マタイによる福音書

第一章

1アブラハムの()であるダビデの()、イエス・キリストの系図(けいず)
2アブラハムはイサクの(ちち)であり、イサクはヤコブの(ちち)、ヤコブはユダとその兄弟(きょうだい)たちとの(ちち)3ユダはタマルによるパレスとザラとの(ちち)、パレスはエスロンの(ちち)、エスロンはアラムの(ちち)4アラムはアミナダブの(ちち)、アミナダブはナアソンの(ちち)、ナアソンはサルモンの(ちち)5サルモンはラハブによるボアズの(ちち)、ボアズはルツによるオベデの(ちち)、オベデはエッサイの(ちち)6エッサイはダビデ(おう)(ちち)であった。
ダビデはウリヤの(つま)によるソロモンの(ちち)であり、 7ソロモンはレハベアムの(ちち)、レハベアムはアビヤの(ちち)、アビヤはアサの(ちち)8アサはヨサパテの(ちち)、ヨサパテはヨラムの(ちち)、ヨラムはウジヤの(ちち)9ウジヤはヨタムの(ちち)、ヨタムはアハズの(ちち)、アハズはヒゼキヤの(ちち)10ヒゼキヤはマナセの(ちち)、マナセはアモンの(ちち)、アモンはヨシヤの(ちち)11ヨシヤはバビロンへ(うつ)されたころ、エコニヤとその兄弟(きょうだい)たちとの(ちち)となった。
12バビロンへ(うつ)されたのち、エコニヤはサラテルの(ちち)となった。サラテルはゾロバベルの(ちち)13ゾロバベルはアビウデの(ちち)、アビウデはエリヤキムの(ちち)、エリヤキムはアゾルの(ちち)14アゾルはサドクの(ちち)、サドクはアキムの(ちち)、アキムはエリウデの(ちち)15エリウデはエレアザルの(ちち)、エレアザルはマタンの(ちち)、マタンはヤコブの(ちち)16ヤコブはマリヤの(おっと)ヨセフの(ちち)であった。このマリヤからキリストといわれるイエスがお(うま)れになった。
17だから、アブラハムからダビデまでの(だい)()わせて十四(だい)、ダビデからバビロンへ(うつ)されるまでは十四(だい)、そして、バビロンへ(うつ)されてからキリストまでは十四(だい)である。
18イエス・キリストの誕生(たんじょう)次第(しだい)はこうであった。(はは)マリヤはヨセフと婚約(こんやく)していたが、まだ一緒(いっしょ)にならない(まえ)に、聖霊(せいれい)によって身重(みおも)になった。 19(おっと)ヨセフは(ただ)しい(ひと)であったので、彼女(かのじょ)のことが(おおや)けになることを(この)まず、ひそかに離縁(りえん)しようと決心(けっしん)した。 20(かれ)がこのことを(おも)いめぐらしていたとき、(しゅ)使(つかい)(ゆめ)(あらわ)れて()った、「ダビデの()ヨセフよ、心配(しんぱい)しないでマリヤを(つま)として(むか)えるがよい。その胎内(たいない)宿(やど)っているものは聖霊(せいれい)によるのである。 21彼女(かのじょ)(おとこ)()()むであろう。その()をイエスと()づけなさい。(かれ)は、おのれの(たみ)をそのもろもろの(つみ)から(すく)(もの)となるからである」。 22すべてこれらのことが(おこ)ったのは、(しゅ)預言者(よげんしゃ)によって()われたことの成就(じょうじゅ)するためである。すなわち、
23()よ、おとめがみごもって(おとこ)()()むであろう。
その()はインマヌエルと()ばれるであろう」。
これは、「(かみ)われらと(とも)にいます」という意味(いみ)である。 24ヨセフは(ねむ)りからさめた(のち)に、(しゅ)使(つかい)(めい)じたとおりに、マリヤを(つま)(むか)えた。 25しかし、()(うま)れるまでは、彼女(かのじょ)()ることはなかった。そして、その()をイエスと()づけた。

第二章

1イエスがヘロデ(おう)(だい)に、ユダヤのベツレヘムでお(うま)れになったとき、()よ、(ひがし)からきた博士(はかせ)たちがエルサレムに()いて()った、 2「ユダヤ(じん)(おう)としてお(うま)れになったかたは、どこにおられますか。わたしたちは(ひがし)(ほう)でその(ほし)()たので、そのかたを(おが)みにきました」。 3ヘロデ(おう)はこのことを()いて不安(ふあん)(かん)じた。エルサレムの人々(ひとびと)もみな、同様(どうよう)であった。 4そこで(おう)祭司長(さいしちょう)たちと(たみ)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちとを全部(ぜんぶ)(あつ)めて、キリストはどこに(うま)れるのかと、(かれ)らに()いただした。 5(かれ)らは(おう)()った、「それはユダヤのベツレヘムです。預言者(よげんしゃ)がこうしるしています、
6『ユダの()、ベツレヘムよ、
おまえはユダの(きみ)たちの(なか)で、
(けっ)して(もっと)(ちい)さいものではない。
おまえの(なか)からひとりの(きみ)()て、
わが(たみ)イスラエルの牧者(ぼくしゃ)となるであろう』」。
7そこで、ヘロデはひそかに博士(はかせ)たちを()んで、(ほし)(あらわ)れた(とき)について(くわ)しく()き、 8(かれ)らをベツレヘムにつかわして()った、「()って、その(おさ)()のことを(くわ)しく調(しら)べ、()つかったらわたしに()らせてくれ。わたしも(おが)みに()くから」。 9(かれ)らは(おう)()うことを()いて()かけると、()よ、(かれ)らが東方(とうほう)()(ほし)が、(かれ)らより(さき)(すす)んで、(おさ)()のいる(ところ)まで()き、その(うえ)にとどまった。 10(かれ)らはその(ほし)()て、非常(ひじょう)(よろこ)びにあふれた。 11そして、(いえ)にはいって、(はは)マリヤのそばにいる(おさ)()()い、ひれ()して(おが)み、また、(たから)(はこ)をあけて、黄金(おうごん)乳香(にゅうこう)没薬(もつやく)などの(おく)(もの)をささげた。 12そして、(ゆめ)でヘロデのところに(かえ)るなとのみ()げを()けたので、()(みち)をとおって自分(じぶん)(くに)(かえ)って()った。
13(かれ)らが(かえ)って()ったのち、()よ、(しゅ)使(つかい)(ゆめ)でヨセフに(あらわ)れて()った、「()って、(おさ)()とその(はは)()れて、エジプトに()げなさい。そして、あなたに()らせるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが(おさ)()(さが)()して、(ころ)そうとしている」。 14そこで、ヨセフは()って、(よる)(あいだ)(おさ)()とその(はは)とを()れてエジプトへ()き、 15ヘロデが()ぬまでそこにとどまっていた。それは、(しゅ)預言者(よげんしゃ)によって「エジプトからわが()()()した」と()われたことが、成就(じょうじゅ)するためである。
16さて、ヘロデは博士(はかせ)たちにだまされたと()って、非常(ひじょう)立腹(りっぷく)した。そして人々(ひとびと)をつかわし、博士(はかせ)たちから(たし)かめた(とき)(もとづ)いて、ベツレヘムとその附近(ふきん)地方(ちほう)とにいる二(さい)以下(いか)(おとこ)()を、ことごとく(ころ)した。 17こうして、預言者(よげんしゃ)エレミヤによって()われたことが、成就(じょうじゅ)したのである。
18(さけ)()(おお)いなる(かな)しみの(こえ)
ラマで(きこ)えた。
ラケルはその()らのためになげいた。
()らがもはやいないので、
(なぐさ)められることさえ(ねが)わなかった」。
19さて、ヘロデが()んだのち、()よ、(しゅ)使(つかい)がエジプトにいるヨセフに(ゆめ)(あらわ)れて()った、 20()って、(おさ)()とその(はは)()れて、イスラエルの()()け。(おさ)()(いのち)をねらっていた人々(ひとびと)は、()んでしまった」。 21そこでヨセフは()って、(おさ)()とその(はは)とを()れて、イスラエルの()(かえ)った。 22しかし、アケラオがその(ちち)ヘロデに(かわ)ってユダヤを(おさ)めていると()いたので、そこへ()くことを(おそ)れた。そして(ゆめ)でみ()げを()けたので、ガリラヤの地方(ちほう)退(しりぞ)き、 23ナザレという(まち)()って()んだ。これは預言者(よげんしゃ)たちによって、「(かれ)はナザレ(びと)()ばれるであろう」と()われたことが、成就(じょうじゅ)するためである。

第三章

1そのころ、バプテスマのヨハネが(あらわ)れ、ユダヤの荒野(あらの)(おしえ)()べて()った、 2()(あらた)めよ、天国(てんごく)(ちか)づいた」。 3預言者(よげんしゃ)イザヤによって、
荒野(あらの)()ばわる(もの)(こえ)がする、
(しゅ)(みち)(そな)えよ、
その(みち)(すじ)をまっすぐにせよ』」
()われたのは、この(ひと)のことである。
4このヨハネは、らくだの()ごろもを着物(きもの)にし、(こし)(かわ)(おび)をしめ、いなごと()(みつ)とを食物(しょくもつ)としていた。 5すると、エルサレムとユダヤ全土(ぜんど)とヨルダン附近(ふきん)一帯(いったい)人々(ひとびと)が、ぞくぞくとヨハネのところに()てきて、 6自分(じぶん)(つみ)告白(こくはく)し、ヨルダン(がわ)でヨハネからバプテスマを()けた。 7ヨハネは、パリサイ(びと)やサドカイ(びと)(おお)ぜいバプテスマを()けようとしてきたのを()て、(かれ)らに()った、「まむしの()らよ、(せま)ってきている(かみ)(いか)りから、おまえたちはのがれられると、だれが(おし)えたのか。 8だから、悔改(くいあらた)めにふさわしい()(むす)べ。 9自分(じぶん)たちの(ちち)にはアブラハムがあるなどと、(こころ)(なか)(おも)ってもみるな。おまえたちに()っておく、(かみ)はこれらの(いし)ころからでも、アブラハムの()(おこ)すことができるのだ。 10(おの)がすでに()()もとに()かれている。だから、()()(むす)ばない()はことごとく()られて、()(なか)()()まれるのだ。 11わたしは悔改(くいあらた)めのために、(みず)でおまえたちにバプテスマを(さづ)けている。しかし、わたしのあとから()(ひと)はわたしよりも(ちから)のあるかたで、わたしはそのくつをぬがせてあげる()うちもない。このかたは、聖霊(せいれい)()とによっておまえたちにバプテスマをお(さづ)けになるであろう。 12また、()()()って、()()(むぎ)をふるい()け、(むぎ)(くら)(おさ)め、からは()えない()()()てるであろう」。
13そのときイエスは、ガリラヤを()てヨルダン(がわ)(あらわ)れ、ヨハネのところにきて、バプテスマを()けようとされた。 14ところがヨハネは、それを(おも)いとどまらせようとして()った、「わたしこそあなたからバプテスマを()けるはずですのに、あなたがわたしのところにおいでになるのですか」。 15しかし、イエスは(こた)えて()われた、「(いま)()けさせてもらいたい。このように、すべての(ただ)しいことを成就(じょうじゅ)するのは、われわれにふさわしいことである」。そこでヨハネはイエスの()われるとおりにした。 16イエスはバプテスマを()けるとすぐ、(みず)から()がられた。すると、()よ、(てん)(ひら)け、(かみ)御霊(みたま)がはとのように自分(じぶん)(うえ)(くだ)ってくるのを、ごらんになった。 17また(てん)から(こえ)があって()った、「これはわたしの(あい)する()、わたしの(こころ)にかなう(もの)である」。

第四章

1さて、イエスは御霊(みたま)によって荒野(あらの)(みちび)かれた。悪魔(あくま)(こころ)みられるためである。 2そして、四十(にち)四十()断食(だんじき)をし、そののち空腹(くうふく)になられた。 3すると(こころ)みる(もの)がきて()った、「もしあなたが(かみ)()であるなら、これらの(いし)がパンになるように(めい)じてごらんなさい」。 4イエスは(こた)えて()われた、「『(ひと)はパンだけで()きるものではなく、(かみ)(くち)から()る一つ一つの(ことば)()きるものである』と()いてある」。 5それから悪魔(あくま)は、イエスを(せい)なる(みやこ)()れて()き、(みや)頂上(ちょうじょう)()たせて 6()った、「もしあなたが(かみ)()であるなら、(した)()びおりてごらんなさい。
(かみ)はあなたのために御使(みつかい)たちにお(めい)じになると、
あなたの(あし)(いし)()ちつけられないように、
(かれ)らはあなたを()でささえるであろう』
()いてありますから」。 7イエスは(かれ)()われた、「『(しゅ)なるあなたの(かみ)(こころ)みてはならない』とまた()いてある」。 8(つぎ)悪魔(あくま)は、イエスを非常(ひじょう)(たか)(やま)()れて()き、この()のすべての国々(くにぐに)とその栄華(えいが)とを()せて 9()った、「もしあなたが、ひれ()してわたしを(おが)むなら、これらのものを(みな)あなたにあげましょう」。 10するとイエスは(かれ)()われた、「サタンよ、退(しりぞ)け。『(しゅ)なるあなたの(かみ)(はい)し、ただ(かみ)にのみ(つか)えよ』と()いてある」。 11そこで、悪魔(あくま)はイエスを(はな)()り、そして、御使(みつかい)たちがみもとにきて(つか)えた。
12さて、イエスはヨハネが(とら)えられたと()いて、ガリラヤへ退(しりぞ)かれた。 13そしてナザレを()り、ゼブルンとナフタリとの地方(ちほう)にある(うみ)べの(まち)カペナウムに()って()まわれた。 14これは預言者(よげんしゃ)イザヤによって()われた(ことば)が、成就(じょうじゅ)するためである。
15「ゼブルンの()、ナフタリの()
(うみ)沿()地方(ちほう)、ヨルダンの()こうの()
異邦人(いほうじん)のガリラヤ、
16暗黒(あんこく)(なか)()んでいる(たみ)(おお)いなる(ひかり)()
()()()(かげ)()んでいる人々(ひとびと)に、(ひかり)がのぼった」。
17この(とき)からイエスは(おしえ)()べはじめて()われた、「()(あらた)めよ、天国(てんごく)(ちか)づいた」。
18さて、イエスがガリラヤの(うみ)べを(ある)いておられると、ふたりの兄弟(きょうだい)、すなわち、ペテロと()ばれたシモンとその兄弟(きょうだい)アンデレとが、(うみ)(あみ)()っているのをごらんになった。(かれ)らは漁師(りょうし)であった。 19イエスは(かれ)らに()われた、「わたしについてきなさい。あなたがたを、人間(にんげん)をとる漁師(りょうし)にしてあげよう」。 20すると、(かれ)らはすぐに(あみ)()てて、イエスに(したが)った。 21そこから(すす)んで()かれると、ほかのふたりの兄弟(きょうだい)、すなわち、ゼベダイの()ヤコブとその兄弟(きょうだい)ヨハネとが、(ちち)ゼベダイと一緒(いっしょ)に、(ふね)(なか)(あみ)(つくろ)っているのをごらんになった。そこで(かれ)らをお(まね)きになると、 22すぐ(ふね)(ちち)とをおいて、イエスに(したが)って()った。
23イエスはガリラヤの(ぜん)()(めぐ)(ある)いて、(しょ)会堂(かいどう)(おし)え、御国(みくに)福音(ふくいん)()(つた)え、(たみ)(なか)のあらゆる病気(びょうき)、あらゆるわずらいをおいやしになった。 24そこで、その評判(ひょうばん)はシリヤ(ぜん)()にひろまり、人々(ひとびと)があらゆる(やまい)にかかっている(もの)、すなわち、いろいろの病気(びょうき)(くる)しみとに(なや)んでいる(もの)悪霊(あくれい)につかれている(もの)、てんかん、中風(ちゅうぶ)(もの)などをイエスのところに()れてきたので、これらの人々(ひとびと)をおいやしになった。 25こうして、ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤ(およ)びヨルダンの()こうから、おびただしい群衆(ぐんしゅう)がきてイエスに(したが)った。

第五章

1イエスはこの群衆(ぐんしゅう)()て、(やま)(のぼ)り、()につかれると、弟子(でし)たちがみもとに近寄(ちかよ)ってきた。 2そこで、イエスは(くち)(ひら)き、(かれ)らに(おし)えて()われた。
3「こころの(まず)しい(ひと)たちは、さいわいである、
天国(てんごく)(かれ)らのものである。
4(かな)しんでいる(ひと)たちは、さいわいである、
(かれ)らは(なぐさ)められるであろう。
5柔和(にゅうわ)(ひと)たちは、さいわいである、
(かれ)らは()()けつぐであろう。
6()()えかわいている(ひと)たちは、さいわいである、
(かれ)らは()()りるようになるであろう。
7あわれみ(ぶか)(ひと)たちは、さいわいである、
(かれ)らはあわれみを()けるであろう。
8(こころ)(きよ)(ひと)たちは、さいわいである、
(かれ)らは(かみ)()るであろう。
9平和(へいわ)をつくり()(ひと)たちは、さいわいである、
(かれ)らは(かみ)()()ばれるであろう。
10()のために迫害(はくがい)されてきた(ひと)たちは、
さいわいである、
天国(てんごく)(かれ)らのものである。
11わたしのために人々(ひとびと)があなたがたをののしり、また迫害(はくがい)し、あなたがたに(たい)(いつわ)って様々(さまざま)悪口(あっこう)()(とき)には、あなたがたは、さいわいである。 12(よろこ)び、よろこべ、(てん)においてあなたがたの()ける(むく)いは(おお)きい。あなたがたより(まえ)預言者(よげんしゃ)たちも、(おな)じように迫害(はくがい)されたのである。
13あなたがたは、()(しお)である。もし(しお)のききめがなくなったら、(なに)によってその(あじ)()りもどされようか。もはや、なんの(やく)にも()たず、ただ(そと)()てられて、人々(ひとびと)にふみつけられるだけである。 14あなたがたは、()(ひかり)である。(やま)(うえ)にある(まち)(かく)れることができない。 15また、あかりをつけて、それを(ます)(した)におく(もの)はいない。むしろ燭台(しょくだい)(うえ)において、(いえ)(なか)のすべてのものを(てら)させるのである。 16そのように、あなたがたの(ひかり)人々(ひとびと)(まえ)(かがや)かし、そして、人々(ひとびと)があなたがたのよいおこないを()て、(てん)にいますあなたがたの(ちち)をあがめるようにしなさい。
17わたしが律法(りっぽう)預言者(よげんしゃ)(はい)するためにきた、と(おも)ってはならない。(はい)するためではなく、成就(じょうじゅ)するためにきたのである。 18よく()っておく。天地(てんち)(ほろ)()くまでは、律法(りっぽう)の一(てん)一画(いっかく)もすたることはなく、ことごとく(まっと)うされるのである。 19それだから、これらの(もっと)(ちい)さいいましめの一つでも(やぶ)り、またそうするように(ひと)(おし)えたりする(もの)は、天国(てんごく)(もっと)(ちい)さい(もの)()ばれるであろう。しかし、これをおこないまたそう(おし)える(もの)は、天国(てんごく)(おお)いなる(もの)()ばれるであろう。 20わたしは()っておく。あなたがたの()律法(りっぽう)学者(がくしゃ)やパリサイ(びと)()にまさっていなければ、(けっ)して天国(てんごく)に、はいることはできない。
21(むかし)人々(ひとびと)に『(ころ)すな。(ころ)(もの)裁判(さいばん)()けねばならない』と()われていたことは、あなたがたの()いているところである。 22しかし、わたしはあなたがたに()う。兄弟(きょうだい)(たい)して(いか)(もの)は、だれでも裁判(さいばん)()けねばならない。兄弟(きょうだい)にむかって(おろ)(もの)()(もの)は、議会(ぎかい)()きわたされるであろう。また、ばか(もの)()(もの)は、地獄(じごく)()()()まれるであろう。 23だから、祭壇(さいだん)(そな)(もの)をささげようとする場合(ばあい)兄弟(きょうだい)自分(じぶん)(たい)して(なに)かうらみをいだいていることを、そこで(おも)()したなら、 24その(そな)(もの)祭壇(さいだん)(まえ)(のこ)しておき、まず()ってその兄弟(きょうだい)和解(わかい)し、それから(かえ)ってきて、(そな)(もの)をささげることにしなさい。 25あなたを(うった)える(もの)一緒(いっしょ)(みち)()(とき)には、その途中(とちゅう)(はや)仲直(なかなお)りをしなさい。そうしないと、その(うった)える(もの)はあなたを裁判官(さいばんかん)にわたし、裁判官(さいばんかん)下役(したやく)にわたし、そして、あなたは(ごく)()れられるであろう。 26よくあなたに()っておく。最後(さいご)の一コドラントを支払(しはら)ってしまうまでは、(けっ)してそこから()てくることはできない。
27姦淫(かんいん)するな』と()われていたことは、あなたがたの()いているところである。 28しかし、わたしはあなたがたに()う。だれでも、情欲(じょうよく)をいだいて(おんな)()(もの)は、(こころ)(なか)ですでに姦淫(かんいん)をしたのである。 29もしあなたの(みぎ)()(つみ)(おか)させるなら、それを()()して()てなさい。五体(ごたい)一部(いちぶ)(うしな)っても、全身(ぜんしん)地獄(じごく)()()れられない(ほう)が、あなたにとって(えき)である。 30もしあなたの(みぎ)()(つみ)(おか)させるなら、それを()って()てなさい。五体(ごたい)一部(いちぶ)(うしな)っても、全身(ぜんしん)地獄(じごく)()()まない(ほう)が、あなたにとって(えき)である。 31また『(つま)()(もの)離縁(りえん)(じょう)(わた)せ』と()われている。 32しかし、わたしはあなたがたに()う。だれでも、不品行(ふひんこう)以外(いがい)理由(りゆう)自分(じぶん)(つま)()(もの)は、姦淫(かんいん)(おこな)わせるのである。また()された(おんな)をめとる(もの)も、姦淫(かんいん)(おこな)うのである。
33また(むかし)人々(ひとびと)に『いつわり(ちか)うな、(ちか)ったことは、すべて(しゅ)(たい)して(はた)せ』と()われていたことは、あなたがたの()いているところである。 34しかし、わたしはあなたがたに()う。いっさい(ちか)ってはならない。(てん)をさして(ちか)うな。そこは(かみ)御座(みざ)であるから。 35また()をさして(ちか)うな。そこは(かみ)(あし)(だい)であるから。またエルサレムをさして(ちか)うな。それは『大王(だいおう)(みやこ)』であるから。 36また、自分(じぶん)(あたま)をさして(ちか)うな。あなたは(かみ)()(ひと)すじさえ、(しろ)くも(くろ)くもすることができない。 37あなたがたの言葉(ことば)は、ただ、しかり、しかり、(いな)(いな)、であるべきだ。それ以上(いじょう)()ることは、(あく)から()るのである。
38()には()を、()には()を』と()われていたことは、あなたがたの()いているところである。 39しかし、わたしはあなたがたに()う。悪人(あくにん)手向(てむ)かうな。もし、だれかがあなたの(みぎ)(ほお)()つなら、ほかの(ほお)をも()けてやりなさい。 40あなたを(うった)えて、下着(したぎ)()ろうとする(もの)には、上着(うわぎ)をも(あた)えなさい。 41もし、だれかが、あなたをしいて一マイル()かせようとするなら、その(ひと)(とも)に二マイル()きなさい。 42(もと)める(もの)には(あた)え、()りようとする(もの)(ことわ)るな。
43(とな)(びと)(あい)し、(てき)(にく)め』と()われていたことは、あなたがたの()いているところである。 44しかし、わたしはあなたがたに()う。(てき)(あい)し、迫害(はくがい)する(もの)のために(いの)れ。 45こうして、(てん)にいますあなたがたの(ちち)()となるためである。(てん)(ちち)は、(わる)(もの)(うえ)にも()(もの)(うえ)にも、太陽(たいよう)をのぼらせ、(ただ)しい(もの)にも(ただ)しくない(もの)にも、(あめ)()らして(くだ)さるからである。 46あなたがたが自分(じぶん)(あい)する(もの)(あい)したからとて、なんの(むく)いがあろうか。そのようなことは取税人(しゅぜいにん)でもするではないか。 47兄弟(きょうだい)だけにあいさつをしたからとて、なんのすぐれた(こと)をしているだろうか。そのようなことは異邦人(いほうじん)でもしているではないか。 48それだから、あなたがたの(てん)(ちち)完全(かんぜん)であられるように、あなたがたも完全(かんぜん)(もの)となりなさい。

第六章

1自分(じぶん)()を、()られるために(ひと)(まえ)(おこな)わないように、注意(ちゅうい)しなさい。もし、そうしないと、(てん)にいますあなたがたの(ちち)から(むく)いを()けることがないであろう。
2だから、(ほどこ)しをする(とき)には、偽善者(ぎぜんしゃ)たちが(ひと)にほめられるため会堂(かいどう)(まち)(なか)でするように、自分(じぶん)(まえ)でラッパを()きならすな。よく()っておくが、(かれ)らはその(むく)いを()けてしまっている。 3あなたは(ほどこ)しをする場合(ばあい)(みぎ)()のしていることを(ひだり)()()らせるな。 4それは、あなたのする(ほどこ)しが(かく)れているためである。すると、(かく)れた(こと)()ておられるあなたの(ちち)は、(むく)いてくださるであろう。
5また(いの)(とき)には、偽善者(ぎぜんしゃ)たちのようにするな。(かれ)らは(ひと)()せようとして、会堂(かいどう)大通(おおどお)りのつじに()って(いの)ることを(この)む。よく()っておくが、(かれ)らはその(むく)いを()けてしまっている。 6あなたは(いの)(とき)自分(じぶん)のへやにはいり、()()じて、(かく)れた(ところ)においでになるあなたの(ちち)(いの)りなさい。すると、(かく)れた(こと)()ておられるあなたの(ちち)は、(むく)いてくださるであろう。 7また、(いの)場合(ばあい)異邦人(いほうじん)のように、くどくどと(いの)るな。(かれ)らは言葉(ことば)かずが(おお)ければ、()きいれられるものと(おも)っている。 8だから、(かれ)らのまねをするな。あなたがたの(ちち)なる(かみ)は、(もと)めない(さき)から、あなたがたに必要(ひつよう)なものはご(ぞん)じなのである。 9だから、あなたがたはこう(いの)りなさい、
(てん)にいますわれらの(ちち)よ、
御名(みな)があがめられますように。
10御国(みくに)がきますように。
みこころが(てん)(おこな)われるとおり、
()にも(おこな)われますように。
11わたしたちの()ごとの食物(しょくもつ)を、
きょうもお(あた)えください。
12わたしたちに負債(ふさい)のある(もの)をゆるしましたように、
わたしたちの負債(ふさい)をもおゆるしください。
13わたしたちを(こころ)みに()わせないで、
()しき(もの)からお(すく)いください。
14もしも、あなたがたが、人々(ひとびと)のあやまちをゆるすならば、あなたがたの(てん)(ちち)も、あなたがたをゆるして(くだ)さるであろう。 15もし(ひと)をゆるさないならば、あなたがたの(ちち)も、あなたがたのあやまちをゆるして(くだ)さらないであろう。
16また断食(だんじき)をする(とき)には、偽善者(ぎぜんしゃ)がするように、陰気(いんき)(かお)つきをするな。(かれ)らは断食(だんじき)をしていることを(ひと)()せようとして、自分(じぶん)(かお)見苦(みぐる)しくするのである。よく()っておくが、(かれ)らはその(むく)いを()けてしまっている。 17あなたがたは断食(だんじき)をする(とき)には、自分(じぶん)(あたま)(あぶら)()り、(かお)(あら)いなさい。 18それは断食(だんじき)をしていることが(ひと)()れないで、(かく)れた(ところ)においでになるあなたの(ちち)()られるためである。すると、(かく)れた(こと)()ておられるあなたの(ちち)は、(むく)いて(くだ)さるであろう。
19あなたがたは自分(じぶん)のために、(むし)()い、さびがつき、また、盗人(ぬすびと)らが()()って(ぬす)()すような地上(ちじょう)に、(たから)をたくわえてはならない。 20むしろ自分(じぶん)のため、(むし)()わず、さびもつかず、また、盗人(ぬすびと)らが()()って(ぬす)()すこともない(てん)に、(たから)をたくわえなさい。 21あなたの(たから)のある(ところ)には、(こころ)もあるからである。 22()はからだのあかりである。だから、あなたの()()んでおれば、全身(ぜんしん)(あか)るいだろう。 23しかし、あなたの()(わる)ければ、全身(ぜんしん)(くら)いだろう。だから、もしあなたの(うち)なる(ひかり)(くら)ければ、その(くら)さは、どんなであろう。 24だれも、ふたりの主人(しゅじん)()(つか)えることはできない。一方(いっぽう)(にく)んで他方(たほう)(あい)し、あるいは、一方(いっぽう)(した)しんで他方(たほう)をうとんじるからである。あなたがたは、(かみ)(とみ)とに()(つか)えることはできない。
25それだから、あなたがたに()っておく。(なに)()べようか、(なに)()もうかと、自分(じぶん)(いのち)のことで(おも)いわずらい、(なに)()ようかと自分(じぶん)のからだのことで(おも)いわずらうな。(いのち)食物(しょくもつ)にまさり、からだは着物(きもの)にまさるではないか。 26(そら)(とり)()るがよい。まくことも、()ることもせず、(くら)()りいれることもしない。それだのに、あなたがたの(てん)(ちち)(かれ)らを(やしな)っていて(くだ)さる。あなたがたは(かれ)らよりも、はるかにすぐれた(もの)ではないか。 27あなたがたのうち、だれが(おも)いわずらったからとて、自分(じぶん)寿命(じゅみょう)をわずかでも()ばすことができようか。 28また、なぜ、着物(きもの)のことで(おも)いわずらうのか。()(はな)がどうして(そだ)っているか、(かんが)えて()るがよい。(はたら)きもせず、(つむ)ぎもしない。 29しかし、あなたがたに()うが、栄華(えいが)をきわめた(とき)のソロモンでさえ、この(はな)の一つほどにも着飾(きかざ)ってはいなかった。 30きょうは()えていて、あすは()()()れられる()(くさ)でさえ、(かみ)はこのように(よそお)って(くだ)さるのなら、あなたがたに、それ以上(いじょう)よくしてくださらないはずがあろうか。ああ、信仰(しんこう)(うす)(もの)たちよ。 31だから、(なに)()べようか、(なに)()もうか、あるいは(なに)()ようかと()って(おも)いわずらうな。 32これらのものはみな、異邦人(いほうじん)(せつ)(もと)めているものである。あなたがたの(てん)(ちち)は、これらのものが、ことごとくあなたがたに必要(ひつよう)であることをご(ぞん)じである。 33まず(かみ)(くに)(かみ)()とを(もと)めなさい。そうすれば、これらのものは、すべて()えて(あた)えられるであろう。 34だから、あすのことを(おも)いわずらうな。あすのことは、あす自身(じしん)(おも)いわずらうであろう。一(にち)苦労(くろう)は、その()(にち)だけで十分(じゅうぶん)である。

第七章

1(ひと)をさばくな。自分(じぶん)がさばかれないためである。 2あなたがたがさばくそのさばきで、自分(じぶん)もさばかれ、あなたがたの(はか)るそのはかりで、自分(じぶん)にも(はか)(あた)えられるであろう。 3なぜ、兄弟(きょうだい)()にあるちりを()ながら、自分(じぶん)()にある(はり)(みと)めないのか。 4自分(じぶん)()には(はり)があるのに、どうして兄弟(きょうだい)にむかって、あなたの()からちりを()らせてください、と()えようか。 5偽善者(ぎぜんしゃ)よ、まず自分(じぶん)()から(はり)()りのけるがよい。そうすれば、はっきり()えるようになって、兄弟(きょうだい)()からちりを()りのけることができるだろう。
6(せい)なるものを(いぬ)にやるな。また真珠(しんじゅ)(ぶた)()げてやるな。(おそ)らく(かれ)らはそれらを(あし)()みつけ、()きなおってあなたがたにかみついてくるであろう。
7(もと)めよ、そうすれば、(あた)えられるであろう。(さが)せ、そうすれば、()いだすであろう。(もん)をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう。 8すべて(もと)める(もの)()(さが)(もの)()いだし、(もん)をたたく(もの)はあけてもらえるからである。 9あなたがたのうちで、自分(じぶん)()がパンを(もと)めるのに、(いし)(あた)える(もの)があろうか。 10(うお)(もと)めるのに、へびを(あた)える(もの)があろうか。 11このように、あなたがたは(わる)(もの)であっても、自分(じぶん)子供(こども)には、()(おく)(もの)をすることを()っているとすれば、(てん)にいますあなたがたの(ちち)はなおさら、(もと)めてくる(もの)()いものを(くだ)さらないことがあろうか。 12だから、何事(なにごと)でも人々(ひとびと)からしてほしいと(のぞ)むことは、人々(ひとびと)にもそのとおりにせよ。これが律法(りっぽう)であり預言者(よげんしゃ)である。
13(せま)(もん)からはいれ。(ほろ)びにいたる(もん)(おお)きく、その(みち)(ひろ)い。そして、そこからはいって()(もの)(おお)い。 14(いのち)にいたる(もん)(せま)く、その(みち)(ほそ)い。そして、それを()いだす(もの)(すく)ない。
15にせ預言者(よげんしゃ)警戒(けいかい)せよ。(かれ)らは、(ひつじ)(ころも)()てあなたがたのところに()るが、その内側(うちがわ)強欲(ごうよく)なおおかみである。 16あなたがたは、その()によって(かれ)らを()わけるであろう。(いばら)からぶどうを、あざみからいちじくを(あつ)める(もの)があろうか。 17そのように、すべて()()()()(むす)び、(わる)()(わる)()(むす)ぶ。 18()()(わる)()をならせることはないし、(わる)()()()をならせることはできない。 19()()(むす)ばない()はことごとく()られて、()(なか)()()まれる。 20このように、あなたがたはその()によって(かれ)らを()わけるのである。 21わたしにむかって『(しゅ)よ、(しゅ)よ』と()(もの)が、みな天国(てんごく)にはいるのではなく、ただ、(てん)にいますわが(ちち)御旨(みむね)(おこな)(もの)だけが、はいるのである。 22その()には、(おお)くの(もの)が、わたしにむかって『(しゅ)よ、(しゅ)よ、わたしたちはあなたの()によって預言(よげん)したではありませんか。また、あなたの()によって悪霊(あくれい)()()し、あなたの()によって(おお)くの(ちから)あるわざを(おこな)ったではありませんか』と()うであろう。 23そのとき、わたしは(かれ)らにはっきり、こう()おう、『あなたがたを(まった)()らない。不法(ふほう)(はたら)(もの)どもよ、()ってしまえ』。
24それで、わたしのこれらの言葉(ことば)()いて(おこな)うものを、(いわ)(うえ)自分(じぶん)(いえ)()てた(かしこ)(ひと)(くら)べることができよう。 25(あめ)()り、洪水(こうずい)()()せ、(かぜ)()いてその(いえ)()ちつけても、(たお)れることはない。(いわ)土台(どだい)としているからである。 26また、わたしのこれらの言葉(ことば)()いても(おこな)わない(もの)を、(すな)(うえ)自分(じぶん)(いえ)()てた(おろ)かな(ひと)(くら)べることができよう。 27(あめ)()り、洪水(こうずい)()()せ、(かぜ)()いてその(いえ)()ちつけると、(たお)れてしまう。そしてその(たお)(かた)はひどいのである」。
28イエスがこれらの(ことば)(かた)()えられると、群衆(ぐんしゅう)はその(おしえ)にひどく(おどろ)いた。 29それは律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちのようにではなく、権威(けんい)ある(もの)のように、(おし)えられたからである。

第八章

1イエスが(やま)をお()りになると、おびただしい群衆(ぐんしゅう)がついてきた。 2すると、そのとき、ひとりのらい病人(びょうにん)がイエスのところにきて、ひれ()して()った、「(しゅ)よ、みこころでしたら、きよめていただけるのですが」。 3イエスは()()ばして、(かれ)にさわり、「そうしてあげよう、きよくなれ」と()われた。すると、らい(びょう)(ただ)ちにきよめられた。 4イエスは(かれ)()われた、「だれにも(はな)さないように、注意(ちゅうい)しなさい。ただ()って、自分(じぶん)のからだを祭司(さいし)()せ、それから、モーセが(めい)じた(そな)(もの)をささげて、人々(ひとびと)証明(しょうめい)しなさい」。
5さて、イエスがカペナウムに(かえ)ってこられたとき、ある百卒長(ひゃくそつちょう)がみもとにきて(うった)えて()った、 6(しゅ)よ、わたしの(しもべ)中風(ちゅうぶ)でひどく(くる)しんで、(いえ)()ています」。 7イエスは(かれ)に、「わたしが()ってなおしてあげよう」と()われた。 8そこで百卒長(ひゃくそつちょう)(こた)えて()った、「(しゅ)よ、わたしの屋根(やね)(した)にあなたをお()れする資格(しかく)は、わたしにはございません。ただ、お言葉(ことば)(くだ)さい。そうすれば(しもべ)はなおります。 9わたしも権威(けんい)(した)にある(もの)ですが、わたしの(した)にも兵卒(へいそつ)がいまして、ひとりの(もの)に『()け』と()えば()き、ほかの(もの)に『こい』と()えばきますし、また、(しもべ)に『これをせよ』と()えば、してくれるのです」。 10イエスはこれを()いて非常(ひじょう)感心(かんしん)され、ついてきた人々(ひとびと)()われた、「よく()きなさい。イスラエル(ひと)(なか)にも、これほどの信仰(しんこう)()たことがない。 11なお、あなたがたに()うが、(おお)くの(ひと)(ひがし)から西(にし)からきて、天国(てんごく)で、アブラハム、イサク、ヤコブと(とも)宴会(えんかい)(せき)につくが、 12この(くに)()らは(そと)のやみに()()され、そこで()(さけ)んだり、()がみをしたりするであろう」。 13それからイエスは百卒長(ひゃくそつちょう)に「()け、あなたの(しん)じたとおりになるように」と()われた。すると、ちょうどその(とき)に、(しもべ)はいやされた。
14それから、イエスはペテロの(いえ)にはいって()かれ、そのしゅうとめが熱病(ねつびょう)で、(とこ)についているのをごらんになった。 15そこで、その()にさわられると、(ねつ)()いた。そして(おんな)()きあがってイエスをもてなした。 16夕暮(ゆうぐれ)になると、人々(ひとびと)悪霊(あくれい)につかれた(もの)(おお)ぜい、みもとに()れてきたので、イエスはみ言葉(ことば)をもって(れい)どもを()()し、病人(びょうにん)をことごとくおいやしになった。 17これは、預言者(よげんしゃ)イザヤによって「(かれ)は、わたしたちのわずらいを()()け、わたしたちの(やまい)()うた」と()われた言葉(ことば)成就(じょうじゅ)するためである。
18イエスは、群衆(ぐんしゅう)自分(じぶん)のまわりに(むら)がっているのを()て、()こう(ぎし)()くようにと弟子(でし)たちにお(めい)じになった。 19するとひとりの律法(りっぽう)学者(がくしゃ)(ちか)づいてきて()った、「先生(せんせい)、あなたがおいでになる(ところ)なら、どこへでも(したが)ってまいります」。 20イエスはその(ひと)()われた、「きつねには(あな)があり、(そら)(とり)には()がある。しかし、(ひと)()にはまくらする(ところ)がない」。 21また弟子(でし)のひとりが()った、「(しゅ)よ、まず、(ちち)(ほうむ)りに()かせて(くだ)さい」。 22イエスは(かれ)()われた、「わたしに(したが)ってきなさい。そして、その死人(しにん)(ほうむ)ることは、死人(しにん)(まか)せておくがよい」。
23それから、イエスが(ふね)()()まれると、弟子(でし)たちも(したが)った。 24すると突然(とつぜん)海上(かいじょう)(はげ)しい暴風(ぼうふう)(おこ)って、(ふね)(なみ)にのまれそうになった。ところが、イエスは(ねむ)っておられた。 25そこで弟子(でし)たちはみそばに()ってきてイエスを(おこ)し、「(しゅ)よ、お(たす)けください、わたしたちは()にそうです」と()った。 26するとイエスは(かれ)らに()われた、「なぜこわがるのか、信仰(しんこう)(うす)(もの)たちよ」。それから()きあがって、(かぜ)(うみ)とをおしかりになると、(おお)なぎになった。 27(かれ)らは(おどろ)いて()った、「このかたはどういう(ひと)なのだろう。(かぜ)(うみ)(したが)わせるとは」。
28それから、()こう(ぎし)、ガダラ(びと)()()かれると、悪霊(あくれい)につかれたふたりの(もの)が、墓場(はかば)から()てきてイエスに出会(であ)った。(かれ)らは()()えない乱暴(らんぼう)(もの)で、だれもその(へん)(みち)(とお)ることができないほどであった。 29すると突然(とつぜん)(かれ)らは(さけ)んで()った、「(かみ)()よ、あなたはわたしどもとなんの(かか)わりがあるのです。まだその(とき)ではないのに、ここにきて、わたしどもを(くる)しめるのですか」。 30さて、そこからはるか(はな)れた(ところ)に、おびただしい(ぶた)()れが()ってあった。 31悪霊(あくれい)どもはイエスに(ねが)って()った、「もしわたしどもを()()されるのなら、あの(ぶた)()れの(なか)につかわして(くだ)さい」。 32そこで、イエスが「()け」と()われると、(かれ)らは()()って、(ぶた)(なか)へはいり()んだ。すると、その()全体(ぜんたい)が、がけから(うみ)へなだれを()って()(くだ)り、(みず)(なか)()んでしまった。 33()(もの)たちは()げて(まち)()き、悪霊(あくれい)につかれた(もの)たちのことなど、いっさいを()らせた。 34すると、町中(まちじゅう)(もの)がイエスに()いに()てきた。そして、イエスに()うと、この地方(ちほう)から()ってくださるようにと(たの)んだ。

第九章

1さて、イエスは(ふね)()って(うみ)(わた)り、自分(じぶん)(まち)(かえ)られた。 2すると、人々(ひとびと)中風(ちゅうぶ)(もの)(とこ)(うえ)()かせたままでみもとに(はこ)んできた。イエスは(かれ)らの信仰(しんこう)()て、中風(ちゅうぶ)(もの)に、「()よ、しっかりしなさい。あなたの(つみ)はゆるされたのだ」と()われた。 3すると、ある律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが(こころ)(なか)()った、「この(ひと)(かみ)(けが)している」。 4イエスは(かれ)らの(かんが)えを見抜(みぬ)いて、「なぜ、あなたがたは(こころ)(なか)(わる)いことを(かんが)えているのか。 5あなたの(つみ)はゆるされた、と()うのと、()きて(ある)け、と()うのと、どちらがたやすいか。 6しかし、(ひと)()地上(ちじょう)(つみ)をゆるす権威(けんい)をもっていることが、あなたがたにわかるために」と()い、中風(ちゅうぶ)(もの)にむかって、「()きよ、(とこ)()りあげて(いえ)(かえ)れ」と()われた。 7すると(かれ)()きあがり、(いえ)(かえ)って()った。 8群衆(ぐんしゅう)はそれを()(おそ)れ、こんな(おお)きな権威(けんい)(ひと)にお(あた)えになった(かみ)をあがめた。
9さてイエスはそこから(すす)んで()かれ、マタイという(ひと)収税所(しゅうぜいしょ)にすわっているのを()て、「わたしに(したが)ってきなさい」と()われた。すると(かれ)()ちあがって、イエスに(したが)った。 10それから、イエスが(いえ)食事(しょくじ)(せき)についておられた(とき)のことである。(おお)くの取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)たちがきて、イエスや弟子(でし)たちと(とも)にその(せき)()いていた。 11パリサイ(びと)たちはこれを()て、弟子(でし)たちに()った、「なぜ、あなたがたの先生(せんせい)は、取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)などと食事(しょくじ)(とも)にするのか」。 12イエスはこれを()いて()われた、「丈夫(じょうぶ)(ひと)には医者(いしゃ)はいらない。いるのは病人(びょうにん)である。 13『わたしが(この)むのは、あわれみであって、いけにえではない』とはどういう意味(いみ)か、(まな)んできなさい。わたしがきたのは、義人(ぎじん)(まね)くためではなく、罪人(つみびと)(まね)くためである」。
14そのとき、ヨハネの弟子(でし)たちがイエスのところにきて()った、「わたしたちとパリサイ(びと)たちとが断食(だんじき)をしているのに、あなたの弟子(でし)たちは、なぜ断食(だんじき)をしないのですか」。 15するとイエスは()われた、「婚礼(こんれい)(きゃく)は、花婿(はなむこ)一緒(いっしょ)にいる(あいだ)は、(かな)しんでおられようか。しかし、花婿(はなむこ)(うば)()られる()()る。その(とき)には断食(だんじき)をするであろう。 16だれも、真新(まあたら)しい(ぬの)ぎれで、(ふる)着物(きもの)につぎを()てはしない。そのつぎきれは着物(きもの)()(やぶ)り、そして、(やぶ)れがもっとひどくなるから。 17だれも、(あたら)しいぶどう(しゅ)(ふる)(かわ)(ぶくろ)()れはしない。もしそんなことをしたら、その(かわ)(ぶくろ)()()け、(さけ)(なが)()るし、(かわ)(ぶくろ)もむだになる。だから、(あたら)しいぶどう(しゅ)(あたら)しい(かわ)(ぶくろ)()れるべきである。そうすれば両方(りょうほう)とも(なが)もちがするであろう」。
18これらのことを(かれ)らに(はな)しておられると、そこにひとりの会堂司(かいどうづかさ)がきて、イエスを(はい)して()った、「わたしの(むすめ)がただ(いま)()にました。しかしおいでになって()をその(うえ)においてやって(くだ)さい。そうしたら、(むすめ)()(かえ)るでしょう」。 19そこで、イエスが()って(かれ)について()かれると、弟子(でし)たちも一緒(いっしょ)()った。 20するとそのとき、十二年間(ねんかん)(なが)()をわずらっている(おんな)近寄(ちかよ)ってきて、イエスのうしろからみ(ころも)のふさにさわった。 21(ころも)にさわりさえすれば、なおしていただけるだろう、と(こころ)(なか)(おも)っていたからである。 22イエスは()()いて、この(おんな)()()われた、「(むすめ)よ、しっかりしなさい。あなたの信仰(しんこう)があなたを(すく)ったのです」。するとこの(おんな)はその(とき)に、いやされた。 23それからイエスは(つかさ)(いえ)()き、(ふえ)()きどもや(さわ)いでいる群衆(ぐんしゅう)()()われた。 24「あちらへ()っていなさい。少女(しょうじょ)()んだのではない。(ねむ)っているだけである」。すると人々(ひとびと)はイエスをあざ(わら)った。 25しかし、群衆(ぐんしゅう)(そと)()したのち、イエスは(うち)へはいって、少女(しょうじょ)()をお()りになると、少女(しょうじょ)()きあがった。 26そして、そのうわさがこの地方(ちほう)全体(ぜんたい)にひろまった。
27そこから(すす)んで()かれると、ふたりの盲人(もうじん)が、「ダビデの()よ、わたしたちをあわれんで(くだ)さい」と(さけ)びながら、イエスについてきた。 28そしてイエスが(いえ)にはいられると、盲人(もうじん)たちがみもとにきたので、(かれ)らに「わたしにそれができると(しん)じるか」と()われた。(かれ)らは()った、「(しゅ)よ、(しん)じます」。 29そこで、イエスは(かれ)らの()にさわって()われた、「あなたがたの信仰(しんこう)どおり、あなたがたの()になるように」。 30すると(かれ)らの()(ひら)かれた。イエスは(かれ)らをきびしく(いまし)めて()われた、「だれにも()れないように()をつけなさい」。 31しかし、(かれ)らは()()って、その地方(ちほう)全体(ぜんたい)にイエスのことを()いひろめた。
32(かれ)らが()()くと、人々(ひとびと)悪霊(あくれい)につかれたおしをイエスのところに()れてきた。 33すると、悪霊(あくれい)()()されて、おしが(もの)()うようになった。群衆(ぐんしゅう)(おどろ)いて、「このようなことがイスラエルの(なか)()られたことは、これまで一度(いちど)もなかった」と()った。 34しかし、パリサイ(びと)たちは()った、「(かれ)は、悪霊(あくれい)どものかしらによって悪霊(あくれい)どもを()()しているのだ」。
35イエスは、すべての町々(まちまち)村々(むらむら)(めぐ)(ある)いて、(しょ)会堂(かいどう)(おし)え、御国(みくに)福音(ふくいん)()(つた)え、あらゆる病気(びょうき)、あらゆるわずらいをおいやしになった。 36また群衆(ぐんしゅう)()(もの)のない(ひつじ)のように(よわ)()てて、(たお)れているのをごらんになって、(かれ)らを(ふか)くあわれまれた。 37そして弟子(でし)たちに()われた、「収穫(しゅうかく)(おお)いが、(はたら)(びと)(すく)ない。 38だから、収穫(しゅうかく)(しゅ)(ねが)って、その収穫(しゅうかく)のために(はたら)(びと)(おく)()すようにしてもらいなさい」。

第十章

1そこで、イエスは十二弟子(でし)()()せて、(けが)れた(れい)()()し、あらゆる病気(びょうき)、あらゆるわずらいをいやす権威(けんい)をお(さづ)けになった。
2十二使徒(しと)()は、(つぎ)のとおりである。まずペテロと()ばれたシモンとその兄弟(きょうだい)アンデレ、それからゼベダイの()ヤコブとその兄弟(きょうだい)ヨハネ、 3ピリポとバルトロマイ、トマスと取税人(しゅぜいにん)マタイ、アルパヨの()ヤコブとタダイ、 4熱心(ねっしん)(とう)のシモンとイスカリオテのユダ。このユダはイエスを裏切(うらぎ)った(もの)である。
5イエスはこの十二(にん)をつかわすに(あた)り、(かれ)らに(めい)じて()われた、「異邦人(いほうじん)(みち)()くな。またサマリヤ(びと)(まち)にはいるな。 6むしろ、イスラエルの(いえ)(うしな)われた(ひつじ)のところに()け。 7()って、『天国(てんごく)(ちか)づいた』と()(つた)えよ。 8病人(びょうにん)をいやし、死人(しにん)をよみがえらせ、らい病人(びょうにん)をきよめ、悪霊(あくれい)()()せ。ただで()けたのだから、ただで(あた)えるがよい。 9財布(さいふ)(なか)(きん)(ぎん)または(ぜに)()れて()くな。 10旅行(りょこう)のための(ふくろ)も、二(まい)下着(したぎ)も、くつも、つえも()って()くな。(はたら)(びと)がその食物(しょくもつ)()るのは当然(とうぜん)である。 11どの(まち)、どの(むら)にはいっても、その(なか)でだれがふさわしい(ひと)か、たずね()して、()()るまではその(ひと)のところにとどまっておれ。 12その(いえ)にはいったなら、平安(へいあん)(いの)ってあげなさい。 13もし平安(へいあん)()けるにふさわしい(いえ)であれば、あなたがたの(いの)平安(へいあん)はその(いえ)()るであろう。もしふさわしくなければ、その平安(へいあん)はあなたがたに(かえ)って()るであろう。 14もしあなたがたを(むか)えもせず、またあなたがたの言葉(ことば)()きもしない(ひと)があれば、その(いえ)(まち)()()(とき)に、(あし)のちりを(はら)(おと)しなさい。 15あなたがたによく()っておく。さばきの()には、ソドム、ゴモラの()(ほう)が、その(まち)よりは()えやすいであろう。
16わたしがあなたがたをつかわすのは、(ひつじ)をおおかみの(なか)(おく)るようなものである。だから、へびのように(かしこ)く、はとのように素直(すなお)であれ。 17人々(ひとびと)注意(ちゅうい)しなさい。(かれ)らはあなたがたを衆議所(しゅうぎしょ)()(わた)し、会堂(かいどう)でむち()つであろう。 18またあなたがたは、わたしのために長官(ちょうかん)たちや(おう)たちの(まえ)()()されるであろう。それは、(かれ)らと異邦人(いほうじん)とに(たい)してあかしをするためである。 19(かれ)らがあなたがたを()(わた)したとき、(なに)をどう()おうかと心配(しんぱい)しないがよい。()うべきことは、その(とき)(さづ)けられるからである。 20(かた)(もの)は、あなたがたではなく、あなたがたの(なか)にあって(かた)(ちち)(れい)である。 21兄弟(きょうだい)兄弟(きょうだい)を、(ちち)()(ころ)すために(わた)し、また()(おや)(さか)らって()ち、(かれ)らを(ころ)させるであろう。 22またあなたがたは、わたしの()のゆえにすべての(ひと)(にく)まれるであろう。しかし、最後(さいご)まで()(しの)(もの)(すく)われる。 23一つの(まち)迫害(はくがい)されたなら、()(まち)()げなさい。よく()っておく。あなたがたがイスラエルの町々(まちまち)(まわ)(おわ)らないうちに、(ひと)()()るであろう。
24弟子(でし)はその()以上(いじょう)のものではなく、(しもべ)はその主人(しゅじん)以上(いじょう)(もの)ではない。 25弟子(でし)がその()のようであり、(しもべ)がその主人(しゅじん)のようであれば、それで十分(じゅうぶん)である。もし(いえ)主人(しゅじん)がベルゼブルと()われるならば、その(いえ)(もの)どもはなおさら、どんなにか(わる)()われることであろう。 26だから(かれ)らを(おそ)れるな。おおわれたもので、(あらわ)れてこないものはなく、(かく)れているもので、()られてこないものはない。 27わたしが(くら)やみであなたがたに(はな)すことを、(あか)るみで()え。(みみ)にささやかれたことを、屋根(やね)(うえ)()いひろめよ。 28また、からだを(ころ)しても、(たましい)(ころ)すことのできない(もの)どもを(おそ)れるな。むしろ、からだも(たましい)地獄(じごく)(ほろ)ぼす(ちから)のあるかたを(おそ)れなさい。 29()のすずめは一アサリオンで()られているではないか。しかもあなたがたの(ちち)(ゆる)しがなければ、その一()()()ちることはない。 30またあなたがたの(あたま)()までも、みな(かぞ)えられている。 31それだから、(おそ)れることはない。あなたがたは(おお)くのすずめよりも、まさった(もの)である。 32だから(ひと)(まえ)でわたしを()けいれる(もの)を、わたしもまた、(てん)にいますわたしの(ちち)(まえ)()けいれるであろう。 33しかし、(ひと)(まえ)でわたしを(こば)(もの)を、わたしも(てん)にいますわたしの(ちち)(まえ)(こば)むであろう。
34地上(ちじょう)平和(へいわ)をもたらすために、わたしがきたと(おも)うな。平和(へいわ)ではなく、つるぎを()()むためにきたのである。 35わたしがきたのは、(ひと)をその(ちち)と、(むすめ)をその(はは)と、(よめ)をそのしゅうとめと(なか)たがいさせるためである。 36そして(いえ)(もの)が、その(ひと)(てき)となるであろう。 37わたしよりも(ちち)または(はは)(あい)する(もの)は、わたしにふさわしくない。わたしよりもむすこや(むすめ)(あい)する(もの)は、わたしにふさわしくない。 38また自分(じぶん)十字架(じゅうじか)をとってわたしに(したが)ってこない(もの)はわたしにふさわしくない。 39自分(じぶん)(いのち)()ている(もの)はそれを(うしな)い、わたしのために自分(じぶん)(いのち)(うしな)っている(もの)は、それを()るであろう。
40あなたがたを()けいれる(もの)は、わたしを()けいれるのである。わたしを()けいれる(もの)は、わたしをおつかわしになったかたを()けいれるのである。 41預言者(よげんしゃ)()のゆえに預言者(よげんしゃ)()けいれる(もの)は、預言者(よげんしゃ)(むく)いを()け、義人(ぎじん)()のゆえに義人(ぎじん)()けいれる(もの)は、義人(ぎじん)(むく)いを()けるであろう。 42わたしの弟子(でし)であるという()のゆえに、この(ちい)さい(もの)のひとりに(つめ)たい(みず)(ぱい)でも()ませてくれる(もの)は、よく()っておくが、(けっ)してその(むく)いからもれることはない」。

第十一章

1イエスは十二弟子(でし)にこのように(めい)()えてから、町々(まちまち)(おし)えまた()(つた)えるために、そこを()()られた。
2さて、ヨハネは獄中(ごくちゅう)でキリストのみわざについて(つた)()き、自分(じぶん)弟子(でし)たちをつかわして、 3イエスに()わせた、「『きたるべきかた』はあなたなのですか。それとも、ほかにだれかを()つべきでしょうか」。 4イエスは(こた)えて()われた、「()って、あなたがたが見聞(みき)きしていることをヨハネに報告(ほうこく)しなさい。 5盲人(もうじん)()え、(あし)なえは(ある)き、らい病人(びょうにん)はきよまり、(みみ)しいは(きこ)え、死人(しにん)()きかえり、(まず)しい人々(ひとびと)福音(ふくいん)()かされている。 6わたしにつまずかない(もの)は、さいわいである」。 7(かれ)らが(かえ)ってしまうと、イエスはヨハネのことを群衆(ぐんしゅう)(かた)りはじめられた、「あなたがたは、(なに)()荒野(あらの)()てきたのか。(かぜ)()らぐ(あし)であるか。 8では、(なに)()()てきたのか。(やわ)らかい着物(きもの)をまとった(ひと)か。(やわ)らかい着物(きもの)をまとった人々(ひとびと)なら、(おう)(いえ)にいる。 9では、なんのために()てきたのか。預言者(よげんしゃ)()るためか。そうだ、あなたがたに()うが、預言者(よげんしゃ)以上(いじょう)(もの)である。
10()よ、わたしは使(つかい)をあなたの(さき)につかわし、
あなたの(まえ)に、(みち)(ととの)えさせるであろう』
()いてあるのは、この(ひと)のことである。 11あなたがたによく()っておく。(おんな)()んだ(もの)(なか)で、バプテスマのヨハネより(おお)きい人物(じんぶつ)(おこ)らなかった。しかし、天国(てんごく)(もっと)(ちい)さい(もの)も、(かれ)よりは(おお)きい。 12バプテスマのヨハネの(とき)から(いま)(いた)るまで、天国(てんごく)(はげ)しく(おそ)われている。そして(はげ)しく(おそ)(もの)たちがそれを(うば)()っている。 13すべての預言者(よげんしゃ)律法(りっぽう)とが預言(よげん)したのは、ヨハネの(とき)までである。 14そして、もしあなたがたが()けいれることを(のぞ)めば、この(ひと)こそは、きたるべきエリヤなのである。 15(みみ)のある(もの)()くがよい。
16(いま)時代(じだい)(なに)(くら)べようか。それは子供(こども)たちが広場(ひろば)にすわって、ほかの子供(こども)たちに()びかけ、
17『わたしたちが(ふえ)()いたのに、
あなたたちは(おど)ってくれなかった。
(とむら)いの(うた)(うた)ったのに、
(むね)()ってくれなかった』
()うのに()ている。 18なぜなら、ヨハネがきて、()べることも、()むこともしないと、あれは悪霊(あくれい)につかれているのだ、と()い、 19また(ひと)()がきて、()べたり()んだりしていると、()よ、あれは(しょく)をむさぼる(もの)大酒(おおざけ)()(もの)、また取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)仲間(なかま)だ、と()う。しかし、知恵(ちえ)(ただ)しいことは、その(はたら)きが証明(しょうめい)する」。
20それからイエスは、数々(かずかず)(ちから)あるわざがなされたのに、()(あらた)めることをしなかった町々(まちまち)を、()めはじめられた。 21「わざわいだ、コラジンよ。わざわいだ、ベツサイダよ。おまえたちのうちでなされた(ちから)あるわざが、もしツロとシドンでなされたなら、(かれ)らはとうの(むかし)に、荒布(あらぬの)をまとい(はい)をかぶって、()(あらた)めたであろう。 22しかし、おまえたちに()っておく。さばきの()には、ツロとシドンの(ほう)がおまえたちよりも、()えやすいであろう。 23ああ、カペナウムよ、おまえは(てん)にまで()げられようとでもいうのか。黄泉(よみ)にまで(おと)されるであろう。おまえの(なか)でなされた(ちから)あるわざが、もしソドムでなされたなら、その(まち)今日(きょう)までも(のこ)っていたであろう。 24しかし、あなたがたに()う。さばきの()には、ソドムの()(ほう)がおまえよりは()えやすいであろう」。
25そのときイエスは(こえ)をあげて()われた、「天地(てんち)(しゅ)なる(ちち)よ。あなたをほめたたえます。これらの(こと)知恵(ちえ)のある(もの)(かしこ)(もの)(かく)して、(おさ)()にあらわしてくださいました。 26(ちち)よ、これはまことにみこころにかなった(こと)でした。 27すべての(こと)(ちち)からわたしに(まか)せられています。そして、()()(もの)(ちち)のほかにはなく、(ちち)()(もの)は、()と、(ちち)をあらわそうとして()(えら)んだ(もの)とのほかに、だれもありません。
28すべて重荷(おもに)()うて苦労(くろう)している(もの)は、わたしのもとにきなさい。あなたがたを(やす)ませてあげよう。 29わたしは柔和(にゅうわ)(こころ)のへりくだった(もの)であるから、わたしのくびきを()うて、わたしに(まな)びなさい。そうすれば、あなたがたの(たましい)(やす)みが(あた)えられるであろう。 30わたしのくびきは()いやすく、わたしの()(かる)いからである」。

第十二章

1そのころ、ある安息日(あんそくにち)に、イエスは麦畑(むぎばたけ)(なか)(とお)られた。すると弟子(でし)たちは、空腹(くうふく)であったので、()()んで()べはじめた。 2パリサイ(びと)たちがこれを()て、イエスに()った、「ごらんなさい、あなたの弟子(でし)たちが、安息日(あんそくにち)にしてはならないことをしています」。 3そこでイエスは(かれ)らに()われた、「あなたがたは、ダビデとその(とも)(もの)たちとが()えたとき、ダビデが(なに)をしたか()んだことがないのか。 4すなわち、(かみ)(いえ)にはいって、祭司(さいし)たちのほか、自分(じぶん)(とも)(もの)たちも()べてはならぬ(そな)えのパンを()べたのである。 5また、安息日(あんそくにち)宮仕(みやづか)えをしている祭司(さいし)たちは安息日(あんそくにち)(やぶ)っても(つみ)にはならないことを、律法(りっぽう)()んだことがないのか。 6あなたがたに()っておく。(みや)よりも(おお)いなる(もの)がここにいる。 7『わたしが(この)むのは、あわれみであって、いけにえではない』とはどういう意味(いみ)()っていたなら、あなたがたは(つみ)のない(もの)をとがめなかったであろう。 8(ひと)()安息日(あんそくにち)(しゅ)である」。
9イエスはそこを()って、(かれ)らの会堂(かいどう)にはいられた。 10すると、そのとき、片手(かたて)のなえた(ひと)がいた。人々(ひとびと)はイエスを(うった)えようと(おも)って、「安息日(あんそくにち)(ひと)をいやしても、さしつかえないか」と(たず)ねた。 11イエスは(かれ)らに()われた、「あなたがたのうちに、一(ぴき)(ひつじ)()っている(ひと)があるとして、もしそれが安息日(あんそくにち)(あな)()ちこんだなら、()をかけて()()げてやらないだろうか。 12(ひと)(ひつじ)よりも、はるかにすぐれているではないか。だから、安息日(あんそくにち)()いことをするのは、(ただ)しいことである」。 13そしてイエスはその(ひと)に、「()()ばしなさい」と()われた。そこで()()ばすと、ほかの()のように()くなった。 14パリサイ(びと)たちは()()って、なんとかしてイエスを(ころ)そうと相談(そうだん)した。 15イエスはこれを()って、そこを()って()かれた。ところが(おお)くの人々(ひとびと)がついてきたので、(かれ)らを(みな)いやし、 16そして自分(じぶん)のことを人々(ひとびと)にあらわさないようにと、(かれ)らを(いまし)められた。 17これは預言者(よげんしゃ)イザヤの()った言葉(ことば)が、成就(じょうじゅ)するためである、
18()よ、わたしが(えら)んだ(しもべ)
わたしの(こころ)にかなう、(あい)する(もの)
わたしは(かれ)にわたしの(れい)(さづ)け、
そして(かれ)正義(せいぎ)異邦人(いほうじん)()(つた)えるであろう。
19(かれ)(あらそ)わず、(さけ)ばず、
またその(こえ)大路(おおじ)()(もの)はない。
20(かれ)正義(せいぎ)()ちを()させる(とき)まで、
いためられた(あし)()ることがなく、
(けむ)っている燈心(とうしん)()すこともない。
21異邦人(いほうじん)(かれ)()(のぞ)みを()くであろう」。
22そのとき、人々(ひとびと)悪霊(あくれい)につかれた盲人(もうじん)のおしを()れてきたので、イエスは(かれ)をいやして、(もの)()い、また()()えるようにされた。 23すると群衆(ぐんしゅう)はみな(おどろ)いて()った、「この(ひと)が、あるいはダビデの()ではあるまいか」。 24しかし、パリサイ(びと)たちは、これを()いて()った、「この(ひと)悪霊(あくれい)()()しているのは、まったく悪霊(あくれい)のかしらベルゼブルによるのだ」。 25イエスは(かれ)らの(おも)いを見抜(みぬ)いて()われた、「おおよそ、内部(ないぶ)(わか)(あらそ)(くに)自滅(じめつ)し、(うち)わで(わか)(あらそ)(まち)(いえ)()()かない。 26もしサタンがサタンを()()すならば、それは(うち)わで(わか)(あらそ)うことになる。それでは、その(くに)はどうして()()けよう。 27もしわたしがベルゼブルによって悪霊(あくれい)()()すとすれば、あなたがたの仲間(なかま)はだれによって()()すのであろうか。だから、(かれ)らがあなたがたをさばく(もの)となるであろう。 28しかし、わたしが(かみ)(れい)によって悪霊(あくれい)()()しているのなら、(かみ)(くに)はすでにあなたがたのところにきたのである。 29まただれでも、まず(つよ)(ひと)(しば)りあげなければ、どうして、その(ひと)(いえ)()()って家財(かざい)(うば)()ることができようか。(しば)ってから、はじめてその(いえ)掠奪(りゃくだつ)することができる。 30わたしの味方(みかた)でない(もの)は、わたしに反対(はんたい)するものであり、わたしと(とも)(あつ)めない(もの)は、()らすものである。 31だから、あなたがたに()っておく。(ひと)には、その(おか)すすべての(つみ)(かみ)(けが)言葉(ことば)も、ゆるされる。しかし、聖霊(せいれい)(けが)言葉(ことば)は、ゆるされることはない。 32また(ひと)()(たい)して()(さか)らう(もの)は、ゆるされるであろう。しかし、聖霊(せいれい)(たい)して()(さか)らう(もの)は、この()でも、きたるべき()でも、ゆるされることはない。 33()()ければ、その()()いとし、()(わる)ければ、その()(わる)いとせよ。()はその()でわかるからである。 34まむしの()らよ。あなたがたは(わる)(もの)であるのに、どうして()いことを(かた)ることができようか。おおよそ、(こころ)からあふれることを、(くち)(かた)るものである。 35善人(ぜんにん)はよい(くら)から()(もの)()()し、悪人(あくにん)(わる)(くら)から(わる)(もの)()()す。 36あなたがたに()うが、審判(しんぱん)()には、(ひと)はその(かた)無益(むえき)言葉(ことば)(たい)して、()(ひら)きをしなければならないであろう。 37あなたは、自分(じぶん)言葉(ことば)によって(ただ)しいとされ、また自分(じぶん)言葉(ことば)によって(つみ)ありとされるからである」。
38そのとき、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)のうちのある人々(ひとびと)がイエスにむかって()った、「先生(せんせい)、わたしたちはあなたから、しるしを()せていただきとうございます」。 39すると、(かれ)らに(こた)えて()われた、「邪悪(じゃあく)不義(ふぎ)時代(じだい)は、しるしを(もと)める。しかし、預言者(よげんしゃ)ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも(あた)えられないであろう。 40すなわち、ヨナが三()(ばん)大魚(たいぎょ)(はら)(うち)にいたように、(ひと)()も三()(ばん)()(なか)にいるであろう。 41ニネベの人々(ひとびと)が、(いま)時代(じだい)人々(ひとびと)(とも)にさばきの()()って、(かれ)らを(つみ)(さだ)めるであろう。なぜなら、ニネベの人々(ひとびと)はヨナの宣教(せんきょう)によって()(あらた)めたからである。しかし()よ、ヨナにまさる(もの)がここにいる。 42(みなみ)女王(じょおう)が、(いま)時代(じだい)人々(ひとびと)(とも)にさばきの()()って、(かれ)らを(つみ)(さだ)めるであろう。なぜなら、彼女(かのじょ)はソロモンの知恵(ちえ)()くために()(はて)から、はるばるきたからである。しかし()よ、ソロモンにまさる(もの)がここにいる。 43(けが)れた(れい)(ひと)から()ると、(やす)()(もと)めて(みず)()(ところ)(ある)きまわるが、()つからない。 44そこで、()てきた(もと)(いえ)(かえ)ろうと()って(かえ)って()ると、その(いえ)はあいていて、そうじがしてある(うえ)(かざ)りつけがしてあった。 45そこでまた()()って、自分(じぶん)以上(いじょう)(わる)()の七つの(れい)一緒(いっしょ)()()れてきて(なか)にはいり、そこに()()む。そうすると、その(ひと)ののちの状態(じょうたい)(はじ)めよりももっと(わる)くなるのである。よこしまな(いま)時代(じだい)も、このようになるであろう」。
46イエスがまだ群衆(ぐんしゅう)(はな)しておられるとき、その(はは)兄弟(きょうだい)たちとが、イエスに(はな)そうと(おも)って(そと)()っていた。 47それで、ある(ひと)がイエスに()った、「ごらんなさい。あなたの母上(ははうえ)兄弟(きょうだい)がたが、あなたに(はな)そうと(おも)って、(そと)()っておられます」。 48イエスは()らせてくれた(もの)(こた)えて()われた、「わたしの(はは)とは、だれのことか。わたしの兄弟(きょうだい)とは、だれのことか」。 49そして、弟子(でし)たちの(ほう)()をさし()べて()われた、「ごらんなさい。ここにわたしの(はは)、わたしの兄弟(きょうだい)がいる。 50(てん)にいますわたしの(ちち)のみこころを(おこな)(もの)はだれでも、わたしの兄弟(きょうだい)、また姉妹(しまい)、また(はは)なのである」。

第十三章

1その()、イエスは(いえ)()て、(うみ)べにすわっておられた。 2ところが、(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)がみもとに(あつ)まったので、イエスは(ふね)()ってすわられ、群衆(ぐんしゅう)はみな(きし)()っていた。 3イエスは(たとえ)(おお)くの(こと)(かた)り、こう()われた、「()よ、(たね)まきが(たね)をまきに()()った。 4まいているうちに、(みち)ばたに()ちた(たね)があった。すると、(とり)がきて()べてしまった。 5ほかの(たね)(つち)(うす)石地(いしじ)()ちた。そこは(つち)(ふか)くないので、すぐ()()したが、 6()(のぼ)ると()けて、()がないために()れてしまった。 7ほかの(たね)はいばらの()()ちた。すると、いばらが()びて、ふさいでしまった。 8ほかの(たね)()()()ちて()(むす)び、あるものは百(ばい)、あるものは六十(ばい)、あるものは三十(ばい)にもなった。 9(みみ)のある(もの)()くがよい」。
10それから、弟子(でし)たちがイエスに近寄(ちかよ)ってきて()った、「なぜ、(かれ)らに(たとえ)でお(はな)しになるのですか」。 11そこでイエスは(こた)えて()われた、「あなたがたには、天国(てんごく)奥義(おくぎ)()ることが(ゆる)されているが、(かれ)らには(ゆる)されていない。 12おおよそ、()っている(ひと)(あた)えられて、いよいよ(ゆた)かになるが、()っていない(ひと)は、()っているものまでも()()げられるであろう。 13だから、(かれ)らには(たとえ)(かた)るのである。それは(かれ)らが、()ても()ず、()いても()かず、また(さと)らないからである。 14こうしてイザヤの()った預言(よげん)が、(かれ)らの(うえ)成就(じょうじゅ)したのである。
『あなたがたは()くには()くが、(けっ)して(さと)らない。
()るには()るが、(けっ)して(みと)めない。
15この(たみ)(こころ)(にぶ)くなり、
その(みみ)(きこ)えにくく、
その()()じている。
それは、(かれ)らが()()ず、(みみ)()かず、(こころ)(さと)らず、
()(あらた)めていやされることがないためである』。
16しかし、あなたがたの()()ており、(みみ)()いているから、さいわいである。 17あなたがたによく()っておく。(おお)くの預言者(よげんしゃ)義人(ぎじん)は、あなたがたの()ていることを()ようと熱心(ねっしん)(ねが)ったが、()ることができず、またあなたがたの()いていることを()こうとしたが、()けなかったのである。 18そこで、(たね)まきの(たとえ)()きなさい。 19だれでも御国(みくに)(ことば)()いて(さと)らないならば、(わる)(もの)がきて、その(ひと)(こころ)にまかれたものを(うば)いとって()く。(みち)ばたにまかれたものというのは、そういう(ひと)のことである。 20石地(いしじ)にまかれたものというのは、御言(みことば)()くと、すぐに(よろこ)んで()ける(ひと)のことである。 21その(なか)()がないので、しばらく(つづ)くだけであって、御言(みことば)のために困難(こんなん)迫害(はくがい)(おこ)ってくると、すぐつまずいてしまう。 22また、いばらの(なか)にまかれたものとは、御言(みことば)()くが、()(こころ)づかいと(とみ)(まど)わしとが御言(みことば)をふさぐので、()(むす)ばなくなる(ひと)のことである。 23また、()()にまかれたものとは、御言(みことば)()いて(さと)(ひと)のことであって、そういう(ひと)()(むす)び、百(ばい)、あるいは六十(ばい)、あるいは三十(ばい)にもなるのである」。
24また、ほかの(たとえ)(かれ)らに(しめ)して()われた、「天国(てんごく)は、()(たね)自分(じぶん)(はたけ)にまいておいた(ひと)のようなものである。 25人々(ひとびと)(ねむ)っている(あいだ)(てき)がきて、(むぎ)(なか)(どく)(むぎ)をまいて()()った。 26()がはえ()()(むす)ぶと、同時(どうじ)(どく)(むぎ)もあらわれてきた。 27(しもべ)たちがきて、(いえ)主人(しゅじん)()った、『ご主人様(しゅじんさま)(はたけ)におまきになったのは、()(たね)ではありませんでしたか。どうして(どく)(むぎ)がはえてきたのですか』。 28主人(しゅじん)()った、『それは(てき)のしわざだ』。すると(しもべ)たちが()った『では()って、それを()(あつ)めましょうか』。 29(かれ)()った、『いや、(どく)(むぎ)(あつ)めようとして、(むぎ)一緒(いっしょ)()くかも()れない。 30収穫(しゅうかく)まで、両方(りょうほう)とも(そだ)つままにしておけ。収穫(しゅうかく)(とき)になったら、()(もの)に、まず(どく)(むぎ)(あつ)めて(たば)にして()き、(むぎ)(ほう)(あつ)めて(くら)()れてくれ、と()いつけよう』」。
31また、ほかの(たとえ)(かれ)らに(しめ)して()われた、「天国(てんごく)は、一(つぶ)のからし(だね)のようなものである。ある(ひと)がそれをとって(はたけ)にまくと、 32それはどんな(たね)よりも(ちい)さいが、成長(せいちょう)すると、野菜(やさい)(なか)でいちばん(おお)きくなり、(そら)(とり)がきて、その(えだ)宿(やど)るほどの()になる」。
33またほかの(たとえ)(かれ)らに(かた)られた、「天国(てんごく)は、パン(たね)のようなものである。(おんな)がそれを()って三()(こな)(なか)()ぜると、全体(ぜんたい)がふくらんでくる」。
34イエスはこれらのことをすべて、(たとえ)群衆(ぐんしゅう)(かた)られた。(たとえ)によらないでは何事(なにごと)(かれ)らに(かた)られなかった。 35これは預言者(よげんしゃ)によって()われたことが、成就(じょうじゅ)するためである、
「わたしは(くち)(ひら)いて(たとえ)(かた)り、
()(はじ)めから(かく)されていることを(かた)()そう」。
36それからイエスは、群衆(ぐんしゅう)をあとに(のこ)して(いえ)にはいられた。すると弟子(でし)たちは、みもとにきて()った、「(はたけ)(どく)(むぎ)(たとえ)説明(せつめい)してください」。 37イエスは(こた)えて()われた、「()(たね)をまく(もの)は、(ひと)()である。 38(はたけ)世界(せかい)である。()(たね)()うのは御国(みくに)()たちで、(どく)(むぎ)(わる)(もの)()たちである。 39それをまいた(てき)悪魔(あくま)である。収穫(しゅうかく)とは()(おわ)りのことで、()(もの)御使(みつかい)たちである。 40だから、(どく)(むぎ)(あつ)められて()()かれるように、()(おわ)りにもそのとおりになるであろう。 41(ひと)()はその使(つかい)たちをつかわし、つまずきとなるものと不法(ふほう)(おこな)(もの)とを、ことごとく御国(みくに)からとり(あつ)めて、 42()()()()れさせるであろう。そこでは()(さけ)んだり、()がみをしたりするであろう。 43そのとき、義人(ぎじん)たちは(かれ)らの(ちち)御国(みくに)で、太陽(たいよう)のように(かがや)きわたるであろう。(みみ)のある(もの)()くがよい。
44天国(てんごく)は、(はたけ)(かく)してある(たから)のようなものである。(ひと)がそれを()つけると(かく)しておき、(よろこ)びのあまり、()って()(もの)をみな()りはらい、そしてその(はたけ)()うのである。
45また天国(てんごく)は、()真珠(しんじゅ)(さが)している商人(しょうにん)のようなものである。 46高価(こうか)真珠(しんじゅ)()()いだすと、()って()(もの)をみな()りはらい、そしてこれを()うのである。
47また天国(てんごく)は、(うみ)におろして、あらゆる種類(しゅるい)(うお)(かこ)みいれる(あみ)のようなものである。 48それがいっぱいになると(きし)()()げ、そしてすわって、()いのを(うつわ)()れ、(わる)いのを(そと)()てるのである。 49()(おわ)りにも、そのとおりになるであろう。すなわち、御使(みつかい)たちがきて、義人(ぎじん)のうちから悪人(あくにん)をえり()け、 50そして()()()げこむであろう。そこでは()(さけ)んだり、()がみをしたりするであろう。
51あなたがたは、これらのことが(みな)わかったか」。(かれ)らは「わかりました」と(こた)えた。 52そこで、イエスは(かれ)らに()われた、「それだから、天国(てんごく)のことを(まな)んだ学者(がくしゃ)は、(あたら)しいものと(ふる)いものとを、その(くら)から()()一家(いっか)主人(しゅじん)のようなものである」。
53イエスはこれらの(たとえ)(かた)()えてから、そこを()()られた。 54そして郷里(きょうり)()き、会堂(かいどう)人々(ひとびと)(おし)えられたところ、(かれ)らは(おどろ)いて()った、「この(ひと)は、この知恵(ちえ)とこれらの(ちから)あるわざとを、どこで(なら)ってきたのか。 55この(ひと)大工(だいく)()ではないか。(はは)はマリヤといい、兄弟(きょうだい)たちは、ヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないか。 56またその姉妹(しまい)たちもみな、わたしたちと一緒(いっしょ)にいるではないか。こんな数々(かずかず)のことを、いったい、どこで(なら)ってきたのか」。 57こうして人々(ひとびと)はイエスにつまずいた。しかし、イエスは()われた、「預言者(よげんしゃ)は、自分(じぶん)郷里(きょうり)自分(じぶん)(いえ)以外(いがい)では、どこででも(うやま)われないことはない」。 58そして(かれ)らの()信仰(しんこう)のゆえに、そこでは(ちから)あるわざを、あまりなさらなかった。

第十四章

1そのころ、領主(りょうしゅ)ヘロデはイエスのうわさを()いて、 2家来(けらい)()った、「あれはバプテスマのヨハネだ。死人(しにん)(なか)からよみがえったのだ。それで、あのような(ちから)(かれ)のうちに(はたら)いているのだ」。 3というのは、ヘロデは(さき)に、自分(じぶん)兄弟(きょうだい)ピリポの(つま)ヘロデヤのことで、ヨハネを(とら)えて(しば)り、(ごく)()れていた。 4すなわち、ヨハネはヘロデに、「その(おんな)をめとるのは、よろしくない」と()ったからである。 5そこでヘロデはヨハネを(ころ)そうと(おも)ったが、群衆(ぐんしゅう)(おそ)れた。(かれ)らがヨハネを預言者(よげんしゃ)(みと)めていたからである。 6さてヘロデの誕生(たんじょう)()(いわい)に、ヘロデヤの(むすめ)がその席上(せきじょう)(まい)をまい、ヘロデを(よろこ)ばせたので、 7彼女(かのじょ)(ねが)うものは、なんでも(あた)えようと、(かれ)(ちか)って約束(やくそく)までした。 8すると彼女(かのじょ)(はは)にそそのかされて、「バプテスマのヨハネの(くび)(ぼん)()せて、ここに()ってきていただきとうございます」と()った。 9(おう)(こま)ったが、いったん(ちか)ったのと、また列座(れつざ)(ひと)たちの手前(てまえ)、それを(あた)えるように(めい)じ、 10(ひと)をつかわして、獄中(ごくちゅう)でヨハネの(くび)()らせた。 11その(くび)(ぼん)()せて(はこ)ばれ、少女(しょうじょ)にわたされ、少女(しょうじょ)はそれを(はは)のところに()って()った。 12それから、ヨハネの弟子(でし)たちがきて、死体(したい)()()って(ほうむ)った。そして、イエスのところに()って報告(ほうこく)した。
13イエスはこのことを()くと、(ふね)()ってそこを()り、自分(じぶん)ひとりで(さび)しい(ところ)()かれた。しかし、群衆(ぐんしゅう)はそれと()いて、町々(まちまち)から徒歩(とほ)であとを()ってきた。 14イエスは(ふね)から()がって、(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)をごらんになり、(かれ)らを(ふか)くあわれんで、そのうちの病人(びょうにん)たちをおいやしになった。 15夕方(ゆうがた)になったので、弟子(でし)たちがイエスのもとにきて()った、「ここは(さび)しい(ところ)でもあり、もう(とき)もおそくなりました。群衆(ぐんしゅう)解散(かいさん)させ、めいめいで食物(しょくもつ)()いに、村々(むらむら)()かせてください」。 16するとイエスは()われた、「(かれ)らが()かけて()くには(およ)ばない。あなたがたの()食物(しょくもつ)をやりなさい」。 17弟子(でし)たちは()った、「わたしたちはここに、パン五つと(うお)二ひきしか()っていません」。 18イエスは()われた、「それをここに()ってきなさい」。 19そして群衆(ぐんしゅう)(めい)じて、(くさ)(うえ)にすわらせ、五つのパンと二ひきの(うお)とを()()り、(てん)(あお)いでそれを祝福(しゅくふく)し、パンをさいて弟子(でし)たちに(わた)された。弟子(でし)たちはそれを群衆(ぐんしゅう)(あた)えた。 20みんなの(もの)()べて満腹(まんぷく)した。パンくずの(のこ)りを(あつ)めると、十二のかごにいっぱいになった。 21()べた(もの)は、(おんな)子供(こども)とを(のぞ)いて、おおよそ五千(にん)であった。
22それからすぐ、イエスは群衆(ぐんしゅう)解散(かいさん)させておられる(あいだ)に、しいて弟子(でし)たちを(ふね)()()ませ、()こう(ぎし)(さき)におやりになった。 23そして群衆(ぐんしゅう)解散(かいさん)させてから、(いの)るためひそかに(やま)(のぼ)られた。夕方(ゆうがた)になっても、ただひとりそこにおられた。 24ところが(ふね)は、もうすでに(りく)から数丁(すうちょう)(はな)れており、逆風(ぎゃくふう)()いていたために、(なみ)(なや)まされていた。 25イエスは夜明(よあ)けの四()ごろ、(うみ)(うえ)(ある)いて(かれ)らの(ほう)()かれた。 26弟子(でし)たちは、イエスが(うみ)(うえ)(ある)いておられるのを()て、幽霊(ゆうれい)だと()っておじ(まど)い、恐怖(きょうふ)のあまり(さけ)(ごえ)をあげた。 27しかし、イエスはすぐに(かれ)らに(こえ)をかけて、「しっかりするのだ、わたしである。(おそ)れることはない」と()われた。 28するとペテロが(こた)えて()った、「(しゅ)よ、あなたでしたか。では、わたしに(めい)じて、(みず)(うえ)(わた)ってみもとに()かせてください」。 29イエスは、「おいでなさい」と()われたので、ペテロは(ふね)からおり、(みず)(うえ)(ある)いてイエスのところへ()った。 30しかし、(かぜ)()(おそ)ろしくなり、そしておぼれかけたので、(かれ)(さけ)んで、「(しゅ)よ、お(たす)けください」と()った。 31イエスはすぐに()()ばし、(かれ)をつかまえて()われた、「信仰(しんこう)(うす)(もの)よ、なぜ(うたが)ったのか」。 32ふたりが(ふね)()()むと、(かぜ)はやんでしまった。 33(ふね)(なか)にいた(もの)たちはイエスを(はい)して、「ほんとうに、あなたは(かみ)()です」と()った。
34それから、(かれ)らは(うみ)(わた)ってゲネサレの()()いた。 35するとその土地(とち)人々(ひとびと)はイエスと()って、その附近(ふきん)全体(ぜんたい)(ひと)をつかわし、イエスのところに病人(びょうにん)をみな()れてこさせた。 36そして(かれ)らにイエスの上着(うわぎ)のふさにでも、さわらせてやっていただきたいとお(ねが)いした。そしてさわった(もの)(みな)いやされた。

第十五章

1ときに、パリサイ(びと)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちとが、エルサレムからイエスのもとにきて()った、 2「あなたの弟子(でし)たちは、なぜ(むかし)人々(ひとびと)言伝(いいつた)えを(やぶ)るのですか。(かれ)らは食事(しょくじ)(とき)()(あら)っていません」。 3イエスは(こた)えて()われた、「なぜ、あなたがたも自分(じぶん)たちの言伝(いいつた)えによって、(かみ)のいましめを(やぶ)っているのか。 4(かみ)()われた、『(ちち)(はは)とを(うやま)え』、また『(ちち)または(はは)をののしる(もの)は、(かなら)()(さだ)められる』と。 5それだのに、あなたがたは『だれでも(ちち)または(はは)にむかって、あなたにさしあげるはずのこのものは(そな)(もの)です、と()えば、 6(ちち)または(はは)(うやま)わなくてもよろしい』と()っている。こうしてあなたがたは自分(じぶん)たちの言伝(いいつた)えによって、(かみ)(ことば)()にしている。 7偽善者(ぎぜんしゃ)たちよ、イザヤがあなたがたについて、こういう適切(てきせつ)預言(よげん)をしている、
8『この(たみ)は、(くち)さきではわたしを(うやま)うが、
その(こころ)はわたしから(とお)(はな)れている。
9人間(にんげん)のいましめを(おしえ)として(おし)え、
無意味(むいみ)にわたしを(おが)んでいる』」。
10それからイエスは群衆(ぐんしゅう)()()せて()われた、「()いて(さと)るがよい。 11(くち)にはいるものは(ひと)(けが)すことはない。かえって、(くち)から()るものが(ひと)(けが)すのである」。 12そのとき、弟子(でし)たちが近寄(ちかよ)ってきてイエスに()った、「パリサイ(びと)たちが御言(みことば)()いてつまずいたことを、ご(ぞん)じですか」。 13イエスは(こた)えて()われた、「わたしの(てん)(ちち)がお()えにならなかったものは、みな()()られるであろう。 14(かれ)らをそのままにしておけ。(かれ)らは盲人(もうじん)手引(てび)きする盲人(もうじん)である。もし盲人(もうじん)盲人(もうじん)手引(てび)きするなら、ふたりとも(あな)()()むであろう」。 15ペテロが(こた)えて()った、「その(たとえ)説明(せつめい)してください」。 16イエスは()われた、「あなたがたも、まだわからないのか。 17(くち)にはいってくるものは、みな(はら)(なか)にはいり、そして、(そと)()()くことを()らないのか。 18しかし、(くち)から()()くものは、(こころ)(なか)から()てくるのであって、それが(ひと)(けが)すのである。 19というのは、(わる)(おも)い、すなわち、殺人(さつじん)姦淫(かんいん)不品行(ふひんこう)(ぬす)み、偽証(ぎしょう)(そし)りは、(こころ)(なか)から()てくるのであって、 20これらのものが(ひと)(けが)すのである。しかし、(あら)わない()食事(しょくじ)することは、(ひと)(けが)すのではない」。
21さて、イエスはそこを()て、ツロとシドンとの地方(ちほう)()かれた。 22すると、そこへ、その地方(ちほう)()のカナンの(おんな)()てきて、「(しゅ)よ、ダビデの()よ、わたしをあわれんでください。(むすめ)悪霊(あくれい)にとりつかれて(くる)しんでいます」と()って(さけ)びつづけた。 23しかし、イエスはひと(こと)もお(こた)えにならなかった。そこで弟子(でし)たちがみもとにきて(ねが)って()った、「この(おんな)()(はら)ってください。(さけ)びながらついてきていますから」。 24するとイエスは(こた)えて()われた、「わたしは、イスラエルの(いえ)(うしな)われた(ひつじ)以外(いがい)(もの)には、つかわされていない」。 25しかし、(おんな)近寄(ちかよ)りイエスを(はい)して()った、「(しゅ)よ、わたしをお(たす)けください」。 26イエスは(こた)えて()われた、「子供(こども)たちのパンを()って小犬(こいぬ)()げてやるのは、よろしくない」。 27すると(おんな)()った、「(しゅ)よ、お言葉(ことば)どおりです。でも、小犬(こいぬ)もその主人(しゅじん)食卓(しょくたく)から()ちるパンくずは、いただきます」。 28そこでイエスは(こた)えて()われた、「(おんな)よ、あなたの信仰(しんこう)()あげたものである。あなたの(ねが)いどおりになるように」。その(とき)に、(むすめ)はいやされた。
29イエスはそこを()って、ガリラヤの(うみ)べに()き、それから(やま)(のぼ)ってそこにすわられた。 30すると(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)が、(あし)なえ、不具者(ふぐしゃ)盲人(もうじん)、おし、そのほか(おお)くの人々(ひとびと)()れてきて、イエスの(あし)もとに()いたので、(かれ)らをおいやしになった。 31群衆(ぐんしゅう)は、おしが(もの)()い、不具者(ふぐしゃ)(なお)り、(あし)なえが(ある)き、盲人(もうじん)()えるようになったのを()(おどろ)き、そしてイスラエルの(かみ)をほめたたえた。
32イエスは弟子(でし)たちを()()せて()われた、「この群衆(ぐんしゅう)がかわいそうである。もう三日間(かかん)もわたしと一緒(いっしょ)にいるのに、(なに)()べるものがない。しかし、(かれ)らを空腹(くうふく)のままで(かえ)らせたくはない。(おそ)らく途中(とちゅう)(よわ)()ってしまうであろう」。 33弟子(でし)たちは()った、「荒野(あらの)(なか)で、こんなに(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)にじゅうぶん()べさせるほどたくさんのパンを、どこで()()れましょうか」。 34イエスは弟子(でし)たちに「パンはいくつあるか」と(たず)ねられると、「七つあります。また(ちい)さい(うお)(すこ)しあります」と(こた)えた。 35そこでイエスは群衆(ぐんしゅう)に、()にすわるようにと(めい)じ、 36七つのパンと(うお)とを()り、感謝(かんしゃ)してこれをさき、弟子(でし)たちにわたされ、弟子(でし)たちはこれを群衆(ぐんしゅう)にわけた。 37一同(いちどう)(もの)()べて満腹(まんぷく)した。そして(のこ)ったパンくずを(あつ)めると、七つのかごにいっぱいになった。 38()べた(もの)は、(おんな)子供(こども)とを(のぞ)いて四千(にん)であった。 39そこでイエスは群衆(ぐんしゅう)解散(かいさん)させ、(ふね)()ってマガダンの地方(ちほう)()かれた。

第十六章

1パリサイ(びと)とサドカイ(びと)とが近寄(ちかよ)ってきて、イエスを(こころ)み、(てん)からのしるしを()せてもらいたいと()った。 2イエスは(かれ)らに()われた、「あなたがたは夕方(ゆうがた)になると、『(そら)がまっかだから、(はれ)だ』と()い、 3また()(がた)には『(そら)(くも)ってまっかだから、きょうは()れだ』と()う。あなたがたは(そら)模様(もよう)見分(みわ)けることを()りながら、(とき)のしるしを見分(みわ)けることができないのか。 4邪悪(じゃあく)不義(ふぎ)時代(じだい)は、しるしを(もと)める。しかし、ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも(あた)えられないであろう」。そして、イエスは(かれ)らをあとに(のこ)して()()られた。
5弟子(でし)たちは()こう(ぎし)()ったが、パンを()って()るのを(わす)れていた。 6そこでイエスは()われた、「パリサイ(びと)とサドカイ(びと)とのパン(だね)を、よくよく警戒(けいかい)せよ」。 7弟子(でし)たちは、これは自分(じぶん)たちがパンを()ってこなかったためであろうと()って、(たがい)(ろん)()った。 8イエスはそれと()って()われた、「信仰(しんこう)(うす)(もの)たちよ、なぜパンがないからだと(たがい)(ろん)()っているのか。 9まだわからないのか。(おぼ)えていないのか。五つのパンを五千(にん)()けたとき、(いく)かご(ひろ)ったか。 10また、七つのパンを四千(にん)()けたとき、(いく)かご(ひろ)ったか。 11わたしが()ったのは、パンについてではないことを、どうして(さと)らないのか。ただ、パリサイ(びと)とサドカイ(びと)とのパン(だね)警戒(けいかい)しなさい」。 12そのとき(かれ)らは、イエスが警戒(けいかい)せよと()われたのは、パン(だね)のことではなく、パリサイ(びと)とサドカイ(びと)との(おしえ)のことであると(さと)った。
13イエスがピリポ・カイザリヤの地方(ちほう)()かれたとき、弟子(でし)たちに(たず)ねて()われた、「人々(ひとびと)(ひと)()をだれと()っているか」。 14(かれ)らは()った、「ある人々(ひとびと)はバプテスマのヨハネだと()っています。しかし、ほかの(ひと)たちは、エリヤだと()い、また、エレミヤあるいは預言者(よげんしゃ)のひとりだ、と()っている(もの)もあります」。 15そこでイエスは(かれ)らに()われた、「それでは、あなたがたはわたしをだれと()うか」。 16シモン・ペテロが(こた)えて()った、「あなたこそ、()ける(かみ)()キリストです」。 17すると、イエスは(かれ)にむかって()われた、「バルヨナ・シモン、あなたはさいわいである。あなたにこの(こと)をあらわしたのは、血肉(けつにく)ではなく、(てん)にいますわたしの(ちち)である。 18そこで、わたしもあなたに()う。あなたはペテロである。そして、わたしはこの(いわ)(うえ)にわたしの教会(きょうかい)()てよう。黄泉(よみ)(ちから)もそれに()()つことはない。 19わたしは、あなたに天国(てんごく)のかぎを(さづ)けよう。そして、あなたが地上(ちじょう)でつなぐことは、(てん)でもつながれ、あなたが地上(ちじょう)()くことは(てん)でも()かれるであろう」。 20そのとき、イエスは、自分(じぶん)がキリストであることをだれにも()ってはいけないと、弟子(でし)たちを(いまし)められた。
21この(とき)から、イエス・キリストは、自分(じぶん)(かなら)ずエルサレムに()き、長老(ちょうろう)祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちから(おお)くの(くる)しみを()け、(ころ)され、そして三()()によみがえるべきことを、弟子(でし)たちに(しめ)しはじめられた。 22すると、ペテロはイエスをわきへ()()せて、いさめはじめ、「(しゅ)よ、とんでもないことです。そんなことがあるはずはございません」と()った。 23イエスは()()いて、ペテロに()われた、「サタンよ、()きさがれ。わたしの邪魔(じゃま)をする(もの)だ。あなたは(かみ)のことを(おも)わないで、(ひと)のことを(おも)っている」。 24それからイエスは弟子(でし)たちに()われた、「だれでもわたしについてきたいと(おも)うなら、自分(じぶん)()て、自分(じぶん)十字架(じゅうじか)()うて、わたしに(したが)ってきなさい。 25自分(じぶん)(いのち)(すく)おうと(おも)(もの)はそれを(うしな)い、わたしのために自分(じぶん)(いのち)(うしな)(もの)は、それを()いだすであろう。 26たとい(ひと)(ぜん)世界(せかい)をもうけても、自分(じぶん)(いのち)(そん)したら、なんの(とく)になろうか。また、(ひと)はどんな代価(だいか)(はら)って、その(いのち)()いもどすことができようか。 27(ひと)()(ちち)栄光(えいこう)のうちに、御使(みつかい)たちを(したが)えて()るが、その(とき)には、実際(じっさい)のおこないに(おう)じて、それぞれに(むく)いるであろう。 28よく()いておくがよい、(ひと)()御国(みくに)(ちから)をもって()るのを()るまでは、()(あじ)わわない(もの)が、ここに()っている(もの)(なか)にいる」。

第十七章

1六日(むいか)ののち、イエスはペテロ、ヤコブ、ヤコブの兄弟(きょうだい)ヨハネだけを()れて、(たか)(やま)(のぼ)られた。 2ところが、(かれ)らの()(まえ)でイエスの姿(すがた)(かわ)り、その(かお)()のように(かがや)き、その(ころも)(ひかり)のように(しろ)くなった。 3すると、()よ、モーセとエリヤが(かれ)らに(あらわ)れて、イエスと(かた)()っていた。 4ペテロはイエスにむかって()った、「(しゅ)よ、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。もし、おさしつかえなければ、わたしはここに小屋(こや)を三つ()てましょう。一つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために」。 5(かれ)がまだ(はな)()えないうちに、たちまち、(かがや)(くも)(かれ)らをおおい、そして(くも)(なか)から(こえ)がした、「これはわたしの(あい)する()、わたしの(こころ)にかなう(もの)である。これに()け」。 6弟子(でし)たちはこれを()いて非常(ひじょう)(おそ)れ、(かお)()()せた。 7イエスは(ちか)づいてきて、()(かれ)らにおいて()われた、「()きなさい、(おそ)れることはない」。 8(かれ)らが()をあげると、イエスのほかには、だれも()えなかった。
9一同(いちどう)(やま)(くだ)って()るとき、イエスは「(ひと)()死人(しにん)(なか)からよみがえるまでは、いま()たことをだれにも(はな)してはならない」と、(かれ)らに(めい)じられた。 10弟子(でし)たちはイエスにお(たず)ねして()った、「いったい、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちは、なぜ、エリヤが(さき)()るはずだと()っているのですか」。 11(こた)えて()われた、「(たし)かに、エリヤがきて、万事(ばんじ)(もと)どおりに(あらた)めるであろう。 12しかし、あなたがたに()っておく。エリヤはすでにきたのだ。しかし人々(ひとびと)(かれ)(みと)めず、自分(じぶん)かってに(かれ)をあしらった。(ひと)()もまた、そのように(かれ)らから(くる)しみを()けることになろう」。 13そのとき、弟子(でし)たちは、イエスがバプテスマのヨハネのことを()われたのだと(さと)った。
14さて(かれ)らが群衆(ぐんしゅう)のところに(かえ)ると、ひとりの(ひと)がイエスに近寄(ちかよ)ってきて、ひざまずいて、()った、 15(しゅ)よ、わたしの()をあわれんでください。てんかんで(くる)しんでおります。(なん)()(なん)()()(なか)(みず)(なか)(たお)れるのです。 16それで、その()をお弟子(でし)たちのところに()れてきましたが、なおしていただけませんでした」。 17イエスは(こた)えて()われた、「ああ、なんという()信仰(しんこう)な、(まが)った時代(じだい)であろう。いつまで、わたしはあなたがたと一緒(いっしょ)におられようか。いつまであなたがたに我慢(がまん)ができようか。その()をここに、わたしのところに()れてきなさい」。 18イエスがおしかりになると、悪霊(あくれい)はその()から()()った。そして()はその(とき)いやされた。 19それから、弟子(でし)たちがひそかにイエスのもとにきて()った、「わたしたちは、どうして(れい)()()せなかったのですか」。 20するとイエスは()われた、「あなたがたの信仰(しんこう)()りないからである。よく()()かせておくが、もし、からし(だね)(つぶ)ほどの信仰(しんこう)があるなら、この(やま)にむかって『ここからあそこに(うつ)れ』と()えば、(うつ)るであろう。このように、あなたがたにできない(こと)は、(なに)もないであろう。〔 21しかし、このたぐいは、(いのり)断食(だんじき)とによらなければ、()()すことはできない〕」。
22(かれ)らがガリラヤで(あつ)まっていた(とき)、イエスは()われた、「(ひと)()人々(ひとびと)()にわたされ、 23(かれ)らに(ころ)され、そして三()()によみがえるであろう」。弟子(でし)たちは非常(ひじょう)(こころ)をいためた。
24(かれ)らがカペナウムにきたとき、(みや)納入(のうにゅう)(きん)(あつ)める(ひと)たちがペテロのところにきて()った、「あなたがたの先生(せんせい)(みや)納入(のうにゅう)(きん)(おさ)めないのか」。 25ペテロは「(おさ)めておられます」と()った。そして(かれ)(いえ)にはいると、イエスから(さき)(はな)しかけて()われた、「シモン、あなたはどう(おも)うか。この()(おう)たちは(ぜい)(みつぎ)をだれから()るのか。自分(じぶん)()からか、それとも、ほかの(ひと)たちからか」。 26ペテロが「ほかの(ひと)たちからです」と(こた)えると、イエスは()われた、「それでは、()(おさ)めなくてもよいわけである。 27しかし、(かれ)らをつまずかせないために、(うみ)()って、つり(はり)をたれなさい。そして最初(さいしょ)につれた(うお)をとって、その(くち)をあけると、銀貨(ぎんか)(まい)()つかるであろう。それをとり()して、わたしとあなたのために(おさ)めなさい」。

第十八章

1そのとき、弟子(でし)たちがイエスのもとにきて()った、「いったい、天国(てんごく)ではだれがいちばん(えら)いのですか」。 2すると、イエスは(おさ)()()()せ、(かれ)らのまん(なか)()たせて()われた、 3「よく()きなさい。(こころ)をいれかえて(おさ)()のようにならなければ、天国(てんごく)にはいることはできないであろう。 4この(おさ)()のように自分(じぶん)(ひく)くする(もの)が、天国(てんごく)でいちばん(えら)いのである。 5また、だれでも、このようなひとりの(おさ)()を、わたしの()のゆえに()けいれる(もの)は、わたしを()けいれるのである。 6しかし、わたしを(しん)ずるこれらの(ちい)さい(もの)のひとりをつまずかせる(もの)は、(おお)きなひきうすを(くび)にかけられて(うみ)(ふか)みに(しず)められる(ほう)が、その(ひと)(えき)になる。 7この()は、(つみ)誘惑(ゆうわく)があるから、わざわいである。(つみ)誘惑(ゆうわく)(かなら)()る。しかし、それをきたらせる(ひと)は、わざわいである。 8もしあなたの片手(かたて)または片足(かたあし)が、(つみ)(おか)させるなら、それを()って()てなさい。両手(りょうて)両足(りょうあし)がそろったままで、永遠(えいえん)()()()まれるよりは、片手(かたて)片足(かたあし)になって(いのち)(はい)(ほう)がよい。 9もしあなたの片目(かため)(つみ)(おか)させるなら、それを()()して()てなさい。(りょう)(がん)がそろったままで地獄(じごく)()()()れられるよりは、片目(かため)になって(いのち)(はい)(ほう)がよい。 10あなたがたは、これらの(ちい)さい(もの)のひとりをも(かろ)んじないように、()をつけなさい。あなたがたに()うが、(かれ)らの御使(みつかい)たちは(てん)にあって、(てん)にいますわたしの(ちち)のみ(かお)をいつも(あお)いでいるのである。〔 11(ひと)()は、(ほろ)びる(もの)(すく)うためにきたのである。〕 12あなたがたはどう(おも)うか。ある(ひと)に百(ぴき)(ひつじ)があり、その(なか)の一(ぴき)(まよ)()たとすれば、九十九(ひき)(やま)(のこ)しておいて、その(まよ)()ている(ひつじ)(さが)しに()かけないであろうか。 13もしそれを()つけたなら、よく()きなさい、(まよ)わないでいる九十九(ひき)のためよりも、むしろその一(ぴき)のために(よろこ)ぶであろう。 14そのように、これらの(ちい)さい(もの)のひとりが(ほろ)びることは、(てん)にいますあなたがたの(ちち)のみこころではない。
15もしあなたの兄弟(きょうだい)(つみ)(おか)すなら、()って、(かれ)とふたりだけの(ところ)忠告(ちゅうこく)しなさい。もし()いてくれたら、あなたの兄弟(きょうだい)()たことになる。 16もし()いてくれないなら、ほかにひとりふたりを、一緒(いっしょ)()れて()きなさい。それは、ふたりまたは三(にん)証人(しょうにん)(くち)によって、すべてのことがらが(たし)かめられるためである。 17もし(かれ)らの()うことを()かないなら、教会(きょうかい)(もう)()なさい。もし教会(きょうかい)()うことも()かないなら、その(ひと)異邦人(いほうじん)または取税人(しゅぜいにん)同様(どうよう)(あつか)いなさい。 18よく()っておく。あなたがたが地上(ちじょう)でつなぐことは、(てん)でも(みな)つながれ、あなたがたが地上(ちじょう)()くことは、(てん)でもみな()かれるであろう。 19また、よく()っておく。もしあなたがたのうちのふたりが、どんな(ねが)(ごと)についても地上(ちじょう)(こころ)()わせるなら、(てん)にいますわたしの(ちち)はそれをかなえて(くだ)さるであろう。 20ふたりまたは三(にん)が、わたしの()によって(あつ)まっている(ところ)には、わたしもその(なか)にいるのである」。
21そのとき、ペテロがイエスのもとにきて()った、「(しゅ)よ、兄弟(きょうだい)がわたしに(たい)して(つみ)(おか)した場合(ばあい)(いく)たびゆるさねばなりませんか。七たびまでですか」。 22イエスは(かれ)()われた、「わたしは七たびまでとは()わない。七たびを七十(ばい)するまでにしなさい。 23それだから、天国(てんごく)(おう)(しもべ)たちと決算(けっさん)をするようなものだ。 24決算(けっさん)(はじ)まると、一万タラントの負債(ふさい)のある(もの)が、(おう)のところに()れられてきた。 25しかし、(かえ)せなかったので、主人(しゅじん)は、その(ひと)自身(じしん)とその妻子(さいし)()(もの)全部(ぜんぶ)とを()って(かえ)すように(めい)じた。 26そこで、この(しもべ)はひれ()して哀願(あいがん)した、『どうぞお()ちください。全部(ぜんぶ)(かえ)しいたしますから』。 27(しもべ)主人(しゅじん)はあわれに(おも)って、(かれ)をゆるし、その負債(ふさい)(めん)じてやった。 28その(しもべ)()()くと、百デナリを()しているひとりの仲間(なかま)出会(であ)い、(かれ)をつかまえ、(くび)をしめて『借金(しゃっきん)(かえ)せ』と()った。 29そこでこの仲間(なかま)はひれ()し、『どうか()ってくれ。(かえ)すから』と()って(たの)んだ。 30しかし承知(しょうち)せずに、その(ひと)をひっぱって()って、借金(しゃっきん)(かえ)すまで(ごく)()れた。 31その(ひと)仲間(なかま)たちは、この様子(ようす)()て、非常(ひじょう)(こころ)をいため、()ってそのことをのこらず主人(しゅじん)(はな)した。 32そこでこの主人(しゅじん)(かれ)()びつけて()った、『(わる)(しもべ)、わたしに(ねが)ったからこそ、あの負債(ふさい)全部(ぜんぶ)ゆるしてやったのだ。 33わたしがあわれんでやったように、あの仲間(なかま)をあわれんでやるべきではなかったか』。 34そして主人(しゅじん)立腹(りっぷく)して、負債(ふさい)全部(ぜんぶ)(かえ)してしまうまで、(かれ)獄吏(ごくり)()きわたした。 35あなたがためいめいも、もし(こころ)から兄弟(きょうだい)をゆるさないならば、わたしの(てん)(ちち)もまたあなたがたに(たい)して、そのようになさるであろう」。

第十九章

1イエスはこれらのことを(かた)()えられてから、ガリラヤを()ってヨルダンの()こうのユダヤの地方(ちほう)()かれた。 2すると(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)がついてきたので、(かれ)らをそこでおいやしになった。
3さてパリサイ(びと)たちが(ちか)づいてきて、イエスを(こころ)みようとして()った、「(なに)かの理由(りゆう)で、(おっと)がその(つま)()すのは、さしつかえないでしょうか」。 4イエスは(こた)えて()われた、「あなたがたはまだ()んだことがないのか。『創造者(そうぞうしゃ)(はじ)めから(ひと)(おとこ)(おんな)とに(つく)られ、 5そして()われた、それゆえに、(ひと)父母(ふぼ)(はな)れ、その(つま)(むす)ばれ、ふたりの(もの)一体(いったい)となるべきである』。 6(かれ)らはもはや、ふたりではなく一体(いったい)である。だから、(かみ)()わせられたものを、(ひと)(はな)してはならない」。 7(かれ)らはイエスに()った、「それでは、なぜモーセは、(つま)()場合(ばあい)には離縁(りえん)(じょう)(わた)せ、と(さだ)めたのですか」。 8イエスが()われた、「モーセはあなたがたの(こころ)が、かたくななので、(つま)()すことを(ゆる)したのだが、(はじ)めからそうではなかった。 9そこでわたしはあなたがたに()う。不品行(ふひんこう)のゆえでなくて、自分(じぶん)(つま)()して()(おんな)をめとる(もの)は、姦淫(かんいん)(おこな)うのである」。 10弟子(でし)たちは()った、「もし(つま)(たい)する(おっと)立場(たちば)がそうだとすれば、結婚(けっこん)しない(ほう)がましです」。 11するとイエスは(かれ)らに()われた、「その言葉(ことば)()けいれることができるのはすべての(ひと)ではなく、ただそれを(さづ)けられている人々(ひとびと)だけである。 12というのは、(はは)胎内(たいない)から独身者(どくしんしゃ)(うま)れついているものがあり、また(ほか)から独身者(どくしんしゃ)にされたものもあり、また天国(てんごく)のために、みずから(すす)んで独身者(どくしんしゃ)となったものもある。この言葉(ことば)()けられる(もの)は、()けいれるがよい」。
13そのとき、イエスに()をおいて(いの)っていただくために、人々(ひとびと)(おさ)()らをみもとに()れてきた。ところが、弟子(でし)たちは(かれ)らをたしなめた。 14するとイエスは()われた、「(おさ)()らをそのままにしておきなさい。わたしのところに()るのをとめてはならない。天国(てんごく)はこのような(もの)(くに)である」。 15そして()(かれ)らの(うえ)においてから、そこを()って()かれた。
16すると、ひとりの(ひと)がイエスに近寄(ちかよ)ってきて()った、「先生(せんせい)永遠(えいえん)生命(せいめい)()るためには、どんなよいことをしたらいいでしょうか」。 17イエスは()われた、「なぜよい(こと)についてわたしに(たず)ねるのか。よいかたはただひとりだけである。もし(いのち)(はい)りたいと(おも)うなら、いましめを(まも)りなさい」。 18(かれ)()った、「どのいましめですか」。イエスは()われた、「『(ころ)すな、姦淫(かんいん)するな、(ぬす)むな、偽証(ぎしょう)()てるな。 19(ちち)(はは)とを(うやま)え』。また『自分(じぶん)(あい)するように、あなたの(とな)(ひと)(あい)せよ』」。 20この青年(せいねん)はイエスに()った、「それはみな(まも)ってきました。ほかに(なに)()りないのでしょう」。 21イエスは(かれ)()われた、「もしあなたが完全(かんぜん)になりたいと(おも)うなら、(かえ)ってあなたの()(もの)()(はら)い、(まず)しい人々(ひとびと)(ほどこ)しなさい。そうすれば、(てん)(たから)()つようになろう。そして、わたしに(したが)ってきなさい」。 22この言葉(ことば)()いて、青年(せいねん)(かな)しみながら()()った。たくさんの資産(しさん)()っていたからである。
23それからイエスは弟子(でし)たちに()われた、「よく()きなさい。()んでいる(もの)天国(てんごく)にはいるのは、むずかしいものである。 24また、あなたがたに()うが、()んでいる(もの)(かみ)(くに)にはいるよりは、らくだが(はり)(あな)(とお)(ほう)が、もっとやさしい」。 25弟子(でし)たちはこれを()いて非常(ひじょう)(おどろ)いて()った、「では、だれが(すく)われることができるのだろう」。 26イエスは(かれ)らを()つめて()われた、「(ひと)にはそれはできないが、(かみ)にはなんでもできない(こと)はない」。 27そのとき、ペテロがイエスに(こた)えて()った、「ごらんなさい、わたしたちはいっさいを()てて、あなたに(したが)いました。ついては、(なに)がいただけるでしょうか」。 28イエスは(かれ)らに()われた、「よく()いておくがよい。()(あらた)まって、(ひと)()がその栄光(えいこう)()につく(とき)には、わたしに(したが)ってきたあなたがたもまた、十二の(くらい)()してイスラエルの十二の部族(ぶぞく)をさばくであろう。 29おおよそ、わたしの()のために、(いえ)兄弟(きょうだい)姉妹(しまい)(ちち)(はは)()、もしくは(はたけ)()てた(もの)は、その(いく)(ばい)もを()け、また永遠(えいえん)生命(せいめい)()けつぐであろう。 30しかし、(おお)くの(さき)(もの)はあとになり、あとの(もの)(さき)になるであろう。

第二十章

1天国(てんごく)は、ある(いえ)主人(しゅじん)が、自分(じぶん)のぶどう(えん)労働者(ろうどうしゃ)(やと)うために、()()けると同時(どうじ)に、()かけて()くようなものである。 2(かれ)労働者(ろうどうしゃ)たちと、一(にち)一デナリの約束(やくそく)をして、(かれ)らをぶどう(えん)(おく)った。 3それから九()ごろに()()って、()人々(ひとびと)市場(いちば)(なに)もせずに()っているのを()た。 4そして、その(ひと)たちに()った、『あなたがたも、ぶどう(えん)()きなさい。相当(そうとう)賃銀(ちんぎん)(はら)うから』。 5そこで、(かれ)らは()かけて()った。主人(しゅじん)はまた、十二()ごろと三()ごろとに()()って、(おな)じようにした。 6(とき)ごろまた()()くと、まだ()っている人々(ひとびと)()たので、(かれ)らに()った、『なぜ、(なに)もしないで、一(にち)(ぢゅう)ここに()っていたのか』。 7(かれ)らが『だれもわたしたちを(やと)ってくれませんから』と(こた)えたので、その人々(ひとびと)()った、『あなたがたも、ぶどう(えん)()きなさい』。 8さて、夕方(ゆうがた)になって、ぶどう(えん)主人(しゅじん)管理人(かんりにん)()った、『労働者(ろうどうしゃ)たちを()びなさい。そして、最後(さいご)にきた人々(ひとびと)からはじめて順々(じゅんじゅん)最初(さいしょ)にきた人々(ひとびと)にわたるように、賃銀(ちんぎん)(はら)ってやりなさい』。 9そこで、五(とき)ごろに(やと)われた人々(ひとびと)がきて、それぞれ一デナリずつもらった。 10ところが、最初(さいしょ)人々(ひとびと)がきて、もっと(おお)くもらえるだろうと(おも)っていたのに、(かれ)らも一デナリずつもらっただけであった。 11もらったとき、(いえ)主人(しゅじん)にむかって不平(ふへい)をもらして 12()った、『この最後(さいご)(もの)たちは一時間(じかん)しか(はたら)かなかったのに、あなたは一(にち)じゅう、労苦(ろうく)(あつ)さを辛抱(しんぼう)したわたしたちと(おな)(あつか)いをなさいました』。 13そこで(かれ)はそのひとりに(こた)えて()った、『(とも)よ、わたしはあなたに(たい)して不正(ふせい)をしてはいない。あなたはわたしと一デナリの約束(やくそく)をしたではないか。 14自分(じぶん)賃銀(ちんぎん)をもらって()きなさい。わたしは、この最後(さいご)(もの)にもあなたと同様(どうよう)(はら)ってやりたいのだ。 15自分(じぶん)(もの)自分(じぶん)がしたいようにするのは、(あた)りまえではないか。それともわたしが気前(きまえ)よくしているので、ねたましく(おも)うのか』。 16このように、あとの(もの)(さき)になり、(さき)(もの)はあとになるであろう」。
17さて、イエスはエルサレムへ(のぼ)るとき、十二弟子(でし)をひそかに()びよせ、その途中(とちゅう)(かれ)らに()われた、 18()よ、わたしたちはエルサレムへ(のぼ)って()くが、(ひと)()祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちの()(わた)されるであろう。(かれ)らは(かれ)死刑(しけい)宣告(せんこく)し、 19そして(かれ)をあざけり、むち()ち、十字架(じゅうじか)につけさせるために、異邦人(いほうじん)()きわたすであろう。そして(かれ)は三()()によみがえるであろう」。
20そのとき、ゼベダイの()らの(はは)が、その()らと一緒(いっしょ)にイエスのもとにきてひざまずき、何事(なにごと)かをお(ねが)いした。 21そこでイエスは彼女(かのじょ)()われた、「(なに)をしてほしいのか」。彼女(かのじょ)()った、「わたしのこのふたりのむすこが、あなたの御国(みくに)で、ひとりはあなたの(みぎ)に、ひとりは(ひだり)にすわれるように、お言葉(ことば)をください」。 22イエスは(こた)えて()われた、「あなたがたは、自分(じぶん)(なに)(もと)めているのか、わかっていない。わたしの()もうとしている(さかずき)()むことができるか」。(かれ)らは「できます」と(こた)えた。 23イエスは(かれ)らに()われた、「(たし)かに、あなたがたはわたしの(さかずき)()むことになろう。しかし、わたしの(みぎ)(ひだり)にすわらせることは、わたしのすることではなく、わたしの(ちち)によって(そな)えられている人々(ひとびと)だけに(ゆる)されることである」。 24(にん)(もの)はこれを()いて、このふたりの兄弟(きょうだい)たちのことで憤慨(ふんがい)した。 25そこで、イエスは(かれ)らを()()せて()われた、「あなたがたの()っているとおり、異邦人(いほうじん)支配者(しはいしゃ)たちはその(たみ)(おさ)め、また(えら)(ひと)たちは、その(たみ)(うえ)権力(けんりょく)をふるっている。 26あなたがたの(あいだ)ではそうであってはならない。かえって、あなたがたの(あいだ)(えら)くなりたいと(おも)(もの)は、(つか)える(ひと)となり、 27あなたがたの(あいだ)でかしらになりたいと(おも)(もの)は、(しもべ)とならねばならない。 28それは、(ひと)()がきたのも、(つか)えられるためではなく、(つか)えるためであり、また(おお)くの(ひと)のあがないとして、自分(じぶん)(いのち)(あた)えるためであるのと、ちょうど(おな)じである」。
29それから、(かれ)らがエリコを()()ったとき、(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)がイエスに(したが)ってきた。 30すると、ふたりの盲人(もうじん)(みち)ばたにすわっていたが、イエスがとおって()かれると()いて、(さけ)んで()った、「(しゅ)よ、ダビデの()よ、わたしたちをあわれんで(くだ)さい」。 31群衆(ぐんしゅう)(かれ)らをしかって(だま)らせようとしたが、(かれ)らはますます(さけ)びつづけて()った、「(しゅ)よ、ダビデの()よ、わたしたちをあわれんで(くだ)さい」。 32イエスは()ちどまり、(かれ)らを()んで()われた、「わたしに(なに)をしてほしいのか」。 33(かれ)らは()った、「(しゅ)よ、()をあけていただくことです」。 34イエスは(ふか)くあわれんで、(かれ)らの()にさわられた。すると(かれ)らは、たちまち()えるようになり、イエスに(したが)って()った。

第二十一章

1さて、(かれ)らがエルサレムに(ちか)づき、オリブ(やま)沿()いのベテパゲに()いたとき、イエスはふたりの弟子(でし)をつかわして()われた、 2()こうの(むら)()きなさい。するとすぐ、ろばがつながれていて、()ろばがそばにいるのを()るであろう。それを()いてわたしのところに()いてきなさい。 3もしだれかが、あなたがたに(なに)()ったなら、(しゅ)がお()(よう)なのです、と()いなさい。そう()えば、すぐ(わた)してくれるであろう」。 4こうしたのは、預言者(よげんしゃ)によって()われたことが、成就(じょうじゅ)するためである。 5すなわち、
「シオンの(むすめ)()げよ、
()よ、あなたの(おう)がおいでになる、
柔和(にゅうわ)なおかたで、ろばに()って、
くびきを()うろばの()()って」。
6弟子(でし)たちは()()って、イエスがお(めい)じになったとおりにし、 7ろばと()ろばとを()いてきた。そしてその(うえ)自分(じぶん)たちの上着(うわぎ)をかけると、イエスはそれにお()りになった。 8群衆(ぐんしゅう)のうち(おお)くの(もの)自分(じぶん)たちの上着(うわぎ)(みち)()き、また、ほかの(もの)たちは()(えだ)()ってきて(みち)()いた。 9そして群衆(ぐんしゅう)は、(まえ)()(もの)も、あとに(したが)(もの)も、(とも)(さけ)びつづけた、
「ダビデの()に、ホサナ。
(しゅ)御名(みな)によってきたる(もの)に、祝福(しゅくふく)あれ。
いと(たか)(ところ)に、ホサナ」。
10イエスがエルサレムにはいって()かれたとき、町中(まちじゅう)がこぞって(さわ)()ち、「これは、いったい、どなただろう」と()った。 11そこで群衆(ぐんしゅう)は、「この(ひと)はガリラヤのナザレから()預言者(よげんしゃ)イエスである」と()った。
12それから、イエスは(みや)にはいられた。そして、(みや)(にわ)()()いしていた人々(ひとびと)をみな()()し、また両替人(りょうがえにん)(だい)や、はとを()(もの)腰掛(こしかけ)をくつがえされた。 13そして(かれ)らに()われた、「『わたしの(いえ)は、(いのり)(いえ)ととなえらるべきである』と()いてある。それだのに、あなたがたはそれを強盗(ごうとう)()にしている」。 14そのとき(みや)(にわ)で、盲人(もうじん)(あし)なえがみもとにきたので、(かれ)らをおいやしになった。 15しかし、祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちは、イエスがなされた不思議(ふしぎ)なわざを()、また(みや)(にわ)で「ダビデの()に、ホサナ」と(さけ)んでいる子供(こども)たちを()立腹(りっぷく)し、 16イエスに()った、「あの()たちが(なに)()っているのか、お()きですか」。イエスは(かれ)らに()われた、「そうだ、()いている。あなたがたは『(おさ)()()のみ()たちの(くち)にさんびを(そな)えられた』とあるのを()んだことがないのか」。 17それから、イエスは(かれ)らをあとに(のこ)し、(みやこ)()てベタニヤに()き、そこで()()ごされた。
18(あさ)はやく(みやこ)(かえ)るとき、イエスは空腹(くうふく)をおぼえられた。 19そして、(みち)のかたわらに一(ぽん)のいちじくの()があるのを()て、そこに()かれたが、ただ()のほかは(なに)見当(みあた)らなかった。そこでその()にむかって、「(いま)から(のち)いつまでも、おまえには()がならないように」と()われた。すると、いちじくの()はたちまち()れた。 20弟子(でし)たちはこれを()て、(おどろ)いて()った、「いちじくがどうして、こうすぐに()れたのでしょう」。 21イエスは(こた)えて()われた、「よく()いておくがよい。もしあなたがたが(しん)じて(うたが)わないならば、このいちじくにあったようなことが、できるばかりでなく、この(やま)にむかって、(うご)()して(うみ)(なか)にはいれと()っても、そのとおりになるであろう。 22また、(いのり)のとき、(しん)じて(もと)めるものは、みな(あた)えられるであろう」。
23イエスが(みや)にはいられたとき、祭司長(さいしちょう)たちや(たみ)長老(ちょうろう)たちが、その(おし)えておられる(ところ)にきて()った、「(なに)権威(けんい)によって、これらの(こと)をするのですか。だれが、そうする権威(けんい)(さづ)けたのですか」。 24そこでイエスは(かれ)らに()われた、「わたしも一つだけ(たず)ねよう。あなたがたがそれに(こた)えてくれたなら、わたしも、(なに)権威(けんい)によってこれらの(こと)をするのか、あなたがたに()おう。 25ヨハネのバプテスマはどこからきたのであったか。(てん)からであったか、(ひと)からであったか」。すると、(かれ)らは(たがい)(ろん)じて()った、「もし(てん)からだと()えば、では、なぜ(かれ)(しん)じなかったのか、とイエスは()うだろう。 26しかし、もし(ひと)からだと()えば、群衆(ぐんしゅう)(おそ)ろしい。人々(ひとびと)がみなヨハネを預言者(よげんしゃ)(おも)っているのだから」。 27そこで(かれ)らは、「わたしたちにはわかりません」と(こた)えた。すると、イエスが()われた、「わたしも(なに)権威(けんい)によってこれらの(こと)をするのか、あなたがたに()うまい。
28あなたがたはどう(おも)うか。ある(ひと)にふたりの()があったが、(あに)のところに()って()った、『()よ、きょう、ぶどう(えん)()って(はたら)いてくれ』。 29すると(かれ)は『おとうさん、(まい)ります』と(こた)えたが、()かなかった。 30また(おとうと)のところにきて(おな)じように()った。(かれ)は『いやです』と(こた)えたが、あとから(こころ)()えて、()かけた。 31このふたりのうち、どちらが(ちち)(のぞ)みどおりにしたのか」。(かれ)らは()った、「あとの(もの)です」。イエスは()われた、「よく()きなさい。取税人(しゅぜいにん)遊女(ゆうじょ)は、あなたがたより(さき)(かみ)(くに)にはいる。 32というのは、ヨハネがあなたがたのところにきて、()(みち)()いたのに、あなたがたは(かれ)(しん)じなかった。ところが、取税人(しゅぜいにん)遊女(ゆうじょ)(かれ)(しん)じた。あなたがたはそれを()たのに、あとになっても、(こころ)をいれ()えて(かれ)(しん)じようとしなかった。
33もう一つの(たとえ)()きなさい。ある(ところ)に、ひとりの(いえ)主人(しゅじん)がいたが、ぶどう(えん)(つく)り、かきをめぐらし、その(なか)(さか)ぶねの(あな)()り、やぐらを()て、それを農夫(のうふ)たちに()して、(たび)()かけた。 34収穫(しゅうかく)季節(きせつ)がきたので、その()(まえ)()()ろうとして、(しもべ)たちを農夫(のうふ)のところへ(おく)った。 35すると、農夫(のうふ)たちは、その(しもべ)たちをつかまえて、ひとりを(ふくろ)だたきにし、ひとりを(ころ)し、もうひとりを(いし)()(ころ)した。 36また(べつ)に、(まえ)よりも(おお)くの(しもべ)たちを(おく)ったが、(かれ)らをも(おな)じようにあしらった。 37しかし、最後(さいご)に、わたしの()(うやま)ってくれるだろうと(おも)って、主人(しゅじん)はその()(かれ)らの(ところ)につかわした。 38すると農夫(のうふ)たちは、その()()(たがい)()った、『あれはあと()りだ。さあ、これを(ころ)して、その財産(ざいさん)()()れよう』。 39そして(かれ)をつかまえて、ぶどう(えん)(そと)()()して(ころ)した。 40このぶどう(えん)主人(しゅじん)(かえ)ってきたら、この農夫(のうふ)たちをどうするだろうか」。 41(かれ)らはイエスに()った、「悪人(あくにん)どもを、皆殺(みなごろ)しにして、季節(きせつ)ごとに収穫(しゅうかく)(おさ)めるほかの農夫(のうふ)たちに、そのぶどう(えん)()(あた)えるでしょう」。 42イエスは(かれ)らに()われた、「あなたがたは、聖書(せいしょ)でまだ()んだことがないのか、
(いえ)(つく)りらの()てた(いし)
(すみ)のかしら(いし)になった。
これは(しゅ)がなされたことで、
わたしたちの()には不思議(ふしぎ)()える』。
43それだから、あなたがたに()うが、(かみ)(くに)はあなたがたから()()げられて、御国(みくに)にふさわしい()(むす)ぶような異邦人(いほうじん)(あた)えられるであろう。 44またその(いし)(うえ)()ちる(もの)()(くだ)かれ、それがだれかの(うえ)()ちかかるなら、その(ひと)はこなみじんにされるであろう」。 45祭司長(さいしちょう)たちやパリサイ(びと)たちがこの(たとえ)()いたとき、自分(じぶん)たちのことをさして()っておられることを(さと)ったので、 46イエスを(とら)えようとしたが、群衆(ぐんしゅう)(おそ)れた。群衆(ぐんしゅう)はイエスを預言者(よげんしゃ)だと(おも)っていたからである。

第二十二章

1イエスはまた、(たとえ)(かれ)らに(かた)って()われた、 2天国(てんごく)は、ひとりの(おう)がその王子(おうじ)のために、(こん)(えん)(もよお)すようなものである。 3(おう)はその(しもべ)たちをつかわして、この(こん)(えん)(まね)かれていた(ひと)たちを()ばせたが、その(ひと)たちはこようとはしなかった。 4そこでまた、ほかの(しもべ)たちをつかわして()った、『(まね)かれた(ひと)たちに()いなさい。食事(しょくじ)用意(ようい)ができました。(うし)()えた(けもの)もほふられて、すべての用意(ようい)ができました。さあ、(こん)(えん)においでください』。 5しかし、(かれ)らは()らぬ(かお)をして、ひとりは自分(じぶん)(はたけ)に、ひとりは自分(じぶん)商売(しょうばい)()()き、 6またほかの人々(ひとびと)は、この(しもべ)たちをつかまえて侮辱(ぶじょく)(くわ)えた(うえ)(ころ)してしまった。 7そこで(おう)立腹(りっぷく)し、軍隊(ぐんたい)(おく)ってそれらの人殺(ひとごろ)しどもを(ほろ)ぼし、その(まち)()(はら)った。 8それから(しもべ)たちに()った、『(こん)(えん)用意(ようい)はできているが、(まね)かれていたのは、ふさわしくない人々(ひとびと)であった。 9だから、(まち)大通(おおどお)りに()()って、出会(であ)った(ひと)はだれでも(こん)(えん)()れてきなさい』。 10そこで、(しもべ)たちは(みち)()()って、出会(であ)(ひと)は、悪人(あくにん)でも善人(ぜんにん)でもみな(あつ)めてきたので、(こん)(えん)(せき)(きゃく)でいっぱいになった。 11(おう)(きゃく)(むか)えようとしてはいってきたが、そこに礼服(れいふく)をつけていないひとりの(ひと)()て、 12(かれ)()った、『(とも)よ、どうしてあなたは礼服(れいふく)をつけないで、ここにはいってきたのですか』。しかし、(かれ)(だま)っていた。 13そこで、(おう)はそばの(もの)たちに()った、『この(もの)手足(てあし)をしばって、(そと)(くら)やみにほうり()せ。そこで()(さけ)んだり、()がみをしたりするであろう』。 14(まね)かれる(もの)(おお)いが、(えら)ばれる(もの)(すく)ない」。
15そのときパリサイ(びと)たちがきて、どうかしてイエスを言葉(ことば)のわなにかけようと、相談(そうだん)をした。 16そして、(かれ)らの弟子(でし)を、ヘロデ(とう)(もの)たちと(とも)に、イエスのもとにつかわして()わせた、「先生(せんせい)、わたしたちはあなたが真実(しんじつ)なかたであって、真理(しんり)(もとづ)いて(かみ)(みち)(おし)え、また、(ひと)()(へだ)てをしないで、だれをもはばかられないことを()っています。 17それで、あなたはどう(おも)われますか、(こた)えてください。カイザルに税金(ぜいきん)(おさ)めてよいでしょうか、いけないでしょうか」。 18イエスは(かれ)らの悪意(あくい)()って()われた、「偽善者(ぎぜんしゃ)たちよ、なぜわたしをためそうとするのか。 19(ぜい)(おさ)める貨幣(かへい)()せなさい」。(かれ)らはデナリ一つを()ってきた。 20そこでイエスは()われた、「これは、だれの肖像(しょうぞう)、だれの記号(きごう)か」。 21(かれ)らは「カイザルのです」と(こた)えた。するとイエスは()われた、「それでは、カイザルのものはカイザルに、(かみ)のものは(かみ)(かえ)しなさい」。 22(かれ)らはこれを()いて驚嘆(きょうたん)し、イエスを(のこ)して()()った。
23復活(ふっかつ)ということはないと主張(しゅちょう)していたサドカイ(びと)たちが、その()、イエスのもとにきて質問(しつもん)した、 24先生(せんせい)、モーセはこう()っています、『もし、ある(ひと)()がなくて()んだなら、その(おとうと)(あに)(つま)をめとって、(あに)のために()をもうけねばならない』。 25さて、わたしたちのところに七(にん)兄弟(きょうだい)がありました。長男(ちょうなん)(つま)をめとったが()んでしまい、そして()がなかったので、その(つま)(おとうと)(のこ)しました。 26次男(じなん)三男(さんなん)も、ついに七(にん)とも(おな)じことになりました。 27最後(さいご)に、その(おんな)()にました。 28すると復活(ふっかつ)(とき)には、この(おんな)は、七(にん)のうちだれの(つま)なのでしょうか。みんながこの(おんな)(つま)にしたのですが」。 29イエスは(こた)えて()われた、「あなたがたは聖書(せいしょ)(かみ)(ちから)()らないから、(おも)(ちが)いをしている。 30復活(ふっかつ)(とき)には、(かれ)らはめとったり、とついだりすることはない。(かれ)らは(てん)にいる御使(みつかい)のようなものである。 31また、死人(しにん)復活(ふっかつ)については、(かみ)があなたがたに()われた言葉(ことば)()んだことがないのか。 32『わたしはアブラハムの(かみ)、イサクの(かみ)、ヤコブの(かみ)である』と()いてある。(かみ)()んだ(もの)(かみ)ではなく、()きている(もの)(かみ)である」。 33群衆(ぐんしゅう)はこれを()いて、イエスの(おしえ)(おどろ)いた。
34さて、パリサイ(びと)たちは、イエスがサドカイ(びと)たちを()いこめられたと()いて、一緒(いっしょ)(あつ)まった。 35そして(かれ)らの(なか)のひとりの律法(りっぽう)学者(がくしゃ)が、イエスをためそうとして質問(しつもん)した、 36先生(せんせい)律法(りっぽう)(なか)で、どのいましめがいちばん大切(たいせつ)なのですか」。 37イエスは()われた、「『(こころ)をつくし、精神(せいしん)をつくし、(おも)いをつくして、(しゅ)なるあなたの(かみ)(あい)せよ』。 38これがいちばん大切(たいせつ)な、(だい)一のいましめである。 39(だい)二もこれと同様(どうよう)である、『自分(じぶん)(あい)するようにあなたの(とな)(びと)(あい)せよ』。 40これらの二つのいましめに、律法(りっぽう)全体(ぜんたい)預言者(よげんしゃ)とが、かかっている」。
41パリサイ(びと)たちが(あつ)まっていたとき、イエスは(かれ)らにお(たず)ねになった、 42「あなたがたはキリストをどう(おも)うか。だれの()なのか」。(かれ)らは「ダビデの()です」と(こた)えた。 43イエスは()われた、「それではどうして、ダビデが御霊(みたま)(かん)じてキリストを(しゅ)()んでいるのか。 44すなわち
(しゅ)はわが(しゅ)(おお)せになった、
あなたの(てき)をあなたの(あし)もとに()くときまでは、
わたしの(みぎ)()していなさい』。
45このように、ダビデ自身(じしん)がキリストを(しゅ)()んでいるなら、キリストはどうしてダビデの()であろうか」。 46イエスにひと(こと)でも(こた)えうる(もの)は、なかったし、その()からもはや、(すす)んでイエスに質問(しつもん)する(もの)も、いなくなった。

第二十三章

1そのときイエスは、群衆(ぐんしゅう)弟子(でし)たちとに(かた)って()われた、 2律法(りっぽう)学者(がくしゃ)とパリサイ(びと)とは、モーセの()にすわっている。 3だから、(かれ)らがあなたがたに()うことは、みな(まも)って実行(じっこう)しなさい。しかし、(かれ)らのすることには、ならうな。(かれ)らは()うだけで、実行(じっこう)しないから。 4また、(おも)荷物(にもつ)をくくって人々(ひとびと)(かた)にのせるが、それを(うご)かすために、自分(じぶん)では(ゆび)(ぽん)()そうとはしない。 5そのすることは、すべて(ひと)()せるためである。すなわち、(かれ)らは経札(きょうふだ)幅広(はばひろ)くつくり、その(ころも)のふさを(おお)きくし、 6また、宴会(えんかい)上座(じょうざ)会堂(かいどう)上席(じょうせき)(この)み、 7広場(ひろば)であいさつされることや、人々(ひとびと)から先生(せんせい)()ばれることを(この)んでいる。 8しかし、あなたがたは先生(せんせい)()ばれてはならない。あなたがたの先生(せんせい)は、ただひとりであって、あなたがたはみな兄弟(きょうだい)なのだから。 9また、地上(ちじょう)のだれをも、(ちち)()んではならない。あなたがたの(ちち)はただひとり、すなわち、(てん)にいます(ちち)である。 10また、あなたがたは教師(きょうし)()ばれてはならない。あなたがたの教師(きょうし)はただひとり、すなわち、キリストである。 11そこで、あなたがたのうちでいちばん(えら)(もの)は、(つか)える(ひと)でなければならない。 12だれでも自分(じぶん)(たか)くする(もの)(ひく)くされ、自分(じぶん)(ひく)くする(もの)(たか)くされるであろう。
13偽善(ぎぜん)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)たちよ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたは、天国(てんごく)()ざして人々(ひとびと)をはいらせない。自分(じぶん)もはいらないし、はいろうとする(ひと)をはいらせもしない。〔 14偽善(ぎぜん)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)たちよ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたは、やもめたちの(いえ)()(たお)し、()えのために(なが)(いのり)をする。だから、もっときびしいさばきを()けるに(ちが)いない。〕 15偽善(ぎぜん)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)たちよ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたはひとりの改宗者(かいしゅうしゃ)をつくるために、(うみ)(りく)とを(めぐ)(ある)く。そして、つくったなら、(かれ)自分(じぶん)より(ばい)もひどい地獄(じごく)()にする。
16盲目(もうもく)案内(あんない)(しゃ)たちよ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたは()う、『神殿(しんでん)をさして(ちか)うなら、そのままでよいが、神殿(しんでん)黄金(こがね)をさして(ちか)うなら、(はた)責任(せきにん)がある』と。 17(おろ)かな盲目(もうもく)(ひと)たちよ。黄金(こがね)と、黄金(こがね)神聖(しんせい)にする神殿(しんでん)と、どちらが大事(だいじ)なのか。 18また、あなたがたは()う、『祭壇(さいだん)をさして(ちか)うなら、そのままでよいが、その(うえ)(そな)(もの)をさして(ちか)うなら、(はた)責任(せきにん)がある』と。 19盲目(もうもく)(ひと)たちよ。(そな)(もの)(そな)(もの)神聖(しんせい)にする祭壇(さいだん)とどちらが大事(だいじ)なのか。 20祭壇(さいだん)をさして(ちか)(もの)は、祭壇(さいだん)と、その(うえ)にあるすべての(もの)とをさして(ちか)うのである。 21神殿(しんでん)をさして(ちか)(もの)は、神殿(しんでん)とその(なか)()んでおられるかたとをさして(ちか)うのである。 22また、(てん)をさして(ちか)(もの)は、(かみ)御座(みざ)とその(うえ)にすわっておられるかたとをさして(ちか)うのである。
23偽善(ぎぜん)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)たちよ。あなたがたは、わざわいである。はっか、いのんど、クミンなどの薬味(やくみ)の十(ぶん)の一を(みや)(おさ)めておりながら、律法(りっぽう)(なか)でもっと重要(じゅうよう)な、公平(こうへい)とあわれみと忠実(ちゅうじつ)とを()のがしている。それもしなければならないが、これも()のがしてはならない。 24盲目(もうもく)案内(あんない)(しゃ)たちよ。あなたがたは、ぶよはこしているが、らくだはのみこんでいる。
25偽善(ぎぜん)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)たちよ。あなたがたは、わざわいである。(さかずき)(さら)との外側(そとがわ)はきよめるが、内側(うちがわ)貪欲(どんよく)放縦(ほうじゅう)とで()ちている。 26盲目(もうもく)なパリサイ(びと)よ。まず、(さかずき)内側(うちがわ)をきよめるがよい。そうすれば、外側(そとがわ)(きよ)くなるであろう。
27偽善(ぎぜん)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)たちよ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたは(しろ)()った(はか)()ている。外側(そとがわ)(うつく)しく()えるが、内側(うちがわ)死人(しにん)(ほね)や、あらゆる不潔(ふけつ)なものでいっぱいである。 28このようにあなたがたも、外側(そとがわ)(ひと)(ただ)しく()えるが、内側(うちがわ)偽善(ぎぜん)不法(ふほう)とでいっぱいである。
29偽善(ぎぜん)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)、パリサイ(びと)たちよ。あなたがたは、わざわいである。あなたがたは預言者(よげんしゃ)(はか)()て、義人(ぎじん)()(かざ)()てて、こう()っている、 30『もしわたしたちが先祖(せんぞ)時代(じだい)()きていたなら、預言者(よげんしゃ)()(なが)すことに(くわ)わってはいなかっただろう』と。 31このようにして、あなたがたは預言者(よげんしゃ)(ころ)した(もの)子孫(しそん)であることを、自分(じぶん)証明(しょうめい)している。 32あなたがたもまた先祖(せんぞ)たちがした(あく)枡目(ますめ)()たすがよい。 33へびよ、まむしの()らよ、どうして地獄(じごく)刑罰(けいばつ)をのがれることができようか。 34それだから、わたしは、預言者(よげんしゃ)知者(ちしゃ)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちをあなたがたにつかわすが、そのうちのある(もの)(ころ)し、また十字架(じゅうじか)につけ、そのある(もの)会堂(かいどう)でむち()ち、また(まち)から(まち)へと迫害(はくがい)して()くであろう。 35こうして義人(ぎじん)アベルの()から、聖所(せいじょ)祭壇(さいだん)との(あいだ)であなたがたが(ころ)したバラキヤの()ザカリヤの()(いた)るまで、地上(ちじょう)(なが)された義人(ぎじん)()(むく)いが、ことごとくあなたがたに(およ)ぶであろう。 36よく()っておく。これらのことの(むく)いは、みな(いま)時代(じだい)(およ)ぶであろう。
37ああ、エルサレム、エルサレム、預言者(よげんしゃ)たちを(ころ)し、おまえにつかわされた(ひと)たちを(いし)()(ころ)(もの)よ。ちょうど、めんどりが(つばさ)(した)にそのひなを(あつ)めるように、わたしはおまえの()らを(いく)たび(あつ)めようとしたことであろう。それだのに、おまえたちは(おう)じようとしなかった。 38()よ、おまえたちの(いえ)見捨(みす)てられてしまう。 39わたしは()っておく、
(しゅ)御名(みな)によってきたる(もの)に、祝福(しゅくふく)あれ』
とおまえたちが()(とき)までは、今後(こんご)ふたたび、わたしに()うことはないであろう」。

第二十四章

1イエスが(みや)から()()こうとしておられると、弟子(でし)たちは近寄(ちかよ)ってきて、(みや)建物(たてもの)にイエスの注意(ちゅうい)(うなが)した。 2そこでイエスは(かれ)らにむかって()われた、「あなたがたは、これらすべてのものを()ないか。よく()っておく。その(いし)一つでもくずされずに、そこに()(いし)(うえ)(のこ)ることもなくなるであろう」。
3またオリブ(やま)ですわっておられると、弟子(でし)たちが、ひそかにみもとにきて()った、「どうぞお(はな)しください。いつ、そんなことが(おこ)るのでしょうか。あなたがまたおいでになる(とき)や、()(おわ)りには、どんな前兆(ぜんちょう)がありますか」。 4そこでイエスは(こた)えて()われた、「(ひと)(まど)わされないように()をつけなさい。 5(おお)くの(もの)がわたしの()()のって(あらわ)れ、自分(じぶん)がキリストだと()って、(おお)くの(ひと)(まど)わすであろう。 6また、戦争(せんそう)戦争(せんそう)のうわさとを()くであろう。注意(ちゅうい)していなさい、あわててはいけない。それは(おこ)らねばならないが、まだ(おわ)りではない。 7(たみ)(たみ)に、(くに)(くに)敵対(てきたい)して()()がるであろう。またあちこちに、ききんが(おこ)り、また地震(じしん)があるであろう。 8しかし、すべてこれらは()みの(くる)しみの(はじ)めである。 9そのとき人々(ひとびと)は、あなたがたを(くる)しみにあわせ、また(ころ)すであろう。またあなたがたは、わたしの()のゆえにすべての(たみ)(にく)まれるであろう。 10そのとき、(おお)くの(ひと)がつまずき、また(たがい)裏切(うらぎ)り、(にく)()うであろう。 11また(おお)くのにせ預言者(よげんしゃ)(おこ)って、(おお)くの(ひと)(まど)わすであろう。 12また不法(ふほう)がはびこるので、(おお)くの(ひと)(あい)()えるであろう。 13しかし、最後(さいご)まで()(しの)(もの)(すく)われる。 14そしてこの御国(みくに)福音(ふくいん)は、すべての(たみ)(たい)してあかしをするために、(ぜん)世界(せかい)()(つた)えられるであろう。そしてそれから最後(さいご)()るのである。
15預言者(よげんしゃ)ダニエルによって()われた()らす(にく)むべき(もの)が、(せい)なる場所(ばしょ)()つのを()たならば(読者(どくしゃ)よ、(さと)れ)、 16そのとき、ユダヤにいる人々(ひとびと)(やま)()げよ。 17屋上(おくじょう)にいる(もの)は、(いえ)からものを()()そうとして(した)におりるな。 18(はたけ)にいる(もの)は、上着(うわぎ)()りにあとへもどるな。 19その()には、身重(みおも)(おんな)乳飲(ちの)()をもつ(おんな)とは、不幸(ふこう)である。 20あなたがたの()げるのが、(ふゆ)または安息日(あんそくにち)にならないように(いの)れ。 21その(とき)には、()(はじ)めから現在(げんざい)(いた)るまで、かつてなく今後(こんご)もないような(おお)きな患難(かんなん)(おこ)るからである。 22もしその期間(きかん)(ちぢ)められないなら、(すく)われる(もの)はひとりもないであろう。しかし、選民(せんみん)のためには、その期間(きかん)(ちぢ)められるであろう。
23そのとき、だれかがあなたがたに『()よ、ここにキリストがいる』、また、『あそこにいる』と()っても、それを(しん)じるな。 24にせキリストたちや、にせ預言者(よげんしゃ)たちが(おこ)って、(おお)いなるしるしと奇跡(きせき)とを(おこな)い、できれば、選民(せんみん)をも(まど)わそうとするであろう。 25()よ、あなたがたに(まえ)もって()っておく。 26だから、人々(ひとびと)が『()よ、(かれ)荒野(あらの)にいる』と()っても、()()くな。また『()よ、へやの(なか)にいる』と()っても、(しん)じるな。 27ちょうど、いなずまが(ひがし)から西(にし)にひらめき(わた)るように、(ひと)()(あらわ)れるであろう。 28死体(したい)のあるところには、はげたかが(あつ)まるものである。
29しかし、その(とき)(おこ)患難(かんなん)(のち)、たちまち()(くら)くなり、(つき)はその(ひかり)(はな)つことをやめ、(ほし)(そら)から()ち、天体(てんたい)()(うご)かされるであろう。 30そのとき、(ひと)()のしるしが(てん)(あらわ)れるであろう。またそのとき、()のすべての民族(みんぞく)(なげ)き、そして(ちから)(おお)いなる栄光(えいこう)とをもって、(ひと)()(てん)(くも)()って()るのを、人々(ひとびと)()るであろう。 31また、(かれ)(おお)いなるラッパの(おと)(とも)御使(みつかい)たちをつかわして、(てん)のはてからはてに(いた)るまで、四方(しほう)からその選民(せんみん)()(あつ)めるであろう。
32いちじくの()からこの(たとえ)(まな)びなさい。その(えだ)(やわ)らかになり、()()るようになると、(なつ)(ちか)いことがわかる。 33そのように、すべてこれらのことを()たならば、(ひと)()戸口(とぐち)まで(ちか)づいていると()りなさい。 34よく()いておきなさい。これらの(こと)が、ことごとく(おこ)るまでは、この時代(じだい)(ほろ)びることがない。 35天地(てんち)(ほろ)びるであろう。しかしわたしの言葉(ことば)(ほろ)びることがない。 36その()、その(とき)は、だれも()らない。(てん)御使(みつかい)たちも、また()()らない、ただ(ちち)だけが()っておられる。 37(ひと)()(あらわ)れるのも、ちょうどノアの(とき)のようであろう。 38すなわち、洪水(こうずい)()(まえ)、ノアが箱舟(はこぶね)にはいる()まで、人々(ひとびと)()い、()み、めとり、とつぎなどしていた。 39そして洪水(こうずい)(おそ)ってきて、いっさいのものをさらって()くまで、(かれ)らは()がつかなかった。(ひと)()(あらわ)れるのも、そのようであろう。 40そのとき、ふたりの(もの)(はたけ)にいると、ひとりは()()られ、ひとりは()(のこ)されるであろう。 41ふたりの(おんな)がうすをひいていると、ひとりは()()られ、ひとりは(のこ)されるであろう。 42だから、()をさましていなさい。いつの()にあなたがたの(しゅ)がこられるのか、あなたがたには、わからないからである。 43このことをわきまえているがよい。(いえ)主人(しゅじん)は、盗賊(とうぞく)がいつごろ()るかわかっているなら、()をさましていて、自分(じぶん)(いえ)()()ることを(ゆる)さないであろう。 44だから、あなたがたも用意(ようい)をしていなさい。(おも)いがけない(とき)(ひと)()()るからである。 45主人(しゅじん)がその(いえ)(しもべ)たちの(うえ)()てて、(とき)(おう)じて食物(しょくもつ)をそなえさせる忠実(ちゅうじつ)思慮(しりょ)(ぶか)(しもべ)は、いったい、だれであろう。 46主人(しゅじん)(かえ)ってきたとき、そのようにつとめているのを()られる(しもべ)は、さいわいである。 47よく()っておくが、主人(しゅじん)(かれ)()てて自分(じぶん)(ぜん)財産(ざいさん)管理(かんり)させるであろう。 48もしそれが(わる)(しもべ)であって、自分(じぶん)主人(しゅじん)(かえ)りがおそいと(こころ)(なか)(おも)い、 49その(しもべ)仲間(なかま)をたたきはじめ、また酒飲(さけの)仲間(なかま)一緒(いっしょ)()べたり()んだりしているなら、 50その(しもべ)主人(しゅじん)(おも)いがけない()()がつかない(とき)(かえ)ってきて、 51(かれ)厳罰(げんばつ)(しょ)し、偽善者(ぎぜんしゃ)たちと(おな)()にあわせるであろう。(かれ)はそこで()(さけ)んだり、()がみをしたりするであろう。

第二十五章

1そこで天国(てんごく)は、十(にん)のおとめがそれぞれあかりを()にして、花婿(はなむこ)(むか)えに()()くのに()ている。 2その(なか)の五(にん)思慮(しりょ)(あさ)く、五(にん)思慮(しりょ)(ぶか)(もの)であった。 3思慮(しりょ)(あさ)(もの)たちは、あかりは()っていたが、(あぶら)用意(ようい)していなかった。 4しかし、思慮(しりょ)(ぶか)(もの)たちは、自分(じぶん)たちのあかりと一緒(いっしょ)に、()れものの(なか)(あぶら)用意(ようい)していた。 5花婿(はなむこ)()るのがおくれたので、(かれ)らはみな居眠(いねむ)りをして、()てしまった。 6夜中(よなか)に、『さあ、花婿(はなむこ)だ、(むか)えに()なさい』と()(こえ)がした。 7そのとき、おとめたちはみな()きて、それぞれあかりを(ととの)えた。 8ところが、思慮(しりょ)(あさ)(おんな)たちが、思慮(しりょ)(ぶか)(おんな)たちに()った、『あなたがたの(あぶら)をわたしたちにわけてください。わたしたちのあかりが()えかかっていますから』。 9すると、思慮(しりょ)(ぶか)(おんな)たちは(こた)えて()った、『わたしたちとあなたがたとに()りるだけは、多分(たぶん)ないでしょう。(みせ)()って、あなたがたの(ふん)をお()いになる(ほう)がよいでしょう』。 10(かれ)らが()いに()ているうちに、花婿(はなむこ)()いた。そこで、用意(ようい)のできていた(おんな)たちは、花婿(はなむこ)一緒(いっしょ)(こん)(えん)のへやにはいり、そして()がしめられた。 11そのあとで、ほかのおとめたちもきて、『ご主人様(しゅじんさま)、ご主人様(しゅじんさま)、どうぞ、あけてください』と()った。 12しかし(かれ)(こた)えて、『はっきり()うが、わたしはあなたがたを()らない』と()った。 13だから、()をさましていなさい。その()その(とき)が、あなたがたにはわからないからである。
14また天国(てんごく)は、ある(ひと)(たび)()るとき、その(しもべ)どもを()んで、自分(じぶん)財産(ざいさん)(あづ)けるようなものである。 15すなわち、それぞれの能力(のうりょく)(おう)じて、ある(もの)には五タラント、ある(もの)には二タラント、ある(もの)には一タラントを(あた)えて、(たび)()た。 16五タラントを(わた)された(もの)は、すぐに()って、それで商売(しょうばい)をして、ほかに五タラントをもうけた。 17二タラントの(もの)同様(どうよう)にして、ほかに二タラントをもうけた。 18しかし、一タラントを(わた)された(もの)は、()って()()り、主人(しゅじん)(かね)(かく)しておいた。 19だいぶ(とき)がたってから、これらの(しもべ)主人(しゅじん)(かえ)ってきて、(かれ)らと計算(けいさん)をしはじめた。 20すると五タラントを(わた)された(もの)(すす)()て、ほかの五タラントをさし()して()った、『ご主人様(しゅじんさま)、あなたはわたしに五タラントをお(あづ)けになりましたが、ごらんのとおり、ほかに五タラントをもうけました』。 21主人(しゅじん)(かれ)()った、『()忠実(ちゅうじつ)(しもべ)よ、よくやった。あなたはわずかなものに忠実(ちゅうじつ)であったから、(おお)くのものを管理(かんり)させよう。主人(しゅじん)一緒(いっしょ)(よろこ)んでくれ』。 22二タラントの(もの)(すす)()()った、『ご主人様(しゅじんさま)、あなたはわたしに二タラントをお(あづ)けになりましたが、ごらんのとおり、ほかに二タラントをもうけました』。 23主人(しゅじん)(かれ)()った、『()忠実(ちゅうじつ)(しもべ)よ、よくやった。あなたはわずかなものに忠実(ちゅうじつ)であったから、(おお)くのものを管理(かんり)させよう。主人(しゅじん)一緒(いっしょ)(よろこ)んでくれ』。 24一タラントを(わた)された(もの)(すす)()()った、『ご主人様(しゅじんさま)、わたしはあなたが、まかない(ところ)から()り、()らさない(ところ)から(あつ)める(こく)(ひと)であることを承知(しょうち)していました。 25そこで(おそ)ろしさのあまり、()って、あなたのタラントを()(なか)(かく)しておきました。ごらんください。ここにあなたのお(かね)がございます』。 26すると、主人(しゅじん)(かれ)(こた)えて()った、『(わる)怠惰(たいだ)(しもべ)よ、あなたはわたしが、まかない(ところ)から()り、()らさない(ところ)から(あつ)めることを()っているのか。 27それなら、わたしの(かね)銀行(ぎんこう)(あづ)けておくべきであった。そうしたら、わたしは(かえ)ってきて、利子(りし)一緒(いっしょ)にわたしの(かね)(かえ)してもらえたであろうに。 28さあ、そのタラントをこの(もの)から()りあげて、十タラントを()っている(もの)にやりなさい。 29おおよそ、()っている(ひと)(あた)えられて、いよいよ(ゆた)かになるが、()っていない(ひと)は、()っているものまでも()()げられるであろう。 30この(やく)()たない(しもべ)(そと)(くら)(ところ)()()すがよい。(かれ)は、そこで()(さけ)んだり、()がみをしたりするであろう』。
31(ひと)()栄光(えいこう)(なか)にすべての御使(みつかい)たちを(したが)えて()るとき、(かれ)はその栄光(えいこう)()につくであろう。 32そして、すべての国民(こくみん)をその(まえ)(あつ)めて、羊飼(ひつじかい)(ひつじ)とやぎとを()けるように、(かれ)らをより()け、 33(ひつじ)(みぎ)に、やぎを(ひだり)におくであろう。 34そのとき、(おう)(みぎ)にいる人々(ひとびと)()うであろう、『わたしの(ちち)祝福(しゅくふく)された(ひと)たちよ、さあ、()(はじ)めからあなたがたのために用意(ようい)されている御国(みくに)()けつぎなさい。 35あなたがたは、わたしが空腹(くうふく)のときに()べさせ、かわいていたときに()ませ、旅人(たびびと)であったときに宿(やど)()し、 36(はだか)であったときに()せ、病気(びょうき)のときに見舞(みま)い、(ごく)にいたときに(たず)ねてくれたからである』。 37そのとき、(ただ)しい(もの)たちは(こた)えて()うであろう、『(しゅ)よ、いつ、わたしたちは、あなたが空腹(くうふく)であるのを()食物(しょくもつ)をめぐみ、かわいているのを()()ませましたか。 38いつあなたが旅人(たびびと)であるのを()宿(やど)()し、(はだか)なのを()()せましたか。 39また、いつあなたが病気(びょうき)をし、(ごく)にいるのを()て、あなたの(ところ)(まい)りましたか』。 40すると、(おう)(こた)えて()うであろう、『あなたがたによく()っておく。わたしの兄弟(きょうだい)であるこれらの(もっと)(ちい)さい(もの)のひとりにしたのは、すなわち、わたしにしたのである』。 41それから、(ひだり)にいる人々(ひとびと)にも()うであろう、『のろわれた(もの)どもよ、わたしを(はな)れて、悪魔(あくま)とその使(つかい)たちとのために用意(ようい)されている永遠(えいえん)()にはいってしまえ。 42あなたがたは、わたしが空腹(くうふく)のときに()べさせず、かわいていたときに()ませず、 43旅人(たびびと)であったときに宿(やど)()さず、(はだか)であったときに()せず、また病気(びょうき)のときや、(ごく)にいたときに、わたしを(たず)ねてくれなかったからである』。 44そのとき、(かれ)らもまた(こた)えて()うであろう、『(しゅ)よ、いつ、あなたが空腹(くうふく)であり、かわいておられ、旅人(たびびと)であり、(はだか)であり、病気(びょうき)であり、(ごく)におられたのを()て、わたしたちはお世話(せわ)をしませんでしたか』。 45そのとき、(かれ)(こた)えて()うであろう、『あなたがたによく()っておく。これらの(もっと)(ちい)さい(もの)のひとりにしなかったのは、すなわち、わたしにしなかったのである』。 46そして(かれ)らは永遠(えいえん)刑罰(けいばつ)()け、(ただ)しい(もの)永遠(えいえん)生命(せいめい)()るであろう」。

第二十六章

1イエスはこれらの言葉(ことば)をすべて(かた)()えてから、弟子(でし)たちに()われた。 2「あなたがたが()っているとおり、ふつかの(のち)には過越(すぎこし)(まつり)になるが、(ひと)()十字架(じゅうじか)につけられるために()(わた)される」。 3そのとき、祭司長(さいしちょう)たちや(たみ)長老(ちょうろう)たちが、カヤパという大祭司(だいさいし)中庭(なかにわ)(あつ)まり、 4策略(さくりゃく)をもってイエスを(とら)えて(ころ)そうと相談(そうだん)した。 5しかし(かれ)らは()った、「(まつり)(あいだ)はいけない。民衆(みんしゅう)(なか)(さわ)ぎが(おこ)るかも()れない」。
6さて、イエスがベタニヤで、らい病人(びょうにん)シモンの(いえ)におられたとき、 7ひとりの(おんな)が、高価(こうか)香油(こうゆ)()れてある石膏(せっこう)のつぼを()ってきて、イエスに近寄(ちかよ)り、食事(しょくじ)(せき)についておられたイエスの(あたま)香油(こうゆ)(そそ)ぎかけた。 8すると、弟子(でし)たちはこれを()(いきどお)って()った、「なんのためにこんなむだ使(づかい)をするのか。 9それを(たか)()って、(まず)しい(ひと)たちに(ほどこ)すことができたのに」。 10イエスはそれを()いて(かれ)らに()われた、「なぜ、(おんな)(こま)らせるのか。わたしによい(こと)をしてくれたのだ。 11(まず)しい(ひと)たちはいつもあなたがたと一緒(いっしょ)にいるが、わたしはいつも一緒(いっしょ)にいるわけではない。 12この(おんな)がわたしのからだにこの香油(こうゆ)(そそ)いだのは、わたしの(ほうむ)りの用意(ようい)をするためである。 13よく()きなさい。(ぜん)世界(せかい)のどこででも、この福音(ふくいん)()(つた)えられる(ところ)では、この(おんな)のした(こと)記念(きねん)として(かた)られるであろう」。
14(とき)に、十二弟子(でし)のひとりイスカリオテのユダという(もの)が、祭司長(さいしちょう)たちのところに()って 15()った、「(かれ)をあなたがたに()(わた)せば、いくらくださいますか」。すると、(かれ)らは銀貨(ぎんか)三十(まい)(かれ)支払(しはら)った。 16その(とき)から、ユダはイエスを()きわたそうと、機会(きかい)をねらっていた。
17さて、除酵祭(じょこうさい)(だい)(にち)に、弟子(でし)たちはイエスのもとにきて()った、「過越(すぎこし)食事(しょくじ)をなさるために、わたしたちはどこに用意(ようい)をしたらよいでしょうか」。 18イエスは()われた、「市内(しない)にはいり、かねて(はな)してある(ひと)(ところ)()って()いなさい、『先生(せんせい)が、わたしの(とき)(ちか)づいた、あなたの(いえ)弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)過越(すぎこし)(まも)ろうと、()っておられます』」。 19弟子(でし)たちはイエスが(めい)じられたとおりにして、過越(すぎこし)用意(ようい)をした。
20夕方(ゆうがた)になって、イエスは十二弟子(でし)一緒(いっしょ)食事(しょくじ)(せき)につかれた。 21そして、一同(いちどう)食事(しょくじ)をしているとき()われた、「(とく)にあなたがたに()っておくが、あなたがたのうちのひとりが、わたしを裏切(うらぎ)ろうとしている」。 22弟子(でし)たちは非常(ひじょう)心配(しんぱい)して、つぎつぎに「(しゅ)よ、まさか、わたしではないでしょう」と()()した。 23イエスは(こた)えて()われた、「わたしと一緒(いっしょ)(おな)(はち)()()れている(もの)が、わたしを裏切(うらぎ)ろうとしている。 24たしかに(ひと)()は、自分(じぶん)について()いてあるとおりに()って()く。しかし、(ひと)()裏切(うらぎ)るその(ひと)は、わざわいである。その(ひと)(うま)れなかった(ほう)が、(かれ)のためによかったであろう」。 25イエスを裏切(うらぎ)ったユダが(こた)えて()った、「先生(せんせい)、まさか、わたしではないでしょう」。イエスは()われた、「いや、あなただ」。
26一同(いちどう)食事(しょくじ)をしているとき、イエスはパンを()り、祝福(しゅくふく)してこれをさき、弟子(でし)たちに(あた)えて()われた、「()って()べよ、これはわたしのからだである」。 27また(さかずき)()り、感謝(かんしゃ)して(かれ)らに(あた)えて()われた、「みな、この(さかずき)から()め。 28これは、(つみ)のゆるしを()させるようにと、(おお)くの(ひと)のために(なが)すわたしの契約(けいやく)()である。 29あなたがたに()っておく。わたしの(ちち)(くに)であなたがたと(とも)に、(あたら)しく()むその()までは、わたしは今後(こんご)(けっ)して、ぶどうの()から(つく)ったものを()むことをしない」。
30(かれ)らは、さんびを(うた)った(のち)、オリブ(やま)()かけて()った。
31そのとき、イエスは弟子(でし)たちに()われた、「今夜(こんや)、あなたがたは(みな)わたしにつまずくであろう。『わたしは羊飼(ひつじかい)()つ。そして、(ひつじ)()れは()らされるであろう』と、()いてあるからである。 32しかしわたしは、よみがえってから、あなたがたより(さき)にガリラヤへ()くであろう」。 33するとペテロはイエスに(こた)えて()った、「たとい、みんなの(もの)があなたにつまずいても、わたしは(けっ)してつまずきません」。 34イエスは()われた、「よくあなたに()っておく。今夜(こんや)(にわとり)()(まえ)に、あなたは三()わたしを()らないと()うだろう」。 35ペテロは()った、「たといあなたと一緒(いっしょ)()なねばならなくなっても、あなたを()らないなどとは、(けっ)して(もう)しません」。弟子(でし)たちもみな(おな)じように()った。
36それから、イエスは(かれ)らと一緒(いっしょ)に、ゲツセマネという(ところ)()かれた。そして弟子(でし)たちに()われた、「わたしが()こうへ()って(いの)っている(あいだ)、ここにすわっていなさい」。 37そしてペテロとゼベダイの()ふたりとを()れて()かれたが、(かな)しみを(もよお)しまた(なや)みはじめられた。 38そのとき、(かれ)らに()われた、「わたしは(かな)しみのあまり()ぬほどである。ここに()っていて、わたしと一緒(いっしょ)()をさましていなさい」。 39そして(すこ)(すす)んで()き、うつぶしになり、(いの)って()われた、「わが(ちち)よ、もしできることでしたらどうか、この(さかずき)をわたしから()()らせてください。しかし、わたしの(おも)いのままにではなく、みこころのままになさって(くだ)さい」。 40それから、弟子(でし)たちの(ところ)にきてごらんになると、(かれ)らが(ねむ)っていたので、ペテロに()われた、「あなたがたはそんなに、ひと(とき)もわたしと一緒(いっしょ)()をさましていることが、できなかったのか。 41誘惑(ゆうわく)(おちい)らないように、()をさまして(いの)っていなさい。(こころ)(ねっ)しているが、肉体(にくたい)(よわ)いのである」。 42また二度目(どめ)()って、(いの)って()われた、「わが(ちち)よ、この(さかずき)()むほかに(みち)がないのでしたら、どうか、みこころが(おこな)われますように」。 43またきてごらんになると、(かれ)らはまた(ねむ)っていた。その()(おも)くなっていたのである。 44それで(かれ)らをそのままにして、また()って、三度目(どめ)(おな)言葉(ことば)(いの)られた。 45それから弟子(でし)たちの(ところ)(かえ)ってきて、()われた、「まだ(ねむ)っているのか、(やす)んでいるのか。()よ、(とき)(せま)った。(ひと)()罪人(つみびと)らの()(わた)されるのだ。 46()て、さあ()こう。()よ、わたしを裏切(うらぎ)(もの)(ちか)づいてきた」。
47そして、イエスがまだ(はな)しておられるうちに、そこに、十二弟子(でし)のひとりのユダがきた。また祭司長(さいしちょう)(たみ)長老(ちょうろう)たちから(おく)られた(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)も、(けん)(ぼう)とを()って(かれ)についてきた。 48イエスを裏切(うらぎ)った(もの)が、あらかじめ(かれ)らに、「わたしの接吻(せっぷん)する(もの)が、その(ひと)だ。その(ひと)をつかまえろ」と合図(あいず)をしておいた。 49(かれ)はすぐイエスに近寄(ちかよ)り、「先生(せんせい)、いかがですか」と()って、イエスに接吻(せっぷん)した。 50しかし、イエスは(かれ)()われた、「(とも)よ、なんのためにきたのか」。このとき、人々(ひとびと)(すす)()って、イエスに()をかけてつかまえた。 51すると、イエスと一緒(いっしょ)にいた(もの)のひとりが、()()ばして(けん)()き、そして大祭司(だいさいし)(しもべ)()りかかって、その片耳(かたみみ)()(おと)した。 52そこで、イエスは(かれ)()われた、「あなたの(けん)をもとの(ところ)におさめなさい。(けん)をとる(もの)はみな、(けん)(ほろ)びる。 53それとも、わたしが(ちち)(ねが)って、(てん)使(つかい)たちを十二軍団(ぐんだん)以上(いじょう)も、(いま)つかわしていただくことができないと、あなたは(おも)うのか。 54しかし、それでは、こうならねばならないと()いてある聖書(せいしょ)言葉(ことば)は、どうして成就(じょうじゅ)されようか」。 55そのとき、イエスは群衆(ぐんしゅう)()われた、「あなたがたは強盗(ごうとう)にむかうように、(けん)(ぼう)()ってわたしを(とら)えにきたのか。わたしは毎日(まいにち)(みや)ですわって(おし)えていたのに、わたしをつかまえはしなかった。 56しかし、すべてこうなったのは、預言者(よげんしゃ)たちの()いたことが、成就(じょうじゅ)するためである」。そのとき、弟子(でし)たちは(みな)イエスを見捨(みす)てて()()った。
57さて、イエスをつかまえた(ひと)たちは、大祭司(だいさいし)カヤパのところにイエスを()れて()った。そこには律法(りっぽう)学者(がくしゃ)長老(ちょうろう)たちが(あつ)まっていた。 58ペテロは(とお)くからイエスについて、大祭司(だいさいし)中庭(なかにわ)まで()き、そのなりゆきを()とどけるために、(なか)にはいって下役(したやく)どもと一緒(いっしょ)にすわっていた。 59さて、祭司長(さいしちょう)たちと(ぜん)議会(ぎかい)とは、イエスを死刑(しけい)にするため、イエスに不利(ふり)偽証(ぎしょう)(もと)めようとしていた。 60そこで(おお)くの偽証者(ぎしょうしゃ)()てきたが、証拠(しょうこ)があがらなかった。しかし、最後(さいご)にふたりの(もの)()てきて 61()った、「この(ひと)は、わたしは(かみ)(みや)()ちこわし、三()(のち)()てることができる、と()いました」。 62すると、大祭司(だいさいし)()()がってイエスに()った、「(なに)(こた)えないのか。これらの人々(ひとびと)があなたに(たい)して不利(ふり)証言(しょうげん)(もう)()てているが、どうなのか」。 63しかし、イエスは(だま)っておられた。そこで大祭司(だいさいし)()った、「あなたは(かみ)()キリストなのかどうか、()ける(かみ)(ちか)ってわれわれに(こた)えよ」。 64イエスは(かれ)()われた、「あなたの()うとおりである。しかし、わたしは()っておく。あなたがたは、()もなく、(ひと)()(ちから)ある(もの)(みぎ)()し、(てん)(くも)()って()るのを()るであろう」。 65すると、大祭司(だいさいし)はその(ころも)()()いて()った、「(かれ)(かみ)(けが)した。どうしてこれ以上(いじょう)証人(しょうにん)必要(ひつよう)があろう。あなたがたは(いま)このけがし(ごと)()いた。 66あなたがたの意見(いけん)はどうか」。すると、(かれ)らは(こた)えて()った、「(かれ)()(あた)るものだ」。 67それから、(かれ)らはイエスの(かお)につばきをかけて、こぶしで()ち、またある(ひと)()のひらでたたいて()った、 68「キリストよ、()いあててみよ、()ったのはだれか」。
69ペテロは(そと)中庭(なかにわ)にすわっていた。するとひとりの女中(じょちゅう)(かれ)のところにきて、「あなたもあのガリラヤ(びと)イエスと一緒(いっしょ)だった」と()った。 70するとペテロは、みんなの(まえ)でそれを()()して()った、「あなたが(なに)()っているのか、わからない」。 71そう()って入口(いりぐち)(ほう)()()くと、ほかの女中(じょちゅう)(かれ)()て、そこにいる人々(ひとびと)にむかって、「この(ひと)はナザレ(びと)イエスと一緒(いっしょ)だった」と()った。 72そこで(かれ)(ふたた)びそれを()()して、「そんな(ひと)()らない」と(ちか)って()った。 73しばらくして、そこに()っていた人々(ひとびと)近寄(ちかよ)ってきて、ペテロに()った、「(たし)かにあなたも(かれ)らの仲間(なかま)だ。言葉(ことば)づかいであなたのことがわかる」。 74(かれ)は「その(ひと)のことは(なに)()らない」と()って、(はげ)しく(ちか)いはじめた。するとすぐ(にわとり)()いた。 75ペテロは「(にわとり)()(まえ)に、三()わたしを()らないと()うであろう」と()われたイエスの言葉(ことば)(おも)()し、(そと)()(はげ)しく()いた。

第二十七章

1()()けると、祭司長(さいしちょう)たち、(たみ)長老(ちょうろう)たち一同(いちどう)は、イエスを(ころ)そうとして協議(きょうぎ)をこらした(うえ)2イエスを(しば)って()()し、総督(そうとく)ピラトに(わた)した。
3そのとき、イエスを裏切(うらぎ)ったユダは、イエスが(つみ)(さだ)められたのを()後悔(こうかい)し、銀貨(ぎんか)三十(まい)祭司長(さいしちょう)長老(ちょうろう)たちに(かえ)して 4()った、「わたしは(つみ)のない(ひと)()()るようなことをして、(つみ)(おか)しました」。しかし(かれ)らは()った、「それは、われわれの()ったことか。自分(じぶん)始末(しまつ)するがよい」。 5そこで、(かれ)銀貨(ぎんか)聖所(せいじょ)()()んで()()き、(くび)をつって()んだ。 6祭司長(さいしちょう)たちは、その銀貨(ぎんか)(ひろ)いあげて()った、「これは()代価(だいか)だから、(みや)金庫(きんこ)()れるのはよくない」。 7そこで(かれ)らは協議(きょうぎ)(うえ)外国(がいこく)(ひと)墓地(ぼち)にするために、その(かね)陶器(とうき)()(はたけ)()った。 8そのために、この(はたけ)今日(きょう)まで()(はたけ)()ばれている。 9こうして預言者(よげんしゃ)エレミヤによって()われた言葉(ことば)が、成就(じょうじゅ)したのである。すなわち、「(かれ)らは、()をつけられたもの、すなわち、イスラエルの()らが()をつけたものの代価(だいか)銀貨(ぎんか)三十を()って、 10(しゅ)がお(めい)じになったように、陶器(とうき)()(はたけ)代価(だいか)として、その(かね)(あた)えた」。
11さて、イエスは総督(そうとく)(まえ)()たれた。すると総督(そうとく)はイエスに(たず)ねて()った、「あなたがユダヤ(じん)(おう)であるか」。イエスは「そのとおりである」と()われた。 12しかし、祭司長(さいしちょう)長老(ちょうろう)たちが(うった)えている(あいだ)、イエスはひと(こと)もお(こた)えにならなかった。 13するとピラトは()った、「あんなにまで次々(つぎつぎ)に、あなたに不利(ふり)証言(しょうげん)()てているのが、あなたには(きこ)えないのか」。 14しかし、総督(そうとく)非常(ひじょう)不思議(ふしぎ)(おも)ったほどに、イエスは(なに)()われても、ひと(こと)もお(こた)えにならなかった。 15さて、(まつり)のたびごとに、総督(そうとく)群衆(ぐんしゅう)(ねが)()囚人(しゅうじん)ひとりを、ゆるしてやる慣例(かんれい)になっていた。 16ときに、バラバという評判(ひょうばん)囚人(しゅうじん)がいた。 17それで、(かれ)らが(あつ)まったとき、ピラトは()った、「おまえたちは、だれをゆるしてほしいのか。バラバか、それとも、キリストといわれるイエスか」。 18(かれ)らがイエスを()きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラトにはよくわかっていたからである。 19また、ピラトが裁判(さいばん)(せき)についていたとき、その(つま)(ひと)(かれ)のもとにつかわして、「あの義人(ぎじん)には関係(かんけい)しないでください。わたしはきょう(ゆめ)で、あの(ひと)のためにさんざん(くる)しみましたから」と()わせた。 20しかし、祭司長(さいしちょう)長老(ちょうろう)たちは、バラバをゆるして、イエスを(ころ)してもらうようにと、群衆(ぐんしゅう)()()せた。 21総督(そうとく)(かれ)らにむかって()った、「ふたりのうち、どちらをゆるしてほしいのか」。(かれ)らは「バラバの(ほう)を」と()った。 22ピラトは()った、「それではキリストといわれるイエスは、どうしたらよいか」。(かれ)らはいっせいに「十字架(じゅうじか)につけよ」と()った。 23しかし、ピラトは()った、「あの(ひと)は、いったい、どんな悪事(あくじ)をしたのか」。すると(かれ)らはいっそう(はげ)しく(さけ)んで、「十字架(じゅうじか)につけよ」と()った。 24ピラトは()のつけようがなく、かえって暴動(ぼうどう)になりそうなのを()て、(みず)()り、群衆(ぐんしゅう)(まえ)()(あら)って()った、「この(ひと)()について、わたしには責任(せきにん)がない。おまえたちが自分(じぶん)始末(しまつ)をするがよい」。 25すると、民衆(みんしゅう)全体(ぜんたい)(こた)えて()った、「その()責任(せきにん)は、われわれとわれわれの子孫(しそん)(うえ)にかかってもよい」。 26そこで、ピラトはバラバをゆるしてやり、イエスをむち()ったのち、十字架(じゅうじか)につけるために()きわたした。
27それから総督(そうとく)兵士(へいし)たちは、イエスを官邸(かんてい)()れて()って、(ぜん)部隊(ぶたい)をイエスのまわりに(あつ)めた。 28そしてその上着(うわぎ)をぬがせて、(あか)外套(がいとう)()せ、 29また、いばらで(かんむり)()んでその(あたま)にかぶらせ、(みぎ)()には(あし)(ぼう)()たせ、それからその(まえ)にひざまずき、嘲弄(ちょうろう)して、「ユダヤ(じん)(おう)、ばんざい」と()った。 30また、イエスにつばきをかけ、(あし)(ぼう)()りあげてその(あたま)をたたいた。 31こうしてイエスを嘲弄(ちょうろう)したあげく、外套(がいとう)をはぎ()って(もと)上着(うわぎ)()せ、それから十字架(じゅうじか)につけるために()()した。
32(かれ)らが()()くと、シモンという()のクレネ(びと)出会(であ)ったので、イエスの十字架(じゅうじか)無理(むり)()わせた。 33そして、ゴルゴタ、すなわち、されこうべの()、という(ところ)にきたとき、 34(かれ)らはにがみをまぜたぶどう(しゅ)()ませようとしたが、イエスはそれをなめただけで、()もうとされなかった。 35(かれ)らはイエスを十字架(じゅうじか)につけてから、くじを()いて、その着物(きもの)()け、 36そこにすわってイエスの(ばん)をしていた。 37そしてその(あたま)(うえ)(ほう)に、「これはユダヤ(じん)(おう)イエス」と()いた罪状(ざいじょう)()きをかかげた。 38同時(どうじ)に、ふたりの強盗(ごうとう)がイエスと一緒(いっしょ)に、ひとりは(みぎ)に、ひとりは(ひだり)に、十字架(じゅうじか)につけられた。 39そこを(とお)りかかった(もの)たちは、(あたま)()りながら、イエスをののしって 40()った、「神殿(しんでん)()ちこわして三()のうちに()てる(もの)よ。もし(かみ)()なら、自分(じぶん)(すく)え。そして十字架(じゅうじか)からおりてこい」。 41祭司長(さいしちょう)たちも(おな)じように、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)長老(ちょうろう)たちと一緒(いっしょ)になって、嘲弄(ちょうろう)して()った、 42他人(たにん)(すく)ったが、自分(じぶん)自身(じしん)(すく)うことができない。あれがイスラエルの(おう)なのだ。いま十字架(じゅうじか)からおりてみよ。そうしたら(しん)じよう。 43(かれ)(かみ)にたよっているが、(かみ)のおぼしめしがあれば、(いま)(すく)ってもらうがよい。自分(じぶん)(かみ)()だと()っていたのだから」。 44一緒(いっしょ)十字架(じゅうじか)につけられた強盗(ごうとう)どもまでも、(おな)じようにイエスをののしった。
45さて、(ひる)の十二()から地上(ちじょう)全面(ぜんめん)(くら)くなって、三()(およ)んだ。 46そして三()ごろに、イエスは大声(おおごえ)(さけ)んで、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」と()われた。それは「わが(かみ)、わが(かみ)、どうしてわたしをお見捨(みす)てになったのですか」という意味(いみ)である。 47すると、そこに()っていたある人々(ひとびと)が、これを()いて()った、「あれはエリヤを()んでいるのだ」。 48するとすぐ、(かれ)らのうちのひとりが(はし)()って、海綿(かいめん)()り、それに()いぶどう(しゅ)(ふく)ませて(あし)(ぼう)につけ、イエスに()ませようとした。 49ほかの人々(ひとびと)()った、「()て、エリヤが(かれ)(すく)いに()るかどうか、()ていよう」。 50イエスはもう一度(いちど)大声(おおごえ)(さけ)んで、ついに(いき)をひきとられた。 51すると()よ、神殿(しんでん)(まく)(うえ)から(した)まで真二(まっぷた)つに()けた。また地震(じしん)があり、(いわ)()け、 52また(はか)()け、(ねむ)っている(おお)くの聖徒(せいと)たちの死体(したい)()(かえ)った。 53そしてイエスの復活(ふっかつ)ののち、(はか)から()てきて、(せい)なる(みやこ)にはいり、(おお)くの(ひと)(あらわ)れた。 54百卒長(ひゃくそつちょう)、および(かれ)一緒(いっしょ)にイエスの(ばん)をしていた人々(ひとびと)は、地震(じしん)や、いろいろのできごとを()非常(ひじょう)(おそ)れ、「まことに、この(ひと)(かみ)()であった」と()った。 55また、そこには(とお)くの(ほう)から()ている(おんな)たちも(おお)くいた。(かれ)らはイエスに(つか)えて、ガリラヤから(したが)ってきた(ひと)たちであった。 56その(なか)には、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの(はは)マリヤ、またゼベダイの()たちの(はは)がいた。
57夕方(ゆうがた)になってから、アリマタヤの金持(かねもち)で、ヨセフという()(ひと)がきた。(かれ)もまたイエスの弟子(でし)であった。 58この(ひと)がピラトの(ところ)()って、イエスのからだの引取(ひきと)りかたを(ねが)った。そこで、ピラトはそれを(わた)すように(めい)じた。 59ヨセフは死体(したい)()()って、きれいな亜麻布(あまぬの)(つつ)み、 60(いわ)()って(つく)った(かれ)(あたら)しい(はか)(おさ)め、そして(はか)入口(いりぐち)(おお)きい(いし)をころがしておいて、(かえ)った。 61マグダラのマリヤとほかのマリヤとが、(はか)にむかってそこにすわっていた。
62あくる()準備(じゅんび)()翌日(よくじつ)であったが、その()に、祭司長(さいしちょう)、パリサイ(びと)たちは、ピラトのもとに(あつ)まって()った、 63長官(ちょうかん)、あの(いつわ)(もの)がまだ()きていたとき、『三()(のち)自分(じぶん)はよみがえる』と()ったのを、(おも)()しました。 64ですから、三()()まで(はか)(ばん)をするように、さしずをして(くだ)さい。そうしないと、弟子(でし)たちがきて(かれ)(ぬす)()し、『イエスは死人(しにん)(なか)から、よみがえった』と、民衆(みんしゅう)()いふらすかも()れません。そうなると、みんなが(まえ)よりも、もっとひどくだまされることになりましょう」。 65ピラトは(かれ)らに()った、「番人(ばんにん)がいるから、()ってできる(かぎ)り、(ばん)をさせるがよい」。 66そこで、(かれ)らは()って(いし)封印(ふういん)をし、番人(ばんにん)()いて(はか)(ばん)をさせた。

第二十八章

1さて、安息日(あんそくにち)(おわ)って、(しゅう)(はじ)めの()()(がた)に、マグダラのマリヤとほかのマリヤとが、(はか)()にきた。 2すると、(おお)きな地震(じしん)(おこ)った。それは(しゅ)使(つかい)(てん)から(くだ)って、そこにきて(いし)をわきへころがし、その(うえ)にすわったからである。 3その姿(すがた)はいなずまのように(かがや)き、その(ころも)(ゆき)のように真白(まっしろ)であった。 4見張(みは)りをしていた(ひと)たちは、(おそ)ろしさの(あま)(ふる)えあがって、死人(しにん)のようになった。 5この御使(みつかい)(おんな)たちにむかって()った、「(おそ)れることはない。あなたがたが十字架(じゅうじか)におかかりになったイエスを(さが)していることは、わたしにわかっているが、 6もうここにはおられない。かねて()われたとおりに、よみがえられたのである。さあ、イエスが(おさ)められていた場所(ばしょ)をごらんなさい。 7そして、(いそ)いで()って、弟子(でし)たちにこう(つた)えなさい、『イエスは死人(しにん)(なか)からよみがえられた。()よ、あなたがたより(さき)にガリラヤへ()かれる。そこでお()いできるであろう』。あなたがたに、これだけ()っておく」。 8そこで(おんな)たちは(おそ)れながらも(おお)(よろこ)びで、(いそ)いで(はか)()()り、弟子(でし)たちに()らせるために(はし)って()った。 9すると、イエスは(かれ)らに出会(であ)って、「平安(へいあん)あれ」と()われたので、(かれ)らは近寄(ちかよ)りイエスのみ(あし)をいだいて(はい)した。 10そのとき、イエスは(かれ)らに()われた、「(おそ)れることはない。()って兄弟(きょうだい)たちに、ガリラヤに()け、そこでわたしに()えるであろう、と()げなさい」。
11(おんな)たちが(おこな)っている(あいだ)に、番人(ばんにん)のうちのある人々(ひとびと)(みやこ)(かえ)って、いっさいの出来事(できごと)祭司長(さいしちょう)たちに(はな)した。 12祭司長(さいしちょう)たちは長老(ちょうろう)たちと(あつ)まって協議(きょうぎ)をこらし、兵卒(へいそつ)たちにたくさんの(かね)(あた)えて()った、 13「『弟子(でし)たちが夜中(よなか)にきて、われわれの()ている(あいだ)(かれ)(ぬす)んだ』と()え。 14万一(まんいち)このことが総督(そうとく)(みみ)にはいっても、われわれが総督(そうとく)()いて、あなたがたに迷惑(めいわく)()からないようにしよう」。 15そこで、(かれ)らは(かね)()()って、(おし)えられたとおりにした。そしてこの(はなし)は、今日(きょう)(いた)るまでユダヤ(じん)(あいだ)にひろまっている。
16さて、十一(にん)弟子(でし)たちはガリラヤに()って、イエスが(かれ)らに()くように(めい)じられた(やま)(のぼ)った。 17そして、イエスに()って(はい)した。しかし、(うたが)(もの)もいた。 18イエスは(かれ)らに(ちか)づいてきて()われた、「わたしは、(てん)においても()においても、いっさいの権威(けんい)(さづ)けられた。 19それゆえに、あなたがたは()って、すべての国民(こくみん)弟子(でし)として、(ちち)()聖霊(せいれい)との()によって、(かれ)らにバプテスマを(ほどこ)し、 20あなたがたに(めい)じておいたいっさいのことを(まも)るように(おし)えよ。()よ、わたしは()(おわ)りまで、いつもあなたがたと(とも)にいるのである」。