マルコによる福音書

第一章

1(かみ)()イエス・キリストの福音(ふくいん)のはじめ。
2預言者(よげんしゃ)イザヤの(しょ)に、
()よ、わたしは使(つかい)をあなたの(さき)につかわし、
あなたの(みち)(ととの)えさせるであろう。
3荒野(あらの)()ばわる(もの)(こえ)がする、
(しゅ)(みち)(そな)えよ、
その(みち)(すじ)をまっすぐにせよ』」
()いてあるように、 4バプテスマのヨハネが荒野(あらの)(あらわ)れて、(つみ)のゆるしを()させる悔改(くいあらた)めのバプテスマを()(つた)えていた。 5そこで、ユダヤ全土(ぜんど)とエルサレムの(ぜん)住民(じゅうみん)とが、(かれ)のもとにぞくぞくと()()って、自分(じぶん)(つみ)告白(こくはく)し、ヨルダン(がわ)でヨハネからバプテスマを()けた。 6このヨハネは、らくだの()ごろもを()にまとい、(こし)(かわ)(おび)をしめ、いなごと()(みつ)とを食物(しょくもつ)としていた。 7(かれ)()(つた)えて()った、「わたしよりも(ちから)のあるかたが、あとからおいでになる。わたしはかがんで、そのくつのひもを()()うちもない。 8わたしは(みず)でバプテスマを(さづ)けたが、このかたは、聖霊(せいれい)によってバプテスマをお(さづ)けになるであろう」。
9そのころ、イエスはガリラヤのナザレから()てきて、ヨルダン(がわ)で、ヨハネからバプテスマをお()けになった。 10そして、(みず)(なか)から()がられるとすぐ、(てん)()けて、聖霊(せいれい)がはとのように自分(じぶん)(くだ)って()るのを、ごらんになった。 11すると(てん)から(こえ)があった、「あなたはわたしの(あい)する()、わたしの(こころ)にかなう(もの)である」。
12それからすぐに、御霊(みたま)がイエスを荒野(あらの)()いやった。 13イエスは四十(にち)のあいだ荒野(あらの)にいて、サタンの(こころ)みにあわれた。そして(けもの)もそこにいたが、御使(みつかい)たちはイエスに(つか)えていた。
14ヨハネが(とら)えられた(のち)、イエスはガリラヤに()き、(かみ)福音(ふくいん)()(つた)えて()われた、 15(とき)()ちた、(かみ)(くに)(ちか)づいた。()(あらた)めて福音(ふくいん)(しん)ぜよ」。
16さて、イエスはガリラヤの(うみ)べを(ある)いて()かれ、シモンとシモンの兄弟(きょうだい)アンデレとが、(うみ)(あみ)()っているのをごらんになった。(かれ)らは漁師(りょうし)であった。 17イエスは(かれ)らに()われた、「わたしについてきなさい。あなたがたを、人間(にんげん)をとる漁師(りょうし)にしてあげよう」。 18すると、(かれ)らはすぐに(あみ)()てて、イエスに(したが)った。 19また(すこ)(すす)んで()かれると、ゼベダイの()ヤコブとその兄弟(きょうだい)ヨハネとが、(ふね)(なか)(あみ)(つくろ)っているのをごらんになった。 20そこで、すぐ(かれ)らをお(まね)きになると、(ちち)ゼベダイを雇人(やといにん)たちと一緒(いっしょ)(ふね)において、イエスのあとについて()った。
21それから、(かれ)らはカペナウムに()った。そして安息日(あんそくにち)にすぐ、イエスは会堂(かいどう)にはいって(おし)えられた。 22人々(ひとびと)は、その(おしえ)(おどろ)いた。律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちのようにではなく、権威(けんい)ある(もの)のように、(おし)えられたからである。 23ちょうどその(とき)、けがれた(れい)につかれた(もの)会堂(かいどう)にいて、(さけ)んで()った、 24「ナザレのイエスよ、あなたはわたしたちとなんの(かか)わりがあるのです。わたしたちを(ほろ)ぼしにこられたのですか。あなたがどなたであるか、わかっています。(かみ)聖者(せいじゃ)です」。 25イエスはこれをしかって、「(だま)れ、この(ひと)から()()け」と()われた。 26すると、けがれた(れい)(かれ)をひきつけさせ、大声(おおごえ)をあげて、その(ひと)から()()った。 27人々(ひとびと)はみな(おどろ)きのあまり、(たがい)(ろん)じて()った、「これは、いったい何事(なにごと)か。権威(けんい)ある(あたら)しい(おしえ)だ。けがれた(れい)にさえ(めい)じられると、(かれ)らは(したが)うのだ」。 28こうしてイエスのうわさは、たちまちガリラヤの(ぜん)地方(ちほう)、いたる(ところ)にひろまった。
29それから会堂(かいどう)()るとすぐ、ヤコブとヨハネとを()れて、シモンとアンデレとの(いえ)にはいって()かれた。 30ところが、シモンのしゅうとめが熱病(ねつびょう)(とこ)についていたので、人々(ひとびと)はさっそく、そのことをイエスに()らせた。 31イエスは近寄(ちかよ)り、その()をとって(おこ)されると、(ねつ)()き、(おんな)(かれ)らをもてなした。
32夕暮(ゆうぐれ)になり()(しず)むと、人々(ひとびと)病人(びょうにん)悪霊(あくれい)につかれた(もの)をみな、イエスのところに()れてきた。 33こうして、町中(まちじゅう)(もの)戸口(とぐち)(あつ)まった。 34イエスは、さまざまの(やまい)をわずらっている(おお)くの人々(ひとびと)をいやし、また(おお)くの悪霊(あくれい)()()された。また、悪霊(あくれい)どもに、物言(ものい)うことをお(ゆる)しにならなかった。(かれ)らがイエスを()っていたからである。
35(あさ)はやく、(よる)()けるよほど(まえ)に、イエスは()きて(さび)しい(ところ)()()き、そこで(いの)っておられた。 36すると、シモンとその仲間(なかま)とが、あとを()ってきた。 37そしてイエスを()つけて、「みんなが、あなたを(さが)しています」と()った。 38イエスは(かれ)らに()われた、「ほかの、附近(ふきん)町々(まちまち)にみんなで()って、そこでも(おしえ)()(つた)えよう。わたしはこのために()てきたのだから」。 39そして、ガリラヤ(ぜん)()(めぐ)りあるいて、(しょ)会堂(かいどう)(おしえ)()(つた)え、また悪霊(あくれい)()()された。
40ひとりのらい病人(びょうにん)が、イエスのところに(ねが)いにきて、ひざまずいて()った、「みこころでしたら、きよめていただけるのですが」。 41イエスは(ふか)くあわれみ、()()ばして(かれ)にさわり、「そうしてあげよう、きよくなれ」と()われた。 42すると、らい(びょう)(ただ)ちに()って、その(ひと)はきよくなった。 43イエスは(かれ)をきびしく(いまし)めて、すぐにそこを()らせ、こう()()かせられた、 44(なに)(ひと)(はな)さないように、注意(ちゅうい)しなさい。ただ()って、自分(じぶん)のからだを祭司(さいし)()せ、それから、モーセが(めい)じた(もの)をあなたのきよめのためにささげて、人々(ひとびと)証明(しょうめい)しなさい」。 45しかし、(かれ)()()って、自分(じぶん)()(おこ)ったことを(さか)んに(かた)り、また()いひろめはじめたので、イエスはもはや表立(おもてだ)っては(まち)に、はいることができなくなり、(そと)(さび)しい(ところ)にとどまっておられた。しかし、人々(ひとびと)方々(ほうぼう)から、イエスのところにぞくぞくと(あつ)まってきた。

第二章

1幾日(いくにち)かたって、イエスがまたカペナウムにお(かえ)りになったとき、(いえ)におられるといううわさが()ったので、 2(おお)くの人々(ひとびと)(あつ)まってきて、もはや戸口(とぐち)のあたりまでも、すきまが()いほどになった。そして、イエスは御言(みことば)(かれ)らに(かた)っておられた。 3すると、人々(ひとびと)がひとりの中風(ちゅうぶ)(もの)を四(にん)(ひと)(はこ)ばせて、イエスのところに()れてきた。 4ところが、群衆(ぐんしゅう)のために近寄(ちかよ)ることができないので、イエスのおられるあたりの屋根(やね)をはぎ、(あな)をあけて、中風(ちゅうぶ)(もの)()かせたまま、(とこ)をつりおろした。 5イエスは(かれ)らの信仰(しんこう)()て、中風(ちゅうぶ)(もの)に、「()よ、あなたの(つみ)はゆるされた」と()われた。 6ところが、そこに幾人(いくにん)かの律法(りっぽう)学者(がくしゃ)がすわっていて、(こころ)(なか)(ろん)じた、 7「この(ひと)は、なぜあんなことを()うのか。それは(かみ)をけがすことだ。(かみ)ひとりのほかに、だれが(つみ)をゆるすことができるか」。 8イエスは、(かれ)らが内心(ないしん)このように(ろん)じているのを、自分(じぶん)(こころ)ですぐ()ぬいて、「なぜ、あなたがたは(こころ)(なか)でそんなことを(ろん)じているのか。 9中風(ちゅうぶ)(もの)に、あなたの(つみ)はゆるされた、と()うのと、()きよ、(とこ)()りあげて(ある)け、と()うのと、どちらがたやすいか。 10しかし、(ひと)()地上(ちじょう)(つみ)をゆるす権威(けんい)をもっていることが、あなたがたにわかるために」と(かれ)らに()い、中風(ちゅうぶ)(もの)にむかって、 11「あなたに(めい)じる。()きよ、(とこ)()りあげて(いえ)(かえ)れ」と()われた。 12すると(かれ)()きあがり、すぐに(とこ)()りあげて、みんなの(まえ)()()ったので、一同(いちどう)(おお)いに(おどろ)き、(かみ)をあがめて、「こんな(こと)は、まだ一()()たことがない」と()った。
13イエスはまた(うみ)べに()()かれると、(おお)くの人々(ひとびと)がみもとに(あつ)まってきたので、(かれ)らを(おし)えられた。 14また途中(とちゅう)で、アルパヨの()レビが収税所(しゅうぜいしょ)にすわっているのをごらんになって、「わたしに(したが)ってきなさい」と()われた。すると(かれ)()ちあがって、イエスに(したが)った。 15それから(かれ)(いえ)で、食事(しょくじ)(せき)についておられたときのことである。(おお)くの取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)たちも、イエスや弟子(でし)たちと(とも)にその(せき)()いていた。こんな(ひと)たちが(おお)ぜいいて、イエスに(したが)ってきたのである。 16パリサイ()律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちは、イエスが罪人(つみびと)取税人(しゅぜいにん)たちと食事(しょくじ)(とも)にしておられるのを()て、弟子(でし)たちに()った、「なぜ、(かれ)取税人(しゅぜいにん)罪人(つみびと)などと食事(しょくじ)(とも)にするのか」。 17イエスはこれを()いて()われた、「丈夫(じょうぶ)(ひと)には医者(いしゃ)はいらない。いるのは病人(びょうにん)である。わたしがきたのは、義人(ぎじん)(まね)くためではなく、罪人(つみびと)(まね)くためである」。
18ヨハネの弟子(でし)とパリサイ(びと)とは、断食(だんじき)をしていた。そこで人々(ひとびと)がきて、イエスに()った、「ヨハネの弟子(でし)たちとパリサイ(びと)弟子(でし)たちとが断食(だんじき)をしているのに、あなたの弟子(でし)たちは、なぜ断食(だんじき)をしないのですか」。 19するとイエスは()われた、「婚礼(こんれい)(きゃく)は、花婿(はなむこ)一緒(いっしょ)にいるのに、断食(だんじき)ができるであろうか。花婿(はなむこ)一緒(いっしょ)にいる(あいだ)は、断食(だんじき)はできない。 20しかし、花婿(はなむこ)(うば)()られる()()る。その()には断食(だんじき)をするであろう。 21だれも、真新(まあたら)しい(ぬの)ぎれを、(ふる)着物(きもの)()いつけはしない。もしそうすれば、(あたら)しいつぎは(ふる)着物(きもの)()(やぶ)り、そして、(やぶ)れがもっとひどくなる。 22まただれも、(あたら)しいぶどう(しゅ)(ふる)(かわ)(ぶくろ)()れはしない。もしそうすれば、ぶどう(しゅ)(かわ)(ぶくろ)をはり()き、そして、ぶどう(しゅ)(かわ)(ぶくろ)もむだになってしまう。〔だから、(あたら)しいぶどう(しゅ)(あたら)しい(かわ)(ぶくろ)()れるべきである〕」。
23ある安息日(あんそくにち)に、イエスは麦畑(むぎばたけ)(なか)をとおって()かれた。そのとき弟子(でし)たちが、(ある)きながら()をつみはじめた。 24すると、パリサイ(びと)たちがイエスに()った、「いったい、(かれ)らはなぜ、安息日(あんそくにち)にしてはならぬことをするのですか」。 25そこで(かれ)らに()われた、「あなたがたは、ダビデとその(とも)(もの)たちとが食物(しょくもつ)がなくて()えたとき、ダビデが(なに)をしたか、まだ()んだことがないのか。 26すなわち、大祭司(だいさいし)アビアタルの(とき)(かみ)(いえ)にはいって、祭司(さいし)たちのほか()べてはならぬ(そな)えのパンを、自分(じぶん)()べ、また(とも)(もの)たちにも(あた)えたではないか」。 27また(かれ)らに()われた、「安息日(あんそくにち)(ひと)のためにあるもので、(ひと)安息日(あんそくにち)のためにあるのではない。 28それだから、(ひと)()は、安息日(あんそくにち)にもまた(しゅ)なのである」。

第三章

1イエスがまた会堂(かいどう)にはいられると、そこに片手(かたて)のなえた(ひと)がいた。 2人々(ひとびと)はイエスを(うった)えようと(おも)って、安息日(あんそくにち)にその(ひと)をいやされるかどうかをうかがっていた。 3すると、イエスは片手(かたて)のなえたその(ひと)に、「()って、(なか)()てきなさい」と()い、 4人々(ひとびと)にむかって、「安息日(あんそくにち)(ぜん)(おこな)うのと(あく)(おこな)うのと、(いのち)(すく)うのと(ころ)すのと、どちらがよいか」と()われた。(かれ)らは(だま)っていた。 5イエスは(いか)りを(ふく)んで(かれ)らを()まわし、その(こころ)のかたくななのを(なげ)いて、その(ひと)に「()()ばしなさい」と()われた。そこで()()ばすと、その()(もと)どおりになった。 6パリサイ(びと)たちは()()って、すぐにヘロデ(とう)(もの)たちと、なんとかしてイエスを(ころ)そうと相談(そうだん)しはじめた。
7それから、イエスは弟子(でし)たちと(とも)(うみ)べに退(しりぞ)かれたが、ガリラヤからきたおびただしい群衆(ぐんしゅう)がついて()った。またユダヤから、 8エルサレムから、イドマヤから、(さら)にヨルダンの()こうから、ツロ、シドンのあたりからも、おびただしい群衆(ぐんしゅう)が、そのなさっていることを()いて、みもとにきた。 9イエスは群衆(ぐんしゅう)自分(じぶん)()(せま)るのを()けるために、小舟(こぶね)用意(ようい)しておけと、弟子(でし)たちに(めい)じられた。 10それは、(おお)くの(ひと)をいやされたので、病苦(びょうく)(なや)(もの)(みな)イエスにさわろうとして、()()せてきたからである。 11また、けがれた(れい)どもはイエスを()るごとに、みまえにひれ()し、(さけ)んで、「あなたこそ(かみ)()です」と()った。 12イエスは()自身(じしん)のことを(ひと)にあらわさないようにと、(かれ)らをきびしく(いまし)められた。
13さてイエスは(やま)(のぼ)り、みこころにかなった(もの)たちを()()せられたので、(かれ)らはみもとにきた。 14そこで十二(にん)をお()てになった。(かれ)らを自分(じぶん)のそばに()くためであり、さらに宣教(せんきょう)につかわし、 15また悪霊(あくれい)()()権威(けんい)()たせるためであった。 16こうして、この十二(にん)をお()てになった。そしてシモンにペテロという()をつけ、 17またゼベダイの()ヤコブと、ヤコブの兄弟(きょうだい)ヨハネ、(かれ)らにはボアネルゲ、すなわち、(かみなり)()という()をつけられた。 18つぎにアンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの()ヤコブ、タダイ、熱心(ねっしん)(とう)のシモン、 19それからイスカリオテのユダ。このユダがイエスを裏切(うらぎ)ったのである。
イエスが(いえ)にはいられると、 20群衆(ぐんしゅう)がまた(あつ)まってきたので、一同(いちどう)食事(しょくじ)をする(ひま)もないほどであった。 21身内(みうち)(もの)たちはこの(こと)()いて、イエスを取押(とりおさ)えに()てきた。()(くる)ったと(おも)ったからである。 22また、エルサレムから(くだ)ってきた律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちも、「(かれ)はベルゼブルにとりつかれている」と()い、「悪霊(あくれい)どものかしらによって、悪霊(あくれい)どもを()()しているのだ」とも()った。 23そこでイエスは(かれ)らを()()せ、(たとえ)をもって()われた、「どうして、サタンがサタンを()()すことができようか。 24もし(くに)内部(ないぶ)(わか)(あらそ)うなら、その(くに)()()かない。 25また、もし(いえ)(うち)わで(わか)(あらそ)うなら、その(いえ)()()かないであろう。 26もしサタンが内部(ないぶ)対立(たいりつ)分争(ぶんそう)するなら、(かれ)()()けず、(ほろ)んでしまう。 27だれでも、まず(つよ)(ひと)(しば)りあげなければ、その(ひと)(いえ)()()って家財(かざい)(うば)()ることはできない。(しば)ってからはじめて、その(いえ)略奪(りゃくだつ)することができる。 28よく()()かせておくが、(ひと)()らには、その(おか)すすべての(つみ)(かみ)をけがす言葉(ことば)も、ゆるされる。 29しかし、聖霊(せいれい)をけがす(もの)は、いつまでもゆるされず、永遠(えいえん)(つみ)(さだ)められる」。 30そう()われたのは、(かれ)らが「イエスはけがれた(れい)につかれている」と()っていたからである。
31さて、イエスの(はは)兄弟(きょうだい)たちとがきて、(そと)()ち、(ひと)をやってイエスを()ばせた。 32ときに、群衆(ぐんしゅう)はイエスを(かこ)んですわっていたが、「ごらんなさい。あなたの母上(ははうえ)兄弟(きょうだい)姉妹(しまい)たちが、(そと)であなたを(たず)ねておられます」と()った。 33すると、イエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「わたしの(はは)、わたしの兄弟(きょうだい)とは、だれのことか」。 34そして、自分(じぶん)をとりかこんで、すわっている人々(ひとびと)()まわして、()われた、「ごらんなさい、ここにわたしの(はは)、わたしの兄弟(きょうだい)がいる。 35(かみ)のみこころを(おこな)(もの)はだれでも、わたしの兄弟(きょうだい)、また姉妹(しまい)、また(はは)なのである」。

第四章

1イエスはまたも、(うみ)べで(おし)えはじめられた。おびただしい群衆(ぐんしゅう)がみもとに(あつ)まったので、イエスは(ふね)()ってすわったまま、海上(かいじょう)におられ、群衆(ぐんしゅう)はみな(うみ)沿()って陸地(りくち)にいた。 2イエスは(たとえ)(おお)くの(こと)(おし)えられたが、その(おしえ)(なか)(かれ)らにこう()われた、 3()きなさい、(たね)まきが(たね)をまきに()()った。 4まいているうちに、(みち)ばたに()ちた(たね)があった。すると、(とり)がきて()べてしまった。 5ほかの(たね)(つち)(うす)石地(いしじ)()ちた。そこは(つち)(ふか)くないので、すぐ()()したが、 6()(のぼ)ると()けて、()がないために()れてしまった。 7ほかの(たね)はいばらの(なか)()ちた。すると、いばらが()びて、ふさいでしまったので、()(むす)ばなかった。 8ほかの(たね)()()()ちた。そしてはえて、(そだ)って、ますます()(むす)び、三十(ばい)、六十(ばい)、百(ばい)にもなった」。 9そして()われた、「()(みみ)のある(もの)()くがよい」。
10イエスがひとりになられた(とき)、そばにいた(もの)たちが、十二弟子(でし)(とも)に、これらの(たとえ)について(たず)ねた。 11そこでイエスは()われた、「あなたがたには(かみ)(くに)奥義(おくぎ)(さづ)けられているが、ほかの(もの)たちには、すべてが(たとえ)(かた)られる。
12それは
(かれ)らは()るには()るが、(みと)めず、
()くには()くが、(さと)らず、
()(あらた)めてゆるされることがない』ためである」。
13また(かれ)らに()われた、「あなたがたはこの(たとえ)がわからないのか。それでは、どうしてすべての(たとえ)がわかるだろうか。 14(たね)まきは御言(みことば)をまくのである。 15(みち)ばたに御言(みことば)がまかれたとは、こういう(ひと)たちのことである。すなわち、御言(みことば)()くと、すぐにサタンがきて、(かれ)らの(なか)にまかれた御言(みことば)を、(うば)って()くのである。 16(おな)じように、石地(いしじ)にまかれたものとは、こういう(ひと)たちのことである。御言(みことば)()くと、すぐに(よろこ)んで()けるが、 17自分(じぶん)(なか)()がないので、しばらく(つづ)くだけである。そののち、御言(みことば)のために困難(こんなん)迫害(はくがい)(おこ)ってくると、すぐつまずいてしまう。 18また、いばらの(なか)にまかれたものとは、こういう(ひと)たちのことである。御言(みことば)()くが、 19()(こころ)づかいと、(とみ)(まど)わしと、その()いろいろな(よく)とがはいってきて、御言(みことば)をふさぐので、()(むす)ばなくなる。 20また、()()にまかれたものとは、こういう(ひと)たちのことである。御言(みことば)()いて()けいれ、三十(ばい)、六十(ばい)、百(ばい)()(むす)ぶのである」。
21また(かれ)らに()われた、「ますの(した)寝台(しんだい)(した)()くために、あかりを()ってくることがあろうか。燭台(しょくだい)(うえ)()くためではないか。 22なんでも、(かく)されているもので、(あらわ)れないものはなく、秘密(ひみつ)にされているもので、(あか)るみに()ないものはない。 23()(みみ)のある(もの)()くがよい」。 24また(かれ)らに()われた、「()くことがらに注意(ちゅうい)しなさい。あなたがたの(はか)るそのはかりで、自分(じぶん)にも(はか)(あた)えられ、その(うえ)になお()(くわ)えられるであろう。 25だれでも、()っている(ひと)(さら)(あた)えられ、()っていない(ひと)は、()っているものまでも()()げられるであろう」。
26また()われた、「(かみ)(くに)は、ある(ひと)()(たね)をまくようなものである。 27夜昼(よるひる)寝起(ねお)きしている(あいだ)に、(たね)()()して(そだ)って()くが、どうしてそうなるのか、その(ひと)()らない。 28()はおのずから()(むす)ばせるもので、(はじ)めに()、つぎに()、つぎに()(なか)(ゆた)かな()ができる。 29()がいると、すぐにかまを()れる。刈入(かりい)(とき)がきたからである」。
30また()われた、「(かみ)(くに)(なに)(くら)べようか。また、どんな(たとえ)()いあらわそうか。 31それは一(つぶ)のからし(たね)のようなものである。()にまかれる(とき)には、地上(ちじょう)のどんな(たね)よりも(ちい)さいが、 32まかれると、成長(せいちょう)してどんな野菜(やさい)よりも(おお)きくなり、(おお)きな(えだ)()り、その(かげ)(そら)(とり)宿(やど)るほどになる」。
33イエスはこのような(おお)くの(たとえ)で、人々(ひとびと)()(ちから)にしたがって、御言(みことば)(かた)られた。 34(たとえ)によらないでは(かた)られなかったが、自分(じぶん)弟子(でし)たちには、ひそかにすべてのことを()()かされた。
35さてその()夕方(ゆうがた)になると、イエスは弟子(でし)たちに、「()こう(ぎし)(わた)ろう」と()われた。 36そこで、(かれ)らは群衆(ぐんしゅう)をあとに(のこ)し、イエスが(ふね)()っておられるまま、()()した。ほかの(ふね)一緒(いっしょ)()った。 37すると、(はげ)しい突風(とっぷう)(おこ)り、(なみ)(ふね)(なか)()()んできて、(ふね)()ちそうになった。 38ところがイエス自身(じしん)は、(とも)(ほう)でまくらをして、(ねむ)っておられた。そこで、弟子(でし)たちはイエスをおこして、「先生(せんせい)、わたしどもがおぼれ()んでも、おかまいにならないのですか」と()った。 39イエスは()きあがって(かぜ)をしかり、(うみ)にむかって、「(しず)まれ、(だま)れ」と()われると、(かぜ)はやんで、(おお)なぎになった。 40イエスは(かれ)らに()われた、「なぜ、そんなにこわがるのか。どうして信仰(しんこう)がないのか」。 41(かれ)らは(おそ)れおののいて、(たがい)()った、「いったい、この(ほう)はだれだろう。(かぜ)(うみ)(したが)わせるとは」。

第五章

1こうして(かれ)らは(うみ)()こう(ぎし)、ゲラサ(びと)()()いた。 2それから、イエスが(ふね)からあがられるとすぐに、けがれた(れい)につかれた(ひと)墓場(はかば)から()てきて、イエスに出会(であ)った。 3この(ひと)墓場(はかば)をすみかとしており、もはやだれも、(くさり)でさえも(かれ)をつなぎとめて()けなかった。 4(かれ)はたびたび(あし)かせや(くさり)でつながれたが、(くさり)()きちぎり、(あし)かせを(くだ)くので、だれも(かれ)(おさ)えつけることができなかったからである。 5そして、夜昼(よるひる)たえまなく墓場(はかば)(やま)(さけ)びつづけて、(いし)自分(じぶん)のからだを(きず)つけていた。 6ところが、この(ひと)がイエスを(とお)くから()て、(はし)()って(はい)し、 7大声(おおごえ)(さけ)んで()った、「いと(たか)(かみ)()イエスよ、あなたはわたしとなんの(かか)わりがあるのです。(かみ)(ちか)ってお(ねが)いします。どうぞ、わたしを(くる)しめないでください」。 8それは、イエスが、「けがれた(れい)よ、この(ひと)から()()け」と()われたからである。 9また(かれ)に、「なんという名前(なまえ)か」と(たず)ねられると、「レギオンと()います。(おお)ぜいなのですから」と(こた)えた。 10そして、自分(じぶん)たちをこの土地(とち)から()()さないようにと、しきりに(ねが)いつづけた。 11さて、そこの(やま)中腹(ちゅうふく)に、(ぶた)大群(たいぐん)()ってあった。 12(れい)はイエスに(ねが)って()った、「わたしどもを、(ぶた)にはいらせてください。その(なか)(おく)ってください」。 13イエスがお(ゆる)しになったので、けがれた(れい)どもは()()って、(ぶた)(なか)へはいり()んだ。すると、その()れは二千(ひき)ばかりであったが、がけから(うみ)へなだれを()って()(くだ)り、(うみ)(なか)でおぼれ()んでしまった。 14(ぶた)()(もの)たちが()()して、(まち)(むら)にふれまわったので、人々(ひとびと)何事(なにごと)(おこ)ったのかと()にきた。 15そして、イエスのところにきて、悪霊(あくれい)につかれた(ひと)着物(きもの)()て、正気(しょうき)になってすわっており、それがレギオンを宿(やど)していた(もの)であるのを()て、(おそ)れた。 16また、それを()(ひと)たちは、悪霊(あくれい)につかれた(ひと)()(おこ)った(こと)(ぶた)のこととを、(かれ)らに(はな)して()かせた。 17そこで、人々(ひとびと)はイエスに、この地方(ちほう)から()()っていただきたいと、(たの)みはじめた。 18イエスが(ふね)()ろうとされると、悪霊(あくれい)につかれていた(ひと)がお(とも)をしたいと(ねが)()た。 19しかし、イエスはお(ゆる)しにならないで、(かれ)()われた、「あなたの家族(かぞく)のもとに(かえ)って、(しゅ)がどんなに(おお)きなことをしてくださったか、またどんなにあわれんでくださったか、それを()らせなさい」。 20そこで、(かれ)()()り、そして自分(じぶん)にイエスがしてくださったことを、ことごとくデカポリスの地方(ちほう)()いひろめ()したので、人々(ひとびと)はみな(おどろ)(あや)しんだ。
21イエスがまた(ふね)()こう(ぎし)(わた)られると、(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)がみもとに(あつ)まってきた。イエスは(うみ)べにおられた。 22そこへ、会堂司(かいどうづかさ)のひとりであるヤイロという(もの)がきて、イエスを()かけるとその(あし)もとにひれ()し、 23しきりに(ねが)って()った、「わたしの(おさな)(むすめ)()にかかっています。どうぞ、その()がなおって(たす)かりますように、おいでになって、()をおいてやってください」。 24そこで、イエスは(かれ)一緒(いっしょ)()かけられた。(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)もイエスに()(せま)りながら、ついて()った。
25さてここに、十二年間(ねんかん)(なが)()をわずらっている(おんな)がいた。 26(おお)くの医者(いしゃ)にかかって、さんざん(くる)しめられ、その()(もの)をみな(ついや)してしまったが、なんのかいもないばかりか、かえってますます(わる)くなる一方(いっぽう)であった。 27この(おんな)がイエスのことを()いて、群衆(ぐんしゅう)(なか)にまぎれ()み、うしろから、み(ころも)にさわった。 28それは、せめて、み(ころも)にでもさわれば、なおしていただけるだろうと、(おも)っていたからである。 29すると、()(もと)がすぐにかわき、(おんな)病気(びょうき)がなおったことを、その()(かん)じた。 30イエスはすぐ、自分(じぶん)(うち)から(ちから)()()ったことに()づかれて、群衆(ぐんしゅう)(なか)()()き、「わたしの着物(きもの)にさわったのはだれか」と()われた。 31そこで弟子(でし)たちが()った、「ごらんのとおり、群衆(ぐんしゅう)があなたに()(せま)っていますのに、だれがさわったかと、おっしゃるのですか」。 32しかし、イエスはさわった(もの)()つけようとして、()まわしておられた。 33その(おんな)自分(じぶん)()(おこ)ったことを()って、(おそ)れおののきながら(すす)()て、みまえにひれ()して、すべてありのままを(もう)()げた。 34イエスはその(おんな)()われた、「(むすめ)よ、あなたの信仰(しんこう)があなたを(すく)ったのです。安心(あんしん)して()きなさい。すっかりなおって、達者(たっしゃ)でいなさい」。
35イエスが、まだ(はな)しておられるうちに、会堂司(かいどうづかさ)(いえ)から人々(ひとびと)がきて()った、「あなたの(むすめ)はなくなりました。このうえ、先生(せんせい)(わずら)わすには(およ)びますまい」。 36イエスはその(はな)している言葉(ことば)()(なが)して、会堂司(かいどうづかさ)()われた、「(おそ)れることはない。ただ(しん)じなさい」。 37そしてペテロ、ヤコブ、ヤコブの兄弟(きょうだい)ヨハネのほかは、ついて()ることを、だれにもお(ゆる)しにならなかった。 38(かれ)らが会堂司(かいどうづかさ)(いえ)()くと、イエスは人々(ひとびと)大声(おおごえ)()いたり、(さけ)んだりして、(さわ)いでいるのをごらんになり、 39(うち)にはいって、(かれ)らに()われた、「なぜ()(さわ)いでいるのか。子供(こども)()んだのではない。(ねむ)っているだけである」。 40人々(ひとびと)はイエスをあざ(わら)った。しかし、イエスはみんなの(もの)(そと)()し、子供(こども)父母(ふぼ)(とも)(もの)たちだけを()れて、子供(こども)のいる(ところ)にはいって()かれた。 41そして子供(こども)()()って、「タリタ、クミ」と()われた。それは、「少女(しょうじょ)よ、さあ、()きなさい」という意味(いみ)である。 42すると、少女(しょうじょ)はすぐに()()がって、(ある)()した。十二(さい)にもなっていたからである。(かれ)らはたちまち非常(ひじょう)(おどろ)きに()たれた。 43イエスは、だれにもこの(こと)()らすなと、きびしく(かれ)らに(めい)じ、また、少女(しょうじょ)食物(しょくもつ)(あた)えるようにと()われた。

第六章

1イエスはそこを()って、郷里(きょうり)()かれたが、弟子(でし)たちも(したが)って()った。 2そして、安息日(あんそくにち)になったので、会堂(かいどう)(おし)えはじめられた。それを()いた(おお)くの人々(ひとびと)は、(おどろ)いて()った、「この(ひと)は、これらのことをどこで(なら)ってきたのか。また、この(ひと)(さず)かった知恵(ちえ)はどうだろう。このような(ちから)あるわざがその()(おこな)われているのは、どうしてか。 3この(ひと)大工(だいく)ではないか。マリヤのむすこで、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟(きょうだい)ではないか。またその姉妹(しまい)たちも、ここにわたしたちと一緒(いっしょ)にいるではないか」。こうして(かれ)らはイエスにつまずいた。 4イエスは()われた、「預言者(よげんしゃ)は、自分(じぶん)郷里(きょうり)親族(しんぞく)(いえ)以外(いがい)では、どこででも(うやま)われないことはない」。 5そして、そこでは(ちから)あるわざを一つもすることができず、ただ少数(しょうすう)病人(びょうにん)()をおいていやされただけであった。 6そして、(かれ)らの()信仰(しんこう)(おどろ)(あや)しまれた。
それからイエスは、附近(ふきん)村々(むらむら)(めぐ)りあるいて(おし)えられた。 7また十二弟子(でし)()()せ、ふたりずつつかわすことにして、(かれ)らにけがれた(れい)(せい)する権威(けんい)(あた)え、 8また(たび)のために、つえ一(ぽん)のほかには(なに)()たないように、パンも、(ぶくろ)も、(おび)(なか)(ぜに)()たず、 9ただわらじをはくだけで、下着(したぎ)も二(まい)()ないように(めい)じられた。 10そして(かれ)らに()われた、「どこへ()っても、(いえ)にはいったなら、その土地(とち)()るまでは、そこにとどまっていなさい。 11また、あなたがたを(むか)えず、あなたがたの(はなし)()きもしない(ところ)があったなら、そこから()()くとき、(かれ)らに(たい)する抗議(こうぎ)のしるしに、(あし)(うら)のちりを(はら)(おと)しなさい」。 12そこで、(かれ)らは()()って、悔改(くいあらた)めを()(つた)え、 13(おお)くの悪霊(あくれい)()()し、(おお)ぜいの病人(びょうにん)(あぶら)をぬっていやした。
14さて、イエスの()()れわたって、ヘロデ(おう)(みみ)にはいった。ある人々(ひとびと)は「バプテスマのヨハネが、死人(しにん)(なか)からよみがえってきたのだ。それで、あのような(ちから)(かれ)のうちに(はたら)いているのだ」と()い、 15()人々(ひとびと)は「(かれ)はエリヤだ」と()い、また()人々(ひとびと)は「(むかし)預言者(よげんしゃ)のような預言者(よげんしゃ)だ」と()った。 16ところが、ヘロデはこれを()いて、「わたしが(くび)()ったあのヨハネがよみがえったのだ」と()った。 17このヘロデは、自分(じぶん)兄弟(きょうだい)ピリポの(つま)ヘロデヤをめとったが、そのことで、(ひと)をつかわし、ヨハネを(とら)えて(ごく)につないだ。 18それは、ヨハネがヘロデに、「兄弟(きょうだい)(つま)をめとるのは、よろしくない」と()ったからである。 19そこで、ヘロデヤはヨハネを(うら)み、(かれ)(ころ)そうと(おも)っていたが、できないでいた。 20それはヘロデが、ヨハネは(ただ)しくて(せい)なる(ひと)であることを()って、(かれ)(おそ)れ、(かれ)保護(ほご)(くわ)え、またその(おしえ)()いて非常(ひじょう)(なや)みながらも、なお(よろこ)んで()いていたからである。 21ところが、よい機会(きかい)がきた。ヘロデは自分(じぶん)誕生(たんじょう)()(いわい)に、高官(こうかん)将校(しょうこう)やガリラヤの重立(おもだ)った(ひと)たちを(まね)いて宴会(えんかい)(もよお)したが、 22そこへ、このヘロデヤの(むすめ)がはいってきて(まい)をまい、ヘロデをはじめ列座(れつざ)(ひと)たちを(よろこ)ばせた。そこで(おう)はこの少女(しょうじょ)に「ほしいものはなんでも()いなさい。あなたにあげるから」と()い、 23さらに「ほしければ、この(くに)半分(はんぶん)でもあげよう」と(ちか)って()った。 24そこで少女(しょうじょ)()をはずして、(はは)に「(なに)をお(ねが)いしましょうか」と(たず)ねると、(はは)は「バプテスマのヨハネの(くび)を」と(こた)えた。 25するとすぐ、少女(しょうじょ)(いそ)いで(おう)のところに()って(ねが)った、「(いま)すぐに、バプテスマのヨハネの(くび)(ぼん)にのせて、それをいただきとうございます」。 26(おう)非常(ひじょう)(こま)ったが、いったん(ちか)ったのと、また列座(れつざ)(ひと)たちの手前(てまえ)少女(しょうじょ)(ねが)いを退(しりぞ)けることを(この)まなかった。 27そこで、(おう)はすぐに衛兵(えいへい)をつかわし、ヨハネの(くび)()って()るように(めい)じた。衛兵(えいへい)()()き、獄中(ごくちゅう)でヨハネの(くび)()り、 28(ぼん)にのせて()ってきて少女(しょうじょ)(あた)え、少女(しょうじょ)はそれを(はは)にわたした。 29ヨハネの弟子(でし)たちはこのことを()き、その死体(したい)()()りにきて、(はか)(おさ)めた。
30さて、使徒(しと)たちはイエスのもとに(あつ)まってきて、自分(じぶん)たちがしたことや(おし)えたことを、みな報告(ほうこく)した。 31するとイエスは(かれ)らに()われた、「さあ、あなたがたは、(ひと)()けて(さび)しい(ところ)()って、しばらく(やす)むがよい」。それは、出入(でい)りする(ひと)(おお)くて、食事(しょくじ)をする(ひま)もなかったからである。 32そこで(かれ)らは(ひと)()け、(ふね)()って(さび)しい(ところ)()った。 33ところが、(おお)くの人々(ひとびと)(かれ)らが()かけて()くのを()、それと()づいて、方々(ほうぼう)町々(まちまち)からそこへ、一せいに()けつけ、(かれ)らより(さき)()いた。 34イエスは(ふね)から()がって(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)をごらんになり、()(もの)のない(ひつじ)のようなその有様(ありさま)(ふか)くあわれんで、いろいろと(おし)えはじめられた。 35ところが、はや(とき)もおそくなったので、弟子(でし)たちはイエスのもとにきて()った、「ここは(さび)しい(ところ)でもあり、もう(とき)もおそくなりました。 36みんなを解散(かいさん)させ、めいめいで(なに)()べる(もの)()いに、まわりの部落(ぶらく)村々(むらむら)()かせてください」。 37イエスは(こた)えて()われた、「あなたがたの()食物(しょくもつ)をやりなさい」。弟子(でし)たちは()った、「わたしたちが二百デナリものパンを()ってきて、みんなに()べさせるのですか」。 38するとイエスは()われた、「パンは(いく)つあるか。()てきなさい」。(かれ)らは(たし)かめてきて、「五つあります。それに(うお)が二ひき」と()った。 39そこでイエスは、みんなを組々(くみぐみ)()けて、青草(あおくさ)(うえ)にすわらせるように(めい)じられた。 40人々(ひとびと)は、あるいは百(にん)ずつ、あるいは五十(にん)ずつ、(れつ)をつくってすわった。 41それから、イエスは五つのパンと二ひきの(うお)とを()()り、(てん)(あお)いでそれを祝福(しゅくふく)し、パンをさき、弟子(でし)たちにわたして(くば)らせ、また、二ひきの(うお)もみんなにお()けになった。 42みんなの(もの)()べて満腹(まんぷく)した。 43そこで、パンくずや(うお)(のこ)りを(あつ)めると、十二のかごにいっぱいになった。 44パンを()べた(もの)(おとこ)五千(にん)であった。
45それからすぐ、イエスは自分(じぶん)群衆(ぐんしゅう)解散(かいさん)させておられる(あいだ)に、しいて弟子(でし)たちを(ふね)()()ませ、()こう(ぎし)のベツサイダへ(さき)におやりになった。 46そして群衆(ぐんしゅう)(わか)れてから、(いの)るために(やま)退(しりぞ)かれた。 47夕方(ゆうがた)になったとき、(ふね)(うみ)のまん(なか)()ており、イエスだけが陸地(りくち)におられた。 48ところが逆風(ぎゃくふう)()いていたために、弟子(でし)たちがこぎ(なや)んでいるのをごらんになって、夜明(よあ)けの四()ごろ、(うみ)(うえ)(ある)いて(かれ)らに(ちか)づき、そのそばを(とお)()ぎようとされた。 49(かれ)らはイエスが(うみ)(うえ)(ある)いておられるのを()て、幽霊(ゆうれい)だと(おも)い、大声(おおごえ)(さけ)んだ。 50みんなの(もの)がそれを()て、おじ(おそ)れたからである。しかし、イエスはすぐ(かれ)らに(こえ)をかけ、「しっかりするのだ。わたしである。(おそ)れることはない」と()われた。 51そして、(かれ)らの(ふね)()()まれると、(かぜ)はやんだ。(かれ)らは(こころ)(なか)で、非常(ひじょう)(おどろ)いた。 52(さき)のパンのことを(さと)らず、その(こころ)(にぶ)くなっていたからである。
53(かれ)らは(うみ)(わた)り、ゲネサレの()()いて(ふね)をつないだ。 54そして(ふね)からあがると、人々(ひとびと)はすぐイエスと()って、 55その地方(ちほう)をあまねく()けめぐり、イエスがおられると()けば、どこへでも病人(びょうにん)(とこ)にのせて(はこ)びはじめた。 56そして、(むら)でも(まち)でも部落(ぶらく)でも、イエスがはいって()かれる(ところ)では、病人(びょうにん)たちをその広場(ひろば)におき、せめてその上着(うわぎ)のふさにでも、さわらせてやっていただきたいと、お(ねが)いした。そしてさわった(もの)(みな)いやされた。

第七章

1さて、パリサイ(びと)と、ある律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちとが、エルサレムからきて、イエスのもとに(あつ)まった。 2そして弟子(でし)たちのうちに、不浄(ふじょう)()、すなわち(あら)わない()で、パンを()べている(もの)があるのを()た。 3もともと、パリサイ(びと)をはじめユダヤ(じん)はみな、(むかし)(ひと)言伝(いいつた)えをかたく(まも)って、念入(ねんい)りに()(あら)ってからでないと、食事(しょくじ)をしない。 4また市場(いちば)から(かえ)ったときには、()(きよ)めてからでないと、食事(しょくじ)をせず、なおそのほかにも、(さかずき)(はち)銅器(どうき)(あら)うことなど、(むかし)から()けついでかたく(まも)っている(こと)が、たくさんあった。 5そこで、パリサイ(びと)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちとは、イエスに(たず)ねた、「なぜ、あなたの弟子(でし)たちは、(むかし)(ひと)言伝(いいつた)えに(したが)って(あゆ)まないで、不浄(ふじょう)()でパンを()べるのですか」。 6イエスは()われた、「イザヤは、あなたがた偽善者(ぎぜんしゃ)について、こう()いているが、それは適切(てきせつ)預言(よげん)である、
『この(たみ)は、(くち)さきではわたしを(うやま)うが、
その(こころ)はわたしから(とお)(はな)れている。
7人間(にんげん)のいましめを(おしえ)として(おし)え、
無意味(むいみ)にわたしを(おが)んでいる』。
8あなたがたは、(かみ)のいましめをさしおいて、人間(にんげん)言伝(いいつた)えを固執(こしつ)している」。 9また、()われた、「あなたがたは、自分(じぶん)たちの言伝(いいつた)えを(まも)るために、よくも(かみ)のいましめを()てたものだ。 10モーセは()ったではないか、『(ちち)(はは)とを(うやま)え』、また『(ちち)または(はは)をののしる(もの)は、(かなら)()(さだ)められる』と。 11それだのに、あなたがたは、もし(ひと)(ちち)または(はは)にむかって、あなたに差上(さしあ)げるはずのこのものはコルバン、すなわち、(そな)(もの)ですと()えば、それでよいとして、 12その(ひと)父母(ふぼ)(たい)して、もう(なに)もしないで()むのだと()っている。 13こうしてあなたがたは、自分(じぶん)たちが()けついだ言伝(いいつた)えによって、(かみ)(ことば)()にしている。また、このような(こと)をしばしばおこなっている」。 14それから、イエスは(ふたた)群衆(ぐんしゅう)()()せて()われた、「あなたがたはみんな、わたしの()うことを()いて(さと)るがよい。 15すべて(そと)から(ひと)(なか)にはいって、(ひと)をけがしうるものはない。かえって、(ひと)(なか)から()てくるものが、(ひと)をけがすのである。〔 16()(みみ)のある(もの)()くがよい〕」。
17イエスが群衆(ぐんしゅう)(はな)れて(いえ)にはいられると、弟子(でし)たちはこの(たとえ)について(たず)ねた。 18すると、()われた、「あなたがたも、そんなに(にぶ)いのか。すべて、(そと)から(ひと)(なか)にはいって()るものは、(ひと)(けが)()ないことが、わからないのか。 19それは(ひと)(こころ)(なか)にはいるのではなく、(はら)(うち)にはいり、そして、(そと)()()くだけである」。イエスはこのように、どんな食物(しょくもつ)でもきよいものとされた。 20さらに()われた、「(ひと)から()()るもの、それが(ひと)をけがすのである。 21すなわち内部(ないぶ)から、(ひと)(こころ)(なか)から、(わる)(おも)いが()()る。不品行(ふひんこう)(ぬす)み、殺人(さつじん)22姦淫(かんいん)貪欲(どんよく)邪悪(じゃあく)(あざむ)き、好色(こうしょく)(ねた)み、(そし)り、高慢(こうまん)愚痴(ぐち)23これらの(あく)はすべて内部(ないぶ)から()てきて、(ひと)をけがすのである」。
24さて、イエスは、そこを()()って、ツロの地方(ちほう)()かれた。そして、だれにも()れないように、(いえ)(なか)にはいられたが、(かく)れていることができなかった。 25そして、けがれた(れい)につかれた(おさな)(むすめ)をもつ(おんな)が、イエスのことをすぐ()きつけてきて、その(あし)もとにひれ()した。 26この(おんな)はギリシヤ(じん)で、スロ・フェニキヤの(うま)れであった。そして、(むすめ)から悪霊(あくれい)()()してくださいとお(ねが)いした。 27イエスは(おんな)()われた、「まず子供(こども)たちに十分(じゅうぶん)()べさすべきである。子供(こども)たちのパンを()って小犬(こいぬ)()げてやるのは、よろしくない」。 28すると、(おんな)(こた)えて()った、「(しゅ)よ、お言葉(ことば)どおりです。でも、食卓(しょくたく)(した)にいる小犬(こいぬ)も、子供(こども)たちのパンくずは、いただきます」。 29そこでイエスは()われた、「その言葉(ことば)で、じゅうぶんである。お(かえ)りなさい。悪霊(あくれい)(むすめ)から()てしまった」。 30そこで、(おんな)(いえ)(かえ)ってみると、その()(とこ)(うえ)()ており、悪霊(あくれい)()てしまっていた。
31それから、イエスはまたツロの地方(ちほう)()り、シドンを()てデカポリス地方(ちほう)(とお)りぬけ、ガリラヤの(うみ)べにこられた。 32すると人々(ひとびと)は、(みみ)(きこ)えず(くち)のきけない(ひと)を、みもとに()れてきて、()()いてやっていただきたいとお(ねが)いした。 33そこで、イエスは(かれ)ひとりを群衆(ぐんしゅう)(なか)から()()し、その(りょう)(みみ)(ゆび)をさし()れ、それから、つばきでその(した)(うるお)し、 34(てん)(あお)いでため(いき)をつき、その(ひと)に「エパタ」と()われた。これは「(ひら)けよ」という意味(いみ)である。 35すると(かれ)(みみ)(ひら)け、その(した)のもつれもすぐ()けて、はっきりと(はな)すようになった。 36イエスは、この(こと)をだれにも()ってはならぬと、人々(ひとびと)口止(くちど)めをされたが、口止(くちど)めをすればするほど、かえって、ますます()いひろめた。 37(かれ)らは、ひとかたならず(おどろ)いて()った、「このかたのなさった(こと)は、(なに)もかも、すばらしい。(みみ)(きこ)えない(もの)(きこ)えるようにしてやり、(くち)のきけない(もの)をきけるようにしておやりになった」。

第八章

1そのころ、また(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)(あつ)まっていたが、(なに)()べるものがなかったので、イエスは弟子(でし)たちを()()せて()われた、 2「この群衆(ぐんしゅう)がかわいそうである。もう三日間(かかん)もわたしと一緒(いっしょ)にいるのに、(なに)()べるものがない。 3もし、(かれ)らを空腹(くうふく)のまま(いえ)(かえ)らせるなら、途中(とちゅう)(よわ)()ってしまうであろう。それに、なかには(とお)くからきている(もの)もある」。 4弟子(でし)たちは(こた)えた、「こんな荒野(あらの)で、どこからパンを()()れて、これらの人々(ひとびと)にじゅうぶん()べさせることができましょうか」。 5イエスが弟子(でし)たちに、「パンはいくつあるか」と(たず)ねられると、「七つあります」と(こた)えた。 6そこでイエスは群衆(ぐんしゅう)()にすわるように(めい)じられた。そして七つのパンを()り、感謝(かんしゃ)してこれをさき、人々(ひとびと)(くば)るように弟子(でし)たちに(わた)されると、弟子(でし)たちはそれを群衆(ぐんしゅう)(くば)った。 7また(ちい)さい(うお)(すこ)しばかりあったので、祝福(しゅくふく)して、それをも人々(ひとびと)(くば)るようにと()われた。 8(かれ)らは()べて満腹(まんぷく)した。そして(のこ)ったパンくずを(あつ)めると、七かごになった。 9人々(ひとびと)(かず)はおよそ四千(にん)であった。それからイエスは(かれ)らを解散(かいさん)させ、 10すぐ弟子(でし)たちと(とも)(ふね)()って、ダルマヌタの地方(ちほう)()かれた。
11パリサイ(びと)たちが()てきて、イエスを(こころ)みようとして議論(ぎろん)をしかけ、(てん)からのしるしを(もと)めた。 12イエスは、(こころ)(なか)(ふか)嘆息(たんそく)して()われた、「なぜ、(いま)時代(じだい)はしるしを(もと)めるのだろう。よく()()かせておくが、しるしは(いま)時代(じだい)には(けっ)して(あた)えられない」。 13そして、イエスは(かれ)らをあとに(のこ)し、また(ふね)()って()こう(ぎし)()かれた。
14弟子(でし)たちはパンを()って()るのを(わす)れていたので、(ふね)(なか)にはパン一つしか()()わせがなかった。 15そのとき、イエスは(かれ)らを(いまし)めて、「パリサイ(びと)のパン(だね)とヘロデのパン(だね)とを、よくよく警戒(けいかい)せよ」と()われた。 16弟子(でし)たちは、これは自分(じぶん)たちがパンを()っていないためであろうと、(たがい)(ろん)()った。 17イエスはそれと()って、(かれ)らに()われた、「なぜ、パンがないからだと(ろん)()っているのか。まだわからないのか、(さと)らないのか。あなたがたの(こころ)(にぶ)くなっているのか。 18()があっても()えないのか。(みみ)があっても(きこ)えないのか。まだ(おも)()さないのか。 19五つのパンをさいて五千(にん)()けたとき、(ひろ)(あつ)めたパンくずは、(いく)つのかごになったか」。弟子(でし)たちは(こた)えた、「十二かごです」。 20「七つのパンを四千(にん)()けたときには、パンくずを(いく)つのかごに(ひろ)(あつ)めたか」。「七かごです」と(こた)えた。 21そこでイエスは(かれ)らに()われた、「まだ(さと)らないのか」。
22そのうちに、(かれ)らはベツサイダに()いた。すると人々(ひとびと)が、ひとりの盲人(もうじん)()れてきて、さわってやっていただきたいとお(ねが)いした。 23イエスはこの盲人(もうじん)()をとって、(むら)(そと)()()し、その両方(りょうほう)()につばきをつけ、両手(りょうて)(かれ)()てて、「(なに)()えるか」と(たず)ねられた。 24すると(かれ)(かお)()げて()った、「(ひと)()えます。()のように()えます。(ある)いているようです」。 25それから、イエスが(ふたた)()(うえ)両手(りょうて)()てられると、盲人(もうじん)()つめているうちに、なおってきて、すべてのものがはっきりと()えだした。 26そこでイエスは、「(むら)にはいってはいけない」と()って、(かれ)(いえ)(かえ)された。
27さて、イエスは弟子(でし)たちとピリポ・カイザリヤの村々(むらむら)()かけられたが、その途中(とちゅう)で、弟子(でし)たちに(たず)ねて()われた、「人々(ひとびと)は、わたしをだれと()っているか」。 28(かれ)らは(こた)えて()った、「バプテスマのヨハネだと、()っています。また、エリヤだと()い、また、預言者(よげんしゃ)のひとりだと()っている(もの)もあります」。 29そこでイエスは(かれ)らに(たず)ねられた、「それでは、あなたがたはわたしをだれと()うか」。ペテロが(こた)えて()った、「あなたこそキリストです」。 30するとイエスは、自分(じぶん)のことをだれにも()ってはいけないと、(かれ)らを(いまし)められた。
31それから、(ひと)()(かなら)(おお)くの(くる)しみを()け、長老(ちょうろう)祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちに()てられ、また(ころ)され、そして三()(のち)によみがえるべきことを、(かれ)らに(おし)えはじめ、 32しかもあからさまに、この(こと)(はな)された。すると、ペテロはイエスをわきへ()()せて、いさめはじめたので、 33イエスは()(かえ)って、弟子(でし)たちを()ながら、ペテロをしかって()われた、「サタンよ、()きさがれ。あなたは(かみ)のことを(おも)わないで、(ひと)のことを(おも)っている」。
34それから群衆(ぐんしゅう)弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)()()せて、(かれ)らに()われた、「だれでもわたしについてきたいと(おも)うなら、自分(じぶん)()て、自分(じぶん)十字架(じゅうじか)()うて、わたしに(したが)ってきなさい。 35自分(じぶん)(いのち)(すく)おうと(おも)(もの)はそれを(うしな)い、わたしのため、また福音(ふくいん)のために、自分(じぶん)(いのち)(うしな)(もの)は、それを(すく)うであろう。 36(ひと)(ぜん)世界(せかい)をもうけても、自分(じぶん)(いのち)(そん)したら、なんの(とく)になろうか。 37また、(ひと)はどんな代価(だいか)(はら)って、その(いのち)()いもどすことができようか。 38邪悪(じゃあく)罪深(つみぶか)いこの時代(じだい)にあって、わたしとわたしの言葉(ことば)とを()じる(もの)(たい)しては、(ひと)()もまた、(ちち)栄光(えいこう)のうちに(せい)なる御使(みつかい)たちと(とも)()るときに、その(もの)()じるであろう」。

第九章

1また、(かれ)らに()われた、「よく()いておくがよい。(かみ)(くに)(ちから)をもって()るのを()るまでは、(けっ)して()(あじ)わわない(もの)が、ここに()っている(もの)(なか)にいる」。
2六日(むいか)(のち)、イエスは、ただペテロ、ヤコブ、ヨハネだけを()れて、(たか)(やま)(のぼ)られた。ところが、(かれ)らの()(まえ)でイエスの姿(すがた)(かわ)り、 3その(ころも)真白(まっしろ)(かがや)き、どんな(ぬの)さらしでも、それほどに(しろ)くすることはできないくらいになった。 4すると、エリヤがモーセと(とも)(かれ)らに(あらわ)れて、イエスと(かた)()っていた。 5ペテロはイエスにむかって()った、「先生(せんせい)、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。それで、わたしたちは小屋(こや)を三つ()てましょう。一つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために」。 6そう()ったのは、みんなの(もの)非常(ひじょう)(おそ)れていたので、ペテロは(なに)()ってよいか、わからなかったからである。 7すると、(くも)がわき(おこ)って(かれ)らをおおった。そして、その(くも)(なか)から(こえ)があった、「これはわたしの(あい)する()である。これに()け」。 8(かれ)らは(いそ)いで()まわしたが、もはやだれも()えず、ただイエスだけが、自分(じぶん)たちと一緒(いっしょ)におられた。
9一同(いちどう)(やま)(くだ)って()るとき、イエスは「(ひと)()死人(しにん)(なか)からよみがえるまでは、いま()たことをだれにも(はな)してはならない」と、(かれ)らに(めい)じられた。 10(かれ)らはこの言葉(ことば)(こころ)にとめ、死人(しにん)(なか)からよみがえるとはどういうことかと、(たがい)(ろん)()った。 11そしてイエスに(たず)ねた、「なぜ、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちは、エリヤが(さき)()るはずだと()っているのですか」。 12イエスは()われた、「(たし)かに、エリヤが(さき)にきて、万事(ばんじ)(もと)どおりに(あらた)める。しかし、(ひと)()について、(かれ)(おお)くの(くる)しみを()け、かつ()ずかしめられると、()いてあるのはなぜか。 13しかしあなたがたに()っておく、エリヤはすでにきたのだ。そして(かれ)について()いてあるように、人々(ひとびと)自分(じぶん)かってに(かれ)をあしらった」。
14さて、(かれ)らがほかの弟子(でし)たちの(ところ)にきて()ると、(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)弟子(でし)たちを()(かこ)み、そして律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが(かれ)らと(ろん)()っていた。 15群衆(ぐんしゅう)はみな、すぐイエスを()つけて、非常(ひじょう)(おどろ)き、()()ってきて、あいさつをした。 16イエスが(かれ)らに、「あなたがたは(かれ)らと(なに)(ろん)じているのか」と(たず)ねられると、 17群衆(ぐんしゅう)のひとりが(こた)えた、「先生(せんせい)、おしの(れい)につかれているわたしのむすこを、こちらに()れて(まい)りました。 18(れい)がこのむすこにとりつきますと、どこででも(かれ)()(たお)し、それから(かれ)はあわを()き、()をくいしばり、からだをこわばらせてしまいます。それでお弟子(でし)たちに、この(れい)()()してくださるように(ねが)いましたが、できませんでした」。 19イエスは(こた)えて()われた、「ああ、なんという()信仰(しんこう)時代(じだい)であろう。いつまで、わたしはあなたがたと一緒(いっしょ)におられようか。いつまで、あなたがたに我慢(がまん)ができようか。その()をわたしの(ところ)()れてきなさい」。 20そこで人々(ひとびと)は、その()をみもとに()れてきた。(れい)がイエスを()るや(いな)や、その()をひきつけさせたので、()()(たお)れ、あわを()きながらころげまわった。 21そこで、イエスが父親(ちちおや)に「いつごろから、こんなになったのか」と(たず)ねられると、父親(ちちおや)(こた)えた、「(おさな)(とき)からです。 22(れい)はたびたび、この()()(なか)(みず)(なか)()()れて、(ころ)そうとしました。しかしできますれば、わたしどもをあわれんでお(たす)けください」。 23イエスは(かれ)()われた、「もしできれば、と()うのか。(しん)ずる(もの)には、どんな(こと)でもできる」。 24その()父親(ちちおや)はすぐ(さけ)んで()った、「(しん)じます。()信仰(しんこう)なわたしを、お(たす)けください」。 25イエスは群衆(ぐんしゅう)()()って()るのをごらんになって、けがれた(れい)をしかって()われた、「おしとつんぼの(れい)よ、わたしがおまえに(めい)じる。この()から()()け。二()と、はいって()るな」。 26すると(れい)(さけ)(ごえ)をあげ、(はげ)しく()きつけさせて()()った。その()死人(しにん)のようになったので、(おお)くの(ひと)は、()んだのだと()った。 27しかし、イエスが()()って(おこ)されると、その()()()がった。 28(いえ)にはいられたとき、弟子(でし)たちはひそかにお(たず)ねした、「わたしたちは、どうして(れい)()()せなかったのですか」。 29すると、イエスは()われた、「このたぐいは、(いのり)によらなければ、どうしても()()すことはできない」。
30それから(かれ)らはそこを()()り、ガリラヤをとおって()ったが、イエスは(ひと)()づかれるのを(この)まれなかった。 31それは、イエスが弟子(でし)たちに(おし)えて、「(ひと)()人々(ひとびと)()にわたされ、(かれ)らに(ころ)され、(ころ)されてから三()(のち)によみがえるであろう」と()っておられたからである。 32しかし、(かれ)らはイエスの()われたことを(さと)らず、また(たず)ねるのを(おそ)れていた。
33それから(かれ)らはカペナウムにきた。そして(いえ)におられるとき、イエスは弟子(でし)たちに(たず)ねられた、「あなたがたは途中(とちゅう)(なに)(ろん)じていたのか」。 34(かれ)らは(だま)っていた。それは途中(とちゅう)で、だれが一ばん(えら)いかと、(たがい)(ろん)()っていたからである。 35そこで、イエスはすわって十二弟子(でし)()び、そして()われた、「だれでも一ばん(さき)になろうと(おも)うならば、一ばんあとになり、みんなに(つか)える(もの)とならねばならない」。 36そして、ひとりの(おさ)()をとりあげて、(かれ)らのまん(なか)()たせ、それを()いて()われた。 37「だれでも、このような(おさ)()のひとりを、わたしの()のゆえに()けいれる(もの)は、わたしを()けいれるのである。そして、わたしを()けいれる(もの)は、わたしを()けいれるのではなく、わたしをおつかわしになったかたを()けいれるのである」。
38ヨハネがイエスに()った、「先生(せんせい)、わたしたちについてこない(もの)が、あなたの()使(つか)って悪霊(あくれい)()()しているのを()ましたが、その(ひと)はわたしたちについてこなかったので、やめさせました」。 39イエスは()われた、「やめさせないがよい。だれでもわたしの()(ちから)あるわざを(おこな)いながら、すぐそのあとで、わたしをそしることはできない。 40わたしたちに反対(はんたい)しない(もの)は、わたしたちの味方(みかた)である。 41だれでも、キリストについている(もの)だというので、あなたがたに(みず)一杯(いっぱい)でも()ませてくれるものは、よく()っておくが、(けっ)してその(むく)いからもれることはないであろう。 42また、わたしを(しん)じるこれらの(ちい)さい(もの)のひとりをつまずかせる(もの)は、(おお)きなひきうすを(くび)にかけられて(うみ)()()まれた(ほう)が、はるかによい。 43もし、あなたの片手(かたて)(つみ)(おか)させるなら、それを()()てなさい。両手(りょうて)がそろったままで地獄(じごく)()えない()(なか)()()むよりは、かたわになって(いのち)(はい)(ほう)がよい。〔 44地獄(じごく)では、うじがつきず、()()えることがない。〕 45もし、あなたの片足(かたあし)(つみ)(おか)させるなら、それを()()てなさい。両足(りょうあし)がそろったままで地獄(じごく)()()れられるよりは、片足(かたあし)(いのち)(はい)(ほう)がよい。〔 46地獄(じごく)では、うじがつきず、()()えることがない。〕 47もし、あなたの片目(かため)(つみ)(おか)させるなら、それを()()しなさい。(りょう)(がん)がそろったままで地獄(じごく)()()れられるよりは、片目(かため)になって(かみ)(くに)(はい)(ほう)がよい。 48地獄(じごく)では、うじがつきず、()()えることがない。 49(ひと)はすべて()(しお)づけられねばならない。 50(しお)はよいものである。しかし、もしその(しお)(あじ)がぬけたら、(なに)によってその(あじ)()りもどされようか。あなたがた自身(じしん)(うち)(しお)()ちなさい。そして、(たがい)(やわ)らぎなさい」。

第十章

1それから、イエスはそこを()って、ユダヤの地方(ちほう)とヨルダンの()こう(がわ)()かれたが、群衆(ぐんしゅう)がまた()(あつ)まったので、いつものように、また(おし)えておられた。 2そのとき、パリサイ(びと)たちが(ちか)づいてきて、イエスを(こころ)みようとして質問(しつもん)した、「(おっと)はその(つま)()しても()しつかえないでしょうか」。 3イエスは(こた)えて()われた、「モーセはあなたがたになんと(めい)じたか」。 4(かれ)らは()った、「モーセは、離縁(りえん)(じょう)()いて(つま)()すことを(ゆる)しました」。 5そこでイエスは()われた、「モーセはあなたがたの(こころ)が、かたくななので、あなたがたのためにこの(さだ)めを()いたのである。 6しかし、天地(てんち)創造(そうぞう)(はじ)めから、『(かみ)(ひと)(おとこ)(おんな)とに(つく)られた。 7それゆえに、(ひと)はその父母(ふぼ)(はな)れ、 8ふたりの(もの)一体(いったい)となるべきである』。(かれ)らはもはや、ふたりではなく一体(いったい)である。 9だから、(かみ)()わせられたものを、(ひと)(はな)してはならない」。 10(いえ)にはいってから、弟子(でし)たちはまたこのことについて(たず)ねた。 11そこで、イエスは()われた、「だれでも、自分(じぶん)(つま)()して()(おんな)をめとる(もの)は、その(つま)(たい)して姦淫(かんいん)(おこな)うのである。 12また(つま)が、その(おっと)(わか)れて()(おとこ)にとつぐならば、姦淫(かんいん)(おこな)うのである」。
13イエスにさわっていただくために、人々(ひとびと)(おさ)()らをみもとに()れてきた。ところが、弟子(でし)たちは(かれ)らをたしなめた。 14それを()てイエスは(いきどお)り、(かれ)らに()われた、「(おさ)()らをわたしの(ところ)()るままにしておきなさい。()めてはならない。(かみ)(くに)はこのような(もの)(くに)である。 15よく()いておくがよい。だれでも(おさ)()のように(かみ)(くに)()けいれる(もの)でなければ、そこにはいることは(けっ)してできない」。 16そして(かれ)らを(いだ)き、()をその(うえ)において祝福(しゅくふく)された。
17イエスが(みち)()()かれると、ひとりの(ひと)(はし)()り、みまえにひざまずいて(たず)ねた、「よき()よ、永遠(えいえん)生命(せいめい)()けるために、(なに)をしたらよいでしょうか」。 18イエスは()われた、「なぜわたしをよき(もの)()うのか。(かみ)ひとりのほかによい(もの)はいない。 19いましめはあなたの()っているとおりである。『(ころ)すな、姦淫(かんいん)するな、(ぬす)むな、偽証(ぎしょう)()てるな。(あざむ)()るな。(ちち)(はは)とを(うやま)え』」。 20すると、(かれ)()った、「先生(せんせい)、それらの(こと)はみな、(ちい)さい(とき)から(まも)っております」。 21イエスは(かれ)()をとめ、いつくしんで()われた、「あなたに()りないことが一つある。(かえ)って、()っているものをみな()(はら)って、(まず)しい人々(ひとびと)(ほどこ)しなさい。そうすれば、(てん)(たから)()つようになろう。そして、わたしに(したが)ってきなさい」。 22すると、(かれ)はこの言葉(ことば)()いて、(かお)(くも)らせ、(かな)しみながら()()った。たくさんの資産(しさん)()っていたからである。
23それから、イエスは()まわして、弟子(でし)たちに()われた、「財産(ざいさん)のある(もの)(かみ)(くに)にはいるのは、なんとむずかしいことであろう」。 24弟子(でし)たちはこの言葉(ことば)(おどろ)(あや)しんだ。イエスは(さら)()われた、「()たちよ、(かみ)(くに)にはいるのは、なんとむずかしいことであろう。 25()んでいる(もの)(かみ)(くに)にはいるよりは、らくだが(はり)(あな)(とお)(ほう)が、もっとやさしい」。 26すると(かれ)らはますます(おどろ)いて、(たがい)()った、「それでは、だれが(すく)われることができるのだろう」。 27イエスは(かれ)らを()つめて()われた、「(ひと)にはできないが、(かみ)にはできる。(かみ)はなんでもできるからである」。 28ペテロがイエスに()()した、「ごらんなさい、わたしたちはいっさいを()てて、あなたに(したが)って(まい)りました」。 29イエスは()われた、「よく()いておくがよい。だれでもわたしのために、また福音(ふくいん)のために、(いえ)兄弟(きょうだい)姉妹(しまい)(はは)(ちち)()、もしくは(はたけ)()てた(もの)は、 30(かなら)ずその百(ばい)()ける。すなわち、(いま)この時代(じだい)では(いえ)兄弟(きょうだい)姉妹(しまい)(はは)()および(はたけ)迫害(はくがい)(とも)()け、また、きたるべき()では永遠(えいえん)生命(せいめい)()ける。 31しかし、(おお)くの(さき)(もの)はあとになり、あとの(もの)(さき)になるであろう」。
32さて、一同(いちどう)はエルサレムへ(のぼ)途上(とじょう)にあったが、イエスが先頭(せんとう)()って()かれたので、(かれ)らは(おどろ)(あや)しみ、(したが)(もの)たちは(おそ)れた。するとイエスはまた十二弟子(でし)()()せて、自分(じぶん)()(おこ)ろうとすることについて(かた)りはじめられた、 33()よ、わたしたちはエルサレムへ(のぼ)って()くが、(ひと)()祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちの()()きわたされる。そして(かれ)らは死刑(しけい)宣告(せんこく)した(うえ)(かれ)異邦人(いほうじん)()きわたすであろう。 34また(かれ)をあざけり、つばきをかけ、むち()ち、ついに(ころ)してしまう。そして(かれ)は三()(のち)によみがえるであろう」。
35さて、ゼベダイの()のヤコブとヨハネとがイエスのもとにきて()った、「先生(せんせい)、わたしたちがお(たの)みすることは、なんでもかなえてくださるようにお(ねが)いします」。 36イエスは(かれ)らに「(なに)をしてほしいと、(ねが)うのか」と()われた。 37すると(かれ)らは()った、「栄光(えいこう)をお()けになるとき、ひとりをあなたの(みぎ)に、ひとりを(ひだり)にすわるようにしてください」。 38イエスは()われた、「あなたがたは自分(じぶん)(なに)(もと)めているのか、わかっていない。あなたがたは、わたしが()(さかずき)()み、わたしが()けるバプテスマを()けることができるか」。 39(かれ)らは「できます」と(こた)えた。するとイエスは()われた、「あなたがたは、わたしが()(さかずき)()み、わたしが()けるバプテスマを()けるであろう。 40しかし、わたしの(みぎ)(ひだり)にすわらせることは、わたしのすることではなく、ただ(そな)えられている人々(ひとびと)だけに(ゆる)されることである」。 41(にん)(もの)はこれを()いて、ヤコブとヨハネとのことで憤慨(ふんがい)()した。 42そこで、イエスは(かれ)らを()()せて()われた、「あなたがたの()っているとおり、異邦人(いほうじん)支配者(しはいしゃ)()られている人々(ひとびと)は、その(たみ)(おさ)め、また(えら)(ひと)たちは、その(たみ)(うえ)権力(けんりょく)をふるっている。 43しかし、あなたがたの(あいだ)では、そうであってはならない。かえって、あなたがたの(あいだ)(えら)くなりたいと(おも)(もの)は、(つか)える(ひと)となり、 44あなたがたの(あいだ)でかしらになりたいと(おも)(もの)は、すべての(ひと)(しもべ)とならねばならない。 45(ひと)()がきたのも、(つか)えられるためではなく、(つか)えるためであり、また(おお)くの(ひと)のあがないとして、自分(じぶん)(いのち)(あた)えるためである」。
46それから、(かれ)らはエリコにきた。そして、イエスが弟子(でし)たちや(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)(とも)にエリコから()かけられたとき、テマイの()、バルテマイという盲人(もうじん)のこじきが、(みち)ばたにすわっていた。 47ところが、ナザレのイエスだと()いて、(かれ)は「ダビデの()イエスよ、わたしをあわれんでください」と(さけ)()した。 48(おお)くの人々(ひとびと)(かれ)をしかって(だま)らせようとしたが、(かれ)はますます(はげ)しく(さけ)びつづけた、「ダビデの()イエスよ、わたしをあわれんでください」。 49イエスは()ちどまって「(かれ)()べ」と(めい)じられた。そこで、人々(ひとびと)はその盲人(もうじん)()んで()った、「(よろこ)べ、()て、おまえを()んでおられる」。 50そこで(かれ)上着(うわぎ)()()て、(おど)りあがってイエスのもとにきた。 51イエスは(かれ)にむかって()われた、「わたしに(なに)をしてほしいのか」。その盲人(もうじん)()った、「先生(せんせい)()えるようになることです」。 52そこでイエスは()われた、「()け、あなたの信仰(しんこう)があなたを(すく)った」。すると(かれ)は、たちまち()えるようになり、イエスに(したが)って()った。

第十一章

1さて、(かれ)らがエルサレムに(ちか)づき、オリブの(やま)沿()ったベテパゲ、ベタニヤの附近(ふきん)にきた(とき)、イエスはふたりの弟子(でし)をつかわして()われた、 2「むこうの(むら)()きなさい。そこにはいるとすぐ、まだだれも()ったことのないろばの()が、つないであるのを()るであろう。それを()いて()いてきなさい。 3もし、だれかがあなたがたに、なぜそんな(こと)をするのかと()ったなら、(しゅ)がお()(よう)なのです。またすぐ、ここへ(かえ)してくださいますと、()いなさい」。 4そこで、(かれ)らは()かけて()き、そして表通(おもてどお)りの戸口(とぐち)に、ろばの()がつないであるのを()たので、それを()いた。 5すると、そこに()っていた人々(ひとびと)()った、「そのろばの()()いて、どうするのか」。 6弟子(でし)たちは、イエスが()われたとおり(かれ)らに(はな)したので、ゆるしてくれた。 7そこで、弟子(でし)たちは、そのろばの()をイエスのところに()いてきて、自分(じぶん)たちの上着(うわぎ)をそれに()げかけると、イエスはその(うえ)にお()りになった。 8すると(おお)くの人々(ひとびと)自分(じぶん)たちの上着(うわぎ)(みち)()き、また()人々(ひとびと)()のついた(えだ)野原(のはら)から()ってきて()いた。 9そして、(まえ)()(もの)も、あとに(したが)(もの)(とも)(さけ)びつづけた、
「ホサナ、
(しゅ)御名(みな)によってきたる(もの)に、祝福(しゅくふく)あれ。
10(いま)きたる、われらの(ちち)ダビデの(くに)に、祝福(しゅくふく)あれ。
いと(たか)(ところ)に、ホサナ」。
11こうしてイエスはエルサレムに()き、(みや)にはいられた。そして、すべてのものを()まわった(のち)、もはや(とき)もおそくなっていたので、十二弟子(でし)(とも)にベタニヤに()()かれた。
12翌日(よくじつ)(かれ)らがベタニヤから()かけてきたとき、イエスは空腹(くうふく)をおぼえられた。 13そして、()(しげ)ったいちじくの()(とお)くからごらんになって、その()(なに)かありはしないかと近寄(ちかよ)られたが、()のほかは(なに)見当(みあた)らなかった。いちじくの季節(きせつ)でなかったからである。 14そこで、イエスはその()にむかって、「(いま)から(のち)いつまでも、おまえの()()べる(もの)がないように」と()われた。弟子(でし)たちはこれを()いていた。
15それから、(かれ)らはエルサレムにきた。イエスは(みや)(はい)り、(みや)(にわ)()()いしていた人々(ひとびと)()()しはじめ、両替人(りょうがえにん)(だい)や、はとを()(もの)腰掛(こしかけ)をくつがえし、 16また(うつわ)ものを()って(みや)(にわ)(とお)()けるのをお(ゆる)しにならなかった。 17そして、(かれ)らに(おし)えて()われた、「『わたしの(いえ)は、すべての国民(こくみん)(いのり)(いえ)ととなえらるべきである』と()いてあるではないか。それだのに、あなたがたはそれを強盗(ごうとう)()にしてしまった」。 18祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちはこれを()いて、どうかしてイエスを(ころ)そうと(はか)った。(かれ)らは、群衆(ぐんしゅう)がみなその(おしえ)感動(かんどう)していたので、イエスを(おそ)れていたからである。
19夕方(ゆうがた)になると、イエスと弟子(でし)たちとは、いつものように(みやこ)(そと)()()った。
20(あさ)はやく(みち)をとおっていると、(かれ)らは(さき)のいちじくが根元(ねもと)から()れているのを()た。 21そこで、ペテロは(おも)()してイエスに()った、「先生(せんせい)、ごらんなさい。あなたがのろわれたいちじくが、()れています」。 22イエスは(こた)えて()われた、「(かみ)(しん)じなさい。 23よく()いておくがよい。だれでもこの(やま)に、(うご)()して、(うみ)(なか)にはいれと()い、その()ったことは(かなら)()ると、(こころ)(うたが)わないで(しん)じるなら、そのとおりに()るであろう。 24そこで、あなたがたに()うが、なんでも(いの)(もと)めることは、すでにかなえられたと(しん)じなさい。そうすれば、そのとおりになるであろう。 25また()って(いの)るとき、だれかに(たい)して、(なに)(うら)(こと)があるならば、ゆるしてやりなさい。そうすれば、(てん)にいますあなたがたの(ちち)も、あなたがたのあやまちを、ゆるしてくださるであろう。〔 26もしゆるさないならば、(てん)にいますあなたがたの(ちち)も、あなたがたのあやまちを、ゆるしてくださらないであろう〕」。
27(かれ)らはまたエルサレムにきた。そして、イエスが(みや)(うち)(ある)いておられると、祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)長老(ちょうろう)たちが、みもとにきて()った、 28(なに)権威(けんい)によってこれらの(こと)をするのですか。だれが、そうする権威(けんい)(さづ)けたのですか」。 29そこで、イエスは(かれ)らに()われた、「一つだけ(たず)ねよう。それに(こた)えてほしい。そうしたら、(なに)権威(けんい)によって、わたしがこれらの(こと)をするのか、あなたがたに()おう。 30ヨハネのバプテスマは(てん)からであったか、(ひと)からであったか、(こた)えなさい」。 31すると、(かれ)らは(たがい)(ろん)じて()った、「もし(てん)からだと()えば、では、なぜ(かれ)(しん)じなかったのか、とイエスは()うだろう。 32しかし、(ひと)からだと()えば……」。(かれ)らは群衆(ぐんしゅう)(おそ)れていた。人々(ひとびと)(みな)、ヨハネを預言者(よげんしゃ)だとほんとうに(おも)っていたからである。 33それで(かれ)らは「わたしたちにはわかりません」と(こた)えた。するとイエスは()われた、「わたしも(なに)権威(けんい)によってこれらの(こと)をするのか、あなたがたに()うまい」。

第十二章

1そこでイエスは(たとえ)(かれ)らに(かた)()された、「ある(ひと)がぶどう(えん)(つく)り、(かき)をめぐらし、また(さか)ぶねの(あな)()り、やぐらを()て、それを農夫(のうふ)たちに()して、(たび)()かけた。 2季節(きせつ)になったので、農夫(のうふ)たちのところへ、ひとりの(しもべ)(おく)って、ぶどう(えん)収穫(しゅうかく)()(まえ)()()てさせようとした。 3すると、(かれ)らはその(しもべ)をつかまえて、(ふくろ)だたきにし、から()(かえ)らせた。 4また()(しもべ)(おく)ったが、その(あたま)をなぐって侮辱(ぶじょく)した。 5そこでまた()(もの)(おく)ったが、今度(こんど)はそれを(ころ)してしまった。そのほか、なお(おお)ぜいの(もの)(おく)ったが、(かれ)らを()ったり、(ころ)したりした。 6ここに、もうひとりの(もの)がいた。それは(かれ)愛子(あいし)であった。自分(じぶん)()(うやま)ってくれるだろうと(おも)って、最後(さいご)(かれ)をつかわした。 7すると、農夫(のうふ)たちは『あれはあと()りだ。さあ、これを(ころ)してしまおう。そうしたら、その財産(ざいさん)はわれわれのものになるのだ』と(はな)()い、 8(かれ)をつかまえて(ころ)し、ぶどう(えん)(そと)()()てた。 9このぶどう(えん)主人(しゅじん)は、どうするだろうか。(かれ)()てきて、農夫(のうふ)たちを(ころ)し、ぶどう(えん)()人々(ひとびと)(あた)えるであろう。 10あなたがたは、この聖書(せいしょ)()()んだことがないのか。
(いえ)(つく)りらの()てた(いし)
(すみ)のかしら(いし)になった。
11これは(しゅ)がなされたことで、
わたしたちの()には不思議(ふしぎ)()える』」。
12(かれ)らはいまの(たとえ)が、自分(じぶん)たちに()てて(かた)られたことを(さと)ったので、イエスを(とら)えようとしたが、群衆(ぐんしゅう)(おそ)れた。そしてイエスをそこに(のこ)して()()った。
13さて、人々(ひとびと)はパリサイ(びと)やヘロデ(とう)(もの)数人(すうにん)、イエスのもとにつかわして、その言葉(ことば)じりを(とら)えようとした。 14(かれ)らはきてイエスに()った、「先生(せんせい)、わたしたちはあなたが真実(しんじつ)なかたで、だれをも、はばかられないことを()っています。あなたは(ひと)()(へだ)てをなさらないで、真理(しんり)(もとづ)いて(かみ)(みち)(おし)えてくださいます。ところで、カイザルに税金(ぜいきん)(おさ)めてよいでしょうか、いけないでしょうか。(おさ)めるべきでしょうか、(おさ)めてはならないのでしょうか」。 15イエスは(かれ)らの偽善(ぎぜん)見抜(みぬ)いて()われた、「なぜわたしをためそうとするのか。デナリを()ってきて()せなさい」。 16(かれ)らはそれを()ってきた。そこでイエスは()われた、「これは、だれの肖像(しょうぞう)、だれの記号(きごう)か」。(かれ)らは「カイザルのです」と(こた)えた。 17するとイエスは()われた、「カイザルのものはカイザルに、(かみ)のものは(かみ)(かえ)しなさい」。(かれ)らはイエスに驚嘆(きょうたん)した。
18復活(ふっかつ)ということはないと主張(しゅちょう)していたサドカイ(びと)たちが、イエスのもとにきて質問(しつもん)した、 19先生(せんせい)、モーセは、わたしたちのためにこう()いています、『もし、ある(ひと)(あに)()んで、その(のこ)された(つま)に、()がない場合(ばあい)には、(おとうと)はこの(おんな)をめとって、(あに)のために()をもうけねばならない』。 20ここに、七(にん)兄弟(きょうだい)がいました。長男(ちょうなん)(つま)をめとりましたが、()がなくて()に、 21次男(じなん)がその(おんな)をめとって、また()をもうけずに()に、三男(さんなん)同様(どうよう)でした。 22こうして、七(にん)ともみな子孫(しそん)(のこ)しませんでした。最後(さいご)にその(おんな)()にました。 23復活(ふっかつ)のとき、(かれ)らが(みな)よみがえった場合(ばあい)、この(おんな)はだれの(つま)なのでしょうか。七(にん)とも彼女(かのじょ)(つま)にしたのですが」。 24イエスは()われた、「あなたがたがそんな(おも)(ちが)いをしているのは、聖書(せいしょ)(かみ)(ちから)()らないからではないか。 25(かれ)らが死人(しにん)(なか)からよみがえるときには、めとったり、とついだりすることはない。(かれ)らは(てん)にいる御使(みつかい)のようなものである。 26死人(しにん)がよみがえることについては、モーセの(しょ)(しば)(へん)で、(かみ)がモーセに(おお)せられた言葉(ことば)()んだことがないのか。『わたしはアブラハムの(かみ)、イサクの(かみ)、ヤコブの(かみ)である』とあるではないか。 27(かみ)()んだ(もの)(かみ)ではなく、()きている(もの)(かみ)である。あなたがたは非常(ひじょう)(おも)(ちが)いをしている」。
28ひとりの律法(りっぽう)学者(がくしゃ)がきて、(かれ)らが(たがい)(ろん)()っているのを()き、またイエスが(たく)みに(こた)えられたのを(みと)めて、イエスに質問(しつもん)した、「すべてのいましめの(なか)で、どれが(だい)一のものですか」。 29イエスは(こた)えられた、「(だい)一のいましめはこれである、『イスラエルよ、()け。(しゅ)なるわたしたちの(かみ)は、ただひとりの(しゅ)である。 30(こころ)をつくし、精神(せいしん)をつくし、(おも)いをつくし、(ちから)をつくして、(しゅ)なるあなたの(かみ)(あい)せよ』。 31(だい)二はこれである、『自分(じぶん)(あい)するようにあなたの(とな)(ひと)(あい)せよ』。これより大事(だいじ)ないましめは、ほかにない」。 32そこで、この律法(りっぽう)学者(がくしゃ)はイエスに()った、「先生(せんせい)(おお)せのとおりです、『(かみ)はひとりであって、そのほかに(かみ)はない』と()われたのは、ほんとうです。 33また『(こころ)をつくし、知恵(ちえ)をつくし、(ちから)をつくして(かみ)(あい)し、また自分(じぶん)(あい)するように(とな)(ひと)(あい)する』ということは、すべての燔祭(はんさい)犠牲(ぎせい)よりも、はるかに大事(だいじ)なことです」。 34イエスは、(かれ)適切(てきせつ)(こたえ)をしたのを()()われた、「あなたは(かみ)(くに)から(とお)くない」。それから(のち)は、イエスにあえて()(もの)はなかった。
35イエスが(みや)(おし)えておられたとき、こう()われた、「律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちは、どうしてキリストをダビデの()だと()うのか。 36ダビデ自身(じしん)聖霊(せいれい)(かん)じて()った、
(しゅ)はわが(しゅ)(おお)せになった、
あなたの(てき)をあなたの(あし)もとに()くときまでは、
わたしの(みぎ)()していなさい』。
37このように、ダビデ自身(じしん)がキリストを(しゅ)()んでいる。それなら、どうしてキリストはダビデの()であろうか」。
(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)は、(よろこ)んでイエスに(みみ)(かたむ)けていた。 38イエスはその(おしえ)(なか)()われた、「律法(りっぽう)学者(がくしゃ)()をつけなさい。(かれ)らは(なが)(ころも)()(ある)くことや、広場(ひろば)であいさつされることや、 39また会堂(かいどう)上席(じょうせき)宴会(えんかい)上座(かみざ)(この)んでいる。 40また、やもめたちの(いえ)()(たお)し、()えのために(なが)(いのり)をする。(かれ)らはもっときびしいさばきを()けるであろう」。
41イエスは、さいせん(はこ)にむかってすわり、群衆(ぐんしゅう)がその(はこ)(かね)()()れる様子(ようす)()ておられた。(おお)くの金持(かねもち)は、たくさんの(かね)()()れていた。 42ところが、ひとりの(まず)しいやもめがきて、レプタ二つを()れた。それは一コドラントに(あた)る。 43そこで、イエスは弟子(でし)たちを()()せて()われた、「よく()きなさい。あの(まず)しいやもめは、さいせん(はこ)()()れている(ひと)たちの(なか)で、だれよりもたくさん()れたのだ。 44みんなの(もの)はありあまる(なか)から()()れたが、あの婦人(ふじん)はその(とぼ)しい(なか)から、あらゆる()(もの)、その生活(せいかつ)()全部(ぜんぶ)()れたからである」。

第十三章

1イエスが(みや)から()()かれるとき、弟子(でし)のひとりが()った、「先生(せんせい)、ごらんなさい。なんという見事(みごと)(いし)、なんという立派(りっぱ)建物(たてもの)でしょう」。 2イエスは()われた、「あなたは、これらの(おお)きな建物(たてもの)をながめているのか。その(いし)一つでもくずされないままで、()(いし)(うえ)(のこ)ることもなくなるであろう」。
3またオリブ(やま)で、(みや)にむかってすわっておられると、ペテロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレが、ひそかにお(たず)ねした。 4「わたしたちにお(はな)しください。いつ、そんなことが(おこ)るのでしょうか。またそんなことがことごとく成就(じょうじゅ)するような場合(ばあい)には、どんな前兆(ぜんちょう)がありますか」。 5そこで、イエスは(はな)しはじめられた、「(ひと)(まど)わされないように()をつけなさい。 6(おお)くの(もの)がわたしの()()のって(あらわ)れ、自分(じぶん)がそれだと()って、(おお)くの(ひと)(まど)わすであろう。 7また、戦争(せんそう)戦争(せんそう)のうわさとを()くときにも、あわてるな。それは(おこ)らねばならないが、まだ(おわ)りではない。 8(たみ)(たみ)に、(くに)(くに)敵対(てきたい)して()()がるであろう。またあちこちに地震(じしん)があり、またききんが(おこ)るであろう。これらは()みの(くる)しみの(はじ)めである。
9あなたがたは自分(じぶん)()をつけていなさい。あなたがたは、わたしのために、衆議所(しゅうぎしょ)()きわたされ、会堂(かいどう)()たれ、長官(ちょうかん)たちや(おう)たちの(まえ)()たされ、(かれ)らに(たい)してあかしをさせられるであろう。 10こうして、福音(ふくいん)はまずすべての(たみ)()(つた)えられねばならない。 11そして、人々(ひとびと)があなたがたを()れて()って()きわたすとき、(なに)()おうかと、(まえ)もって心配(しんぱい)するな。その場合(ばあい)自分(じぶん)(しめ)されることを(かた)るがよい。(かた)(もの)はあなたがた自身(じしん)ではなくて、聖霊(せいれい)である。 12また兄弟(きょうだい)兄弟(きょうだい)を、(ちち)()(ころ)すために(わた)し、()両親(りょうしん)(さか)らって()ち、(かれ)らを(ころ)させるであろう。 13また、あなたがたはわたしの()のゆえに、すべての(ひと)(にく)まれるであろう。しかし、最後(さいご)まで()(しの)(もの)(すく)われる。
14()らす(にく)むべきものが、()ってはならぬ(ところ)()つのを()たならば(読者(どくしゃ)よ、(さと)れ)、そのとき、ユダヤにいる人々(ひとびと)(やま)()げよ。 15屋上(おくじょう)にいる(もの)は、(した)におりるな。また(いえ)から(もの)()()そうとして(うち)にはいるな。 16(はたけ)にいる(もの)は、上着(うわぎ)()りにあとへもどるな。 17その()には、身重(みおも)(おんな)乳飲(ちの)()をもつ(おんな)とは、不幸(ふこう)である。 18この(こと)(ふゆ)おこらぬように(いの)れ。 19その()には、(かみ)万物(ばんぶつ)(つく)られた創造(そうぞう)(はじ)めから現在(げんざい)(いた)るまで、かつてなく今後(こんご)もないような患難(かんなん)(おこ)るからである。 20もし(しゅ)がその期間(きかん)(ちぢ)めてくださらないなら、(すく)われる(もの)はひとりもないであろう。しかし、(えら)ばれた選民(せんみん)のために、その期間(きかん)(ちぢ)めてくださったのである。 21そのとき、だれかがあなたがたに『()よ、ここにキリストがいる』、『()よ、あそこにいる』と()っても、それを(しん)じるな。 22にせキリストたちや、にせ預言者(よげんしゃ)たちが(おこ)って、しるしと奇跡(きせき)とを(おこな)い、できれば、選民(せんみん)をも(まど)わそうとするであろう。 23だから、()をつけていなさい。いっさいの(こと)を、あなたがたに(まえ)もって()っておく。
24その()には、この患難(かんなん)(のち)()(くら)くなり、(つき)はその(ひかり)(はな)つことをやめ、 25(ほし)(そら)から()ち、天体(てんたい)()(うご)かされるであろう。 26そのとき、(おお)いなる(ちから)栄光(えいこう)とをもって、(ひと)()(くも)()って()るのを、人々(ひとびと)()るであろう。 27そのとき、(かれ)御使(みつかい)たちをつかわして、()のはてから(てん)のはてまで、四方(しほう)からその選民(せんみん)()(あつ)めるであろう。
28いちじくの()からこの(たとえ)(まな)びなさい。その(えだ)(やわ)らかになり、()()るようになると、(なつ)(ちか)いことがわかる。 29そのように、これらの(こと)(おこ)るのを()たならば、(ひと)()戸口(とぐち)まで(ちか)づいていると()りなさい。 30よく()いておきなさい。これらの(こと)が、ことごとく(おこ)るまでは、この時代(じだい)(ほろ)びることがない。 31天地(てんち)(ほろ)びるであろう。しかしわたしの言葉(ことば)(ほろ)びることがない。 32その()、その(とき)は、だれも()らない。(てん)にいる御使(みつかい)たちも、また()()らない、ただ(ちち)だけが()っておられる。 33()をつけて、()をさましていなさい。その(とき)がいつであるか、あなたがたにはわからないからである。 34それはちょうど、(たび)()(ひと)(いえ)()るに(あた)り、その(しもべ)たちに、それぞれ仕事(しごと)()()てて責任(せきにん)をもたせ、門番(もんばん)には()をさましておれと、(めい)じるようなものである。 35だから、()をさましていなさい。いつ、(いえ)主人(しゅじん)(かえ)って()るのか、夕方(ゆうがた)か、夜中(よなか)か、にわとりの()くころか、()(がた)か、わからないからである。 36あるいは(きゅう)(かえ)ってきて、あなたがたの(ねむ)っているところを()つけるかも()れない。 37()をさましていなさい。わたしがあなたがたに()うこの言葉(ことば)は、すべての人々(ひとびと)()うのである」。

第十四章

1さて、過越(すぎこし)除酵(じょこう)との(まつり)の二()(まえ)になった。祭司長(さいしちょう)たちや律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちは、策略(さくりゃく)をもってイエスを(とら)えたうえ、なんとかして(ころ)そうと(はか)っていた。 2(かれ)らは、「(まつり)(あいだ)はいけない。民衆(みんしゅう)(さわ)ぎを(おこ)すかも()れない」と()っていた。
3イエスがベタニヤで、らい病人(びょうにん)シモンの(いえ)にいて、食卓(しょくたく)についておられたとき、ひとりの(おんな)が、非常(ひじょう)高価(こうか)純粋(じゅんすい)なナルドの香油(こうゆ)()れてある石膏(せっこう)のつぼを()ってきて、それをこわし、香油(こうゆ)をイエスの(あたま)(そそ)ぎかけた。 4すると、ある人々(ひとびと)(いきどお)って(たがい)()った、「なんのために香油(こうゆ)をこんなにむだにするのか。 5この香油(こうゆ)を三百デナリ以上(いじょう)にでも()って、(まず)しい(ひと)たちに(ほどこ)すことができたのに」。そして(おんな)をきびしくとがめた。 6するとイエスは()われた、「するままにさせておきなさい。なぜ(おんな)(こま)らせるのか。わたしによい(こと)をしてくれたのだ。 7(まず)しい(ひと)たちはいつもあなたがたと一緒(いっしょ)にいるから、したいときにはいつでも、よい(こと)をしてやれる。しかし、わたしはあなたがたといつも一緒(いっしょ)にいるわけではない。 8この(おんな)はできる(かぎ)りの(こと)をしたのだ。すなわち、わたしのからだに(あぶら)(そそ)いで、あらかじめ(ほうむ)りの用意(ようい)をしてくれたのである。 9よく()きなさい。(ぜん)世界(せかい)のどこででも、福音(ふくいん)()(つた)えられる(ところ)では、この(おんな)のした(こと)記念(きねん)として(かた)られるであろう」。
10ときに、十二弟子(でし)のひとりイスカリオテのユダは、イエスを祭司長(さいしちょう)たちに()きわたそうとして、(かれ)らの(ところ)()った。 11(かれ)らはこれを()いて(よろこ)び、(きん)(あた)えることを約束(やくそく)した。そこでユダは、どうかしてイエスを()きわたそうと、機会(きかい)をねらっていた。
12除酵祭(じょこうさい)(だい)(にち)、すなわち過越(すぎこし)小羊(こひつじ)をほふる()に、弟子(でし)たちがイエスに(たず)ねた、「わたしたちは、過越(すぎこし)食事(しょくじ)をなさる用意(ようい)を、どこへ()ってしたらよいでしょうか」。 13そこで、イエスはふたりの弟子(でし)使(つか)いに()して()われた、「市内(しない)()くと、(みず)がめを()っている(おとこ)出会(であ)うであろう。その(ひと)について()きなさい。 14そして、その(ひと)がはいって()(いえ)主人(しゅじん)()いなさい、『弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)過越(すぎこし)食事(しょくじ)をする座敷(ざしき)はどこか、と先生(せんせい)()っておられます』。 15するとその主人(しゅじん)は、(せき)(ととの)えて用意(ようい)された二(かい)広間(ひろま)()せてくれるから、そこにわたしたちのために用意(ようい)をしなさい」。 16弟子(でし)たちは()かけて市内(しない)()って()ると、イエスが()われたとおりであったので、過越(すぎこし)食事(しょくじ)用意(ようい)をした。
17夕方(ゆうがた)になって、イエスは十二弟子(でし)一緒(いっしょ)にそこに()かれた。 18そして、一同(いちどう)(せき)について食事(しょくじ)をしているとき()われた、「(とく)にあなたがたに()っておくが、あなたがたの(なか)のひとりで、わたしと一緒(いっしょ)食事(しょくじ)をしている(もの)が、わたしを裏切(うらぎ)ろうとしている」。 19弟子(でし)たちは心配(しんぱい)して、ひとりびとり「まさか、わたしではないでしょう」と()()した。 20イエスは()われた、「十二(にん)(なか)のひとりで、わたしと一緒(いっしょ)(おな)(はち)にパンをひたしている(もの)が、それである。 21たしかに(ひと)()は、自分(じぶん)について()いてあるとおりに()って()く。しかし、(ひと)()裏切(うらぎ)るその(ひと)は、わざわいである。その(ひと)(うま)れなかった(ほう)が、(かれ)のためによかったであろう」。
22一同(いちどう)食事(しょくじ)をしているとき、イエスはパンを()り、祝福(しゅくふく)してこれをさき、弟子(でし)たちに(あた)えて()われた、「()れ、これはわたしのからだである」。 23また(さかずき)()り、感謝(かんしゃ)して(かれ)らに(あた)えられると、一同(いちどう)はその(さかずき)から()んだ。 24イエスはまた()われた、「これは、(おお)くの(ひと)のために(なが)すわたしの契約(けいやく)()である。 25あなたがたによく()っておく。(かみ)(くに)(あたら)しく()むその()までは、わたしは(けっ)して二()と、ぶどうの()から(つく)ったものを()むことをしない」。
26(かれ)らは、さんびを(うた)った(のち)、オリブ(やま)()かけて()った。
27そのとき、イエスは弟子(でし)たちに()われた、「あなたがたは(みな)、わたしにつまずくであろう。『わたしは羊飼(ひつじかい)()つ。そして、(ひつじ)()らされるであろう』と()いてあるからである。 28しかしわたしは、よみがえってから、あなたがたより(さき)にガリラヤへ()くであろう」。 29するとペテロはイエスに()った、「たとい、みんなの(もの)がつまずいても、わたしはつまずきません」。 30イエスは()われた、「あなたによく()っておく。きょう、今夜(こんや)、にわとりが二()()(まえ)に、そう()うあなたが、三()わたしを()らないと()うだろう」。 31ペテロは(ちから)をこめて()った、「たといあなたと一緒(いっしょ)()なねばならなくなっても、あなたを()らないなどとは、(けっ)して(もう)しません」。みんなの(もの)もまた、(おな)じようなことを()った。
32さて、一同(いちどう)はゲツセマネという(ところ)にきた。そしてイエスは弟子(でし)たちに()われた、「わたしが(いの)っている(あいだ)、ここにすわっていなさい」。 33そしてペテロ、ヤコブ、ヨハネを一緒(いっしょ)()れて()かれたが、(おそ)れおののき、また(なや)みはじめて、(かれ)らに()われた、 34「わたしは(かな)しみのあまり()ぬほどである。ここに()っていて、()をさましていなさい」。 35そして(すこ)(すす)んで()き、()にひれ()し、もしできることなら、この(とき)()()らせてくださるようにと(いの)りつづけ、そして()われた、 36「アバ、(ちち)よ、あなたには、できないことはありません。どうか、この(さかずき)をわたしから()りのけてください。しかし、わたしの(おも)いではなく、みこころのままになさってください」。 37それから、きてごらんになると、弟子(でし)たちが(ねむ)っていたので、ペテロに()われた、「シモンよ、(ねむ)っているのか、ひと(とき)()をさましていることができなかったのか。 38誘惑(ゆうわく)(おちい)らないように、()をさまして(いの)っていなさい。(こころ)(ねっ)しているが、肉体(にくたい)(よわ)いのである」。 39また(はな)れて()って(おな)言葉(ことば)(いの)られた。 40またきてごらんになると、(かれ)らはまだ(ねむ)っていた。その()(おも)くなっていたのである。そして、(かれ)らはどうお(こた)えしてよいか、わからなかった。 41度目(どめ)にきて()われた、「まだ(ねむ)っているのか、(やす)んでいるのか。もうそれでよかろう。(とき)がきた。()よ、(ひと)()罪人(つみびと)らの()(わた)されるのだ。 42()て、さあ()こう。()よ、わたしを裏切(うらぎ)(もの)(ちか)づいてきた」。
43そしてすぐ、イエスがまだ(はな)しておられるうちに、十二弟子(でし)のひとりのユダが(すす)みよってきた。また祭司長(さいしちょう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)長老(ちょうろう)たちから(おく)られた群衆(ぐんしゅう)も、(けん)(ぼう)とを()って(かれ)についてきた。 44イエスを裏切(うらぎ)(もの)は、あらかじめ(かれ)らに合図(あいず)をしておいた、「わたしの接吻(せっぷん)する(もの)が、その(ひと)だ。その(ひと)をつかまえて、まちがいなく()ひっぱって()け」。 45(かれ)()るとすぐ、イエスに近寄(ちかよ)り、「先生(せんせい)」と()って接吻(せっぷん)した。 46人々(ひとびと)はイエスに()をかけてつかまえた。 47すると、イエスのそばに()っていた(もの)のひとりが、(けん)()いて大祭司(だいさいし)(しもべ)()りかかり、その片耳(かたみみ)()(おと)した。 48イエスは(かれ)らにむかって()われた、「あなたがたは強盗(ごうとう)にむかうように、(けん)(ぼう)()ってわたしを(とら)えにきたのか。 49わたしは毎日(まいにち)あなたがたと一緒(いっしょ)(みや)にいて(おし)えていたのに、わたしをつかまえはしなかった。しかし聖書(せいしょ)言葉(ことば)成就(じょうじゅ)されねばならない」。 50弟子(でし)たちは(みな)イエスを見捨(みす)てて()()った。
51ときに、ある若者(わかもの)()亜麻布(あまぬの)をまとって、イエスのあとについて()ったが、人々(ひとびと)(かれ)をつかまえようとしたので、 52その亜麻布(あまぬの)()てて、(はだか)()げて()った。
53それから、イエスを大祭司(だいさいし)のところに()れて()くと、祭司長(さいしちょう)長老(ちょうろう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちがみな(あつ)まってきた。 54ペテロは(とお)くからイエスについて()って、大祭司(だいさいし)中庭(なかにわ)まではいり()み、その下役(したやく)どもにまじってすわり、()にあたっていた。
55さて、祭司長(さいしちょう)たちと(ぜん)議会(ぎかい)とは、イエスを死刑(しけい)にするために、イエスに不利(ふり)証拠(しょうこ)()つけようとしたが、()られなかった。 56(おお)くの(もの)がイエスに(たい)して偽証(ぎしょう)()てたが、その証言(しょうげん)()わなかったからである。 57ついに、ある人々(ひとびと)()ちあがり、イエスに(たい)して偽証(ぎしょう)()てて()った、 58「わたしたちはこの(ひと)が『わたしは()(つく)ったこの神殿(しんでん)()ちこわし、三()(のち)()(つく)られない(べつ)神殿(しんでん)()てるのだ』と()うのを()きました」。 59しかし、このような証言(しょうげん)(たがい)()わなかった。 60そこで大祭司(だいさいし)()ちあがって、まん(なか)(すす)み、イエスに()きただして()った、「(なに)(こた)えないのか。これらの人々(ひとびと)があなたに(たい)して不利(ふり)証言(しょうげん)(もう)()てているが、どうなのか」。 61しかし、イエスは(だま)っていて、(なに)もお(こた)えにならなかった。大祭司(だいさいし)(ふたた)()きただして()った、「あなたは、ほむべき(もの)()、キリストであるか」。 62イエスは()われた、「わたしがそれである。あなたがたは(ひと)()(ちから)ある(もの)(みぎ)()し、(てん)(くも)()って()るのを()るであろう」。 63すると、大祭司(だいさいし)はその(ころも)()()いて()った、「どうして、これ以上(いじょう)証人(しょうにん)必要(ひつよう)があろう。 64あなたがたはこのけがし(ごと)()いた。あなたがたの意見(いけん)はどうか」。すると、(かれ)らは(みな)、イエスを()(あた)るものと断定(だんてい)した。 65そして、ある(もの)はイエスにつばきをかけ、目隠(めかく)しをし、こぶしでたたいて、「()いあててみよ」と()いはじめた。また下役(したやく)どもはイエスを()きとって、()のひらでたたいた。
66ペテロは(した)中庭(なかにわ)にいたが、大祭司(だいさいし)女中(じょちゅう)のひとりがきて、 67ペテロが()にあたっているのを()ると、(かれ)()つめて、「あなたもあのナザレ(びと)イエスと一緒(いっしょ)だった」と()った。 68するとペテロはそれを()()して、「わたしは()らない。あなたの()うことがなんの(こと)か、わからない」と()って、庭口(にわぐち)(ほう)()()った。 69ところが、(さき)女中(じょちゅう)(かれ)()て、そばに()っていた人々(ひとびと)に、またもや「この(ひと)はあの仲間(なかま)のひとりです」と()いだした。 70ペテロは(ふたた)びそれを()()した。しばらくして、そばに()っていた(ひと)たちがまたペテロに()った、「(たし)かにあなたは(かれ)らの仲間(なかま)だ。あなたもガリラヤ(びと)だから」。 71しかし、(かれ)は、「あなたがたの(はな)しているその(ひと)のことは(なに)()らない」と()()って、(はげ)しく(ちか)いはじめた。 72するとすぐ、にわとりが二度目(どめ)()いた。ペテロは、「にわとりが二()()(まえ)に、三()わたしを()らないと()うであろう」と()われたイエスの言葉(ことば)(おも)()し、そして(おも)いかえして()きつづけた。

第十五章

1()()けるとすぐ、祭司長(さいしちょう)たちは長老(ちょうろう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たち、および(ぜん)議会(ぎかい)協議(きょうぎ)をこらした(すえ)、イエスを(しば)って()()し、ピラトに(わた)した。 2ピラトはイエスに(たず)ねた、「あなたがユダヤ(じん)(おう)であるか」。イエスは、「そのとおりである」とお(こた)えになった。 3そこで祭司長(さいしちょう)たちは、イエスのことをいろいろと(うった)えた。 4ピラトはもう一度(いちど)イエスに(たず)ねた、「(なに)(こた)えないのか。()よ、あなたに(たい)してあんなにまで次々(つぎつぎ)(うった)えているではないか」。 5しかし、イエスはピラトが不思議(ふしぎ)(おも)うほどに、もう(なに)もお(こた)えにならなかった。
6さて、(まつり)のたびごとに、ピラトは人々(ひとびと)(ねが)()囚人(しゅうじん)ひとりを、ゆるしてやることにしていた。 7ここに、暴動(ぼうどう)(おこ)人殺(ひとごろ)しをしてつながれていた暴徒(ぼうと)(なか)に、バラバという(もの)がいた。 8群衆(ぐんしゅう)()しかけてきて、いつものとおりにしてほしいと要求(ようきゅう)しはじめたので、 9ピラトは(かれ)らにむかって、「おまえたちはユダヤ(じん)(おう)をゆるしてもらいたいのか」と()った。 10それは、祭司長(さいしちょう)たちがイエスを()きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラトにわかっていたからである。 11しかし祭司長(さいしちょう)たちは、バラバの(ほう)をゆるしてもらうように、群衆(ぐんしゅう)煽動(せんどう)した。 12そこでピラトはまた(かれ)らに()った、「それでは、おまえたちがユダヤ(じん)(おう)()んでいるあの(ひと)は、どうしたらよいか」。 13(かれ)らは、また(さけ)んだ、「十字架(じゅうじか)につけよ」。 14ピラトは()った、「あの(ひと)は、いったい、どんな悪事(あくじ)をしたのか」。すると、(かれ)らは一そう(はげ)しく(さけ)んで、「十字架(じゅうじか)につけよ」と()った。 15それで、ピラトは群衆(ぐんしゅう)満足(まんぞく)させようと(おも)って、バラバをゆるしてやり、イエスをむち()ったのち、十字架(じゅうじか)につけるために()きわたした。
16兵士(へいし)たちはイエスを、邸宅(ていたく)、すなわち総督(そうとく)官邸(かんてい)(うち)()れて()き、(ぜん)部隊(ぶたい)()(あつ)めた。 17そしてイエスに(むらさき)(ころも)()せ、いばらの(かんむり)()んでかぶらせ、 18「ユダヤ(じん)(おう)、ばんざい」と()って敬礼(けいれい)をしはじめた。 19また、(あし)(ぼう)でその(あたま)をたたき、つばきをかけ、ひざまずいて(おが)んだりした。 20こうして、イエスを嘲弄(ちょうろう)したあげく、(むらさき)(ころも)をはぎとり、(もと)上着(うわぎ)()せた。それから、(かれ)らはイエスを十字架(じゅうじか)につけるために()()した。 21そこへ、アレキサンデルとルポスとの(ちち)シモンというクレネ(びと)が、郊外(こうがい)からきて(とお)りかかったので、人々(ひとびと)はイエスの十字架(じゅうじか)無理(むり)()わせた。 22そしてイエスをゴルゴタ、その意味(いみ)は、されこうべ、という(ところ)()れて()った。 23そしてイエスに、没薬(もつやく)をまぜたぶどう(しゅ)をさし()したが、お()けにならなかった。 24それから、イエスを十字架(じゅうじか)につけた。そしてくじを()いて、だれが(なに)()るかを(さだ)めたうえ、イエスの着物(きもの)()けた。 25イエスを十字架(じゅうじか)につけたのは、(あさ)の九()ごろであった。 26イエスの罪状(ざいじょう)()きには「ユダヤ(じん)(おう)」と、しるしてあった。 27また、イエスと(とも)にふたりの強盗(ごうとう)を、ひとりを(みぎ)に、ひとりを(ひだり)に、十字架(じゅうじか)につけた。〔 28こうして「(かれ)罪人(つみびと)たちのひとりに(かぞ)えられた」と()いてある言葉(ことば)成就(じょうじゅ)したのである。〕 29そこを(とお)りかかった(もの)たちは、(あたま)()りながら、イエスをののしって()った、「ああ、神殿(しんでん)()ちこわして三()のうちに()てる(もの)よ、 30十字架(じゅうじか)からおりてきて自分(じぶん)(すく)え」。 31祭司長(さいしちょう)たちも(おな)じように、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちと一緒(いっしょ)になって、かわるがわる嘲弄(ちょうろう)して()った、「他人(たにん)(すく)ったが、自分(じぶん)自身(じしん)(すく)うことができない。 32イスラエルの(おう)キリスト、いま十字架(じゅうじか)からおりてみるがよい。それを()たら(しん)じよう」。また、一緒(いっしょ)十字架(じゅうじか)につけられた(もの)たちも、イエスをののしった。
33(ひる)の十二()になると、(ぜん)()(くら)くなって、三()(およ)んだ。 34そして三()に、イエスは大声(おおごえ)で、「エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ」と(さけ)ばれた。それは「わが(かみ)、わが(かみ)、どうしてわたしをお見捨(みす)てになったのですか」という意味(いみ)である。 35すると、そばに()っていたある人々(ひとびと)が、これを()いて()った、「そら、エリヤを()んでいる」。 36ひとりの(ひと)(はし)って()き、海綿(かいめん)()いぶどう(しゅ)(ふく)ませて(あし)(ぼう)につけ、イエスに()ませようとして()った、「()て、エリヤが(かれ)をおろしに()るかどうか、()ていよう」。 37イエスは(こえ)(たか)(さけ)んで、ついに(いき)をひきとられた。 38そのとき、神殿(しんでん)(まく)(うえ)から(した)まで真二(まっぷた)つに()けた。 39イエスにむかって()っていた百卒長(ひゃくそつちょう)は、このようにして(いき)をひきとられたのを()()った、「まことに、この(ひと)(かみ)()であった」。 40また、(とお)くの(ほう)から()ている(おんな)たちもいた。その(なか)には、マグダラのマリヤ、(しょう)ヤコブとヨセとの(はは)マリヤ、またサロメがいた。 41(かれ)らはイエスがガリラヤにおられたとき、そのあとに(したが)って(つか)えた(おんな)たちであった。なおそのほか、イエスと(とも)にエルサレムに(のぼ)ってきた(おお)くの(おんな)たちもいた。
42さて、すでに(ゆう)がたになったが、その()準備(じゅんび)()、すなわち安息日(あんそくにち)前日(ぜんじつ)であったので、 43アリマタヤのヨセフが大胆(だいたん)にもピラトの(ところ)()き、イエスのからだの引()りかたを(ねが)った。(かれ)地位(ちい)(たか)議員(ぎいん)であって、(かれ)自身(じしん)(かみ)(くに)()(のぞ)んでいる(ひと)であった。 44ピラトは、イエスがもはや()んでしまったのかと不審(ふしん)(おも)い、百卒長(ひゃくそつちょう)()んで、もう()んだのかと(たず)ねた。 45そして、百卒長(ひゃくそつちょう)から(たし)かめた(うえ)死体(したい)をヨセフに(わた)した。 46そこで、ヨセフは亜麻布(あまぬの)()(もと)め、イエスをとりおろして、その亜麻布(あまぬの)(つつ)み、(いわ)()って(つく)った(はか)(おさ)め、(はか)入口(いりぐち)(いし)をころがしておいた。 47マグダラのマリヤとヨセの(はは)マリヤとは、イエスが(おさ)められた場所(ばしょ)()とどけた。

第十六章

1さて、安息日(あんそくにち)(おわ)ったので、マグダラのマリヤとヤコブの(はは)マリヤとサロメとが、()ってイエスに()るために、香料(こうりょう)()(もと)めた。 2そして(しゅう)(はじ)めの()に、早朝(そうちょう)()()のころ(はか)()った。 3そして、(かれ)らは「だれが、わたしたちのために、(はか)入口(いりぐち)から(いし)をころがしてくれるのでしょうか」と(はな)()っていた。 4ところが、()をあげて()ると、(いし)はすでにころがしてあった。この(いし)非常(ひじょう)(おお)きかった。 5(はか)(なか)にはいると、右手(みぎて)真白(まっしろ)(なが)(ころも)()若者(わかもの)がすわっているのを()て、非常(ひじょう)(おどろ)いた。 6するとこの若者(わかもの)()った、「(おどろ)くことはない。あなたがたは十字架(じゅうじか)につけられたナザレ(びと)イエスを(さが)しているのであろうが、イエスはよみがえって、ここにはおられない。ごらんなさい、ここがお(おさ)めした場所(ばしょ)である。 7(いま)から弟子(でし)たちとペテロとの(ところ)()って、こう(つた)えなさい。イエスはあなたがたより(さき)にガリラヤへ()かれる。かねて、あなたがたに()われたとおり、そこでお()いできるであろう、と」。 8(おんな)たちはおののき(おそ)れながら、(はか)から()()()った。そして、(ひと)には(なに)()わなかった。(おそ)ろしかったからである。
9(しゅう)(はじ)めの()(あさ)(はや)く、イエスはよみがえって、まずマグダラのマリヤに()自身(じしん)をあらわされた。イエスは以前(いぜん)に、この(おんな)から七つの悪霊(あくれい)()()されたことがある。 10マリヤは、イエスと一緒(いっしょ)にいた人々(ひとびと)()(かな)しんでいる(ところ)()って、それを()らせた。 11(かれ)らは、イエスが()きておられる(こと)と、彼女(かのじょ)()自身(じしん)をあらわされた(こと)とを()いたが、(しん)じなかった。
12この(のち)、そのうちのふたりが、いなかの(ほう)(ある)いていると、イエスはちがった姿(すがた)()自身(じしん)をあらわされた。 13このふたりも、ほかの人々(ひとびと)(ところ)()って(はな)したが、(かれ)らはその(はなし)(しん)じなかった。
14その(のち)、イエスは十一弟子(でし)食卓(しょくたく)についているところに(あらわ)れ、(かれ)らの()信仰(しんこう)と、(こころ)のかたくななことをお()めになった。(かれ)らは、よみがえられたイエスを()人々(ひとびと)()うことを、(しん)じなかったからである。 15そして(かれ)らに()われた、「(ぜん)世界(せかい)()()って、すべての(つく)られたものに福音(ふくいん)()(つた)えよ。 16(しん)じてバプテスマを()ける(もの)(すく)われる。しかし、()信仰(しんこう)(もの)(つみ)(さだ)められる。 17(しん)じる(もの)には、このようなしるしが(ともな)う。すなわち、(かれ)らはわたしの()悪霊(あくれい)()()し、(あたら)しい言葉(ことば)(かた)り、 18へびをつかむであろう。また、(どく)()んでも、(けっ)して(がい)()けない。病人(びょうにん)()をおけば、いやされる」。
19(しゅ)イエスは(かれ)らに(かた)(おわ)ってから、(てん)にあげられ、(かみ)(みぎ)にすわられた。 20弟子(でし)たちは()()って、(いた)(ところ)福音(ふくいん)()(つた)えた。(しゅ)(かれ)らと(とも)(はたら)き、御言(みことば)(ともな)うしるしをもって、その(たし)かなことをお(しめ)しになった。〕