ロマ人への書
第一章
1キリスト・イエスの僕、召されて使徒となり、神の福音のために選び別たれたるパウロ――
2この福音は神その預言者たちにより、聖書の中に預じめ御子に就きて約し給ひしものなり。
3御子は肉によれば、ダビデの裔より生れ、
4潔き靈によれば、死人の復活により大能をもて神の子と定められ給へり、即ち我らの主イエス・キリストなり。
5我等その御名の爲にもろもろの國人を信仰に從順ならしめんとて、彼より恩惠と使徒の職とを受けたり。
6汝等もその中にあり、てイエス・キリストの有とならん爲に召されたるなり。――
7われ書をロマに在りて神に愛せられ、召されて聖徒となりたる凡ての者に贈る。願はくは我らの父なる神および主イエス・キリストより賜ふ恩惠と平安と汝らに在らんことを。
8汝らの信仰、全世界に言ひ傳へられたれば、我まづ汝ら一同の爲にイエス・キリストによりて我が神に感謝す。
9その御子の福音に於て我が靈をもて事ふる神は、わが絶えず祈のうちに汝らを覺え、
10如何にしてか御意に適ひ、いつか汝らに到るべき途を得んと、常に冀がふことを我がために證し給ふなり。
11われ汝らを見んことを切に望むは、汝らの堅うせられん爲に靈の賜物を分け與へんとてなり。
12即ち我なんぢらの中にありて、互の信仰により相共に慰められん爲なり。
13兄弟よ、我ほかの異邦人の中より得しごとく、汝らの中よりも實を得んとて、屡次なんぢらに往かんとしたれど、今に至りてなほ妨げらる、此の事を汝らの知らざるを欲せず。
14我はギリシヤ人にも夷人にも、智き者にも愚なる者にも負債あり。
15この故に我はロマに在る汝らにも福音を宣傳へんことを頻りに願ふなり。
16我は福音を恥とせず、この福音はユダヤ人を始めギリシヤ人にも、凡て信ずる者に救を得さする神の力たればなり。
17神の義はその福音のうちに顯れ、信仰より出でて信仰に進ましむ。録して『義人は信仰によりて生くべし』とある如し。
18それ神の怒は、不義をもて眞理を阻む人の、もろもろの不虔と不義とに對ひて天より顯る。
19その故は、神につきて知り得べきことは彼らに顯著なればなり、神これを顯し給へり。
20それ神の見るべからざる永遠の能力と神性とは、造られたる物により世の創より悟りえて明かに見るべければ、彼ら言ひ遁るる術なし。
21神を知りつつも尚これを神として崇めず、感謝せず、その念は虚しく、その愚なる心は暗くなれり。
22自ら智しと稱へて愚となり、
23朽つることなき神の榮光を易へて、朽つべき人および禽獸・匍ふ物に似たる像となす。
24この故に神は彼らを其の心の慾にまかせて、互にその身を辱しむる汚穢に付し給へり。
25彼らは神の眞を易へて虚僞となし、造物主を措きて造られたる物を拜し、且これに事ふ、造物主は永遠に讃むべき者なり、アァメン。
26之によりて神は彼らを恥づべき慾に付し給へり。即ち女は順性の用を易へて逆性の用となし、
27男もまた同じく女の順性の用を棄てて互に情慾を熾し、男と男と恥づることを行ひて、その迷に値すべき報を己が身に受けたり。
28また神を心に存むるを善しとせざれば、神もその邪曲なる心の隨に爲まじき事をするに任せ給へり。
29即ちもろもろの不義・惡・慳貪・惡意にて滿つる者、また嫉妬・殺意・紛爭・詭計・惡念の溢るる者、
30讒言する者・謗る者・神に憎まるる者・侮る者・高ぶる者・誇る者・惡事を企つる者・父母に逆ふ者、
31無知・違約・無情・無慈悲なる者にして、
32かかる事どもを行ふ者の死罪に當るべき神の定を知りながら、啻に自己これらの事を行ふのみならず、また人の之を行ふを可しとせり。
第二章
1されば凡て人を審く者よ、なんぢ言ひ遁るる術なし、他の人を審くは、正しく己を罪するなり。人をさばく汝もみづから同じ事を行へばなり。
2かかる事をおこなふ者を罪する神の審判は眞理に合へりと我らは知る。
3かかる事をおこなふ者を審きて自己これを行ふ人よ、なんぢ神の審判を遁れんと思ふか。
4神の仁慈なんぢを悔改に導くを知らずして、その仁慈と忍耐と寛容との豐なるを輕んずるか。
5なんぢ頑固と悔改めぬ心とにより、己のために神の怒を積みて、その正しき審判の顯るる怒の日に及ぶなり。
6神はおのおのの所作に隨ひて報い、
7耐へ忍びて善をおこない光榮と尊貴と朽ちざる事とを求むる者には、永遠の生命をもて報い、
8徒黨により眞理に從はずして不義にしたがう者には、怒と憤恚とをもて報い給はん。
9すべて惡をおこなふ人には、ユダヤ人を始めギリシヤ人にも患難と苦難とあり。
10凡て善をおこなふ人には、ユダヤ人を始めギリシヤ人にも光榮と尊貴と平安とあらん。
11そは神には偏り視給ふこと無ければなり。
12凡そ律法なくして罪を犯したる者は律法なくして滅び、律法ありて罪を犯したる者は律法によりて審かるべし。
13律法を聞くもの神の前に義たるにあらず、律法をおこなふ者のみ義とせらるべし。――
14律法を有たぬ異邦人、もし本性のまま律法に載せたる所をおこなふ時は、律法を有たずともおのづから己が律法たるなり。
15即ち律法の命ずる所のその心に録されたるを顯し、おのが良心もこれを證をなして、その念、たがひに或は訴へ或は辯明す。――
16是わが福音に云へる如く、神のキリスト・イエスによりて人々の隱れたる事を審きたまふ日に成るべし。
17汝ユダヤ人と稱へられ、律法に安んじ、神を誇り、
18その御意を知り、律法に教へられて善惡を辨へ、
19また律法のうちに知識と眞理との式を有てりとして、盲人の手引、暗黒にをる者の光明、
20愚なる者の守役、幼兒の教師なりと自ら信ずる者よ、
21何ゆゑ人に教へて己を教へぬか、竊む勿れと宣べて自ら竊むか、
22姦淫する勿れと言ひて姦淫するか、偶像を惡みて宮の物を奪ふか、
23律法に誇りて律法を破り神を輕んずるか。
24録して『神の名は汝らの故によりて異邦人の中に涜さる』とあるが如し。
25なんぢ律法を守らば割禮は益あり、律法を破らば汝の割禮は無割禮となるなり。
26割禮なき者も律法の義を守らば、その無割禮は割禮とせらるるにあらずや。
27本性のまま割禮なくして律法を全うする者は、儀文と割禮とありてなほ律法をやぶる汝を審かん。
28それ表面のユダヤ人はユダヤ人たるにあらず、肉に在る表面の割禮は割禮たるにあらず。
29隱なるユダヤ人はユダヤ人なり、儀文によらず、靈による心の割禮は割禮なり、その譽は人よりにあらず、神より來るなり。
第三章
1さらばユダヤ
人に
何の
優るる
所ありや、また
割禮に
何の
益ありや。
2凡ての
事に
益おほし、
先づ
第一に
彼らは
神の
言を
委ねられたり。
3されど
如何ん、ここに
信ぜざる
者ありとも、その
不信は
神の
眞實を
廢つべきか。
4決して
然らず、
人をみな
虚僞者とすとも
神を
誠實とすべし。
録して
『なんぢは其の言にて義とせられ、
審かるるとき勝を得給はん爲なり』
とあるが
如し。
5然れど
若し
我らの
不義は
神の
義を
顯すとせば
何と
言はんか、
怒を
加へたまふ
神は
不義なるか(こは
人の
言ふごとく
言ふなり)
6決して
然らず、
若し
然あらば
神は
如何にして
世を
審き
給ふべき。
7わが
虚僞によりて
神の
誠實いよいよ
顯れ、その
榮光とならんには、いかで
我なほ
罪人として
審かるる
事あらん。
8また『
善を
來らせん
爲に
惡をなすは
可からずや』(
或者われらを
譏りて
之を
我らの
言なりといふ)かかる
人の
罪に
定めらるるは
正し。
9さらば
如何ん、
我らの
勝る
所ありや、
有ることなし。
我ら
既にユダヤ
人もギリシヤ
人もみな
罪の
下に
在りと
告げたり。
10録して
『義人なし、一人だになし、
11聰き者なく、
神を求むる者なし。
12みな迷ひて相共に空しくなれり、
善をなす者なし、一人だになし。
13彼らの咽は開きたる墓なり、
舌には詭計あり、
口唇のうちには蝮の毒あり、
14その口は詛と苦とにて滿つ。
15その足は血を流すに速し、
16破壞と艱難とその道にあり、
17彼らは平和の道を知らず。
18その眼前に神をおそるる畏なし』
とあるが
如し。
19それ律法の言ふところは律法の下にある者に語ると我らは知る、これは凡ての口ふさがり、神の審判に全世界の服せん爲なり。
20律法の行爲によりては、一人だに神のまへに義とせられず、律法によりて罪は知らるるなり。
21然るに今や律法の外に神の義は顯れたり、これ律法と預言者とに由りて證せられ、
22イエス・キリストを信ずるに由りて凡て信ずる者に與へたまふ神の義なり。之には何等の差別あるなし。
23凡ての人、罪を犯したれば神の榮光を受くるに足らず、
24功なくして神の恩惠により、キリスト・イエスにある贖罪によりて義とせらるるなり。
25即ち神は忍耐をもて過來しかたの罪を見遁し給ひしが、己の義を顯さんとて、キリストを立て、その血によりて信仰によれる宥の供物となし給へり。
26これ今おのれの義を顯して、自ら義たらん爲、またイエスを信ずる者を義とし給はん爲なり。
27さらば誇るところ何處にあるか。既に除かれたり、何の律法に由りてか、行爲の律法か、然らず、信仰の律法に由りてなり。
28我らは思ふ、人の義とせらるるは、律法の行爲によらず、信仰に由るなり。
29神はただユダヤ人のみの神なるか、また異邦人の神ならずや、然り、また異邦人の神なり。
30神は唯一にして、割禮ある者を信仰によりて義とし、割禮なき者をも信仰によりて義とし給へばなり。
31然らば我ら信仰をもて律法を空しくするか、決して然らず、反つて律法を堅うするなり。
第四章
1さらば
我らの
先祖アブラハムは
肉につきて
何を
得たりと
言はんか。
2アブラハム
若し
行爲によりて
義とせられたらんには
誇るべき
所あり、
然れど
神の
前には
有ることなし。
3聖書に
何と
云へるか『アブラハム
神を
信ず、その
信仰を
義と
認められたり』と。
4それ
働く
者への
報酬は
恩惠といはず、
負債と
認めらる。
5されど
働く
事なくとも、
敬虔ならぬ
者を
義としたまふ
神を
信ずる
者は、その
信仰を
義と
認めらるるなり。
6ダビデもまた
行爲なくして
神に
義と
認めらるる
人の
幸福につきて
斯く
云へり。
曰く、
7『不法を免され、
罪を蔽はれたる者は幸福なるかな、
8主が罪を認め給はぬ人は幸福なるかな』
9されば
此の
幸福はただ
割禮ある
者にのみあるか、また
割禮なき
者にもあるか、
我らは
言ふ『アブラハムはその
信仰を
義と
認められたり』と。
10如何なるときに
義と
認められたるか、
割禮ののちか、
無割禮のときか、
割禮の
後ならず、
無割禮の
時なり。
11而して
無割禮のときの
信仰によれる
義の
印として
割禮の
徽を
受けたり、これ
無割禮にして
信ずる
凡ての
者の
義と
認められん
爲に、その
父となり、
12また
割禮のみに
由らず、
我らの
父アブラハムの
無割禮のときの
信仰の
跡をふむ
割禮ある
者の
父とならん
爲なり。
13アブラハム
世界の
世嗣たるべしとの
約束を、アブラハムとその
裔との
與へられしは、
律法に
由らず、
信仰の
義に
由れるなり。
14もし
律法による
者ども
世嗣たらば、
信仰は
空しく
約束は
廢るなり。
15それ
律法は
怒を
招く、
律法なき
所には
罪を
犯すこともなし。
16この
故に
世嗣たることの
恩惠に
干らんために
信仰に
由るなり、
是かの
約束のアブラハムの
凡ての
裔、すなわち
律法による
裔のみならず、
彼の
信仰に
效ふ
裔にも
堅うせられん
爲なり。
17彼はその
信じたる
所の
神、すなはち
死人を
活し、
無きものを
有るものの
如く
呼びたまふ
神の
前にて、
我等すべての
者の
父たるなり。
録して『われ
汝を
立てて
多くの
國人の
父とせり』とあるが
如し。
18彼は
望むべくもあらぬ
時になほ
望みて
信じたり、
是なんぢの
裔はかくの
如くなるべしと
言ひ
給ひしに
隨ひて、
多くの
國人の
父とならん
爲なりき。
19かくて
凡そ
百歳に
及びて
己が
身の
死にたるがごとき
状なると、サラの
胎の
死にたるが
如きとを
認むれども、その
信仰よわらず、
20不信をもて
神の
約束を
疑はず、
信仰により
強くなりて
神に
榮光を
歸し、
21その
約し
給へることを、
成し
得給ふと
確信せり。
22之に
由りて
其の
信仰を
義と
認められたり。
23斯く『
義と
認められたり』と
録したるは、アブラハムの
爲のみならず、また
我らの
爲なり。
24我らの
主イエスを
死人の
中より
甦へらせ
給ひし
者を
信ずる
我らも、その
信仰を
義と
認められん。
25主は
我らの
罪のために
付され、
我らの
義とせられん
爲に
甦へらせられ
給へるなり。
第五章
1斯く我ら信仰によりて義とせられたれば、我らの主イエス・キリストに頼り、神に對して平和を得たり。
2また彼により信仰によりて、今立つところの恩惠に入ることを得、神の榮光を望みて喜ぶなり。
3然のみならず患難をも喜ぶ、そは患難は忍耐を生じ、
4忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ずと知ればなり。
5希望は恥を來らせず、我らに賜ひたる聖靈によりて神の愛われらの心に注げばなり。
6我等のなほ弱かりし時、キリスト定りたる日に及びて、敬虔ならぬ者のために死に給へり。
7それ義人のために死ぬるもの殆どなし、仁者のためには死ぬることを厭はぬ者もやあらん。
8然れど我等がなほ罪人たりし時、キリスト我等のために死に給ひしに由りて、神は我らに對する愛をあらはし給へり。
9斯く今その血に頼りて我ら義とせられたらんには、まして彼によりて怒より救はれざらんや。
10我等もし敵たりしとき御子の死に頼りて神と和ぐことを得たらんには、まして和ぎて後その生命によりて救はれざらんや。
11然のみならず今われらに和睦を得させ給へる我らの主イエス・キリストに頼りて神を喜ぶなり。
12それ一人の人によりて罪は世に入り、また罪によりて死は世に入り、凡ての人罪を犯しし故に、死は凡ての人に及べり。
13律法のきたる前にも罪は世にありき、されど律法なくば罪は認めらるること無し。
14然るにアダムよりモーセに至るまで、アダムの咎と等しき罪を犯さぬ者の上にも死は王たりき。アダムは來らんとする者の型なり。
15されど恩惠の賜物は、かの咎の如きにあらず、一人の咎によりて多くの人の死にたらんには、まして神の恩惠と一人の人イエス・キリストによる恩惠の賜物とは、多くの人に溢れざらんや。
16又この賜物は罪を犯しし一人より來れるものの如きにあらず、審判は一人よりして罪を定むるに至りしが、恩惠の賜物は多くの咎よりして義とするに至るなり。
17もし一人の咎のために一人によりて死は王となりたらんには、まして恩惠と義の賜物とを豐に受くる者は、一人のイエス・キリストにより生命に在りて王たらざらんや。
18されば一つの咎によりて罪を定むることの凡ての人に及びしごとく、一つの正しき行爲によりて義とせられ生命を得るに至ることも、凡ての人に及べり。
19それは一人の不從順によりて多くの人の罪人とせられし如く、一人の從順によりて多くの人、義人とせらるるなり。
20律法の來りしは咎の増さんためなり。されど罪の増すところには恩惠も彌増せり。
21これ罪の死によりて王たりし如く、恩惠も義によりて王となり、我らの主イエス・キリストに由りて永遠の生命に至らん爲なり。
第六章
1されば何をか言はん、恩惠の増さんために罪のうちに止るべきか、
2決して然らず、罪に就きて死にたる我らは爭で尚その中に生きんや。
3なんじら知らぬか、凡そキリスト・イエスに合ふバプテスマを受けたる我らは、その死に合ふバプテスマを受けしを。
4我らはバプテスマによりて彼とともに葬られ、その死に合せられたり。これキリスト父の榮光によりて死人の中より甦へらせられ給ひしごとく、我らも新しき生命に歩まんためなり。
5我らキリストに接がれて、その死の状にひとしくば、その復活にも等しかるべし。
6我らは知る、われらの舊き人、キリストと共に十字架につけられたるは、罪の體ほろびて、此ののち罪に事へざらん爲なるを。
7そは死にし者は罪より脱るるなり。
8我等もしキリストと共に死にしならば、また彼とともに活きんことを信ず。
9キリスト死人の中より甦へりて復死に給はず、死もまた彼に主とならぬを我ら知ればなり。
10その死に給へるは罪につきて一たび死に給へるにて、その活き給へるは神につきて活き給へるなり。
11斯くのごとく汝らも己を罪につきては死にたるもの、神につきては、キリスト・イエスに在りて活きたる者と思ふべし。
12されば罪を汝らの死ぬべき體に王たらしめて其の慾に從ふことなく、
13汝らの肢體を罪に献げて不義の器となさず、反つて死人の中より活き返りたる者のごとく己を神にささげ、その肢體を義の器として神に献げよ。
14汝らは律法の下にあらずして恩惠の下にあれば、罪は汝らに主となる事なきなり。
15然らば如何に、我らは律法の下にあらず、恩惠の下にあるが故に、罪を犯すべきか、決して然らず。
16なんぢら知らぬか、己を献げ僕となりて、誰に從ふとも其の僕たることを。或は罪の僕となりて死に至り、或は從順の僕となりて義に至る。
17然れど神に感謝す、汝等はもと罪の僕なりしが、傳へられし教の範に心より從ひ、
18罪より解放されて義の僕となりたり。
19斯く人の事をかりて言ふは、汝らの肉よわき故なり。なんぢら舊その肢體をささげ、穢と不法との僕となりて不法に到りしごとく、今その肢體をささげ、義の僕となりて潔に到れ。
20なんぢら罪の僕たりしときは義に對して自由なりき。
21その時に今は恥とする所の事によりて何の實を得しか、これらの事の極は死なり。
22然れど今は罪より解放されて神の僕となりたれば、潔にいたる實を得たり、その極は永遠の生命なり。
23それ罪の拂ふ價は死なり、然れど神の賜物は我らの主キリスト・イエスにありて受くる永遠の生命なり。
第七章
1兄弟よ、なんぢら知らぬか、(われ律法を知る者に語る)律法は人の生ける間のみ之に主たるなり。
2夫ある婦は律法によりて夫の生ける中は之に縛らる。然れど夫死なば夫の律法より解かるるなり。
3されば夫の生ける中に他の人に適かば淫婦と稱へらるれど、夫死なばその律法より解放さるる故に、他の人に適くとも淫婦とはならぬなり。
4わが兄弟よ、斯くのごとく汝等もキリストの體により律法に就きて死にたり。これ他の者、すなはち死人の中より甦へらせられ給ひし者に適き、神のために實を結ばん爲なり。
5われら肉に在りしとき、律法に由れる罪の情は我らの肢體のうちに働きて、死のために實を結ばせたり。
6されど縛られたる所に就きて我等いま死にて律法より解かれたれば、儀文の舊きによらず、靈の新しきに從ひて事ふることを得るなり。
7さらば何をか言はん、律法は罪なるか、決して然らず、律法に由らでは、われ罪を知らず、律法に『貪る勿れ』と言はずば、慳貪を知らざりき。
8されど罪は機に乘じ誡命によりて各樣の慳貪を我がうちに起せり、律法なくば罪は死にたるものなり。
9われ曾て律法なくして生きたれど、誡命きたりし時に罪は生き、我は死にたり。
10而して我は生命にいたるべき誡命の反つて死に到らしむるを見出せり。
11これ罪は機に乘じ誡命によりて我を欺き、かつ之によりて我を殺せり。
12それ律法は聖なり、誡命もまた聖にして正しく、かつ善なり。
13されば善なるもの我に死となりたるか。決して然らず、罪は罪たることの現れんために、善なる者によりて我が内に死を來らせたるなり。これ誡命によりて罪の甚だしき惡とならん爲なり。
14われら律法は靈なるものと知る、されど我は肉なる者にて罪の下に賣られたり。
15わが行ふことは我しらず、我が欲する所は之をなさず、反つて我が憎むところは之を爲すなり。
16わが欲せぬ所を爲すときは律法の善なるを認む。
17然れば之を行ふは我にあらず、我が中に宿る罪なり。
18我はわが中、すなわち我が肉のうちに善の宿らぬを知る、善を欲すること我にあれど、之を行ふ事なければなり。
19わが欲する所の善は之をなさず、反つて欲せぬ所の惡は之をなすなり。
20我もし欲せぬ所の事をなさば、之を行ふは我にあらず、我が中に宿る罪なり。
21然れば善をなさんと欲する我に惡ありとの法を、われ見出せり。
22われ中なる人にては神の律法を悦べど、
23わが肢體のうちに他の法ありて、我が心の法と戰ひ、我を肢體の中にある罪の法の下に虜とするを見る。
24噫われ惱める人なるかな、此の死の體より我を救はん者は誰ぞ。
25我らの主イエス・キリストに頼りて神に感謝す、然れば我みづから心にては神の律法につかへ、内にては罪の法に事ふるなり。
第八章
1この故に今やキリスト・イエスに在る者は罪の定めらるることなし。
2キリスト・イエスに在る生命の御靈の法は、なんじを罪と死との法より解放したればなり。
3肉によりて弱くなれる律法の成し能はぬ所を神は爲し給へり、即ち己の子を罪ある肉の形にて罪のために遣し、肉に於て罪を定めたまへり。
4これ肉に從はず靈に從ひて歩む我らの中に、律法の義の完うせられん爲なり。
5肉にしたがふ者は肉の事をおもひ、靈にしたがふ者は靈の事をおもふ。
6肉の念は死なり、靈の念は生命なり、平安なり。
7肉の念は神に逆ふ、それは神の律法に服はず、否したがふこと能はず、
8また肉に居る者は神を悦ばすこと能はざるなり。
9然れど神の御靈なんぢらの中に宿り給はば、汝らは肉に居らで靈に居らん、キリストの御靈なき者はキリストに屬する者にあらず。
10若しキリスト汝らに在さば、體は罪によりて死にたる者なれど、靈は義によりて生命に在らん。
11若しイエスを死人の中より甦へらせ給ひし者の御靈なんぢらの中に宿り給はば、キリスト・イエスを死人の中より甦へらせ給ひし者は、汝らの中に宿りたまふ御靈によりて、汝らの死ぬべき體をも活し給はん。
12されば兄弟よ、われらは負債あれど、肉に負ふ者ならねば、肉に從ひて活くべきにあらず。
13汝等もし肉に從ひて活きなば、死なん。もし靈によりて體の行爲を殺さば活くべし。
14すべて神の御靈に導かるる者は、これ神の子なり。
15汝らは再び懼を懷くために僕たる靈を受けしにあらず、子とせられたる者の靈を受けたり、之によりて我らはアバ父と呼ぶなり。
16御靈みづから我らの靈とともに我らが神の子たることを證す。
17もし子たらば世嗣たらん、神の嗣子にしてキリストと共に世嗣たるなり。これはキリストとともに榮光を受けん爲に、その苦難をも共に受くるに因る。
18われ思うに、今の時の苦難は、われらの上に顯れんとする榮光にくらぶるに足らず。
19それ造られたる者は、切に慕ひて神の子たちの現れんことを待つ。
20造られたるものの虚無に服せしは、己が願によるにあらず、服せしめ給ひし者によるなり。
21然れどなほ造られたる者にも滅亡の僕たる状より解かれて、神の子たちの光榮の自由に入る望は存れり。
22我らは知る、すべて造られたるものの今に至るまで共に嘆き、ともに苦しむことを。
23然のみならず、御靈の初の實をもつ我らも自ら心のうちに嘆きて、子とせられんこと、即ちおのが軆の贖はれんことを待つなり。
24我らは望によりて救はれたり、眼に見ゆる望は望にあらず、人その見るところを爭でなほ望まんや。
25我等もし其の見ぬところを望まば、忍耐をもて之を待たん。
26斯くのごとく御靈も我らの弱を助けたまふ。我らは如何に祈るべきかを知らざれども、御靈みづから言ひ難き歎をもて執成し給ふ。
27また人の心を極めたまふ者は御靈の念をも知りたまふ。御靈は神の御意に適ひて聖徒のために執成し給へばなり。
28神を愛する者、すなはち御旨によりて召されたる者の爲には、凡てのこと相働きて益となるを我らは知る。
29神は預じめ知りたまふ者を御子の像に象らせんと預じめ定め給へり。これ多くの兄弟のうちに、御子を嫡子たらせんが爲なり。
30又その預じめ定めたる者を召し、召したる者を義とし、義としたる者には光榮を得させ給ふ。
31然れば
此等の
事につきて
何をか
言はん、
神もし
我らの
味方ならば、
誰か
我らに
敵せんや。
32己の
御子を
惜まずして
我ら
衆のために
付し
給ひし
者は、などか
之にそへて
萬物を
我らに
賜はざらんや。
33誰か
神の
選び
給へる
者を
訴へん、
神は
之を
義とし
給ふ。
34誰か
之を
罪に
定めん、
死にて
甦へり
給ひしキリスト・イエスは
神の
右に
在して、
我らの
爲に
執成し
給ふなり。
35我等をキリストの
愛より
離れしむる
者は
誰ぞ、
患難か、
苦難か、
迫害か、
飢か、
裸か、
危險か、
劍か。
36録して
『汝のために我らは、終日ころされて
屠らるべき羊の如きものとせられたり』
とあるが
如し。
37されど
凡てこれらの
事の
中にありても、
我らを
愛したまふ
者に
頼り、
勝ち
得て
餘あり。
38われ
確く
信ず、
死も
生命も、
御使も、
權威ある
者も、
今ある
者も
後あらん
者も、
力ある
者も、
39高きも
深きも、
此の
他の
造られたるものも、
我らの
主キリスト・イエスにある
神の
愛より、
我らを
離れしむるを
得ざることを。
第九章
1我キリストに在りて眞をいひ虚僞を言はず、
2我に大なる憂あることと心に絶えざる痛あることとを、我が良心も聖靈によりて證す。
3もし我が兄弟わが骨肉の爲にならんには、我みづから詛はれてキリストに棄てらるるも亦ねがふ所なり。
4彼等はイスラエル人にして、彼らには神の子とせられたることと、榮光と、もろもろの契約と、授けられたる律法と、禮拜と、もろもろの約束とあり。
5先祖たちも彼等のものなり、肉によれば、キリストも彼等より出で給ひたり。キリストは萬物の上にあり、永遠に讃むべき神なり、アァメン。
6それ神の言は廢りたるに非ず。イスラエルより出づる者みなイスラエルなるに非ず。
7また彼等はアブラハムの裔なればとて皆その子たるに非ず『イサクより出づる者は、なんぢの裔と稱へらるべし』とあり。
8即ち肉の子らは神の子らにあらず、ただ約束の子等のみ其の裔と認めらるるなり。
9約束の御言は是なり、曰く『時ふたたび巡り來らば、我きたりてサラに男子あらん』と。
10然のみならず、レベカも我らの先祖イサク一人によりて孕りたる時、
11その子いまだ生れず、善も惡もなさぬ間に、神の選の御旨は動かず、
12行爲によらで召す者によらん爲に『兄は次弟に事ふべし』とレベカに宣へり。
13『われヤコブを愛しエザウを憎めり』と録されたる如し。
14さらば何をか言はん、神には不義あるか。決して然らず。
15モーセに言ひ給ふ『われ憐まんとする者をあはれみ、慈悲を施さんとする者に慈悲を施すべし』と。
16されば欲する者にも由らず、走る者にも由らず、ただ憐みたまふ神に由るなり。
17パロにつきて聖書に言ひ給ふ『わが汝を起したるは此の爲なり、即ち我が能力を汝によりて顯し、且わが名の全世界に傳へられん爲なり』と。
18されば神はその憐まんと欲する者を憐み、その頑固にせんと欲する者を頑固にし給ふなり。
19さらば
汝あるいは
我に
言はん『
神なんぞなほ
人を
咎め
給ふか、
誰かその
御定に
悖る
者あらん』
20ああ
人よ、なんぢ
誰なれば
神に
言ひ
逆ふか、
造られしもの
造りたる
者に
對ひて『なんぢ
何ぞ
我を
斯く
造りし』と
言ふべきか。
21陶工は
同じ
土塊をもて、
此を
貴きに
用ふる
器とし、
彼を
賤しきに
用ふる
器とするの
權なからんや。
22もし
神、
怒をあらはし
權力を
示さんと
思しつつも、なほ
大なる
寛容をもて、
滅亡に
備れる
怒の
器を
忍び、
23また
光榮のために
預じめ
備へ
給ひし
憐憫の
器に
對ひて、その
榮光の
富を
示さんとし
給ひしならば
如何に。
24この
憐憫の
器は
我等にして、ユダヤ
人の
中よりのみならず、
異邦人の
中よりも
召し
給ひしものなり。
25ホゼヤの
書に
『我わが民たらざる者を我が民と呼び、
愛せられざる者を愛せらるる者と呼ばん、
26「なんぢら我が民にあらず」と言ひし處にて、
彼らは活ける神の子と呼ばるべし』
と
宣へる
如し。
27イザヤもイスラエルに
就きて
叫べり『イスラエルの
子孫の
數は
海の
砂のごとくなりとも、
救はるるはただ
殘の
者のみならん。
28主、
地の
上に
御言をなし
了へ、これを
遂げ、これを
速かにし
給はん』
29また
『萬軍の主われらに裔を遺し給はずば、
我等ソドムの如くになり、ゴモラと等しかりしならん』
とイザヤの
預言せしが
如し。
30然らば
何をか
言はん、
義を
追ひ
求めざりし
異邦人は
義を
得たり、
即ち
信仰による
義なり。
31イスラエルは
義の
律法を
追ひ
求めたれど、その
律法に
到らざりき。
32何の
故か、かれらは
信仰によらず、
行爲によりて
追ひ
求めたる
故なり。
彼らは
躓く
石に
躓きたり。
33録して
『視よ、我つまづく石さまたぐる岩をシオンに置く、
之に依頼む者は辱しめられじ』
とあるが
如し。
第十章
1兄弟よ、わが心のねがひ、神に對する祈は、彼らの救はれんことなり。
2われ彼らが神のために熱心なることを證す、されど其の熱心は知識によらざるなり。
3それは神の義を知らず、己の義を立てんとして、神の義に服はざればなり。
4キリストは凡て信ずる者の義とせられん爲に律法の終となり給へり。
5モーセは、律法による義をおこなふ人は之によりて生くべしと録したり。
6されど信仰による義は斯くいふ『なんぢ心に「誰か天に昇らん」と言ふなかれ』と。
7これキリストを引下さんとするなり『また「たれか底なき所に下らん」と言ふなかれ』と。是キリストを死人の中より引上げんとするなり。
8さらば何と言ふか『御言はなんぢに近し、なんぢの口にあり、汝の心にあり』と。これ我らが宣ぶる信仰の言なり。
9即ち、なんぢ口にてイエスを主と言ひあらはし、心にて神の之を死人の中より甦へらせ給ひしことを信ぜば、救はるべし。
10それ人は心に信じて義とせられ、口に言ひあらはして救はるるなり。
11聖書にいふ『すべて彼を信ずる者は辱しめられじ』と。
12ユダヤ人とギリシヤ人との區別なし、同一の主は萬民の主にましまして、凡て呼び求むる者に對して豐なり。
13『すべて主の御名を呼び求むる者は救はるべし』とあればなり。
14然れど未だ信ぜぬ者を爭で呼び求むることをせん、未だ聽かぬ者を爭で信ずることをせん、宣傳ふる者なくば爭で聽くことをせん。
15遣されずば爭で宣傳ふることをせん『ああ美しきかな、善き事を告ぐる者の足よ』と録されたる如し。
16されど、みな
福音に
從ひしにはあらず、イザヤいふ『
主よ、われらに
聞きたる
言を
誰か
信ぜし』
17斯く
信仰は
聞くにより、
聞くはキリストの
言による。
18されど
我いふ、
彼ら
聞えざりしか、
然らず
『その聲は全地にゆきわたり、
其の言は世界の極にまで及べり』
19我また
言ふ、イスラエルは
知らざりしか、
先づモーセ
言ふ『われ
民ならぬ
者をもて
汝らに
嫉を
起させ、
愚なる
民をもて
汝らを
怒らせん』
20またイザヤ
憚らずして
言ふ
『我を求めざる者に、われ見出され、
我を尋ねざる者に我あらはれたり』
21更にイスラエルに
就きては『われ
服はずして
言ひさからふ
民に、
終日手を
伸べたり』と
云へり。
第十一章
1されば
我いふ、
神はその
民を
棄て
給ひしか。
決して
然らず。
我もイスラエル
人にしてアブラハムの
裔ベニヤミンの
族の
者なり。
2神はその
預じめ
知り
給ひし
民を
棄て
給ひしにあらず。
汝らエリヤに
就きて
聖書に
云へることを
知らぬか、
彼イスラエルを
神に
訴へて
言ふ、
3『
主よ、
彼らは
汝の
預言者たちを
殺し、なんぢの
祭壇を
毀ち、
我ひとり
遺りたるに、
亦わが
生命をも
求めんとするなり』と。
4然るに
御答は
何と
云へるか『われバアルに
膝を
屈めぬ
者、
七千人を
我がために
遺し
置けり』と。
5斯くのごとく
今もなほ
恩惠の
選によりて
遺れる
者あり。
6もし
恩惠によるとせば、もはや
行爲によるにあらず。
然らずば
恩惠はもはや
恩惠たらざるべし。
7さらば
如何に、イスラエルはその
求むる
所を
得ず、
選ばれたる
者は
之を
得たり、その
他の
者は
鈍くせられたり。
8『
神は
今日に
至るまで、
彼らに
眠れる
心、
見えぬ
目、
聞えぬ
耳を
與へ
給へり』と
録されたるが
如し。
9ダビデも
亦いふ
『かれらの食卓は羂となれ、網となれ、
つまづきとなれ、報となれ、
10その眼は眩みて見えずなれ、
常にその背を屈めしめ給へ』
11されば
我いふ、
彼らの
躓きしは
倒れんが
爲なりや。
決して
然らず、
反つて
其の
落度によりて
救は
異邦人に
及べり、これイスラエルを
勵まさん
爲なり。
12もし
彼らの
落度、
世の
富となり、その
衰微、
異邦人の
富となりたらんには、まして
彼らの
數滿つるに
於てをや。
13われ異邦人なる汝等にいふ、我は異邦人の使徒たるによりて己が職を重んず。
14これ或は我が骨肉の者を勵まし、その中の幾許かを救はん爲なり。
15もし彼らの棄てらるること世の平和となりたらんには、其の受け納れらるるは、死人の中より活くると等しからずや。
16もし初穗の粉潔くば、パンの團塊も潔く、樹の根潔くば、其の枝も潔からん。
17若しオリブの幾許の枝きり落されて野のオリブなる汝、その中に接がれ、共にその樹の液汁ある根に與らば、
18かの枝に對ひて誇るな、たとひ誇るとも汝は根を支へず、根は反つて汝を支ふるなり。
19なんぢ或は言はん『枝の折られしは我が接がれん爲なり』と。
20實に然り、彼らは不信によりて折られ、汝は信仰によりて立てるなり、高ぶりたる思をもたず、反つて懼れよ。
21もし神、原樹の枝を惜み給はざりしならば、汝をも惜み給はじ。
22神の仁慈と、その嚴肅とを見よ。嚴肅は倒れし者にあり、仁慈はその仁慈に止る汝にあり、若しその仁慈に止らずば、汝も切り取らるべし。
23彼らも若し不信に止らずば、接がるることあらん、神は再び彼らを接ぎ得給ふなり。
24なんぢ生來の野のオリブより切り取られ、その生來に悖りて善きオリブに接がれたらんには、まして原樹のままなる枝は己がオリブに接がれざらんや。
25兄弟よ、われ
汝らが
自己を
聰しとする
事なからん
爲に、この
奧義を
知らざるを
欲せず、
即ち
幾許のイスラエルの
鈍くなれるは、
異邦人の
入り
來りて
數滿つるに
及ぶ
時までなり。
26かくしてイスラエルは
悉とく
救はれん。
録して
『救ふ者シオンより出で來りて、
ヤコブより不虔を取り除かん、
27われその罪を除くときに
彼らに立つる我が契約は是なり』
とあるが
如し。
28福音につきて
云へば、
汝等のために
彼らは
敵とせられ、
選につきて
云へば、
先祖たちの
爲に
彼らは
愛せらるるなり。
29それ
神の
賜物と
召とは
變ることなし。
30汝ら
前には
神に
從はざりしが、
今は
彼らの
不順によりて
憐まれたる
如く、
31彼らも
汝らの
受くる
憐憫によりて
憐まれん
爲に、
今は
從はざるなり。
32神は
凡ての
人を
憐まんために、
凡ての
人を
不順の
中に
取籠め
給ひたり。
33ああ
神の
智慧と
知識との
富は
深いかな、その
審判は
測り
難く、その
途は
尋ね
難し。
34『たれか主の心を知りし、誰かその議士となりし。
35たれか先づ主に與へて其の報を受けんや』
36これ
凡ての
物は
神より
出で、
神によりて
成り、
神に
歸すればなり、
榮光とこしへに
神にあれ。アァメン。
第十二章
1されば兄弟よ、われ神のもろもろの慈悲によりて汝らに勸む、己が身を神の悦びたまふ潔き活ける供物として献げよ、これ靈の祭なり。
2又この世に效ふな、神の御意の善にして悦ぶべく、かつ全きことを辨へ知らんために、心を更へて新にせよ。
3われ與へられし恩惠によりて汝等おのおのに告ぐ、思ふべき所を超えて自己を高しとすな。神のおのおのに分ち給ひし信仰の量にしたがひ愼みて思ふべし。
4人は一つ體におほくの肢あれども、凡ての肢その運用を同じうせぬ如く、
5我らも多くあれど、キリストに在りて一つ體にして、各人たがひに肢たるなり。
6われらが有てる賜物はおのおの與へられし恩惠によりて異なる故に、或は預言あらば信仰の量にしたがひて預言をなし、
7或は務あらば務をなし、或は教をなす者は教をなし、
8或は勸をなす者は勸をなし、施す者はをしみなく施し、治むる者は心を盡して治め、憐憫をなす者は喜びて憐憫をなすべし。
9愛には虚僞あらざれ、惡はにくみ、善はしたしみ、
10兄弟の愛をもて互に愛しみ、禮儀をもて相讓り、
11勤めて怠らず、心を熱くし、主につかへ、
12望みて喜び、患難にたへ、祈を恆にし、
13聖徒の缺乏を賑し、旅人を懇ろに待せ、
14汝らを責むる者を祝し、これを祝して詛ふな。
15喜ぶ者と共によろこび、泣く者と共になけ。
16相互に心を同じうし、高ぶりたる思をなさず、反つて卑きに附け。なんぢら己を聰しとすな。
17惡をもて惡に報いず、凡ての人のまへに善からんことを圖り、
18汝らの爲し得るかぎり力めて凡ての人と相和げ。
19愛する者よ、自ら復讐すな、ただ神の怒に任せまつれ。録して『主いひ給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん』とあり。
20『もし汝の仇飢ゑなば之に食はせ、渇かば之に飮ませよ、なんぢ斯するは熱き火を彼の頭に積むなり』
21惡に勝たるることなく、善をもて惡に勝て。
第十三章
1凡ての人、上にある權威に服ふべし。そは神によらぬ權威なく、あらゆる權威は神によりて立てらる。
2この故に權威にさからふ者は神の定に悖るなり、悖る者は自らその審判を招かん。
3長たる者は善き業の懼にあらず、惡しき業の懼なり、なんぢ權威を懼れざらんとするか、善をなせ、然らば彼より譽を得ん。
4かれは汝を益せんための神の役者なり。然れど惡をなさば懼れよ、彼は徒らに劍をおびず、神の役者にして、惡をなす者に怒をもて報ゆるなり。
5然れば服はざるべからず、啻に怒の爲のみならず、良心のためなり。
6また之がために汝ら貢を納む、彼らは神の仕人にして此の職に勵むなり。
7汝等その負債をおのおのに償へ、貢を受くべき者に貢ををさめ、税を受くべき者に税ををさめ、畏るべき者をおそれ、尊ぶべき者をたふとべ。
8汝等たがひに愛を負ふのほか何をも人に負ふな。人を愛する者は律法を全うするなり。
9それ『姦淫する勿れ、殺すなかれ、盜むなかれ、貪るなかれ』と云へるこの他なほ誡命ありとも『おのれの如く隣を愛すべし』といふ言の中にみな籠るなり。
10愛は隣を害はず、この故に愛は律法の完全なり。
11なんぢら時を知る故に、いよいよ然なすべし。今は眠より覺むべき時なり。始めて信ぜし時よりも今は我らの救近ければなり。
12夜ふけて日近づきぬ、然れば我ら暗黒の業をすてて光明の甲を著るべし。
13晝のごとく正しく歩みて宴樂・醉酒に、淫樂・好色に、爭鬪・嫉妬に歩むべきに非ず。
14ただ汝ら主イエス・キリストを衣よ、肉の慾のために備すな。
第十四章
1なんぢら
信仰の
弱き
者を
容れよ、その
思ふところを
詰るな。
2或人は
凡ての
物を
食ふを
可しと
信じ、
弱き
人はただ
野菜を
食ふ。
3食ふ
者は
食はぬ
者を
蔑すべからず、
食はぬ
者は
食ふ
者を
審くべからず、
神は
彼を
容れ
給へばなり。
4なんぢ
如何なる
者なれば、
他人の
僕を
審くか、
彼が
立つも
倒るるも
其の
主人に
由れり。
彼は
必ず
立てられん、
主は
能く
之を
立たせ
給ふべし。
5或人は
此の
日を
彼の
日に
勝ると
思ひ、
或人は
凡ての
日を
等しとおもふ、
各人おのが
心の
中に
確く
定むべし。
6日を
重んずる
者は
主のために
之を
重んず。
食ふ
者は
主のために
食ふ、これ
神に
感謝すればなり。
食はぬ
者も
主のために
食はず、かつ
神に
感謝するなり。
7我等のうち
己のために
生ける
者なく、
己のために
死ぬる
者なし。
8われら
生くるも
主のために
生き、
死ぬるも
主のために
死ぬ。
然れば
生くるも
死ぬるも
我らは
主の
有なり。
9それキリストの
死にて
復生き
給ひしは、
死にたる
者と
生ける
者との
主とならん
爲なり。
10なんぢ
何ぞその
兄弟を
審くか、
汝なんぞ
其の
兄弟を
蔑するか、
我等はみな
神の
審判の
座の
前に
立つべし。
11録して
『主いひ給ふ、我は生くるなり、
凡ての膝はわが前に屈み、
凡ての舌は神を讃め稱へん』
とあり。
12我等おのおの
神のまへに
己の
事を
陳ぶべし。
13されば今より後、われら互に審くべからず、むしろ兄弟のまへに妨碍または躓物を置かぬように心を決めよ。
14われ如何なる物も自ら潔からぬ事なきを主イエスに在りて知り、かつ確く信ず。ただ潔からずと思ふ人にのみ潔からぬなり。
15もし食物によりて兄弟を憂ひしめば、汝は愛によりて歩まざるなり、キリストの代りて死に給ひし人を、汝の食物によりて亡すな。
16汝らの善きことの譏られぬようにせよ。
17それ神の國は飮食にあらず、義と平和と聖靈によれる歡喜とに在るなり。
18かくしてキリストに事ふる者は神に悦ばれ、人々に善しとせらるるなり。
19されば我ら平和のことと互に徳を建つる事とを追ひ求むべし。
20なんぢ食物のために神の御業を毀つな。凡ての物は潔し、されど之を食ひて人を躓かする者には惡とならん。
21肉を食はず、葡萄酒を飮まず、その他なんぢの兄弟を躓かする事をせぬは善し。
22なんぢの有てる信仰を己みづから神の前に保て。善しとする所につきて自ら咎めなき者は幸福なり。
23疑ひつつ食ふ者は罪せらる。これ信仰によらぬ故なり、凡て信仰によらぬ事は罪なり。
第十五章
1われら強き者はおのれを喜ばせずして、力なき者の弱を負ふべし。
2おのおの隣人の徳を建てん爲に、その益を圖りて之を喜ばすべし。
3キリストだに己を喜ばせ給はざりき。録して『なんぢを謗る者の謗は我に及べり』とあるが如し。
4夙くより録されたる所は、みな我らの教訓のために録ししものにして、聖書の忍耐と慰安とによりて希望を保たせんとてなり。
5願はくは忍耐と慰安との神、なんぢらをしてキリスト・イエスに效ひ、互に思を同じうせしめ給はん事を。
6これ汝らが心を一つにし口を一つにして、我らの主イエス・キリストの父なる神を崇めん爲なり。
7此の
故にキリスト
汝らを
容れ
給ひしごとく、
汝らも
互に
相容れて
神の
榮光を
彰すべし。
8われ
言ふ、キリストは
神の
眞理のために
割禮の
役者となり
給へり。これ
先祖たちの
蒙りし
約束を
堅うし
給はん
爲、
9また
異邦人も
憐憫によりて
神を
崇めんためなり。
録して
『この故に、われ異邦人の中にて
汝を讃めたたへ、
又なんぢの名を謳はん』
とあるが
如し。
10また
曰く
『異邦人よ、主の民と共に喜べ』
11又いはく
『もろもろの國人よ、主を讃め奉れ、
もろもろの民よ、主を稱へ奉れ』
12又イザヤ
言ふ
『エツサイの萠薛生じ、
異邦人を治むるもの興らん。
異邦人は彼に望をおかん』
13願はくは
希望の
神、
信仰より
出づる
凡ての
喜悦と
平安とを
汝らに
滿たしめ、
聖靈の
能力によりて
希望を
豐ならしめ
給はんことを。
14わが
兄弟よ、われは
汝らが
自ら
善に
滿ち、もろもろの
知識に
滿ちて
互に
訓戒し
得ることを
確く
信ず。
15されど
我なほ
汝らに
憶ひ
出させん
爲に、ここかしこ
少しく
憚らずして
書きたる
所あり、これ
神の
我に
賜ひたる
恩惠に
因る。
16即ち
異邦人のためにキリスト・イエスの
仕人となり、
神の
福音につきて
祭司の
職をなす。これ
異邦人の
聖靈によりて
潔められ、
御心に
適ふ
献物とならん
爲なり。
17されば、われ
神の
事につきては、キリスト・イエスによりて
誇る
所あり。
18我は、キリストの
異邦人を
服はせん
爲に
我を
用ひて、
言と
業と、
19また
徴と
不思議との
能力、および
聖靈の
能力にて
働き
給ひし
事のほかは
敢へて
語らず、エルサレムよりイルリコの
地方に
到るまで、
徧くキリストの
福音を
充たせり。
20我は
努めて
他人の
置ゑたる
基礎のうへに
建てじとて、
未だキリストの
御名の
稱へられぬ
所にのみ
福音を
宣傅へり。
21録して
『未だ彼のことを傳へられざりし者は見、
いまだ聞かざりし者は悟るべし』
とあるが
如し。
22この故に、われ汝らに往かんとせしが、しばしば妨げられたり。
23されど今は此の地方に働くべき處なく、且なんぢらに往かんことを多年切に望みゐたれば、
24イスパニヤに赴かんとき立寄りて汝らを見、ほぼ意に滿つるを得てのち汝らに送られんとを望むなり。
25されど今、聖徒に事へん爲にエルサレムに往かんとす。
26マケドニアとアカヤとの人々は、エルサレムに在る聖徒の貧しき者に幾許かの施與をするを善しとせり。
27實に之を善しとせり、また聖徒に對して斯くする負債あり。異邦人もし彼らの靈の物に與りたらんには、肉の物をもて彼らに事ふべきなり。
28されば此の事を成し了へ、この果を付してのち、汝らを歴てイスパニヤに往かん。
29われ汝らに到るときは、キリストの滿ち足れる祝福をもて到らんことを知る。
30兄弟よ、我らの主イエス・キリストにより、また御靈の愛によりて汝らに勸む、なんぢらの祈のうちに、我とともに力を盡して我がために神に祈れ。
31これユダヤにをる從はぬ者の中より我が救はれ、又エルサレムに對する我が務の聖徒の心に適ひ、
32かつ神の御意により、歡喜をもて汝等にいたり、共に安んぜん爲なり。
33願はくは平和の神なんぢら衆と偕に在さんことを、アァメン。
第十六章
1我ケンクレヤの教會の執事なる我らの姉妹フィベを汝らに薦む。
2なんぢら主にありて聖徒たるに相應しく彼を容れ、何にても其の要する所を助けよ、彼は夙くより多くの人の保護者また我が保護者たり。
3プリスカとアクラとに安否を問へ、彼らはキリスト・イエスに在る我が同勞者にして、
4わが生命のために己の首をも惜まざりき。彼らに感謝するは、ただ我のみならず、異邦人の諸教會もまた然り。
5又その家にある教會にも安否を問へ。又わが愛するエパネトに安否を問へ。彼はアジヤにて結べるキリストの初の實なり。
6汝等のために甚く勞せしマリヤに安否を問へ。
7我とともに囚人たりし我が同族アンデロニコとユニアスとに安否を問へ、彼らは使徒たちの中に名聲あり、かつ我に先だちてキリストに歸せし者なり。
8主にありて我が愛するアンプリヤに安否を問へ。
9キリストにある我らの同勞者ウルパノと我が愛するスタキスとに安否を問へ。
10キリストに在りて錬達せるアペレに安否を問へ。アリストブロの家の者に安否を問へ。
11わが同族ヘロデオンに安否を問へ。ナルキソの家なる主に在る者に安否を問へ。
12主に在りて勞せしツルパナとツルポサとに安否を問へ。主に在りて甚く勞せし愛するペルシスに安否を問へ。
13主に在りて選ばれたるルポスと其の母とに安否を問へ、彼の母は我にもまた母なり。
14アスンクリト、フレゴン、ヘルメス、パトロバ、ヘルマス及び彼らと偕に在る兄弟たちに安否を問へ。
15ピロロゴ及びユリヤ、ネレオ及びその姉妹、またオルンパ及び彼らと偕に在る凡ての聖徒に安否を問へ。
16潔き接吻をもて互に安否を問へ。キリストの諸教會みな汝らに安否を問ふ。
17兄弟よ、われ汝らに勸む、おほよそ汝らの學びし教に背きて分離を生じ、顛躓をおこす者に心して之に遠ざかれ。
18かかる者は我らの主キリストに事へず、反つて己が腹に事へ、また甘き言と媚諂とをもて質朴なる人の心を欺くなり。
19汝らの從順は凡ての人に聞えたれば、我なんぢらの爲に喜べり。而して我が欲する所は、汝らが善に智く、惡に疏からんことなり。
20平和の神は速かにサタンを汝らの足の下に碎き給ふべし。
願はくは我らの主イエスの恩惠、なんぢらと偕に在らんことを。
21わが同勞者テモテ及び我が同族ルキオ、ヤソン、ソシパテロ汝らに安否を問ふ。
22この書を書ける我テルテオも主にありて汝らに安否を問ふ。
23我と全教會との家主ガイオ汝らに安否を問ふ。町の庫司エラストと兄弟クワルトと汝らに安否を問ふ。
24[なし]
25願はくは長き世のあひだ隱れたれども、
26今顯れて、永遠の神の命にしたがひ、預言者たちの書によりて信仰の從順を得しめん爲に、もろもろの國人に示されたる奧義の默示に循へる我が福音と、イエス・キリストを宣ぶる事とによりて、汝らを堅うし得る、
27唯一の智き神に、榮光世々限りなくイエス・キリストに由りて在らんことを、アァメン。