使徒行傳

第一章

1テオピロよ、(われ)さきに(まへ)(ふみ)をつくりて、(おほよ)そイエスの(おこな)ひはじめ(をし)へはじめ(たま)ひしより、 2その(えら)(たま)へる使徒(しと)たちに、(せい)(れい)によりて(めい)じたるのち、()げられ(たま)ひし()(いた)るまでの(こと)(しる)せり。 3イエスは苦難(くるしみ)をうけしのち、(おほ)くの(たしか)なる(あかし)をもて、(おのれ)()きたることを使徒(しと)たちに(しめ)し、四十(しじふ)(にち)(あひだ)、しばしば(かれ)らに(あらは)れて、(かみ)(くに)のことを(かた)り、 4また(かれ)()とともに(あつま)りゐて(めい)じたまふ『エルサレムを(はな)れずして、(われ)より()きし(ちち)約束(やくそく)()て。 5ヨハネは(みづ)にてバプテスマを(ほどこ)ししが、(なんぢ)らは()ならずして(せい)(れい)にてバプテスマを(ほどこ)されん』
6弟子(でし)たち(あつま)れるとき()ひて()ふ『(しゅ)よ、イスラエルの(くに)囘復(くわいふく)(たま)ふは()(とき)なるか』 7イエス()ひたまふ『(とき)また()(ちち)おのれの權威(けんゐ)のうちに()(たま)へば、(なんぢ)らの()るべきにあらず。 8()れど(せい)(れい)なんぢらの(うへ)(のぞ)むとき、(なんぢ)能力(ちから)をうけん、(しか)してエルサレム、ユダヤ全國(ぜんこく)、サマリヤ、(およ)()(はて)にまで()證人(しょうにん)とならん』 9(これ)()のことを()(をは)りて、(かれ)らの()るがうちに()げられ(たま)ふ。(くも)これを()けて()えざらしめたり。 10その(のぼ)りゆき(たま)ふとき、(かれ)(てん)()(そそ)ぎゐたりしに、()よ、(しろ)(ころも)()たる二人(ふたり)(ひと)かたはらに()ちて()ふ、 11『ガリラヤの人々(ひとびと)よ、(なに)ゆゑ(てん)(あふ)ぎて()つか、(なんぢ)らを(はな)れて(てん)()げられ(たま)ひし()のイエスは、(なんぢ)らが(てん)(のぼ)りゆくを()たるその(ごと)(また)きたり(たま)はん』 12ここに(かれ)()オリブといふ(やま)よりエルサレムに(かへ)る。この(やま)はエルサレムに(ちか)く、安息(あんそく)(にち)道程(みちのり)なり。 13(すで)()りてその(とどま)りをる高樓(たかどの)(のぼ)る。ペテロ、ヨハネ、ヤコブ(およ)びアンデレ、ピリポ(およ)びトマス、バルトロマイ(およ)びマタイ、アルパヨの()ヤコブ、熱心(ねっしん)(たう)のシモン(およ)びヤコブの()ユダなり。 14この人々(ひとびと)はみな(をんな)たち(およ)びイエスの(はは)マリヤ、イエスの兄弟(きゃうだい)たちと(とも)に、(こころ)(ひと)つにして只管(ひたすら)いのりを(つと)めゐたり。
15その(ころ)ペテロ、百二十(ひゃくにじふ)(めい)ばかり(とも)(あつま)りて(むれ)をなせる兄弟(きゃうだい)たちの(なか)()ちて()ふ、 16兄弟(きゃうだい)たちよ、イエスを(とら)ふる(もの)どもの手引(てびき)となりしユダにつきて、(せい)(れい)ダビデの(くち)によりて(あらか)じめ()(たま)ひし聖書(せいしょ)は、かならず成就(じゃうじゅ)せざるを()ざりしなり。 17(かれ)(われ)らの(うち)(かぞ)へられ、()(つとめ)(あづか)りたればなり。 18(この(ひと)は、かの不義(ふぎ)(あたひ)をもて地所(ぢしょ)()、また俯伏(うつぶし)()ちて直中(ただなか)より()けて臓腑(はらわた)みな(なが)()でたり。 19この(こと)エルサレムに()(すべ)ての(ひと)()られて、その地所(ぢしょ)國語(くにことば)にてアケルダマと(とな)へらる、()地所(ぢしょ)との()なり) 20それは()(へん)(しる)して
(かれ)住處(すみか)()()てよ、
(ひと)その(うち)(すま)はざれ」
()ひ、
(また)「その(つとめ)はほかの(ひと)()させよ」
()ひたり。 21()れば(しゅ)イエス我等(われら)のうちに往來(ゆきき)(たま)ひし(あひだ)22(すなは)ちヨハネのバプテスマより(はじま)り、(われ)らを(はな)れて()げられ(たま)ひし()(いた)るまで、(つね)(われ)らと(とも)()りし()人々(ひとびと)のうち一人(ひとり)、われらと(とも)(しゅ)復活(よみがへり)證人(しょうにん)となるべきなり』 23ここにバルサバと(とな)へられ、またの()をユストと()ばるるヨセフ(およ)びマツテヤの二人(ふたり)をあげ、 24 1:25(いの)りて()ふ『(すべ)ての(ひと)(こころ)()りたまふ(しゅ)よ、ユダ(おの)(ところ)()かんとて()(つとめ)使徒(しと)(つとめ)とより()ちたれば、その(あと)()がするに、()二人(ふたり)のうち(いづれ)(えら)(たま)ふか(しめ)したまへ』 26かくて(くじ)せしに、(くじ)はマツテヤに(あた)りたれば、(かれ)(じふ)(いち)使徒(しと)(くは)へられたり。

第二章

1五旬節(ごじゅんせつ)()となり、(かれ)らみな一處(ひとところ)(つど)()りしに、 2(はげ)しき(かぜ)()ききたるごとき(ひびき)、にはかに(てん)より(おこ)りて、その()する(ところ)(いへ)滿()ち、 3また()(ごと)きもの(した)のやうに(あらは)れ、(わか)れて各人(おのおの)(うへ)にとどまる。 4(かれ)らみな(せい)(れい)にて滿(みた)され、御靈(みたま)()べしむるままに異邦(ことくに)(ことば)にて(かた)りはじむ。
5(とき)敬虔(けいけん)なるユダヤ(びと)ら、天下(てんか)國々(くにぐに)より(きた)りてエルサレムに()()りしが、 6この(おと)おこりたれば群衆(ぐんじゅう)あつまり(きた)り、おのおの(おの)國語(くにことば)にて使徒(しと)たちの(かた)るを()きて(さわ)()ひ、 7かつ(をどろ)(あや)しみて()ふ『()よ、この(かた)(もの)(みな)ガリラヤ(ひと)ならずや、 8如何(いか)にして我等(われら)おのおのの(うま)れし(くに)(ことば)をきくか。 9我等(われら)はパルテヤ(ひと)、メヂヤ(ひと)、エラム(ひと)、またメソポタミヤ、ユダヤ、カパドキヤ、ポント、アジヤ、 10フルギヤ、パンフリヤ、エジプト、リビヤのクレネに(ちか)地方(ちはう)などに()(もの)、ロマよりの旅人(たびびと)――ユダヤ(びと)および改宗者(かいしゅうしゃ)―― 11クレテ(びと)およびアラビヤ(ひと)なるに、()國語(くにことば)にて(かれ)らが(かみ)(おほい)なる御業(みわざ)をかたるを()かんとは』 12みな(をどろ)(まど)ひて(たがひ)()ふ『これ何事(なにごと)ぞ』 13(ある)(もの)どもは(あざけ)りて()ふ『かれらは(あま)葡萄酒(ぶだうしゅ)にて滿(みた)されたり』
14ここにペテロ(じふ)(いち)使徒(しと)とともに()ち、(こゑ)()()べて()ふ『ユダヤの人々(ひとびと)および(すべ)てエルサレムに()める(もの)よ、(なんぢ)()わが(ことば)(みみ)(かたむ)けて、この(こと)()れ。 15(いま)(あさ)九時(くじ)なれば、(なんぢ)らの(おも)ふごとく(かれ)らは()ひたるに(あら)ず、 16これは預言者(よげんしゃ)ヨエルによりて()はれたる(ところ)なり。
17(かみ)いひ(たま)はく、(すゑ)()(いた)りて、
()(れい)(すべ)ての(ひと)(そそ)がん。
(なんぢ)らの(むすこ)(むすめ)預言(よげん)し、
(なんぢ)らの若者(わかもの)幻影(まぼろし)()
なんぢらの老人(としより)(ゆめ)()るべし。
18その()(いた)りて、わが(しもべ)婢女(はしため)
わが(れい)(そそ)がん、(かれ)らは預言(よげん)すべし。
19われ(うへ)(てん)不思議(ふしぎ)を、
(した)()(しるし)をあらはさん、
(すなは)()()(けむり)()とあるべし。
20(しゅ)(おほい)なる顯著(いちじる)しき()のきたる(まへ)に、
()(やみ)(つき)()(かは)らん。
21すべて(しゅ)御名(みな)()(たのみ)(もの)(すく)はれん」
22イスラエルの人々(ひとびと)よ、これらの(ことば)()け。ナザレのイエスは、(なんぢ)らの()るごとく、(かみ)かれに()りて(なんぢ)らの(うち)(おこな)(たま)ひし能力(ちから)ある(わざ)不思議(ふしぎ)(しるし)とをもて、(なんぢ)らに(あかし)(たま)へる(ひと)なり。 23この(ひと)(かみ)(さだ)(たま)ひし御旨(みむね)と、(あらか)じめ()(たま)(ところ)とによりて(わた)されしが、(なんぢ)不法(ふはふ)(ひと)()をもて釘磔(はりつけ)にして(ころ)せり。 24()れど(かみ)()苦難(くるしみ)()きて(これ)(よみが)へらせ(たま)へり。(かれ)()(つな)がれをるべき(もの)ならざりしなり。 25ダビデ(かれ)につきて()
「われ(つね)()(まへ)(しゅ)()たり、
()(うご)かされぬ(ため)()(みぎ)(いま)せばなり。
26この(ゆゑ)()(こころ)(たの)しみ、()(した)(よろこ)べり、
かつ()肉體(にくたい)もまた(のぞみ)(うち)宿(やど)らん。
27(なんぢ)わが靈魂(たましひ)黄泉(よみ)()()かず、
(なんぢ)聖者(しゃうじゃ)朽果(くちは)つることを(ゆる)(たま)はざればなり。
28(なんぢ)生命(いのち)(みち)(われ)(しめ)(たま)へり、
御顏(みかほ)(まへ)にて(われ)勸喜(よろこび)滿(みた)(たま)はん」
29兄弟(きゃうだい)たちよ、先祖(せんぞ)ダビデに()きて、われ(はばか)らず(なんぢ)らに()ふを()べし、(かれ)()にて(はうむ)られ、その(はか)今日(けふ)(いた)るまで(われ)らの(うち)にあり。 30(すなは)(かれ)預言者(よげんしゃ)にして、(おのれ)()より()づる(もの)をおのれの座位(くらゐ)()せしむることを、(ちかひ)をもて(かみ)(やく)(たま)ひしを()り、 31先見(せんけん)して、キリストの復活(よみがへり)()きて(かた)り、その黄泉(よみ)()()かれず、その肉體(にくたい)朽果(くちは)てぬことを()へるなり。 32(かみ)はこのイエスを(よみが)へらせ(たま)へり、(われ)らは(みな)その證人(しょうにん)なり。 33イエスは(かみ)(みぎ)()げられ、約束(やくそく)(せい)(れい)(ちち)より()けて、(なんぢ)らの()()する()のものを(そそ)(たま)ひしなり。 34それダビデは(てん)(のぼ)りしことなし、()れど(みづか)()
(しゅ)わが(しゅ)()(たま)ふ、
35(われ)なんぢの(てき)(なんぢ)足臺(あしだい)となすまでは、
わが(みぎ)()せよ」
と。 36()ればイスラエルの全家(ぜんか)(しか)()るべきなり。(なんぢ)らが十字架(じふじか)()けし()のイエスを、(かみ)()てて(しゅ)となし、キリストとなし(たま)へり』
37人々(ひとびと)これを()きて(こころ)()され、ペテロと(ほか)使徒(しと)たちとに()ふ『兄弟(きゃうだい)たちよ、(われ)(なに)をなすべきか』 38ペテロ(こた)ふ『なんぢら悔改(くいあらた)めて、おのおの(つみ)(ゆるし)()んために、イエス・キリストの()によりてバプテスマを()けよ、()らば(せい)(れい)賜物(たまもの)()けん。 39この約束(やくそく)(なんぢ)らと(なんぢ)らの()らと、(すべ)ての(とほ)(もの)すなはち(しゅ)なる(われ)らの(かみ)()(たま)(もの)とに()くなり』 40この(ほか)なほ(おほ)くの(ことば)をもて(あかし)し、かつ(すす)めて『この(まが)れる()より(すく)(いだ)されよ』と()へり。 41かくてペテロの(ことば)聽納(ききい)れし(もの)はバプテスマを()く。この()弟子(でし)(くは)はりたる(もの)、おほよそ(さん)(せん)(にん)なり。 42(かれ)らは使徒(しと)たちの(をしへ)()け、交際(まじはり)をなし、パンを()き、祈祷(いのり)をなすことを只管(ひたすら)つとむ。
43ここに(ひと)みな敬畏(おそれ)(しゃう)じ、(おほ)くの不思議(ふしぎ)(しるし)とは使徒(しと)たちに()りて(おこな)はれたり。 44(しん)じたる(もの)はみな(とも)()りて諸般(もろもろ)(もの)(とも)にし、 45資産(しさん)所有(もちもの)とを()り、各人(おのおの)(よう)(したが)ひて()(あた)へ、 46日々(ひび)(こころ)(ひと)つにして(たゆ)みなく(みや)()り、(いへ)にてパンをさき、勸喜(よろこび)眞心(まごころ)とをもて食事(しょくじ)をなし、 47(かみ)讃美(さんび)して一般(すべて)(たみ)(よろこ)ばる。かくて(しゅ)(すく)はるる(もの)日々(ひび)かれらの(うち)(くは)(たま)へり。

第三章

1(ひる)三時(さんじ)いのりの(とき)に、ペテロとヨハネと(みや)(のぼ)りしが、 2ここに(うま)れながらの跛者(あしなへ)かかれて(きた)る。(みや)()(ひと)より施濟(ほどこし)()ふために、日々(ひび)(みや)美麗(うつくし)といふ(もん)()かるるなり。 3ペテロとヨハネとの(みや)()らんとするを()施濟(ほどこし)()ひたれば、 4ペテロ、ヨハネと(とも)()()めて『(われ)らを()よ』と()ふ。 5かれ(なに)をか()くるならんと、(かれ)らを()つめたるに、 6ペテロ()ふ『(きん)(ぎん)(われ)になし、()れど(われ)()るものを(なんぢ)(あた)ふ、ナザレのイエス・キリストの()によりて(あゆ)め』 7(すなは)(みぎ)()()りて(おこ)ししに、(あし)(かふ)踝骨(くるぶし)とたちどころに(つよ)くなりて、 8(をど)()(あゆ)(いだ)して、(かつ)あゆみ(かつ)をどり、(かみ)讃美(さんび)しつつ(かれ)らと(とも)(みや)()れり。 9(たみ)みな()(あゆ)み、また(かみ)讃美(さんび)するを()て、 10(かれ)(さき)乞食(こつじき)にて(みや)美麗(うつくし)(もん)()しゐたるを()れば、この(おこ)りし(こと)()きて驚駭(おどろき)奇異(あやしみ)とに()ちたり。
11かくて(かれ)がペテロとヨハネとに()りすがり()るほどに、(たみ)みな(はなは)だしく(をどろ)きてソロモンの(らう)(とな)ふる(らう)()せつどふ。 12ペテロこれを()(たみ)(こた)ふ『イスラエルの人々(ひとびと)よ、(なに)()(こと)(あや)しむか、(なに)(われ)らが(おのれ)能力(ちから)敬虔(けいけん)とによりて()(ひと)(あゆ)ませしごとく、(われ)らを()つむるか。 13アブラハム、イサク、ヤコブの(かみ)、われらの先祖(せんぞ)(かみ)は、その(しもべ)イエスに榮光(えいくわう)あらしめ(たま)へり。(なんぢ)()このイエスを(わた)し、ピラトの(これ)(ゆる)さんと(さだ)めしを、()(まへ)にて(いな)みたり。 14(なんぢ)らは、この聖者(しゃうじゃ)義人(ぎじん)(いな)みて、殺人者(ひとごろし)(ゆる)さんことを(もと)め、 15生命(いのち)(きみ)(ころ)したれど、(かみ)はこれを死人(しにん)(うち)より(よみが)へらせ(たま)へり、(われ)らは()證人(しょうにん)なり。 16()くてその御名(みな)(しん)ずるに()りてその御名(みな)は、(なんぢ)らの()るところ()るところの()(ひと)(つよ)くしたり。イエスによる信仰(しんかう)は、(なんぢ)()もろもろの(まへ)にて()かる全癒(ぜんゆ)()させたり。 17兄弟(きゃうだい)よ、われ()る、(なんぢ)らが、かの(こと)()ししは()らぬに()りてなり。(なんぢ)らの(つかさ)たちも(また)(しか)り。 18()れど(かみ)(すべ)ての預言者(よげんしゃ)(くち)をもて、キリストの苦難(くるしみ)()くべきことを(あらか)じめ()(たま)ひしを、()くは成就(じゃうじゅ)(たま)ひしなり。 19()れば(なんぢ)(つみ)()されん(ため)に、悔改(くいあらた)めて(こころ)(てん)ぜよ。 20これ(しゅ)御前(みまへ)より慰安(なぐさめ)(とき)きたり、(なんぢ)らの(ため)(あらか)じめ(さだ)(たま)へるキリスト・イエスを(つかは)(たま)はんとてなり。 21(いにし)へより(かみ)が、その(せい)なる預言者(よげんしゃ)(くち)によりて(かた)(たま)ひし、萬物(ばんもつ)(あらた)まる(とき)まで、(てん)(かなら)ずイエスを()けおくべし。 22モーセ()へらく「(しゅ)なる(かみ)(なんぢ)らの兄弟(きゃうだい)(うち)より()がごとき預言者(よげんしゃ)(おこ)(たま)はん。その(かた)(ところ)のことは(なんぢ)()ことごとく()くべし。 23(すべ)てこの預言者(よげんしゃ)()かぬ(もの)(たみ)(うち)より(ほろぼ)(つく)さるべし」 24(また)サムエル以來(このかた)かたりし預言者(よげんしゃ)も、(みな)この(とき)につきて宣傳(のべつた)へたり。 25(なんぢ)らは預言者(よげんしゃ)たちの子孫(しそん)なり、(また)なんぢらの先祖(せんぞ)たちに(かみ)()(たま)ひし契約(けいやく)子孫(しそん)なり、(すなは)(かみ)アブラハムに()(たま)はく「なんぢの(すゑ)によりて()諸族(しょぞく)はみな祝福(しくふく)せらるべし」 26(かみ)はその(しもべ)(よみが)へらせ、まづ(なんぢ)らに(つかは)(たま)へり、これ(なんぢ)各人(おのおの)を、その(つみ)より()びかへして祝福(しくふく)せん(ため)なり』

第四章

1かれら(たみ)(かた)()るとき、祭司(さいし)ら・宮守頭(みやもりがしら)およびサドカイ(びと)(ちか)づき(きた)りて、 2その(たみ)(をし)へ、(また)イエスの(こと)()きて死人(しにん)(うち)よりの復活(よみがへり)()ぶるを(うれ)ひ、 3()をかけて(これ)(とら)へしに、はや(ゆふべ)になりたれば、()くる()まで留置場(とめおきば)()れたり。 4()れど、その(ことば)()きたる人々(ひとびと)(うち)にも(しん)ぜし(もの)おほくありて、(をとこ)(かず)おほよそ()(せん)(にん)となりたり。
5()くる()(つかさ)長老(ちゃうらう)學者(がくしゃ)らエルサレムに(くわい)し、 6(だい)祭司(さいし)アンナス、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル(およ)(だい)祭司(さいし)一族(いちぞく)みな(つど)ひて、 7その(なか)にかの二人(ふたり)()てて()ふ『如何(いか)なる能力(ちから)いかなる()によりて()(こと)(おこな)ひしぞ』 8この(とき)ペテロ(せい)(れい)にて滿(みた)され、(かれ)らに()ふ『(たみ)(つかさ)たち(およ)長老(ちゃうらう)たちよ、 9(われ)らが()める(もの)になしし()(わざ)()き、その如何(いか)にして(すく)はれしかを今日(けふ)もし(ただ)さるるならば、 10(なんぢ)一同(いちどう)およびイスラエルの(たみ)みな()れ、この(ひと)(すこや)かになりて(なんぢ)らの(まへ)()つは、ナザレのイエス・キリスト、(すなは)(なんぢ)らが十字架(じふじか)()け、(かみ)死人(しにん)(うち)より(よみが)へらせ(たま)ひし(もの)()()ることを。 11このイエスは(なんぢ)造家者(いへつくり)(かろ)しめられし(いし)にして、(すみ)首石(おやいし)となりたるなり。 12(ほか)(もの)によりては(すくひ)()ることなし、(あめ)(した)には(われ)らの()りて(すく)はるべき(ほか)()を、(ひと)(たま)ひし(こと)なければなり』
13(かれ)らはペテロとヨハネとの(おく)することなきを()、その無學(むがく)凡人(ただびと)なるを()りたれば、(これ)(あや)しみ、(かつ)そのイエスと(とも)にありし(こと)(みと)む。 14また(いや)されたる(ひと)(これ)とともに()つを()るによりて、(さら)()()(ことば)なし。 15ここに、(めい)じて(かれ)らを衆議所(しゅうぎしょ)より退(しりぞ)け、(あひ)(とも)(はか)りて()ふ、 16『この人々(ひとびと)如何(いか)にすべきぞ。(かれ)()によりて顯著(いちじる)しき(しるし)(おこな)はれし(こと)は、(すべ)てエルサレムに()(もの)()られ、(われ)(これ)(いな)むこと(あた)はねばなり。 17()れど愈々(いよいよ)ひろく(たみ)(うち)()(ひろま)らぬやうに、(かれ)らを(おびや)かして、(いま)より(のち)かの()によりて(たれ)にも(かた)(こと)なからしめん』 18(すなは)(かれ)らを()び、一切(いっさい)イエスの()によりて(かた)り、また(をし)へざらんことを(めい)じたり。 19ペテロとヨハネと(こた)へていふ『(かみ)()くよりも(なんぢ)らに()くは、(かみ)御前(みまへ)(ただ)しきか、(なんぢ)(これ)(さば)け。 20(われ)らは()しこと()きしことを(かた)らざるを()ず』 21(たみ)みな()()りし(こと)()きて(かみ)(あが)めたれば、(かれ)らを(ばっ)するに(よし)なく、(さら)にまた(おびや)かして(ゆる)せり。 22かの(しるし)によりて(いや)されし(ひと)四十歳(しじっさい)(あまり)なりしなり。
23(かれ)(ゆる)されて、その(とも)(もと)にゆき、祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)らの()ひし(すべ)てのことを()げたれば、 24(これ)()きて(みな)(こころ)(ひと)つにし、(かみ)(むか)ひ、(こゑ)()げて()ふ『(しゅ)よ、(なんぢ)(てん)()(うみ)と、()(なか)のあらゆる(もの)とを(つく)(たま)へり。 25(かつ)(せい)(れい)によりて、(なんぢ)(しもべ)われらの先祖(せんぞ)ダビデでの(くち)をもて
(なに)ゆゑ異邦人(いはうじん)(さわ)()ち、
(たみ)らは(むな)しき(こと)(はか)るぞ。
26()(わう)たちは(とも)()ち、
(つかさ)らは(ひと)つにあつまりて、
(しゅ)および()のキリストに(さから)ふ」
宣給(のたま)へり。 27(はた)してヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人(いはうじん)およびイスラエルの(たみ)()とともに、(なんぢ)(あぶら)そそぎ(たま)ひし(せい)なる(しもべ)イエスに(さから)ひて、()(みやこ)にあつまり、 28御手(みて)御旨(みむね)とにて、()()るべしと(あらか)じめ(さだ)(たま)ひし(こと)をなせり。 29(しゅ)よ、(いま)かれらの脅喝(おびやかし)御覽(みそなは)し、(しもべ)らに御言(みことば)(いささ)かも(おく)することなく(かた)らせ、 30御手(みて)をのべて()(ほどこ)させ、(なんぢ)(せい)なる(しもべ)イエスの()によりて、(しるし)不思議(ふしぎ)とを(おこな)はせ(たま)へ』 31(いの)()へしとき、()(あつま)りをる(ところ)ふるひ(うご)き、みな(せい)(れい)にて滿(みた)され、(おく)することなく(かみ)御言(みことば)(かた)れり。
32(しん)じたる(もの)(むれ)は、おなじ(こころ)おなじ(おもひ)となり、(たれ)一人(ひとり)その所有(もちもの)(おの)(もの)()はず、(すべ)ての(もの)(とも)にせり。 33かくて使徒(しと)たちは(おほい)なる能力(ちから)をもて、(しゅ)イエスの復活(よみがへり)(あかし)をなし、みな(おほい)なる恩惠(めぐみ)(かうむ)りたり。 34(かれ)らの(うち)には一人(ひとり)(とぼ)しき(もの)もなかりき。これ地所(ぢしょ)あるいは家屋(いへ)()てる(もの)、これを()り、その()りたる(もの)(あたひ)()(きた)りて、 35使徒(しと)たちの足下(あしもと)()きしを、各人(おのおの)その(よう)(したが)ひて()(あた)へられたればなり。
36ここにクプロに(うま)れたるレビ(ひと)にて、使徒(しと)たちにバルナバ(()けば慰籍(なぐさめ)())と(とな)へらるるヨセフ、 37(はた)ありしを()りて()(かね)()ちきたり、使徒(しと)たちの足下(あしもと)()けり。

第五章

1(しか)るにアナニヤと()(ひと)、その(つま)サツピラと(とも)資産(しさん)()り、 2その(あたひ)幾分(いくぶん)(かく)しおき、(のこ)幾分(いくぶん)()ちきたりて使徒(しと)たちの足下(あしもと)()きしが、(つま)(これ)(あづか)れり。 3ここにペテロ()ふ『アナニヤよ、(なに)(ゆゑ)なんぢの(こころ)サタンに滿()ち、(せい)(れい)(たい)(いつは)りて、地所(ぢしょ)(あたひ)幾分(いくぶん)(かく)したるぞ。 4()りし(とき)(なんぢ)(もの)なり、()りて(のち)(なんぢ)(けん)(うち)にあるに(あら)ずや、(なに)とて(かか)ることを(こころ)(くはだ)てし。なんぢ(ひと)(たい)してにあらず、(かみ)(たい)して(いつは)りしなり』 5アナニヤこの(ことば)をきき、(たふ)れて(いき)()ゆ。これを()(もの)みな(おほい)なる(おそれ)(いだ)く。 6若者(わかもの)ども()ちて(かれ)(つつ)み、()(いだ)して(はうむ)れり。
7(おほよ)(さん)時間(じかん)()て、その(つま)この()りし(こと)()らずして()(きた)りしに、 8ペテロ(これ)(むか)ひて()ふ『なんぢら(これ)(ほど)(あたひ)にてかの地所(ぢしょ)()りしか、(われ)()げよ』(をんな)いふ『(しか)り、(これ)(ほど)なり』 9ペテロ()ふ『なんぢら(なに)(こころ)(あは)せて(しゅ)御靈(みたま)(こころ)みんとせしか、()よ、なんぢの(をっと)(はうむ)りし(もの)(あし)門口(かどぐち)にあり、(なんぢ)をもまた()(いだ)すべし』 10をんな立刻(たちどころ)にペテロの足下(あしもと)(たふ)れて(いき)()ゆ。若者(わかもの)ども()(きた)りて、その()にたるを()、これを()(いだ)して(をっと)(かたは)らに(はうむ)れり。 11ここに(ぜん)教會(けうくわい)および(これ)()のことを()(もの)みな(おほい)なる(おそれ)(いだ)けり。
12使徒(しと)たちの()によりて(おほ)くの(しるし)不思議(ふしぎ)(たみ)(うち)(おこな)はれたり。(かれ)()はみな(こころ)(ひと)つにして、ソロモンの(らう)にあり。 13(ほか)(もの)どもは()へて(ちか)づかず、(たみ)(かれ)らを(あが)めたり。 14(しん)ずるもの男女(なんにょ)とも増々(ますます)おほく(しゅ)()けり。 15(つひ)には人々(ひとびと)()める(もの)大路(おほじ)()ききたり、寢臺(ねだい)または(とこ)(うへ)におく。(これ)()のうち(たれ)にもせよ、ペテロの()ぎん(とき)、その(かげ)になりと(おほ)はれんとてなり。 16(また)エルサレムの周圍(まはり)町々(まちまち)より(おほ)くの人々(ひとびと)()める(もの)(けが)れし(れい)(なやま)されたる(もの)(たづさ)へきたりて(つど)ひたりしが、みな(いや)されたり。
17ここに(だい)祭司(さいし)および(これ)(とも)なる(もの)(すなは)ちサドカイ()人々(ひとびと)、みな(ねたみ)滿(みた)されて()ち、 18使徒(しと)たちに()をかけて(これ)留置場(とめおきば)()る。 19(しか)るに(しゅ)使(つかひ)(よる)(ひとや)()をひらき、(かれ)らを()(いだ)して()ふ、 20()きて(みや)()ち、この生命(いのち)(ことば)をことごとく(たみ)(かた)れ』 21かれら(これ)()き、夜明(よあけ)がた(みや)()りて(をし)ふ。(だい)祭司(さいし)および(これ)(とも)なる(もの)ども(つど)ひきたりて、議會(ぎくわい)とイスラエル(ひと)元老(げんらう)とを()びあつめ、使徒(しと)たちを()(きた)らせんとて(ひと)牢舍(らうや)(つかは)したり。 22下役(したやく)ども()きしに、(ひとや)のうちに(かれ)らの()らぬを()て、(かへ)りきたり()げて()ふ、 23『われら牢舍(らうや)(かた)()ぢられて、()(まへ)牢番(らうばん)()ちたるを()しに、(ひら)きて()れば、(うち)には(たれ)()らざりき』 24宮守頭(みやもりがしら)および祭司長(さいしちゃう)らこの(ことば)()きて、如何(いか)になりゆくべきかと(まど)ひいたるに、 25(ある)(ひと)きたり()げて()ふ『()よ、(なんぢ)らの(ひとや)()れし(ひと)は、(みや)()ちて(たみ)(をし)()るなり』 26ここに宮守頭(みやもりがしら)下役(したやく)(ともな)ひて()でゆき、(かれ)らを()(きた)る。されど手暴(てあら)きことをせざりき、これ(たみ)より(いし)にて()たれんことを(おそ)れたるなり。 27(かれ)らを()(きた)りて議會(ぎくわい)(なか)()てたれば、(だい)祭司(さいし)()ひて()ふ、 28我等(われら)かの()によりて(をし)ふることを(かた)(きん)ぜしに、()よ、(なんぢ)らは()(をしへ)をエルサレムに滿(みた)し、かの(ひと)()(われ)らに()はせんとす』 29ペテロ(およ)(ほか)使徒(しと)たち(こた)へて()ふ『(ひと)(したが)はんよりは(かみ)(したが)ふべきなり。 30(われ)らの先祖(せんぞ)(かみ)はイエスを(おこ)(たま)ひしに、(なんぢ)らは(これ)()()けて(ころ)したり。 31(かみ)(かれ)(きみ)とし救主(すくひぬし)として(おの)(みぎ)にあげ、悔改(くいあらため)(つみ)(ゆるし)とをイスラエルに(あた)へしめ(たま)ふ。 32(われ)らは()(こと)證人(しょうにん)なり。(かみ)のおのれに(したが)(もの)(たま)(せい)(れい)もまた(しか)り』
33かれら(これ)をききて(いかり)滿()ち、使徒(しと)たちを(ころ)さんと(おも)へり。 34(しか)るにパリサイ(びと)にて(すべ)ての(たみ)(たふと)ばるる教法(けうはふ)學者(がくしゃ)ガマリエルと()ふもの、議會(ぎくわい)(なか)()ち、(めい)じて使徒(しと)たちを(しばら)(そと)(いだ)さしめ、議員(ぎゐん)らに(むか)ひて()ふ、 35『イスラエルの(ひと)よ、(なんぢ)らが()人々(ひとびと)()さんとする(こと)につきて(こころ)せよ。 36(さき)にチウダ(おこ)りて、(みづか)(おほい)なりと(しょう)し、(これ)(つき)(したが)(もの)(かず)おほよそ()(ひゃく)(にん)なりしが、(かれ)(ころ)され、(したが)へる(もの)はみな(ちら)されて(あと)なきに(いた)れり。 37そののち戸籍(こせき)登録(とうろく)のときガリラヤのユダ(おこ)りて、(おほ)くの(たみ)(さそ)ひおのれに(したが)はしめしが、(かれ)(ほろ)(したが)へる(もの)もことごとく(ちら)されたり。 38()れば(いま)なんぢらに()ふ、この人々(ひとびと)より(はな)れて、その()すに(まか)せよ。()しその企圖(くはだて)その所作(しわざ)(ひと)より()でたらんにはおのづから(やぶ)れん。 39もし(かみ)より()でたらんには(かれ)らを(やぶ)ること(あた)はず、(おそ)らくは(なんぢ)(かみ)(てき)する(もの)とならん』 40(かれ)()その勸告(すすめ)にしたがひ、(つひ)使徒(しと)たちを()(いだ)して(これ)(むち)うち、イエスの()によりて(かた)ることを(かた)(きん)じて(ゆる)せり。 41使徒(しと)たちは御名(みな)のために(はづか)しめらるるに相應(ふさは)しき(もの)とせられたるを(よろこ)びつつ、議員(ぎゐん)らの(まへ)()()れり。 42かくて日毎(ひごと)(みや)また(いへ)にて(をしへ)をなし、イエスのキリストなる(こと)宣傳(のべつた)へて()まざりき。

第六章

1そのころ弟子(でし)のかず(まし)(くは)はり、ギリシヤ(ことば)のユダヤ(びと)、その寡婦(やもめ)らが日々(ひび)施濟(ほどこし)(もら)されたれば、ヘブル(ことば)のユダヤ(びと)(たい)して(つぶや)(こと)あり。 2ここに十二(じふに)使徒(しと)すべての弟子(でし)()(あつ)めて()ふ『われら(かみ)(ことば)差措(さしお)きて、食卓(しょくたく)(つか)ふるは(よろ)しからず。 3()れば兄弟(きゃうだい)よ、(なんぢ)らの(うち)より御靈(みたま)智慧(ちゑ)とにて滿()ちたる令聞(よききこえ)ある(もの)七人(しちにん)見出(みいだ)せ、それに()(こと)(つかさ)どらせん。 4(われ)らは(もっぱ)(いのり)をなすことと、御言(みことば)(つか)ふることとを(つと)めん』 5(あつま)れる(すべ)ての(もの)この(ことば)()しとし、信仰(しんかう)(せい)(れい)とにて滿()ちたるステパノ(およ)びピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ、またアンテオケの改宗者(かいしゅうしゃ)ニコラオを(えら)びて、 6使徒(しと)たちの(まへ)()てたれば、使徒(しと)たち(いの)りて()をその(うへ)()けり。
7かくて(かみ)(ことば)ますます(ひろま)り、弟子(でし)(かず)エルサレムにて(はなは)(おほ)くなり、祭司(さいし)(うち)にも信仰(しんかう)(みち)(したが)へるもの(おほ)かりき。
8さてステパノは恩惠(めぐみ)能力(ちから)とにて滿()ち、(たみ)(うち)(おほい)なる不思議(ふしぎ)(しるし)とを(おこな)へり。 9ここに()(とな)ふるリベルテンの會堂(くわいだう)およびクレネ(びと)、アレキサンデリヤ(びと)、またキリキヤとアジヤとの(ひと)(しょ)會堂(くわいだう)より、人々(ひとびと)()ちてステパノと(ろん)ぜしが、 10その(かた)るところの智慧(ちゑ)御靈(みたま)とに(てき)すること(あた)はず。 11(すなは)(ある)(もの)どもを(そその)かして『(われ)らはステパノが、モーセと(かみ)とを(けが)(ことば)をいふを()けり』と()はしめ、 12(たみ)および長老(ちゃうらう)學者(がくしゃ)らを煽動(せんどう)し、(にはか)(きた)りてステパノを(とら)へ、議會(ぎくわい)()きゆき、 13僞證者(ぎしょうしゃ)()てて()はしむ『この(ひと)はこの(せい)なる(ところ)律法(おきて)とに(さから)(ことば)(かた)りて()まず、 14(すなは)ち、かのナザレのイエスは()(ところ)(こぼ)ち、かつモーセの(つた)へし(れい)()ふべしと、(かれ)()へるを()けり』と。 15ここに議會(ぎくわい)()したる(もの)みな()(そそ)ぎてステパノを()しに、その(かほ)御使(みつかひ)(かほ)(ごと)くなりき。

第七章

1かくて(だい)祭司(さいし)いふ『(これ)()のこと(はた)してかくの(ごと)きか』 2ステパノ()
兄弟(きゃうだい)たち(おや)たちよ、()け、(われ)らの先祖(せんぞ)アブラハム(いま)だカランに()まずして(なほ)メソポタミヤに()りしとき、榮光(えいくわう)(かみ)あらはれて、 3「なんぢの土地(とち)、なんぢの親族(しんぞく)(はな)れて、()(しめ)さんとする()()け」と()(たま)へり。 4ここにカルデヤの()()でてカランに()みたりしが、その(ちち)()にしのち、(かみ)(かれ)彼處(かしこ)より(なんぢ)らの(いま)()める()()(うつ)らしめ、 5此處(ここ)にて(あし)蹈立(ふみた)つる(ほど)()をも嗣業(しげふ)(あた)(たま)はざりき。(しか)るに、その()(いま)()なかりし(かれ)(かれ)(すゑ)とに所有(もちもの)として(あた)へんと(やく)(たま)へり。 6(かみ)また()(すゑ)(ほか)(くに)寄寓人(やどりびと)となり、その國人(くにびと)(これ)四百年(しひゃくねん)のあひだ奴隷(どれい)となして(くる)しめん(こと)()(たま)へり。 7(かみ)いひ(たま)ふ「われは(かれ)らを奴隷(どれい)とする國人(くにびと)(さば)かん、(しか)るのち(かれ)()その(くに)()で、この(ところ)にて(われ)(つか)へん」 8(かみ)また割禮(かつれい)契約(けいやく)をアブラハムに(あた)(たま)ひたれば、イサクを()みて八日(やうか)めに(これ)割禮(かつれい)(おこな)へり。イサクはヤコブを、ヤコブは十二(じふに)先祖(せんぞ)()めり。 9先祖(せんぞ)たちヨセフを(ねた)みてエジプトに()りしに、(かみ)(かれ)(とも)(いま)して、 10(すべ)ての患難(なやみ)より(これ)(すく)(いだ)し、エジプトの(わう)パロの(まへ)にて寵愛(ちょうあい)()させ、また智慧(ちゑ)(あた)(たま)ひたれば、パロ(これ)()ててエジプトと(おの)全家(ぜんか)との(つかさ)となせり。 11(とき)にエジプトとカナンの全地(ぜんち)とに飢饉(ききん)ありて(おほい)なる患難(なやみ)おこり、(われ)らの先祖(せんぞ)たち(かて)(もと)()ざりしが、 12ヤコブ、エジプトに穀物(こくもつ)あるを()きて、()(われ)らの先祖(せんぞ)たちを(つかは)す。 13二度(ふたたび)めの(とき)ヨセフその兄弟(きゃうだい)たちに()られ、ヨセフの氏族(しぞく)パロに(あきら)かになれり。 14ヨセフ()(つかは)して(おの)(ちち)ヤコブと(すべ)ての親族(しんぞく)(しち)(じふ)()(にん)(まね)きたれば、 15ヤコブ、エジプトに(くだ)り、彼處(かしこ)にて(おのれ)(われ)らの先祖(せんぞ)たちも()にたり。 16(かれ)()シケムに(おく)られ、(かつ)てアブラハムがシケムにてハモルの()()より(かね)をもて()()きし(はか)(はうむ)られたり。 17かくて(かみ)のアブラハムに(かた)(たま)ひし約束(やくそく)(とき)(ちか)づくに(したが)ひて、(たみ)はエジプトに()えひろがり、 18ヨセフを()らぬ(ほか)(わう)、エジプトに(おこ)るに(およ)べり。 19(わう)惡計(わるだくみ)をもて(われ)らの同族(やから)にあたり、(われ)らの先祖(せんぞ)たちを(くる)しめて、()嬰兒(みどりご)生存(いきながら)ふる(こと)なからんやう、(これ)()つるに(いた)らしめたり。 20その(ころ)モーセ(うま)れて(いと)うるはしくして三月(みつき)のあいだ(ちち)(いへ)(そだ)てられ、 21(つひ)()てられしを、パロの(むすめ)ひき()げて(おの)()として(そだ)てたり。 22かくてモーセはエジプト(ひと)(すべ)ての學術(がくじゅつ)(をし)へられ、(ことば)(わざ)とに能力(ちから)あり。 23年齡(よはひ)四十(しじふ)になりたる(とき)、おのが兄弟(きゃうだい)たるイスラエルの子孫(しそん)(かへり)みる(こころ)おこり、 24一人(ひとり)(そこな)はるるを()(これ)(まも)り、エジプト(ひと)()ちて、(しへた)げらるる(もの)(あた)(かへ)せり。 25(かれ)(おのれ)()によりて(かみ)(すくひ)(あた)へんとし(たま)ふことを、兄弟(きゃうだい)たち(さと)りしならんと(おも)ひたるに、(さと)らざりき。 26翌日(よくじつ)かれらの(あひ)(あらそ)ふところに(あらは)れて和睦(わぼく)(すす)めて()ふ「人々(ひとびと)よ、(なんぢ)らは兄弟(きゃうだい)なるに、(なに)(たがひ)(そこな)ふか」 27(となり)(そこな)(もの)モーセを押退(おしの)けて()ふ「(たれ)(なんぢ)()てて(われ)らの(つかさ)また審判(さばき)(ひと)とせしぞ、 28昨日(きのふ)エジプト(ひと)(ころ)したる(ごと)く、(われ)をも(ころ)さんとするか」 29この(ことば)により、モーセ(のが)れてミデアンの()寄寓人(やどりびと)となり、彼處(かしこ)にて二人(ふたり)()(まう)けたり。 30四十(しじふ)(ねん)()(のち)シナイ(やま)荒野(あらの)にて、御使(みつかひ)(しば)(ほのほ)のなかに(あらは)れたれば、 31モーセ(これ)()()るところを(あや)しみ、(みと)めんとして(ちか)づきしとき、(しゅ)(こゑ)あり。(いは)く、 32(われ)(なんぢ)先祖(せんぞ)たちの(かみ)(すなは)ちアブラハム、イサク、ヤコブの(かみ)なり」モーセ戰慄(ふるひをのの)()へて(みと)むることを()ず。 33(しゅ)いひ(たま)ふ「なんぢの(あし)(くつ)()げ、なんぢの()つところは(せい)なる()なり。 34(われ)エジプトに()()(たみ)苦難(くるしみ)()、その歎息(なげき)をききて(これ)(すく)はん(ため)(くだ)れり。いで(われ)なんぢをエジプトに(つかは)さん」 35()(かれ)らが「(たれ)(なんぢ)()てて(つかさ)また審判(さばき)(ひと)とせしぞ」と()ひて(こば)みし()のモーセを、(かみ)(しば)のなかに(あらは)れたる御使(みつかひ)()により、(つかさ)また救人(すくひて)として(つかは)(たま)へり。 36この(ひと)かれらを(みちび)(いだ)し、エジプトの()にても、また紅海(こうかい)および四十(しじふ)(ねん)のあひだ荒野(あらの)にても、不思議(ふしぎ)(しるし)とを(おこな)ひたり。 37イスラエルの()らに「(かみ)(なんぢ)らの兄弟(きゃうだい)(うち)より、()がごとき預言者(よげんしゃ)(おこ)(たま)はん」と()ひしは()のモーセなり。 38(かれ)はシナイ(やま)にて(かた)りし御使(みつかひ)および(われ)らの先祖(せんぞ)たちと(とも)荒野(あらの)なる集會(あつまり)()りて(なんぢ)らに(あた)へん(ため)()ける御言(みことば)(さづか)りし(ひと)なり。 39(しか)るに(われ)らの先祖(せんぞ)たちは()(ひと)(したが)ふことを(この)まず、(かへ)つて(これ)押退(おしの)け、その(こころ)エジプトに(かへ)りて、 40アロンに()ふ「(われ)らに(さき)だち()くべき神々(かみがみ)(つく)れ、(われ)らをエジプトの()より(みちび)(いだ)しし、かのモーセの如何(いか)になりしかを()らざればなり」 41その(ころ)かれら(こうし)(つく)り、その偶像(ぐうざう)犧牲(いけにへ)をささげて(おの)()所作(しわざ)(よろこ)べり。 42(ここ)(かみ)(かれ)らを(はな)れ、その(てん)軍勢(ぐんぜい)(つか)ふるに(まか)(たま)へり。これは預言者(よげんしゃ)たちの(ふみ)
「イスラエルの(いへ)よ、なんぢら
荒野(あらの)にて四十(しじふ)(ねん)(あひだ)
(ほふ)りし(けもの)犧牲(いけにへ)とを(われ)(ささ)げしや。
43(なんぢ)らは(はい)せんとして(つく)れる(ざう)
すなはちモロクの幕屋(まくや)
(かみ)ロンパの(ほし)とを()きたり。
われ(なんぢ)らをバビロンの彼方(かなた)(うつ)さん」
(しる)されたるが(ごと)し。 44(われ)らの先祖(せんぞ)たちは荒野(あらの)にて(あかし)幕屋(まくや)()てり、モーセに(かた)(たま)ひし(もの)の、(かれ)()(かた)(したが)ひて(つく)れと(めい)(たま)ひしままなり。 45(われ)らの先祖(せんぞ)たちは(これ)()()ぎ、先祖(せんぞ)たちの(まへ)より(かみ)()ひいだし(たま)ひし異邦人(いはうじん)領地(れうち)(をさ)めし(とき)、ヨシユアとともに(たづさ)(きた)りてダビデの()(およ)べり。 46ダビデ(かみ)(まへ)恩惠(めぐみ)()て、ヤコブの(かみ)のために住處(すみか)(まう)けんと(もと)めたり。 47(しか)して、その(いへ)()てたるはソロモンなりき。 48されど至高者(いとたかきもの)()にて(つく)れる(ところ)()(たま)はず、(すなは)預言者(よげんしゃ)
49(しゅ)のたまはく、(てん)()座位(くらゐ)
()()足臺(あしだい)なり。
(なんぢ)()わが(ため)如何(いか)なる(いへ)をか()てん、
わが休息(やすみ)のところは何處(いづこ)なるぞ。
50わが()(すべ)(これ)()(もの)(つく)りしにあらずや」
()へるが(ごと)し。 51項強(うなじこは)くして(こころ)(みみ)とに割禮(かつれい)なき(もの)よ、(なんぢ)らは(つね)(せい)(れい)(さから)ふ、その先祖(せんぞ)たちの(ごと)(なんぢ)らも(しか)り。 52(なんぢ)らの先祖(せんぞ)たちは預言者(よげんしゃ)のうちの(たれ)をか迫害(はくがい)せざりし。(かれ)らは義人(ぎじん)(きた)るを(あらか)じめ()げし(もの)(ころ)し、(なんぢ)らは(いま)この義人(ぎじん)()り、かつ(ころ)(もの)となれり。 53なんぢら、御使(みつかひ)たちの(つた)へし律法(おきて)()けて、(なほ)これを(まも)らざりき』
54人々(ひとびと)これらの(ことば)()きて、(こころ)いかりに滿()切齒(はがみ)しつつステパノに(むか)ふ。 55ステパノは(せい)(れい)にて滿()ち、(てん)()(そそ)ぎ、(かみ)榮光(えいくわう)およびイエスの(かみ)(みぎ)()ちたまふを()()ふ、 56()よ、われ(てん)(ひら)けて(ひと)()(かみ)(みぎ)()(たま)ふを()る』 57ここに(かれ)大聲(おほごゑ)(さけ)びつつ、(みみ)(おほ)(こころ)(ひと)つにして()()り、 58ステパノを(まち)より()ひいだし、(いし)にて()てり。證人(しょうにん)らその(ころも)をサウロといふ若者(わかもの)足下(あしもと)()けり。 59かくて(かれ)()がステパノを(いし)にて()てるとき、ステパノ()びて()ふ『(しゅ)イエスよ、()(れい)()けたまへ』 60また(ひざま)づきて大聲(おほごゑ)に『(しゅ)よ、この(つみ)(かれ)らの()はせ(たま)ふな』と(よば)はる。()()ひて(ねむり)()けり。

第八章

1サウロは(かれ)(ころ)さるるを()しとせり。
その()エルサレムに()教會(けうくわい)(むか)ひて(おほい)なる迫害(はくがい)おこり、使徒(しと)たちの(ほか)(みな)ユダヤ(およ)びサマリヤの地方(ちはう)(ちら)さる。 2敬虔(けいけん)なる人々(ひとびと)ステパノを(はうむ)り、(かれ)のために(おほい)(むね)()てり。 3サウロは教會(けうくわい)をあらし、家々(いへいへ)()男女(なんにょ)引出(ひきいだ)して(ひとや)(わた)せり。
4ここに(ちら)されたる(もの)ども()(めぐ)りて御言(みことば)()べしが、 5ピリポはサマリヤの(まち)(くだ)りてキリストの(こと)(つた)ふ。 6群衆(ぐんじゅう)ピリポの(おこな)(しるし)()(きき)して、(こころ)(ひと)つにし、(つつし)みて()(かた)(こと)どもを()けり。 7これ(おほ)くの(ひと)より、(これ)()きたる(けが)れし(れい)大聲(おほごゑ)(さけ)びて()で、また中風(ちゅうぶ)(もの)跛者(あしなへ)(おほ)(いや)されたるに()る。 8この(ゆゑ)にその(まち)(おほい)なる勸喜(よろこび)おこれり。
9ここにシモンといふ(ひと)あり、(さき)にその(まち)にて魔術(まじゅつ)(おこな)ひ、サマリヤ(ひと)(をどろ)かして(みづか)(おほい)なる(もの)(とな)へたり。 10(せう)より(だい)(いた)(すべ)ての(ひと)つつしみて(これ)()き『この(ひと)は、いわゆる(かみ)大能(たいのう)なり』といふ。 11かく(つつし)みて()けるは、(ひさ)しき(あひだ)その魔術(まじゅつ)(をどろ)かされし(ゆゑ)なり。 12(しか)るにピリポが、(かみ)(くに)とイエス・キリストの御名(みな)とに()きて宣傳(のべつた)ふるを人々(ひとびと)(しん)じたれば、男女(なんにょ)ともにバプテスマを()く。 13シモンも(また)みづから(しん)じ、バプテスマを()けて、(つね)にピリポと(とも)()り、その(おこな)(しるし)と、(おほい)なる能力(ちから)とを()(をどろ)けり。
14エルサレムに()使徒(しと)たちは、サマリヤ(ひと)(かみ)御言(みことば)()けたりと()きて、ペテロとヨハネとを(つかは)したれば、 15(かれ)(くだ)りて人々(ひとびと)(せい)(れい)()けんことを(いの)れり。 16これ(しゅ)イエスの()によりてバプテスマを()けしのみにて、(せい)(れい)いまだ()一人(ひとり)にだに(くだ)らざりしなり。 17ここに二人(ふたり)のもの(かれ)らの(うへ)()()きたれば、みな(せい)(れい)()けたり。 18使徒(しと)たちの按手(あんしゅ)によりて()御靈(みたま)(あた)へられしを()て、シモン(かね)()(きた)りて()ふ、 19『わが()()くすべての(ひと)(せい)(れい)()くるやうに、()權威(けんゐ)(われ)にも(あた)へよ』 20ペテロ(かれ)()ふ『なんぢの(ぎん)(なんぢ)とともに(ほろ)ぶべし、なんぢ(かね)をもて(かみ)賜物(たまもの)()んと(おも)へばなり。 21なんぢは()(こと)關係(かかはり)なく干與(あづかり)なし、なんぢの(こころ)(かみ)(まへ)(ただ)しからず。 22()ればこの(あく)悔改(くいあらた)めて(しゅ)(いの)れ、なんぢが(こころ)(おもひ)あるひは(ゆる)されん。 23(われ)なんぢが(にが)膽汁(たんじふ)不義(ふぎ)(つなぎ)とに()るを()るなり』 24シモン(こた)へて()ふ『なんぢらの()(ところ)のこと(ひと)つも(われ)(きた)らぬやう、(なんぢ)()がために(しゅ)(いの)れ』
25かくて使徒(しと)たちは(あかし)をなし、(しゅ)御言(みことば)(かた)りて(のち)、サマリヤ(ひと)(おほ)くの(むら)福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へつつエルサレムに(かへ)れり。
26(しか)るに(しゅ)使(つかひ)ピリポに(かた)りて()ふ『なんぢ()ちて(みなみ)(むか)ひエルサレムよりガザに(くだ)(みち)()け。そこは荒野(あらの)なり』 27ピリポ()ちて()きたれば、()よ、エテオピヤの女王(にょわう)カンダケの權官(けんくわん)にして、(すべ)ての寳物(はうもつ)(つかさ)どる閹人(えんじん)エテオピヤ(ひと)あり、禮拜(れいはい)(ため)にエルサレムに(のぼ)りしが、 28(かへ)(みち)すがら馬車(ばしゃ)()して預言者(よげんしゃ)イザヤの(ふみ)()みゐたり。 29御靈(みたま)ピリポに()(たま)ふ『ゆきて()馬車(ばしゃ)近寄(ちかよ)れ』 30ピリポ(はし)()りて、その預言者(よげんしゃ)イザヤの(ふみ)()むを()きて()ふ『なんぢ()()むところを(さと)るか』 31閹人(えんじん)いふ『(みちび)(もの)なくば、いかで(さと)()ん』(しか)してピリポに、()りて(とも)()せんことを()ふ。 32その()むところの聖書(せいしょ)(ぶん)(これ)なり
(かれ)(ひつじ)屠場(はふりば)()くが(ごと)()かれ、
羔羊(こひつじ)のその()()(もの)のまへに(もだ)すがごとく
(くち)(ひら)かず。
33(いや)しめられて審判(さばき)(うば)はれたり、
(たれ)かその()(さま)()()んや。
その生命(いのち)地上(ちじゃう)より()られたればなり』
34閹人(えんじん)こたへてピリポに()ふ『預言者(よげんしゃ)(たれ)()きて()()へるぞ、(おのれ)()きてか、(ひと)()きてか、()(しめ)せ』 35ピリポ(くち)(ひら)き、この(せい)()(はじめ)としてイエスの福音(ふくいん)宣傳(のべつた)ふ。 36(みち)(すす)むる(ほど)(みづ)ある(ところ)(きた)りたれば、閹人(えんじん)いふ『()よ、(みづ)あり、()がバプテスマを()くるに(なに)(さは)りかある』 37[なし] 38(すなは)(めい)じて馬車(ばしゃ)(とど)め、ピリポと閹人(えんじん)二人(ふたり)ともに(みづ)(くだ)りて、ピリポ閹人(えんじん)にバプテスマを(さづ)く。 39(かれ)(みづ)より(あが)りしとき、(しゅ)(れい)ピリポを取去(とりさ)りたれば、閹人(えんじん)ふたたび(かれ)()ざりしが、(よろこ)びつつ()(みち)(すす)()けり。 40かくてピリポはアゾトに(あらは)れ、町々(まちまち)()福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へつつカイザリヤに(いた)れり。

第九章

1サウロは(しゅ)弟子(でし)たちに(たい)して、なほ恐喝(おびやかし)殺害(せつがい)との()(みた)し、(だい)祭司(さいし)にいたりて、 2ダマスコにある(しょ)教會(けうくわい)への添書(そへぶみ)()ふ。この(みち)(もの)見出(みいだ)さば、男女(なんにょ)にかかはらず(しば)りてエルサレムに()かん(ため)なり。 3()きてダマスコに(ちか)づきたるとき、(たちま)(てん)より(ひかり)いでて、(かれ)(めぐ)(てら)したれば、 4かれ()(たふ)れて『サウロ、サウロ、(なに)(われ)迫害(はくがい)するか』といふ(こゑ)をきく。 5(かれ)いふ『(しゅ)よ、なんぢは(たれ)ぞ』(こた)へたまふ『われは(なんぢ)迫害(はくがい)するイエスなり。 6()きて(まち)()れ、さらば(なんぢ)なすべき(こと)()げらるべし』 7同行(どうかう)人々(ひとびと)(もの)()ふこと(あた)はずして()ちたりしが、(こゑ)()けども(たれ)をも()ざりき。 8サウロ()より()きて()をあけたれど(なに)()えざれば、(ひと)その()をひきてダマスコに(みちび)きゆきしに、 9三日(みっか)のあひだ()えず、また飮食(のみくひ)せざりき。
10さてダマスコにアナニヤといふ一人(ひとり)弟子(でし)あり、幻影(まぼろし)のうちに(しゅ)いひ(たま)ふ『アナニヤよ』(こた)ふ『(しゅ)よ、(われ)ここに()り』 11(しゅ)いひ(たま)ふ『()きて(すぐ)といふ(ちまた)にゆき、ユダの(いへ)にてサウロといふタルソ(ひと)(たづ)ねよ。()よ、(かれ)(いの)りをるなり。 12(また)アナニアといふ(ひと)()(きた)りて、(ふたた)()ゆることを()しめんために、()(おの)がうへに()くを()たり』 13アナニヤ(こた)ふ『(しゅ)よ、われ(おほ)くの(ひと)より()(ひと)()きて()きしに、(かれ)がエルサレムにて(なんぢ)聖徒(せいと)(がい)(くは)へしこと如何(いか)ばかりぞや。 14また此處(ここ)にても、(すべ)(なんぢ)御名(みな)をよぶ(もの)(しば)(けん)祭司長(さいしちゃう)らより()けをるなり』 15(しゅ)いひ(たま)ふ『()け、この(ひと)異邦人(いはうじん)(わう)たち・イスラエルの子孫(しそん)のまへに、()()()ちゆく()(えらび)(うつは)なり。 16(われ)かれに()()のために如何(いか)(おほ)くの苦難(くるしみ)()くるかを(しめ)さん』 17ここにアナニヤ()きて()(いへ)にいり、(かれ)(うへ)()をおきて()ふ『兄弟(きゃうだい)サウロよ、(しゅ)すなはち(なんぢ)(きた)(みち)にて(あらは)(たま)ひしイエス、われを(つかは)(たま)へり。なんぢが(ふたた)()ることを()、かつ(せい)(れい)にて滿(みた)されん(ため)なり』 18(ただ)ちに(かれ)()より(うろこ)のごときもの()ちて()ることを()、すなはち()きてバプテスマを()け、 19かつ食事(しょくじ)して(ちから)づきたり。
サウロは數日(すにち)(あひだ)ダマスコの弟子(でし)たちと(とも)にをり、 20(ただ)ちに(しょ)會堂(くわいだう)にて、イエスの(かみ)()なることを()べたり。 21()(もの)みな(をどろ)きて()ふ『こはエルサレムにて()()をよぶ(もの)(そこな)ひし(ひと)ならずや、(また)ここに(きた)りしも、(これ)(しば)りて祭司長(さいしちゃう)らの(もと)()きゆかんが(ため)ならずや』 22サウロますます能力(ちから)くははり、イエスのキリストなることを論證(ろんしょう)して、ダマスコに()むユダヤ(びと)()()せたり。
23()()ること(ひさ)しくして(のち)、ユダヤ(びと)かれを(ころ)さんと(あひ)(はか)りたれど、 24その計畧(はかりごと)サウロに()らる。かくて(かれ)らはサウロを(ころ)さんとて、(ひる)(よる)(まち)(もん)(まも)りしに、 25その弟子(でし)夜中(やちゅう)かれを(かご)にて石垣(いしがき)より()(おろ)せり。
26ここにサウロ、エルサレムに(いた)りて弟子(でし)たちの(うち)(つらな)らんとすれど、(みな)かれが弟子(でし)たるを(しん)ぜずして(おそ)れたり。 27(しか)るにバルナバ(かれ)(むか)へて、使徒(しと)たちの(もと)(ともな)ひゆき、その(みち)にて(しゅ)()しこと、(しゅ)(これ)(もの)()(たま)ひしこと、(また)ダマスコにてイエスの()のために(おく)せず(かた)りし(こと)などを(つぶさ)()ぐ。 28ここにサウロはエルサレムにて弟子(でし)たちと(とも)出入(いでいり)し、 29(しゅ)御名(みな)のために(おく)せず(かた)り、(また)ギリシヤ(ことば)のユダヤ(びと)と、かつ(かた)りかつ(ろん)じたれば、(かれ)()これを(ころ)さんと(はか)りしに、 30兄弟(きゃうだい)たち()りて(かれ)をカイザリヤに(ともな)(くだ)り、タルソに()かしめたり。
31かくてユダヤ、ガリラヤ(およ)びサマリヤを(つう)じて、教會(けうくわい)平安(へいあん)()、ややに堅立(けんりつ)し、(しゅ)(おそ)れて(あゆ)み、(せい)(れい)祐助(たすけ)によりて人數(にんず)いや()せり。
32ペテロは(あまね)四方(しはう)をめぐりてルダに()聖徒(せいと)(もと)にいたり、 33彼處(かしこ)にてアイネヤといふ(ひと)中風(ちゅうぶ)(わづら)ひて(はち)(ねん)のあひだ(とこ)()()るに()ふ。 34かくてペテロ(これ)に『アイネヤよ、イエス・キリスト(なんぢ)(いや)したまふ、()きて(とこ)(をさ)めよ』と()ひたれば、(ただ)ちに()きたり。 35ここにルダ(およ)びサロンに()(もの)みな(これ)()(しゅ)歸依(きえ)せり。
36ヨツパにタビタと()(をんな)弟子(でし)あり、その()(やく)すればドルカスなり。()(をんな)は、ひたすら()(わざ)施濟(ほどこし)とをなせり。 37(かれ)そのころ()みて()にたれば、(これ)(あら)ひて高樓(たかどの)()く。 38ルダはヨツパに(ちか)ければ、弟子(でし)たちペテロの彼處(かしこ)()るを()きて、二人(ふたり)(もの)(つかは)し『ためらはで(われ)らに(きた)れ』と()はしむ。 39ペテロ()ちてともに()き、(つひ)(いた)れば、(かれ)高樓(たかどの)()れてのぼりしに、寡婦(やもめ)らみな(これ)をかこみて()きつつ、ドルカスが(とも)()りしほどに(つく)りし下衣(したぎ)上衣(うはぎ)()せたり。 40ペテロ(かれ)()をみな(そと)(いだ)し、(ひざま)づきて(いの)りし(のち)、ふりかへり屍體(しかばね)(むか)ひて『タビタ、()きよ』と()ひたれば、かれ()(ひら)き、ペテロを()起反(おきかへ)れり。 41ペテロ()をあたへ、(おこ)して聖徒(せいと)寡婦(やもめ)とを()び、タビタを()きたるままにて()す。 42この(こと)ヨツパ(ぢゅう)()られたれば、(おほ)くの(ひと)(しゅ)(しん)じたり。 43ペテロ皮工(かはなめし)シモンの(いへ)にありて()(ひさ)しくヨツパに(とどま)れり。

第十章

1ここにカイザリヤにコルネリオといふ(ひと)あり、イタリヤ(たい)(とな)ふる軍隊(ぐんたい)百卒長(ひゃくそつちゃう)なるが、 2敬虔(けいけん)にして全家族(ぜんかぞく)とともに(かみ)(おそ)れ、かつ(たみ)(おほ)くの施濟(ほどこし)をなし、(つね)(かみ)(いの)れり。 3(ある)()午後(ごご)三時(さんじ)ごろ幻影(まぼろし)のうちに(かみ)使(つかひ)きたりて『コルネリオよ』と()ふを(あきら)かに()たれば、 4(これ)()をそそぎ(おそ)れて()ふ『(しゅ)よ、何事(なにごと)ぞ』御使(みつかひ)いふ『なんぢの(いのり)施濟(ほどこし)とは、(かみ)(まへ)(のぼ)りて記念(きねん)とせらる。 5(いま)ヨツパに(ひと)(つかは)してペテロと(とな)ふるシモンを(まね)け、 6(かれ)皮工(かはなめし)シモンの(いへ)宿(やど)る。その(いへ)海邊(うみべ)にあり』 7()(かた)れる御使(みつかひ)()りし(のち)、コルネリオ(おの)(しもべ)二人(ふたり)從卒中(じゅうそつちゅう)敬虔(けいけん)なる(もの)一人(ひとり)とを()び、 8(すべ)ての(こと)()げてヨツパに(つかは)せり。
9()くる()かれらなほ途中(とちゅう)にあり、(すで)(まち)(ちか)づかんとする(ころ)ほひ、ペテロ(いの)らんとて()(うへ)(のぼ)る、(とき)(ひる)十二(じふに)()ごろなりき。 10()ゑて物欲(ものほ)しくなり、(ひと)(しょく)調(ととの)ふるほどに(われ)(わす)れし心地(ここち)して、 11(てん)(ひら)け、(うつは)のくだるを()る、(おほい)なる(ぬの)のごとき(もの)にして、四隅(よすみ)もて()()(おろ)されたり。 12その(なか)には諸種(もろもろ)(よつ)(あし)のもの、()()ふもの、(そら)(とり)あり。 13また(こゑ)ありて()ふ『ペテロ、()て、(ほふ)りて(しょく)せよ』 14ペテロ()ふ『(しゅ)よ、()からじ、(われ)いまだ(きよ)からぬもの(けが)れたる(もの)(しょく)せし(こと)なし』 15(こゑ)(ふたた)びありて()ふ『(かみ)(きよ)(たま)ひし(もの)を、なんぢ(きよ)からずとすな』 16かくの(ごと)きこと三度(みたび)にして、(うつは)(ただ)ちに(てん)()げられたり。
17ペテロその()幻影(まぼろし)(なに)()なるか、(こころ)(まど)ふほどに、()よ、コルネリオより(つかは)されたる(ひと)、シモンの(いへ)(たづ)ねて(もん)(まへ)()ち、 18(おとな)ひて、ペテロと(とな)ふるシモンの此處(ここ)宿(やど)るかを()ふ。 19ペテロなほ幻影(まぼろし)()きて打案(うちあん)じゐたるに、御靈(みたま)いひ(たま)ふ『()よ、三人(さんにん)なんぢを(たづ)ぬ。 20()ちて(くだ)(うたが)はずして(とも)()け、(かれ)らを(つかは)したるは(われ)なり』 21ペテロ(くだ)りて、かの(ひと)たちに()ふ『()よ、(われ)(なんぢ)らの(たづ)ぬる(もの)なり、(なに)(ゆゑ)ありて(きた)るか』 22かれら()ふ『義人(ぎじん)にして(かみ)(おそ)れ、ユダヤの國人(くにびと)(うち)令聞(よききこえ)ある百卒長(ひゃくそつちゃう)コルネリオ、(せい)なる御使(みつかひ)より、(なんぢ)(いへ)(まね)きて、その(かた)ることを()けとの(つげ)()けたり』 23ここにペテロ(かれ)らを(むか)()れて宿(やど)らす。
()くる()たちて(かれ)らと(とも)()でゆきしが、ヨツパの兄弟(きゃうだい)數人(すにん)ともに()けり。 24()くる()カイザリヤに()りし(とき)、コルネリオは親族(しんぞく)および(した)しき朋友(ほういう)()(あつ)めて(かれ)らを()ちゐたり。 25ペテロ()(きた)れば、コルネリオ(これ)(むか)へ、その足下(あしもと)()して(はい)す。 26ペテロ(かれ)(おこ)して()ふ『()て、(われ)(ひと)なり』 27かくて(あひ)(かた)りつつ(うち)()り、(おほ)くの(ひと)(あつま)れるを()て、ペテロ(これ)()ふ、 28『なんぢらの()(ごと)く、ユダヤ(びと)たる(もの)(ほか)國人(くにびと)(まじは)りまた(ちか)づくことは、律法(おきて)(かな)はぬ(ところ)なり、()れど(かみ)は、(なに)(ひと)をも(けが)れたるもの(きよ)からぬ(もの)()ふまじきことを(われ)(しめ)したまへり。 29この(ゆゑ)に、われ(まね)かるるや躊躇(ためら)はずして(きた)れり。()れば()ふ、(なんぢ)らは(なに)(ゆゑ)(われ)をまねきしか』 30コルネリオ()ふ『われ四日(よっか)(まへ)()(いへ)にて午後(ごご)三時(さんじ)(いのり)をなし、()時刻(じこく)(いた)りしに、()よ、(かがや)(ころも)()たる(ひと)、わが(まへ)()ちて、 31「コルネリオよ、(なんぢ)(いのり)()かれ、なんぢの施濟(ほどこし)(かみ)(まへ)(おぼ)えられたり。 32(ひと)をヨツパに(おく)りてペテロと(とな)ふるシモンを(まね)け、かれは海邊(うみべ)なる皮工(かはなめし)シモンの(いへ)宿(やど)るなり」と()へり。 33われ(すみや)かに(ひと)(なんぢ)(つかは)したるに、(なんぢ)(きた)れるは(かたじ)けなし。いま我等(われら)はみな、(しゅ)(なんぢ)(めい)(たま)ひし(すべ)てのことを()かんとて、(かみ)(まへ)()り』 34ペテロ(くち)(ひら)きて()ふ、
『われ(いま)まことに()る、(かみ)(かたよ)ることをせず、 35(いづ)れの(くに)(ひと)にても(かみ)(うやま)ひて()をおこなふ(もの)()(たま)ふことを。 36(かみ)はイエス・キリスト(これ萬民(ばんみん)(しゅ))によりて平和(へいわ)福音(ふくいん)をのべ、イスラエルの子孫(しそん)(ことば)をおくり(たま)へり。 37(すなは)ちヨハネの(つた)へしバプテスマの(のち)、ガリラヤより(はじま)り、ユダヤ全國(ぜんこく)(ひろま)りし(ことば)なるは(なんぢ)らの()(ところ)なり。 38これは(かみ)(せい)(れい)能力(ちから)とを(そそ)(たま)ひしナザレのイエスの(こと)にして、(かれ)(あまね)くめぐりて()(こと)をおこなひ、(すべ)惡魔(あくま)(せい)せらるる(もの)(いや)せり、(かみ)これと(とも)(いま)したればなり。 39我等(われら)はユダヤの()およびエルサレムにて、イエスの(おこな)(たま)ひし諸般(もろもろ)のことの證人(しょうにん)なり、人々(ひとびと)(かれ)()にかけて(ころ)せり。 40(かみ)(これ)三日(みっか)めに(よみが)へらせ、かつ(あきら)かに(あらは)したまへり。 41()れど(すべ)ての(たみ)にはあらで、(かみ)(あらか)じめ(えら)(たま)へる證人(しょうにん)(すなは)ちイエスの死人(しにん)(うち)より(よみが)へり(たま)ひし(のち)、これと(とも)飮食(のみくひ)せし(われ)らに(あらは)(たま)ひしなり。 42イエスは(おのれ)()ける(もの)()にたる(もの)との審判(さばき)(ぬし)に、(かみ)より(さだ)められしを(あかし)することと、(たみ)どもに宣傳(のべつた)ふる(こと)とを(われ)らに(めい)(たま)ふ。 43(かれ)につきては預言者(よげんしゃ)たちも(みな)、おほよそ(かれ)(しん)ずる(もの)の、その()によりて(つみ)(ゆるし)()べきことを(あかし)す』
44ペテロ(なほ)これらの(ことば)(かた)りをる(うち)に、(せい)(れい)御言(みことば)をきく(すべ)ての(もの)(くだ)りたまふ。 45ペテロと(とも)(きた)りし割禮(かつれい)ある信者(しんじゃ)は、異邦人(いはうじん)にも(せい)(れい)賜物(たまもの)のそそがれしに(をどろ)けり。 46そは(かれ)らが異言(いげん)をかたり、(かみ)(あが)むるを()きたるに()る。 47ここにペテロ(こた)へて()ふ『この人々(ひとびと)われらの(ごと)(せい)(れい)をうけたれば、(たれ)(みづ)(きん)じて()のバプテスマを()くることを(こば)()んや』 48(つひ)にイエス・キリストの御名(みな)によりてバプテスマを(さづ)けられんことを(めい)じたり。ここに(かれ)らペテロに數日(すにち)とどまらんことを()へり。

第十一章

1使徒(しと)たち(およ)びユダヤに()兄弟(きゃうだい)たちは、異邦人(いはうじん)(かみ)(ことば)()けたりと()く。 2かくてペテロのエルサレムに(のぼ)りしとき、割禮(かつれい)ある(もの)ども(かれ)(なじ)りて()ふ、 3『なんぢ割禮(かつれい)なき(もの)(うち)()りて(これ)(とも)(しょく)せり』 4ペテロ()りし(こと)(ついで)(ただ)しく()(いだ)して()ふ、 5『われヨツパの(まち)にて(いの)()るとき、(われ)(わす)れし心地(ここち)し、幻影(まぼろし)にて(うつは)のくだるを()る、(おほい)なる(ぬの)のごとき(もの)にして、四隅(よすみ)もて(てん)より()(おろ)され()(もと)にきたる。 6われ()()めて(これ)()るに、()(よつ)(あし)のもの、()(けもの)()ふもの、(そら)(とり)()たり。 7また「ペテロ、()て、(ほふ)りて(しょく)せよ」といふ(こゑ)()けり。 8(われ)いふ「(しゅ)よ、()からじ、(きよ)からぬもの(けが)れたる(もの)は、(かつ)()(くち)()りしことなし」 9(ふたた)(てん)より(こゑ)ありて(こた)ふ「(かみ)(きよ)(たま)ひし(もの)を、なんぢ(きよ)からずと()な」 10かくの(ごと)きこと三度(みたび)にして、(つひ)にはみな(てん)引上(ひきあ)げられたり。 11()よ、三人(さんにん)(もの)カイザリヤより(われ)(つかは)されて、はや(われ)らの()(いへ)(まへ)()てり。 12御靈(みたま)われに、(うたが)はずして(かれ)らと(とも)()くことを()(たま)ひたれば、()(ろく)(にん)兄弟(きゃうだい)(われ)とともに()きて、かの(ひと)(いへ)()れり。 13(かれ)はおのが(いへ)御使(みつかひ)()ちて「(ひと)をヨツパに(つかは)し、ペテロと(とな)ふるシモンを(まね)け、 14その(ひと)、なんぢと(なんぢ)全家族(ぜんかぞく)との(すく)はるべき(ことば)(かた)らん」と()ふを、()しことを(われ)らに()げたり。 15ここに、われ(かた)()づるや、(せい)(れい)かれらの(うへ)(くだ)りたまふ、(はじ)(われ)らの(うへ)(くだ)りし(ごと)し。 16われ(しゅ)(かつ)て「ヨハネは(みづ)にてバプテスマを(ほどこ)ししが、(なんぢ)らは(せい)(れい)にてバプテスマを(ほどこ)されん」と宣給(のたま)ひし御言(みことば)(おも)(いだ)せり。 17(かみ)われらが(しゅ)イエス・キリストを(しん)ぜしときに(たま)ひしと(おな)賜物(たまもの)(かれ)らにも(たま)ひたるに、われ(なに)(もの)なれば(かみ)(はば)()ん』 18人々(ひとびと)これを()きて默然(もくねん)たりしが、(やが)(かみ)(あが)めて()ふ『されば(かみ)異邦人(いはうじん)にも生命(いのち)()さする悔改(くいあらため)(あた)(たま)ひしなり』
19かくてステパノによりて(おこ)りし迫害(はくがい)のために(ちら)されたる(もの)ども、ピニケ、クブロ、アンテオケまで(いた)り、ただユダヤ(びと)にのみ御言(みことば)(かた)りたるに、 20その(うち)にクブロ(およ)びクレネの(ひと)數人(すにん)ありて、アンテオケに(きた)りし(とき)、ギリシヤ(びと)にも(かた)りて(しゅ)イエスの福音(ふくいん)宣傳(のべつた)ふ。 21(しゅ)()かれらと(とも)にありたれば、數多(あまた)(ひと)(しん)じて(しゅ)歸依(きえ)せり。 22この(こと)エルサレムに()教會(けうくわい)(きこ)えたれば、バルナバをアンテオケに(つかは)す。 23かれ(きた)りて、(かみ)恩惠(めぐみ)()てよろこび、(かれ)()に、みな(こころ)(かた)くして(しゅ)にをらんことを(すす)む。 24(かれ)(せい)(れい)信仰(しんかう)とにて滿()ちたる()(ひと)なればなり。ここに(おほ)くの人々(ひとびと)(しゅ)(くは)はりたり。 25かくてバルナバはサウロを(たづ)ねんとてタルソに()き、 26(かれ)()ひてアンテオケに(ともな)ひきたり、二人(ふたり)ともに一年(いちねん)(あひだ)かしこの教會(けうくわい)集會(あつまり)()でて(おほ)くの(ひと)(をし)ふ。弟子(でし)たちのキリステアンと(とな)へらるる(こと)はアンテオケより(はじま)れり。
27その(ころ)エルサレムより預言者(よげんしゃ)たちアンテオケに(くだ)る。 28その(うち)一人(ひとり)アガボと()ふもの()ちて、(おほい)なる飢饉(ききん)全世界(ぜんせかい)にあるべきことを御靈(みたま)によりて(しめ)せるが、(はた)してクラウデオの(とき)(おこ)れり。 29ここに弟子(でし)たち各々(おのおの)(ちから)(おう)じてユダヤに()兄弟(きゃうだい)たちに扶助(たすけ)をおくらん(こと)をさだめ、 30(つひ)(これ)をおこなひ、バルナバ(およ)びサウロの()(たく)して長老(ちゃうらう)たちに(おく)れり。

第十二章

1その(ころ)ヘロデ(わう)教會(けうくわい)のうちの(ある)(ひと)どもを(くる)しめんとて()(くだ)し、 2(つるぎ)をもてヨハネの兄弟(きゃうだい)ヤコブを(ころ)せり。 3この(こと)ユダヤ(びと)(こころ)(かな)ひたるを()て、またペテロをも(とら)ふ、(ころ)除酵祭(じょかうさい)(とき)なりき。 4すでに()りて(ひとや)()れ、過越(すぎこし)(のち)(たみ)のまへに()(いだ)さんとの心構(こころがまへ)にて、四人(よにん)一組(ひとくみ)なる四組(よくみ)兵卒(へいそつ)(わた)して(これ)(まも)らせたり。 5かくてペテロは(ひとや)のなかに(とら)はれ、教會(けうくわい)熱心(ねっしん)(かれ)のために(かみ)(いのり)をなせり。 6ヘロデこれを()(いだ)さんとする()(まへ)()、ペテロは(ふた)つの(くさり)にて(つな)がれ、二人(ふたり)兵卒(へいそつ)のあひだに(ねむ)り、番兵(ばんぺい)らは門口(かどぐち)にゐて(ひとや)(まも)りたるに、 7()よ、(しゅ)使(つかひ)ペテロの(かたは)らに()ちて、光明(ひかり)室内(しつない)にかがやく。御使(みつかひ)かれの(わき)をたたき、(さま)していふ『()()きよ』かくて(くさり)その()より()ちたり。 8御使(みつかひ)いふ『(おび)をしめ、(くつ)をはけ』(かれ)その(ごと)()たれば、(また)いふ『上衣(うはぎ)をまとひて(われ)(したが)へ』 9ペテロ()でて(したが)ひしが、御使(みつかひ)のする(こと)(まこと)なるを()らず、幻影(まぼろし)()るならんと(おも)ふ。 10かくて第一(だいいち)第二(だいに)警固(かため)()ぎて(まち)()るところの(てつ)(もん)(いた)れば、(もん)おのづから(かれ)()のために(ひら)け、(あひ)(とも)にいでて(ひと)つの(ちまた)()ぎしとき、(ただ)ちに御使(みつかひ)はなれたり。 11ペテロ(われ)(かへ)りて()ふ『われ(いま)まことに()る、(しゅ)その使(つかひ)(つかは)して、ヘロデの()およびユダヤの(たみ)(すべ)(おも)(まう)けし(こと)より、(われ)(すく)(いだ)(たま)ひしを』 12()(さと)りてマルコと(とな)ふるヨハネの(はは)マリヤの(いへ)()きしが、其處(そこ)には數多(あまた)のもの(あつま)りて(いの)りゐたり。 13ペテロ(もん)()(たた)きたれば、ロダといふ婢女(はしため)ききに()できたり、 14ペテロの(こゑ)なるを()りて、勸喜(よろこび)のあまりに(もん)()けずして(はし)()り、ペテロの(もん)(まへ)()てることを()げたれば、 15(かれ)ら『なんぢは()(くる)へり』と()ふ。()れどロダは(それ)なりと言張(いいは)る。かれら()ふ『それはペテロの御使(みつかひ)ならん』 16(しか)るにペテロなほ(たた)きて()まざれば、かれら(もん)をひらき(これ)()(をどろ)けり。 17かれ()(うご)かして人々(ひとびと)(しづ)め、(しゅ)(おのれ)(ひとや)より(みちび)きいだし(たま)ひしことを(つぶさ)(かた)り『これをヤコブと兄弟(きゃうだい)たちとに()げよ』と()ひて(ほか)(ところ)()()けり。 18夜明(よあけ)になりて、ペテロは如何(いか)にせしとて兵卒(へいそつ)(うち)(さわぎ)一方(ひとかた)ならず。 19ヘロデ(これ)(もと)むれど見出(みいだ)さず、(つひ)守卒(しゅそつ)(ただ)して死罪(しざい)(めい)じ、(しか)してユダヤよりカイザリヤに(くだ)りて(とどま)れり。
20(さて)ヘロデ、ツロとシドンとの人々(ひとびと)(いた)(いか)りたれば、()(たみ)ども(こころ)(ひと)つにして(かれ)(もと)にいたり、(わう)内侍(ないじ)(しん)ブラストに(とり)()りて和諧(やはらぎ)(もと)む。かれらの地方(ちはう)(わう)(くに)より食品(しょくひん)()るに()りてなり。 21ヘロデ(さだ)めたる()(およ)びて(わう)(ふく)()高座(かうざ)()して(こと)()べたれば、 22集民(しふみん)よばはりて『これ(かみ)(こゑ)なり、(ひと)(こゑ)にあらず』と()ふ。 23ヘロデ(かみ)榮光(えいくわう)()せぬに()りて、(しゅ)使(つかひ)たちどころに(かれ)()ちたれば、(むし)()まれて(いき)()えたり。
24かくて(しゅ)御言(みことば)いよいよ増々(ますます)ひろまる。
25バルナバ、サウロはその職務(つとめ)(はた)し、マルコと(とな)ふるヨハネを(ともな)ひてエルサレムより(かへ)れり。

第十三章

1アンテオケの教會(けうくわい)にバルナバ、ニゲルと(とな)ふるシメオン、クレネ(びと)ルキオ、國守(こくしゅ)ヘロデの()兄弟(きゃうだい)マナエン(およ)びサウロなどいふ預言者(よげんしゃ)教師(けうし)とあり。 2(かれ)らが(しゅ)(つか)斷食(だんじき)したるとき、(せい)(れい)いひ(たま)ふ『わが()して(おこな)はせんとする(わざ)(ため)に、バルナバとサウロとを(えら)び、(わか)て』 3ここに(かれ)斷食(だんじき)し、(いの)りて二人(ふたり)(うへ)()()きて()かしむ。
4この二人(ふたり)(せい)(れい)(つかは)されてセルキヤに(くだ)り、彼處(かしこ)より(ふね)にてクプロに(わた)り、 5サラミスに()きてユダヤ(びと)(しょ)會堂(くわいだう)にて(かみ)(ことば)宣傳(のべつた)へ、またヨハネを助人(たすけて)として(ともな)ふ。 6(あまね)くこの(しま)()()きてパポスに(いた)り、バルイエスといふユダヤ(びと)にて(にせ)預言者(よげんしゃ)たる魔術(まじゅつ)(しゃ)()ふ。 7(かれ)地方(ちはう)總督(そうとく)なる(さと)(ひと)セルギオ・パウロと(とも)にありき。總督(そうとく)はバルナバとサウロとを(まね)(かみ)(ことば)()かんとしたるに、 8かの魔術(まじゅつ)(しゃ)エルマ(この()()けば魔術(まじゅつ)(しゃ)二人(ふたり)(てき)(たい)して總督(そうとく)信仰(しんかう)(みち)より(はな)れしめんとせり。 9サウロ(また)()はパウロ、(せい)(れい)滿(みた)され、(かれ)()()めて()ふ、 10『ああ()らゆる詭計(たばかり)奸惡(かんあく)とにて滿()ちたる(もの)惡魔(あくま)()、すべての()(てき)よ、なんぢ(しゅ)(なほ)(みち)()げて()まぬか。 11()よ、いま(しゅ)御手(みて)なんぢの(うへ)にあり、なんぢ盲目(めしひ)となりて(しばら)()()ざるべし』かくて立刻(たちどころ)(かすみ)(やみ)とその()(おほ)ひたれば、(さぐ)(まは)りて(みちび)きくるる(もの)(もと)む。 12ここに總督(そうとく)この()りし(こと)()て、(しゅ)(をしへ)(をどろ)きて(しん)じたり。
13さてパウロ(およ)(これ)(ともな)人々(ひとびと)、パポスより船出(ふなで)してパンフリヤのペルガに(いた)り、ヨハネは(はな)れてエルサレムに(かへ)れり。 14(かれ)らはペルガより(すす)()きてピシデヤのアンテオケに(いた)り、安息(あんそく)(にち)會堂(くわいだう)()りて()せり。 15律法(おきて)および預言者(よげんしゃ)(ふみ)朗讀(らうどく)ありしのち、會堂(くわいだう)(つかさ)たち(ひと)(かれ)らに(つかは)し『兄弟(きゃうだい)たちよ、もし(たみ)(すすめ)(ことば)あらば()へ』と()はしめたれば、 16パウロ()ちて()(うご)かして()ふ、
『イスラエルの人々(ひとびと)および(かみ)(おそ)るる(もの)よ、()け。 17このイスラエルの(たみ)(かみ)は、(われ)らの先祖(せんぞ)(えら)び、そのエジプトの()寄寓(やどり)せし(とき)、わが(たみ)をおこし、(つよ)御腕(みうで)にて(これ)(みちび)きいだし、 18おほよそ四十(しじふ)(ねん)のあひだ、荒野(あらの)にて(かれ)らの所作(しわざ)(しの)び、 19カナンの()にて(なな)つの民族(みんぞく)をほろぼし、その()(かれ)らに()がしめて、 20(おほよ)()(ひゃく)()(じふ)(ねん)()たり。()ののち預言者(よげんしゃ)サムエルの時代(じだい)まで審判(さばき)(ひと)(たま)ひしを、 21(のち)(いた)りて(かれ)(わう)(もと)めたれば、(かみ)(これ)にキスの()サウロと()ふベニヤミンの(やから)(ひと)四十(しじふ)(ねん)のあひだ(たま)ひ、 22(これ)退(しりぞ)けて(のち)、ダビデを()げて(わう)となし、(かつ)これを(あかし)して「(われ)エッサイの()ダビデといふ()(こころ)(かな)(もの)見出(みいだ)せり、(かれ)わが(こころ)をことごとく(おこな)はん」と宣給(のたま)へり。 23(かみ)約束(やくそく)(したが)ひて()(ひと)(すゑ)より、イスラエルの(ため)救主(すくひぬし)イエスを(おこ)(たま)ひしが、 24その(きた)(まへ)にヨハネ(あらか)じめイスラエルの(すべ)ての(たみ)悔改(くいあらため)のバプテスマを宣傳(のべつた)へたり。 25かくてヨハネ(おの)(はし)るべき道程(みちのり)()へんとする(とき)「なんぢら(われ)(たれ)(おも)ふか、(われ)はかの(ひと)にあらず、()よ、(われ)(おく)れて(きた)(もの)あり、(われ)はその(くつ)(ひも)()くにも()らず」と()へり。 26兄弟(きゃうだい)たち、アブラハムの血統(ちすぢ)()(およ)(なんぢ)()のうち(かみ)(おそ)るる(もの)よ、この(すくひ)(ことば)(われ)らに(おく)られたり。 27それエルサレムに()める(もの)および()(つかさ)らは、(かれ)をも安息(あんそく)(にち)ごとに()むところの預言者(よげんしゃ)たちの(ことば)をも()らず、(かれ)(つみな)ひて預言(よげん)成就(じゃうじゅ)せしめたり。 28その()(あた)るべき(ゆゑ)()ざりしかど、ピラトに(ころ)さんことを(もと)め、 29(かれ)につきて(しる)されたる(こと)をことごとく()しをへ、(かれ)()より(おろ)して(はか)(をさ)めたり。 30されど(かみ)(かれ)死人(しにん)(うち)より(よみが)へらせ(たま)へり。 31かくてイエスは(おのれ)(とも)にガリラヤよりエルサレムに(のぼ)りし(もの)(おほ)くの()のあひだ(あらは)(たま)へり。その人々(ひとびと)(いま)(たみ)(まへ)にイエスの證人(しょうにん)たるなり。 32(われ)らも先祖(せんぞ)たちが(あた)へられし約束(やくそく)につきて(よろこ)ばしき音信(おとづれ)(なんぢ)らに()ぐ、 33(かみ)はイエスを(よみが)へらせて、その約束(やくそく)(われ)らの子孫(しそん)成就(じゃうじゅ)したまへり。(すなは)()第二(だいに)(へん)に「なんぢは()()なり、われ今日(けふ)なんぢを()めり」と(しる)されたるが(ごと)し。 34また朽腐(くされ)()せざる(さま)(かれ)死人(しにん)(うち)より(よみが)へらせ(たま)ひし(こと)()きては、()宣給(のたま)へり。(いは)く「われダビデに(やく)せし(かた)(せい)なる恩惠(めぐみ)(なんぢ)らに(あた)へん」 35そは(ほか)(へん)に「なんぢは(なんぢ)聖者(しゃうじゃ)朽腐(くされ)()せざらしむべし」と()へり。 36それダビデは、その()にて(かみ)御旨(みむね)(おこな)ひ、(つひ)(ねむ)りて先祖(せんぞ)たちと(とも)()かれ、かつ朽腐(くされ)()したり。 37()れど(かみ)(よみが)へらせ(たま)ひし(もの)朽腐(くされ)()せざりき。 38この(ゆゑ)兄弟(きゃうだい)たちよ、(なんぢ)()れ。この(ひと)によりて(つみ)(ゆるし)のなんぢらに(つた)へらるることを。 39(なんぢ)らモーセの律法(おきて)によりて()とせられ()ざりし(すべ)ての(こと)も、(しん)ずる(もの)(みな)この(ひと)によりて()とせらるる(こと)を。 40()れば(なんぢ)(こころ)せよ、(おそ)らくは預言者(よげんしゃ)たちの(ふみ)()ひたること(きた)らん、 41(いは)
「あなどる(もの)よ、なんぢら()よ、
おどろけ、(ほろ)びよ、
われ(なんぢ)らの()(ひと)つの(こと)(おこな)はん。
これを(なんぢ)らに(つぶさ)()ぐる(もの)ありとも
(しん)ぜざる(ほど)(こと)なり」』
42(かれ)らが會堂(くわいだう)()づるとき、人々(ひとびと)これらの(ことば)(つぎ)安息(あんそく)(にち)にも(かた)らんことを()ふ。 43集會(あつまり)(さん)ぜし(のち)、ユダヤ(びと)および敬虔(けいけん)なる改宗者(かいしゅうしゃ)おほくパウロとバルナバとに(したが)()きたれば、(かれ)らに(かた)りて(かみ)恩惠(めぐみ)(とどま)らんことを(すす)めたり。
44(つぎ)安息(あんそく)(にち)には、(かみ)(ことば)()かんとて(ほとん)(まち)(こぞ)りて(あつま)りたり。 45されどユダヤ(びと)はその群衆(ぐんじゅう)()(ねたみ)滿(みた)され、パウロの(かた)ることに()(さから)ひて(ののし)れり。 46パウロとバルナバとは(おく)せずして()ふ『(かみ)(ことば)()(なんぢ)らに(かた)るべかりしを、(なんぢ)()これを(しりぞ)けて(おのれ)永遠(とこしへ)生命(いのち)相應(ふさは)しからぬ(もの)(みづか)(さだ)むるによりて、()よ、(われ)(てん)じて異邦人(いはうじん)(むか)はん。 47それ(しゅ)()(われ)らに(めい)(たま)へり。(いは)
「われ(なんぢ)()てて異邦人(いはうじん)(ひかり)とせり。
()(はて)にまで(すくひ)とならしめん(ため)なり」』
48異邦人(いはうじん)(これ)()きて(よろこ)び、(しゅ)(ことば)をあがめ、(また)とこしへの生命(いのち)(さだ)められたる(もの)はみな(しん)じ、 49(しゅ)(ことば)この()(あまね)(ひろま)りたり。 50(しか)るにユダヤ(びと)ら、敬虔(けいけん)なる貴女(きぢょ)たち(およ)(まち)重立(おもだ)ちたる人々(ひとびと)(そその)かして、パウロとバルナバとに迫害(はくがい)をくはへ、(つひ)(かれ)らを()(さかひ)より()(いだ)せり。 51二人(ふたり)(かれ)らに(むか)ひて(あし)(ちり)をはらひ、イコニオムに()く。 52弟子(でし)たちは喜悦(よろこび)(せい)(れい)とにて滿(みた)され()たり。

第十四章

1二人(ふたり)はイコニオムにて(あひ)(とも)にユダヤ(びと)會堂(くわいだう)()りて(かた)りたれば、(これ)()りてユダヤ(びと)およびギリシヤ(びと)あまた(しん)じたり。 2(しか)るに(したが)はぬユダヤ(びと)異邦人(いはうじん)(そその)かし、兄弟(きゃうだい)たちに(たい)して惡意(あくい)(いだ)かしむ。 3二人(ふたり)(ひさ)しく(とどま)り、(しゅ)によりて(おく)せずして(かた)り、(しゅ)(かれ)らの()により、(しるし)不思議(ふしぎ)とを(おこな)ひて(めぐみ)御言(みことば)(あかし)したまふ。 4ここに(まち)人々(ひとびと)(あひ)(わか)れて、(ある)(もの)はユダヤ(びと)(くみ)し、(ある)(もの)使徒(しと)たちに(くみ)せり。 5異邦人(いはうじん)ユダヤ(びと)および()(つかさ)(あひ)(とも)使徒(しと)たちを(はづか)しめ、(いし)にて()たんと(くはだ)てしに、 6(かれ)(さと)りてルカオニヤの(まち)なるルステラ、デルベ(およ)びその(ほとり)()にのがれ、 7彼處(かしこ)にて福音(ふくいん)宣傳(のべつた)ふ。
8ルステラに(あし)(よわ)(ひと)ありて()しゐたり、(うま)れながらの跛者(あしなへ)にて(かつ)(あゆ)みたる(こと)なし。 9この(ひと)パウロの(かた)るを()きゐたるが、パウロ(これ)()をとめ、(すく)はるべき信仰(しんかう)あるを()て、 10大聲(おほごゑ)に『なんぢの(あし)にて眞直(ますぐ)()て』と()ひたれば、かれ(をど)(あが)りて(あゆ)めり。 11群衆(ぐんじゅう)、パウロの()ししことを()(こゑ)()げ、ルカオニヤの國語(くにことば)にて『(かみ)たち(ひと)(かたち)をかりて(われ)らに(くだ)(たま)へり』と()ひ、 12バルナバをゼウスと(とな)へ、パウロを(むね)(かた)(ひと)なる(ゆゑ)にヘルメスと(とな)ふ。 13(しか)して(まち)(そと)なるゼウスの(みや)祭司(さいし)數匹(すひき)(うし)(はな)(かざり)とを(もん)(まへ)(たづさ)へきたりて、群衆(ぐんじゅう)とともに犧牲(いけにへ)(ささ)げんとせり。 14使徒(しと)たち、(すなは)ちバルナバとパウロと(これ)()きて、(おの)(ころも)をさき群衆(ぐんじゅう)のなかに()()り、 15(よば)はりて()ふ『人々(ひとびと)よ、なんぞ()かる(こと)をなすか、(われ)らも(なんぢ)らと(おな)(じゃう)()てる(ひと)なり、(なんぢ)らに福音(ふくいん)()べて()かる(むな)しき(もの)より(はな)れ、(てん)()(うみ)とその(なか)にある()らゆる(もの)とを(つく)(たま)ひし()ける(かみ)(かへ)らしめんとするなり。 16()ぎし時代(じだい)には(かみ)、すべての國人(くにびと)(おの)道々(みちみち)(あゆ)むに(まか)(たま)ひしかど、 17また自己(みづから)(あかし)(たま)はざりし(こと)なし。(すなは)()(こと)をなし、(てん)より(あめ)(たま)ひ、豐穰(みのり)(とき)をあたへ、食物(しょくもつ)勸喜(よろこび)とをもて(なんぢ)らの(こころ)滿()()らはせ(たま)ひしなり』 18()()ひて(から)うじて群衆(ぐんじゅう)(おのれ)らに犧牲(いけにへ)(ささ)げんとするを(とど)めたり。
19(しか)るに數人(すにん)のユダヤ(びと)、アンテオケ(およ)びイコニオムより(きた)り、群衆(ぐんじゅう)(すす)め、(しか)してパウロを(いし)にて()ち、(すで)()にたりと(おも)ひて(まち)(そと)()(いだ)せり。 20弟子(でし)たち(これ)(たち)(かこ)みゐたるに、パウロ()きて(まち)()る。()くる()バルナバと(とも)にデルベに()()き、 21その(まち)福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へ、(おほ)くの(ひと)弟子(でし)として(のち)、ルステラ、イコニオム、アンテオケに(かへ)り、 22弟子(でし)たちの(こころ)(かた)うし信仰(しんかう)(とどま)らんことを(すす)め、また(われ)らが(おほ)くの艱難(なやみ)()(かみ)(くに)()るべきことを(をし)ふ。 23また教會(けうくわい)(ごと)長老(ちゃうらう)をえらび、斷食(だんじき)して(いの)り、弟子(でし)たちを()(しん)ずる(ところ)(しゅ)(ゆだ)ぬ。 24かくてピシデヤを()てパンフリヤに(いた)り、 25ペルガにて御言(みことば)(かた)りて(のち)アタリヤに(くだ)り、 26彼處(かしこ)より船出(ふなで)して、その()()てたる(つとめ)のために(かみ)(めぐみ)みに(ゆだ)ねられし(ところ)なるアンテオケに()けり。 27(すで)(いた)りて教會(けうくわい)人々(ひとびと)(あつ)めたれば、(かみ)(おのれ)らと(とも)(いま)して()(たま)ひし(すべ)てのこと、(ならび)信仰(しんかう)(もん)異邦人(いはうじん)にひらき(たま)ひしことを()ぶ。 28かくて(ひさ)しく(とどま)りて弟子(でし)たちと(とも)にゐたり。

第十五章

1(ある)人々(ひとびと)ユダヤより(くだ)りて、兄弟(きゃうだい)たちに『なんぢらモーセの(れい)(したが)ひて割禮(かつれい)()けずば(すく)はるるを()ず』と(をし)ふ。 2ここに(かれ)らとパウロ(およ)びバルナバとの(あひだ)に、(おほい)なる紛爭(あらそひ)議論(ぎろん)(おこ)りたれば、兄弟(きゃうだい)たちはパウロ、バルナバ(およ)びその(うち)數人(すにん)をエルサレムに(のぼ)らせ、()問題(もんだい)につきて使徒(しと)長老(ちゃうらう)たちに()はしめんと(さだ)む。 3かれら教會(けうくわい)人々(ひとびと)()(おく)られて、ピニケ(およ)びサマリヤを()異邦人(いはうじん)改宗(かいしゅう)せしことを(つぶさ)()げて、(すべ)ての兄弟(きゃうだい)(おほい)なる喜悦(よろこび)()させたり。 4エルサレムに(いた)り、教會(けうくわい)使徒(しと)長老(ちゃうらう)とに(むか)へられ、(かみ)(おのれ)らと(とも)(いま)して()(たま)ひし(すべ)ての(こと)()べたるに、 5信者(しんじゃ)となりたるパリサイ()(ある)人々(ひとびと)()ちて『異邦人(いはうじん)にも割禮(かつれい)(ほどこ)し、モーセの律法(おきて)(まも)ることを(めい)ぜざる()からず』と()ふ。
6ここに使徒(しと)長老(ちゃうらう)たち()(こと)につきて協議(けふぎ)せんとて(あつま)る。 7(おほ)くの議論(ぎろん)ありし(のち)、ペテロ()ちて()
兄弟(きゃうだい)たちよ、(なんぢ)らの()るごとく、(ひさ)しき(まへ)(かみ)は、なんぢらの(うち)より(われ)(えら)び、わが(くち)より異邦人(いはうじん)福音(ふくいん)(ことば)()かせ、(これ)(しん)ぜしめんとし(たま)へり。 8(ひと)(こころ)()りたまふ(かみ)は、(われ)らと(おな)じく、(かれ)()にも(せい)(れい)(あた)へて(あかし)をなし、 9かつ信仰(しんかう)によりて(かれ)らの(こころ)をきよめ、(われ)らと(かれ)らとの(あひだ)(へだて)()(たま)はざりき。 10(しか)るに(なに)(かみ)(こころ)みて、弟子(でし)たちの(くび)(われ)らの先祖(せんぞ)(われ)らも()(あた)はざりし(くびき)をかけんとするか。 11(しか)らず、(われ)らの(すく)はるるも(かれ)らと(ひと)しく(しゅ)イエスの恩惠(めぐみ)()ることを(われ)らは(しん)ず』
12ここに會衆(くわいしゅう)みな(もく)して、バルナバとパウロとの、(おのれ)()によりて(かみ)異邦人(いはうじん)のうちに()(たま)ひし(おほ)くの(しるし)不思議(ふしぎ)とを()ぶるを()く。 13(かれ)らの(かた)()へし(のち)、ヤコブ(こた)へて()
兄弟(きゃうだい)たちよ、(われ)()け、 14シメオン(すで)(かみ)(はじ)めて異邦人(いはうじん)(かへり)み、その(うち)より御名(みな)()ふべき(たみ)()(たま)ひしことを()べしが、 15預言者(よげんしゃ)たちの(ことば)もこれと()へり。 16(しる)して
「こののち(われ)かへりて、
(たふ)れたるダビデの幕屋(まくや)(ふたた)(つく)り、
その(くづ)れし(ところ)をふたたび(つく)り、
(しか)して(これ)()てん。
17これ殘餘(のこり)人々(ひとびと)(しゅ)(たづ)(もと)め、
(すべ)()()をもて(とな)へらるる異邦人(いはうじん)
また(しか)せん(ため)なり。
18(いにし)へより(これ)()のことを()らしめ(たま)(しゅ)
これを()(たま)ふ」
とあるが(ごと)し。 19(これ)によりて(われ)判斷(はんだん)す、異邦人(いはうじん)(うち)より(かみ)歸依(きえ)する(ひと)(わづら)はすべきにあらず。 20ただ()(おく)りて、偶像(ぐうざう)(けが)されたる(もの)と、淫行(いんかう)と、絞殺(しめころ)したる(もの)と、()とを()けしむべし。 21(むかし)より、いづれの(まち)にもモーセを()ぶる(もの)ありて、安息(あんそく)(にち)(ごと)(しょ)會堂(くわいだう)にてその(ふみ)()めばなり』
22ここに使徒(しと)長老(ちゃうらう)たち(およ)(ぜん)教會(けうくわい)は、その(うち)より(ひと)(えら)びてパウロ、バルナバと(とも)にアンテオケに(おく)ることを()しとせり。(えら)ばれたるは、バルサバと(とな)ふるユダとシラスとにて、兄弟(きゃうだい)たちの(うち)重立(おもだ)ちたる(もの)なり。 23(これ)(たく)したる(ふみ)にいふ『使徒(しと)および長老(ちゃうらう)たる兄弟(きゃうだい)ら、アンテオケ、シリヤ、キリキヤに()異邦人(いはうじん)兄弟(きゃうだい)たちの平安(へいあん)(いの)る。 24我等(われら)のうちの(ある)人々(ひとびと)われらが(めい)じもせぬに、(ことば)をもて(なんぢ)らを(わづら)はし、(なんぢ)らの(こころ)(みだ)したりと()きたれば、 25(われ)(こころ)(ひと)つにして(ひと)(えら)びて、 26(われ)らの(しゅ)イエス・キリストの()のために生命(いのち)(をし)まざりし(もの)なる、(われ)らの(あい)するバルナバ、パウロと(とも)(なんぢ)らに(つかは)すことを()しとせり。 27(これ)によりて(われ)らユダとシラスとを(つかは)す、かれらも(くち)づから(これ)()のことを()べん。 28(せい)(れい)(われ)らとは()肝要(かんえう)なるものの(ほか)(なに)をも(なんぢ)らに()はせぬを()しとするなり。 29(すなは)偶像(ぐうざう)(ささ)げたる(もの)と、()と、絞殺(しめころ)したる(もの)と、淫行(いんかう)とを()くべき(こと)なり、(なんぢ)()これを(つつし)まば()し。なんぢら(すこや)かなれ』
30かれら(わかれ)()げてアンテオケに(くだ)り、人々(ひとびと)(あつ)めて(ふみ)(わた)す。 31人々(ひとびと)これを()慰安(なぐさめ)()(よろこ)べり。 32ユダもシラスもまた預言者(よげんしゃ)なれば、(おほ)くの(ことば)をもて兄弟(きゃうだい)たちを(すす)めて(かれ)らを(かた)うし、 33(しばら)(とどま)りてのち、兄弟(きゃうだい)たちに平安(へいあん)(しく)せられ、(わかれ)()げて、(おのれ)らを(つかは)しし(もの)(かへ)れり。 34[なし] 35(かく)てパウロとバルナバとは(なほ)アンテオケに(とどま)りて(おほ)くの(ひと)とともに(しゅ)御言(みことば)(をし)へ、かつ宣傳(のべつた)へたり。
36數日(すにち)(のち)パウロはバルナバに()ふ『いざ、(われ)(さき)(しゅ)御言(みことば)(つた)へし(すべ)ての(まち)にまた()きて、兄弟(きゃうだい)たちを()ひ、その安否(あんぴ)(たづ)ねん』 37バルナバはマルコと(とな)ふるヨハネを(ともな)はんと(のぞ)み、 38パウロは(かれ)(かつ)てパンフリヤより(はな)()りて、勤勞(はたらき)のために(とも)()かざりしをもて、(ともな)ふは(よろ)しからずと(おも)ひ、 39(はげ)しき爭論(あらそひ)となりて(つひ)二人(ふたり)(あひ)(わか)れ、バルナバはマルコを(ともな)ひ、(ふね)にてクプロに(わた)り、 40パウロはシラスを(えら)び、兄弟(きゃうだい)たちより(しゅ)恩惠(めぐみ)(ゆだ)ねられて()()ち、 41シリヤ、キリキヤを()(しょ)教會(けうくわい)(かた)うせり。

第十六章

1かくてパウロ、デルベとルステラとに(いた)りたるに、()よ、彼處(かしこ)にテモテと()弟子(でし)あり、その(はは)信者(しんじゃ)なるユダヤ(びと)にて、(ちち)はギリシヤ(びと)なり。 2(かれ)はルステラ、イコニオムの兄弟(きゃうだい)たちの(うち)令聞(よききこえ)ある(もの)なり。 3パウロかれの(とも)()()つことを(ほっ)したれば、その(あたり)()るユダヤ(びと)のために(これ)割禮(かつれい)(おこな)へり、その(ちち)のギリシヤ(びと)たるを(すべ)ての(ひと)()(ゆゑ)なり。 4かくて町々(まちまち)()ゆきて、エルサレムに()使徒(しと)長老(ちゃうらう)たちの(さだ)めし(のり)(まも)らせんとて、(これ)人々(ひとびと)(さづ)けたり。 5ここに(しょ)教會(けうくわい)はその信仰(しんかう)(かた)うせられ、人員(ひとかず)日毎(ひごと)にいや()せり。
6(かれ)らアジヤにて御言(みことば)(かた)ることを(せい)(れい)(きん)ぜられたれば、フルギヤ(およ)びガラテヤの()()ゆきて、 7ムシヤに(ちか)づき、ビテニヤに()かんと(こころ)みたれど、イエスの御靈(みたま)ゆるし(たま)はず、 8(つひ)にムシヤを()ぎてトロアスに(くだ)れり。 9パウロ(よる)幻影(まぼろし)()たるに、一人(ひとり)のマケドニヤ(びと)あり、()ちて(おのれ)(まね)き『マケドニヤに(わた)りて(われ)らを(たす)けよ』と()ふ。 10パウロこの幻影(まぼろし)()たれば、(われ)らは(かみ)のマケドニヤ(びと)福音(ふくいん)宣傳(のべつた)へしむる(ため)に、(われ)らを()(たま)ふことと(おも)(さだ)めて、(ただ)ちにマケドニヤに(おもむ)かんとせり。
11さてトロアスより船出(ふなで)して、眞直(ますぐ)にはせてサモトラケにいたり、(つぎ)()ネアポリスにつき、 12彼處(かしこ)よりピリピにゆく。ここはマケドニヤの(うち)にて、この(あたり)第一(だいいち)(まち)にして殖民地(しょくみんち)なり、われら數日(すにち)(あひだ)この(まち)(とどま)る。 13安息(あんそく)(にち)(まち)(もん)()でて、祈場(いのりば)あらんと(おも)はるる(かは)のほとりに()き、其處(そこ)()して、(あつま)れる(をんな)たちに(かた)りたれば、 14テアテラの(まち)(むらさき)(ぬの)商人(あきうど)にして、(かみ)(うやま)ふルデヤと()(をんな)きき()りしが、(しゅ)その(こころ)をひらき、(つつし)みてパウロの(かた)(ことば)をきかしめ(たま)ふ。 15(かれ)(おのれ)家族(かぞく)もバプテスマを()けてのち、(われ)らに(すす)めて()ふ『なんぢら(われ)(しゅ)信者(しんじゃ)なりとせば、()(いへ)(きた)りて(とどま)れ』()()ひて(われ)らを(とど)めたり。
16われら祈場(いのりば)()途中(とちゅう)卜筮(うらなひ)(れい)(つか)れて卜筮(うらなひ)をなし、()主人(しゅじん)らに(おほ)くの()()さする婢女(はしため)、われらに()ふ。 17(かれ)はパウロ(およ)(われ)らの(のち)(したが)ひつつ(さけ)びて()ふ『この(ひと)たちは至高(いとたか)(かみ)(しもべ)にて、(なんぢ)らに(すくひ)(みち)(をし)ふる(もの)なり』 18幾日(いくひ)()くするをパウロ(うれ)ひて、振反(ふりかへ)りその(れい)()ふ『イエス・キリストの()によりて、(なんぢ)にこの(をんな)より()でん(こと)(めい)ず』(れい)ただちに()でたり。
19(しか)るにこの(をんな)主人(しゅじん)()()(のぞみ)のなくなりたるをみて、パウロとシラスとを(とら)へ、市場(いちば)()きて(つかさ)たちに()き、 20(これ)上役(うはやく)らに(いだ)して()ふ『この人々(ひとびと)はユダヤ(びと)にて、(われ)らの(まち)(いた)(さわ)がし、 21(われ)らロマ(びと)たる(もの)()くまじく(おこな)ふまじき習慣(ならはし)(つた)ふるなり』 22群衆(ぐんじゅう)(ひと)しく(おこ)()ちたれば、上役(うはやく)(めい)じて()(ころも)()ぎ、かつ(しもと)にて()たしむ。 23(おほ)()ちてのち(ひとや)()れ、獄守(ひとやもり)(かた)(まも)るべきことを(めい)ず。 24獄守(ひとやもり)この命令(めいれい)()けて二人(ふたり)(おく)(ひとや)()れ、(かせ)にてその(あし)()()きたり。 25夜半(よなか)ごろパウロとシラスと(いの)りて(かみ)讃美(さんび)する囚人(めしうど)()きゐたるに、 26(にはか)(おほい)なる地震(ぢしん)おこりて牢舍(らうや)(もとゐ)ふるひ(うご)き、その()たちどころに(みな)ひらけ、(すべ)ての囚人(めしうど)縲絏(なはめ)とけたり。 27獄守(ひとやもり)()さめ(ひとや)()(ひら)けたるを()て、囚人(めしうど)にげ()れりと(おも)ひ、(かたな)()きて自殺(じさつ)せんとしたるに、 28パウロ大聲(おほごゑ)(よば)はりて()ふ『みづから(そこな)ふな、(われ)(みな)ここに()り』 29獄守(ひとやもり)燈火(ともしび)(もと)め、()()りて(おのの)きつつパウロとシラスとの(まへ)平伏(ひれふ)し、 30(これ)()(いだ)して()ふ『(きみ)たちよ、われ(すく)はれん(ため)(なに)をなすべきか』 31二人(ふたり)()ふ『(しゅ)イエスを(しん)ぜよ、()らば(なんぢ)(なんぢ)家族(かぞく)(すく)はれん』 32かくて(かみ)(ことば)獄守(ひとやもり)とその(いへ)()(すべ)ての人々(ひとびと)(かた)れり。 33この()即時(そくじ)獄守(ひとやもり)かれらを引取(ひきと)りて、その打傷(うちきず)(あら)ひ、(つひ)(おのれ)(おのれ)(ぞく)する(もの)もみな(ただ)ちにバプテスマを()け、 34かつ二人(ふたり)自宅(じたく)(ともな)ひて食事(しょくじ)をそなへ、全家(ぜんか)とともに(かみ)(しん)じて(よろこ)べり。
35夜明(よあけ)になりて上役(うはやく)らは警吏(けいり)どもを(つかは)して『かの人々(ひとびと)(ゆる)せ』と()はせたれば、 36獄守(ひとやもり)これらの(ことば)をパウロに()げて()ふ『上役(うはやく)(ひと)(つかは)して(なんぢ)らを(ゆる)さんとす。()れば(いま)いでて(やす)らかに()け』 37ここにパウロ警吏(けいり)()ふ『(われ)らはロマ(びと)たるに(つみ)(さだ)めずして公然(おほやけ)(むち)うち、(ひとや)()()れたり。(しか)るに(いま)ひそかに(われ)らを(いだ)さんと()るか。(しか)るべからず、(かれ)()みづから(きた)りて(われ)らを()(いだ)すべし』 38警吏(けいり)これらの(ことば)上役(うはやく)()げたれば、()のロマ(びと)たるを()きて(おそ)れ、 39(きた)(なだ)めて、二人(ふたり)()(いだ)し、かつ(まち)()らんことを()ふ。 40二人(ふたり)(ひとや)()でてルデヤの(いへ)()り、兄弟(きゃうだい)たちに()ひ、(すすめ)をなして()()けり。

第十七章

1かくてアムピポリス(およ)びアポロニヤを()てテサロニケに(いた)る。此處(ここ)にユダヤ(びと)會堂(くわいだう)ありたれば、 2パウロは(れい)のごとく(かれ)らの(うち)()り、()つの安息(あんそく)(にち)にわたり、聖書(せいしょ)(もとづ)きて(ろん)じ、かつ()(あか)して、 3キリストの(かなら)苦難(くるしみ)をうけ、死人(しにん)(うち)より(よみが)へるべきことを()べ『わが(なんぢ)らに(つた)ふる()のイエスはキリストなり』と(あかし)せり。 4その(うち)のある人々(ひとびと)および敬虔(けいけん)なる數多(あまた)のギリシヤ(びと)、また(おほ)くの重立(おもだ)ちたる(をんな)(しん)じてパウロとシラスとに(したが)へり。 5ここにユダヤ(びと)(ねたみ)(おこ)して()無頼者(あぶれもの)をかたらひ、群衆(ぐんじゅう)(あつ)めて(まち)(さわ)がし、(また)ふたりを集民(しふみん)(まへ)()(いだ)さんとしてヤソンの(いへ)(かこ)みしが、 6見出(みいだ)さざれば、ヤソンと數人(すにん)兄弟(きゃうだい)とを(まち)(つかさ)たちの(まへ)()ききたり、(よば)はりて()ふ『天下(てんか)顛覆(くつがへ)したる()(もの)ども此處(ここ)にまで(きた)れるを、 7ヤソン(むか)()れたり。この曹輩(ともがら)(みな)カイザルの詔勅(みことのり)にそむき、(ほか)にイエスと()(わう)ありと()ふ』 8(これ)をききて群衆(ぐんじゅう)(まち)(つかさ)たちと(こころ)をさわがし、 9保證(ほしょう)()りてヤソンと(ほか)人々(ひとびと)とを(ゆる)せり。
10兄弟(きゃうだい)たち(ただ)ちに(よる)()にパウロとシラスとをベレヤに(おく)りいだす。二人(ふたり)彼處(かしこ)につきてユダヤ(びと)會堂(くわいだう)にいたる。 11此處(ここ)人々(ひとびと)はテサロニケに()(ひと)よりも善良(ぜんりゃう)にして、(こころ)より御言(みことば)をうけ、この(こと)(ただ)しく(しか)るか(しか)らぬか、日々(ひび)聖書(せいしょ)をしらぶ。 12この(ゆゑ)にその(うち)(おほ)くのもの(しん)じたり、(また)ギリシヤの貴女(きぢょ)男子(だんし)にして(しん)じたる(もの)(すくな)からざりき。 13(しか)るにテサロニケのユダヤ(びと)ら、パウロがベレヤにも(かみ)(ことば)(つた)ふることを()きたれば、此處(ここ)にも(きた)りて群衆(ぐんじゅう)(うご)かし、かつ(さわ)がしたり。 14ここに兄弟(きゃうだい)たち(ただ)ちにパウロを(おく)(いだ)して海邊(うみべ)()かしめ、シラスとテモテとは(なほ)ベレヤに(とどま)れり。 15パウロを(みちび)ける人々(ひとびと)はアテネまで(ともな)()き、パウロよりシラスとテモテとに、()(われ)(きた)れとの(めい)()けて()()れり。
16パウロ、アテネにて(かれ)らを()ちをる(ほど)に、(まち)偶像(ぐうざう)滿()ちたるを()て、その(こころ)憤慨(いきどほり)(いだ)く。 17されば會堂(くわいだう)にてはユダヤ(びと)および敬虔(けいけん)なる人々(ひとびと)(ろん)じ、市場(いちば)にては日々(ひび)()ふところの(もの)(ろん)じたり。 18(かく)てエピクロス()ならびにストア()哲學者(てつがくしゃ)數人(すにん)これと(ろん)じあひ、(ある)(もの)らは()ふ『この(さえづ)(もの)なにを()はんとするか』(ある)(もの)らは()ふ『かれは(こと)なる神々(かみがみ)(つた)ふる(もの)(ごと)し』(これ)はパウロがイエスと復活(よみがへり)とを()べたる(ゆゑ)なり。 19(つひ)にパウロをアレオパゴスに()()きて()ふ『なんぢが(かた)るこの(あたら)しき(をしへ)如何(いか)なるものなるを、(われ)()()べきか。 20なんぢ(こと)なる(こと)(われ)らの(みみ)()るるが(ゆゑ)に、(われ)らその何事(なにごと)たるを()らんと(おも)ふなり』 21アテネ(ひと)も、彼處(かしこ)()旅人(たびびと)も、(みな)ただ(あたら)しき(こと)(あるひ)(かた)り、(あるひ)()きてのみ()(おく)りゐたり。 22パウロ、アレオパゴスの(なか)()ちて()
『アテネ(ひと)よ、(われ)すべての(こと)()きて(なんぢ)らが神々(かみがみ)(うやま)(こころ)(あつ)きを()る。 23われ(なんぢ)らが(をが)むものを()つつ(みち)()ぐるほどに「()らざる(かみ)に」と(しる)したる(ひと)つの祭壇(さいだん)見出(みいだ)したり。()れば(われ)なんぢらが()らずして(をが)(ところ)のものを(なんぢ)らに(しめ)さん。 24世界(せかい)とその(なか)のあらゆる(もの)とを(つく)(たま)ひし(かみ)は、(てん)()(しゅ)にましませば、()にて(つく)れる(みや)()(たま)はず。 25みづから(すべ)ての(ひと)生命(いのち)(いき)(よろづ)(もの)とを(あた)(たま)へば、(もの)(とぼ)しき(ところ)あるが(ごと)く、(ひと)()にて(つか)ふることを(えう)(たま)はず。 26一人(ひとり)よりして諸種(もろもろ)國人(くにびと)(つく)りいだし、(これ)()全面(ぜんめん)()ましめ、時期(とき)(かぎり)住居(すまひ)(さかひ)とを(さだ)(たま)へり。 27これ(ひと)をして(かみ)(たづ)ねしめ、(あるひ)(さぐ)りて()(いだ)(こと)あらしめん(ため)なり。されど(かみ)我等(われら)おのおのを(はな)(たま)ふこと(とほ)からず、 28(われ)らは(かみ)(うち)()き、(うご)きまた()るなり。(なんぢ)らの詩人(しじん)(うち)(ある)(もの)どもも「(われ)らは(また)その(すゑ)なり」と()へる(ごと)し。 29かく(かみ)(すゑ)なれば、(かみ)(きん)(ぎん)(いし)など(ひと)(わざ)思考(かんがへ)とにて(きざ)める(もの)(ひと)しく(おも)ふべきにあらず。 30(かみ)はかかる無知(むち)時代(じだい)()(すご)しにし(たま)ひしが、(いま)何處(いづこ)にても(すべ)ての(ひと)悔改(くいあらた)むべきことを()げたまふ。 31(さき)()(たま)ひし一人(ひとり)によりて、()をもて世界(せかい)(さば)かんために()をさだめ、(かれ)死人(しにん)(うち)より(よみが)へらせて保證(ほしょう)萬人(ばんにん)(あた)(たま)へり』
32人々(ひとびと)死人(しにん)復活(よみがへり)をききて、(ある)(もの)嘲笑(あざわら)ひしが、(ある)(もの)は『われら(また)この(こと)(なんぢ)()かん』と()へり。 33ここにパウロ人々(ひとびと)のなかを()()る。 34されど(かれ)附隨(つきしたが)ひて(しん)じたるもの數人(すにん)あり。()(うち)にアレオパゴスの裁判人(さいばんにん)デオヌシオ(およ)びダマリスと()づくる(をんな)あり、(なほ)その(ほか)にもありき。

第十八章

1この(のち)パウロ、アテネを(はな)れてコリントに(いた)り、 2アクラと()ふポントに(うま)れたるユダヤ(びと)()ふ。クラウデオ、ユダヤ(びと)にことごとくロマを退(しりぞ)くべき(めい)(くだ)したるによりて、近頃(ちかごろ)その(つま)プリスキラと(とも)にイタリヤより(きた)りし(もの)なり。 3パウロ()(もと)(いた)りしに、同業(どうげふ)なりしかば(とも)()りて(わざ)をなせり。(かれ)らの(わざ)幕屋(まくや)製造(つくり)なり。 4かくて安息(あんそく)(にち)(ごと)會堂(くわいだう)にて(ろん)じ、ユダヤ(びと)とギリシヤ(びと)とを(すす)む。
5シラスとテモテとマケドニヤより(きた)りて(のち)は、パウロ(もっぱ)御言(みことば)()ぶることに(つと)め、イエスのキリストたることをユダヤ(びと)(あかし)せり。 6(しか)るに、(かれ)(これ)(さから)ひかつ(ののし)りたれば、パウロ(ころも)(はら)ひて()ふ『なんぢらの()(なんぢ)らの(かうべ)()すべし、(われ)はいさぎよし、(いま)より異邦人(いはうじん)()かん』 7(つひ)此處(ここ)()りて、(かみ)(うやま)ふテテオ・ユストと()(ひと)(いへ)(いた)る。この(いへ)會堂(くわいだう)(とな)れり。 8會堂(くわいだう)(つかさ)クリスポその家族(かぞく)一同(いちどう)(とも)(しゅ)(しん)じ、また(おほ)くのコリント(ひと)()きて(しん)じ、かつバプテスマを()けたり。 9(しゅ)(よる)まぼろしの(うち)にパウロに()(たま)ふ『おそるな、(かた)れ、(もく)すな、 10(われ)なんぢと(とも)にあり、(たれ)(なんぢ)()めて(そこな)(もの)なからん。()(まち)には(おほ)くの()(たみ)あり』 11かくてパウロ一年(いちねん)六个月(ろくかげつ)ここに(とどま)りて(かみ)(ことば)(をし)へたり。
12ガリオ、アカヤの總督(そうとく)たる(とき)、ユダヤ(びと)(こころ)(ひと)つにしてパウロを()め、審判(さばき)()()きゆき、 13『この(ひと)律法(おきて)にかなはぬ仕方(しかた)にて(かみ)(をが)むことを(ひと)(すす)む』と()ひたれば、 14パウロ(くち)(ひら)かんとせしに、ガリオ、ユダヤ(びと)()ふ『ユダヤ(びと)よ、不正(ふせい)または奸惡(かんあく)(こと)ならば、()(なんぢ)らに()くは道理(ことわり)なれど、 15もし(ことば)()あるいは(なんぢ)らの律法(おきて)にかかはる問題(もんだい)ならば、(なんぢ)()みづから(おさ)むべし。(われ)かかる(こと)審判(さばき)(ひと)となるを(この)まず』 16かくて(かれ)らを審判(さばき)()より()ひいだす。 17ここに人々(ひとびと)みな會堂(くわいだう)(つかさ)ソステネを(とら)へ、審判(さばき)()(まへ)にて()(たた)きたり。ガリオは(すべ)(これ)らの(こと)()とせざりき。
18パウロなほ(ひさ)しく(とどま)りてのち、兄弟(きゃうだい)たちに(わかれ)()げ、プリスキラとアクラとを(ともな)ひ、シリヤに(むか)ひて船出(ふなで)す。(はや)くより誓願(せいぐわん)ありたれば、ケンクレヤにて(かみ)()れり。 19かくてエペソに()き、其處(そこ)にこの二人(ふたり)(とど)めおき、(みづか)らは會堂(くわいだう)()りてユダヤ(びと)(ろん)ず。 20人々(ひとびと)かれに(いま)しばらく()らんことを()ひたれど、(がへ)んぜずして、 21(わかれ)()げ『(かみ)御意(みこころ)ならば(また)なんぢらに(かへ)らん』と()ひてエペソより船出(ふなで)し、 22カイザリヤにつき、(しか)してエルサレムに(のぼ)り、教會(けうくわい)安否(あんぴ)()ひてアンテオケに(くだ)り、 23此處(ここ)(しばら)(とどま)りて(のち)、また()りてガラテヤ、フルギヤの()次々(つぎつぎ)()(すべ)ての弟子(でし)(かた)うせり。
24(とき)にアレキサンデリヤ(うま)れのユダヤ(びと)にて、聖書(せいしょ)通達(つうたつ)したるアポロと()能辯(のうべん)なる(もの)エペソに(くだ)る。 25この(ひと)(さき)(しゅ)(みち)(をし)へられ、ただヨハネのバプテスマを()るのみなれど、熱心(ねっしん)にして詳細(つまびらか)にイエスの(こと)(かた)り、かつ(をし)へたり。 26かれ會堂(くわいだう)にて(おく)せずして(かた)(はじ)めしを、プリスキラとアクラと()きゐて(これ)(むか)()れ、なほも詳細(つまびらか)(かみ)(みち)()(あか)せり。 27アポロ(つひ)にアカヤに(わた)らんとしたれば、兄弟(きゃうだい)たち(これ)(はげ)まし、かつ弟子(でし)たちに(かれ)()()るるやうに()(おく)れり。(かれ)かしこに()き、(すで)恩惠(めぐみ)によりて(しん)じたる(もの)(おほ)くの(えき)(あた)ふ。 28(すなは)聖書(せいしょ)(もとづ)き、イエスのキリストたる(こと)(しめ)して、激甚(ていた)くかつ公然(おほやけ)にユダヤ(びと)()()せたるなり。

第十九章

1かくてアポロ、コリントに()りし(とき)、パウロ(ひがし)地方(ちはう)()てエペソに(いた)り、(ある)弟子(でし)たちに()ひて、 2『なんぢら信者(しんじゃ)となりしとき(せい)(れい)()けしか』と()ひたれば、(かれ)()いふ『いな、(われ)らは(せい)(れい)()ることすら()かず』 3パウロ()ふ『されば(なに)によりてバプテスマを()けしか』(かれ)()いふ『ヨハネのバプテスマなり』 4パウロ()ふ『ヨハネは悔改(くいあらため)のバプテスマを(さづ)けて、(おのれ)(のち)れて(きた)るもの((すなは)ちイエス)を(しん)ずべきことを(たみ)()へるなり』 5(かれ)()これを()きて(しゅ)イエスの()によりてバプテスマを()く。 6パウロ()(かれ)らの(うへ)()きしとき、(せい)(れい)その(うへ)(のぞ)みたれば、(かれ)異言(いげん)(かた)り、かつ預言(よげん)せり。 7この人々(ひとびと)(すべ)十二(じふに)(にん)ほどなり。
8ここにパウロ會堂(くわいだう)()りて、三个月(さんかげつ)のあひだ(おく)せずして(かみ)(くに)()きて(ろん)じ、かつ(すす)めたり。 9(しか)るに(ある)(もの)ども頑固(かたくな)になりて(したが)はず、會衆(くわいしゅう)(まへ)(かみ)(みち)(そし)りたれば、パウロ(かれ)らを(はな)れ、弟子(でし)たちをも退(しりぞ)かしめ、日毎(ひごと)にツラノの會堂(くわいだう)にて(ろん)ず。 10()くすること二年(にねん)(あひだ)なりしかば、アジヤに()(もの)は、ユダヤ(びと)もギリシヤ(びと)もみな(しゅ)(ことば)()けり。 11(しか)して(かみ)はパウロの()によりて尋常(よのつね)ならぬ能力(ちから)ある(わざ)(おこな)ひたまふ。 12(すなは)人々(ひとびと)かれの()より(あるひ)手拭(てぬぐひ)あるひは前垂(まへだれ)をとりて()める(もの)()くれば、(やまひ)()(あく)(れい)()でたり。 13ここに諸國(しょこく)遍歴(へんれき)咒文(じゅもん)()なるユダヤ(びと)數人(すにん)あり、(こころ)みに(あく)(れい)()かれたる(もの)(たい)して、(しゅ)イエスの()()び『われパウロの()ぶるイエスによりて、(なんぢ)らに(めい)ず』と()へり。 14()くなせる(もの)(うち)に、ユダヤの祭司長(さいしちゃう)スケワの七人(しちにん)()もありき。 15(あく)(れい)こたへて()ふ『われイエスを()り、(また)パウロを()る。()れど(なんぢ)らは(たれ)ぞ』 16かくて(あく)(れい)()りたる(ひと)、かれらに()びかかりて二人(ふたり)()ち、これを打拉(うちひし)ぎたれば、(かれ)裸體(はだか)になり(きず)()けてその(いへ)()()でたり。 17()(こと)エペソに()(すべ)てのユダヤ(びと)とギリシヤ(びと)とに()れたれば、(おそれ)かれら一同(いちどう)のあひだに(しゃう)じ、(しゅ)イエスの()(あが)めらる。 18信者(しんじゃ)となりし(もの)おほく(きた)り、懴悔(ざんげ)して(みづか)らの行爲(おこなひ)()ぐ。 19また魔術(まじゅつ)(おこな)ひし(おほ)くの(もの)ども、その書物(しょもつ)()ちきたり、衆人(しゅうじん)(まへ)にて()きたるが、()(あたひ)(かぞ)ふれば(ぎん)()(まん)ほどなりき。 20(しゅ)(ことば)(おほい)(ひろま)りて權力(ちから)()しこと()くの(ごと)し。
21(これ)()(こと)のありし(のち)、パウロ、マケドニヤ、アカヤを()てエルサレムに()かんと(こころ)(さだ)めて()ふ『われ彼處(かしこ)(いた)りてのち(かなら)ずロマをも()るべし』 22かくて(おのれ)(つか)ふる(もの)(うち)にてテモテとエラストとの二人(ふたり)をマケドニヤに(つかは)し、自己(みづから)はアジヤに(しばら)(とどま)る。
23その(ころ)この(みち)()きて一方(ひとかた)ならぬ騷擾(さわぎ)おこれり。 24デメテリオと()(ぎん)細工人(さいくにん)ありしが、アルテミスの(ぎん)小宮(こみや)(つく)りて細工人(さいくにん)らに(おほ)くの(わざ)()させたり。 25それらの(もの)および(おな)(たぐひ)職業(しょくげふ)(しゃ)(あつ)めて()ふ『人々(ひとびと)よ、われらが()(わざ)()りて()(えき)()ることは、(なんぢ)らの()(ところ)なり。 26(しか)るに、かのパウロは()にて(つく)れる(もの)(かみ)にあらずと()ひて、(ただ)にエペソのみならず、(ほとん)(ぜん)アジヤにわたり、(おほ)くの人々(ひとびと)()(すす)めて(まどは)したり、これ(また)なんぢらの()(きき)する(ところ)なり。 27かくては(ただ)(われ)らの職業(しょくげふ)(かろ)しめらるる(おそれ)あるのみならず、また大女神(おほめがみ)アルテミスの(みや)(なみ)せられ、(ぜん)アジヤ全世界(ぜんせかい)のをがむ大女神(おほめがみ)稜威(みいつ)(ほろ)ぶるに(いた)らん』 28(かれ)()これを()きて憤恚(いきどほり)滿(みた)され、(さけ)びて()ふ『(おほい)なる(かな)、エペソ(ひと)のアルテミス』 29かくて(まち)(こぞ)りて(さわ)()ち、人々(ひとびと)パウロの同行(どうかう)(しゃ)なるマケドニヤ(びと)ガイオとアリスタルコとを(とら)へ、(こころ)(ひと)つにして劇場(げきじゃう)押入(おしい)りたり。 30パウロ集民(しふみん)のなかに()らんとしたれど、弟子(でし)たち(ゆる)さず。 31(また)アジヤの(まつり)(つかさ)のうちの(ある)(もの)どもも(かれ)(した)しかりしかば、(ひと)(つかは)して劇場(げきじゃう)()らぬやうにと(すす)めたり。 32ここに會衆(くわいしゅう)おほいに(みだ)れ、大方(おほかた)はその(なに)のために(あつま)りたるかを()らずして、(ある)(もの)はこの(こと)を、(ある)(もの)はかの(こと)(さけ)びたり。 33(つひ)群衆(ぐんじゅう)(ある)(もの)ども、ユダヤ(びと)()(いだ)したるアレキサンデルに(すす)めたれば、かれ()(うご)かして集民(しふみん)辯明(べんめい)をなさんとすれど、 34()のユダヤ(びと)たるを()り、みな同音(どうおん)に『おほいなる(かな)、エペソ(ひと)のアルテミス』と(よば)はりて()時間(じかん)ばかりに(およ)ぶ。 35(とき)書記役(しゅきやく)群衆(ぐんじゅう)(しづ)めおきて()ふ『さてエペソ(ひと)よ、(たれ)かエペソの(まち)大女神(おほめがみ)アルテミス(およ)(てん)より(くだ)りし(ざう)宮守(みやもり)なることを()らざる(もの)あらんや。 36これは()()(かた)きことなれば、なんぢら(しづか)なるべし、(みだり)なる(こと)()すべからず。 37この人々(ひとびと)(みや)(もの)(ぬす)(もの)にあらず、(われ)らの(をんな)(かみ)(そし)(もの)にもあらず、(しか)るに(なんぢ)(これ)()(きた)れり。 38もしデメテリオ(およ)(とも)にをる細工人(さいくにん)ら、(ひと)()きて(うった)ふべき(こと)あらば、裁判(さいばん)()あり、かつ(つかさ)あり、(かれ)()おのおの(うった)ふべし。 39もし(また)ほかの(こと)につきて()する(ところ)あらば、正式(せいしき)議會(ぎくわい)にて(けっ)すべし。 40(われ)今日(けふ)騷擾(さわぎ)につきては、(なに)理由(りいう)もなきにより(とが)()くる(おそれ)あり。この會合(くあいがふ)につきて()ひひらくこと(あた)はねばなり』 41()()ひて集會(あつまり)(さん)じたり。

第二十章

1騷亂(さわぎ)のやみし(のち)、パウロ弟子(でし)たちを(まね)きて(すすめ)をなし、(これ)(わかれ)()げ、マケドニヤに()かんとて()()つ。 2(しか)して、かの地方(ちはう)(めぐ)(おほ)くの(ことば)をもて弟子(でし)たちを(すす)めし(のち)、ギリシヤに(いた)る。 3そこに(とどま)ること三个月(さんかげつ)にして、シリヤに(むか)ひて船出(ふなで)せんとする(とき)、おのれを(そこな)はんとするユダヤ(びと)らの計略(はかりごと)()ひたれば、マケドニヤを()(かへ)らんと(こころ)(さだ)む。 4(これ)(ともな)へる人々(ひとびと)はベレア(ひと)にしてプロの()なるソパテロ、テサロニケ(ひと)アリスタルコ(およ)びセクンド、デルベ(ひと)ガイオ(およ)びテモテ、アジヤ(ひと)テキコ(およ)びトロピモなり。 5(かれ)らは(さき)だちゆき、トロアスにて(われ)らを()てり。 6(われ)らは除酵祭(じょかうさい)(のち)ピリピより船出(ふなで)し、五日(いつか)にしてトロアスに()き、(かれ)らの(もと)(いた)りて七日(なぬか)のあひだ(とどま)れり。
7一週(ひとまはり)(はじめ)()われらパンを()かんとて(あつま)りしが、パウロ明日(あす)いで()たんとて(かれ)()とかたり、夜半(よなか)まで(かた)(つづ)けたり。 8(あつま)りたる高樓(たかどの)には(おほ)くの燈火(ともしび)ありき。 9ここにユテコといふ若者(わかもの)(まど)()りて()しゐたるが、(いた)眠氣(ねむけ)ざすほどに、パウロの(かた)ること愈々(いよいよ)(ひさ)しくなりたれば、(つひ)熟睡(じゅくすゐ)して三階(さんがい)より()つ。これを(たす)(おこ)したるに、はや()にたり。 10パウロ(くだ)りて()(うへ)()し、かき(いだ)きて()ふ『なんぢら(さわ)ぐな、生命(いのち)はなほ(うち)にあり』 11(すなは)(また)のぼりてパンを()き、(しょく)してのち(ひさ)しく(かた)りあひ、夜明(よあけ)(いた)(つひ)()でたてり。 12人々(ひとびと)かの若者(わかもの)()きたるを()れきたり、(いた)慰藉(なぐさめ)()たり。
13かくて(われ)らは(さき)だちて(ふね)()り、アソスにてパウロを()せんとして彼處(かしこ)船出(ふなで)せり。(かれ)徒歩(かち)にて()かんとて()くは(さだ)めたるなり。 14(われ)らアソスにてパウロを()(むか)へ、これを()せてミテレネに(わた)り、 15また彼處(かしこ)より船出(ふなで)して翌日(よくじつ)キヨスの彼方(かなた)にいたり、(つぎ)()サモスに()()り、その(つぎ)()ミレトに()く。 16パウロ、アジヤにて(とき)(つひや)さぬ(ため)に、エペソには(ふね)()せずして()ぐることに(さだ)めしなり。これは()るべく五旬節(ごじゅんせつ)()エルサレムに()ることを()んとて(いそ)ぎしに()る。
17(しか)してパウロ、ミレトより(ひと)をエペソに(つかは)し、教會(けうくわい)長老(ちゃうらう)たちを()びて、 18その(きた)りし(とき)かれらに()
『わがアジヤに(きた)りし(はじめ)()より、如何(いか)なる(さま)にて(つね)(なんぢ)らと(とも)()りしかは、(なんぢ)らの()(ところ)なり。 19(すなは)謙遜(けんそん)(かぎり)をつくし、(なみだ)(なが)し、ユダヤ(びと)計略(はかりごと)によりて(せま)()艱難(なやみ)()へて(しゅ)につかへ、 20(えき)となる(こと)(なに)くれとなく(はばか)らずして()げ、公然(おほやけ)にても家々(いへいへ)にても(なんぢ)らを(をし)へ、 21ユダヤ(びと)にもギリシヤ(びと)にも、(かみ)(たい)して悔改(くいあらた)め、われらの(しゅ)イエスに(たい)して信仰(しんかう)すべきことを(あかし)せり。 22()よ、(いま)われは(こころ)(から)められてエルサレムに()く。彼處(かしこ)にて如何(いか)なる(こと)(われ)(およ)ぶかを()らず。 23ただ(せい)(れい)いづれの(まち)にても(われ)(あかし)して、縲絏(なはめ)患難(なやみ)(われ)()てりと()げたまふ。 24()れど(われ)わが(はし)るべき道程(みちのり)と、(しゅ)イエスより()けし(つとめ)、すなわち(かみ)(めぐみ)福音(ふくいん)(あかし)する(こと)とを(はた)さん(ため)には、(もと)より生命(いのち)をも(おも)んぜざるなり。 25()よ、(いま)われは()る、(さき)(なんぢ)らの(うち)()(めぐ)りて御國(みくに)宣傳(のべつた)へし()(かほ)を、(なんぢ)(みな)ふたたび()ざるべきを。 26この(ゆゑ)に、われ今日(けふ)なんぢらに(あかし)す、われは(すべ)ての(ひと)()につきていさぎよし。 27(われ)(はばか)らずして(かみ)御旨(みむね)をことごとく(なんぢ)らに()げしなり。 28(なんぢ)()みづから(こころ)せよ、(また)すべての(むれ)(こころ)せよ、(せい)(れい)(なんぢ)()(むれ)のなかに()てて監督(かんとく)となし、(かみ)(おのれ)()をもて()(たま)ひし教會(けうくわい)(ぼく)せしめ(たま)ふ。 29われ()る、わが()()るのち、(あら)豺狼(おほかみ)なんぢらの(うち)()りきたりて、(むれ)(をし)まず、 30(また)なんぢらの(うち)よりも、弟子(でし)たちを(おの)(かた)()()れんとて、(まが)れることを(かた)るもの(おこ)らん。 31されば(なんぢ)()(さま)しをれ。三年(さんねん)(あひだ)わが(よる)(ひる)(やす)まず、(なみだ)をもて(なんぢ)()おのおのを訓戒(くんかい)せしことを(おぼ)えよ。 32われ(いま)なんぢらを、(しゅ)および()(めぐみ)御言(みことば)(ゆだ)ぬ。御言(みことば)(なんぢ)らの(とく)()て、すべての(きよ)められたる(もの)とともに嗣業(しげふ)()けしめ()るなり。 33(われ)(ひと)(きん)(ぎん)衣服(ころも)(むさぼ)りし(こと)なし。 34この()()必要(ひつえう)(そな)へ、また(われ)(とも)なる(もの)(そな)へしことを(なんぢ)()みづから()る。 35(われ)すべての(こと)(おい)(れい)(しめ)せり、(すなは)(なんぢ)らも()(はたら)きて、(よわ)(もの)(たす)け、また(しゅ)イエスの(みづか)()(たま)ひし「(あた)ふるは()くるよりも幸福(さいはひ)なり」との御言(みことば)記憶(きおく)すべきなり』
36()()ひて(のち)、パウロ(ひざま)づきて一同(いちどう)とともに(いの)れり。 37みな(おほい)(なげ)きパウロの(くび)(いだ)きて接吻(くちつけ)し、 38そのふたたび()(かほ)()ざるべしと()ひし(ことば)によりて(こと)(うれ)ひ、(つひ)(かれ)(ふね)まで(おく)りゆけり。

第二十一章

1ここに(われ)人々(ひとびと)(わか)れて船出(ふなで)をなし、眞直(ますぐ)にはせてコスに(いた)り、(つぎ)()ロドスにつき、彼處(かしこ)よりパタラにわたる。 2()(ところ)にてピニケにゆく(ふね)()ひ、これに()りて船出(ふなで)す。 3クプロを(のぞ)み、(これ)(ひだり)にして()ぎ、シリヤに(むか)ひて(すす)み、ツロに()きたり、此處(ここ)にて(ふね)()(おろ)さんとすればなり。 4かくて弟子(でし)たちに(たづ)()ひて七日(なぬか)(とどま)れり。かれら御靈(みたま)によりてパウロに、エルサレムに(のぼ)るまじき(こと)()へり。 5(しか)るに(われ)七日(なぬか)(をは)りて(のち)、いでて旅立(たびだ)ちたれば、(かれ)()みな(つま)()とともに(まち)(そと)まで(おく)りきたり、諸共(もろとも)濱邊(はまべ)(ひざま)づきて(いの)り、 6(あひ)(たがひ)(わかれ)()げて(われ)らは(ふね)()り、(かれ)らは(いへ)(かへ)れり。
7ツロをいでトレマイに(いた)りて船路(ふなぢ)つきたり。此處(ここ)にて兄弟(きゃうだい)たちの安否(あんぴ)(おとな)ひ、かれらの(もと)一日(いちにち)(とどま)り、 8()くる()ここを()りてカイザリヤにいたり、傳道者(でんどうしゃ)ピリポの(いへ)()りて(とどま)る、(かれ)はかの七人(しちにん)一人(ひとり)なり。 9この(ひと)預言(よげん)する四人(よにん)(むすめ)ありて、處女(をとめ)なりき。 10(われ)數日(すにち)(とどま)()るうちに、アガボと()預言者(よげんしゃ)ユダヤより(くだ)り、 11(われ)らの(もと)(きた)りてパウロの(おび)をとり、(おの)(あし)()とを(しば)りて()ふ『(せい)(れい)かく()(たま)ふ「エルサレムにて、ユダヤ(びと)この(おび)(しゅ)()くの(ごと)(しば)りて異邦人(いはうじん)()(わた)さん」と』 12われら(これ)()きて()()人々(ひとびと)とともにパウロに、エルサレムに(のぼ)らざらんことを(すす)む。 13その(とき)パウロ(こた)ふ『なんぢら(なに)(なげ)きて()(こころ)(くじ)くか、(われ)エルサレムにて、(しゅ)イエスの()のために、(ただ)(しば)らるるのみかは、()ぬることをも覺悟(かくご)せり』 14()(われ)らの勸告(すすめ)()れるによりて『(しゅ)御意(みこころ)(ごと)くなれかし』と()ひて()む。
15この(のち)われら行李(かうり)(ととの)へてエルサレムに(のぼ)る。 16カイザリヤに()弟子(でし)數人(すにん)ともに()き、(われ)らの宿(やど)らんとするクプロ(ひと)マナソンといふ(ふる)弟子(でし)のもとに案内(あんない)したり。
17エルサレムに(いた)りたれば、兄弟(きゃうだい)たち(よろこ)びて(われ)らを(むか)へたり。 18翌日(よくじつ)パウロ(われ)らと(とも)にヤコブの(もと)()きしに、長老(ちゃうらう)たちみなあつまり()たり。 19パウロその安否(あんぴ)()ひて(のち)、おのが勤勞(はたらき)によりて異邦人(いはうじん)のうちに(かみ)(おこな)(たま)ひしことを、一々(いちいち)()げたれば、 20(かれ)()きて(かみ)(あが)め、またパウロに()ふ『兄弟(きゃうだい)よ、なんぢの()るごとく、ユダヤ(びと)のうち、信者(しんじゃ)となりたるもの數萬人(すまんにん)あり、みな律法(おきて)(たい)して熱心(ねっしん)なる(もの)なり。 21(かれ)らは、(なんぢ)異邦人(いはうじん)のうちに()(すべ)てのユダヤ(びと)(むか)ひて、その()らに割禮(かつれい)(ほどこ)すな、習慣(ならはし)(したが)ふなと()ひて、モーセに(とほ)ざかることを(をし)ふと()けり。 22如何(いか)にすべきか、(かれ)らは(かなら)(なんぢ)(きた)りたるを()かん。 23されば(なんぢ)われらの()(ごと)くせよ、(われ)らの(うち)誓願(せいぐわん)あるもの四人(よにん)あり、 24(なんぢ)かれらと()みて(これ)とともに(きよめ)をなし、(かれ)()のために(つひえ)(いだ)して(かみ)()らしめよ。さらば人々(ひとびと)みな(なんぢ)につきて()きたることの虚僞(いつはり)にして、(なんぢ)律法(おきて)(まも)りて(ただ)しく(あゆ)()ることを()らん。 25異邦人(いはうじん)信者(しんじゃ)となりたる(もの)につきては、(われ)(すで)()(おく)りて、偶像(ぐうざう)(ささ)げたる(もの)と、()と、絞殺(しめころ)したる(もの)と、淫行(いんかう)とに(とほ)ざかるべき(こと)(さだ)めたり』 26ここにパウロその人々(ひとびと)()みて、(つぎ)()ともどもに(きよめ)をなして(みや)()り、(きよめ)()滿()ちて各人(おのおの)のために献物(ささげもの)をささぐべき()()げたり。
27かくて七日(なぬか)(をは)らんとする(とき)、アジヤより(きた)りしユダヤ(びと)ら、(みや)(うち)にパウロの()るを()て、群衆(ぐんじゅう)(さわ)がし、かれに()をかけ(さけ)びて()ふ、 28『イスラエルの人々(ひとびと)(たす)けよ、この(ひと)はいたる(ところ)にて(たみ)律法(おきて)()(ところ)とに(もと)れることを人々(ひとびと)(をし)ふる(もの)なり、(しか)のみならず、ギリシヤ(びと)(みや)()()れて、()(せい)なる(ところ)をも(けが)したり』 29からら(さき)にエペソ(ひと)トロピモがパウロとともに市中(しちゅう)にゐたるを()て、パウロ(これ)(みや)()()れしと(おも)ひしなり。 30ここに市中(しちゅう)みな(さわ)ぎたち、(たみ)ども()(あつま)り、パウロを(とら)へて(みや)(そと)()(いだ)せり、かくて(もん)(ただ)ちに(とざ)されたり。 31(かれ)らパウロを(ころ)さんとせしとき、軍隊(ぐんたい)千卒長(せんそつちゃう)に、エルサレム(ぢゅう)さわぎ()てりとの(こと)きこえたれば、 32かれ(すみや)かに兵卒(へいそつ)および百卒長(ひゃくそつちゃう)らを(ひき)ゐて()(くだ)る。かれら千卒長(せんそつちゃう)兵卒(へいそつ)とを()て、パウロを()つことを()む。 33千卒長(せんそつちゃう)(ちか)よりてパウロを(とら)へ、(めい)じて(ふた)つの(くさり)にて(つな)がせ、その(なに)(ひと)なるか、何事(なにごと)をなしたるかを(たづ)ぬるに、 34群衆(ぐんじゅう)(うち)にて(ある)(もの)はこの(こと)を、(ある)(もの)はかの(こと)(よば)はり、騷亂(さわぎ)のために(たしか)なる(こと)()るに(よし)なく、(めい)じて陣營(ぢんえい)()(きた)らしめたり。 35階段(きざはし)(いた)れるに、群衆(ぐんじゅう)手暴(てあら)きによりて、兵卒(へいそつ)パウロを()ひたり。 36これ()れる(たみ)ども『(かれ)(のぞ)け』と(さけ)びつつ(したが)(せま)れる(ゆゑ)なり。
37パウロ陣營(ぢんえい)()()れられんとするとき、千卒長(せんそつちゃう)()ふ『われ(なんぢ)(かた)りて()きか』かれ()ふ『なんぢギリシヤ(ことば)()るか。 38(なんぢ)はかのエジプト(ひと)にして、(さき)(らん)(おこ)して四千(しせん)(にん)刺客(しかく)荒野(あらの)(ひき)()でし(もの)ならずや』 39パウロ()ふ『(われ)はキリキヤなるタルソのユダヤ(びと)(いや)しからぬ()市民(しみん)なり。()(たみ)(かた)るを(ゆる)せ』 40(これ)(ゆる)したれば、パウロ階段(きざはし)(うへ)()ち、(たみ)(むか)ひて()(うご)かし、(おほい)(しづ)まれる(とき)、ヘブルの(ことば)にて(かた)りて()ふ、

第二十二章

1兄弟(きゃうだい)たち(おや)たちよ、(いま)なんぢらに(たい)する辯明(べんめい)()け』 2人々(ひとびと)そのヘブルの(ことば)(かた)るを()きてますます(しづか)になりたれば、(また)いふ、
3(われ)はユダヤ(びと)にてキリキヤのタルソに(うま)れしが、()(みやこ)にて(そだ)てられ、ガマリエルの足下(あしもと)にて先祖(せんぞ)たちの律法(おきて)(きび)しき(かた)(したが)ひて(をし)へられ、今日(けふ)(なんぢ)らのごとく(かみ)(たい)して熱心(ねっしん)なる(もの)なりき。 4(われ)この(みち)迫害(はくがい)し、男女(なんにょ)(しば)りて(ひとや)()れ、()にまで(いた)らしめしことは、 5(だい)祭司(さいし)(すべ)ての長老(ちゃうらう)(われ)()きて(あかし)するなり。(われ)(かれ)()より兄弟(きゃうだい)たちへの(ふみ)()けて、ダマスコに(やど)()(もの)どもを(しば)り、エルサレムに()(きた)りて(ばつ)()けしめんとて彼處(かしこ)にゆけり。 6()きてダマスコに(ちか)づきたるに、正午(まひる)ごろ(たちま)(おほい)なる(ひかり)(てん)より()でて(われ)(めぐ)(てら)せり。 7その(とき)われ()(たふ)れ、かつ(われ)(かた)りて「サウロ、サウロ、(なに)(われ)迫害(はくがい)するか」といふ(こゑ)()き、 8(しゅ)よ、なんぢは(たれ)ぞ」と(こた)へしに「われは(なんぢ)迫害(はくがい)するナザレのイエスなり」と()(たま)へり。 9(とも)()(もの)ども(ひかり)()しが、(われ)(かた)(もの)(こゑ)()かざりき。 10われ(また)いふ「(しゅ)よ、(われ)なにを()すべきか」(しゅ)いひ(たま)ふ「()ちてダマスコに()け、なんぢの()すべき(さだま)りたる(こと)彼處(かしこ)にて(ことご)とく()げらるべし」 11(われ)は、かの(ひかり)晃耀(かがやき)にて()()えずなりたれば、(とも)にをる(もの)()()かれてダマスコに()りたり。 12ここに律法(おきて)()れる敬虔(けいけん)(ひと)にして、()(まち)()(すべ)てのユダヤ(びと)令聞(よききこえ)あるアナニヤという(もの)あり。 13(かれ)われに(きた)(かたは)らに()ちて「兄弟(きゃうだい)サウロよ、()ることを()よ」と()ひたれば、その(とき)(あふ)ぎて(かれ)()たり。 14かれ(また)いふ「(われ)らの先祖(せんぞ)(かみ)は、なんぢを(えら)びて御意(みこころ)()らしめ、(また)かの義人(ぎじん)()、その御口(みくち)(こゑ)()かしめんとし(たま)へり。 15これは(なんぢ)()(きき)したる(こと)につきて、(すべ)ての(ひと)(たい)(かれ)證人(しょうにん)とならん(ため)なり。 16(いま)なんぞ躊躇(ためら)ふか、()て、その御名(みな)()び、バプテスマを()けて(なんぢ)(つみ)(あら)()れ」 17かくて(われ)エルサレムに(かへ)り、(みや)にて(いの)りをるとき、(われ)(わす)れし心地(ここち)して(しゅ)()(たてまつ)るに、(われ)()()(たま)ふ、 18「なんぢ(いそ)げ、(はや)くエルサレムを()れ、人々(ひとびと)われに(かかは)(なんぢ)(あかし)()けぬ(ゆゑ)なり」 19(われ)いふ「(しゅ)よ、(われ)さきに(なんぢ)(しん)ずる(もの)(ひとや)()れ、(しょ)會堂(くわいだう)にて(これ)()ち、 20(また)なんぢの證人(あかしびと)ステパノの()(なが)されしとき、(われ)もその(かたは)らに()ちて(これ)()しとし、(ころ)(もの)どもの(ころも)(まも)りしことは、(かれ)らの()(ところ)なり」 21われに()(たま)ふ「()け、(われ)なんぢを(とほ)異邦人(いはうじん)(つかは)すなり」と』
22人々(ひとびと)きき()たりしが、()(ことば)(およ)び、(こゑ)()げて()ふ『()くのごとき(もの)をば()より(のぞ)け、()かしおくべき(もの)ならず』 23()(さけ)びつつ()(ころも)()ぎすて、(ちり)空中(くうちゅう)()きたれば、 24千卒長(せんそつちゃう)人々(ひとびと)(なに)(ゆゑ)パウロにむかひて()(さけ)(よば)はるかを()らんとし、(むち)うちて(しら)ぶることを(めい)じて、(かれ)陣營(ぢんえい)()()れしむ。 25革鞭(かはむち)をあてんとてパウロを()()りし(とき)、かれ(かたは)らに()百卒長(ひゃくそつちゃう)()ふ『ロマ(びと)たる(もの)(つみ)(さだ)めずして(むち)うつは()きか』 26百卒長(ひゃくそつちゃう)これを()きて千卒長(せんそつちゃう)()き、()げて()ふ『なんぢ(なに)をなさんとするか、()(ひと)はロマ(びと)なり』 27千卒長(せんそつちゃう)きたりて()ふ『なんぢはロマ(びと)なるか、(われ)()げよ』かれ()ふ『(しか)り』 28千卒長(せんそつちゃう)こたふ『(われ)(おほ)くの(きん)をもて()(たみ)(せき)()たり』パウロ()ふ『(われ)(うま)れながらなり』 29ここに(しら)べんとせし(もの)どもは(ただ)ちに()り、千卒長(せんそつちゃう)はそのロマ(びと)なるを()り、(これ)(しば)りしことを(おそ)れたり。
30()くる()千卒長(せんそつちゃう)かれが(なに)(ゆゑ)ユダヤ(びと)(うった)へられしか、(たしか)なる(こと)()らんと(ほっ)して、(かれ)(なはめ)()き、(めい)じて祭司長(さいしちゃう)らと(ぜん)議會(ぎくわい)とを()(あつ)め、パウロを()(いだ)して()(まへ)()たしめたり。

第二十三章

1パウロ議會(ぎくわい)()(そそ)ぎて()ふ『兄弟(きゃうだい)たちよ、(われ)今日(けふ)(いた)るまで(こと)(ごと)良心(りゃうしん)(したが)ひて(かみ)(つか)へたり』 2(だい)祭司(さいし)アナニヤ(かたは)らに()(もの)どもに、(かれ)(くち)()つことを(めい)ず。 3ここにパウロ()ふ『(しろ)()りたる(かべ)よ、(かみ)なんぢを()(たま)はん、なんぢ律法(おきて)によりて(われ)(さば)くために()しながら、律法(おきて)(もと)りて(われ)()つことを(めい)ずるか』 4(かたは)らに()(もの)いふ『なんぢ(かみ)(だい)祭司(さいし)(ののし)るか』 5パウロ()ふ『兄弟(きゃうだい)たちよ、(われ)その(だい)祭司(さいし)たることを()らざりき。(しる)して「なんぢの(たみ)(つかさ)をそしる()からず」とあればなり』 6かくてパウロ、その一部(いちぶ)はサドカイ(びと)、その一部(いちぶ)はパリサイ(びと)たるを()りて、議會(ぎくわい)のうちに(よば)はりて()ふ『兄弟(きゃうだい)たちよ、(われ)はパリサイ(びと)にしてパリサイ(びと)()なり、(われ)死人(しにん)(よみが)へることの希望(のぞみ)につきて(さば)かるるなり』 7()()ひしに()りて、パリサイ(びと)とサドカイ(びと)との(あひだ)紛爭(あらそひ)おこりて、會衆(くわいしゅう)(あひ)(わか)れたり。 8サドカイ(びと)復活(よみがへり)もなく御使(みつかひ)(れい)もなしと()ひ、パリサイ(びと)(ふたつ)ながらありと()ふ。 9(つひ)(おほい)なる喧噪(さわぎ)となりて、パリサイ(びと)(うち)學者(がくしゃ)數人(すにん)たちて(あらそ)ひて()ふ『われら()(ひと)()しき(こと)あるを()ず、もし(れい)または御使(みつかひ)かれに(かた)りたるならば如何(いかん)10紛爭(あらそひ)いよいよ(はげ)しくなりたれば、千卒長(せんそつちゃう)、パウロの(かれ)らに(ひき)()かれんことを(おそ)れ、兵卒(へいそつ)どもに(めい)じて(くだ)りゆかしめ、(かれ)らの(なか)より引取(ひきと)りて陣營(ぢんえい)()(きた)らしめたり。
11その()(しゅ)パウロの(かたは)らに()ちて()(たま)ふ『雄々(をを)しかれ、(なんぢ)エルサレムにて(われ)につきて(あかし)をなしたる(ごと)く、ロマにても(あかし)をなすべし』
12夜明(よあけ)になりてユダヤ(びと)徒黨(とたう)()盟約(うけひ)()てて、パウロを(ころ)すまでは飮食(のみくひ)せじと()ふ。 13この徒黨(とたう)(むす)びたる(もの)四十(しじふ)(にん)(あまり)なり。 14(かれ)らは祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)らに()きて()ふ『われらパウロを(ころ)すまでは(なに)をも(あじは)ふまじと(かた)盟約(うけひ)()てたり。 15されば(なんぢ)()なほ詳細(つまびらか)(しら)べんとする(さま)して、(かれ)(なんぢ)らの(もと)()(くだ)らすることを、議會(ぎくわい)とともに千卒長(せんそつちゃう)(うった)へよ。我等(われら)その(ちか)くならぬ(うち)(ころ)準備(そなへ)をなせり』 16パウロの姉妹(しまい)()この待伏(まちぶせ)(こと)をきき、()きて陣營(ぢんえい)()りパウロに()げたれば、 17パウロ百卒長(ひゃくそつちゃう)一人(ひとり)()びて()ふ『この若者(わかもの)千卒長(せんそつちゃう)につれ()け、()ぐる(こと)あり』 18百卒長(ひゃくそつちゃう)これを(たづさ)へ、千卒長(せんそつちゃう)(いた)りて()ふ『囚人(めしうど)パウロ(われ)()びて、この若者(わかもの)なんぢに()ふべき(こと)ありとて、(なんぢ)()()くことを()へり』 19千卒長(せんそつちゃう)その()()退(しりぞ)きて、(ひそか)()ふ『われに()ぐる(こと)とは(なに)ぞ』 20若者(わかもの)いふ『ユダヤ(びと)は、(なんぢ)がパウロの(こと)をなほ詳細(つまびらか)(しら)ぶる(ため)にとて、明日(あす)かれを議會(ぎくわい)()(くだ)ることを(なんぢ)()はんと申合(まうしあは)せたり。 21(なんぢ)その(こひ)(したが)ふな、(かれ)らの(うち)にて四十(しじふ)(にん)(あまり)(もの)、パウロを待伏(まちぶ)せ、(これ)(ころ)すまでは飮食(のみくひ)せじと盟約(うけひ)()て、(いま)その準備(そなへ)をなして(なんぢ)許諾(ゆるし)()てり』 22ここに千卒長(せんそつちゃう)若者(わかもの)に『これらの(こと)(われ)(うった)へたりと(たれ)にも(かた)るな』と(めい)じて(かへ)せり。 23さて百卒長(ひゃくそつちゃう)(りゃう)三人(さんにん)よびて()ふ『今夜(こよひ)九時(くじ)ごろカイザリヤに()けて()くために、兵卒(へいそつ)()(ひゃく)騎兵(きへい)(しち)(じふ)(やり)をとる(もの)()(ひゃく)(ととの)へよ』 24また(けもの)(そな)へ、パウロを()せて安全(あんぜん)總督(そうとく)ペリクスの(もと)護送(ごそう)することを(めい)じ、 25かつ()のごとき(ふみ)をかき(おく)る。
26『クラウデオ・ルシヤ(つつし)みて總督(そうとく)ペリクス閣下(かくか)平安(へいあん)(いの)る。 27この(ひと)はユダヤ(びと)(とら)へられて(ころ)されんとせしを、(われ)そのロマ(びと)なるを()き、兵卒(へいそつ)どもを(ひき)()きて(すく)へり。 28ユダヤ(びと)(かれ)(うった)ふる理由(りいう)()らんと(ほっ)して、その議會(ぎくわい)()()きたるに、 29(かれ)らの律法(おきて)問題(もんだい)につき(うった)へられたるにて、()もしくは(なはめ)(あた)(つみ)訴訟(うったへ)にあらざるを()りたり。 30(また)この(ひと)(がい)せんとする謀計(はかりごと)ありと(われ)(きこ)えたれば、われ(にはか)にこれを(なんぢ)のもとに(おく)り、これを(うった)ふる(もの)に、なんぢの(まへ)にて(かれ)(うった)へんことを(めい)じたり』
31ここに兵卒(へいそつ)ども(めい)ぜられたる(ごと)くパウロを()けとりて、夜中(やちゅう)アンテパトリスまで()れてゆき、 32翌日(よくじつ)これを騎兵(きへい)(ゆだ)ね、ともに()かしめて陣營(ぢんえい)(かへ)れり。 33騎兵(きへい)はカイザリヤに()り、總督(そうとく)(ふみ)をわたし、パウロを()(まへ)()たしむ。 34總督(そうとく)(ふみ)()みて、パウロのいづこの(くに)(もの)なるかを()ひ、そのキリキヤ(ひと)なるを()りて、 35(なんぢ)(うった)ふる(もの)(きた)らんとき、(なほ)つまびらかに(なんぢ)のことを()かん』と()ひ、かつ(めい)じて、ヘロデでの官邸(くわんてい)(これ)(まも)らしめたり。

第二十四章

1五日(いつか)ののち、(だい)祭司(さいし)アナニヤ數人(すにん)長老(ちゃうらう)およびテルトロと()辯護士(べんごし)とともに(くだ)りて、パウロを總督(そうとく)(うった)ふ。 2パウロ()(いだ)されたれば、テルトロ(うった)()でて()ふ『ペリクス閣下(かくか)よ、われらは(なんぢ)によりて太平(たいへい)(たの)しみ、 3なんぢの先見(せんけん)によりて、()國人(くにびと)のために(とき)(したが)(ところ)(したが)ひて、()しき(こと)(あらた)められたるを感謝(かんしゃ)して()まず。 4ここに喃々(くどくど)しく()べて(なんぢ)(さまた)ぐまじ、(ねが)はくは寛容(くわんよう)をもて()(すこ)しの(ことば)()け。 5我等(われら)この(ひと)()るに、(あたか)疫病(えきびゃう)のごとくにて、全世界(ぜんせかい)のユダヤ(びと)のあひだに騷擾(さわぎ)をおこし、(かつ)ナザレ(びと)異端(いたん)(かしら)にして、 6(みや)をさへ(けが)さんとしたれば、(これ)(とら)へたり。 7[なし] 8(なんぢ)この(ひと)()きて(ただ)さば、(われ)らの(うった)ふる(ところ)をことごとく()()べし』 9ユダヤ(びと)(これ)(くは)へて、(まこと)にその(ごと)くなりと主張(しゅちゃう)す。 10總督(そうとく)(かうべ)にて(しめ)しパウロに()はしめたれば、(こた)
『なんぢが(とし)(ひさ)しくこの國人(くにびと)審判(さばき)(ひと)たることを(われ)()るゆゑに、(よろこ)びて()辯明(べんめい)をなさん。 11なんぢ()()べし、()禮拜(れいはい)のためにエルサレムに(のぼ)りてより(わづ)十二(じふに)(にち)()ぎず、 12また(かれ)らは、()(みや)にても會堂(くわいだう)にても市中(しちゅう)にても、(ひと)(あらそ)群衆(ぐんじゅう)(さわ)がしたるを()ず、 13いま(うった)へたる()(こと)につきても證明(しょうめい)すること(あた)はざるなり。 14(われ)ただ()一事(いちじ)(なんぢ)()ひあらはさん、(すなは)(われ)(かれ)らが異端(いたん)(とな)ふる(みち)(したが)ひて、()先祖(せんぞ)たちの(かみ)につかへ、律法(おきて)預言者(よげんしゃ)(ふみ)とに(しる)したる(こと)をことごとく(しん)じ、 15かれら(みづか)らも()てるごとく、義者(ぎしゃ)不義者(ぎしゃ)との復活(よみがへり)あるべしと、(かみ)(あふ)ぎて(のぞみ)(いだ)くなり。 16この(ゆゑ)に、われ(つね)(かみ)(ひと)とに(たい)して良心(りゃうしん)(せめ)なからんことを(つと)む。 17(われ)(おほ)くの(とし)()てのち(かへ)りきたり、()(たみ)施濟(ほどこし)をなし、また献物(ささげもの)をささげゐたりしが、 18その(とき)かれらは()(きよめ)をなして(みや)にをるを()たるのみにて、群衆(ぐんじゅう)もなく騷擾(さわぎ)もなかりしなり。 19(しか)るにアジアより(きた)れる數人(すにん)のユダヤ(びと)ありて――もし(われ)(とが)むべき(こと)あらば、(かれ)らが(なんぢ)(まへ)()でて(うった)ふることを()べきなり。 20(あるひ)はまた此處(ここ)なる人々(ひとびと)、わが(さき)議會(ぎくわい)()ちしとき、(われ)(なに)不義(ふぎ)(みと)めしか()へ。 21(ただ)われ(かれ)らの(うち)()ちて「死人(しにん)(よみが)へる(こと)につきて(われ)けふ(なんぢ)らの(まへ)にて(さば)かる」と(よば)はりし一言(ひとこと)(ほか)には(なに)もなかるべし』
22ペリクスこの(みち)のことを(くは)しく()りたれば、審判(さばき)(のば)して()ふ『千卒長(せんそつちゃう)ルシヤの(くだ)るを()ちて(なんぢ)らの(こと)(さだ)むべし』 23かくて百卒長(ひゃくそつちゃう)(めい)じパウロを(まも)らせ、(ゆるや)かならしめ、かつ(とも)(これ)(つか)ふるをも(きん)ぜざらしむ。
24數日(すにち)(のち)ペリクス、その(つま)なるユダヤ(びと)(をんな)ドルシラとともに(きた)り、パウロを()びよせてキリスト・イエスに(たい)する信仰(しんかう)のことを()き、 25パウロが正義(ただしき)節制(せつせい)(きた)らんとする審判(さばき)とにつきて(ろん)じたる(とき)、ペリクス(おそ)れて(こた)ふ『(いま)()れ、よき(をり)()てまた(まね)かん』 26かくてパウロより(かね)(あた)へられんことを(のぞ)みて、(なほ)しばしば(かれ)()びよせては(かた)れり。 27二年(にねん)()てポルシオ・フェスト、ペリクスの(にん)(かわ)りしが、ペリクス、ユダヤ(びと)(こころ)(むか)へんとして、パウロを(つな)ぎたるままに差措(さしお)けり。

第二十五章

1フェスト任國(にんこく)にいたりて三日(みっか)(のち)、カイザリヤよりエルサレムに(のぼ)りたれば、 2祭司長(さいしちゃう)(およ)びユダヤ(びと)重立(おもだ)ちたる(もの)ども、パウロを(うった)(これ)(そこな)はんとして、 3フェストの好意(かうい)にて(かれ)をエルサレムに()(いだ)されんことを(ねが)ふ。()くして(みち)待伏(まちぶせ)し、(これ)(ころ)さんと(おも)へるなり。 4(しか)るにフェスト(こた)へて、パウロのカイザリヤに(とら)はれ()ることと、(おの)(ほど)なく(かへ)るべき(こと)とを()げ、 5『もし(かれ)()(ぜん)あらんには、(なんぢ)()のうち(しか)るべき(もの)ども(われ)とともに(くだ)りて(うった)ふべし』と()ふ。
6かくて彼處(かしこ)八日(やうか)十日(とうか)ばかり()りてカイザリヤに(くだ)り、()くる()審判(さばき)()()し、(めい)じてパウロを引出(ひきいだ)さしむ。 7その()(きた)りし(とき)、エルサレムより(くだ)りしユダヤ(びと)ら、これを取圍(とりかこ)みて樣々(さまざま)(おも)(つみ)()()てて(うった)ふれども、(あかし)すること(あた)はず。 8パウロは辯明(べんめい)して()ふ『(われ)はユダヤ(びと)律法(おきて)(たい)しても、(みや)(たい)しても、カイザルに(たい)しても、(つみ)(をか)したる(こと)なし』 9フェスト、ユダヤ(びと)(こころ)(むか)へんとしてパウロに(こた)へて()ふ『なんぢエルサレムに(のぼ)り、彼處(かしこ)にて()(まへ)(さば)かるることを(うけが)ふか』 10パウロ()ふ『(われ)はわが(さば)かるべきカイザルの審判(さばき)()(まへ)()ちをるなり。(なんぢ)()()るごとく、(われ)はユダヤ(びと)(そこな)ひしことなし。 11()しも(つみ)(をか)して()(あた)るべき(こと)をなしたらんには、()ぬるを(いと)はじ。()れど()人々(ひとびと)(うった)ふること(まこと)ならずば、(たれ)(われ)(かれ)らに(わた)すことを()じ、(われ)はカイザルに上訴(じゃうそ)せん』 12ここにフェスト陪席(ばいせき)(もの)(あひ)(はか)りて(こた)ふ『なんぢカイザルに上訴(じゃうそ)せんとす、カイザルの(もと)()くべし』
13數日(すにち)()(のち)、アグリッパ(わう)とベルニケとカイザリヤに(いた)りてフェストの安否(あんぴ)()ふ。 14(おほ)くの()(とどま)りゐたれば、フェスト、パウロのことを(わう)()げて()ふ『ここにペリクスが囚人(めしうど)として(のこ)しおきたる一人(ひとり)(ひと)あり、 15(われ)エルサレムに()りしとき、ユダヤ(びと)祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)(これ)(うった)へて(つみ)(さだ)めんことを(ねが)ひしが、 16(われ)(こた)へて、(うった)へらるる(もの)(いま)(うった)ふる(もの)面前(めんぜん)にて辯明(べんめい)する(をり)(あた)へられぬ(さき)(わた)すは、ロマ(びと)慣例(ならはし)にあらぬ(こと)()げたり。 17この(ゆゑ)(かれ)()ここに(あつま)りたれば、(とき)(のば)さず(つぎ)()審判(さばき)()()し、(めい)じてかの(もの)引出(ひきいだ)さしむ。 18(うった)ふる(もの)かれを(かこ)みて()ちしが、(おも)ひしごとき()しき(こと)(ひと)つも()ぶる(ところ)なし。 19ただ(おのれ)らの宗教(しゅうけう)、またはイエスと()(もの)()にたるを()きたりと、パウロが主張(しゅちゃう)するなどに(くわん)する問題(もんだい)のみなれば、 20かかる審理(しらべ)には(われ)當惑(たうわく)せし(ゆゑ)、かの(ひと)に「なんぢエルサレムに()彼處(かしこ)にて(さば)かるる(こと)(この)むか」と()ひしに、 21パウロは上訴(じゃうそ)して皇帝(くわうてい)判決(はんけつ)()けん(ため)(まも)られんことを(ねが)ひしにより、(めい)じて(これ)をカイザルに(おく)るまで(まも)らせ()けり』 22アグリッパ、フェストに()ふ『(われ)もその(ひと)()かんと(ほっ)す』フェスト()ふ『なんぢ明日(あす)かれに()くべし』
23()くる()アグリッパとベルニケと(おほい)威儀(ゐぎ)(ととの)へてきたり、千卒長(せんそつちゃう)(およ)()重立(おもだ)ちたる(もの)どもと(とも)訊問所(じんもんじょ)()りたれば、フェストの(めい)によりてパウロ引出(ひきいだ)さる。 24フェスト()ふ『アグリッパ(わう)(なら)びに此處(ここ)()(すべ)ての(もの)よ、(なんぢ)らの()るこの(ひと)は、ユダヤの民衆(みんしゅう)(こぞ)りて()かしおくべきにあらずと(よば)はりて、エルサレムにても此處(ここ)にても(われ)(うった)へし(もの)なり。 25(しか)るに(われ)はその()(あた)るべき()しき(こと)(ひと)つだに(をか)したるを(みと)めねば、(かれ)(みづか)皇帝(くわうてい)上訴(じゃうそ)せんとする(まま)にその(もと)(おく)らんと(さだ)めたり。 26(しか)して(かれ)につきて()(しゅ)上書(じゃうしょ)すべき(じつ)(じゃう)()ず。この(ゆゑ)(なんぢ)()のまへ、(こと)にアグリッパ(わう)よ、なんぢの(まへ)引出(ひきいだ)し、訊問(しらべ)をなしてのち、上書(じゃうしょ)すべき箇條(かでう)()んと(おも)へり。 27囚人(めしうど)(おく)るに訴訟(うったへ)次第(しだい)()べざるは道理(ことわり)ならずと(おも)(ゆゑ)なり』

第二十六章

1アグリッパ、パウロに()ふ『なんぢは自己(みづから)のために()ぶることを(ゆる)されたり』ここにパウロ()()べ、辯明(べんめい)して()ふ、
2『アグリッパ(わう)よ、(われ)ユダヤ(びと)より(うった)へられし(すべ)ての(こと)につきて、今日(けふ)なんぢらの(まへ)辯明(べんめい)するを()幸福(さいはひ)とす。 3(なんぢ)がユダヤ(びと)(すべ)ての習慣(ならはし)問題(もんだい)とを()るによりて(こと)(しか)りとす。されば()ふ、(しの)びて(われ)()け。 4わが(はじめ)より國人(くにびと)のうちに(また)エルサレムに()ける(おさな)(とき)よりの生活(せいくわつ)(さま)は、ユダヤ(びと)のみな()(ところ)なり。 5(かれ)()もし(あかし)せんと(おも)はば、わが(われ)らの宗教(しゅうけう)(もっと)(きび)しき()(したが)ひて、パリサイ(びと)生活(せいくわつ)をなしし(こと)(はじめ)より()れり。 6(いま)わが()ちて(さば)かるるは、(かみ)(われ)らの先祖(せんぞ)たちに約束(やくそく)(たま)ひしことの希望(のぞみ)()りてなり。 7(これ)()んことを(のぞ)みて、()十二(じふに)(やから)(よる)(ひる)熱心(ねっしん)(かみ)(つか)ふるなり。(わう)よ、この希望(のぞみ)につきて、(われ)はユダヤ(びと)(うった)へられたり。 8(かみ)死人(しにん)(よみが)へらせ(たま)ふとも、(なんぢ)()なんぞ(しん)(かた)しとするか。 9(われ)(さき)にはナザレ(びと)イエスの()(さから)ひて樣々(さまざま)(こと)をなすを()きことと(みづか)(おも)へり。 10(われ)エルサレムにて(これ)をおこなひ、祭司長(さいしちゃう)らより權威(けんゐ)()けて(おほ)くの聖徒(せいと)(ひとや)にいれ、(かれ)らの(ころ)されし(とき)これに同意(どうい)し、 11(しょ)教會堂(けうくわいだう)にてしばしば(かれ)らを(ばっ)し、()ひて瀆言(けがしごと)()はしめんとし、(はなは)だしく(くる)ひ、迫害(はくがい)して外國(ぐわいこく)(まち)にまで(いた)れり。 12()のとき祭司長(さいしちゃう)らより權威(けんゐ)委任(ゐにん)とを()けてダマスコに(おもむ)きしが、 13(わう)よ、その(みち)にて正午(まひる)ごろ(てん)よりの(ひかり)()たり、()にも(まさ)りて(かがや)き、(われ)伴侶(みちづれ)とを(かこ)(てら)せり。 14我等(われら)みな()(たふ)れたるに、ヘブルの(ことば)にて「サウロ、サウロ、(なに)(われ)迫害(はくがい)するか、(とげ)ある(むち)()るは(かた)し」といふ(こゑ)(われ)きけり。 15われ()ふ「(しゅ)よ、なんぢは(たれ)ぞ」(しゅ)いひ(たま)ふ「われは(なんぢ)迫害(はくがい)するイエスなり。 16()きて(なんぢ)(あし)にて()て、わが(なんぢ)(あらは)れしは、(なんぢ)をたてて()()しことと()(なんぢ)(あらは)れて(しめ)さんとする(こと)との役者(えきしゃ)また證人(あかしびと)たらしめん(ため)なり。 17(われ)なんぢを()(たみ)および異邦人(いはうじん)より(すく)はん、(また)なんぢを(かれ)らに(つかは)し、 18その()をひらきて(くらき)より(ひかり)に、サタンの權威(けんゐ)より(かみ)()(かへ)らせ、(われ)(たい)する信仰(しんかう)によりて(つみ)(ゆるし)(きよ)められたる(もの)のうちの嗣業(しげふ)とを()しめん」と。 19この(ゆゑ)にアグリッパ(わう)よ、われは(てん)よりの顯示(しめし)(そむ)かずして、 20()づダマスコに()るもの、(つぎ)にエルサレム(およ)びユダヤ全國(ぜんこく)、また異邦人(いはうじん)にまで、悔改(くいあらた)めて(かみ)()ちかへり、()悔改(くいあらため)にかなふ(わざ)をなすべきことを宣傅(のべつた)へたり。 21(これ)がためにユダヤ(びと)われを(みや)にて(とら)へ、かつ(ころ)さんとせり。 22(しか)るに(かみ)(たすけ)によりて今日(けふ)(いた)るまで(なほ)(ながら)へて、(せう)なる(ひと)にも(だい)なる(ひと)にも(あかし)をなし、()ふところは預言者(よげんしゃ)およびモーセが(かなら)(きた)るべしと(かた)りしことの(ほか)ならず。 23(すなは)ちキリストの苦難(くるしみ)()くべきこと、最先(いやさき)死人(しにん)(うち)より(よみが)へる(こと)によりて、(たみ)異邦人(いはうじん)とに(ひかり)(つた)ふべきこと(これ)なり』
24パウロ()辯明(べんめい)しつつある(とき)、フェスト大聲(おほごゑ)()ふ『パウロよ、なんぢ狂氣(きゃうき)せり、博學(はくがく)なんぢを狂氣(きゃうき)せしめたり』 25パウロ()ふ『フェスト閣下(かくか)よ、(われ)狂氣(きゃうき)せず、()ぶる(ところ)(まこと)にして(たしか)なる(ことば)なり。 26(わう)(これ)()のことを()るゆゑに、(われ)その(まへ)(はばか)らずして(かた)る。これらの(こと)片隅(かたすみ)(おこな)はれたるにあらねば、(ひと)つとして(わう)()(かく)れたるはなしと(しん)ずるに()る。 27アグリッパ(わう)よ、なんぢ預言者(よげんしゃ)(ふみ)(しん)ずるか、(われ)なんぢの(しん)ずることを()る』 28アグリッパ、パウロに()ふ『なんぢ()くこと(わづか)にして(われ)をキリステアンたらしめんとするか』 29パウロ()ふ『()くことの(わづか)なるにもせよ、(おほ)きにもせよ、(かみ)(ねが)ふは、(ただ)(なんぢ)のみならず、(すべ)今日(けふ)われに()ける(もの)の、この縲絏(なはめ)なくして()がごとき(もの)とならんことなり』
30ここに(わう)總督(そうとく)もベルニケも、列座(れつざ)(もの)どもも(みな)ともに()つ、 31退(しりぞ)きてのち(あひ)(かた)りて()ふ『この(ひと)死罪(しざい)または縲絏(なはめ)(あた)るべき(こと)をなさず』 32アグリッパ、フェストに()ふ『この(ひと)カイザルに上訴(じゃうそ)せざりしならば(ゆる)さるべかりしなり』

第二十七章

1すでに我等(われら)をイタリヤに(わた)らしむること(さだま)りたれば、パウロ(およ)びその(ほか)數人(すにん)囚人(めしうど)を、近衞(このゑ)(たい)百卒長(ひゃくそつちゃう)ユリアスと()(ひと)(わた)せり。 2ここに(われ)らアジヤの海邊(うみべ)なる各處(ところどころ)()せゆくアドラミテオの(ふね)出帆(しゅっぱん)せんとするに()りて()づ。テサロニケのマケドニヤ(びと)アリスタルコも(われ)らと(とも)にありき。 3(つぎ)()シドンに()きたれば、ユリアス懇切(ねんごろ)にパウロを()ひ、その(とも)らの(もと)にゆきて歡待(もてなし)()くることを(ゆる)せり。 4かくて此處(ここ)より船出(ふなで)せしが、(かぜ)(さから)ふによりてクプロの風下(かざしも)(かた)をはせ、 5キリキヤ(およ)びパンフリヤの(おき)()ぎてルキヤのミラに()く。 6彼處(かしこ)にてイタリヤにゆくアレキサンデリヤの(ふね)()ひたれば、百卒長(ひゃくそつちゃう)われらを(これ)()らしむ。 7(おほ)くの()のあひだ(ふね)(すす)(おそ)く、(から)うじてクニドに(むか)へる(ところ)(いた)りしが、(かぜ)()へられてサルモネの(おき)()ぎ、クレテの風下(かざしも)(かた)をはせ、 8(をか)沿()(から)うじて()(みなと)といふ(ところ)につく。その(ちか)(ところ)にラサヤの(まち)あり。
9船路(ふなぢ)(ひさ)しきを()て、斷食(だんじき)期節(きせつ)(すで)()ぎたれば、航海(かうかい)(あやふ)きにより、パウロ人々(ひとびと)(すす)めて()ふ、 10人々(ひとびと)よ、(われ)この航海(かうかい)(がい)あり(そん)(おほ)くして、ただ積荷(つみに)(ふね)とのみならず、(われ)らの生命(いのち)にも(およ)ぶべきを(みと)む』 11されど百卒長(ひゃくそつちゃう)は、パウロの()(ところ)よりも(ふな)(をさ)(ふな)(ぬし)との(ことば)(おも)んじたり。 12(かつ)この(みなと)(ふゆ)(すご)すに不便(ふべん)なるより、多數(たすう)(もの)も、なし()んにはピニクスに(いた)り、彼處(かしこ)にて(ふゆ)(すご)さんとて、此處(ここ)船出(ふなで)するを()しとせり。ピニクスはクレテの(みなと)にて(ひがし)(きた)(ひがし)(みなみ)とに(むか)ふ。 13(みなみ)(かぜ)おもむろに()きたれば、(かれ)志望(こころざし)()たりとして(いかり)をあげ、クレテの岸邊(きしべ)沿()ひて(すす)みたり。 14幾程(いくほど)もなくユーラクロンといふ疾風(はやて)その(しま)より()きおろし、 15(これ)がために(ふね)()(なが)され、(かぜ)(むか)ひて(すす)むこと(あた)はねば、(ふね)(かぜ)()ふに(まか)す。 16クラウダといふ小島(こじま)風下(かざしも)(かた)にいたり、(から)うじて小艇(こぶね)(をさ)め、 17これを(ふね)引上(ひきあ)げてのち、備綱(そなへづな)にて船體(せんたい)()(しば)り、またスルテスの()()りかけんことを(おそ)れ、()(おろ)して(なが)る。 18いたく暴風(あらし)(なやま)され、(つぎ)()(ふね)(もの)ども積荷(つみに)()げすて、 19三日(みっか)めに()づから船具(ふなぐ)()てたり。 20數日(すにち)のあひだ()(ほし)()えず、暴風(あらし)はげしく()(すさ)びて、(われ)らの(すく)はるべき(のぞみ)ついに()()てたり。 21人々(ひとびと)(しょく)せぬこと(ひさ)しくなりたる(とき)、パウロその(なか)()ちて()ふ『人々(ひとびと)よ、なんぢら(さき)()(すすめ)をきき、クレテより船出(ふなで)せずして、この(がい)(そん)とを()けずあるべき(はず)なりき。 22いま(われ)なんぢらに(すす)む、(こころ)(やす)かれ、(なんぢ)()のうち一人(ひとり)だに生命(いのち)をうしなふ(もの)なし、ただ(ふね)(うしな)はん。 23わが(ぞく)するところ()(つか)ふる(ところ)(かみ)使(つかひ)昨夜(さくや)わが(かたは)らに()ちて、 24「パウロよ、(おそ)るな、なんぢ(かなら)ずカイザルの(まへ)()たん、()よ、(かみ)(なんぢ)同船(どうせん)する(もの)をことごとく(なんぢ)(たま)へり」と()ひたればなり。 25この(ゆゑ)人々(ひとびと)よ、(こころ)(やす)かれ、(われ)はその(われ)(かた)(たま)ひしごとく(かなら)()るべしと(かみ)(しん)ず。 26(しか)して(われ)らは(ある)(しま)推上(おしあ)げらるべし』
27かくて(じふ)四日(よっか)めの(よる)(いた)りて、アドリヤの(うみ)(ただよ)ひゆきたるに、夜半(よなか)ごろ水夫(かこ)(をか)(ちか)づきたりと(おも)ひて、 28(みづ)(はか)りたれば、()(じふ)(ひろ)なるを()り、()しく(すす)みてまた(はか)りたれば、(じふ)()(ひろ)なるを()り、 29(いは)()()げんことを(おそ)れて、(とも)より(いかり)()(おろ)して夜明(よあけ)()ちわぶ。 30(しか)るに水夫(かこ)(ふね)より(のが)()らんと(ほっ)し、(へさき)より(いかり)()きゆくに(こと)()せて小艇(こぶね)(うみ)(おろ)したれば、 31パウロ、百卒長(ひゃくそつちゃう)兵卒(へいそつ)らとに()ふ『この(もの)ども()(ふね)(とどま)らずば、(なんぢ)(すく)はるること(あた)はず』 32ここに兵卒(へいそつ)小艇(こぶね)(つな)斷切(たちき)りて、その(なが)れゆくに(まか)す。 33()()けんとする(ころ)、パウロ(すべ)ての(ひと)(しょく)せんことを(すす)めて()ふ『なんぢら()()ちて食事(しょくじ)せぬこと今日(けふ)にて(じふ)四日(よっか)なり。 34されば(なんぢ)らに(しょく)せんことを(すす)む、これ(なんぢ)らが(すくひ)のためなり、(なんぢ)らの頭髮(かみのけ)一筋(ひとすじ)だに(かうべ)より()つる(こと)なし』 35()()ひて(のち)みづからパンを()り、一同(いちどう)(まへ)にて(かみ)(しゃ)し、()きて(しょく)(はじ)めたれば、 36人々(ひとびと)もみな(こころ)(やす)んじて(しょく)したり。 37(ふね)()(われ)らは(すべ)()(ひゃく)(しち)(じふ)(ろく)(にん)なりき。 38人々(ひとびと)(しょく)()きてのち、穀物(こくもつ)(うみ)()()てて(ふね)(かろ)くせり。 39夜明(よあけ)になりて、(いづれ)土地(とち)かは()らねど、砂濱(すなはま)入江(いりえ)見出(みいだ)し、なし()べくば此處(ここ)(ふね)()せんと(あひ)(はか)り、 40(いかり)()ちて(うみ)()つるとともに、舵纜(かじづな)をゆるめ(へさき)()()げて、(かぜ)にまかせつつ砂濱(すなはま)さして(すす)む。 41(しか)るに(うしほ)(なが)れあふ(ところ)にいたりて(ふね)淺瀬(あさせ)()()げたれば、(へさき)膠著(いつ)きて(うご)かず、(とも)(なみ)(はげ)しきに(やぶ)れたり。 42兵卒(へいそつ)らは囚人(めしうど)(およ)ぎて(のが)()らんことを(おそ)れ、これを(ころ)さんと(はか)りしに、 43百卒長(ひゃくそつちゃう)パウロを(すく)はんと(ほっ)して、その(はか)るところを(はば)み、(およ)ぎうる(もの)(めい)じ、(うみ)()()りてまず上陸(じゃうりく)せしめ、 44その(ほか)(もの)をば(あるひ)(いた)あるひは(ふね)碎片(くだけ)()らしむ。()くしてみな上陸(じゃうりく)して(すく)はるるを()たり。

第二十八章

1われら(すく)はれて(のち)、この(しま)のマルタと(とな)ふるを()れり。 2土人(どじん)一方(ひとかた)ならぬ(なさけ)(われ)らに(あらは)し、()りしきる(あめ)寒氣(さむさ)とのために、()()きて(われ)一同(いちどう)待遇(もてな)せり。 3パウロ(しば)(つか)ねて()にくべたれば、(ねつ)によりて(まむし)いでて()()につく。 4(へび)のその()(かか)りたるを土人(どじん)()(たがひ)()ふ『この(ひと)(かなら)殺人者(ひとごろし)なるべし、(うみ)より(すく)はれしも、天道(てんだう)はその()くるを(ゆる)さぬなり』 5パウロ(へび)()のなかに()(おと)して(なに)(がい)をも()けざりき。 6人々(ひとびと)(かれ)()()づるか、または(たちま)(たふ)()ぬるならんと(うかが)ふ。(ひさ)しく(うかが)ひたれど、(いささ)かも(がい)()けぬを()て、(おもひ)()へて、()(かみ)なりと()ふ。
7この(ところ)(ほとり)島司(たうし)のもてる土地(とち)あり、島司(たうし)()はポプリオといふ。()(ひと)われらを(むか)へて懇切(ねんごろ)三日(みっか)(あひだ)もてなせり。 8ポプリオの(ちち)(ねつ)痢病(りびゃう)とに(かか)りて()()たれば、パウロその(もと)にいたり、(いの)りかつ()()きて(いや)せり。 9この(こと)ありてより、(しま)()める人々(ひとびと)みな(きた)りて(いや)されたれば、 10(れい)(あつ)くして(われ)らを(うやま)ひ、また船出(ふなで)(とき)には必要(ひつえう)なる品々(しなじな)(おく)りたり。
11三月(みつき)(のち)、われらはこの(しま)冬籠(ふゆごもり)せしデオスクリの(しるし)あるアレキサンデリヤの(ふね)にて()で、 12シラクサにつきて三日(みっか)とまり、 13此處(ここ)より(めぐ)りてレギオンにいたり、一日(いちにち)()ぎて(みなみ)(かぜ)ふき(おこ)りたれば、(われ)二日(ふつか)めにポテオリに()き、 14此處(ここ)にて兄弟(きゃうだい)たちに()ひ、その(すすめ)によりて七日(なぬか)のあひだ(とどま)り、(しか)して(つひ)にロマに()く。 15かしこの兄弟(きゃうだい)たち(われ)らの(こと)をききて、アピオポロおよびトレスタベルネまで(きた)りて(われ)らを(むか)ふ。パウロこれを()(かみ)感謝(かんしゃ)し、その(こころ)(いさ)みたり。
16(われ)らロマに()りて(のち)、パウロは(おのれ)(まも)一人(ひとり)兵卒(へいそつ)とともに(べつ)()むことを(ゆる)さる。
17三日(みっか)すぎてパウロ、ユダヤ(びと)重立(おもだ)ちたる(もの)()(あつ)む。その(あつま)りたる(とき)これに()ふ『兄弟(きゃうだい)たちよ、(われ)はわが(たみ)わが先祖(せんぞ)たちの慣例(ならはし)(もと)ることを(ひと)つも()さざりしに、エルサレムより囚人(めしうど)となりて、ロマ(びと)()(わた)されたり。 18かれら(われ)(さば)きて()(あた)ることなき(ゆゑ)に、(われ)(ゆる)さんと(おも)ひしに、 19ユダヤ(びと)さからひたれば、餘義(よぎ)なくカイザルに上訴(じゃうそ)せり。()れど()國人(くにびと)(うった)へんとせしにあらず。 20この(ゆゑ)(われ)なんぢらに()ひ、かつ(とも)(かた)らんことを(ねが)へり、(われ)はイスラエルの(いだ)希望(のぞみ)(ため)にこの(くさり)(つな)がれたり』 21かれら()ふ『われら(なんぢ)につきてユダヤより(ふみ)()けず、また兄弟(きゃうだい)たちの(うち)より(きた)りて、(なんぢ)()からぬ(こと)()げたる(もの)も、(かた)りたる(もの)もなし。 22ただ(われ)らは(なんぢ)(おも)ふところを()かんと(ほっ)するなり。それは()宗旨(しゅうし)(いた)(ところ)にて()(なん)せらるるを()ればなり』
23ここに()(さだ)めて(おほ)くの(ひと)パウロの宿(やど)(きた)りたれば、パウロ(あした)より(ゆふべ)まで(かみ)(くに)のことを説明(ときあか)して(あかし)をなし、かつモーセの律法(おきて)預言者(よげんしゃ)(ふみ)とを()きてイエスのことを(すす)めたり。 24パウロのいふ(ことば)(ある)(もの)(しん)じ、(ある)(もの)(しん)ぜず。 25(たがひ)(あひ)()はずして退(しりぞ)かんとしたるに、パウロ一言(ひとこと)()べて()ふ『(うべ)なるかな、(せい)(れい)預言者(よげんしゃ)イザヤによりて(なんぢ)らの先祖(せんぞ)たちに(かた)(たま)へり。(いは)く、
26「なんぢらこの(たみ)()きて()へ、
なんぢら()きて()けども(さと)らず、
()()れども(みと)めず、
27この(たみ)(こころ)はにぶく、
(みみ)()くにものうく、
()()ぢたればなり。
これ()にて()(みみ)にて()き、
(こころ)にてさとり、ひるがへりて
(われ)(いや)さるることなからん(ため)なり」
28()れば(なんぢ)()れ、(かみ)のこの(すくひ)異邦人(いはうじん)(つかは)されたり、(かれ)らは(これ)()くべし』 29[なし]
30パウロは滿(まん)二年(にねん)のあひだ、(おの)()()けたる(いへ)(とどま)り、その(もと)にきたる(すべ)ての(もの)(むか)へて、 31(さら)(おく)せずまた(さまた)げられずして、(かみ)(くに)をのべ、(しゅ)イエス・キリストの(こと)(をし)へたり。