ヨブ記

第一章

1ウヅの()にヨブと(なづ)くる(ひと)あり 其人(そのひと)(なり)完全(まつたく)かつ(ただし)くして(かみ)(おそ)(あく)(とほ)ざかる 2その(うめ)(もの)(をとこ)()(にん)(をんな)()(にん) 3その所有物(もちもの)(ひつじ)(せん) 駱駝(らくだ)(ぜん) (うし)(ひやく)(くびき) 牝驢馬(めろば)(ひやく) (しもべ)夥多(おびただ)しくあり 此人(このひと)(ひがし)(ひと)(うち)にて(もつと)(おほい)なる(もの)なり 4その子等(こら)おのおの(おのれ)(いへ)にて(おのれ)()宴筵(ふるまひ)(まう)くる(こと)()し その三(にん)姉妹(しまい)をも(まね)きて(とも)食飮(くひのみ)せしむ 5その宴筵(ふるまひ)()はつる(ごと)にヨブかならず(かれ)らを(よび)よせて(きよ)(すなは)(あさ)はやく()(かれ)一切(すべて)(かず)にしたがひて燔祭(はんさい)(ささ)(これ)はヨブ(わが)()(つみ)(をか)(こころ)(かみ)(わす)れたらんも(しる)べからずと(いひ)てなり ヨブの(なす)ところ(つね)(かく)のごとし 6(ある)()(かみ)()(たち)きたりてヱホバの(まへ)()つ サタンも(きた)りてその(なか)にあり 7ヱホバ、サタンに(いひ)たまひけるは(なんぢ)何處(いづく)より(きた)りしや サタン、ヱホバに(こた)へて(いひ)けるは()(ゆき)めぐり此彼(ここかしこ)()あるきて(きた)れり 8ヱホバ、サタンに(いひ)たまひけるは(なんぢ)(こころ)をもちひてわが(しもべ)ヨブを()しや (かれ)のごとく完全(まつたく)かつ(ただし)くして(かみ)(おそ)(あく)(とほ)ざかる(ひと)()にあらざるなり 9サタン、ヱホバに(こた)へて(いひ)けるはヨブあにもとむることなくして(かみ)(おそ)れんや 10(なんぢ)(かれ)とその(いへ)およびその一切(すべて)所有物(もちもの)周圍(まはり)藩屏(まがき)(まう)けたまふにあらずや (なんぢ)かれが()(なす)ところを(ことごと)成就(じやうじゆ)せしむるがゆゑにその所有物(もちもの)()(あま)ねし 11(され)(なんぢ)()(のべ)(かれ)一切(すべて)所有物(もちもの)(うち)たまへ (さら)(かなら)(なんぢ)(かほ)にむかひて(なんぢ)(のろ)はん 12ヱホバ、サタンに(いひ)たまひけるは()(かれ)一切(すべて)所有物(もちもの)(なんぢ)()(まか)(ただ)かれの()(なんぢ)()をつくる(なか)れ サタンすなはちヱホバの(まへ)よりいでゆけり 13(ある)()ヨブの(むすこ)(むすめ)()その(だい)一の(あに)(いへ)にて(もの)()(さけ)(のみ)ゐたる(とき) 14使者(つかひ)ヨブの(もと)(きた)りて()(うし)(たがへ)しをり牝驢馬(めろば)その(かたはら)草食(くさくひ)をりしに 15シバ(びと)(おそ)ひて(これ)(うば)(やいば)をもて少者(わかきもの)(うち)(ころ)せり (われ)ただ一人(ひとり)のがれて(なんぢ)(つげ)んとて(きた)れりと 16(かれ)なほ(ものい)ひをる(うち)(また)一人(ひとり)きたりて()(かみ)()(てん)より(くだ)りて(ひつじ)および少者(わかきもの)(やき)(ほろ)ぼせり (われ)ただ一人(ひとり)のがれて(なんぢ)(つげ)んとて(きた)れりと 17(かれ)なほ(ものい)ひをる(うち)(また)一人(ひとり)きたりて()ふ カルデヤ(びと)三隊(みくみ)(わか)()駱駝(らくだ)(おそ)ひてこれを(うば)(やいば)をもて少者(わかきもの)(うち)(ころ)せり(われ)ただ一人(ひとり)のがれて(なんぢ)(つげ)んとて(きた)れりと 18(かれ)なほ(ものい)ひをる(うち)(また)一人(ひとり)(きた)りて()(なんぢ)(むすこ)(むすめ)()その(だい)一の(あに)(いへ)にて(もの)()(さけ)(のみ)をりしに 19荒野(あれの)(かた)より大風(おほかぜ)ふき()(いへ)四隅(よすみ)(うち)ければ()(わか)人々(ひとびと)(うへ)(つぶ)れおちて(みな)しねり (われ)これを(なんぢ)(つげ)んとて(ただ)一人(ひとり)のがれ(きた)れりと 20(ここ)においてヨブ(たち)あがり外衣(うはぎ)()(かみ)()()(ふし)して(はい)21()(われ)(はだか)にて(はは)(たい)(いで)たり (また)(はだか)にて彼處(かしこ)(かへ)らん ヱホバ(あた)へヱホバ(とり)たまふなり ヱホバの御名(みな)(ほむ)べきかな 22この(こと)においてヨブは(まつた)(つみ)(をか)さず(かみ)にむかひて(おろか)なることを(いは)ざりき

第二章

1(ある)()(かみ)子等(こたち)きたりてヱホバの(まへ)()つ サタンも(きた)りその(なか)にありてヱホバの(まへ)()2ヱホバ、サタンに(いひ)たまひけるは(なんぢ)何處(いづく)より(きた)りしや サタン、ヱホバに(こた)へて(いひ)けるは()(ゆき)めぐり此彼(ここかしこ)()あるきて(きた)れり 3ヱホバ、サタンに(いひ)たまひけるは(なんぢ)(こころ)をもちひて(わが)(しもべ)ヨブを()しや (かれ)のごとく完全(まつたく)かつ(ただし)くして(かみ)(おそ)(あく)(とほ)ざかる(ひと)()にあらざるなり (なんぢ)われを(すす)めて(ゆゑ)なきに(かれ)打惱(うちなやま)さしめしかど(かれ)なほ(おのれ)(まつた)うして(みづか)(かた)くす 4サタン、ヱホバに(こた)へて(いひ)けるは(かは)をもて(かは)(かふ)るなれば(ひと)はその一切(すべて)所有物(もちもの)をもて(おのれ)生命(いのち)()ふべし 5(され)(いま)なんぢの()(のべ)(かれ)(ほね)(にく)とを(うち)たまへ (さら)(かな)らず(なんぢ)(かほ)にむかひて(なんぢ)(のろ)はん 6ヱホバ、サタンに(いひ)たまひけるは(かれ)(なんぢ)()(まか)(ただ)かれの生命(いのち)(そこな)(なか)れと 7サタンやがてヱホバの(まへ)よりいでゆきヨブを(うち)てその(あし)(うら)より(いただき)までに(あし)腫物(はれもの)(しやう)ぜしむ 8ヨブ土瓦(やきもの)碎片(くだけ)()(その)をもて()()(はひ)(なか)(すわ)りぬ 9(とき)にその(つま)かれに(いひ)けるは(なんぢ)(なほ)(おのれ)(まつ)たうして(みづか)(かた)くするや (かみ)(のろ)ひて(しぬ)るに(しか)ずと 10(しか)るに(かれ)はこれに()(なんぢ)(いふ)ところは(おろか)なる(をんな)(いふ)ところに()たり (われ)(かみ)より福祉(さいはひ)(うく)るなれば災禍(わざはひ)をも(また)(うけ)ざるを()んやと 此事(このこと)においてはヨブまつたくその(くちびる)をもて(つみ)(をか)さざりき 11(とき)にヨブの三(にん)(とも)この一切(すべて)災禍(わざはひ)(かれ)(のぞ)めるを()各々(おのおの)おのれの(ところ)よりして(きた)れり (すなは)ちテマン(びと)エリパズ、シユヒ(びと)ビルダデおよびマアナ(びと)ゾパル(これ)なり (かれ)らヨブを(いたは)りかつ(なぐさ)めんとて(たがひ)(やく)してきたりしが 12()(あげ)(はるか)()しに(その)ヨブなるを見識(みしり)がたき(ほど)なりければ(ひとし)(こゑ)(あげ)()(おのおの)おのれの外衣(うはぎ)()(てん)にむかひて(ちり)(まき)(おのれ)(かしら)(うへ)にちらし 13(すなは)七日(なぬか)七夜(ななよ)かれと(とも)()()しゐて 一言(ひとこと)(かれ)(いひ)かくる(もの)なかりき (かれ)苦惱(くるしみ)(はなは)(おほい)なるを()たればなり

第三章

1(かく)(のち)ヨブ(くち)(ひら)きて自己(おのれ)()(のろ)へり 2ヨブすなはち言詞(ことば)(いだ)して(いは)3()(うま)れし()(ほろ)びうせよ 男子(をのこ)(はら)にやどれりと(いひ)()(また)(しか)あれ 4その()(くら)くなれ (かみ)(うへ)よりこれを(かへり)みたまはざれ (ひかり)これを(てら)(なか)5暗闇(くらやみ)および死蔭(しのかげ)これを(とり)もどせ (くも)これが(うへ)をおほえ ()(くら)くする(もの)これを(おそれ)しめよ 6その()黑暗(くらやみ)(とら)ふる(ところ)となれ (とし)()(うち)(くは)はらざれ (つき)(かず)(いら)ざれ 7その()(はら)むこと(あら)ざれ 歡喜(よろこび)(こゑ)その(うち)(おこ)らざれ 8()(のろ)(もの)レビヤタンを激發(ふりおこ)すに(たくみ)なる(もの)これを(のろ)9その()晨星(あけのほし)(くら)かれ その()には光明(ひかり)(のぞ)むも()ざらしめ (また)東雲(しののめ)眼蓋(まぶた)()ざらしめよ 10()(わが)(はは)(はら)()(とぢ)ずまた(わが)()(うれへ)()ること(なか)らしめざりしによる 11(なに)とて(われ)(はら)より(しに)(いで)ざりしや (なに)とて(はら)より(いで)(とき)氣息(いき)たえざりしや 12如何(いか)なれば(ひざ)ありてわれを(うけ)しや 如何(いか)なれば乳房(ちぶさ)ありてわれを(やしな)ひしや 13(しか)らずば(いま)(われ)(ふし)(やす)んじかつ(ねむ)らん (さら)ばこの()やすらひをり 14かの荒墟(あれつか)自己(おのれ)のために(きづ)きたりし()(きみ)(たち)(おみ)(たち)(とも)にあり 15かの黄金(こがね)()白銀(しろがね)(いへ)(みた)したりし牧伯(つかさ)(たち)(とも)にあらん 16(また)(ひと)しれず(おり)胎兒(はらご)のごとくにして()(いで)ず また(ひかり)()ざる赤子(あかご)のごとくならん 17彼處(かしこ)にては(あし)(もの) 虐遇(しへたげ)()倦憊(うみつかれ)たる(もの)安息(やすみ)() 18彼處(かしこ)にては俘囚人(とらはれびと)みな(とも)安然(やすらか)()りて驅使者(おひつかふもの)(こゑ)(きか)19(ちひさ)(もの)(おほい)なる(もの)(おな)じく彼處(かしこ)にあり(しもべ)(ぬし)()(はな)20如何(いか)なれば艱難(なやみ)にをる(もの)(ひかり)(たま)(こころ)(くる)しむ(もの)生命(いのち)をたまひしや 21(かか)(もの)()(のぞ)むなれどもきたらず これをもとむるは(かく)れたる(たから)()るよりも(はなは)だし 22もし墳墓(はか)(たづ)ねて()(おほい)(よろ)こび(たの)しむなり 23その(みち)かくれ(かみ)取籠(とりこめ)られをる(ひと)如何(いか)なれば光明(ひかり)(たま)ふや 24わが歎息(なげき)はわが食物(くひもの)(かは)(わが)呻吟(うめき)(みづ)(なが)れそそぐに()たり 25()戰慄(をのの)(おそ)れし(もの)(われ)(のぞ)()怖懼(おぢおそ)れたる(もの)この()(およ)べり 26(われ)安然(やすらか)ならず(おだやか)ならず安息(やすみ)()(ただ)艱難(なやみ)のみきたる

第四章

1(とき)にテマン(びと)エリパズ(こた)へて(いは)2(ひと)もし(なんぢ)にむかひて言詞(ことば)(いだ)さば(なんぢ)これを(いと)ふや (さり)ながら(たれ)(いは)(しの)ぶことを()んや 3さきに(なんぢ)衆多(おほく)(ひと)(をし)(さと)せり ()(たれ)たる(もの)をばこれを(つよ)くし 4つまづく(もの)をば(ことば)をもて(たす)けおこし (ひざ)(よわ)りたる(もの)(つよ)くせり 5(しか)るに(いま)この(こと)(なんぢ)(のぞ)めば(なんぢ)(もだ)え この(こと)なんぢに(くは)はれば(なんぢ)おぢまどふ 6(なんぢ)(かみ)(かし)こめり (これ)なんぢの依賴(よりたの)(ところ)ならずや (なんぢ)はその(みち)(まつた)うせり (これ)なんぢの(のぞみ)ならずや 7()(おも)()(たれ)(つみ)なくして(ほろ)びし(もの)あらん (ただしき)(もの)(たた)れし(こと)いづくに(あり)8(われ)()(ところ)によれば不義(ふぎ)(たが)へし(あく)()(もの)はその()(ところ)(また)(かく)のごとし 9みな(かみ)氣吹(いぶき)によりて(ほろ)びその(はな)(いき)によりて(きえ)うす 10獅子(しし)(ほえ) (たけ)獅子(しし)(こゑ)ともに()(わか)獅子(しし)(きば)()11(おほ)獅子(じし)()(もの)なくして(ほろ)小獅子(こじし)散失(ちりう)12(さき)(ことば)(ひそか)(われ)(のぞ)めるありて(われ)その細聲(ささやき)(みみ)(きき)()たり 13(すなは)(ひと)熟睡(うまい)する(ころ)(われ)()異象(まぼろし)によりて(おも)(わづら)ひをりける(とき) 14()恐懼(おそれ)をもよほして戰慄(をのの)骨節(ほねぶし)ことごとく(ふる)15(とき)(れい)ありて(わが)(かほ)(まへ)(すぎ)ければ(われ)()()よだちたり 16その(もの)(たち)とまりしが(われ)はその(さま)()わかつことえざりき (ただ)(ひとつ)(もの)(かたち)わが()(まへ)にあり (とき)(われ)しづかなる(こゑ)()けり(いは)17(ひと)いかで(かみ)より正義(ただし)からんや (ひと)いかでその造主(つくりぬし)より(きよ)からんや 18(かれ)はその(しもべ)をさへに(たの)みたまはず (その)使者(つかひ)をも(たら)(もの)見做(みなし)たまふ 19(いは)んや(つち)(いへ)(すみ)をりて(ちり)(もとゐ)とし蜉蝣(かげらふ)のごとく(ほろ)ぶる(もの)をや 20(これ)(あさ)より(ゆふ)までの(あひだ)(ほろ)びかへりみる(もの)もなくして(なが)失逝(うせさ)21その(たま)()あに(たえ)ざらんや(みな)(さと)ること(なく)して(しに)うす

第五章

1()ふなんぢ()びて()(たれ)(なんぢ)(こた)ふる(もの)ありや 聖者(きよきもの)(うち)にて(たれ)(なんぢ)むかはんとするや 2(それ)(おろか)なる(もの)憤恨(いきどほり)のために()(ころ)(つたな)(もの)嫉媢(ねたみ)のために(おのれ)(しな)しむ 3(われ)みづから(おろか)なる(もの)のその()()るを()たりしがすみやかにその(いへ)(のろ)へり 4その子等(こども)助援(たすけ)()ることなく (もん)にて(なや)まさる (これ)(すく)(もの)なし 5その(かり)とれる(もの)(うゑ)たる(ひと)これを(くら)荊棘(いばら)(まがき)(うち)にありてもなほ(これ)(うば)ひいだし (わな)をその所有物(もちもの)にむかひて(くち)()6災禍(わざはひ)(ちり)より(おこ)らず 艱難(なやみ)(つち)より(いで)7(ひと)(うま)れて艱難(なやみ)をうくるは()()(かみ)(とぶ)がごとし 8もし(われ)ならんには(われ)(かな)らず(かみ)(つげ)(もと)(わが)(こと)(かみ)(まか)せん 9(かみ)(おほい)にして(はか)りがたき(こと)(おこな)ひたまふ (その)不思議(ふしぎ)なる(わざ)(なし)たまふこと(かず)しれず 10(あめ)()(うへ)(ふら)(みづ)()(おく)11(ひく)(もの)(たか)()(うれ)ふる(もの)(ひき)(おこ)して幸福(さいはひ)ならしめたまふ 12(かみ)(さか)しき(もの)謀計(はかりごと)(やぶ)(これ)をして何事(なにごと)をもその()成就(なしとぐ)ること(あた)はざらしめ 13(かしこ)(もの)をその自分(みづから)詭計(たくみ)によりて(とら)(よこしま)なる(もの)謀計(はかりごと)をして(やぶ)れしむ 14(かれ)らは(ひる)暗黑(くらき)()卓午(まひる)にも(よる)(ごと)くに(さぐ)(まど)はん 15(かみ)(なや)める(もの)(すく)ひてかれらが(くち)(つるぎ)(まぬ)かれしめ (つよ)(もの)()(まぬ)かれしめたまふ 16(ここ)をもて(よわ)(もの)(のぞみ)あり (あし)(もの)(くち)()17(かみ)(こら)したまふ(ひと)幸福(さいはひ)なり (され)(なんぢ)全能者(ぜんのうしや)儆責(いましめ)(かろ)んずる(なか)18(かみ)(きづつ)(また)(つつ)(うち)ていため(また)その()をもて(ぜん)(いや)したまふ 19(かれ)はなんぢを(むつ)艱難(なやみ)(うち)にて(すく)ひたまふ (ななつ)(うち)にても災禍(わざはひ)なんぢにのぞまじ 20饑饉(ききん)(とき)にはなんぢを(すく)ひて()(まぬか)れしめ 戰爭(いくさ)(とき)には(つるぎ)()(まぬか)れしめたまふ 21(なんぢ)(した)にて(むちう)たるる(とき)にも(かく)るることを() 壞滅(ほろび)(きた)(とき)にも(おそ)るること(あら)22(なんぢ)壞滅(ほろび)饑饉(ききん)(わら)()(けもの)をも(おそ)るること(なか)るべし 23田野(でんや)(いし)なんぢと(あひ)(むす)()(けもの)なんぢと(やはら)がん 24(なんぢ)はおのが幕屋(まくや)安然(やすらか)なるを(しら)(なんぢ)住處(すみか)()まはるに(かけ)たる(もの)なからん 25(なんぢ)また(なんぢ)子等(こども)(おほ)くなり (なんぢ)(すゑ)()(くさ)(ごと)くになるを(しら)26(なんぢ)遐齡(よきよはひ)におよびて(はか)にいらん 宛然(あたかも)麥束(むぎたば)(とき)にいたりて(はこ)びあぐるごとくなるべし 27()(われ)らが(たづ)(あきら)めし(ところ)かくのごとし (なんぢ)これを(きき)(みづか)()れよ

第六章

1ヨブ(こた)へて(いは)2(ねが)はくは(わが)憤恨(いきどほり)()(はか)られ (わが)懊惱(なやみ)(これ)とむかひて天秤(はかり)(かけ)られんことを 3()すれば(これ)(うみ)(すな)よりも(おも)からん (かか)ればこそ(わが)(ことば)躁妄(みだり)なりけれ 4それ全能者(ぜんのうしや)()わが()にいりわが魂神(たましひ)その(どく)(のめ)(かみ)畏怖(おそれ)(われ)(おそ)()5野驢馬(のろば)あに靑草(あをくさ)あるに(なか)んや (うし)あに食物(くひもの)あるに(うな)らんや 6(あは)(もの)あに(しほ)なくして(くら)はれんや (たまご)(しろみ)あに(あじはひ)あらんや 7わが(こころ)(ふる)ることを(きら)(もの)(これ)()(いと)(ところ)食物(くひもの)のごとし 8(ねが)はくは(わが)(もと)むる(ところ)()んことを(ねが)はくは(かみ)わが(こひねが)(ところ)(もの)(われ)(たま)はらんことを 9(ねが)はくは(かみ)われを(ほろ)ぼすを(よし)とし 御手(みて)(のべ)(われ)(たち)たまはんことを 10(しか)るとも(われ)(なほ)みづから(なぐさ)むる(ところ)あり (はげ)しき苦痛(くるしみ)(なか)にありて(よろこ)ばん ()(われ)聖者(きよきもの)(ことば)(もと)りしことなければなり 11(われ)(なに)氣力(ちから)ありてか(なほ)(また)(われ)(をはり)いかなれば(われ)なほ(こら)(しの)ばんや 12わが氣力(ちから)あに(いし)氣力(ちから)のごとくならんや (わが)(にく)あに(あかがね)のごとくならんや 13わが(たすけ)われの(うち)(なき)にあらずや 救拯(すくひ)(われ)より(おひ)はなされしにあらずや 14憂患(うれひ)にしづむ(もの)はその(とも)これを(あは)れむべし (しか)らずば全能者(ぜんのうしや)(おそ)るることを(やめ)15わが兄弟(きやうだい)はわが(のぞみ)(みた)さざること溪川(たにがは)のごとく 溪川(たにがは)(ながれ)のごとくに(すぎ)さる 16(これ)(こほり)のために(くろ)くなり (ゆき)その(うち)(かく)るれども 17温暖(あたたか)になる(とき)(きえ)ゆき(あつ)くなるに(および)てはその(ところ)(たえ)はつ 18隊旅客(くみたびびと)()をめぐらして()空曠處(むなしきところ)にいたりて(ほろ)19テマの隊旅客(くみたびびと)これを(のぞ)みシバの旅客(たびびと)これを(した)20彼等(かれら)これを(のぞ)みしによりて愧恥(はぢ)()彼處(かしこ)(いた)りてその(かほ)(あか)くす 21かく汝等(なんぢら)(いま)(むな)しき(もの)なり (なんぢ)らは(おそ)ろしき(こと)()れば(すなは)(おそ)22(われ)あに汝等(なんぢら)(われ)(あた)へよと(いひ)しこと(あら)んや (なんぢ)らの所有物(もちもの)(うち)より(もの)(とり)(わが)ために(おく)れと(いひ)しこと(あら)んや 23また敵人(あだびと)()より(われ)(すく)(いだ)せと(いひ)しことあらんや (しへた)ぐる(もの)()より(われ)(あがな)へと(いひ)しことあらんや 24(われ)(をし)へよ (しか)らば(われ)(もく)せん ()(われ)(あやま)てる(ところ)(しら)せよ 25(ただ)しき(ことば)如何(いか)(ちから)あるものぞ (さり)ながら(なんぢ)らの規諫(いましむ)(ところ)(なに)規諫(いましめ)とならんや 26(なんぢ)らは(ことば)規正(いましめ)んと(おも)ふや (のぞみ)(たえ)たる(もの)(かた)(ところ)(かぜ)のごときなり 27(なんぢ)らは孤子(みなしご)のために(くじ)()(なんぢ)らの(とも)をも商貨(あきなひもの)にするならん 28(いま)ねがはくは(われ)(むか)(われ)(なんぢ)らの(かほ)(まへ)(いつ)はらず 29()(ふたた)びせよ 不義(ふぎ)あらしむる(なか)()(ふたた)びせよ 此事(このこと)においては(われ)正義(ただ)30(わが)(した)不義(ふぎ)あらんや (わが)(くち)(あし)(もの)(わきま)へざらんや

第七章

1それ(ひと)()にあるは戰鬪(たたかひ)にあるがごとくならずや (また)(その)()傭人(やとひびと)()のごとくなるにあらずや 2奴僕(しもべ)(くれ)(こひね)がふが(ごと)傭人(やとひびと)のその(あたひ)(のぞ)むがごとく 3(われ)(くる)しき(つき)()させられ (うれ)はしき()をあたへらる 4(われ)(ふせ)(すな)はち()何時(いつ)()あけて(われ)おきいでんかと (あけぼの)まで(しきり)輾轉(まろ)5わが(にく)(むし)土塊(つちくれ)とを衣服(ころも)となし (わが)(かは)(いえ)てまた(くさ)6わが()(はた)()よりも迅速(すみやか)なり (われ)(のぞ)(ところ)なくし(これ)(おく)7(おも)()よ わが生命(いのち)氣息(いき)なる而已(のみ) (わが)()(ふたた)福祉(さいはひ)()ること(あら)8(われ)()(もの)(まなこ)かさねて(われ)()ざらん (なんぢ)()(われ)にむくるも(われ)(すで)(あら)ざるべし 9(くも)(きえ)(さる)がごとく陰府(よみ)(くだ)れる(もの)(かさ)ねて(のぼ)りきたらじ 10(かれ)(ふたた)びその(いへ)(かへ)らず (かれ)郷里(ふるさと)最早(もはや)かれを(みと)めじ 11(され)(われ)はわが(くち)(とど)めず (わが)(こころ)(いたみ)によりて(ものい)ひ わが神魂(たましひ)(くる)しきによりて(なげ)かん 12(われ)あに(うみ)ならんや(わに)ならんや (なんぢ)なにとて(われ)(まも)らせおきたまふぞ 13わが(とこ)われを(なぐさ)め わが寢床(ねどこ)わが(うれへ)(とか)んと(おも)ひをる(とき)14(なんぢ)(ゆめ)をもて(われ)(おどろ)かし 異象(まぼろし)をもて(われ)(おそ)れしめたまふ 15(ここ)をもて(わが)(こころ)氣息(いき)(とぢ)んことを(ねが)(わが)この(ほね)よりも()(こひね)がふ 16われ生命(いのち)(いと)(われ)(なが)(いく)るをことを(ねが)はず (われ)(すて)おきたまへ (わが)()(いき)のごときなり 17(ひと)如何(いか)なる(もの)として(なんぢ)これを(おほい)にし (これ)(こころ)(とめ) 18(あさ)ごとに(これ)()そなはし (とき)わかず(これ)(こころ)みたまふや 19何時(いつ)まで(なんぢ)われに()(はな)さず ()()()()(われ)(すて)おきたまはざるや 20(ひと)(かんが)みたまふ(もの)(われ)(つみ)(をか)したりとて(なんぢ)(なに)をか(なさ)(なん)(われ)(なんぢ)(まと)となして(われ)にこの()(いと)はしめたまふや 21(なんぢ)なんぞ(われ)(とが)(ゆる)さず(わが)(つみ)(のぞ)きたまはざるや (われ)いま(つち)(なか)(ねむ)らん (なんぢ)(われ)(たづ)ねたまふとも(われ)(あら)ざるべし

第八章

1(とき)にシユヒ(びと)ビルダデ(こた)へて(いは)2何時(いつ)まで(なんぢ)かかる(こと)(いふ)何時(いつ)まで(なんぢ)(くち)言語(ことば)大風(おほかぜ)のごとくにするや 3(かみ)あに審判(さばき)(まげ)たまはんや 全能者(ぜんのうしや)あに公義(こうぎ)(まげ)たまはんや 4(なんぢ)子等(こども)かれに(つみ)()たるにや(これ)をその(とが)()(わた)したまへり 5(なんぢ)もし(かみ)(もと)全能者(ぜんのうしや)(いの)6(きよ)くかつ(ただ)しうしてあらば(かなら)(いま)(なんぢ)(かへり)(なんぢ)(ただし)(いへ)(さか)えしめたまはん 7(しか)らば(なんぢ)(はじめ)微小(ちひさ)くあるとも(なんぢ)(をはり)(はなは)(おほい)ならん 8()(なんぢ)(すぎ)にし()(ひと)()(かれ)らの父祖(ふそ)尋究(たづねきは)めしところの(こと)(まな)9((われ)らは昨日(きのふ)より(あり)しのみにて(なに)をも(しら)(われ)らが()にある()(かげ)のごとし) 10彼等(かれら)なんぢを(をし)(なんぢ)(さと)(ことば)をその(こころ)より(いだ)さざらんや 11(あし)あに(どろ)なくして(のび)んや (をぎ)あに(みづ)なくしてそだたんや 12(これ)はその(あを)くして(いま)(から)ざる(とき)にも(ほか)一切(すべて)(くさ)よりは(はや)()13(かみ)(わす)るる(もの)(みち)(すべ)(かく)のごとく (もと)(もの)(のぞみ)(むな)しくなる 14その(たの)(ところ)(たた)れ その(よる)ところは蜘蛛網(くものす)のごとし 15その(いへ)(より)かからんとすれば(いへ)(たた)(これ)(かた)くとりすがるも(たも)たじ 16(かれ)()(まへ)靑緑(みどり)(あら)はし その(えだ)(その)蔓延(はびこ)らせ 17その()石堆(いしづか)(から)みて(いし)(いへ)(なが)むれども 18(もし)その(ところ)より(とり)のぞかれなばその(ところ)これを(みと)めずして(われ)(なんぢ)()たる(こと)なしと(いは)19()よその(みち)喜樂(たのしみ)(かく)のごとし (しか)してまた(ほか)(もの)()より(はえ)いでん 20それ(かみ)完全(まつたき)(ひと)(すて)たまはず また(あし)(もの)()()りたまはず 21(つひ)哂笑(わらひ)をもて(なんぢ)(くち)(みた)歡喜(よろこび)(なんぢ)(くちびる)(おき)たまはん 22(なんぢ)(にく)(もの)羞恥(はぢ)()せられ (あし)(もの)住所(すみか)(なく)なるべし

第九章

1ヨブこたへて(いひ)けるは 2(われ)まことに(その)(こと)(しか)るを(しれ)(ひと)いかでか(かみ)(まへ)(ただし)かるべけん 3よし(ひと)(かみ)辨爭(あらそ)はんとするとも(せん)(ひとつ)(こた)ふること(あた)はざるべし 4(かみ)(こころ)(かしこ)(ちから)(つよ)くましますなり (たれ)(かみ)(さから)ひてその()(やす)からんや 5(かれ)(やま)(うつ)したまふに(やま)しらず (かれ)震怒(いかり)をもて(これ)飜倒(くつがへ)したまふ 6(かれ)()(ふる)ひてその(ところ)(はな)れしめたまへばその(はしら)ゆるぐ 7()(めい)じたまへば()いでず (また)星辰(ほし)(ふう)じたまふ 8(ただ)かれ(ひとり)(てん)()(うみ)(なみ)(ふみ)たまふ 9また北斗(ほくと)參宿(しんしゆく)昴宿(ばうしゆく)および南方(なんぽう)密室(みつしつ)(つく)りたまふ 10(おほい)なる(こと)(おこな)ひたまふこと(はか)られず(くす)しき(わざ)(なし)たまふこと(かず)しれず 11()(かれ)わが(まへ)(すぎ)たまふ (しか)るに(われ)これを()(かれ)すすみゆき(たま)(しか)るに(われ)(これ)(さとら)12(かれ)(うば)(さり)(たま)(たれ)(あた)(これ)(はば)まん (たれ)(これ)(なんぢ)(なに)(なす)やと(いふ)ことを()()13(かみ)(その)震怒(いかり)(やめ)(たま)はず ラハブを(たすく)(もの)(ども)(これ)(した)(かが)14(され)(われ)(いかで)(かれ)回答(こたへ)(なす)ことを()(いかで)われ(ことば)(えら)びて(かれ)(あげつら)(こと)をえんや 15假令(たとひ)われ(ただし)かるとも(かれ)回答(こたへ)をせじ (かれ)(われ)審判(さば)(もの)なれば(われ)(かれ)(なげ)(もとめ)16假令(たとへ)(われ)(かれ)(よび)(かれ)われに(こたへ)たまふともわが(ことば)(きき)いれ(たま)ひしとは(われ)(しん)ぜざるなり 17(かれ)大風(おほかぜ)をもて(われ)撃碎(うちくだ)(ゆゑ)なくして(われ)衆多(おほく)(きず)(おは)18(われ)(いき)をつかさしめず (にが)(こと)をもて(わが)()(みた)(たま)19(つよ)(もの)力量(ちから)(いは)んか ()(ここ)にあり 審判(さばき)(こと)ならんか (たれ)(われ)(よび)(いだ)すことを()()20假令(たとひ)われ(ただし)かるとも(わが)(くち)われを(あし)しと(なさ)假令(たとひ)われ完全(まつた)かるとも(なほ)われを(つみ)ありとせん 21(われ)(まつた)(しかれ)ども(われ)はわが(こころ)(しら)(わが)生命(いのち)(いやし)22(みな)同一(ひとつ)なり (ゆゑ)(われ)()(かみ)完全(まつたき)(もの)(あしき)(もの)とを()しく(ほろぼ)したまふと 23災禍(わざはひ)俄然(にはか)(ひと)(ころ)(ごと)(こと)あれば(かれ)(つみ)なき(もの)苦痛(くるしみ)(わら)()たまふ 24()(あし)(もの)()(わた)されてあり (かれ)またその裁判(さばき)(びと)(かほ)(おほ)ひたまふ (もし)(かれ)ならずば(これ)(たれ)行爲(わざ)なるや 25わが()驛使(はゆまづかひ)よりも(はや)(ただ)(すぎ)さりて福祉(さいはひ)()26()はしること葦舟(あしぶね)のごとく (もの)(つか)まんとて(とび)かける(わし)のごとし 27たとひ(われ)わが(うれひ)(わす)面色(かほいろ)(あらた)めて(わら)ひをらんと(おも)ふとも 28(なほ)この(もろもろ)苦痛(くつう)のために戰慄(ふるひをのの)くなり (われ)(おも)ふに(なんぢ)われを(ゆる)(はな)ちたまはざらん 29(われ)(つみ)ありとせらるるなれば(なん)徒然(いたづら)(らう)すべけんや 30われ(ゆき)(みづ)をもて()(あら)灰汁(あく)をもて()(きよ)むるとも 31(なんぢ)われを(けがら)はしき(あな)(なか)(おとし)いれたまはん (しか)して(わが)(ころも)(われ)(いと)ふにいたらん 32(かみ)(われ)のごとく(ひと)にあらざれば(われ)かれに(こた)ふべからず (われ)二箇(ふたり)して(とも)裁判(さばき)(のぞ)むべからず 33また(われ)らの(あひだ)には(われ)二箇(ふたり)(うへ)()(おく)べき仲保(ちうほう)あらず 34(ねがは)くは(かれ)その(つゑ)(われ)より(とり)はなし その震怒(いかり)をもて(われ)(おそ)れしめたまはざれ 35(しか)らば(われ) 言語(ものいひ)(かれ)(おそ)れざらん ()(われ)みづから(かか)(もの)(おも)はざればなり

第十章

1わが(こころ)生命(いのち)(いと)(され)(われ)わが憂愁(うれへ)(つつ)まず(いひ)あらはし わが魂神(たましひ)(くるし)きによりて(ものい)はん 2われ(かみ)(まう)さん (われ)(つみ)ありしとしたまふ(なか)何故(なにゆゑ)(われ)とあらそふかを(われ)(しめ)したまへ 3なんぢ虐遇(しへたげ)()(なんぢ)()(わざ)(うち)(すて)(あし)(もの)謀計(はかりごと)(てら)すことを(よし)としたまふや 4(なんぢ)肉眼(にくがん)(もち)たまふや (なんぢ)()たまふ(ところ)(ひと)()るがごとくなるや 5なんぢの()人間(にんげん)()のごとく (なんぢ)(とし)(ひと)()のごとくなるや 6(なに)とて(なんぢ)わが(とが)(たづ)ねわが(つみ)をしらべたまふや 7されども(なんぢ)はすでに(われ)(つみ)なきを(しり)たまふ また(なんぢ)()より(すく)ひいだし()(もの)なし 8(なんぢ)()われをいとなみ(われ)をことごとく(つく)れり (しか)るに(なんぢ)(いま)われを(ほろ)ぼしたまふなり 9()記念(おぼえ)たまへ (なんぢ)土塊(つちくれ)をもてすてるがごとくに(われ)(つく)りたまへり (しか)るに(また)われを(ちり)(かへ)さんとしたまふや 10(なんぢ)(われ)(ちち)のごとく(そそ)牛酪(ぎうらく)のごとくに(こら)しめたまひしに(あら)ずや 11(なんぢ)(かは)(にく)とを(われ)()(ほね)(すぢ)とをもて(われ)()12生命(いのち)恩惠(めぐみ)とをわれに(さづ)(われ)眷顧(かへりみ)てわが魂神(たましひ)(まも)りたまへり 13(しか)はあれど(なんぢ)これらの(こと)()(こころ)(かく)しおきたまへり (われ)この(こと)(なんぢ)(こころ)にあるを()14(われ)もし(つみ)(をか)さば(なんぢ)われをみとめてわが(つみ)(ゆる)したまはじ 15(われ)もし行状(おこなひ)あしからば(わざはひ)あらん 假令(たとひ)われ(ただし)かるとも(われ)(かうべ)(あげ)()(われ)(うち)羞耻(はぢ)()()にわが患難(なやみ)()ればなり 16もし(かうべ)(あげ)なば獅子(しし)のごとくに(なんぢ)われを(おひ)()(わが)()(うへ)(また)なんぢの(くす)しき能力(ちから)をあらはしたまはん 17(なんぢ)はしばしば(あかし)する(もの)(いれ)かへて(われ)()(われ)にむかひて(なんぢ)震怒(いかり)()新手(あらて)新手(あらて)(くは)へて(われ)()めたまふ 18(なに)とて(なんぢ)われを(はら)より(いだ)したまひしや (しか)らずば(われ)(いき)()()()らるること()19(かつ)(あら)ざりし(ごと)くならん (すなは)(われ)(はら)より(はか)(もち)ゆかれん 20わが()幾時(いくばく)()きに(あら)ずや (ねがは)くは(かれ)(しば)らく(やめ)(われ)(はな)(われ)をして(すこ)しく(やす)んぜしめんことを 21()(ゆき)(また)(かへ)ることなきその(さきだ)(かく)あらしめよ (われ)(くら)()()(かげ)()(ゆか)22この()(くら)くして晦冥(やみ)(ひと)しく()(かげ)にして區分(わいだめ)なし 彼處(かしこ)にては光明(ひかり)黑暗(くらやみ)のごとし

第十一章

1(ここ)においてナアマ(びと)ゾパル(こた)へて(いひ)けるは 2言語(ことば)(おほ)からば(あに)(こた)へざるを()んや (くち)おほき(ひと)あに(ただし)とせられんや 3(なんぢ)(むな)しき(ことば)あに(ひと)をして(くち)(とぢ)しめんや (なんぢ)(あざけ)らば(ひと)なんぢをして(はぢ)しめざらんや 4(なんぢ)()(わが)(をしへ)(ただ)(われ)(なんぢ)()(まへ)(きよ)しと 5(ねがは)くは(かみ)(ことば)(いだ)(なんぢ)にむかひて(くち)(ひら)6智慧(ちゑ)秘密(ひみつ)をなんぢに(しめ)してその知識(ちしき)(あひ)(ばい)するを(あらは)したまはんことを (なんぢ)しれ(かみ)はなんぢの(つみ)よりも(かろ)くなんぢを處置(しよち)したまふなり 7なんぢ(かみ)深事(ふかきこと)(きは)むるを()んや 全能者(ぜんのうしや)(まつた)(きは)むることを()んや 8その(たか)きことは(てん)のごとし (なんぢ)なにを()()んや (その)(ふか)きことは陰府(よみ)のごとし (なんぢ)なにを(しり)えんや 9その(りやう)()よりも(なが)(うみ)よりも(ひろ)10(かれ)もし(ゆき)めぐりて(ひと)(とら)へて召集(めしあつ)めたまふ(とき)(たれ)()くこれを(はば)まんや 11(かれ)(いつは)(ひと)()()りたまふ (また)惡事(あくじ)(かへり)みること(なく)して()(しり)たまふなり 12(むな)しき(ひと)悟性(さとり)なし その(うま)るるよりして野驢馬(のろば)(こま)のごとし 13(なんぢ)もし(かれ)にむかひて(なんぢ)(こころ)(さだ)(なんぢ)()()14()(つみ)のあらんには(これ)(とほ)()(あく)をなんぢの幕屋(まくや)(とど)むる(なか)15()すれば(なんぢ) (かほ)(あげ)(きず)なかるべく(かた)()(おそ)るる(こと)なかるべし 16すなはち(なんぢ)憂愁(うれひ)(わす)れん (なんぢ)のこれを(おも)ゆることは(なが)(さり)(みづ)のごとくならん 17なんぢの生存(いきなが)らふる()眞晝(まひる)よりも(かがや)かん 假令(たとひ)(くら)(こと)あるとも(これ)平旦(あした)のごとくならん 18なんぢは(のぞみ)あるに(より)(やす)んじ (なんぢ)周圍(まはり)()めぐりて安然(やすらか)(いぬ)るにいたらん 19なんぢは(なに)にも(おそ)れさせらるること(なく)して(ふし)やまん (かなら)衆多(おほく)(もの)なんぢを(よろ)こばせんと(つと)むべし 20(され)(あし)(もの)()(くら)逃遁處(のがれどころ)(うし)なはん (その)(のぞみ)(いき)(たゆ)ると(ひと)しかるべし

第十二章

1ヨブこたへて()2なんぢら而已(のみ)まことに(ひと)なり 智慧(ちゑ)(なんぢ)らと(とも)(しな)3(われ)もなんぢらと(おな)じく(こころ)あり (われ)はなんぢらの(した)(たた)(たれ)(なんぢ)らの(いひ)(ごと)(こと)(しら)ざらんや 4(われ)(かみ)(よば)はりて(きか)るる(もの)なるに(いま)その(とも)(あざ)けらるる(もの)となれり 嗚呼(ああ)(ただ)しくかつ(まつ)たき(ひと)あざけらる 5安逸(やすらか)なる(もの)(おも)輕侮(あなどり)不幸(ふしあはせ)なる(もの)(つき)そひ(あし)のよろめく(もの)(まつ)6掠奪(かすめうば)(もの)(てん)(まく)繁榮(さか)(かみ)(いか)らせ自己(おのれ)()(かみ)(たづさ)ふる(もの)安泰(やすらか)なり 7(いま)()(けもの)()(さら)(なんぢ)(をし)へん 天空(そら)(とり)()(さら)ばなんぢに(かた)らん 8()()(さら)ばなんぢに(をし)へん (うみ)(うを)もまた(なんぢ)(のぶ)べし 9(たれ)かこの一切(すべて)(もの)(より)てヱホバの()のこれを(つく)りしなるを(しら)ざらんや 10一切(すべて)生物(いきもの)生氣(いのち)および一切(すべて)(ひと)靈魂(たましひ)ともに(かれ)()(うち)にあり 11(みみ)説話(ことば)(わきま)へざらんや その(さま)あたかも(くち)食物(くひもの)(あじは)ふがごとし 12(おい)たる(もの)(うち)には智慧(ちゑ)あり 壽長者(いのちながきもの)(うち)には穎悟(さとり)あり 13智慧(ちゑ)權能(ちから)(かみ)()智謀(ちぼう)穎悟(さとり)(かれ)(ぞく)14()(かれ)(こぼ)てば(ふたた)(たつ)ること(あた)はず (かれ)(ひと)(とぢ)こむれば(ひら)(いだ)すことを()15()(かれ)(みづ)(とど)むれば(すなは)()(みづ)(いだ)せば(すなは)()(ほろ)ぼす 16權能(ちから)穎悟(さとり)(かれ)()(まど)はさるる(もの)(まど)はす(もの)(とも)(かれ)(ぞく)17(かれ)議士(ぎし)裸體(はだか)にして(とら)へゆき 審判人(さばきびと)をして(おろか)なる(もの)とならしめ 18(わう)(たち)權威(いきほひ)(とき)(かへつ)(これ)(こし)(なは)をかけ 19祭司(さいし)(たち)裸體(はだか)にして(とら)へゆき 權力(ちから)ある(もの)(ほろ)ぼし 20(ことば)(さわやか)なる(もの)言語(ことば)(とり)(のぞ)(おい)たる(もの)了知(さとり)(うば)21侯伯(きみ)たる者等(ものども)恥辱(はぢ)(かうむ)らせ (つよ)(もの)(おび)()22暗中(くらきうち)より(かく)れたる事等(ことども)(あらは)()(かげ)光明(ひかり)(いだ)23國々(くにぐに)(おほい)にしまた(これ)(ほろ)ぼし 國々(くにぐに)(ひろ)くしまた(これ)(もと)(かへ)24()(たみ)(かしら)たる者等(ものども)了知(さとり)(うば)ひ これを(みち)なき荒野(あれの)吟行(さまよ)はしむ 25(かれ)らは光明(ひかり)なき(やみ)にたどる (かれ)また(かれ)らを(よへ)(ひと)のごとくによろめかしむ

第十三章

1()よわが()これを(ことごと)() わが(みみ)これを(きき)通逹(さと)れり 2(なんぢ)らが()るところは(われ)もこれを()(われ)(なんぢ)らに劣らず 3(しか)りと(いへ)ども(われ)全能者(ぜんのうしや)(もの)(いは)(われ)(かみ)(ろん)ぜんことをのぞむ 4(なんぢ)らは(ただ)謊言(いつはり)(つく)(まう)くる(もの) (なんぢ)らは(みな)無用(むよう)醫師(くすし)なり 5(ねがは)くは(なんぢ)(まつた)(もく)せよ (しか)するは(なんぢ)らの智慧(ちゑ)なるべし 6()ふわが(ろん)ずる(ところ)()()(くちびる)にて辨爭(いひあらそ)(ところ)()()7(かみ)のために(なんぢ)(あし)(こと)(いふ)(また)かれのために虚僞(いつはり)(のぶ)るや 8(なんぢ)(かみ)(ため)(かたよ)るや またかれのために(あらそ)はんとするや 9(かみ)もし(なんぢ)らを鑒察(しらべ)たまはば(あに)(よか)らんや 汝等(なんぢら)(ひと)(あざ)むくごとくに(かれ)(あざ)むき()んや 10汝等(なんぢら)もし(ひそか)(わたく)しするあらば(かれ)かならず(なんぢ)らを(せめ)11その威光(ゐくわう)なんぢらを(おそ)れしめざらんや (かれ)(おそ)るる畏懼(おそれ)なんぢらに(のぞ)まざらんや 12なんぢらの諭言(さとし)(はひ)(たと)ふべし なんぢらの(しろ)(つち)(しろ)となる 13(もく)して(われ)にかかはらざれ (われ)言語(ものいは)んとす 何事(なにごと)にもあれ(われ)(きた)らば(きた)14(われ)なんぞ(わが)(にく)をわが()(あひだ)()き わが生命(いのち)をわが()()かんや 15(かれ)われを(ころ)すとも(われ)(かれ)依賴(よりたの)まん (ただ)われは吾道(わがみち)(かれ)(まへ)(あきら)かにせんとす 16(かれ)また(つひ)(わが)救拯(すくひ)とならん 邪曲(よこしま)なる(もの)(かれ)(まへ)にいたること(あた)はざればなり 17なんぢら(きけ)(わが)(ことば)()()(のぶ)(ところ)をなんぢらの(みみ)(いら)しめよ 18()(われ)すでに(わが)(こと)言竝(いひなら)べたり (かなら)(ただ)しとせられんと(みづか)()19(たれ)(よく)われと辨論(いひあらそ)(もの)あらん (もし)あらば(われ)(くち)(とぢ)(しな)20(ただ)われに(ふたつ)(こと)(なし)たまはざれ (さら)(われ)なんぢの(かほ)をさけて(かく)れじ 21なんぢの()(われ)より(はな)したまへ (なんぢ)威嚴(ゐげん)をもて(われ)(おそ)れしめたまはざれ 22(しか)して(なんぢ)われを(めし)たまへ (われ)こたへん (また)われにも(ものい)はしめて(なんぢ)われに(こた)へたまへ 23(われ)(とが)われの(つみ)いくばくなるや (われ)背反(そむき)(つみ)とを(われ)(しら)しめたまへ 24(なに)とて御顏(みかほ)(かく)(われ)をもて(なんぢ)(てき)となしたまふや 25なんぢは(ふき)(まは)さるる()()(おど)(たて)あがりたる籾殼(もみがら)(おひ)たまふや 26(なんぢ)(われ)につきて(にが)事等(ことども)(かき)しるし (われ)をして()幼稚時(いとけなきとき)(つみ)()(おは)しめ 27わが(あし)足械(あしがせ)にはめ (わが)すべての(みち)(うかが)(わが)(あし)周圍(まはり)限界(かぎり)をつけたまふ 28(われ)(くさ)れたる(もの)のごとくに(くち)ゆき (むし)(くは)るる衣服(ころも)(ひと)

第十四章

1(をんな)()(ひと)はその()(すく)なくして艱難(なやみ)(おほ)2その(きた)ること(はな)のごとくにして()(その)(はす)ること(かげ)のごとくにして(とど)まらず 3なんぢ(かく)のごとき(もの)(なんぢ)()(ひら)きたまふや (なんぢ)われを(なんぢ)(まへ)にひきて審判(さばき)したまふや 4(たれ)(きよ)(もの)(けが)れたる(もの)(うち)より(いだ)()(もの)あらん 一人(ひとり)()5その()(すで)(さだ)まり その(つき)(かず)なんぢに()(なんぢ)これが區域(さかひ)(たて)(こえ)ざらしめたまふなれば 6(これ)()(はな)して安息(やすみ)()させ (これ)をして傭人(やとひびと)のその()(たの)しむがごとくならしめたまへ 7それ()には(のぞみ)あり 假令(たとひ)(きら)るるとも(また)()(いだ)してその(えだ)(たえ)8たとひ(その)()()(なか)()(みき)(つち)(かる)るとも 9(みづ)潤霑(うるほし)にあへば(すなは)()をふき(えだ)(いだ)して若樹(わかき)(こと)ならず 10(され)(ひと)(しぬ)れば(きえ)うす (ひと)(いき)(たえ)なば(いづく)(あら)んや 11(みづ)(うみ)()(かは)(かれ)てかわく 12(かく)のごとく(ひと)寢臥(いねふし)てまた(おき)(てん)(つく)るまで()(さめ)睡眠(ねむり)(さま)さざるなり 13(ねが)はくは(なんぢ)われを陰府(よみ)(かく)(なんぢ)震怒(いかり)()むまで(われ)(おほ)(わが)ために(とき)(さだ)(しか)して(われ)(おも)ひたまへ 14(ひと)もし(しな)ばまた(いき)んや (われ)はわが征戰(いくさ)(しよ)(にち)(あひだ)(のぞ)みをりて()變更(かはり)(きた)るを(また)15なんぢ(われ)(よび)たまはん (しか)して(われ)こたへん (なんぢ)かならず(なんぢ)()(わざ)(かへり)みたまはん 16(いま)なんぢは(われ)歩履(あゆみ)(かぞ)へたまふ (わが)(つみ)(なんぢ)うかがひたまはざらんや 17わが(とが)(すべ)(ふくろ)(なか)(ふう)じてあり(なんぢ)わが(つみ)(ぬふ)こめたまふ 18それ(やま)(たふ)れて(つひ)(くづ)巖石(いはほ)(うつ)りてその(ところ)(はな)19(みづ)(いし)(うが)(なみ)()(ちり)(おし)(なが)(なんぢ)(ひと)(のぞみ)(たち)たまふ 20なんぢは(かれ)(なが)(せめ)なやまして(さり)ゆかしめ (かれ)面容(かほかたち)(かは)らせて(おひ)やりたまふ 21その()尊貴(たふとく)なるも(かれ)(これ)(しら)卑賤(いやしく)なるもまた(これ)(さと)らざるなり 22(ただ)(おのれ)みづからその(にく)痛苦(いたみ)(おぼ)(おのれ)みづからその(こころ)(なげ)而已(のみ)

第十五章

1テマン(びと)エリパズ(こた)へて(いは)2智者(ちしや)あに(むな)しき知識(ちしき)をもて(こた)へんや(あに)東風(ひがしかぜ)をその(はら)(みた)さんや 3あに(たすけ)なき(はなし)(えき)なき(ことば)をもて辨論(あげつら)はんや 4まことに(なんぢ)(かみ)(おそ)るる(こと)()て その(まへ)(いの)ることを(とど)5なんぢの(つみ)なんぢの(くち)(をし)(なんぢ)はみづから(えら)びて狡猾人(さかしらびと)(した)(もち)6なんぢの(くち)みづから(なんぢ)(つみ)(さだ)(われ)には(あら)(なんぢ)(くちびる)なんぢの(あし)きを(あかし)7(なんぢ)あに最初(いやさき)()(うま)れたる(ひと)ならんや (やま)よりも(さき)出來(いでき)しならんや 8(かみ)御謀議(みはかり)(きき)しならんや 智慧(ちゑ)(ひとり)にて(をさ)めをらんや 9なんぢが()(ところ)(われ)らも(しら)ざらんや (なんぢ)(さと)るところは(われ)らの(こころ)にも(あら)ざらんや 10(われ)らの(なか)には白髮(しらが)(ひと)および(おい)たる(ひと)ありて(なんぢ)(ちち)よりも(とし)(たか)11(かみ)慰藉(なぐさめ)および()(やはら)かき言詞(ことば)(なんぢ)(ちひさ)しとするや 12なんぢ(なん)ぞかく(こころ)(くる)ふや (なん)ぞかく()をしばたたくや 13なんぢ(かく)のごとく(かみ)(むか)ひて()をいらだて (かか)言詞(ことば)をなんぢの(くち)よりいだすは如何(いかに)ぞや 14(ひと)如何(いか)なる(もの)如何(いかに)してか(きよ)からん (をんな)(うみ)(もの)如何(いか)なる(もの)如何(いかに)してか(ただし)からん 15それ(かみ)はその聖者(きよきもの)にすら(しん)(おき)たまはず (もろもろ)(てん)もその()(まへ)には(きよ)からざるなり 16(いは)んや(つみ)()ること(みづ)(のむ)がごとくする(にく)むべき(けが)れたる(ひと)をや 17(われ)なんぢに(かた)(ところ)あらん (きけ)(われ)()たる(ところ)(のべ)18(これ)すなはち智者(ちしや)(たち)父祖(ふそ)より(うけ)(かく)すところ()(つた)()(もの)なり 19(かれ)らに而已(のみ)この()(さづ)けられて外國人(とつくにびと)彼等(かれら)(うち)往來(ゆきき)せしこと(なか)りき 20(あし)(ひと)はその(いけ)()(あひだ)つねに(もだ)(くる)しむ 強暴人(あらきひと)(とし)(かぞ)へて(さだ)めおかる 21その(みみ)には(つね)懼怖(おそろ)しき(おと)きこえ平安(へいあん)(とき)にも(ほろ)ぼす(もの)これに(のぞ)22(かれ)幽暗(くらやみ)(いで)()るとは(しん)ぜず ()ざされて(つるぎ)(わた)さる 23(かれ)食物(くひもの)何處(いづく)にありやと(いひ)つつ(たづ)ねありき 黑暗日(くらきひ)(そな)へられて(おのれ)(わき)にあるを()24患難(なやみ)苦痛(くるしみ)とはかれを(おそ)れしめ 戰鬪(たたかひ)準備(そなへ)をなせる(わう)のごとくして(かれ)(うち)(かち)25(かれ)()(のべ)(かみ)(てき)(たかぶ)りて全能者(ぜんのうしや)(もと)26(うなじ)(こは)くし (あつ)(たて)(おもて)(むけ)(これ)(はせ)かかり 27(かほ)(にく)滿(みた)(こし)(あぶら)(こら)28(あら)されたる邑々(まちまち)住居(すまひ)(まう)けて(ひと)(すむ)べからざる(いへ) 石堆(いしづか)となるべき(ところ)()29是故(このゆえ)(かれ)(とま)ず その貨物(たから)(なが)(たも)たず その所有物(もちもの)()蔓延(ひろがら)30また自己(おのれ)黑暗(くらやみ)()づるに(いた)らず 火燄(ほのほ)その(えだ)()(から)さん (しか)してその()(かみ)(くち)氣吹(いぶき)によりて(うせ)ゆかん 31(かれ)虚妄(むなしきこと)(たの)みて(みづか)(あざむ)くべからず (その)(むくい)虚妄(むなしきこと)なるべければなり 32(かれ)()(きた)らざる(さき)(その)(こと)(なる)べし (かれ)(えだ)(みどり)ならじ 33(かれ)葡萄(ぶだう)()のその(じゆく)せざる()(ふり)(おと)すがごとく 橄欖(かんらん)()のその(はな)(おと)すがごとくなるべし 34邪曲(よこしま)なる(もの)宗族(やから)零落(おちぶ)賄賂(まひなひ)(いへ)()(やけ)35彼等(かれら)惡念(あしきおもひ)(はら)虚妄(むなしきこと)()み その(はら)にて詭計(いつはり)調(ととの)

第十六章

1ヨブ(こた)へて(いは)2(かか)(こと)(われ)おほく(きけ)(なんぢ)らはみな(ひと)(なぐさ)めんとして(かへ)つて(ひと)(わづら)はす(もの)なり 3(むな)しき言語(ことば)あに終極(はてし)あらんや (なんぢ)なにに(はげま)されて應答(こたへ)をなすや 4(われ)もまた(なんぢ)らの(ごと)くに(いふ)ことを() もし(なんぢ)らの()わが()(ところ)(かへ)なば(われ)言語(ことば)(ねり)(なんぢ)らを()(なんぢ)らにむかひて(かしら)(ふる)ことを() 5また(くち)をもて(なんぢ)らを(つよ)くし (くちびる)慰藉(なぐさめ)をもて(なんぢ)らの憂愁(うれへ)(とく)ことを()るなり 6たとひ(われ)(ことば)(いだ)すとも(わが)憂愁(うれへ)(とけ)(もく)するとても(なん)(わが)()(やす)くなること(あら)んや 7(かれ)いま(すで)(われ)(つか)らしむ (なんぢ)わが宗族(やから)をことごとく(あら)せり 8なんぢ(われ)をして(しわよ)らしめたり (これ)われに(むか)ひて見證(あかし)をなすなり (また)わが(やせ)おとろへたる状貌(すがた)わが(かほ)(まへ)(あら)はれ(たち)(われ)()9かれ(いかり)てわれを撕裂(かきさ)きかつ(くる)しめ (われ)にむかひて()噛鳴(かみなら)(わが)(てき)となり()(とく)して(われ)()10(かれ)(われ)にむかひて(くち)()(われ)(いや)しめてわが(ほほ)()(あひ)(あつ)まりて(われ)()11(かみ)われを邪曲(よこしま)なる(もの)(わた)(あし)(もの)()(なげう)ちたまへり 12(われ)安穩(やすらか)なる()なりしに(かれ)いたく(われ)打惱(うちなやま)まし (くび)(とら)へて(われ)をうちくだき(つひ)(われ)(たて)(まと)となしたまひ 13その射手(いて)われを(めぐ)(かこ)めり やがて(なさけ)もなく(わが)(こし)()(とほ)し わが(きも)()(なが)(いだ)しめたまふ 14(かれ)はわれを打敗(うちやぶ)りて破壞(やぶれ)破壞(やぶれ)(くは)勇士(ますらを)のごとく(われ)(はせ)かかりたまふ 15われ麻布(あさぬの)をわが(はだ)(ぬひ)つけ(わが)(つの)(ちり)にて(けが)せり 16(わが)(かほ)(なき)(あか)くなり (わが)目縁(まぶち)には()(かげ)あり 17(しか)れども(わが)()には不義(ふぎ)あること()く わが祈祷(いのり)(きよ)18()(わが)()(おほ)ふなかれ (わが)號呼(さけび)(やす)(ところ)()ざれ 19()(いま)にても(わが)(あかし)となる(もの)(てん)にあり わが眞實(まこと)表明(あらは)(もの)(たか)(ところ)にあり 20わが朋友(とも)(われ)(あざ)けれども(わが)()(かみ)にむかひて(なみだ)(そそ)21(ねがは)くは(かれ)(ひと)のために(かみ)論辨(ろんべん)(ひと)()のためにこれが朋友(とも)論辨(ろんべん)せんことを 22數年(すねん)すぎさらば(われ)(かへ)らぬ(たび)()(ゆく)べし

第十七章

1わが氣息(いき)(すで)にくさり (わが)()すでに(つき)なんとし墳墓(はか)われを()2まことに嘲弄者(あざけるもの)(ども)わが(かたはら)()(わが)()(かれ)らの辨爭(いひあらそ)ふを(つね)()ざるを()3(ねがは)くは(ものしろ)(たま)ふて(なんぢ)みづから(われ)保證(うけあひ)となりたまへ (たれ)(ほか)にわが()をうつ(もの)あらんや 4(なんぢ)(かれ)らの(こころ)(とぢ)(さと)るところ(なか)らしめたまへり (かなら)(かれ)らをして(まさ)らしめたまはじ 5朋友(とも)交付(わた)して掠奪(かすめ)(あは)しむる(もの)(その)子等(こども)()(つぶ)るべし 6(かれ)われを()(たみ)笑柄(わらひぐさ)とならしめたまふ (われ)(かほ)(つばき)せらるべき(もの)となれり 7かつまた(わが)()憂愁(うれへ)によりて(くら)肢體(からだ)(すべ)(かげ)のごとし 8(ただ)しき(もの)(これ)(おどろ)無辜者(つみなきもの)邪曲(よこしま)なる(もの)()(いきど)ほる 9(さり)ながら(ただ)しき(もの)はその(みち)(かた)(たも)()潔淨(いさぎよ)(もの)はますます(ちから)()るなり 10()(なんぢ)(みな)ふたたび(きた)(われ)(なんぢ)らの(うち)一人(ひとり)(かしこ)(もの)あるを()ざるなり 11わが()(すで)()ぎ わが(はか)(ところ)わが(こころ)(こひねが)(ところ)(すで)(やぶ)れたり 12(かれ)(よる)(ひる)()黑暗(くらやみ)(まへ)光明(ひかり)ちかづく 13(われ)もし()つところ(あら)(これ)わが(いへ)たるべき陰府(よみ)なるのみ (われ)黑暗(くらやみ)にわが(とこ)()14われ朽腐(くさり)(むか)ひては(なんぢ)はわが(ちち)なりと()(うじ)(むか)ひては(なんぢ)(わが)(はは)わが姉妹(しまい)なりと()15(され)ばわが(のぞみ)はいづくにかある (わが)(のぞみ)(たれ)かこれを()(もの)あらん 16(これ)(くだ)りて陰府(よみ)(くわん)(いた)らん (これ)(ひと)しく(わが)()(ちり)(なか)臥靜(ふししづ)まるべし

第十八章

1シユヒ(びと)ビルダデこたへて(いは)2汝等(なんぢら)いつまで言語(ことば)獵求(かりもと)むることをするや (なんぢ)(まづ)(さと)るべし (しか)(のち)われら辨論(あげつら)はん 3われら(なん)獸畜(けもの)とおもはるべけんや (なん)(なんぢ)らの()汚穢(けがれ)たる(もの)()らるべけんや 4なんぢ(いか)りて()()(もの)(なんぢ)のためとて()あに(すて)られんや (いは)あに其處(そのところ)より(うつ)されんや 5(あし)(もの)光明(ひかり)()され (その)()(ほのほ)(てら)6その(てん)(まく)(うち)なる光明(ひかり)(くら)くなり()(うへ)燈火(ともしび)()さるべし 7またその(つよ)歩履(あゆみ)(せば)まり (その)(はか)るところは自分(みづから)(おとし)いる 8すなはち(その)(あし)(おは)れて(あみ)(いた)り また陷阱(おとしあな)(うへ)(あゆ)むに 9(なは)はその(くびす)(まつは)(わな)これを(とら)10(なは)かれを(とら)ふるために()(かく)しあり (わな)かれを(おと)しいるるために(みち)(まう)けあり 11(おそ)ろしき(こと)四方(よも)において(かれ)(おそ)れしめ (その)(あし)にしたがひて(かれ)をおふ 12その(ちから)()(その)(かたはら)には災禍(わざはひ)そなはり 13その(はだへ)(えだ)蝕壞(くひやぶ)らる (すなは)()初子(うひご)これが(えだ)蝕壞(くひやぶ)るなり 14やがて(かれ)はその(たの)める(てん)(まく)より(ひき)(はな)されて懼怖(おそれ)(わう)(もと)(おひ)やられん 15(かれ)(ぞく)せざる(もの)かれの(てん)(まく)()硫礦(いわう)かれの(いへ)(うへ)(ふら)16(しも)にてはその()()(かみ)にてはその(えだ)(きら)17(かれ)(あと)()()(かれ)()街衢(ちまた)(つた)はらじ 18(かれ)光明(ひかり)(うち)より黑暗(くらやみ)(おひ)やられ ()(うち)より(おひ)(いだ)されん 19(かれ)はその(たみ)(なか)()()(まご)(あら)じ また(かれ)住所(すみか)には一人(ひとり)(のこ)(もの)なからん 20(これ)()()るにおいて(のち)(きた)(もの)(おど)ろき (さき)(いで)(もの)(おぢ)おそれん 21かならず(あし)(ひと)住所(すみか)(かく)のごとく (かみ)(しら)ざる(もの)(ところ)(かく)のごとくなるべし

第十九章

1ヨブこたへて(いは)2(なんぢ)(わが)(こころ)をなやまし 言語(ことば)をもて(われ)(うち)くだくこと何時(いつ)までぞや 3なんぢら(すで)十次(とたび)(われ)(はづか)しめ(われ)(あし)(あしら)ひてなほ(はづ)るところ()4假令(たとひ)われ(まこと)(あやま)ちたらんもその(あやまち)(われ)()(とどま)れり 5なんぢら(まこと)(われ)(むか)ひて(ほこ)(わが)()(はづ)べき行爲(わざ)ありと(あかし)するならば 6(かみ)われを(しへた)げその網羅(あみ)をもて(われ)(つつ)みたまへりと()るべし 7(われ)(しへた)げらるると(さけ)べども(こたへ)なく (よば)はり(もと)むれども審理(さばき)なし 8(かれ)わが(みち)周圍(まはり)(かき)(ゆひ)めぐらして(こゆ)(あた)はざらしめ ()()(みち)黑暗(くらやみ)(かうむ)むらしめ 9わが光榮(さかえ)()(わが)冠冕(かんむり)(かうべ)より(うば)10四方(よも)より(われ)(こぼ)ちて(うせ)しめ (わが)(のぞみ)()のごとくに()より()11(われ)にむかひて震怒(いかり)(もや)(われ)(かたき)一人(ひとり)()たまへり 12その軍旅(ぐんりよ)ひとしく(すす)(みち)(たか)くして(われ)攻寄(せめよ)せ わが(てん)(まく)周圍(まはり)(ぢん)(はれ)13(かれ)わが兄弟(きやうだい)(たち)をして(とほ)くわれを(はな)れしめたまへり (われ)()人々(ひとびと)(まつた)(われ)(うと)くなりぬ 14わが親戚(うからやから)往來(ゆきき)()め わが朋友(ともだち)はわれを(わす)15わが(いへ)寄寓(やど)(もの)およびわが(しもめ)()(われ)()外人(あだしびと)のごとくす (われ)かれらの(まへ)にては異國人(ことくにびと)のごとし 16われわが(しもべ)(よべ)どもこたへず (われ)(くち)をもて(かれ)()はざるを()ざるなり 17わが氣息(いき)はわが(つま)(いと)はれ わが臭氣(にほひ)はわが同胎(おなじはら)子等(こども)(きら)はる 18童子(わらべ)()さへも(われ)(あな)どり (われ)(おき)あがれば(すなは)(われ)(あざ)ける 19わが(した)しき(とも)われを(にく)みわが(あい)したる人々(ひとびと)ひるがへりてわが(てき)となれり 20わが(ほね)はわが(かは)(にく)とに(つけ)(われ)(わづか)()(かは)(まつた)うして(のが)れしのみ 21わが(とも)汝等(なんぢら)われを(あは)れめ (われ)(あは)れめ (かみ)()われを(うて)22(なんぢ)らなにとて(かみ)のごとくして(われ)()め わが(にく)(あく)ことなきや 23(のぞ)むらくは(わが)(ことば)(かき)(とめ)られんことを (のぞ)むらくは(わが)(ことば)(ふみ)(しる)されんことを 24(のぞ)むらくは(くろがね)(ふで)(なまり)とをもて(これ)(なが)磐石(いは)(えり)つけおかんことを 25われ()(われ)(あがな)(もの)()(のち)()(かれ)かならず()(うへ)(たた)26わがこの(かは)この()(くち)はてん(のち) われ(にく)(はな)れて(かみ)()27(われ)みづから(かれ)()たてまつらん (わが)()かれを()んに()らぬ(もの)のごとくならじ ()(こころ)これを(のぞ)みて(こが)28なんぢら(もし)われら如何(いか)(かれ)(せめ)んかと()ひ また(こと)()われに()りと(いは)29(つるぎ)(おそ)れよ 忿怒(いかり)(つるぎ)(ばつ)をきたらす (かく)なんぢら(つひ)審判(さばき)のあるを(しら)

第二十章

1ナアマ(びと)ゾパルこたへて(いは)2これに(より)てわれ(こたへ)をなすの思念(おもひ)(おこ)(こころ)しきりに(これ)がために(せか)3(われ)(はづか)しむる警語(いましめ)(われ)(きか)ざるを()(しか)しながらわが了知(さとり)(せい)われをして(こた)ふることを()せしむ 4なんぢ(しら)ずや古昔(いにしへ)より()(ひと)(おか)れしより以來(このかた) 5(あし)(ひと)勝誇(かちほこり)暫時(しばらく)にして邪曲(よこしま)なる(もの)歡樂(たのしみ)(とき)()のみ 6その(たかさ)(てん)(たつ)しその(かしら)(くも)(およ)ぶとも 7(つひ)には(おのれ)(ふん)のごとくに(なが)亡絶(うせたゆ)べし (かれ)見識(みしれ)(もの)(いは)(かれ)何處(いづく)にありやと 8(かれ)(ゆめ)(ごと)(すぎ)さりて(また)()るべからず (よる)(まぼろし)のごとく(おひ)はらはれん 9(かれ)()たる()かさねてかれを()ることあらず (かれ)(すみ)たる(ところ)(ふたた)びかれを()ること(なか)らん 10その子等(こども)(まづ)しき(もの)寛待(なさけ)(もと)めん (かれ)もまたその(とり)貨財(たから)()づから(かへ)さん 11その(ほね)少壯氣勢(わかきいきほひ)(みて)(しか)れどもその氣勢(いきほひ)もまた(ちり)(なか)(かれ)とおなじく(ふさ)12かれ(あく)(くち)(あま)しとして(した)(そこ)(をさ)13(をし)みて(すて)(これ)(くち)(なか)(ふく)みをる 14(され)どその食物(くひもの)(はらわた)(なか)にて(かは)(はら)(うち)にて(まむし)(どく)とならん 15かれ貨財(たから)(のみ)たれども(また)(これ)(はき)いださん (かみ)これを(かれ)(はら)より(おし)いだしたまふべし 16かれは(まむし)(どく)()(くちばみ)(した)(ころ)されん 17かれは(はち)(みつ)牛酪(ぎうらく)(わき)(なが)るる河川(かはがは)()ざらん 18その勞苦(ほねおり)()たる(もの)(これ)(かへ)して(みづか)(くら)はず (また)それを(もと)めたる所有(もちもの)よりは快樂(たのしみ)()19()(かれ)(まづ)しき(もの)虐遇(しへた)げて(これ)(すて)たればなり 假令(たとひ)(いへ)(うば)ひとるとも(これ)(あらた)(つく)ることを()ざらん 20かれはその(はら)(あく)ことを(しら)ざるが(ゆゑ)自己(おのれ)(ふか)(よろこ)(もの)をも(たも)つこと(あた)はじ 21かれが(のこ)して(くら)はざる(もの)とては(ひとつ)()(これ)によりてその福祉(さいはひ)(なが)(たも)たじ 22その繁榮(さかえ)眞盛(まさかり)において(かれ)艱難(なやみ)(せま)られ (とぼ)しき(もの)すべて()をこれが(うへ)(おか)23かれ(はら)(みた)さんとすれば(かみ)(はげ)しき震怒(いかり)をその(うへ)(くだ)し その(しよく)する(とき)にこれをその(うへ)(ふら)したまふ 24かれ(くろがね)(うつは)(さく)れば(あかがね)(ゆみ)これを()(とほ)25(ここ)(おい)(これ)をその()より(ぬけ)(きらめ)(やじり)その(きも)より(いで)きたりて畏懼(おそれ)これに(のぞ)26各種(もろもろ)黑暗(くらやみ)これが寳物(たからもの)ををほろぼすために(たくは)へらる (また)(ひと)(ふき)おこせしに(あらざ)()かれを()き その(てん)(まく)(のこ)りをる(もの)をも(やか)27(てん)かれの(つみ)(あら)はし ()()りて(かれ)(せめ)28その(いへ)儲蓄(たくはへ)(うせ)(かみ)震怒(いかり)()(なが)(さら)29(これ)すなはち(あし)(ひと)(かみ)より(うく)(ぶん) (かみ)のこれに(さだ)めたまへる(すう)なり

第二十一章

1ヨブこたへて(いは)2()汝等(なんぢら)わが(ことば)(つつし)んで()(これ)をもて(なんぢ)らの慰藉(なぐさめ)(かへ)3(まづ)われに(ゆる)して(いは)しめよ ()(いへ)(のち)なんぢ(あざけ)るも()4わが怨言(つぶやき)()(ひと)(うへ)につきて(おこ)れる(もの)ならんや (われ)なんぞ()をいらだつ(べか)らざらんや 5なんぢら(われ)()(おどろ)()(くち)にあてよ 6われ(おも)ひまはせば(おそろ)しくなりて身體(からだ)しきりに戰慄(わなな)7(あし)(ひと)(なに)とて(いき)ながらへ (おい)かつ勢力(ちから)(つよ)くなるや 8その子等(こども)はその周圍(まはり)にありてその(まへ)(かた)()ち その子孫(まごこ)もその()(まへ)(かた)(たつ)べし 9またその(いへ)平安(やすらか)にして畏懼(おそれ)なく (かみ)(つゑ)その(うへ)(のぞ)まじ 10その牡牛(をうし)(たね)(あた)へて(あやま)らず その()(うし)()(うみ)てそこなふ(こと)なし 11彼等(かれら)はその(ちひさ)者等(ものども)(そと)(いだ)すこと(むれ)のごとし その子等(こども)(まひ)をどる 12彼等(かれら)(つづみ)(こと)とをもて(うた)(ふえ)()(より)(たのし)13その()幸福(さいはひ)(くら)し まばたくまに陰府(よみ)にくだる 14(しか)はあれども彼等(かれら)(かみ)(いへ)らく(われ)らを(はな)(たま)(われ)らは(なんぢ)(みち)をしることを(この)まず 15全能者(ぜんのうしや)(なに)(もの)なれば(われ)らこれに(つか)ふべき 我儕(われら)これに(いの)るとも(なに)(えき)()んやと 16()(かれ)らの福祿(さいはひ)(かれ)らの(ちから)(よる)にあらざるなり (あく)(にん)希圖(はかりごと)(われ)(くみ)する(ところ)にあらず 17(あく)(にん)のその燈火(ともしび)(けさ)るる(こと)幾度(いくたび)ありしか その滅亡(ほろび)のこれに(のぞ)(こと) (かみ)(いか)りて(これ)艱苦(くるしみ)(かうむ)らせたまふ(こと)幾度(いくたび)(あり)しか 18かれら(かぜ)(まへ)(わら)(ごと)暴風(あらし)(ふき)さらるる籾殼(もみがら)(ごと)くなること幾度(いくたび)(あり)しか 19(かみ)かれの(とが)(つみ)たくはへてその子孫(しそん)(むく)いたまふか (これ)(かれ)自己(みづから)()(むく)(しら)しむるに(しか)20かれをして(みづか)らその滅亡(ほろび)()()させ かつ全能者(ぜんのうしや)震怒(いかり)(のま)しめよ 21その(つき)(かず)すでに(つく)るに(おい)ては(なん)ぞその(のち)(いへ)(かか)はる(ところ)あらん 22(かみ)(てん)にある者等(ものども)をさへ審判(さばき)たまふなれば(たれ)(よく)これに知識(ちしき)(をし)へんや 23(ある)(ひと)繁榮(さかえ)(きは)(まつた)平穩(おだやか)にかつ安康(やすらか)にして()24その(うつは)(ちち)()ち その(ほね)(ずゐ)(うる)ほへり 25また(ある)(ひと)(こころ)(くる)しめて()(つひ)福祉(さいはひ)をあぢはふる(こと)なし 26是等(これら)(とも)(ひと)しく(ちり)()して(うじ)におほはる 27(われ)まことに(なんぢ)らの思念(おもひ)()(なんぢ)らが(われ)攻撃(せめうた)んとするの計略(たくみ)()28なんぢらは()(わう)(こう)(いへ)(いづく)()(あく)(にん)住所(すみか)(いづく)にあると 29(なんぢ)らは(みち)()人々(ひとびと)(とは)ざりしや 彼等(かれら)證據(あかし)(さと)らざるや 30すなはち滅亡(ほろび)()(あく)(にん)(のこ)され (はげ)しき(いかり)()(あく)(にん)たづさへ(いだ)さる 31(たれ)(よく)かれに(うち)(むか)ひて(かれ)行爲(おこなひ)(さし)(しめ)さんや (たれ)(よく)(かれ)(なし)たる(ところ)(かれ)(むく)ゆることを()32(かれ)(かか)れて(はか)(いた)(つか)(うへ)にて守護(まも)ることを()33(たに)土塊(つちくれ)(かれ)には(こころよ)一切(すべて)(ひと)その(あと)(したが)(その)(まへ)(ゆけ)(もの)(かぞ)へがたし 34(すで)(かく)(ごと)くなるに汝等(なんぢら)なんぞ(いたづら)(われ)(なぐ)さめんとするや (なんぢ)らの(こた)ふる(ところ)はただ虚僞(いつはり)のみ

第二十二章

1(ここ)においてテマン(びと)エリパズこたへて(いは)2(ひと)(かみ)(えき)する(こと)をえんや 智人(かしこきひと)(ただ)みづから(えき)する而已(のみ)なるぞかし 3なんぢ(ただし)かるとも全能者(ぜんのうしや)(なに)歡喜(よろこび)かあらん なんぢ行爲(おこなひ)(まつ)たふするとも(かれ)(なに)利益(りえき)かあらん 4(かれ)(なんぢ)畏懼(おそれ)(ゆゑ)によりて(なんぢ)()(なんぢ)(さば)きたまはんや 5なんぢの(あく)(おほい)なるにあらずや (なんぢ)(つみ)はきはまり()6(すな)はち(なんぢ)(ゆゑ)なくその兄弟(きやうだい)(もの)(おさ)へて(しち)となし (はだか)なる(もの)衣服(きもの)(はぎ)()7(かわ)(もの)(みづ)(あた)へて(のま)しめず (うゆ)(もの)食物(くひもの)(ほど)こさず 8(ちから)ある(もの)土地(くに)() (たふと)(もの)その(うち)()9なんぢは寡婦(やもめ)()(むな)しうして(さら)しむ 孤子(みなしご)(うで)(をら)10(ここ)をもて網羅(あみ)なんぢを(めぐ)畏懼(おそれ)にはかに(なんぢ)(みだ)11なんぢ黑暗(くらやみ)()ずや 洪水(おほみづ)のなんぢを(おほ)ふを()ずや 12(かみ)(てん)(たかき)(いま)すならずや 星辰(ほし)(いただき)ああ如何(いか)(たか)きぞや 13(これ)によりて(なんぢ)()(かみ)なにをか(しろ)しめさん (あに)よく黑雲(くろくも)(うち)より審判(さばき)するを()たまはんや 14濃雲(こきくも)かれを(おほ)へば(かれ)()たまふ(ところ)なし (ただ)(あめ)蒼穹(おほぞら)(あゆ)みたまふ 15なんぢ古昔(いにしへ)()(みち)(おこ)なはんとするや (これ)あしき(ひと)(ふみ)たりし(もの)ならずや 16彼等(かれら)(とき)いまだ(いた)らざるに打絶(うちたた)れ その根基(もとゐ)大水(おほみづ)(おし)(なが)されたり 17(かれ)(かみ)(いひ)けらく我儕(われら)(はな)れたまへ 全能者(ぜんのうしや)われらのために(なに)(なす)ことを()んと 18しかるに(かれ)(かへ)つて佳物(よきもの)(かれ)らの(いへ)(みた)したまへり (ただ)惡人(あくにん)計畫(はかりごと)(われ)(くみ)する(ところ)にあらず 19(ただ)しき(もの)(これ)()(よろこ)無辜者(つみなきもの)(かれ)らを(わら)20(いは)(われ)らの(あだ)(まこと)(ほろ)ぼされ (その)盈餘(みちあま)れる(もの)()にて(やき)つくさる 21()(なんぢ)(かみ)(やは)らぎて平安(やすき)()(しか)らば福祿(さいはひ)なんぢに(きた)らん 22()ふかれの(くち)より敎晦(をしへ)()け その言語(ことば)をなんぢの(こころ)(をさ)めよ 23なんぢもし全能者(ぜんのうしや)歸向(たちかへ)(かつ)なんぢの(いへ)より(あく)(のぞ)(さら)(なんぢ)()(ふたた)(おこ)されん 24なんぢの(たから)(つち)(うへ)()き オフルの黄金(こがね)谿河(たにがは)(いし)(なか)()25(さす)れば全能者(ぜんのうしや)なんぢの(たから)となり(なんぢ)のために白銀(しろがね)となりたまふべし 26(しか)してなんぢは(また)全能者(ぜんのうしや)(よろこ)(かつ)(かみ)にむかひて(かほ)をあげん 27なんぢ(かれ)(いの)らば(かれ)なんぢに(きき)たまはん (しか)して(なんぢ)その誓願(ちかひ)をつくのひ(はた)さん 28なんぢ(こと)(なさ)んと(さだ)めなばその(こと)なんぢに(なら)(なんぢ)(みち)には(ひかり)(てら)29(その)(ひく)(くだ)(とき)(なんぢ)いふ(のぼ)(かな)(かれ)謙遜者(へりくだるもの)(すく)ひたまふべし 30かれは(つみ)なきに(あら)ざる(もの)をも(すく)ひたまはん (なんぢ)()潔淨(いさぎよき)によりて(かか)(もの)(すく)はるべし

第二十三章

1ヨブこたへて(いは)2(われ)今日(こんにち)にても(なほ)つぶやきて(ふく)せず わが禍災(わざはひ)はわが嘆息(なげき)よりも(おも)3ねがはくは(かみ)をたづねて何處(いづく)にか(あひ)まつるを()(その)御座(みくら)(まゐり)いたらんことを 4(われ)この愁訴(うつたへ)をその御前(みまへ)(なら)(くち)(きは)めて辨論(あげつら)はん 5(われ)その(われ)(こた)へたまふ(ことば)()り また(その)われに(いひ)たまふ(ところ)(さと)らん 6かれ(おほい)なる(ちから)をもて(われ)(あらそ)ひたまはんや (しか)らじ(かへ)つて(われ)(かへり)みたまふべし 7彼處(かしこ)にては正義人(ただしきひと)かれと辨爭(いひあらそ)ふことを() (かく)せば(われ)(さば)(もの)()(なが)(まぬ)かるべし 8しかるに(われ)(ひがし)()くも(かれ)いまさず 西(にし)()くも(また)()たてまつらず 9(きた)工作(はたら)きたまへども(あひ)まつらず (みなみ)(かく)()たまへば(のぞ)むべからず 10わが平生(つね)(みち)(かれ)(しり)たまふ (かれ)われを(こころ)みたまはば(われ)(きん)のごとくして(いで)きたらん 11わが(あし)(かれ)歩履(あゆみ)(かた)(した)がへり (われ)はかれの(みち)(まも)りて(はな)れざりき 12(われ)はかれの(くちびる)命令(おふせ)(たが)はず ()(おきて)よりも(かれ)(くち)言語(ことば)(おもん)ぜり 13かれは(いつ)()(もの)にまします (たれ)(よく)かれをして(おもひ)(かへ)しめん (かれ)はその(こころ)(ほつ)する(ところ)をかならず(なし)たまふ 14(され)(われ)(むか)ひて(さだ)めし(こと)(かな)らず成就(なしとげ)たまはん (かく)のごとき(こと)(おほ)(かれ)(なし)たまふなり 15是故(このゆえ)(われ)かれの(まへ)(ふる)(われ)(かんが)ふれば(かれ)(おそ)16(かみ)わが(こころ)(よわ)くならしめ 全能者(ぜんのうしや)われをして(おそ)れしめたまふ 17かく(われ)(やみ)(きた)らぬ(さき)わが(かほ)黑暗(くらやみ)(おほ)(まへ)打絶(うちたた)れざりき

第二十四章

1なにゆゑに全能者(ぜんのうしや)時期(とき)(さだ)めおきたまはざるや 何故(なにゆゑ)(かれ)()(もの)その()()ざるや 2(ひと)ありて地界(ちざかひ)(をか)群畜(むれ)(うば)ひて()3孤子(みなしご)驢馬(ろば)驅去(おひさ)寡婦(やもめ)(うし)(とり)(しち)となし 4(まづ)しき(もの)(みち)より推退(おしの)()受難者(なやめるもの)をして(ことごと)()(かく)さしむ 5()(かれ)らは荒野(あれの)にをる野驢馬(のろば)のごとく(いで)(わざ)(なし)(しよく)(もと)野原(のはら)よりその子等(こども)のために食物(くひもの)() 6(はたけ)にて(あし)(もの)(むぎ)()り またその葡萄(ぶだう)遺餘(のこり)()7かれらは衣服(ころも)なく(はだか)にして()(あか)(おほ)ふて寒氣(さむけ)(ふせ)ぐべき(もの)なし 8(やま)暴風(あらし)()(おほ)はるるところ(なく)して(いは)(いだ)9孤子(みなしご)(はは)(ふところ)より(うば)(もの)あり (まづ)しき(もの)()につける(もの)(とり)(しち)となす(もの)あり 10(まづし)(もの)衣服(ころも)なく(はだか)にて(ある)(うゑ)つつ麥束(むぎたば)(にな)11(ひと)(かき)(うち)にて(あぶら)()め また(かわ)きつつ酒醡(さかぶね)()12(まち)(なか)より人々(ひとびと)呻吟(うめき)たちのぼり (きずつ)けられたる(もの)叫喚(さけび)おこる (しか)れども(かみ)はその怪事(くわいじ)(かへり)みたまはず 13また光明(ひかり)(そむ)(もの)あり (ひかり)(みち)(しら)(ひかり)(みち)(とどま)らず 14(ひと)(ころ)(もの)昧爽(よあけ)(おき)いで 受難者(なやめるもの)(まづ)しき(もの)(ころ)(よる)盜賊(ぬすびと)のごとくす 15姦淫(かんいん)する(もの)(われ)()()はなからんと(いひ)てその()昏暮(ほのぐれ)をうかがひ()(しか)してその(かほ)(おほ)(もの)()16また夜分(よる)(いへ)穿(うが)(もの)あり 彼等(かれら)(ひる)(とぢ)こもり()光明(ひかり)()らず 17(かれ)らには(あした)()(かげ)のごとし (これ)()(かげ)(おそ)ろしきを(しれ)ばなり 18(かれ)(みづ)(おもて)(とく)ながるる(もの)(ごと)し その產業(さんげふ)()(なか)(のろ)はる その()(かさ)ねて葡萄圃(ぶだうばたけ)(みち)(むか)はず 19亢旱(ひでり)および炎熱(あつさ)(ゆき)(みづ)(ただち)乾涸(ほしから)陰府(よみ)(つみ)(をか)せし(もの)におけるも(また)かくのごとし 20これを宿(やど)せし(はら)これを(わす)(うじ)これを(この)みて(くら)(かれ)最早(もはや)()におぼえらるること()く その(あく)()(をる)るが(ごと)くに()21(これ)すなはち(はら)まず(うま)ざりし婦人(をんな)をなやまし 寡婦(やもめ)(あは)れまざる(もの)なり 22(かみ)はその權能(ちから)をもて(つよ)人々(ひとびと)保存(ながら)へさせたまふ (かれ)らは生命(いのち)あらじと(おも)(とき)にも(また)(おこ)23(かみ)かれらに安泰(あんたい)(たま)へば(かれ)らは(やす)らかなり (しか)してその()をもて(かれ)らの(みち)()そなはしたまふ 24かれらは旺盛(さかん)になり暫時(しばし)(あひだ)(なく)なり(ひく)くなりて一切(すべて)(ひと)のごとくに(ぼつ)(むぎ)()のごとくに(きら)25すでに(かく)のごとくなれば(たれ)(われ)(あや)まれるを(しめ)してわが言語(ことば)(むな)しくすることを()

第二十五章

1(とき)にシユヒ(びと)ビルダデこたへて(いは)2(かみ)大權(たいけん)(にぎ)りたまふ(もの) (おそ)るべき(もの)にましまし (たか)(ところ)平和(へいわ)(ほどこ)したまふ 3その軍旅(ぐんりよ)(かぞ)ふることを()んや (その)光明(ひかり)なに(もの)をか(てら)さざらん 4(され)(たれ)(かみ)(まへ)正義(ただし)かるべき 婦人(をんな)(うみ)(もの)いかでか(きよ)かるべき 5()(つき)(かがや)かず (ほし)(その)()には清明(きよらか)ならず 6いはんや(うじ)のごとき(ひと) (むし)のごとき(ひと)()をや

第二十六章

1ヨブこたへて(いは)2なんぢ能力(ちから)なき(もの)如何(いか)(たす)けしや 氣力(きりよく)なきものを如何(いか)(すく)ひしや 3智慧(ちゑ)なき(もの)如何(いか)(をし)へしや 穎悟(さとり)(みち)如何(いか)(おほ)(しめ)ししや 4なんぢ(たれ)にむかひて言語(ことば)(いだ)ししや なんぢより(いで)しは()(れい)なるや 5陰靈(いんれい)(みづ)またその(なか)()(もの)(した)(ふる)6かれの御前(みまへ)には陰府(よみ)顯露(あらは)なり 滅亡(ほろび)(あな)(おほ)(かく)(ところ)なし 7(かれ)(きた)(てん)虚空(おほぞら)()()(もの)なき(ところ)()けたまふ 8(みづ)濃雲(こきくも)(なか)(つつ)みたまふてその(した)(くも)(さけ)9御寳座(みくらゐ)(おもて)(かく)して(くも)をその(うへ)()10(みづ)(おもて)(さかひ)(まう)けて(ひかり)(くらき)とに(かぎり)(たて)たまふ 11かれ叱咤(いましめ)たまへば(てん)(はしら)(ふる)ひかつ(おそ)12その權能(ちから)をもて(うみ)(しづ)め その智慧(ちゑ)をもてラハブを撃碎(うちくだ)13その氣嘘(いぶき)をもて(てん)(かがや)かせ (その)()をもて(にぐ)(へび)(つき)とほしたまふ 14()是等(これら)はただその御工作(みわざ)(はし)なるのみ (われ)らが(きく)ところの(もの)如何(いか)にも微細(かすか)なる耳語(ささやき)ならずや (され)どその權能(ちから)雷轟(とどろき)(いた)りては(たれ)かこれを(さと)らんや

第二十七章

1ヨブまた(ことば)()ぎていはく 2われに(ただ)しき審判(さばき)(ほどこ)したまはざる(かみ) わが心魂(たましひ)をなやまし(たま)全能者(ぜんのうしや)(これ)(かみ)()3(わが生命(いのち)なほ(まつた)くわれの(うち)にあり (かみ)氣息(いき)なほわが(はな)にあり) 4わが(くち)(あく)(いは)ず わが(した)謊言(いつはり)(かた)らじ 5(われ)(きは)めて汝等(なんぢら)(よし)とせじ (われ)(しぬ)るまで()(つみ)なきを(いふ)ことを(やめ)6われ(かた)くわが正義(ただしき)(たも)ちて(これ)(すて)(われ)(いま)まで一(にち)(こころ)(せめ)られし(こと)なし 7(われ)(てき)する(もの)(あし)(もの)()(われ)(せむ)(もの)(ただし)からざる(もの)()るべし 8邪曲(よこしま)なる(もの)もし(かみ)(たた)れその魂神(たましひ)(ぬき)とらるるに(おい)ては(なに)(のぞみ)かあらん 9かれ艱難(なやみ)(かか)(とき)(かみ)その呼號(よばはり)(きき)いれたまはんや 10かれ全能者(ぜんのうしや)(よろ)こばんや (つね)(かみ)(よば)んや 11われ(かみ)御手(みて)汝等(なんぢら)(をし)へん 全能者(ぜんのうしや)(みち)汝等(なんぢら)(かく)さじ 12()汝等(なんぢら)もみな(みづか)らこれを()たり (しか)るに(なん)(かく)愚蒙(おろか)をきはむるや 13(あし)(ひと)(かみ)()(ぶん) 強暴(きやうばう)(ひと)全能者(ぜんのうしや)より(うく)(げふ)(これ)なり 14その子等(こども)(ふゆ)れば(つるぎ)(ころ)さる その子孫(しそん)食物(くひもの)(あか)15その(のこ)れる(もの)疫病(やくびやう)(たふ)れて(うづ)められ その(つま)()哀哭(なげき)をなさず 16かれ(ぎん)(つむ)こと(ちり)のごとく衣服(ころも)(そな)ふること(つち)のごとくなるとも 17その(そな)ふる(もの)(ただし)(ひと)これを()ん またその(ぎん)無辜者(つみなきもの)これを(わか)(とら)18その(たつ)(いへ)(むし)()のごとく また番人(ばんにん)(つく)茅家(こや)のごとし 19(かれ)(とめ)()にて寢臥(いねふ)(かさ)ねて(おく)ること()し また()(ひら)けば(すなは)ちその()きえ()20(おそ)ろしき(こと)大水(おほみづ)のごとく(かれ)追及(おひし)(よる)暴風(あらし)かれを(うば)()21東風(ひがしかぜ)かれを()げて()(かれ)をその(ところ)より(ふか)はらふ 22(かみ)かれを()(あはれ)まず (かれ)その()より(のが)れんともがく 23(ひと)かれに(むか)ひて()(なら)(あざけ)りわらひてその(ところ)をいでゆかしむ

第二十八章

1白銀(しろがね)(ほり)いだす(あな)あり ()るところの黄金(こがね)出處(いづるところ)あり 2(くろがね)(つち)より()(あかがね)(いし)より(とか)して()るなり 3(ひと)すなはち黑暗(くらやみ)(やぶ)(はて)より(はて)まで(たづ)(きは)めて黑暗(くらやみ)および死蔭(しかげ)(いし)(もと)4その(あな)穿(うが)つこと(ふか)くして(うへ)()(ひと)(とほ)(あひ)(はな)れ その(うへ)(あゆ)(もの)まつたく(これ)(おぼ)えず (かく)のごとく()縋下(つりさ)(はるか)(ひと)(へだた)りて(くう)(かか)5()その(うへ)食物(くひもの)(いだ)(その)(した)()(くつが)へさるるがごとく(くつが)へる 6その(いし)(なか)には(みどり)(たま)のある(ところ)あり 黄金(こがね)(すな)またその(うち)にあり 7その(みち)鷙鳥(あらきとり)もこれを(しら)(たか)()もこれを()8(あら)(けもの)(いま)だこれを(ふま)(たけ)獅子(しし)(いま)だこれを(とほ)らず 9(ひと)(かた)(いは)()(くは)へまた(やま)()より(たふ)10(いは)(かは)()各種(もろもろ)(たふと)(もの)()()とめ 11水路(みづみち)(ふさ)ぎて(もら)ざらしめ(かく)れたる寳物(たからもの)光明(あかるみ)(とり)いだすなり 12(さり)ながら智慧(ちゑ)何處(いづこ)よりか(もと)()明哲(さとり)()(ところ)何處(いづこ)ぞや 13(ひと)その(あたひ)(しら)(ひと)のすめる()()べからず 14(ふち)()(われ)(うち)(あら)ずと (うみ)()(われ)(とも)ならずと 15精金(せいきん)(これ)(かふ)るに(たら)(ぎん)(はか)りてその(あたひ)となすを()16オフルの(きん)にてもその(あたひ)(はか)るべからず (たふと)靑玉(あをだま)碧玉(みどりだま)もまた(しか)17黄金(こがね)玻璃(はり)もこれに(なら)(あた)はず 精金(せいきん)器皿(うつはもの)(これ)(かふ)るに(たら)18珊瑚(さんご)水晶(すゐしやう)(いふ)にたらず 智慧(ちゑ)()るは眞珠(しんじゆ)()るに(まさ)19エテオビアより(いづ)黄玉(きのたま)もこれに(なら)ぶあたはず 純金(じゆんきん)をもてするともその(あたひ)(はか)るべからず 20(され)智慧(ちゑ)何處(いづこ)より(きた)るや 明哲(さとり)()(ところ)何處(いづこ)ぞや 21(これ)一切(すべて)生物(いきもの)()(かく)天空(そら)(とり)にも()えず 22滅亡(ほろび)()()我等(われら)はその風聲(うはさ)(みみ)(きき)而已(のみ) 23(かみ)その(みち)(さと)(たま)(かれ)その(ところ)()りたまふ 24そは(かれ)()(はて)までも()そなはし(あま)(した)()きはめたまへばなり 25(かぜ)にその重量(おもさ)(あた)(みづ)(はか)りてその(りやう)(さだ)めたまひし(とき) 26(あめ)のために(のり)()雷霆(いかづち)(ひかり)のために(みち)(まう)けたまひし(とき) 27智慧(ちゑ)()(これ)(あら)はし(これ)()(こころ)みたまへり 28また(ひと)(いひ)たまはく()(しゆ)(おそ)るるは(これ)智慧(ちゑ)なり (あく)(はな)るるは明哲(さとり)なり

第二十九章

1ヨブまた(ことば)をつぎて(いは)2嗚呼(ああ)(すぎ)にし(とし)(つき)のごとくならまほし (かみ)(われ)(まも)りたまへる()のごとくならまほし 3かの(とき)には(かれ)燈火(ともしび)わが(かしら)(うへ)(かが)やき(かれ)光明(ひかり)によりて(われ)黑暗(くらやみ)(あゆ)めり 4わが(さかん)なりし()のごとくならまほし 彼時(かのとき)には(かみ)恩惠(めぐみ)わが幕屋(まくや)(うへ)にありき 5かの(とき)には全能者(ぜんのうしや)なほ(われ)とともに(いま)し わが子女(こども)われの周圍(まはり)にありき 6(ちち)ながれてわが(あし)(あと)(あら)()(かたはら)なる(いは)(あぶら)(そそ)ぎいだせり 7かの(とき)には(われ)いでて(まち)(もん)(のぼ)りゆき わが()街衢(ちまた)(まう)けたり 8(わか)(もの)(われ)()(かく)(おい)たる(もの)(おき)あがりて()9牧伯(つかさ)たる(もの)言談(ものいは)ずしてその(くち)()()10(たふと)(もの)(こゑ)ををさめてその(した)上顎(うはあご)(つけ)たりき 11(わが)(こと)(みみ)(きけ)(もの)(われ)幸福(さいはひ)なりと()(われ)()()たる(もの)はわがために證據(あかし)をなしぬ 12()(われ)助力(たすけ)(もと)むる(まづ)しき(もの)(すく)孤子(みなしご)および(たす)くる(ひと)なき(もの)(すく)ひたればなり 13(ほろ)びんとせし(もの)われを(しゆく)せり (われ)また寡婦(やもめ)(こころ)をして(よろこ)(うた)はしめたり 14われ正義(ただしき)()また正義(ただしき)()(ところ)となれり ()公義(こうぎ)(うはぎ)のごとく冠冕(かんむり)のごとし 15われは盲目(めしひ)()となり跛者(あしなへ)(あし)となり 16(まづし)(もの)(ちち)となり(しら)ざる(もの)訴訟(うつたへ)(よし)(きは)17(あし)(もの)(きば)()り その()(あひだ)より()(もの)(とり)いだせり 18(われ)すなはち(いひ)けらく (われ)はわが()(しな)()()(すな)(ごと)(おほ)からん 19わが()(みづ)(ほとり)(はびこ)(つゆ)わが(えだ)終夜(よもすがら)おかん 20わが榮光(さかえ)はわが()(あらた)なるべくわが(ゆみ)はわが()何時(いつ)(つよ)からんと 21人々(ひとびと)われに()(もく)して()(をしへ)()22わが(いひ)(のち)彼等(かれら)(ことば)(いだ)さず (わが)(とく)ところは彼等(かれら)甘露(つゆ)のごとく 23かれらは(われ)(のぞ)()つこと(あめ)のごとく (くち)(ひら)きて(あふ)ぐこと(はる)(あめ)のごとくなりき 24われ彼等(かれら)にむかひて(わら)ふとも彼等(かれら)(あへ)眞實(まこと)とおもはず(わが)(かほ)(ひかり)彼等(かれら)(のぞ)くことをせざりき 25われは彼等(かれら)のために(みち)(えら)び その(かしら)として()()(ぐん)(ちう)(わう)のごとくして()り また哀哭者(なげくもの)(なぐ)さむる(ひと)のごとくなりき

第三十章

1(しか)るに(いま)(われ)よりも年少(としわか)者等(ものども)われを(わら)彼等(かれら)(ちち)()(いや)しめて(むれ)(いぬ)(なら)()くことをもせざりし(もの)なり 2またかれらの()(ちから)もわれに(なに)(よう)をかなさん (かれ)らは(その)氣力(きりよく)すでに(おとろ)へたる(もの)なり 3かれらは缺乏(とぼしき)(うゑ)とによりて(やせ)おとろへ (あれ)かつ(すた)れたる(くら)()にて(かわ)ける()()4すなはち灌木(しば)(なか)にて(あかざ)()(れだま)()食物(くひもの)となす 5(かれ)らは(ひと)(なか)より(おひ)いださる 盜賊(ぬすびと)()ふがごとくに(ひと)かれらを(おふ)(よば)はる 6彼等(かれら)(おそ)ろしき(たに)()土坑(つちあな)および磐穴(いはあな)()7灌木(しば)(なか)(いな)なき 荊棘(いばら)(した)()8(かれ)らは愚蠢(おろか)なる(もの)() (いやし)むべき(もの)()にして(くに)より(うち)いださる 9しかるに(いま)(われ)かれらの歌謠(うた)()(かれ)らの嘲哢(ひきごと)となれり 10かれら(われ)(いと)ふて(とほ)(われ)(はな)れ またわが(かほ)(つばき)することを(いな)まず 11(かみ)わが(つな)(とき)(われ)をなやましたまへば彼等(かれら)もわが(まへ)にその(たづな)(はな)せり 12この(ともがら)わが(みぎ)(たち)あがり わが(あし)(おし)のけ(われ)にむかひて滅亡(ほろび)(みち)(きづ)13(かれ)らは(みづか)便(たより)なき(もの)なれども(なほ)わが(みち)(こぼ)ち わが滅亡(ほろび)(うなが)14かれらは石垣(いしがき)(おほい)なる崩口(くづれくち)より(いる)がごとくに(すす)(きた)破壞(くづれ)(なか)にてわが(うへ)(のり)かかり 15(おそ)ろしき(こと)わが()(のぞ)(かぜ)のごとくに()尊榮(ほまれ)(ふき)はらふ わが福祿(さいはひ)(くも)のごとくに消失(きえう)16(いま)はわが(こころ)われの(うち)(とけ)(なが)患難(なやみ)()かたく(われ)(とら)17()にいれば(わが)(ほね)(ささ)れて()(はな)る わが()()(もの)つひに(やす)むこと()18わが疾病(やまひ)(おほい)なる(ちから)によりてわが衣服(ころも)(みにく)(さま)(かは)裏衣(したぎ)(えり)(ごと)くに(われ)()(かた)()19(かみ)われを(どろ)(なか)(なげ)こみたまひて(われ)塵灰(ちりはひ)(ひと)しくなれり 20われ(なんぢ)にむかひて(よば)はるに(なんぢ)(こた)へたまはず (われ)(たち)をるに (なんぢ)(ただ)われをながめ()たまふ 21なんぢは(われ)にむかひて無情(つれなく)なりたまひ 御手(みて)能力(ちから)をもて(われ)攻撃(せめうち)たまふ 22なんぢ(われ)()(かぜ)(うへ)(のり)負去(おひさら)しめ 大風(おほかぜ)(おと)とともに消亡(きえうせ)しめたまふ 23われ()(なんぢ)はわれを()(かへ)らしめ一切(すべて)生物(いきもの)(つひ)(あつま)(いへ)(かへ)らしめたまはん 24かれは(かなら)荒垤(あれつか)にむかひて()(のべ)たまふこと(あら)假令(たとひ)(ひと)滅亡(ほろび)(おちい)るとも是等(これら)(こと)のために號呼(さけ)ぶことをせん 25(くるし)みて()(おく)(もの)のために(われ)(なか)ざりしや (まづ)しき(もの)のために(わが)(こころ)うれへざりしや 26われ吉事(よきこと)(のぞ)みしに凶事(あしきこと)きたり 光明(ひかり)(まち)しに黑暗(くらやみ)きたれり 27わが(はらわた)(わき)かへりて(やす)からず 患難(なやみ)()(われ)追及(おひしき)28われは()(ひかり)(かうむ)らずして(かな)しみつつ(ある)公會(こうくわい)(なか)(たち)(たすけ)(よび)もとむ 29われは(やま)(いぬ)兄弟(きやうだい)となり 駝鳥(だてう)(とも)となれり 30わが(かは)(くろ)くなりて(はげ)()ち わが(ほね)(あつさ)によりて()31わが(こと)(かなしみ)()となり わが(ふえ)(なげき)()となれり

第三十一章

1(われ)わが()(やく)(たて)たり (なん)小艾(をとめ)(した)はんや 2(しか)せば(うへ)より(かみ)(くだ)(たま)(ぶん)如何(いか)なるべきぞ (たかき)(ところ)より全能者(ぜんのうしや)(あた)(たま)(げふ)如何(いか)なるべきぞ 3(あし)(ひと)には滅亡(ほろび)きたらざらんや (よか)らぬ(こと)()(もの)には(つね)ならぬ災禍(わざはひ)あらざらんや 4(かれ)わが(みち)()そなはし わが歩履(あゆみ)をことごとく(かぞ)へたまはざらんや 5(われ)虚誕(うそ)とつれだちて(あゆ)みし(こと)ありや わが(あし)虚僞(いつはり)奔從(はせした)がひし(こと)ありや 6()公平(ただし)權衡(はかり)をもて(われ)(はか)(さら)(かみ)われの(ただ)しきを(しり)たまはん 7わが歩履(あゆみ)もし(みち)(はな)れ わが(こころ)もしわが()(した)がひて(あゆ)み わが()にもし(けがれ)のつきてあらば 8()(まき)たるを(ひと)(くら)ふも()し わが產物(さんぶつ)()より(ぬか)るるも()9われもし婦人(をんな)のために(こころ)まよへる(こと)あるか (また)(われ)もしわが(となり)(かど)にありて(うかが)ひし(こと)あらば 10わが(つま)ほかの(ひと)のために(うす)()き ほかの人々(ひとびと)かれの(うへ)(いぬ)るも()11()(これ)(おも)(つみ)にして裁判人(さばきびと)(ばつ)せらるべき惡事(あくじ)なればなり 12(これ)はすなはち滅亡(ほろび)にまでも(やき)いたる()にしてわが一切(すべて)(さん)をことごとく(たや)さん 13わが(しもべ)あるひは(しもめ)(われ)辯爭(いひあらそ)ひし(とき)(われ)もし(これ)權理(けんり)(かろ)んぜし(こと)あらば 14(かみ)(たち)あがりたまふ(とき)には如何(いかに)せんや (かみ)(のぞ)みたまふ(とき)には(なん)(こた)へまつらんや 15われを胎内(たいない)(つく)りし(もの)また(かれ)をも(つく)りたまひしならずや われらを(はら)(うち)(かたち)(づく)りたまひし(もの)唯一(ただひとつ)(もの)ならずや 16(われ)もし(まづし)(もの)にその(ねが)ふところを()しめず 寡婦(やもめ)をしてその()おとろへしめし(こと)あるか 17または(われ)(ひとり)みづから食物(くひもの)(くら)ひて孤子(みなしご)にこれを(くら)はしめざりしこと()るか 18((かへ)つて(かれ)らは()(わか)(とき)より(われ)(そだ)てられしこと(ちち)におけるが(ごと)(われ)胎内(たいない)(いで)てより以來(このかた)(やもめ)(みち)びく(こと)をせり) 19われ衣服(ころも)なくして(しな)んとする(もの)あるひは()(おほ)(もの)なくして()(ひと)()(とき)20その(こし)もし(われ)(しゆく)せず また(かれ)もしわが(ひつじ)()にて(あたた)まらざりし(こと)あるか 21われを(たす)くる(もの)(もん)にをるを()(われ)みなしごに(むか)ひて()(あげ)(こと)あるか 22(しか)ありしならば肩骨(かたぼね)よりしてわが(かた)おち(ほね)とはなれてわが(うで)(をれ)23(かみ)より(いづ)災禍(わざはひ)(われ)これを(おそ)る その威光(ゐくわう)(まへ)には(われ) 能力(ちから)なし 24(われ)もし(きん)をわが(のぞみ)となし 精金(せいきん)にむかひて(なんぢ)わが所賴(たのみ)なりと(いひ)しこと(ある)25(われ)もしわが(とみ)(おほい)なるとわが()(もの)(おほ)()たることを(よろこ)びしことあるか 26われ()(かがや)くを()または(つき)(てり)わたりて(あゆ)むを()(とき) 27(こころ)(ひそか)にまよひて()(くち)(つけ)しことあるか 28(これ)もまた裁判人(さばきびと)(つみ)せらるべき惡事(あくじ)なり (われ)もし(かく)なせし(こと)あらば(うへ)なる(かみ)(そむき)しなり 29(われ)もし(われ)(にく)(もの)滅亡(ほろぶ)るを(よろこ)(また)(その)災禍(わざはひ)(かか)るによりて(みづか)(ほこ)りし(こと)あるか 30(われ)(これ)生命(いのち)(のろ)(もと)めて(われ)(くち)(つみ)(をか)さしめし(ごと)(こと)あらず) 31わが(てん)(まく)(ひと)(いは)ずや(かれ)(にく)(あか)ざる(もの)いづこにか(あら)んと 32旅人(たびびと)(そと)宿(やど)らず わが(かど)(われ)街衢(ちまた)にむけて(ひら)けり 33(われ)もしアダムのごとくわが(つみ)(おほ)ひ わが惡事(あくじ)(むね)(かく)せしことあるか 34すなはち大衆(たいしう)(おそ)宗族(そうぞく)輕蔑(かろしめ)()ぢて(くち)()(かど)(いで)ざりしごとき(こと)あるか 35嗚呼(ああ)われの(いふ)ところを(きき)わくる(もの)あらまほし(()花押(かきはん)ここに()(ねがは)くは全能者(ぜんのうしや)われに(こた)へたまへ)(われ)(うつた)ふる(もの)みづから訴訟状(うつたへぶみ)()36われ(かな)らず(これ)(かた)()冠冕(かんむり)のごとくこれを(かうべ)(むす)ばん 37(われ)わが歩履(あゆみ)(かず)(かれ)(のべ)君王(きみ)たる(もの)のごとくして(かれ)(ちか)づかん 38わが田圃(たはた)號呼(よばは)りて(われ)()め その阡陌(うねうね)ことごとく(なき)さけぶあるか 39(もし)われ(かね)(いだ)さずしてその產物(さんぶつ)(くら)ひ またはその所有主(もちぬし)をして生命(いのち)(うしな)はしめし(こと)あらば 40小麥(こむぎ)(かはり)蒺藜(あざみ)(はえ)いで (おほ)(むぎ)のかはりに雜草(はぐさ)おひ(いづ)るとも()し ヨブの(ことば)をはりぬ

第三十二章

1ヨブみづから()(おのれ)正義(ただし)とするに(より)(この)(にん)(もの)(これ)(こた)ふる(こと)()2(とき)にラムの(やから)ブジ(びと)バラケルの()エリフ(いかり)(おこ)せり ヨブ(かみ)よりも(おのれ)(ただ)しとするに(より)(かれ)ヨブにむかひて(いかり)(おこ)せり 3またヨブの三(にん)(とも)(こた)ふるに(ことば)なくして(なほ)ヨブを(つみ)ありとせしによりて(かれ)らにむかひて(いかり)(おこ)せり 4エリフはヨブに(ものい)ふことをひかへて(まち)をりぬ ()自己(おのれ)よりも彼等(かれら)(とし)(おい)たればなり 5(ここ)にエリフこの三(にん)(くち)(こた)ふる(ことば)(あら)ざるを()(いかり)(おこ)せり 6ブジ(びと)バラケルの()エリフすなはち(こた)へて(いは)(われ)年少(としわか)汝等(なんぢら)(とし)(おい)たり(ここ)をもて(われ)はばかりて(わが)意見(おもひ)をなんぢらに(のぶ)ることを(あへ)てせざりき 7(われ)(おも)へらく()(かさ)ねたる(もの)(よろ)しく(ことば)(いだ)すべし (とし)(つみ)たる(もの)(よろ)しく智慧(ちゑ)(をし)ふべしと 8(ただ)(ひと)(うち)には(れい)あり 全能者(ぜんのうしや)氣息(いき)(ひと)聰明(さとり)(あた)9(おほい)なる(ひと)すべて智慧(ちゑ)あるに(あら)(おい)たる(もの)すべて道理(ことわり)明白(あきらか)なるに(あら)10(され)(われ)()(われ)()(われ)もわが意見(おもひ)(のべ)11()(われ)(なんぢ)らの言語(ことば)()ち なんぢらの辯論(あげつらひ)()き なんぢらが()ふべき言語(ことば)(たづ)(つく)すを(まて)12われ(こまか)(なんぢ)らに(きき)しが(なんぢ)らの(うち)にヨブを駁折(いひふす)(もの)一人(ひとり)()く また(かれ)言詞(ことば)(こた)ふる(もの)()13おそらくは汝等(なんぢら)いはん (われ)智慧(ちゑ)()()たり (かれ)()(もの)(ただ)(かみ)のみ (ひと)(あた)はずと 14(かれ)はその言語(ことば)(われ)(むけ)(おこ)さざりき (われ)はまた(なんぢ)らの()(ところ)をもて(かれ)(こた)へじ 15(かれ)らは(おど)ろきて(また)(こた)ふる(ところ)なく 言語(ことば)かれらの(うち)(うか)ばず 16彼等(かれら)ものいはず(たち)とどまりて(かさ)ねて(こた)へざればとて(われ)あに(まち)をるべけんや 17(われ)(みづか)らわが(ぶん)(こた)へわが意見(おもひ)吐露(あらは)さん 18われには(ことば)滿()ち わが(うち)(こころ)しきりに(せま)19わが(はら)(くち)(ひら)かざる(さけ)のごとし (あたら)しき皮嚢(かはぶくろ)のごとく(いま)にも(さけ)んとす 20われ(とき)いだして(むね)(やす)んぜんとす われ(くち)(ひら)きて(こた)へん 21かならず(われ)(ひと)(かたよ)らず (ひと)(へつら)はじ 22(われ)(へつ)らふことを(しら)ず もし(へつ)らはば(われ)造化主(つくりぬし)ただちに(われ)(たち)たまふべし

第三十三章

1(さら)ばヨブよ()()()(こと)()け わが一切(すべて)言語(ことば)(みみ)(かた)むけよ 2()(われ)(くち)(ひら)(した)(くち)(なか)(うご)かす 3わが()(ところ)正義(ただし)(こころ)より()づ わが(くちびる)あきらかにその知識(ちしき)(のべ)4(かみ)(れい)われを(つく)全能者(ぜんのうしや)氣息(いき)われを(いか)しむ 5(なんぢ)もし(よく)せば(われ)(こた)へよ わが(まへ)(ことば)をいひつらねて()6(われ)(なんぢ)とおなじく(かみ)(もの)なり (われ)もまた(つち)より(とり)てつくられしなり 7わが威嚴(ゐげん)はなんぢを(おそ)れしめず わが(いきほひ)はなんぢを(あつ)せず 8(なんぢ)わが()くところにて言談(ものいへ)(われ)なんぢの言語(ことば)(こゑ)()けり(いは)9われは潔淨(いさぎよ)くして(とが)なし (われ)(つみ)なく(あし)(こと)わが()にあらず 10()(かれ)われを(せむ)釁隙(ひま)(たづ)ね われを(おのれ)(あた)(かぞ)11わが(あし)(かせ)()めわが一切(すべて)擧動(おこなひ)()(つけ)たまふと 12()(われ)なんぢに(こた)へん なんぢ此事(このこと)において正義(ただし)からず (かみ)(ひと)よりも(おほい)なる(もの)にいませり 13(かれ)その(すべ)(おこ)なふところの理由(ことわり)(しめ)したまはずとて(なんぢ)かれにむかひて辯爭(いひあら)そふは(なん)ぞや 14まことに(かみ)一度(ひとたび)二度(ふたたび)告示(つげしめ)したまふなれど(ひと)これを(さと)らざるなり 15(ひと)熟睡(うまい)する(とき)または(とこ)(ねむ)(とき)(ゆめ)あるひは()()異象(まぼろし)(うち)にて 16かれ(ひと)(みみ)をひらき その(をし)ふるところを(いん)して(かた)うし 17(かく)して(ひと)にその(あし)(わざ)(はな)れしめ 傲慢(たかぶり)(ひと)(なか)より(のぞ)18(ひと)魂靈(たましひ)(まも)りて(はか)(いた)らしめず (ひと)生命(いのち)(まも)りて(つるぎ)にほろびざらしめたまふ 19(ひと)(とこ)にありて疼痛(いたみ)(せめ)られ その(ほね)(なか)(たえ)戰鬪(たたかひ)のあるあり 20その(こころ)食物(くひもの)(いと)ひ その魂靈(たましひ)うまき(もの)をも(きら)21その(にく)(やせ)おちて()えず その(ほね)()えざりし(もの)までも顯露(あらは)になり 22その魂靈(たましひ)(はか)(ちか)より その生命(いのち)(ほろ)ぼす(もの)(ちか)づく 23しかる(とき)にもし(かれ)とともに一箇(ひとり)使者(つかひ)あり (せん)(うち)一箇(ひとり)にして中保(ちうほう)となり (ただ)しき(みち)(ひと)(しめ)さば 24(かみ)かれを(あは)れみて(いひ)(たま)はん(かれ)(すく)ひて(はか)にくだること(なか)らしめよ (われ)すでに收贖(あがなひ)(もの)()たりと 25その(にく)小兒(こども)(にく)よりも瑞々(みづみづ)しくなり その(わか)(とき)形状(ありさま)(かへ)らん 26かれ()(かみ)(いの)らば(かみ)かれを(かへ)りみ (かれ)をしてその御面(みかほ)(よろ)こび()ることを()せしめたまはん (かみ)(ひと)正義(ただしき)(むくい)をなしたまふべし 27かれ(ひと)(まへ)(うた)ひて()(われ)(つみ)(をか)(ただ)しきを(まげ)たり (され)(むくい)(かうむ)らず 28(かみ)わが魂靈(たましひ)(あがな)ひて(はか)(くだ)らしめず わが生命(いのち)光明(ひかり)()29そもそも(かみ)是等(これら)のもろもろの(こと)をしばしば(ひと)におこなひ 30その魂靈(たましひ)(はか)より(ひき)かへし生命(いのち)光明(ひかり)をもて(かれ)(てら)したまふ 31ヨブよ(みみ)(かた)むけて(われ)()()(もく)せよ (われ)かたらん 32なんぢもし()ふべきことあらば(われ)にこたへよ ()(かた)(われ)なんぢを(ただし)とせんと(ほつ)すればなり 33もし(なく)(われ)()()(もく)せよ (われ)なんぢに智慧(ちゑ)(をし)へん

第三十四章

1エリフまた(こた)へて(いは)2なんぢら智慧(ちゑ)ある(もの)(わが)(ことば)()知識(ちしき)ある(もの)(われ)(みみ)(かた)むけよ 3(くち)食物(くひもの)(あじ)はふごとく(みみ)言詞(ことば)(わき)まふ 4われら(みづか)是非(ぜひ)(きは)め われらもろともに善惡(ぜんあく)(あき)らかにせん 5それヨブは()(われ)(ただ)(かみ)われに(ただ)しき審判(さばき)(ほど)こしたまはず 6われは(ただ)しかれども(いつは)(もの)とせらる (われ)(とが)なけれどもわが()矢創(やきず)(いえ)がたしと 7何人(なにびと)かヨブのごとくならん(かれ)罵言(ののしり)(みづ)のごとくに()8(あし)(こと)()者等(ものども)(まじ)はり 惡人(あくにん)とともに(あゆ)むなり 9すなはち(かれ)いへらく (ひと)(かみ)(した)しむとも()(えき)なしと 10(され)ばなんぢら(こころ)ある人々(ひとびと)(われ)()(かみ)(あく)()すことを(きは)めて()全能者(ぜんのうしや)不義(ふぎ)(おこな)ふこと(きは)めて()11(かへ)つて(ひと)所爲(しはざ)をその()(むく)(ひと)をしてその行爲(おこなひ)にしたがひて()るところあらしめたまふ 12かならず(かみ)(あし)(こと)をなしたまはず全能者(ぜんのうしや)審判(さばき)(まげ)たまはざるなり 13たれかこの()(かれ)(ゆだ)ねし(もの)あらん (たれ)(ぜん)世界(せかい)(さだ)めし(もの)あらん 14(かみ)もしその(こころ)(おのれ)にのみ(もち)ひ その(れい)氣息(いき)とを(おのれ)收回(ひきもど)したまはば 15もろもろの血肉(けつにく)ことごとく(ほろ)(ひと)(また)(ちり)にかへるべし 16なんぢもし(さと)ることを()()(われ)()けわが言詞(ことば)(こゑ)(みみ)(そば)だてよ 17公義(ただしき)(にく)(もの)あに()ををさむるを()んや なんぢあに至義(いとただし)(もの)(あし)しとすべけんや 18(わう)たる(もの)にむかひて(なんぢ)邪曲(よこしま)なりと()牧伯(つかさ)たる(もの)にむかひて(なんぢ)らは(あし)しといふべけんや 19まして君王(きみ)たる(もの)をも偏視(かたよりみ)(まづ)しき(もの)(こえ)(とめ)(もの)をかへりみるごとき(こと)をせざる(もの)にむかひてをや (かく)()たまふは彼等(かれら)みな(おな)じくその御手(みて)(つく)るところなればなり 20(かれ)らは(またた)時間(ひま)()(たみ)()()(ほろ)びて消失(きえう)(ちから)ある(もの)(ひと)()によらずして(のぞ)かる 21それ(かみ)()(ひと)(みち)(うへ)にあり (かみ)(ひと)一切(すべて)歩履(あゆみ)()そなはす 22(あく)(おこ)なふ(もの)()(かく)すべき黑暗(くらやみ)()死蔭(しかげ)()23(かみ)(ひと)をして審判(さばき)(うけ)しむるまでに(なが)くその(ひと)(うか)がふに(およ)ばず 24權勢(ちから)ある(もの)をも(しら)ぶることを(もち)ひずして(うち)ほろぼし(ほか)人々(ひとびと)(たて)(これ)(かへ)たまふ 25かくの(ごと)(かれ)らの所爲(わざ)()()()(かれ)らを(くつ)がへしたまへば(かれ)らは(やが)(ほろ)26(ひと)()るところにて彼等(かれら)惡人(あくにん)のごとく(うち)たまふ 27()(かれ)(そむ)きて(これ)(したが)はずその(みち)(まつ)たく(かへり)みざるに()28かれら(かく)のごとくして(つひ)(まづ)しき(もの)號呼(さけび)(かれ)(もと)(いた)らしめ患難者(なやめるもの)號呼(さけび)(かれ)(きか)しむ 29かれ平安(へいあん)(たま)(とき)には(たれ)(あし)しと()ふことをえんや (かれ)(かほ)をかくしたまふ(とき)には(たれ)かこれを()るを()んや 一國(いつこく)におけるも一人(いちにん)におけるも(すべ)(おな)30かくのごとく邪曲(よこしま)なる(もの)をして()(をさ)むること(なか)らしめ (たみ)機檻(わな)となることなからしむ 31(ひと)(よろ)しく(かみ)(まう)すべし (われ)(すで)(こら)しめられたり再度(ふたたび)(あし)(こと)()32わが()ざる(ところ)()(われ)にをしへたまへ (われ)もし(あし)(こと)(なし)たるならば(かさ)ねて(これ)をなさじと 33かれ(あに)なんぢの(この)むごとくに應報(むくい)をなしたまはんや (しか)るに(なんぢ)はこれを(とが)(さら)ばなんぢ(みづか)(これ)(えら)ぶべし (われ)()(なんぢ)()るところを()34(こころ)ある人々(ひとびと)(われ)(いは)(われ)(きく)ところの智慧(ちゑ)ある人々(ひとびと)(いは)35ヨブの()(ところ)辨知(わきまへ)なし その言詞(ことば)明哲(さと)からずと 36ねがはくはヨブ(をはり)まで(こころ)みられんことを()(あし)(ひと)のごとくに應答(こたへ)をなせばなり 37まことに(かれ)自己(おのれ)(つみ)(とが)(くは)へわれらの中間(なか)にありて()()ちかつ言詞(ことば)(しげ)くして(かみ)(さか)らふ

第三十五章

1エリフまた(こた)へて(いは)2なんぢは()()(ただ)しきは(かみ)(まさ)れりと なんぢ(これ)(ただ)しとおもふや 3すなはち(なんぢ)いへらく (これ)(われ)(なに)(えき)あらんや (つみ)(をか)すに(くら)ぶれば(なに)(まさ)るところか(あら)んと 4われ言詞(ことば)をもて(なんぢ)およびなんぢにそへる(なんぢ)友等(ともら)(こた)へん 5(てん)(あふ)ぎて()(なんぢ)(うへ)なる(たか)(くう)(のぞ)6なんぢ(つみ)(をか)すとも(かみ)(なに)(さはり)(あら)(とが)(さか)んにするとも(かみ)(なに)(なし)えんや 7(なんぢ)正義(ただし)かるとも(かみ)(なに)(あたふ)るを()んや (かみ)なんぢの()より(なに)をか(うけ)たまはん 8なんぢの(あく)(ただ)なんぢに(おな)じき(ひと)(そん)ぜん而已(のみ) なんぢの(ぜん)(ただ)(ひと)()(えき)せんのみ 9暴虐(しへたげ)(はなは)だしきに(より)(さけ)權勢(いきほひ)ある(もの)(うで)(おさ)れて(よば)はる人々(ひとびと)あり 10(しか)れども一人(ひとり)として(われ)(つく)れる(かみ)何處(いづく)にいますやといふ(もの)なし (かれ)(ひと)をして()(うち)(うた)(うた)ふに(いた)らしめ 11()獸畜(けもの)よりも()くわれらを(をし)(そら)(とり)よりも(われ)らを(かしこ)からしめたまふ(もの)なり 12(あし)者等(ものども)驕傲(おごりたか)ぶるに(より)(かく)のごとく人々(ひとびと)(さけ)べども(こた)ふる(もの)あらず 13(むな)しき(ことば)(かみ)かならず(これ)(きき)たまはず 全能者(ぜんのうしや)これを(かへり)みたまはじ 14(なんぢ)(われ)かれを()たてまつらずと(いふ)といへども審判(さばき)(かみ)(まへ)にあり この(ゆゑ)(なんぢ)(かれ)(まつ)べきなり 15(いま)かれ震怒(いかり)をもて(ばつ)することを()罪愆(つみとが)(ふか)(こころ)(とめ)たまはざる(が(ごと)くなる)に(より)16ヨブ(くち)(ひら)きて(むな)しき(こと)()無知(むち)言語(ことば)(しげ)くす

第三十六章

1エリフまた言詞(ことば)(つぎ)(いは)2(しば)らく(われ)(ゆる)(われ)なんぢに(しめ)すこと(あら)(なほ)(かみ)のために()ふべき(こと)あればなり 3われ(ひろ)くわが知識(ちしき)()(われ)造化主(つくりぬし)正義(ただしき)()せんとす 4わが言語(ことば)眞實(まこと)虚僞(いつはり)ならず 知識(ちしき)完全(まつた)(もの)なんぢの(まへ)にあり 5()(かみ)權能(ちから)ある(もの)にましませども(なに)をも藐視(いやし)めたまはず その了知(さとり)能力(ちから)(おほい)なり 6()しき(もの)(いか)(おか)艱難者(なやめるもの)のために審判(さばき)(おこな)ひたまふ 7(ただ)しき(もの)()(はな)さず (くらゐ)にある(わう)(たち)とともに永遠(とこしへ)()せしめて(これ)(たふと)くしたまふ 8もし(かれ)鏈索(くさり)(つな)がれ 艱難(なやみ)(なは)にかかる(とき)9(かれ)らの所行(おこなひ)愆尤(とが)とを(しめ)してその(おご)れるを(しら)10(かれ)らの(みみ)(ひら)きて(をしへ)(いれ)れしめ かつ(あく)(はな)れて(かへ)れよと(かれ)らに(めい)じたまふ 11もし(かれ)(きき)したがひて(これ)(つか)へなば繁昌(さかえ)てその()(おく)(たの)しくその(とし)(わた)らん 12(もし)かれら(きき)したがはずば刀劍(つるぎ)にて(ほろ)知識(ちしき)()ずして()なん 13しかれども(こころ)邪曲(よこしま)なる者等(ものども)忿怒(いかり)(たく)はへ (かみ)(いま)しめらるるとも(いの)ることを()14かれらは(とし)わかくして死亡(しにう)男娼(なんしやう)とその生命(いのち)をひとしうせん 15(かみ)艱難者(なやめるもの)艱難(なやみ)によりて(すく)(これ)(みみ)虐遇(しへたげ)によりて(ひら)きたまふ 16(され)(かみ)また(なんぢ)(せま)きところより(いだ)して(せま)からぬ(ひろ)(ところ)(うつ)したまふあらん (しか)して(なんぢ)(せき)(つら)ぬる(もの)(すべ)(こえ)たる(もの)ならん 17(いま)惡人(あくにん)鞫罰(さばき)なんぢの()(みて)審判(さばき)公義(こうぎ)となんぢを(とら)18なんぢ忿怒(いかり)(いざな)はれて嘲笑(あざけり)(おち)いらざるやう(つつ)しめよ 收贖(あがなひ)(おほい)なるが(ため)(みづか)(あやま)るなかれ 19なんぢの號叫(さけび)なんぢを艱難(なやみ)(うち)より(いだ)さんや 如何(いか)(ちから)(つく)すとも所益(かひ)あらじ 20()(ひと)のその(ところ)より(たた)(その)()(した)ふなかれ 21(つつし)しみて(あく)(かた)むくなかれ (なんぢ)艱難(なやみ)よりも(むし)(これ)(とら)んとせり 22それ(かみ)はその權能(ちから)をもて(おほい)なる(わざ)()したまふ (たれ)()(かれ)のごとくに敎晦(をしへ)(たれ)んや 23たれか(かれ)のためにその(みち)(さだ)めし(もの)あらんや (たれ)かなんぢは(あし)(こと)をなせりと()ふことを()24なんぢ(かみ)御所爲(みわざ)讚歎(ほめたた)ふることを(わす)れざれ これ()(ひと)(うた)(あが)むる(ところ)なり 25(ひと)みな(これ)(あふ)()(とほ)(ところ)より(ひと)これを()たてまつるなり 26(かみ)(おほい)なる(もの)にいまして我儕(われら)かれを(しり)たてまつらず その御年(みとし)(かず)(はか)()るべからず 27かれ(みづ)(こまか)にして(ひき)あげたまへば(きり)(なか)(したた)(いで)(あめ)となるに 28(くも)これを(ふら)せて人々(ひとびと)(うへ)沛然(ゆたか)(そそ)ぐなり 29たれか()(くも)舒展(ひろが)所以(ゆゑん) またその幕屋(まくや)(ひび)所以(ゆゑん)了知(さとら)んや 30()(かれ)その光明(ひかり)自己(おのれ)周圍(まはり)(めぐ)らし また(うみ)(そこ)をも(おほ)ひたまひ 31これらをもて(たみ)(さば)き また是等(これら)をもて食物(くひもの)豐饒(ゆたか)(たま)32電光(いなびかり)をもてその兩手(もろて)(つつ)み その電光(いなびかり)(めい)じて(てき)(うた)しめたまふ 33その鳴聲(なりおと)かれを(あら)はし 家畜(けもの)すらも(かれ)()ますを()らすなり

第三十七章

1(これ)がためにわが(こころ)わななき その(ところ)(うご)(はな)2(かみ)(こゑ)(ひびき)およびその(くち)より(いづ)轟聲(とどろき)()()3これを(あめ)(した)(はな)ち またその電光(いなびかり)()(はて)にまで(いた)らせたまふ 4その(のち)(こゑ)ありて(うち)(ひび)(かれ)威光(ゐくわう)(こゑ)(はな)ちて(なり)わたりたまふ その御聲(みこゑ)(きこ)えしむるに(あた)りては電光(いなびかり)(おさ)へおきたまはず 5(かみ)(くす)しくも御聲(みこゑ)(はな)ちて(なり)わたり 我儕(われら)(しら)ざる(おほい)なる(わざ)(おこな)ひたまふ 6かれ(ゆき)にむかひて()()れと(めい)じたまふ (あめ)すなはちその權能(ちから)(おほ)(あめ)にも(また)しかり 7(かく)かれ一切(すべて)(ひと)()(ふう)じたまふ (これ)すべての(ひと)にその御工作(みわざ)(しら)しめんがためなり 8また(けもの)(あな)にいりてその(ほら)()9南方(みなみ)密室(みつしつ)より暴風(あらし)きたり (きた)より寒氣(さむさ)きたる 10(かみ)氣吹(いぶき)によりて(こほり)いできたり (みづ)(はば)(せば)くせらる 11かれ(みづ)をもて(くも)搭載(つみの)せまた電光(ひかり)(くも)(とほ)(ちら)したまふ 12(これ)(かみ)導引(みちびき)によりて(めぐ)()(かれ)(めい)ずるところを(ことごと)世界(せかい)表面(おもて)(なさ)んがためなり 13その(これ)(きた)らせたまふは(あるひ)懲罰(こらしめ)のため あるひはその()のため (あるひ)恩惠(めぐみ)のためなり 14ヨブよ(これ)()()ちて(かみ)奇妙(くすし)工作(わざ)(かん)がへよ 15(かみ)いかに是等(これら)(めい)(つた)へその(くも)光明(ひかり)をして(かが)やかせたまふか(なんぢ)これを()るや 16なんぢ(くも)平衡(つりあひ)知識(ちしき)(まつ)たき(もの)奇妙(くすし)工作(わざ)()るや 17(みなみ)(かぜ)によりて()(おだや)かになる(とき)なんぢの衣服(ころも)(あつ)くなるなり 18なんぢ(かれ)とともに()(かた)くして()たる(かがみ)のごとくなる蒼穹(そら)()ることを(よく)せんや 19われらが(かれ)()ふべき(こと)(われ)らに(をし)へよ (われ)らは暗昧(くらく)して言詞(ことば)(つら)ぬること(あた)はざるなり 20われ(かた)ることありと(かれ)()ぐべけんや (ひと)あに(ほろ)ぼさるることを(のぞ)まんや 21(ひと)いまは雲霄(そら)(かが)やく光明(ひかり)()ること(あた)はず ()れど(かぜ)きたりて(これ)吹清(ふききよ)22(きた)より黄金(こがね)いできたる (かみ)には(おそ)るべき威光(ゐくわう)あり 23全能者(ぜんのうしや)はわれら(はか)りきはむることを()(かれ)(ちから)おほいなる(もの)にいまし審判(さばき)をも公義(こうぎ)をも(まげ)たまはざるなり 24この(ゆゑ)人々(ひとびと)かれを(おそ)(かれ)はみづから(こころ)有智(かしこし)とする(もの)をかへりみたまはざるなり

第三十八章

1(ここ)にヱホバ大風(おほかぜ)(なか)よりヨブに(こた)へて(のた)まはく 2無智(むち)言詞(ことば)をもて(みち)(くら)からしむる(この)(もの)(たれ)ぞや 3なんぢ(こし)ひきからげて丈夫(をとこ)のごとくせよ (われ)なんぢに(とは)(なんぢ)われに(こた)へよ 4()(もとゐ)()(すゑ)たりし(とき)なんぢは何處(いづこ)にありしや (なんぢ)もし穎悟(さとり)あらば()5なんぢ(もし)(しら)んには(たれ)度量(どりやう)(さだ)めたりしや ()準繩(はかりなは)()(うへ)()りたりしや 6その(もとゐ)(なに)(うへ)(おか)れたりしや その隅石(すみいし)()(すゑ)たりしや 7かの(とき)には晨星(あけのほし)あひともに(うた)(かみ)()(たち)みな(よろこ)びて(よば)はりぬ 8(うみ)(みづ)ながれ()胎内(たいない)より(わき)いでし(とき)()()をもて(これ)(とぢ)こめたりしや 9かの(とき)(われ)(くも)をもて(これ)衣服(ころも)となし 黑暗(くらやみ)をもて(これ)襁褓(むつき)となし 10これに(われ)法度(のり)(さだ)(くわん)および(もん)(まう)けて 11(いは)(ここ)までは(きた)るべし(ここ)(こゆ)べからず (なんぢ)(たか)(なみ)ここに(とど)まるべしと 12なんぢ(うま)れし()より以來(このかた)(あした)にむかひて(めい)(くだ)せし(こと)ありや また黎明(よあけ)にその(ところ)(しら)しめ 13これをして()(ふち)(とら)へて(あし)(もの)をその(うへ)より(ふり)(おと)さしめたりしや 14()(かは)りて(つち)(いん)したるごとくに()(もろもろ)(もの)(うる)はしき衣服(ころも)のごとくに(あらは)15また惡人(あくにん)はその光明(ひかり)(うば)はれ (たか)(あげ)たる()()らる 16なんぢ(うみ)泉源(みなもと)にいたりしことありや (ふち)(そこ)(あゆ)みしことありや 17()(かど)なんぢのために(ひら)けたりしや (なんぢ)死蔭(しかげ)(かど)()たりしや 18なんぢ()(ひろさ)()きはめしや (もし)これを(ことごと)(しら)()19光明(ひかり)()(ところ)()(みち)(いづれ)ぞや 黑暗(くらやみ)()(ところ)何處(いづこ)ぞや 20なんぢ(これ)をその(さかひ)(みち)びき()るや その(いへ)(みち)(しり)をるや 21なんぢ(これ)(しる)ならん(なんぢ)はかの(とき)すでに(うま)れをり また(なんぢ)()たる()(かず)(おほ)ければなり 22なんぢ(ゆき)(くら)にいりしや (へう)(くら)()しや 23これ()艱難(なやみ)(とき)にために(たく)はへ 戰爭(いくさ)および戰鬪(たたかひ)()のために(たく)はへ()くものなり 24光明(ひかり)發散(ひろが)(みち) 東風(ひがしかぜ)()(ふき)わたる(ところ)(みち)何處(いづこ)ぞや 25()(おほ)(あめ)(そそ)水路(みづみち)(ひら)雷電(いかづち)(ひかり)(すぐ)(みち)(ひら)26(ひと)なき()にも(ひと)なき荒野(あれの)にも(あめ)(ふら)27(あれ)かつ(すた)れたる處々(ところどころ)(うる)ほし かつ若菜蔬(わかくさ)生出(はえいで)しむるや 28(あめ)(ちち)ありや (あら)(たま)()(うめ)(もの)なるや 29(こほり)()(はら)より(いづ)るや (そら)(しも)()()むところなるや 30(みづ)かたまりて(いし)のごとくに()(ふち)(おもて)こほる 31なんぢ昴宿(ばうしゆく)鏈索(くさり)(むす)びうるや 參宿(しんしゆく)繋繩(つなぎ)(とき)うるや 32なんぢ十二(きう)をその(とき)にしたがひて(ひき)いだし()るや また北斗(ほくと)とその子星(こぼし)(みち)びき()るや 33なんぢ(てん)常經(のり)()るや (てん)をして(その)權力(ちから)()(ほど)こさしむるや 34なんぢ(こゑ)(くも)()滂沛(おほく)(みづ)をして(なんぢ)(おほ)はしむるを()るや 35なんぢ閃電(いなびかり)(つか)はして(ゆか)しめ なんぢに(こた)へて我儕(われら)(ここ)にありと(いは)しめ()るや 36(むね)(うち)智慧(ちゑ)()(あた)へし(もの)(こころ)(うち)聰明(さとり)()(さづ)けし(もの)37たれか()智慧(ちゑ)をもて(くも)(かぞ)へんや たれか()(てん)(かめ)(かた)むけ 38(ちり)をして一塊(ひとつ)(なが)れあはしめ土塊(つちくれ)をしてあひかたまらしめんや 39なんぢ()獅子(じし)のために食物(くひもの)(かる)や また小獅子(こじし)食氣(しよくき)滿(みた)すや 40その洞穴(ほらあな)()し 森の(なか)(かく)(うか)がふ(とき)なんぢこの(こと)(なし)うるや 41また(からす)() (かみ)にむかひて(よば)はり 食物(くひもの)なくして徘徊(ゆきめぐ)(とき) (からす)()(あた)ふる(もの)(たれ)ぞや

第三十九章

1なんぢ(いは)()山羊(やぎ)()()(とき)をしるや また麀鹿(めじか)(さん)(のぞ)むを()しや 2なんぢ是等(これら)在胎(はらごもり)(つき)(かぞ)へうるや また是等(これら)()(とき)()るや 3これらは()(かが)めて()()みその痛苦(いたみ)(いだ)4またその()(つよ)くなりて()(そだ)(いで)ゆきて(ふた)たびその(おや)にかへらず 5()野驢馬(のろば)(はな)ちて自由(じいう)にせしや ()野驢馬(のろば)繋繩(つなぎ)(とき)しや 6われ()をその(いへ)となし 荒野(あれの)をその住所(すみか)となせり 7(これ)(まち)喧閙(さわがしさ)(いや)しめ 馭者(ぎよしや)號呼(よばはり)(きき)いれず 8(やま)(はせ)まはりて(くさ)(くら)各種(もろもろ)(あを)(もの)(たづ)9(のうし)(あへ)(なんぢ)(つか)へ なんぢの飼草槽(かひばをけ)(かたはら)にとどまらんや 10なんぢ(のうし)(つな)(つけ)阡陌(うね)をあるかせ()んや (これ)あに(なんぢ)にしたがひて(たに)馬鈀(まぐは)(ひか)んや 11その(ちから)おほいなればとて(なんぢ)これに(たの)まんや またなんぢの工事(わざ)をこれに(まか)せんや 12なんぢこれにたよりて(おの)穀物(こくもつ)(はこ)びかへらせ(これ)打禾塲(うちば)にあつめしめんや 13駝鳥(だてう)歡然(よろこばしげ)にその(つばさ)(ふる)(され)どもその(はね)()とはあに(つる)にしかんや 14(これ)はその(たまご)(つち)(なか)(すて)おき これを(すな)(なか)にて(あた)たまらしめ 15(あし)にてその(つぶ)さるべきと ()(けもの)のこれを()むべきとを(おも)はず 16これはその()(なさけ)なくして宛然(あたかも)おのれの()ならざるが(ごと)くし その劬勞(くらう)(むな)しくなるも繋念(きづかふ)ところ()17()(かみ)これに智慧(ちゑ)(さづ)けず穎悟(さとり)(あた)へざるが(ゆゑ)なり 18その()をおこして(はし)るにおいては(むま)をもその騎手(のりて)をも(あざ)けるべし 19なんぢ(むま)(ちから)(あた)へしや その(くび)(いさ)ましき(たてがみ)(よそほ)ひしや 20なんぢ(これ)蝗蟲(いなご)のごとく(とば)しむるや その(いな)なく(こゑ)(ひびき)(おそ)るべし 21(たに)踋爬(あがき)(ちから)(ほこ)(みづか)(すす)みて兵士(つはもの)(むか)22(おそ)るることを(わら)ひて(おど)ろくところ()(つるぎ)にむかふとも退(しり)ぞかず 23矢筒(やづつ)その(うへ)()(やり)(ほこ)あひきらめく 24(たけ)りつ(くる)ひつ()一呑(ひとのみ)にし 喇叭(らつぱ)(おと)(なり)わたるも(たち)どまる(こと)なし 25喇叭(らつぱ)(なる)ごとにハーハーと()遠方(とほく)より戰鬪(たたかひ)(かぎ)つけ 將帥(しやうすゐ)(おほ)(ごゑ)および吶喊聲(ときのこゑ)(きき)しる 26(たか)(とび)かけり その羽翼(つばさ)(のべ)(みなみ)(むか)ふは(あに)なんぢの智慧(ちゑ)によるならんや 27(わし)(まひ)のぼり (たか)(ところ)()(いと)なむは(あに)なんぢの命令(いひつけ)(よら)んや 28これは(いは)(うへ)住所(すみか)(かま)(いは)尖所(とがり)または峻險(けはし)(ところ)()29其處(そこ)よりして(つか)むべき(もの)をうかがふ その()のおよぶところ(とほ)30その子等(こら)もまた()()(おほよ)(ころ)されし(もの)のあるところには(これ)そこに()

第四十章

1ヱホバまたヨブに(こた)へて(いひ)たまはく 2非難(ひなん)する(もの)ヱホバと(あらそ)はんとするや (かみ)(ろん)ずる(もの)これに(こた)ふべし 3ヨブ(ここ)においてヱホバに(こた)へて(いは)4嗚呼(ああ)われは(いや)しき(もの)なり (なに)となんぢに(こた)へまつらんや (ただ)()をわが(くち)(あて)んのみ 5われ(すで)一度(ひとたび)(いひ)たり (また)いはじ (すで)再度(ふたたび)せり (かさ)ねて(のべ)6(ここ)(おい)てヱホバまた大風(おほかぜ)(うち)よりヨブに(こた)へて(いひ)たまはく 7なんぢ(こし)ひきからげて丈夫(をとこ)のごとくせよ (われ)なんぢに(とは)ん なんぢ(われ)にこたへよ 8なんぢ(わが)審判(さばき)(すて)んとするや (われ)()として自身(おのれ)()とせんとするや 9なんぢ(かみ)のごとき(うで)ありや (かみ)のごとき(こゑ)をもて(とどろ)きわたらんや 10さればなんぢ威光(いきほひ)尊貴(たふとき)とをもて(みづか)(かざ)榮光(さかえ)華美(うるはしき)とをもて()(まと)11なんぢの(あふ)るる震怒(いかり)(もら)(たか)ぶる(もの)()とめて(これ)をことごとく(ひく)くせよ 12すなはち(たか)ぶる(もの)()てこれを(ことごと)(かが)ませ また惡人(あくにん)立所(たちどころ)(ふみ)つけ 13これを(ちり)(なか)(うづ)め これが(かほ)(かく)れたる(ところ)(とぢ)こめよ 14さらば(われ)もなんぢを(ほめ)てなんぢの(みぎ)()なんぢを(すく)()ると()15(いま)なんぢ()がなんぢとともに(つく)りたりし河馬(かはむま)()(これ)(うし)のごとく(くさ)(くら)16()よその(ちから)(こし)にあり その勢力(いきほひ)(はら)(すぢ)にあり 17その()(うご)(さま)香柏(かうはく)のごとく その(もも)(すぢ)彼此(たがひ)盤互(からみあ)18その(ほね)(あかがね)(くだ)ごとくその肋骨(あばらぼね)(くろがね)(ぼう)のごとし 19これは(かみ)(わざ)(だい)一なる(もの)にして(これ)(つく)りし(もの)これに(つるぎ)(さづ)けたり 20(やま)もこれがために食物(くひもの)產出(いだ)し もろもろの野獸(やじう)そこに(あそ)21これは(はちす)()(もと)()葦蘆(あし)(なか)または(ぬま)(うち)(かく)れをる 22(はちす)()その(かげ)をもてこれを(おほ)ひ また(かは)(やなぎ)これを(めぐ)りかこむ 23たとひ(かは)(あら)くなるとも(おど)ろかず ヨルダンその(くち)(そそ)ぎかかるも(あは)てず 24その()(まへ)にて(たれ)(これ)(とら)ふるを()(たれ)(わな)をその(はな)(つら)ぬくを()

第四十一章

1なんぢ(はり)をもて(わに)(つり)いだすことを()んや その(した)(いと)にひきかくることを()んや 2なんぢ(あし)(なは)をその(はな)(とほ)し また(はり)をその(あご)(つき)とほし()んや 3(これ)あに(しきり)になんぢに(ねが)ふことをせんや (やはら)かになんぢに言談(ものいは)んや 4あに(なんぢ)契約(けいやく)(なさ)んや なんぢこれを(とり)(なが)(しもべ)()しおくを()んや 5なんぢ(とり)(たは)むるる(ごと)くこれとたはむれ また(なんぢ)婦人(をんな)(ども)のために(これ)(つな)ぎおくを()んや 6また漁夫(すなどり)社會(なかま)これを商貨(あきなひもの)()して商賣人(あきうど)中間(なか)(わか)たんや 7なんぢ漁叉(もり)をもてその(かは)滿(みた)魚矛(うをほこ)をもてその(かしら)(つき)とほし()んや 8()をこれに(くだ)()(さら)ばその戰鬪(たたかひ)をおぼえて(ふたた)びこれを(なさ)ざるべし 9()よその(のぞみ)(むな)(これ)()てすら(たふ)るるに(あら)ずや 10何人(なにびと)(これ)(げき)する勇氣(ゆうき)あるなし (され)(たれ)かわが(まへ)(たち)うる(もの)あらんや 11(たれ)(さき)(われ)(あた)へしところありて(われ)をして(これ)(むく)いしめんとする(もの)あらん 普天(ふてん)(した)にある(もの)はことごとく我有(わがもの)なり 12(われ)また彼者(かのもの)肢體(したい)とその(いちじ)るしき(ちから)とその(うる)はしき()構造(つくり)とを(いは)では(おか)13(たれ)かその外甲(うはよろひ)(はが)(たれ)かその雙齶(ふたあご)(あひだ)(いら)14(たれ)かその(かほ)()(ひら)きえんや その周圍(まはり)()(おそ)るべし 15その並列(ならべ)鱗甲(うろこ)(これ)(ほこ)るところ その(あひ)(とぢ)たる(さま)(かた)(ふう)じたるがごとく 16(これ)(かれ)とあひ(つづ)きて(かぜ)もその中間(あひだ)にいるべからず 17一々(ひとつひとつ)あひ(つら)なり(かた)(つき)(はな)すことを()18(くさめ)すれば(すな)はち(ひかり)(はつ)す その()曙光(あけぼの)眼瞼(まぶた)(を(ひら)く)に()たり 19その(くち)よりは炬火(たいまつ)いで()(ばな)(はつ)20その(はな)(あな)よりは(けぶり)いできたりて宛然(あたかも)(あし)()(かま)のごとし 21その氣息(いき)(すみ)()(おこ)火燄(ほのほ)その(くち)より()22力氣(ちから)その(くび)宿(やど)(おそ)るる(もの)その(まへ)彷徨(をどり)まよふ 23その(にく)(ひら)(みつ)(あひ)(つら)なり (かた)()(つき)(うご)かす(べか)らず 24その(しん)堅硬(かたき)こと(いし)のごとく その堅硬(かたき)こと下磨(したうす)のごとし 25その()(おこ)(とき)勇士(ゆうし)戰慄(をのの)恐怖(おそれ)によりて狼狽(あはて)まどふ 26(つるぎ)をもて(これ)(うつ)とも(きか)(やり)()漁叉(もり)(もち)ふるところ()27(これ)(くろがね)()ること稿(わら)のごとくし(あかがね)()ること(くち)()のごとくす 28弓箭(ゆみや)もこれを(にげ)しむること(あた)はず 投石機(いしなげ)(いし)稿屑(わらくづ)見做(みなさ)29(ぼう)(これ)には稿屑(わらくづ)()(やり)(ひら)めくを(これ)(わら)30その(した)(はら)には瓦礫(かはら)碎片(くだけ)(つら)(どろ)(うへ)麥打車(むぎうちぐるま)()31(ふち)をして(かなへ)のごとく(わき)かへらしめ (うみ)をして香油(にほひあぶら)(かま)のごとくならしめ 32(おの)(あと)(ひか)(みち)(のこ)せば(ふち)白髮(しらが)をいただけるかと(うた)がはる 33()(うへ)には(これ)(なら)(もの)なし (これ)恐怖(おそれ)なき()(つく)られたり 34(これ)一切(すべて)高大(かうだい)なる(もの)輕視(かろん)(まこと)(もろもろ)(ほこ)(たか)ぶる(もの)(わう)たるなり

第四十二章

1ヨブ(ここ)(おい)てヱホバに(こた)へて(いは)2(われ)()(なんぢ)一切(すべて)(こと)をなすを()たまふ また如何(いか)なる意志(おぼしめし)にても(なす)あたはざる()3無知(むち)をもて(みち)(おほ)(もの)(たれ)ぞや (かく)われは(みづか)了解(さと)らざる(こと)()(みづか)(しら)ざる(はか)(がた)(こと)(のべ)たり 4()(きき)たまへ (われ)()ふところあらん (われ)なんぢに(とひ)まつらん (われ)(こた)へたまへ 5われ(なんぢ)(こと)(みみ)にて(きき)ゐたりしが(いま)()をもて(なんぢ)()たてまつる 6(ここ)をもて(われ)みづから(うら)塵灰(ちりはひ)(なか)にて()7ヱホバ是等(これら)言語(ことば)をヨブに(かた)りたまひて(のち)ヱホバ、テマン(びと)エリパズに(いひ)たまひけるは(われ)なんぢと(なんぢ)二人(ふたり)(とも)(いか)()はなんぢらが(われ)(つき)(いひ)()べたるところはわが(しもべ)ヨブの(いひ)たることのごとく正當(ただし)からざればなり 8(され)(なんぢ)牡牛(をうし)七頭(ななつ) 牡羊(をひつじ)七頭(ななつ)(とり)てわが(しもべ)ヨブに(いた)(なんぢ)らの()のために燔祭(はんさい)(ささ)げよ わが(しもべ)ヨブなんぢらのために(いの)らん われかれを嘉納(うけいる)べければ(これ)によりて(なんぢ)らの()(ばつ)せざらん (なんぢ)らの(われ)について(いひ)(のべ)たるところは(わが)(しもべ)ヨブの(いひ)たることのごとく正當(ただし)からざればなり 9(ここ)においてテマン(びと)エリパズ、シユヒ(びと)ビルダデ、ナアマ(びと)ゾパル(ゆき)てヱホバの自己(おのれ)(のた)まひしごとく(なし)ければヱホバすなはちヨブを嘉納(うけいれ)たまへり 10ヨブその(とも)のために(いの)れる(とき) ヱホバ、ヨブの艱難(なやみ)をときて(もと)(かへ)ししかしてヱホバつひにヨブの所有物(もちもの)を二(ばい)(まし)たまへり 11(ここ)において(かれ)(すべて)兄弟(きやうだい)(すべて)姉妹(しまい)およびその(もと)(あひ)(しれ)者等(ものども)ことごとく(きた)りて(かれ)とともにその(いへ)にて飮食(のみくひ)()しかつヱホバの(かれ)(くだ)したまひし一切(すべて)災難(わざはひ)につきて(かれ)をいたはり(なぐ)さめ また(おのおの)(きん)一ケセタと(きん)()一箇(ひとつ)(これ)(おく)れり 12ヱホバかくのごとくヨブをめぐみてその(をはり)(はじめ)よりも(よく)したまへり (すなは)(かれ)綿羊(ひつじ)(すべて)四千(びき) 駱駝(らくだ)六千(びき) (うし)一千(くびき) 牝驢馬(めろば)一千(びき)(もて)13また男子(なんし)(にん) 女子(によし)(にん)ありき 14かれその(だい)一の(むすめ)をエミマと(なづ)(だい)二をケジアと(なづ)(だい)三をケレンハツプクと(なづ)けたり 15全國(ぜんこく)(うち)にてヨブの女子(むすめ)()ほど(うつく)しき婦人(をんな)()えざりき その(ちち)(これ)にその兄弟(きやうだい)(たち)とおなじく產業(さんげふ)をあたへたり 16この(のち)ヨブは(ひやく)四十(ねん)いきながらへてその()その(まご)四代(よだい)までを()たり 17かくヨブは(とし)()()滿(みち)(しに)たりき