傳道之書

第一章

1ダビデの() ヱルサレムの(わう) 傳道(でんだう)(しや)(ことば) 2傳道(でんだう)(しや)(いは)(くう)(くう) (くう)(くう)なる(かな) (すべ)(くう)なり 3()(した)(ひと)(らう)して(なす)ところの(もろもろ)動作(はたらき)はその()(なに)(えき)かあらん 4()()()(きた)()永久(とこしなへ)長存(たもつ)なり 5()()()()り またその(いで)(ところ)(あへ)ぎゆくなり 6(かぜ)(みなみ)()(また)(まは)りて(きた)にむかひ 旋轉(めぐり)(めぐ)りて()(かぜ)(また)その旋轉(めぐ)(ところ)にかへる。 7(かは)はみな(うみ)(なが)()(うみ)(みつ)ること()(かは)はその(いで)きたれる(ところ)(また)(かへ)りゆくなり 8(すべて)(もの)勞苦(らうく)(ひと)これを(いひ)つくすことあたはず ()(みる)(あく)ことなく(みみ)(きく)(みつ)ること()9(さき)(あり)(もの)はまた(のち)にあるべし (さき)(なり)(こと)はまた(のち)(なる)べし ()(した)には(あらた)しき(もの)あらざるなり 10()(これ)(あらた)しき(もの)なりと(さし)(いふ)べき(もの)あるや (それ)我等(われら)(さき)にありし世々(よよ)(すで)(ひさ)しくありたる(もの)なり 11己前(まへ)のものの(こと)はこれを記憶(おぼゆ)ることなし 以後(のち)のものの(こと)もまた(のち)(いづ)(もの)これをおぼゆることあらじ 12われ傳道(でんだう)(しや)はヱルサレムにありてイスラエルの(わう)たりき 13(われ)(こころ)(つく)智慧(ちゑ)をもちひて(あめ)(した)(おこな)はるる(もろもろ)(こと)(たづ)ねかつ考覈(しらべ)たり(この)(くる)しき事件(わざ)(かみ)()(ひと)にさづけて(これ)()(らう)せしめたまふ(もの)なり 14(われ)()(した)(なす)ところの(もろもろ)行爲(わざ)()たり 嗚呼(ああ)(みな)(くう)にして(かぜ)(とら)ふるがごとし 15(まが)れる(もの)(なほ)からしむるあたはず(かけ)たる(もの)(かず)をあはするあたはず 16(われ)(こころ)(うち)(かた)りて()嗚呼(ああ)(われ)(おほい)なる(もの)となれり (われ)より(さき)にヱルサレムにをりしすべての(もの)よりも(われ)(おほ)くの智慧(ちゑ)()たり (わが)(こころ)智慧(ちゑ)知識(ちしき)(おほ)()たり 17(われ)(こころ)(つく)して智慧(ちゑ)(しら)んとし狂妄(きやうまう)愚癡(ぐち)(しら)んとしたりしが (これ)(また)(かぜ)(とら)ふるがごとくなるを(さと)れり 18(それ)智慧(ちゑ)(おほ)ければ憤激(いきどほり)(おほ)知識(ちしき)()(もの)憂患(うれへ)()

第二章

1(われ)わが(こころ)(いひ)けらく (きた)(われ)(こころ)みに(なんぢ)をよろこばせんとす (なんぢ)逸樂(たのしみ)をきはめよと 嗚呼(ああ)(これ)もまた(くう)なりき 2(われ)(わらひ)()(これ)(きやう)なり 快樂(たのしみ)()(これ)(なに)(なす)ところあらんやと 3(われ)(こころ)智慧(ちゑ)(いだ)きて(をり)つつ(さけ)をもて肉身(からだ)(こや)さんと(こころ)みたり (また)()(ひと)(あめ)(した)において生涯(しやうがい)如何(いか)なる(こと)をなさば(よか)らんかを(しら)んために(われ)(おろか)なる(こと)(おこな)ふことをせり 4(われ)(おほい)なる事業(じげふ)をなせり (われ)はわが(ため)(いへ)()葡萄園(ぶだうばたけ)(まう)5(その)をつくり(には)をつくり (また)()のなる(もろもろ)()其處(そこ)()6また(みづ)塘池(ためいけ)をつくりて樹木(きぎ)(おひ)(しげ)れる(はやし)(それ)より(みづ)(そそ)がしめたり 7(われ)(しもべ)(しもめ)(かひ)()たり また(いへ)()あり (われ)はまた(すべ)(われ)より(さき)にヱルサレムにをりし(もの)よりも衆多(おほく)(うし)(ひつじ)(もて)8(われ)金銀(きんぎん)()王等(わうたち)國々(くにぐに)財寶(たから)(つみ)あげたり また(うた)詠之(うたふ)男女(をとこをんな)() ()(ひと)(たのしみ)なる(さい)(せう)(おほ)くえたり 9(かく)(われ)(おほい)なる(もの)となり (われ)より(さき)にヱルサレムにをりし(すべて)(ひと)よりも(おほい)になりぬ (わが)智慧(ちゑ)もまたわが()(はな)れざりき 10(およ)そわが()(この)(もの)(われ)これを(きん)ぜす (およ)そわが(こころ)(よろこ)(もの)(われ)これを(きん)ぜざりき (すなは)(われ)はわが(もろもろ)勞苦(らうく)によりて快樂(たのしみ)()たり (これ)()(もろもろ)勞苦(らうく)によりて()たるところの(ぶん)なり 11(われ)わが()にて(なし)たる(もろもろ)事業(わざ)および()(らう)して(こと)(なし)たる勞苦(らうく)(かへり)みるに (みな)(くう)にして(かぜ)(とら)ふるが(ごと)くなりき ()(した)には(えき)となる(もの)あらざるなり 12(われ)また()(めぐ)らして智慧(ちゑ)狂妄(きやうまう)愚癡(ぐち)とを()たり (そもそも)(わう)()ぐところの(ひと)如何(いか)なる(こと)(なし)うるや その(すで)になせしところの(こと)(すぎ)ざるべし 13光明(あかるみ)黑暗(くらき)にまさるがごとく智慧(ちゑ)愚癡(ぐち)(まさ)るなり (われ)これを(さと)れり 14智者(ちしや)()はその(かしら)にあり愚者(ぐしや)黑暗(くらやみ)(あゆ)(され)(われ)しる(その)みな()ふところの(こと)同一(ひとつ)なり 15(われ)(こころ)(いひ)けらく 愚者(ぐしや)()ふところの(こと)(われ)もまた()ふべければ (われ)なんぞ智慧(ちゑ)のまさる(ところ)あらんや (われ)また(こころ)(いへ)(これ)(また)(くう)なるのみと 16(それ)智者(ちしや)愚者(ぐしや)(ひと)しく(なが)()記念(おぼえ)らるることなし (きた)らん()にいたれば(みな)(はや)(すで)(わす)らるるなり 嗚呼(ああ)智者(ちしや)愚者(ぐしや)とおなじく(しぬ)るは(これ)如何(いか)なる(こと)ぞや 17(ここ)(おい)(われ)()にながらふることを(いと)へり (およ)()(した)(なす)ところの(わざ)(われ)(あし)(みゆ)ればなり (すなは)(みな)(くう)にして(かぜ)(とら)ふるがごとし 18(われ)()(した)にわが(らう)して(もろもろ)動作(はたらき)をなしたるを(うら)()(われ)(あと)()(ひと)にこれを(のこ)さざるを()ざればなり 19其人(そのひと)()()(たれ)かこれを()らん(しか)るにその(ひと)()(した)()(らう)して()智慧(ちゑ)をこめて(なし)たる(もろもの)工作(わざ)管理(つかさど)るにいたらん(これ)また(くう)なり 20(われ)()をめぐらし()(した)にわが(らう)して(なし)たる(もろもろ)動作(はたらき)のために(のぞみ)(うしな)へり 21(いま)(ここ)(ひと)あり 智慧(ちゑ)知識(ちしき)才能(さいのう)をもて(らう)して(こと)をなさんに(つひ)には(これ)がために(らう)せざる(ひと)一切(すべて)(のこ)してその所有(もちもの)となさしめざるを()ざるなり (これ)また(くう)にして(おほい)(あし)22(それ)(ひと)はその()(した)(らう)して(なす)ところの(もろもろ)動作(はたらき)とその(こころ)(づかひ)によりて(なに)(うる)ところ()るや 23その()にある()には(つね)憂患(うれへ)あり その勞苦(ほねをり)(くる)し その(こころ)()()(やす)んずることあらず (これ)また(くう)なり 24(ひと)(くひ)(のみ)をなしその勞苦(ほねをり)によりて(こころ)(たの)しましむるは幸福(さいはひ)なる(こと)にあらず (これ)もまた(かみ)()より(いづ)るなり (われ)これを()25(たれ)かその(くら)ふところその歓樂(たのしみ)(きは)むるところに(おい)(われ)にまさる(もの)あらん 26(かみ)はその(こころ)(かな)(ひと)には智慧(ちゑ)知識(ちしき)喜樂(よろこび)(たま)(しか)れども(つみ)(をか)(ひと)には勞苦(らうく)(たま)ひて(あつ)めかつ(つむ)ことを()さしむ ()(それ)(かみ)(こころ)(かな)(ひと)(あた)へたまはんためなり (これ)もまた(くう)にして(かぜ)(とら)ふるがごとし

第三章

1(あめ)(した)(すべて)(こと)には()あり (すべて)事務(わざ)には(とき)あり 2(うま)るるに(とき)あり(しぬ)るに(とき)あり (うう)るに(とき)あり(うゑ)たる(もの)(ぬく)(とき)あり 3(ころ)すに(とき)あり(いや)すに(とき)あり (こぼ)つに(とき)あり(たつ)るに(とき)あり 4(なく)(とき)あり(わら)ふに(とき)あり (かなし)むに(とき)あり(をど)るに(とき)あり 5(いし)(なげう)つに(とき)あり(いし)(あつ)むるに(とき)あり (いだ)くに(とき)あり(いだ)くことをせざるに(とき)あり 6(うる)(とき)あり(うしな)ふに(とき)あり (たも)つに(とき)あり(すつ)るに(とき)あり 7(さく)(とき)あり(ぬふ)(とき)あり (もだ)すに(とき)あり(かた)るに(とき)あり 8(いつく)しむに(とき)あり(にく)むに(とき)あり (たたか)ふに(とき)あり(やはら)ぐに(とき)あり 9(はたら)(もの)はその(らう)して(なす)ところよりして(なに)(えき)()んや 10(われ)(かみ)()(ひと)にさづけて()をこれに(らう)せしめたまふところの事件(わざ)()たり 11(かみ)()したまふところは(みな)その(とき)(かな)ひて美麗(うるほ)しかり (かみ)はまた(ひと)(こころ)永遠(えいゑん)をおもふの思念(おもひ)(さづ)けたまへり (され)(ひと)(かみ)のなしたまふ作爲(わざ)(はじめ)より(をはり)まで(しり)(あきら)むることを()ざるなり 12(われ)()(ひと)(うち)にはその()にある(とき)快樂(たのしみ)をなし(ぜん)をおこなふより(ほか)善事(よきこと)はあらず 13また(ひと)はみな(くひ)(のみ)をなしその勞苦(らうく)によりて逸樂(たのしみ)()べきなり (これ)すなはち(かみ)賜物(たまもの)たり 14(われ)()(すべ)(かみ)のなしたまふ(こと)(かぎり)なく(そん)せん (これ)(くは)ふべき(ところ)なく(これ)(へら)すべきところ()(かみ)(これ)をなしたまふは(ひと)をしてその(まへ)(おそ)れしめんがためなり 15(むかし)ありたる(もの)(いま)もあり (のち)にあらん(もの)(すで)にありし(もの)なり (かみ)はその(おひ)やられし(もの)(もと)めたまふ 16(われ)また()(した)()るに審判(さばき)をおこなふ(ところ)邪曲(よこしま)なる(こと)あり 公義(ただしき)(おこな)ふところに邪曲(よこしま)なる(こと)あり 17(われ)すなはち(こころ)(いひ)けらく(かみ)義者(ただしきもの)惡者(あしきもの)とを(さば)きたまはん 彼處(かしこ)において(よろづ)(こと)(よろづ)所爲(わざ)(とき)あるなり 18(われ)また(こころ)(いひ)けらく(この)(こと)あるは(これ)()(ひと)のためなり (すなは)(かみ)(かく)()(ひと)(ため)して(これ)にその(けもの)のごとくなることを(みずか)(さと)らしめ(たま)ふなり 19()(ひと)(のぞ)むところの(こと)はまた(けもの)にも(のぞ)む この二者(ふたつ)(のぞ)むところの(こと)同一(ひとつ)にして(これ)(しね)(かれ)(しぬ)るなり (みな)同一(ひとつ)呼吸(こきふ)()れり (ひと)(けもの)にまさる(ところ)なし(みな)(くう)なり 20(みな)(ひとつ)(ところ)()(みな)(ちり)より()(みな)(ちり)にかへるなり 21(たれ)(ひと)(たましひ)(うへ)(のぼ)(けもの)(たましひ)()にくだることを(しら)22(され)(ひと)はその動作(はたらき)によりて逸樂(たのしみ)をなすに(しく)はなし (これ)その(ぶん)なればなり (われ)これを()る その()(のち)(こと)(たれ)かこれを(たづさ)へゆきて()さしむる(もの)あらんや

第四章

1(ここ)(われ)()(めぐら)して()(した)(おこな)はるる(もろもろ)虐遇(しへたげ)()たり 嗚呼(ああ)(しへた)げらる(もの)(なみだ)ながる (これ)(なぐさ)むる(もの)あらざるなり また(しへた)ぐる(もの)()には權力(ちから)あり 彼等(かれら)はこれを(なぐさ)むる(もの)あらざるなり 2(われ)(なほ)(いけ)生者(せいしや)よりも(すで)(しに)たる()(しや)をもて(さいはひ)なりとす 3またこの二者(ふたつ)よりも(さいはひ)なるは(いま)()にあらずして()(した)におこなはるる(あく)()()ざる(もの)なり 4(われ)また(もろもろ)勞苦(ほねをり)(もろもろ)工事(わざ)精巧(たくみ)とを()るに (これ)(ひと)のたがひに(ねた)みあひて()せる(もの)たるなり (これ)(くう)にして(かぜ)(とら)ふるが(ごと)5(おろか)なる(もの)()(つか)ねてその()(にく)(くら)6(ひら)()(もの)(みて)平穩(おだやか)にあるは 兩手(もろて)(もの)(みて)勞苦(ほねをり)(かぜ)(とら)ふるに(まさ)れり 7(われ)また()をめぐらし()(した)(くう)なる(こと)のあるを()たり 8(ここ)(ひと)あり(ただ)(ひとり)にして伴侶(とも)もなく()もなく兄弟(きやうだい)もなし (しか)るにその勞苦(らうく)(すべ)(きはまり)なくの()(とみ)(あく)ことなし (かれ)また(いは)嗚呼(ああ)(われ)(たれ)がために(らう)するや(なに)とて(われ)(こころ)(たのし)ませざるやと (これ)もまた(くう)にして勞力(ほねをり)(くるし)(もの)なり 9二人(ふたり)一人(ひとり)(まさ)()はその勞苦(ほねをり)のために(よき)(むくい)()ればなり 10(すなは)ちその跌倒(たふ)(とき)には一箇(ひとり)(ひと)その伴侶(とも)(たす)けおこすべし (され)孤身(ひとり)にして跌倒(たふる)(もの)(あはれ)なるかな(これ)(たす)けおこす(もの)なきなり 11(また)二人(ふたり)ともに(いぬ)れば温暖(あたたか)なり一人(ひとり)ならば(いか)温暖(あたたか)ならんや 12(ひと)もしその一人(ひとり)攻撃(せめうた)二人(ふたり)してこれに(あた)るべし 三根(みこ)(なは)容易(たやす)(きれ)ざるなり 13(まづし)くして(かしこ)童子(わらべ)(おい)(おろか)にして(いさめ)()れざる(わう)(まさ)14(かれ)牢獄(ひとや)より(いで)(わう)となれり (され)どその(くに)(うま)れし(とき)(まづし)かりき 15(われ)()(した)にあゆむところの群生(ぐんせい)(かの)(わう)(つぎ)てこれに(かは)りて(たつ)ところの童子(わらべ)とともにあるを()たり 16(たみ)はすべて際限(はてし)なし その(さき)にありし(もの)みな(しか)(のち)にきたる(もの)また(かれ)(よろこ)ばず (これ)(くう)にして(かぜ)(とら)ふるがごとし

第五章

1(なんぢ)ヱホバの(いへ)にいたる(とき)にはその(あし)(つつし)(すす)みよりて聽聞(きく)(おろか)なる(もの)犠牲(いけにへ)にまさる 彼等(かれら)はその(あく)をおこなひをることを(しら)ざるなり 2(なんぢ)(かみ)(まへ)にありては軽々(かろがろ)(くち)(ひら)くなかれ (こころ)(をさ)めて(みだり)(こと)をいだすなかれ ()(かみ)(てん)にいまし(なんぢ)()にをればなり (され)(なんぢ)言詞(ことば)(すくな)からしめよ 3(それ)(ゆめ)(こと)繁多(しげき)によりて(しやう)(おろか)なる(もの)(こゑ)(ことば)衆多(おほき)によりて(しる)るなり 4(なんぢ)(かみ)誓願(せいぐわん)をかけなば(これ)(はた)すことを(おこた)るなかれ (かみ)(おろか)なる(もの)(よろこ)びたまはざるなり (なんぢ)はそのかけし誓願(せいぐわん)(はた)すべし 5誓願(せいぐわん)をかけてこれを(はた)さざるよりは(むし)誓願(せいぐわん)をかけざるは(なんぢ)()6(なんぢ)(くち)をもて(なんぢ)()(つみ)(をか)さしむるなかれ (また)使者(つかひ)(まへ)(それ)過誤(あやまち)なりといふべからず (おそら)くは(かみ)(なんぢ)(ことば)(いか)(なんぢ)()所爲(わざ)(ほろぼ)したまはん 7(それ)(ゆめ)(おほ)ければ(くう)なる(こと)(おほ)言詞(ことば)(おほ)きもまた(しか)(なんぢ)ヱホバを(かしこ)8(なんぢ)(くに)(うち)(まづし)(もの)虐遇(しへたぐ)(こと)および公道(おほやけ)公義(ただしき)(まぐ)ることあるを()るもその(こと)あるを(あやし)むなかれ ()はその(くらゐ)(たか)(ひと)よりも(たか)(もの)ありてその(ひと)(うかが)へばなり(また)(それ)()よりも(たか)(もの)あるなり 9(くに)利益(りえき)(まつた)(これ)にあり (すなは)(わう)(しや)農事(のうじ)(つと)むるにあるなり 10(ぎん)(この)(もの)(ぎん)(あく)こと()豊富(ゆたか)ならんことを(この)(もの)()るところ()らず (これ)また(くう)なり 11貨財(もちもの)()せばこれを()(もの)()すなり その所有主(もちぬし)(ただ)()にこれを()るのみ その(ほか)(なに)(えき)かあらん 12(らう)する(もの)はその(くら)ふところは(おほ)きも(すくな)きも(こころよ)(ねむ)るなり (しか)れども(とめる)(もの)はその貨財(もちもの)(おほ)きがために(ねむ)ることを()せず 13(われ)また()(した)(うれへ)(おほい)なる(もの)あるを()たり すなはち財寶(たから)のこれを(たくは)ふる(もの)()(がい)をおよぼすことある(これ)なり 14その財寶(たから)はまた災難(わざはひ)によりて失落(うせゆく)ことあり (され)ばその(ひと)()(まうく)ることあらんもその()には(なに)(もの)もあることなし 15(ひと)(はは)(はら)より(いで)(きた)りしごとくにまた裸體(はだか)にして(かへ)りゆくべし その勞苦(ほねをり)によりて()たる(もの)毫厘(ひとつ)()にとりて(たづさ)へゆくことを()ざるなり 16(ひと)(まつた)くその(きた)りしごとくにまた(さり)ゆかざるを()(これ)また(うれへ)(おほい)なる(もの)なり (そもそも)(かぜ)(おふ)(らう)する(もの)(なに)(えき)をうること(あら)んや 17(ひと)生命(いのち)(かぎり)黑暗(くらやみ)(うち)(くら)ふことを()す また憂愁(うれへ)(おほ)かり 疾病(やまひ)()にあり 憤怒(いかり)あり 18()(われ)(かく)()たり (ひと)()にとりて(ぜん)かつ()なる(もの)(かみ)にたまはるその生命(いのち)(きはみ)(くひ)(のみ)をなし (かつ)その()(した)(らう)して(はたら)ける勞苦(らうく)によりて()るところの福禄(さいはひ)()(うく)るの(こと)なり(これ)その(ぶん)なればなり 19何人(なにびと)によらず(かみ)がこれに(とみ)(たから)(あた)へてそれに(はむ)ことを()せしめ またその(ぶん)()りその勞苦(らうく)によりて快樂(たのしみ)()ることをせさせたまふあれば その(こと)(かみ)賜物(たまもの)たるなり 20かかる(ひと)はその年齢(よはひ)()(おぼ)ゆること(ふか)からず ()(かみ)これが(こころ)(よろこ)ぶところにしたがひて(こたふ)ることを()したまへばなり

第六章

1(われ)()るに()(した)一件(ひとつ)(うれへ)あり(これ)(ひと)(うち)(つね)なる(もの)なり 2すなはち(かみ)(とみ)(たから)(たふとき)(ひと)にあたへて その(こころ)(した)(もの)一件(ひとつ)もこれに(かく)ることなからしめたまひながらも (かみ)またその(ひと)(これ)(くら)ふことを()せしめたまはずして 他人(たにん)のこれを(くら)ふことあり (これ)(くう)なり(あし)(やまひ)なり 3假令(たとひ)(ひと)(ひやく)(にん)()(まう)けまた長壽(いのちながく)してその年齢(よはひ)()(おほ)からんも (もし)その(こころ)景福(さいはひ)滿足(まんぞく)せざるか(また)(はうむ)らるることを()ざるあれば (われ)()(りゆう)(ざん)()はその(ひと)にまさるたり 4(それ)(りゆう)(ざん)()はその(きた)ること(むな)しくして黑暗(くらやみ)(うち)(さり)ゆきその()黑暗(くらやみ)(うち)にかくるるなり 5(また)(これ)()()ることなく(もの)()ることなければ(かれ)よりも安泰(やすらか)なり 6(ひと)壽命(いのち)(せん)(ねん)(ばい)するとも福祉(さいはひ)(かうむ)れるにはあらず (みな)一所(ひとつところ)()くにあらずや 7(ひと)勞苦(ほねをり)(みな)その(くち)のためなり その(こころ)はなほも(あか)ざるところ()8(かしこき)(もの)なんぞ愚者(おろかなるもの)(まさ)るところあらんや また世人(よのひと)(まへ)歩行(あゆむ)ことを(しる)ところの貧者(まづしきもの)(なに)(まさ)るところ(あら)んや 9()()事物(ものごと)(こころ)のさまよひ(ある)くに(まさ)るなり (これ)また(くう)にして(かぜ)(とら)ふるがごとし 10(かつ)(あり)(もの)(ひさ)しき(さき)にすでにその()(つけ)られたり (すなは)(これ)(ひと)なりと()(され)(これ)はかの自己(おのれ)よりも(ちから)(つよ)(もの)(あらそ)ふことを()ざるなり 11衆多(おほく)言論(ことば)ありて虚浮(むなし)(こと)()(され)(ひと)(なに)(えき)あらんや 12(ひと)はその虚空(むなし)生命(いのち)()(かげ)のごとくに(おく)るなり (たれ)かこの()において如何(いか)なる(こと)(ひと)のために()(もの)なるやを(しら)(たれ)かその()(のち)()(した)にあらんところの(こと)(ひと)(つげ)うる(もの)あらんや

第七章

1()(よき)(あぶら)(まさ)(しぬ)()(うま)るる()(まさ)2哀傷(かなしみ)(いへ)(いる)宴樂(ふるまひ)(いへ)(いる)(まさ)()一切(すべて)(ひと)(をはり)かくのごとくなればなり (いけ)(もの)またこれをその(こころ)にとむるあらん 3悲哀(かなしみ)嬉笑(わらひ)(まさ)()(かほ)憂色(うれひ)(おぶ)るなれば(こころ)(よき)にむかへばなり 4(かしこ)(もの)(こころ)哀傷(かなしみ)(いへ)にあり (おろか)なる(もの)(こころ)喜樂(たのしみ)(いへ)にあり 5(かしこ)(もの)勸責(いましめ)(きく)(おろか)なる(もの)歌詠(うた)(きく)(まさ)るなり 6(おろか)なる(もの)(わらひ)(かま)(した)(もゆ)荊棘(いばら)(おと)のごとし(これ)また(くう)なり 7(かしこ)(ひと)虐待(しへたぐ)(こと)によりて(きやう)するに(いた)るあり賄賂(まひなひ)(ひと)(こころ)(そこ)なふ 8(こと)(をはり)はその(はじめ)よりも()容忍(しのぶ)(こころ)ある(もの)傲慢(ほこる)(こころ)ある(もの)(まさ)9(なんぢ)()(はや)くして(いか)るなかれ (いかり)(おろか)なる(もの)(むね)にやどるなり 10(むかし)(いま)にまさるは何故(なにゆゑ)ぞやと(なんぢ)(いふ)なかれ (なんぢ)(かか)(とひ)をなすは(これ)智慧(ちゑ)よりいづる(もの)にあらざるなり 11智慧(ちゑ)(うへ)財產(ざいさん)をかぬれば()(しか)れば()()者等(ものども)利益(りえき)おほかるべし 12智慧(ちゑ)()護庇(まもり)となり銀子(かね)()護庇(まもり)となる (され)智惠(ちゑ)はまたこれを(もて)(もの)生命(いのち)(たもた)しむ (これ)知識(ちしき)殊勝(すぐれ)たるところなり 13(なんぢ)(かみ)作爲(わざ)(かんが)ふべし (かみ)(まげ)たまひし(もの)(たれ)かこれを(なほ)くすることを()14幸福(さいはひ)ある()には(たのし)禍患(わざはひ)ある()には(かんが)へよ (かみ)はこの二者(ふたつ)をあひ交錯(まじへ)(くだ)したまふ ()(ひと)をしてその(のち)(こと)()ることなからしめんためなり 15(われ)この(くう)()にありて各樣(もろもろ)(こと)()たり 義人(ただしきひと)()をおこなひて(ほろ)ぶるあり 惡人(あしきひと)(あしき)をおこなひて長壽(いのちながき)あり 16(なんぢ)(ただしき)(すぐ)るなかれまた(かしこき)(すぐ)るなかれ (なんぢ)なんぞ()(ほろぼ)すべけんや 17(なんぢ)(あしき)(すぐ)るなかれまた(おろか)なる(なか)(なんぢ)なんぞ(とき)いたらざるに(しぬ)べけんや 18(なんぢ)(これ)(とる)()しまた(かれ)にも()(はな)すなかれ (かみ)(かしこ)(もの)はこの一切(すべて)(もの)(うち)より(のが)(いづ)るなり 19智慧(ちゑ)智者(ちしや)(たす)くることは(まち)豪雄(つよき)(もの)(にん)にまさるなり 20正義(ただしく)して(ぜん)をおこなひ(つみ)(をか)すことなき(ひと)()にあることなし 21(ひと)言出(いひいだ)言詞(ことば)には(すべ)(こころ)をとむる(なか)(おそら)くは(なんぢ)(しもべ)(なんぢ)(のろ)ふを(きく)こともあらん 22(なんぢ)(しばしば)(ひと)(のろ)ふことあるは(なんぢ)(こころ)(しる)ところなり 23(われ)智慧(ちゑ)をもてこの一切(すべて)(こと)(こころ)(われ)智者(ちしや)とならんと(いひ)たりしが(とほ)くおよばざるなり 24事物(ものごと)()(とほ)くして(はなは)(ふか)(たれ)かこれを(きは)むることを()25(われ)()をめぐらし(こころ)をもちひて(もの)()(こと)(さぐ)智慧(ちゑ)道理(どうり)(もと)めんとし (また)(あく)()たると愚癡(ぐち)狂妄(きやうまう)たるを(しら)んとせり 26(われ)(さと)れり 婦人(をんな)のその(こころ)(わな)(あみ)のごとくその()縲絏(しばりなは)のごとくなる(もの)(これ)()よりも(にが)(もの)なり (かみ)(よろこ)びたまふ(もの)(これ)(さく)ることを()罪人(つみびと)(これ)(とらへ)らるべし 27傳道(でんだう)(しや)()()(われ)その(すう)(しら)んとして一々(いちいち)(かぞ)へてつひに此事(このこと)(さと)28(われ)なほ(たづ)ねて()ざる(もの)(これ)なり (われ)(せん)(にん)(うち)には一箇(ひとり)男子(をとこ)()たれども その(かず)(うち)には一箇(ひとり)女子(をんな)をも()ざるなり 29(われ)(さと)れるところは(ただ)(これ)のみ (すなは)(かみ)(ひと)正直(ただしき)(もの)(つく)りたまひしに(ひと)衆多(おほく)計略(てだて)案出(かんがへいだ)せしなり

第八章

1(たれ)智者(ちしや)(しか)(たれ)事物(ものごと)()(とく)ことを()(ひと)智慧(ちゑ)はその(ひと)(かほ)光輝(ひかり)あらしむ (また)その粗暴(あらき)(かほ)變改(あらたまる)べし 2(われ)()(わう)(めい)(まも)るべし(すで)(かみ)をさして(ちか)ひしことあれば(しか)るべきなり 3(はや)まりて(わう)(まへ)()ることなかれ (あし)(こと)につのること(なか)()(かれ)(すべ)てその(この)むところを(なせ)ばなり 4(わう)言語(ことば)には權力(ちから)あり (され)(たれ)(これ)(なんぢ)(いか)をなすやといふことを()5命令(いひつけ)(まも)(もの)禍患(わざはひ)(うく)るに(いた)らず 智者(ちしや)(こころ)時期(とき)判斷(さばき)(しる)なり 6(よろづ)事務(わざ)には(とき)あり判斷(さばき)あり(これ)をもて(ひと)(おほい)なる禍患(わざはひ)をうくるに(いた)るあり 7(ひと)(のち)にあらんところの(こと)(しら)ず また(たれ)如何(いか)なる(こと)のあらんかを(これ)(つぐ)(もの)あらん 8霊魂(たましひ)掌管(つかさどり)霊魂(たましひ)(とど)めうる(ひと)あらず (ひと)はその(しぬ)()には權力(ちから)あること()(この)戰爭(たたかひ)には釋放(ゆるしはな)たるる(もの)あらず (また)(ざい)(あく)はこれを(おこな)(もの)(すく)ふことを()せざるなり 9(われ)この一切(すべて)(こと)()また()(した)におこなはるる(もろもろ)(こと)(こころ)(もち)ひたり(とき)としては此人(このひと)彼人(かのひと)(をさ)めてこれに(がい)(かうむ)らしむることあり 10(われ)()しに惡人(あくにん)(はうむ)られて安息(やすみ)にいるあり また(ぜん)をおこなふ(もの)聖所(きよきところ)(はな)れてその(まち)(わす)らるるに(いた)るあり(これ)また(くう)なり 11(あし)(こと)(むくい)(すみやか)にきたらざるが(ゆゑ)世人(よのひと)(こころ)(もつぱら)にして(あく)をおこなふ 12(つみ)(をか)(もの)百次(ももたび)(あく)をなして(なほ)長命(いのちながき)あれども (われ)()(かみ)(かしこ)みてその(まへ)畏怖(おそれ)をいだく(もの)には幸福(さいはひ)あるべし 13(ただ)惡人(あくにん)には幸福(さいはひ)あらず またその生命(いのち)(なが)からずして(かげ)のごとし ()(かみ)(まへ)畏怖(おそれ)をいだくことなければなり 14(われ)()(した)(くう)なる(こと)のおこなはるるを()たり (すなは)義人(ただしきひと)にして惡人(あしきひと)()べき(ところ)()(もの)あり 惡人(あしきひと)にして義人(ただしきひと)()べきところに()(もの)あり (われ)(いへ)(これ)もまた(くう)なり 15(ここ)(おい)(われ)喜樂(たのしみ)()()(くひ)(のみ)して(たのし)むよりも()(つか)()(した)にあらざればなり (ひと)(らう)して()(もの)(うち)(これ)こそはその()(した)にて(かみ)にたまはる生命(いのち)()(あひだ)その()(はな)れざる(もの)なれ 16(ここ)(われ)(こころ)をつくして智慧(ちゑ)()らんとし()(なす)ところの(こと)(きは)めんとしたり (ひと)(よる)(ひる)もその()をとぢて(ねむ)ることをせざるなり 17(われ)(かみ)(もろもろ)作爲(わざ)()しが(ひと)()(した)におこなはるるところの(こと)(きは)むるあたはざるなり (ひと)これを(きは)めんと(らう)するもこれを(きは)むることを()(かつ)(また)智者(ちしや)ありてこれを()ると(おも)ふもこれを(きは)むることあたはざるなり

第九章

1(われ)はこの一切(すべて)(こと)(こころ)(もち)ひてこの一切(すべて)(こと)(あきら)めんとせり (すなは)(ただし)(もの)(かしこ)(もの)およびかれらの(なす)ところは(かみ)()にあるなるを(あきら)めんとせり (いつくし)むや(にく)むやは(ひと)これを()ることなし一切(すべて)(こと)はその(さき)にあるなり 2(すべて)(ひと)(のぞ)(ところ)(みな)同じ (ただし)(もの)にも(あし)(もの)にも(よき)(もの)にも (きよき)(もの)にも(けが)れたる(もの)にも 犠牲(いけにへ)(ささ)ぐる(もの)にも犠牲(いけにへ)(ささ)げぬ(もの)にもその(のぞ)むところの(こと)同一(ひとつ)なり (よき)(ひと)罪人(つみびと)(こと)ならず (ちかひ)をなす(もの)(ちかひ)をなすことを(おそ)るる(もの)(こと)ならず 3(すべて)(ひと)(のぞ)むところの(こと)同一(ひとつ)なるは(これ)()(した)におこなはるる(こと)(うち)(あし)(もの)たり (そもそも)(ひと)(こころ)には(あし)(こと)(みた)をり その(いけ)(あひだ)(こころ)狂妄(きやうまう)(いだ)くあり (のち)には(しにし)(もの)(うち)()くなり 4(およそ)(いき)(もの)(うち)(つらな)(もの)(のぞみ)あり ()(いけ)(いぬ)(しせ)獅子(しし)(まさ)ればなり 5生者(いけるもの)はその(しな)んことを()(され)(しぬ)(もの)(なに)(ごと)をも(しら)ずまた應報(むくい)をうくることも(かさね)てあらず その記憶(おぼえ)らるる(こと)(つひ)(わす)れらるるに(いた)6またその(いつくしみ)(にくしみ)(ねたみ)(すで)(きえ)うせて彼等(かれら)()(した)におこなはるる(こと)最早(もはや)何時(いつ)までも關係(かかはる)ことあらざるなり 7(なんぢ)(ゆき)喜悦(よろこび)をもて(なんぢ)のパンを(くら)(たのし)(こころ)をも(なんぢ)(さけ)()()(かみ)(ひさ)しく(なんぢ)行爲(わざ)嘉納(よみし)たまへばなり 8(なんぢ)衣服(きもの)(つね)(しろ)からしめよ (なんぢ)(かしら)(あぶら)(たえ)しむるなかれ 9()(した)(なんぢ)(たま)はるこの(なんぢ)(くう)なる生命(いのち)()(あひだ)(なんぢ)その(あい)する(つま)とともに(よろこ)びて度生(くら)(なんぢ)(くう)なる生命(いのち)()(あひだ)しかせよ (これ)(なんぢ)()にありて(うく)(ぶん)(なんぢ)()(した)(はたら)ける勞苦(らうく)によりて()(もの)なり 10(すべ)(なんぢ)()(たふ)ることは(ちから)をつくしてこれを()()(なんぢ)(ゆか)んところの陰府(よみ)には工作(わざ)計謀(はかりごと)知識(ちしき)智慧(ちゑ)もあることなければなり 11(われ)また()をめぐらして()(した)()るに 迅速(とき)(もの)(はし)ることに(かつ)にあらず強者(つよきもの)戰爭(たたかひ)(かつ)にあらず 智慧(かしこき)(もの)食物(くひもの)(うる)にあらず 明哲(さとき)(ひと)財貨(たから)(うる)にあらず 知識(ものしり)(びと)恩顧(めぐみ)(うる)にあらず (すべ)(ひと)(のぞ)むところの(こと)(とき)ある(もの)偶然(ぐうぜん)なる(もの)なり 12(ひと)はまたその(とき)(しら)(うを)(わざはひ)(あみ)にかかり(とり)鳥羅(とりあみ)にかかるが(ごと)くに()(ひと)もまた禍患(わざはひ)(とき)(はか)らざるに(のぞ)むに(およ)びてその禍患(わざはひ)にかかるなり 13(われ)()(した)(この)(こと)()智慧(ちゑ)となし(おほい)なる(こと)となせり 14すなはち(ここ)一箇(ひとつ)(ちひさ)(まち)ありて その(うち)(ひと)(すくな)かりしが(おほい)なる(わう)これに(せめ)きたりてこれを(かこ)みこれに(むか)ひて(おほい)なる雲梯(うんてい)(たて)たり 15(とき)(まち)(うち)一人(ひとり)智慧(ちゑ)ある(まづ)しき(ひと)ありてその智慧(ちゑ)をもて(まち)(すく)へり (しか)るに(たれ)ありてその(まづ)しき(ひと)記念(おもふ)もの(なか)りし 16(ここ)において(われ)(いへ)智慧(ちゑ)勇力(ちから)(まさ)(もの)なりと (ただ)しかの(まづ)しき(ひと)智慧(ちゑ)藐視(かろんぜ)られその言詞(ことば)(きか)れざりしなり 17(しづか)(きけ)智者(ちしや)(ことば)愚者(ぐしや)君長(つかさ)たる(もの)號呼(よばはり)(まさ)18智慧(ちゑ)(いくさ)(うつは)(すぐ)れり一人(ひとり)惡人(あくにん)許多(あまた)善事(よきわざ)(そこな)ふなり

第十章

1(しに)(はひ)和香者(かをりづくり)(あぶら)(くさ)くしこれを(くさ)らす 少許(すこし)愚癡(ぐち)智慧(ちゑ)尊榮(ほまれ)よりも(おも)2智者(ちしや)(こころ)はその(みぎ)愚者(ぐしや)(こころ)はその(ひだり)()くなり 3愚者(ぐしや)(いで)(みち)(ゆく)にあたりてその(こころ)たらず自己(おのれ)()なることを一切(すべて)(ひと)()4君長(つかさ)たる(もの)(なんぢ)にむかひて(はら)たつとも(なんぢ)本處(ところ)(はな)るる(なか)温順(をんじゆん)(おほい)なる(とが)(しやう)ぜしめざるなり 5(われ)()(した)(ひとつ)患事(うれへ)あるを()たり(これ)君長(つかさ)たる(もの)よりいづる過誤(あやまち)()たり 6すなはち(おろか)なる(もの)(たか)(くらゐ)(おき)かれ(たふと)(もの)(ひく)(ところ)(すわ)7(われ)また(しもべ)たる(もの)(むま)()王侯(きみ)たる(もの)(しもべ)のごとく()(うへ)(あゆ)むを()たり 8(あな)()(もの)はみづから(これ)におちいり石垣(いしがき)(こぼ)(もの)(へび)(かま)れん 9(いし)(うち)くだく(もの)はそれがために(きず)(うけ)()()(もの)はそれがために危難(あやうき)(あは)10(てつ)(にぶ)くなれるあらんにその()(とが)ざれば(ちから)(おほ)(これ)にもちひざるを()智慧(ちゑ)(こう)(なす)(えき)あるなり 11(へび)もし呪術(まじなひ)(きか)ずして(かま)呪術師(まじなひし)(よう)なし 12智者(ちしや)(くち)言語(ことば)恩徳(めぐみ)あり 愚者(ぐしや)(くちびる)はその()(のみ)ほろぼす 13愚者(ぐしや)(くち)(ことば)(はじめ)(おろか)なり またその(ことば)(をはり)狂妄(きやうまう)にして(あし)14愚者(ぐしや)言詞(ことば)(おほ)くす (ひと)(のち)(あら)(こと)(しら)(たれ)かその()(のち)にあらんところの(こと)(のぶ)るを()15愚者(ぐしや)勞苦(ほねをり)はその()(つか)らす(かれ)(まち)にいることをも(しら)ざるなり 16その(わう)童子(わらべ)にしてその侯伯(きみたち)(あした)(しよく)をなす(くに)(なんぢ)(わざはひ)なるかな 17その(わう)貴族(うまびと)()またその侯伯(きみたち)(ゑひ)(たのし)むためならず(ちから)(おぎな)ふために(ほど)()(とき)(しよく)をなす(くに)(なんぢ)(さいはひ)なるかな 18懶惰(ものうき)ところよりして屋背(やね)()()(たれ)をるところよりして家屋(いへ)()19食事(しよくじ)をもて(わら)(よろこ)ぶの(もの)となし(さけ)をもて快樂(たのしみ)()れり 銀子(かね)(なに)(ごと)にも(おう)ずるなり 20(なんぢ)(こころ)(うち)にても(わう)たる(もの)(のろ)ふなかれ また寝室(ねや)にても(とめる)(もの)(のろ)なかれ 天空(そら)(とり)その(こゑ)(つた)羽翼(つばさ)ある(もの)その(こと)(ふる)べければなり

第十一章

1(なんぢ)糧食(くひもの)(みづ)(うへ)()げよ (おほ)くの()(のち)(なんぢ)ふたたび(これ)()2(なんぢ)一箇(ひとつ)(ぶん)(しち)また(はち)にわかて ()(なんぢ)如何(いか)なる災害(わざはひ)()にあらんかを(しら)ざればなり 3(くも)もし(あめ)(みつ)るあれば()(そそ)ぐ また()もし(みなみ)(きた)(たふ)るるあればその()(たふ)れたる(ところ)にあるべし 4(かぜ)(うかが)(もの)種播(たねまく)ことを()(くも)(のぞ)(もの)(かる)ことを()5(なんぢ)(かぜ)(みち)如何(いか)なるを(しら)ず また(はら)める(をんな)(たい)にて(ほね)如何(いか)生長(そだ)つを(しら)(かく)(なんぢ)萬事(ばんじ)(なし)たまふ(かみ)作爲(わざ)(しる)ことなし 6(なんぢ)(あした)(たね)()(ゆふべ)にも()(やすむ)るなかれ ()はその(みの)(もの)(これ)なるか(かれ)なるか(また)二者(ふたつ)ともに(よく)なるや(なんぢ)これを(しら)ざればなり 7(それ)光明(ひかり)(こころよ)(もの)なり ()()()るは(たの)8(ひと)(おほ)くの(とし)(いき)ながらへてその(うち)(すべ)幸福(さいはひ)なるもなほ幽暗(くらき)()(おも)ふべきなり ()はその(かず)(おほ)かるべければなり (すべ)(きた)らんところの(こと)(みな)(くう)なり 9少者(わかきもの)(なんぢ)(わか)(とき)快樂(たのしみ)をなせ (なんぢ)(わか)()(なんぢ)(こころ)(よろこ)ばしめ(なんぢ)(こころ)(みち)(あゆ)(なんぢ)()()るところを()せよ (ただ)しその(もろもろ)行爲(わざ)のために(かみ)(なんぢ)(さば)きたまはんと(しる)べし 10(され)(なんぢ)(こころ)より(うれひ)()(なんぢ)()より(あし)(もの)(のぞ)(わか)(とき)(さかり)なる(とき)はともに(くう)なればなり

第十二章

1(なんぢ)(わか)()(なんぢ)造主(つくりぬし)(おぼ)えよ (すなは)(あし)()(きた)(とし)のよりて(われ)(はや)(なに)(たのし)むところ()しと(いふ)にいたらざる(さき) 2また()光明(ひかり)(つき)(ほし)(くら)くならざる(さき) (あめ)(のち)(くも)(かへ)らざる(うち)(なんぢ)(しか)せよ 3その()いたる(とき)(いへ)(まも)(もの)(ふる)(ちから)ある(ひと)(かが)(ひき)(こなす)(もの)(すくな)きによりて(やす)(まど)より(うかが)(もの)()(くら)むなり 4(ひき)こなす(おと)(ひく)くなれば(ちまた)(もん)()づ その(ひと)(とり)(こゑ)(おき)あがり (うた)女子(むすめ)はみな()(ひく)くす 5かかる人々(ひとびと)(たか)(もの)(おそ)(おそろ)しき(もの)(おほ)(みち)にあり 巴旦杏(はだんきやう)(はな)()くまた(いなご)もその()(おも)くその()(よく)(すた)(ひと)永遠(えいゑん)(いへ)にいたらんとすれば哭婦(なきめ)(ちまた)にゆきかふ 6(しか)(とき)には(しろかね)(ひも)()(こがね)(さら)(くだ)吊瓶(つるべ)(いづみ)(そば)(やぶ)轆轤(くるま)()(かたはら)(われ)7(しか)して(ちり)(もと)(ごと)くに(つち)(かへ)霊魂(たましひ)はこれを(さづ)けし(かみ)にかへるべし 8傳道(でんだう)(しや)()(くう)(くう)なるかな(みな)(くう)なり 9また傳道(でんだう)(しや)智慧(ちゑ)あるが(ゆゑ)(つね)知識(ちしき)(たみ)(をし)へたり (かれ)(こころ)をもちひて(たづ)(きは)許多(あまた)箴言(しんげん)(つく)れり 10傳道(でんだう)(しや)(つと)めて佳美(うるはし)言詞(ことば)(もと)めたり その(かき)しるしたる(もの)正直(ただしく)して眞實(まこと)言語(ことば)なり 11智者(ちしや)言語(ことば)(とげ)(むち)のごとく 會衆(くわいしう)()(うち)たる(くぎ)のごとくにして 一人(ひとり)牧者(ぼくしゃ)より(いで)(もの)なり 12わが()是等(これら)より訓誡(いましめ)をうけよ (おほ)(しよ)をつくれば(はてし)なし (おほ)(まな)べば(からだ)(つか)13(こと)全體(ぜんたい)()する(ところ)(きく)べし (いは)(かみ)(おそ)れその誡命(いましめ)(まも)(これ)(すべて)(ひと)(ほん)(ぶん)たり 14(かみ)一切(すべて)行爲(わざ)ならびに一切(すべて)(かく)れたる(こと)(よし)(あし)ともに審判(さばき)たまふなり