大聲(おほごゑ)(さけ)びて『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』と()(たま)ふ。わが(かみ)、わが(かみ)、なんぞ(われ)()()(たま)ひしとの(こころ)なり。 47そこに()(もの)のうち(ある)人々(ひとびと)これを()きて『(かれ)はエリヤを()ぶなり』と()ふ。 48(ただ)ちにその(うち)一人(ひとり)はしりゆきて海綿(うみわた)をとり、()葡萄酒(ぶだうしゅ)(ふく)ませ、(あし)につけてイエスに()ましむ。 49その(ほか)(もの)ども()ふ『まて、エリヤ(きた)りて(かれ)(すく)ふや(いな)や、(われ)(これ)()ん』 50イエス(ふたた)大聲(おほごゑ)(よば)はりて(いき)()えたまふ。 51()よ、聖所(せいじょ)(まく)(うへ)より(した)まで()けて(ふた)つとなり、また地震(ちふる)ひ、(いは)さけ、 52(はか)ひらけて、(ねむ)りたる聖徒(せいと)屍體(しかばね)おほく()きかへり、 53イエスの復活(よみがへり)ののち(はか)をいで、(せい)なる(みやこ)()りて、(おほ)くの(ひと)(あらは)れたり。 54百卒長(ひゃくそつちゃう)および(これ)(とも)にイエスを(まも)りゐたる(もの)ども、地震(ぢしん)とその()りし(こと)とを()(いた)(おそ)れ『()(かれ)(かみ)()なりき』と()へり。 55その(ところ)にて(はるか)(のぞ)みゐたる(おほ)くの(をんな)あり、イエスに(つか)へてガリラヤより(したが)(きた)りし(もの)どもなり。 56その(なか)には、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの(はは)マリヤ、(およ)びゼベダイの()らの(はは)などもゐたり。
57()()れて、ヨセフと()ふアリマタヤの()める(ひと)きたる。(かれ)もイエスの弟子(でし)なるが、 58ピラトに()きてイエスの屍體(しかばね)()ふ。ここにピラト(これ)(わた)すことを(めい)ず。 59ヨセフ屍體(しかばね)をとりて(きよ)亞麻(あま)(ぬの)につつみ、 60(いは)にほりたる(おの)(あたら)しき(はか)(をさ)め、(はか)入口(いりくち)(おほい)なる(いし)(まろば)しおきて()りぬ。 61其處(そこ)にはマグダラのマリヤと(ほか)のマリヤと(はか)(むか)ひて()しゐたり。
62あくる()(すなは)準備(そなへ)()翌日(よくじつ)祭司長(さいしちゃう)らとパリサイ(びと)らとピラトの(もと)(あつま)りて()ふ、 63(しゅ)よ、かの(まどは)すもの()()りし(とき)「われ三日(みっか)(のち)(よみが)へらん」と()ひしを、(われ)(おも)ひいだせり。 64されば(めい)じて三日(みっか)(いた)るまで(はか)(かた)めしめ(たま)へ、(おそ)らくはその弟子(でし)(きた)りて(これ)(ぬす)み、「(かれ)死人(しにん)(うち)より(よみが)へれり」と(たみ)()はん。(しか)らば(のち)(まどひ)(まへ)のよりも(はなは)だしからん』 65ピラト()ふ『なんぢらに番兵(ばんぺい)あり、()きて(ちから)(かぎ)(かた)めよ』 66(すなは)(かれ)らゆきて(いし)封印(ふういん)し、番兵(ばんぺい)()きて(はか)(かた)めたり。

第二十八章

1さて安息(あんそく)(にち)をはりて、一週(ひとまはり)(はじめ)()のほの(あか)(ころ)、マグダラのマリヤと(ほか)のマリヤと(はか)()んとて(きた)りしに、 2()よ、(おほい)なる地震(ぢしん)あり、これ(しゅ)使(つかひ)(てん)より(くだ)(きた)りて、かの(いし)(まろば)退(しりぞ)け、その(うへ)()したるなり。 3その(さま)電光(いなづま)のごとく(かがや)き、その(ころも)(ゆき)のごとく(しろ)し。 4(まもり)(もの)ども(かれ)(おそ)れたれば、(おのの)きて死人(しにん)(ごと)くなりぬ。 5御使(みつかひ)こたへて(をんな)たちに()ふ『なんぢら(おそ)るな、(われ)なんぢらが十字架(じふじか)につけられ(たま)ひしイエスを(たづ)ぬるを()る。 6此處(ここ)には(いま)さず、その()へる(ごと)(よみが)へり(たま)へり。(きた)りてその()かれ(たま)ひし(ところ)()よ。 7かつ(すみや)かに()きて、その弟子(でし)たちに「(かれ)死人(しにん)(うち)より(よみが)へり(たま)へり。()よ、(なんぢ)らに(さき)だちてガリラヤに()(たま)ふ、彼處(かしこ)にて(まみ)ゆるを()ん」と()げよ。()よ、(なんぢ)らに(これ)()げたり』 8(をんな)たち(おそれ)(おほい)なる歡喜(よろこび)とをもて、(すみや)かに(はか)()り、弟子(でし)たちに()らせんとて(はし)りゆく。 9()よ、イエス(かれ)らに()ひて『(やす)かれ』と()(たま)ひたれば、(すす)みゆき、御足(みあし)(いだ)きて(はい)す。 10ここにイエス()ひたまふ『(おそ)るな、()きて()兄弟(きゃうだい)たちに、ガリラヤにゆき、彼處(かしこ)にて(われ)()るべきことを()らせよ』
11(をんな)たちの()きたるとき、()よ、番兵(ばんぺい)のうちの數人(すにん)(みやこ)にいたり、(すべ)()りし(こと)どもを祭司長(さいしちゃう)らに()ぐ。 12祭司長(さいしちゃう)ら、長老(ちゃうらう)らと(とも)(あつま)りて(あひ)(はか)り、兵卒(へいそつ)どもに(おほ)くの(かね)(あた)へて()ふ、 13『なんぢら()へ「その弟子(でし)(よる)きたりて、(われ)らの(ねむ)れる()(かれ)(ぬす)めり」と。 14この(こと)もし總督(そうとく)(きこ)えなば、(われ)(かれ)(なだ)めて(なんぢ)らに(うれひ)なからしめん』 15(かれ)(かね)をとりて()(ふく)められたる(ごと)くしたれば、()(はなし)ユダヤ(びと)(うち)にひろまりて、今日(けふ)(いた)れり。
16(じふ)(いち)弟子(でし)たちガリラヤに()きて、イエスの(めい)(たま)ひし(やま)にのぼり、 17(つひ)(まみ)えて(はい)せり。されど(うたが)(もの)もありき。 18イエス(すす)みきたり、(かれ)らに(かた)りて()ひたまふ『(われ)(てん)にても()にても一切(すべて)(けん)(あた)へられたり。 19されば(なんぢ)()きて、もろもろの國人(くにびと)弟子(でし)となし、(ちち)()(せい)(れい)との()によりてバプテスマを(ほどこ)し、 20わが(なんぢ)らに(めい)ぜし(すべ)ての(こと)(まも)るべきを(をし)へよ。()よ、(われ)()(をはり)まで(つね)(なんぢ)らと(とも)()るなり』