ヨハネによる福音書

第一章

1(はじ)めに(ことば)があった。(ことば)(かみ)(とも)にあった。(ことば)(かみ)であった。 2この(ことば)(はじ)めに(かみ)(とも)にあった。 3すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。 4この(ことば)(いのち)があった。そしてこの(いのち)(ひと)(ひかり)であった。 5(ひかり)はやみの(なか)(かがや)いている。そして、やみはこれに()たなかった。
6ここにひとりの(ひと)があって、(かみ)からつかわされていた。その()をヨハネと()った。 7この(ひと)はあかしのためにきた。(ひかり)についてあかしをし、(かれ)によってすべての(ひと)(しん)じるためである。 8(かれ)(ひかり)ではなく、ただ、(ひかり)についてあかしをするためにきたのである。
9すべての(ひと)(てら)すまことの(ひかり)があって、()にきた。 10(かれ)()にいた。そして、()(かれ)によってできたのであるが、()(かれ)()らずにいた。 11(かれ)自分(じぶん)のところにきたのに、自分(じぶん)(たみ)(かれ)()けいれなかった。 12しかし、(かれ)()けいれた(もの)、すなわち、その()(しん)じた人々(ひとびと)には、(かれ)(かみ)()となる(ちから)(あた)えたのである。 13それらの(ひと)は、()すじによらず、(にく)(よく)によらず、また、(ひと)(よく)にもよらず、ただ(かみ)によって(うま)れたのである。
14そして(ことば)肉体(にくたい)となり、わたしたちのうちに宿(やど)った。わたしたちはその栄光(えいこう)()た。それは(ちち)のひとり()としての栄光(えいこう)であって、めぐみとまこととに()ちていた。 15ヨハネは(かれ)についてあかしをし、(さけ)んで()った、「『わたしのあとに()るかたは、わたしよりもすぐれたかたである。わたしよりも(さき)におられたからである』とわたしが()ったのは、この(ひと)のことである」。 16わたしたちすべての(もの)は、その()()ちているものの(なか)から()けて、めぐみにめぐみを(くわ)えられた。 17律法(りっぽう)はモーセをとおして(あた)えられ、めぐみとまこととは、イエス・キリストをとおしてきたのである。 18(かみ)()(もの)はまだひとりもいない。ただ(ちち)のふところにいるひとり()なる(かみ)だけが、(かみ)をあらわしたのである。
19さて、ユダヤ(じん)たちが、エルサレムから祭司(さいし)たちやレビ(ひと)たちをヨハネのもとにつかわして、「あなたはどなたですか」と()わせたが、その(とき)ヨハネが()てたあかしは、こうであった。 20すなわち、(かれ)告白(こくはく)して(いな)まず、「わたしはキリストではない」と告白(こくはく)した。 21そこで、(かれ)らは()うた、「それでは、どなたなのですか、あなたはエリヤですか」。(かれ)は「いや、そうではない」と()った。「では、あの預言者(よげんしゃ)ですか」。(かれ)は「いいえ」と(こた)えた。 22そこで、(かれ)らは()った、「あなたはどなたですか。わたしたちをつかわした人々(ひとびと)に、(こたえ)()って()けるようにしていただきたい。あなた自身(じしん)をだれだと(かんが)えるのですか」。 23(かれ)()った、「わたしは、預言者(よげんしゃ)イザヤが()ったように、『(しゅ)(みち)をまっすぐにせよと荒野(あらの)()ばわる(もの)(こえ)』である」。
24つかわされた(ひと)たちは、パリサイ(びと)であった。 25(かれ)らはヨハネに()うて()った、「では、あなたがキリストでもエリヤでもまたあの預言者(よげんしゃ)でもないのなら、なぜバプテスマを(さづ)けるのですか」。 26ヨハネは(かれ)らに(こた)えて()った、「わたしは(みず)でバプテスマを(さづ)けるが、あなたがたの()らないかたが、あなたがたの(なか)()っておられる。 27それがわたしのあとにあとにおいでになる(かた)であって、わたしはその(ひと)のくつのひもを()()うちもない」。 28これらのことは、ヨハネがバプテスマを(さづ)けていたヨルダンの()こうのベタニヤであったのである。
29その翌日(よくじつ)、ヨハネはイエスが自分(じぶん)(ほう)にこられるのを()()った、「()よ、()(つみ)()(のぞ)(かみ)小羊(こひつじ)30『わたしのあとに()るかたは、わたしよりもすぐれたかたである。わたしよりも(さき)におられたからである』とわたしが()ったのは、この(ひと)のことである。 31わたしはこのかたを()らなかった。しかし、このかたがイスラエルに(あらわ)れてくださるそのことのために、わたしはきて、(みず)でバプテスマを(さづ)けているのである」。 32ヨハネはまたあかしをして()った、「わたしは、御霊(みたま)がはとのように(てん)から(くだ)って、(かれ)(うえ)にとどまるのを()た。 33わたしはこの(ひと)()らなかった。しかし、(みず)でバプテスマを(さづ)けるようにと、わたしをおつかわしになったそのかたが、わたしに()われた、『ある(ひと)(うえ)に、御霊(みたま)(くだ)ってとどまるのを()たら、その(ひと)こそは、御霊(みたま)によってバプテスマを(さづ)けるかたである』。 34わたしはそれを()たので、このかたこそ(かみ)()であると、あかしをしたのである」。
35その翌日(よくじつ)、ヨハネはまたふたりの弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)()っていたが、 36イエスが(ある)いておられるのに()をとめて()った、「()よ、(かみ)小羊(こひつじ)」。 37そのふたりの弟子(でし)は、ヨハネがそう()うのを()いて、イエスについて()った。 38イエスはふり()き、(かれ)らがついてくるのを()()われた、「(なに)(ねが)いがあるのか」。(かれ)らは()った、「ラビ((やく)して()えば、先生(せんせい))どこにおとまりなのですか」。 39イエスは(かれ)らに()われた、「きてごらんなさい。そうしたらわかるだろう」。そこで(かれ)らはついて()って、イエスの()まっておられる(ところ)()た。そして、その()はイエスのところに()まった。(とき)午後(ごご)()ごろであった。 40ヨハネから()いて、イエスについて()ったふたりのうちのひとりは、シモン・ペテロの兄弟(きょうだい)アンデレであった。 41(かれ)はまず自分(じぶん)兄弟(きょうだい)シモンに出会(であ)って()った、「わたしたちはメシヤ((やく)せば、キリスト)にいま出会(であ)った」。 42そしてシモンをイエスのもとにつれてきた。イエスは(かれ)()をとめて()われた、「あなたはヨハネの()シモンである。あなたをケパ((やく)せば、ペテロ)と()ぶことにする」。
43その翌日(よくじつ)、イエスはガリラヤに()こうとされたが、ピリポに出会(であ)って()われた、「わたしに(したが)ってきなさい」。 44ピリポは、アンデレとペテロとの(まち)ベツサイダの(ひと)であった。 45このピリポがナタナエルに出会(であ)って()った、「わたしたちは、モーセが律法(りっぽう)(なか)にしるしており、預言者(よげんしゃ)たちがしるしていた(ひと)、ヨセフの()、ナザレのイエスにいま出会(であ)った」。 46ナタナエルは(かれ)()った、「ナザレから、なんのよいものが()ようか」。ピリポは(かれ)()った、「きて()なさい」。 47イエスはナタナエルが自分(じぶん)(ほう)()るのを()て、(かれ)について()われた、「()よ、あの(ひと)こそ、ほんとうのイスラエル(びと)である。その(こころ)には(いつわ)りがない」。 48ナタナエルは()った、「どうしてわたしをご(ぞん)じなのですか」。イエスは(こた)えて()われた、「ピリポがあなたを()(まえ)に、わたしはあなたが、いちじくの()(した)にいるのを()た」。 49ナタナエルは(こた)えた、「先生(せんせい)、あなたは(かみ)()です。あなたはイスラエルの(おう)です」。 50イエスは(こた)えて()われた、「あなたが、いちじくの()(した)にいるのを()たと、わたしが()ったので(しん)じるのか。これよりも、もっと(おお)きなことを、あなたは()るであろう」。 51また()われた、「よくよくあなたがたに()っておく。(てん)()けて、(かみ)御使(みつかい)たちが(ひと)()(うえ)(のぼ)(くだ)りするのを、あなたがたは()るであろう」。

第二章

1()()にガリラヤのカナに婚礼(こんれい)があって、イエスの(はは)がそこにいた。 2イエスも弟子(でし)たちも、その婚礼(こんれい)(まね)かれた。 3ぶどう(しゅ)がなくなったので、(はは)はイエスに()った、「ぶどう(しゅ)がなくなってしまいました」。 4イエスは(はは)()われた、「婦人(ふじん)よ、あなたは、わたしと、なんの(かか)わりがありますか。わたしの(とき)は、まだきていません」。 5(はは)(しもべ)たちに()った、「このかたが、あなたがたに()いつけることは、なんでもして(くだ)さい」。 6そこには、ユダヤ(じん)のきよめのならわしに(したが)って、それぞれ四、五()もはいる(いし)(みず)がめが、六つ()いてあった。 7イエスは(かれ)らに「かめに(みず)をいっぱい()れなさい」と()われたので、(かれ)らは(くち)のところまでいっぱいに()れた。 8そこで(かれ)らに()われた、「さあ、くんで、料理(りょうり)がしらのところに()って()きなさい」。すると、(かれ)らは()って()った。 9料理(りょうり)がしらは、ぶどう(しゅ)になった(みず)をなめてみたが、それがどこからきたのか()らなかったので、((みず)をくんだ(しもべ)たちは()っていた)花婿(はなむこ)()んで 10()った、「どんな(ひと)でも、(はじ)めによいぶどう(しゅ)()して、()いがまわったころにわるいのを()すものだ。それだのに、あなたはよいぶどう(しゅ)(いま)までとっておかれました」。 11イエスは、この最初(さいしょ)のしるしをガリラヤのカナで(おこな)い、その栄光(えいこう)(あらわ)された。そして弟子(でし)たちはイエスを(しん)じた。
12そののち、イエスは、その(はは)兄弟(きょうだい)たち、弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)に、カペナウムに(くだ)って、幾日(いくにち)かそこにとどまられた。
13さて、ユダヤ(じん)過越(すぎこし)(まつり)(ちか)づいたので、イエスはエルサレムに(のぼ)られた。 14そして(うし)(ひつじ)、はとを()(もの)両替(りょうがえ)する(もの)などが(みや)(にわ)にすわり()んでいるのをごらんになって、 15なわでむちを(つく)り、(ひつじ)(うし)もみな(みや)から()いだし、両替人(りょうがえにん)(かね)()らし、その(だい)をひっくりかえし、 16はとを()人々(ひとびと)には「これらのものを()って、ここから()()け。わたしの(ちち)(いえ)商売(しょうばい)(いえ)とするな」と()われた。 17弟子(でし)たちは、「あなたの(いえ)(おも)熱心(ねっしん)が、わたしを()いつくすであろう」と()いてあることを(おも)()した。 18そこで、ユダヤ(じん)はイエスに()った、「こんなことをするからには、どんなしるしをわたしたちに()せてくれますか」。 19イエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「この神殿(しんでん)をこわしたら、わたしは三()のうちに、それを(おこ)すであろう」。 20そこで、ユダヤ(じん)たちは()った、「この神殿(しんでん)()てるのには、四十六(ねん)もかかっています。それだのに、あなたは三()のうちに、それを()てるのですか」。 21イエスは自分(じぶん)のからだである神殿(しんでん)のことを()われたのである。 22それで、イエスが死人(しにん)(なか)からよみがえったとき、弟子(でし)たちはイエスがこう()われたことを(おも)()して、聖書(せいしょ)とイエスのこの言葉(ことば)とを(しん)じた。 23過越(すぎこし)(まつり)(あいだ)、イエスがエルサレムに滞在(たいざい)しておられたとき、(おお)くの人々(ひとびと)は、その(おこな)われたしるしを()て、イエスの()(しん)じた。 24しかしイエスご自身(じしん)は、(かれ)らに自分(じぶん)をお(まか)せにならなかった。それは、すべての(ひと)()っておられ、 25また(ひと)についてあかしする(もの)を、必要(ひつよう)とされなかったからである。それは、ご自身(じしん)(ひと)(こころ)(なか)にあることを()っておられたからである。

第三章

1パリサイ(びと)のひとりで、その()をニコデモというユダヤ(じん)指導者(しどうしゃ)があった。 2この(ひと)(よる)イエスのもとにきて()った、「先生(せんせい)、わたしたちはあなたが(かみ)からこられた教師(きょうし)であることを()っています。(かみ)がご一緒(いっしょ)でないなら、あなたがなさっておられるようなしるしは、だれにもできはしません」。 3イエスは(こた)えて()われた、「よくよくあなたに()っておく。だれでも(あたら)しく(うま)れなければ、(かみ)(くに)()ることはできない」。 4ニコデモは()った、「(ひと)(とし)をとってから(うま)れることが、どうしてできますか。もう一度(いちど)(はは)(たい)にはいって(うま)れることができましょうか」。 5イエスは(こた)えられた、「よくよくあなたに()っておく。だれでも、(みず)(れい)とから(うま)れなければ、(かみ)(くに)にはいることはできない。 6(にく)から(うま)れる(もの)(にく)であり、(れい)から(うま)れる(もの)(れい)である。 7あなたがたは(あたら)しく(うま)れなければならないと、わたしが()ったからとて、不思議(ふしぎ)(おも)うには(およ)ばない。 8(かぜ)(おも)いのままに()く。あなたはその(おと)()くが、それがどこからきて、どこへ()くかは()らない。(れい)から(うま)れる(もの)もみな、それと(おな)じである」。 9ニコデモはイエスに(こた)えて()った、「どうして、そんなことがあり()ましょうか」。 10イエスは(かれ)(こた)えて()われた、「あなたはイスラエルの教師(きょうし)でありながら、これぐらいのことがわからないのか。 11よくよく()っておく。わたしたちは自分(じぶん)()っていることを(かた)り、また自分(じぶん)()たことをあかししているのに、あなたがたはわたしたちのあかしを()けいれない。 12わたしが地上(ちじょう)のことを(かた)っているのに、あなたがたが(しん)じないならば、天上(てんじょう)のことを(かた)った場合(ばあい)、どうしてそれを(しん)じるだろうか。 13(てん)から(くだ)ってきた(もの)、すなわち(ひと)()のほかには、だれも(てん)(のぼ)った(もの)はない。 14そして、ちょうどモーセが荒野(あらの)でへびを()げたように、(ひと)()もまた()げられなければならない。 15それは(かれ)(しん)じる(もの)が、すべて永遠(えいえん)(いのち)()るためである」。
16(かみ)はそのひとり()(たま)わったほどに、この()(あい)して(くだ)さった。それは御子(みこ)(しん)じる(もの)がひとりも(ほろ)びないで、永遠(えいえん)(いのち)()るためである。 17(かみ)御子(みこ)()につかわされたのは、()をさばくためではなく、御子(みこ)によって、この()(すく)われるためである。 18(かれ)(しん)じる(もの)は、さばかれない。(しん)じない(もの)は、すでにさばかれている。(かみ)のひとり()()(しん)じることをしないからである。 19そのさばきというのは、(ひかり)がこの()にきたのに、人々(ひとびと)はそのおこないが(わる)いために、(ひかり)よりもやみの(ほう)(あい)したことである。 20(あく)(おこな)っている(もの)はみな(ひかり)(にく)む。そして、そのおこないが(あか)るみに()されるのを(おそ)れて、(ひかり)にこようとはしない。 21しかし、真理(しんり)(おこな)っている(もの)(ひかり)()る。その(ひと)のおこないの、(かみ)にあってなされたということが、(あき)らかにされるためである。
22こののち、イエスは弟子(でし)たちとユダヤの()()き、(かれ)らと一緒(いっしょ)にそこに滞在(たいざい)して、バプテスマを(さづ)けておられた。 23ヨハネもサリムに(ちか)いアイノンで、バプテスマを(さづ)けていた。そこには(みず)がたくさんあったからである。人々(ひとびと)がぞくぞくとやってきてバプテスマを()けていた。 24そのとき、ヨハネはまだ(ごく)()れられてはいなかった。 25ところが、ヨハネの弟子(でし)たちとひとりのユダヤ(じん)との(あいだ)に、きよめのことで争論(そうろん)(おこ)った。 26そこで(かれ)らはヨハネのところにきて()った、「先生(せんせい)、ごらん(くだ)さい。ヨルダンの()こうであなたと一緒(いっしょ)にいたことがあり、そして、あなたがあかしをしておられたあのかたが、バプテスマを(さづ)けており、(みな)(もの)が、そのかたのところへ()かけています」。 27ヨハネは(こた)えて()った、「(ひと)(てん)から(あた)えられなければ、(なに)ものも()けることはできない。 28『わたしはキリストではなく、そのかたよりも(さき)につかわされた(もの)である』と()ったことをあかししてくれるのは、あなたがた自身(じしん)である。 29花嫁(はなよめ)をもつ(もの)花婿(はなむこ)である。花婿(はなむこ)友人(ゆうじん)()って(かれ)(こえ)()き、その(こえ)()いて(おお)いに(よろこ)ぶ。こうして、この(よろこ)びはわたしに()()りている。 30(かれ)(かなら)(さか)え、わたしは(おとろ)える。
31(うえ)から()(もの)は、すべてのものの(うえ)にある。()から()(もの)は、()(ぞく)する(もの)であって、()のことを(かた)る。(てん)から()(もの)は、すべてのものの(うえ)にある。 32(かれ)はその()たところ、()いたところをあかししているが、だれもそのあかしを()けいれない。 33しかし、そのあかしを()けいれる(もの)は、(かみ)がまことであることを、たしかに(みと)めたのである。 34(かみ)がおつかわしになったかたは、(かみ)言葉(ことば)(かた)る。(かみ)聖霊(せいれい)(かぎ)りなく(たま)うからである。 35(ちち)御子(みこ)(あい)して、万物(ばんぶつ)をその()にお(あた)えになった。 36御子(みこ)(しん)じる(もの)永遠(えいえん)(いのち)をもつ。御子(みこ)(したが)わない(もの)は、(いのち)にあずかることがないばかりか、(かみ)(いか)りがその(うえ)にとどまるのである」。

第四章

1イエスが、ヨハネよりも(おお)弟子(でし)をつくり、またバプテスマを(さづ)けておられるということを、パリサイ(びと)たちが()き、それを(しゅ)()られたとき、 2(しかし、イエスみずからが、バプテスマをお(さづ)けになったのではなく、その弟子(でし)たちであった) 3ユダヤを()って、またガリラヤへ()かれた。 4しかし、イエスはサマリヤを通過(つうか)しなければならなかった。 5そこで、イエスはサマリヤのスカルという(まち)においでになった。この(まち)は、ヤコブがその()ヨセフに(あた)えた土地(とち)(ちか)くにあったが、 6そこにヤコブの井戸(いど)があった。イエスは(たび)(つか)れを(おぼ)えて、そのまま、この井戸(いど)のそばにすわっておられた。(とき)(ひる)の十二()ごろであった。 7ひとりのサマリヤの(おんな)(みず)をくみにきたので、イエスはこの(おんな)に、「(みず)()ませて(くだ)さい」と()われた。 8弟子(でし)たちは食物(しょくもつ)()いに(まち)()っていたのである。 9すると、サマリヤの(おんな)はイエスに()った、「あなたはユダヤ(じん)でありながら、どうしてサマリヤの(おんな)のわたしに、()ませてくれとおっしゃるのですか」。これは、ユダヤ(じん)はサマリヤ(びと)交際(こうさい)していなかったからである。 10イエスは(こた)えて()われた、「もしあなたが(かみ)賜物(たまもの)のことを()り、また、『(みず)()ませてくれ』と()った(もの)が、だれであるか()っていたならば、あなたの(ほう)から(ねが)()て、その(ひと)から()ける(みず)をもらったことであろう」。 11(おんな)はイエスに()った、「(しゅ)よ、あなたは、くむ(もの)をお()ちにならず、その(うえ)井戸(いど)(ふか)いのです。その()ける(みず)を、どこから()()れるのですか。 12あなたは、この井戸(いど)(くだ)さったわたしたちの(ちち)ヤコブよりも、(えら)いかたなのですか。ヤコブ自身(じしん)()み、その()らも、その家畜(かちく)も、この井戸(いど)から()んだのですが」。 13イエスは(おんな)(こた)えて()われた、「この(みず)()(もの)はだれでも、またかわくであろう。 14しかし、わたしが(あた)える(みず)()(もの)は、いつまでも、かわくことがないばかりか、わたしが(あた)える(みず)は、その(ひと)のうちで(いずみ)となり、永遠(えいえん)(いのち)(いた)(みず)が、わきあがるであろう」。 15(おんな)はイエスに()った、「(しゅ)よ、わたしがかわくことがなく、また、ここにくみにこなくてもよいように、その(みず)をわたしに(くだ)さい」。 16イエスは(おんな)()われた、「あなたの(おっと)()びに()って、ここに()れてきなさい」。 17(おんな)(こた)えて()った、「わたしには(おっと)はありません」。イエスは(おんな)()われた、「(おっと)がないと()ったのは、もっともだ。 18あなたには五(にん)(おっと)があったが、(いま)のはあなたの(おっと)ではない。あなたの言葉(ことば)のとおりである」。 19(おんな)はイエスに()った、「(しゅ)よ、わたしはあなたを預言者(よげんしゃ)()ます。 20わたしたちの先祖(せんぞ)は、この(やま)礼拝(れいはい)をしたのですが、あなたがたは礼拝(れいはい)すべき場所(ばしょ)は、エルサレムにあると()っています」。 21イエスは(おんな)()われた、「(おんな)よ、わたしの()うことを(しん)じなさい。あなたがたが、この(やま)でも、またエルサレムでもない(ところ)で、(ちち)礼拝(れいはい)する(とき)()る。 22あなたがたは自分(じぶん)()らないものを(おが)んでいるが、わたしたちは()っているかたを礼拝(れいはい)している。(すくい)はユダヤ(じん)から()るからである。 23しかし、まことの礼拝(れいはい)をする(もの)たちが、(れい)とまこととをもって(ちち)礼拝(れいはい)する(とき)()る。そうだ、(いま)きている。(ちち)は、このような礼拝(れいはい)をする(もの)たちを(もと)めておられるからである。 24(かみ)(れい)であるから、礼拝(れいはい)をする(もの)も、(れい)とまこととをもって礼拝(れいはい)すべきである」。 25(おんな)はイエスに()った、「わたしは、キリストと()ばれるメシヤがこられることを()っています。そのかたがこられたならば、わたしたちに、いっさいのことを()らせて(くだ)さるでしょう」。 26イエスは(おんな)()われた、「あなたと(はなし)をしているこのわたしが、それである」。
27そのとき、弟子(でし)たちが(かえ)って()て、イエスがひとりの(おんな)(はな)しておられるのを()不思議(ふしぎ)(おも)ったが、しかし、「(なに)(もと)めておられますか」とも、「(なに)彼女(かのじょ)(はな)しておられるのですか」とも、(たず)ねる(もの)はひとりもなかった。 28この(おんな)(みず)がめをそのままそこに()いて(まち)()き、人々(ひとびと)()った、 29「わたしのしたことを(なに)もかも、()いあてた(ひと)がいます。さあ、()にきてごらんなさい。もしかしたら、この(ひと)がキリストかも()れません」。 30人々(ひとびと)(まち)()て、ぞくぞくとイエスのところへ()った。 31その(あいだ)弟子(でし)たちはイエスに、「先生(せんせい)()しあがってください」とすすめた。 32ところが、イエスは()われた、「わたしには、あなたがたの()らない食物(しょくもつ)がある」。 33そこで、弟子(でし)たちが(たがい)()った、「だれかが、(なに)()べるものを()ってきてさしあげたのであろうか」。 34イエスは(かれ)らに()われた、「わたしの食物(しょくもつ)というのは、わたしをつかわされたかたのみこころを(おこな)い、そのみわざをなし()げることである。 35あなたがたは、刈入(かりい)(とき)()るまでには、まだ四か(げつ)あると、()っているではないか。しかし、わたしはあなたがたに()う。()をあげて(はたけ)()なさい。はや(いろ)づいて刈入(かりい)れを()っている。 36()(もの)報酬(ほうしゅう)()けて、永遠(えいえん)(いのち)(いた)()(あつ)めている。まく(もの)()(もの)も、共々(ともども)(よろこ)ぶためである。 37そこで、『ひとりがまき、ひとりが()る』ということわざが、ほんとうのこととなる。 38わたしは、あなたがたをつかわして、あなたがたがそのために労苦(ろうく)しなかったものを()りとらせた。ほかの人々(ひとびと)労苦(ろうく)し、あなたがたは、(かれ)らの労苦(ろうく)()にあずかっているのである」。
39さて、この(まち)からきた(おお)くのサマリヤ(ひと)は、「この(ひと)は、わたしのしたことを(なに)もかも()いあてた」とあかしした(おんな)言葉(ことば)によって、イエスを(しん)じた。 40そこで、サマリヤ(ひと)たちはイエスのもとにきて、自分(じぶん)たちのところに滞在(たいざい)していただきたいと(ねが)ったので、イエスはそこにふつか滞在(たいざい)された。 41そしてなお(おお)くの人々(ひとびと)が、イエスの言葉(ことば)()いて(しん)じた。 42(かれ)らは(おんな)()った、「わたしたちが(しん)じるのは、もうあなたが(はな)してくれたからではない。自分(じぶん)自身(じしん)(した)しく()いて、この(ひと)こそまことに()救主(すくいぬし)であることが、わかったからである」。
43ふつかの(のち)に、イエスはここを()ってガリラヤへ()かれた。 44イエスはみずからはっきり、「預言者(よげんしゃ)自分(じぶん)故郷(こきょう)では(うやま)われないものだ」と()われたのである。 45ガリラヤに()かれると、ガリラヤの(ひと)たちはイエスを歓迎(かんげい)した。それは、(かれ)らも(まつり)()っていたので、その(まつり)(とき)、イエスがエルサレムでなされたことをことごとく()ていたからである。
46イエスは、またガリラヤのカナに()かれた。そこは、かつて(みず)をぶどう(しゅ)にかえられた(ところ)である。ところが、病気(びょうき)をしているむすこを()つある役人(やくにん)がカペナウムにいた。 47この(ひと)が、ユダヤからガリラヤにイエスのきておられることを()き、みもとにきて、カペナウムに(くだ)って、(かれ)()をなおしていただきたいと、(ねが)った。その()()にかかっていたからである。 48そこで、イエスは(かれ)()われた、「あなたがたは、しるしと奇跡(きせき)とを()ない(かぎ)り、(けっ)して(しん)じないだろう」。 49この役人(やくにん)はイエスに()った、「(しゅ)よ、どうぞ、子供(こども)()なないうちにきて(くだ)さい」。 50イエスは(かれ)()われた、「お(かえ)りなさい。あなたのむすこは(たす)かるのだ」。(かれ)自分(じぶん)()われたイエスの言葉(ことば)(しん)じて(かえ)って()った。 51その(くだ)って()途中(とちゅう)(しもべ)たちが(かれ)出会(であ)い、その()(たす)かったことを()げた。 52そこで、(かれ)(しもべ)たちに、そのなおりはじめた時刻(じこく)(たず)ねてみたら、「きのうの午後(ごご)()(ねつ)()きました」と(こた)えた。 53それは、イエスが「あなたのむすこは(たす)かるのだ」と()われたのと(おな)時刻(じこく)であったことを、この(ちち)()って、(かれ)自身(じしん)もその家族(かぞく)一同(いちどう)(しん)じた。 54これは、イエスがユダヤからガリラヤにきてなされた(だい)二のしるしである。

第五章

1こののち、ユダヤ(じん)(まつり)があったので、イエスはエルサレムに(のぼ)られた。
2エルサレムにある(ひつじ)(もん)のそばに、ヘブル()でベテスダと()ばれる(いけ)があった。そこには五つの(ろう)があった。 3その(ろう)(なか)には、病人(びょうにん)盲人(もうじん)(あし)なえ、やせ(おとろ)えた(もの)などが、(おお)ぜいからだを(よこ)たえていた。〔(かれ)らは(みず)(うご)くのを()っていたのである。 4それは、時々(ときどき)(しゅ)御使(みつかい)がこの(いけ)()りてきて(みず)(うご)かすことがあるが、(みず)(うご)いた(とき)まっ(さき)にはいる(もの)は、どんな病気(びょうき)にかかっていても、いやされたからである。〕 5さて、そこに三十八(ねん)のあいだ、病気(びょうき)(なや)んでいる(ひと)があった。 6イエスはその(ひと)(よこ)になっているのを()、また(なが)(あいだ)わずらっていたのを()って、その(ひと)に「なおりたいのか」と()われた。 7この病人(びょうにん)はイエスに(こた)えた、「(しゅ)よ、(みず)(うご)(とき)に、わたしを(いけ)(なか)()れてくれる(ひと)がいません。わたしがはいりかけると、ほかの(ひと)(さき)()りて()くのです」。 8イエスは(かれ)()われた、「()きて、あなたの(とこ)()りあげ、そして(ある)きなさい」。 9すると、この(ひと)はすぐにいやされ、(とこ)をとりあげて(ある)いて()った。
その()安息日(あんそくにち)であった。 10そこでユダヤ(じん)たちは、そのいやされた(ひと)()った、「きょうは安息日(あんそくにち)だ。(とこ)()りあげるのは、よろしくない」。 11(かれ)(こた)えた、「わたしをなおして(くだ)さったかたが、(とこ)()りあげて(ある)けと、わたしに()われました」。 12(かれ)らは(たず)ねた、「()りあげて(ある)けと()った(ひと)は、だれか」。 13しかし、このいやされた(ひと)は、それがだれであるか()らなかった。群衆(ぐんしゅう)がその()にいたので、イエスはそっと()()かれたからである。 14そののち、イエスは(みや)でその(ひと)出会(であ)ったので、(かれ)()われた、「ごらん、あなたはよくなった。もう(つみ)(おか)してはいけない。(なに)かもっと(わる)いことが、あなたの()(おこ)るかも()れないから」。 15(かれ)()()って、自分(じぶん)をいやしたのはイエスであったと、ユダヤ(じん)たちに()げた。 16そのためユダヤ(じん)たちは、安息日(あんそくにち)にこのようなことをしたと()って、イエスを()めた。 17そこで、イエスは(かれ)らに(こた)えられた、「わたしの(ちち)(いま)(いた)るまで(はたら)いておられる。わたしも(はたら)くのである」。 18このためにユダヤ(じん)たちは、ますますイエスを(ころ)そうと(はか)るようになった。それは、イエスが安息日(あんそくにち)(やぶ)られたばかりではなく、(かみ)自分(じぶん)(ちち)()んで、自分(じぶん)(かみ)(ひと)しいものとされたからである。
19さて、イエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「よくよくあなたがたに()っておく。()(ちち)のなさることを()てする以外(いがい)に、自分(じぶん)からは何事(なにごと)もすることができない。(ちち)のなさることであればすべて、()もそのとおりにするのである。 20なぜなら、(ちち)()(あい)して、みずからなさることは、すべて()にお(しめ)しになるからである。そして、それよりもなお(おお)きなわざを、お(しめ)しになるであろう。あなたがたが、それによって不思議(ふしぎ)(おも)うためである。 21すなわち、(ちち)死人(しにん)(おこ)して(いのち)をお(あた)えになるように、()もまた、そのこころにかなう人々(ひとびと)(いのち)(あた)えるであろう。 22(ちち)はだれをもさばかない。さばきのことはすべて、()にゆだねられたからである。 23それは、すべての(ひと)(ちち)(うやま)うと同様(どうよう)に、()(うやま)うためである。()(うやま)わない(もの)は、()をつかわされた(ちち)をも(うやま)わない。 24よくよくあなたがたに()っておく。わたしの言葉(ことば)()いて、わたしをつかわされたかたを(しん)じる(もの)は、永遠(えいえん)(いのち)()け、またさばかれることがなく、()から(いのち)(うつ)っているのである。 25よくよくあなたがたに()っておく。()んだ(ひと)たちが、(かみ)()(こえ)()(とき)()る。(いま)すでにきている。そして()(ひと)()きるであろう。 26それは、(ちち)がご自分(じぶん)のうちに生命(せいめい)をお()ちになっていると同様(どうよう)に、()にもまた、自分(じぶん)のうちに生命(せいめい)()つことをお(ゆる)しになったからである。 27そして()(ひと)()であるから、()にさばきを(おこな)権威(けんい)をお(あた)えになった。 28このことを(おどろ)くには(およ)ばない。(はか)(なか)にいる(もの)たちがみな(かみ)()(こえ)()き、 29(ぜん)をおこなった人々(ひとびと)は、生命(せいめい)()けるためによみがえり、(あく)をおこなった人々(ひとびと)は、さばきを()けるためによみがえって、それぞれ()てくる(とき)()るであろう。
30わたしは、自分(じぶん)からは何事(なにごと)もすることができない。ただ()くままにさばくのである。そして、わたしのこのさばきは(ただ)しい。それは、わたし自身(じしん)(かんが)えでするのではなく、わたしをつかわされたかたの、み(むね)(もと)めているからである。 31もし、わたしが自分(じぶん)自身(じしん)についてあかしをするならば、わたしのあかしはほんとうではない。 32わたしについてあかしをするかたはほかにあり、そして、その(ひと)がするあかしがほんとうであることを、わたしは()っている。 33あなたがたはヨハネのもとへ(ひと)をつかわしたが、そのとき(かれ)真理(しんり)についてあかしをした。 34わたしは(ひと)からあかしを()けないが、このことを()うのは、あなたがたが(すく)われるためである。 35ヨハネは()えて(かがや)くあかりであった。あなたがたは、しばらくの(あいだ)その(ひかり)(よろこ)(たの)しもうとした。 36しかし、わたしには、ヨハネのあかしよりも、もっと(ちから)あるあかしがある。(ちち)がわたしに成就(じょうじゅ)させようとしてお(あた)えになったわざ、すなわち、(いま)わたしがしているこのわざが、(ちち)のわたしをつかわされたことをあかししている。 37また、わたしをつかわされた(ちち)も、ご自分(じぶん)でわたしについてあかしをされた。あなたがたは、まだそのみ(こえ)()いたこともなく、そのみ姿(すがた)()たこともない。 38また、(かみ)がつかわされた(もの)(しん)じないから、(かみ)御言(みことば)はあなたがたのうちにとどまっていない。 39あなたがたは、聖書(せいしょ)(なか)永遠(えいえん)(いのち)があると(おも)って調(しら)べているが、この聖書(せいしょ)は、わたしについてあかしをするものである。 40しかも、あなたがたは、(いのち)()るためにわたしのもとにこようともしない。 41わたしは(ひと)からの(ほまれ)()けることはしない。 42しかし、あなたがたのうちには(かみ)(あい)する(あい)がないことを()っている。 43わたしは(ちち)()によってきたのに、あなたがたはわたしを()けいれない。もし、ほかの(ひと)(かれ)自身(じしん)()によって()るならば、その(ひと)()けいれるのであろう。 44(たがい)(ほまれ)()けながら、ただひとりの(かみ)からの(ほまれ)(もと)めようとしないあなたがたは、どうして(しん)じることができようか。 45わたしがあなたがたのことを(ちち)(うった)えると、(かんが)えてはいけない。あなたがたを(うった)える(もの)は、あなたがたが(たの)みとしているモーセその(ひと)である。 46もし、あなたがたがモーセを(しん)じたならば、わたしをも(しん)じたであろう。モーセは、わたしについて()いたのである。 47しかし、モーセの()いたものを(しん)じないならば、どうしてわたしの言葉(ことば)(しん)じるだろうか」。

第六章

1そののち、イエスはガリラヤの(うみ)、すなわち、テベリヤ(みずうみ)()こう(ぎし)(わた)られた。 2すると、(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)がイエスについてきた。病人(びょうにん)たちになさっていたしるしを()たからである。 3イエスは(やま)(のぼ)って、弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)にそこで()につかれた。 4(とき)に、ユダヤ(じん)(まつり)である過越(すぎこし)間近(まぢか)になっていた。 5イエスは()をあげ、(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)自分(じぶん)(ほう)(あつ)まって()るのを()て、ピリポに()われた、「どこからパンを()ってきて、この人々(ひとびと)()べさせようか」。 6これはピリポをためそうとして()われたのであって、ご自分(じぶん)ではしようとすることを、よくご承知(しょうち)であった。 7すると、ピリポはイエスに(こた)えた、「二百デナリのパンがあっても、めいめいが(すこ)しずついただくにも()りますまい」。 8弟子(でし)のひとり、シモン・ペテロの兄弟(きょうだい)アンデレがイエスに()った、 9「ここに、大麦(おおむぎ)のパン五つと、さかな二ひきとを()っている子供(こども)がいます。しかし、こんなに(おお)ぜいの(ひと)では、それが(なに)になりましょう」。 10イエスは「人々(ひとびと)をすわらせなさい」と()われた。その場所(ばしょ)には(くさ)(おお)かった。そこにすわった(おとこ)(かず)は五千(にん)ほどであった。 11そこで、イエスはパンを()り、感謝(かんしゃ)してから、すわっている人々(ひとびと)()(あた)え、また、さかなをも同様(どうよう)にして、(かれ)らの(のぞ)むだけ()(あた)えられた。 12人々(ひとびと)がじゅうぶんに()べたのち、イエスは弟子(でし)たちに()われた、「(すこ)しでもむだにならないように、パンくずのあまりを(あつ)めなさい」。 13そこで(かれ)らが(あつ)めると、五つの大麦(おおむぎ)のパンを()べて(のこ)ったパンくずは、十二のかごにいっぱいになった。 14人々(ひとびと)はイエスのなさったこのしるしを()て、「ほんとうに、この(ひと)こそ()にきたるべき預言者(よげんしゃ)である」と()った。
15イエスは人々(ひとびと)がきて、自分(じぶん)をとらえて(おう)にしようとしていると()って、ただひとり、また(やま)退(しりぞ)かれた。
16夕方(ゆうがた)になったとき、弟子(でし)たちは(うみ)べに(くだ)り、 17(ふね)()って(うみ)(わた)り、()こう(ぎし)のカペナウムに()きかけた。すでに(くら)くなっていたのに、イエスはまだ(かれ)らのところにおいでにならなかった。 18その(うえ)(つよ)(かぜ)()いてきて、(うみ)()()した。 19四、五十(ちょう)こぎ()したとき、イエスが(うみ)(うえ)(ある)いて(ふね)(ちか)づいてこられるのを()て、(かれ)らは(おそ)れた。 20すると、イエスは(かれ)らに()われた、「わたしだ、(おそ)れることはない」。 21そこで、(かれ)らは(よろこ)んでイエスを(ふね)(むか)えようとした。すると(ふね)は、すぐ、(かれ)らが()こうとしていた()()いた。
22その翌日(よくじつ)(うみ)()こう(ぎし)()っていた群衆(ぐんしゅう)は、そこに小舟(こぶね)が一そうしかなく、またイエスは弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)小舟(こぶね)にお()りにならず、ただ弟子(でし)たちだけが船出(ふなで)したのを()た。 23しかし、(すう)そうの小舟(こぶね)がテベリヤからきて、(しゅ)感謝(かんしゃ)されたのちパンを人々(ひとびと)()べさせた場所(ばしょ)(ちか)づいた。 24群衆(ぐんしゅう)は、イエスも弟子(でし)たちもそこにいないと()って、それらの小舟(こぶね)()り、イエスをたずねてカペナウムに()った。 25そして、(うみ)()こう(ぎし)でイエスに出会(であ)ったので()った、「先生(せんせい)、いつ、ここにおいでになったのですか」。 26イエスは(こた)えて()われた、「よくよくあなたがたに()っておく。あなたがたがわたしを(たず)ねてきているのは、しるしを()たためではなく、パンを()べて満腹(まんぷく)したからである。 27()ちる食物(しょくもつ)のためではなく、永遠(えいえん)(いのち)(いた)()ちない食物(しょくもつ)のために(はたら)くがよい。これは(ひと)()があなたがたに(あた)えるものである。(ちち)なる(かみ)は、(ひと)()にそれをゆだねられたのである」。 28そこで、(かれ)らはイエスに()った、「(かみ)のわざを(おこな)うために、わたしたちは(なに)をしたらよいでしょうか」。 29イエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「(かみ)がつかわされた(もの)(しん)じることが、(かみ)のわざである」。 30(かれ)らはイエスに()った、「わたしたちが()てあなたを(しん)じるために、どんなしるしを(おこな)って(くだ)さいますか。どんなことをして(くだ)さいますか。 31わたしたちの先祖(せんぞ)荒野(あらの)でマナを()べました。それは『(てん)よりのパンを(かれ)らに(あた)えて()べさせた』と()いてあるとおりです」。 32そこでイエスは(かれ)らに()われた、「よくよく()っておく。(てん)からのパンをあなたがたに(あた)えたのは、モーセではない。(てん)からのまことのパンをあなたがたに(あた)えるのは、わたしの(ちち)なのである。 33(かみ)のパンは、(てん)から(くだ)ってきて、この()(いのち)(あた)えるものである」。 34(かれ)らはイエスに()った、「(しゅ)よ、そのパンをいつもわたしたちに(くだ)さい」。 35イエスは(かれ)らに()われた、「わたしが(いのち)のパンである。わたしに()(もの)(けっ)して()えることがなく、わたしを(しん)じる(もの)(けっ)してかわくことがない。 36しかし、あなたがたに()ったが、あなたがたはわたしを()たのに(しん)じようとはしない。 37(ちち)がわたしに(あた)えて(くだ)さる(もの)(みな)、わたしに()るであろう。そして、わたしに()(もの)(けっ)して(こば)みはしない。 38わたしが(てん)から(くだ)ってきたのは、自分(じぶん)のこころのままを(おこな)うためではなく、わたしをつかわされたかたのみこころを(おこな)うためである。 39わたしをつかわされたかたのみこころは、わたしに(あた)えて(くだ)さった(もの)を、わたしがひとりも(うしな)わずに、(おわ)りの()によみがえらせることである。 40わたしの(ちち)のみこころは、()()(しん)じる(もの)が、ことごとく永遠(えいえん)(いのち)()ることなのである。そして、わたしはその人々(ひとびと)(おわ)りの()によみがえらせるであろう」。
41ユダヤ(じん)らは、イエスが「わたしは(てん)から(くだ)ってきたパンである」と()われたので、イエスについてつぶやき(はじ)めた。 42そして()った、「これはヨセフの()イエスではないか。わたしたちはその父母(ふぼ)()っているではないか。わたしは(てん)から(くだ)ってきたと、どうして(いま)いうのか」。 43イエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「(たがい)につぶやいてはいけない。 44わたしをつかわされた(ちち)()きよせて(くだ)さらなければ、だれもわたしに()ることはできない。わたしは、その人々(ひとびと)(おわ)りの()によみがえらせるであろう。 45預言者(よげんしゃ)(しょ)に、『(かれ)らはみな(かみ)(おし)えられるであろう』と()いてある。(ちち)から()いて(まな)んだ(もの)は、みなわたしに()るのである。 46(かみ)から()(もの)のほかに、だれかが(ちち)()たのではない。その(もの)だけが(ちち)()たのである。 47よくよくあなたがたに()っておく。(しん)じる(もの)には永遠(えいえん)(いのち)がある。 48わたしは(いのち)のパンである。 49あなたがたの先祖(せんぞ)荒野(あらの)でマナを()べたが、()んでしまった。 50しかし、(てん)から(くだ)ってきたパンを()べる(ひと)は、(けっ)して()ぬことはない。 51わたしは(てん)から(くだ)ってきた()きたパンである。それを()べる(もの)は、いつまでも()きるであろう。わたしが(あた)えるパンは、()(いのち)のために(あた)えるわたしの(にく)である」。
52そこで、ユダヤ(じん)らが(たがい)(ろん)じて()った、「この(ひと)はどうして、自分(じぶん)(にく)をわたしたちに(あた)えて()べさせることができようか」。 53イエスは(かれ)らに()われた、「よくよく()っておく。(ひと)()(にく)()べず、また、その()()まなければ、あなたがたの(うち)(いのち)はない。 54わたしの(にく)()べ、わたしの()()(もの)には、永遠(えいえん)(いのち)があり、わたしはその(ひと)(おわ)りの()によみがえらせるであろう。 55わたしの(にく)はまことの食物(しょくもつ)、わたしの()はまことの()(もの)である。 56わたしの(にく)()べ、わたしの()()(もの)はわたしにおり、わたしもまたその(ひと)におる。 57()ける(ちち)がわたしをつかわされ、また、わたしが(ちち)によって()きているように、わたしを()べる(もの)もわたしによって()きるであろう。 58(てん)から(くだ)ってきたパンは、先祖(せんぞ)たちが()べたが()んでしまったようなものではない。このパンを()べる(もの)は、いつまでも()きるであろう」。 59これらのことは、イエスがカペナウムの会堂(かいどう)(おし)えておられたときに()われたものである。
60弟子(でし)たちのうちの(おお)くの(もの)は、これを()いて()った、「これは、ひどい言葉(ことば)だ。だれがそんなことを()いておられようか」。 61しかしイエスは、弟子(でし)たちがそのことでつぶやいているのを見破(みやぶ)って、(かれ)らに()われた、「このことがあなたがたのつまずきになるのか。 62それでは、もし(ひと)()(まえ)にいた(ところ)(のぼ)るのを()たら、どうなるのか。 63(ひと)()かすものは(れい)であって、(にく)はなんの(やく)にも()たない。わたしがあなたがたに(はな)した言葉(ことば)(れい)であり、また(いのち)である。 64しかし、あなたがたの(なか)には(しん)じない(もの)がいる」。イエスは、(はじ)めから、だれが(しん)じないか、また、だれが(かれ)裏切(うらぎ)るかを()っておられたのである。 65そしてイエスは()われた、「それだから、(ちち)(あた)えて(くだ)さった(もの)でなければ、わたしに()ることはできないと、()ったのである」。
66それ以来(いらい)(おお)くの弟子(でし)たちは()っていって、もはやイエスと行動(こうどう)(とも)にしなかった。 67そこでイエスは十二弟子(でし)()われた、「あなたがたも()ろうとするのか」。 68シモン・ペテロが(こた)えた、「(しゅ)よ、わたしたちは、だれのところに()きましょう。永遠(えいえん)(いのち)(ことば)をもっているのはあなたです。 69わたしたちは、あなたが(かみ)聖者(せいじゃ)であることを(しん)じ、また()っています」。 70イエスは(かれ)らに(こた)えられた、「あなたがた十二(にん)(えら)んだのは、わたしではなかったか。それだのに、あなたがたのうちのひとりは悪魔(あくま)である」。 71これは、イスカリオテのシモンの()ユダをさして()われたのである。このユダは、十二弟子(でし)のひとりでありながら、イエスを裏切(うらぎ)ろうとしていた。

第七章

1そののち、イエスはガリラヤを巡回(じゅんかい)しておられた。ユダヤ(じん)たちが自分(じぶん)(ころ)そうとしていたので、ユダヤを巡回(じゅんかい)しようとはされなかった。 2(とき)に、ユダヤ(じん)仮庵(かりいお)(まつり)(ちか)づいていた。 3そこで、イエスの兄弟(きょうだい)たちがイエスに()った、「あなたがしておられるわざを弟子(でし)たちにも()せるために、ここを()りユダヤに()ってはいかがです。 4自分(じぶん)(おおやけ)けにあらわそうと(おも)っている(ひと)で、(かく)れて仕事(しごと)をするものはありません。あなたがこれらのことをするからには、自分(じぶん)をはっきりと()にあらわしなさい」。 5こう()ったのは、兄弟(きょうだい)たちもイエスを(しん)じていなかったからである。 6そこでイエスは(かれ)らに()われた、「わたしの(とき)はまだきていない。しかし、あなたがたの(とき)はいつも(そな)わっている。 7()はあなたがたを(にく)()ないが、わたしを(にく)んでいる。わたしが()のおこないの(わる)いことを、あかししているからである。 8あなたがたこそ(まつり)()きなさい。わたしはこの(まつり)には()かない。わたしの(とき)はまだ()ちていないから」。 9(かれ)らにこう()って、イエスはガリラヤにとどまっておられた。
10しかし、兄弟(きょうだい)たちが(まつり)()ったあとで、イエスも人目(ひとめ)にたたぬように、ひそかに()かれた。 11ユダヤ(じん)らは(まつり)(とき)に、「あの(ひと)はどこにいるのか」と()って、イエスを(さが)していた。 12群衆(ぐんしゅう)(なか)に、イエスについていろいろとうわさが()った。ある人々(ひとびと)は、「あれはよい(ひと)だ」と()い、()人々(ひとびと)は、「いや、あれは群衆(ぐんしゅう)(まど)わしている」と()った。 13しかし、ユダヤ(じん)らを(おそ)れて、イエスのことを公然(こうぜん)(くち)にする(もの)はいなかった。
14(まつり)(なか)ばになってから、イエスは(みや)(のぼ)って(おし)(はじ)められた。 15すると、ユダヤ(じん)たちは(おどろ)いて()った、「この(ひと)学問(がくもん)をしたこともないのに、どうして律法(りっぽう)知識(ちしき)をもっているのだろう」。 16そこでイエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「わたしの(おしえ)はわたし自身(じしん)(おしえ)ではなく、わたしをつかわされたかたの(おしえ)である。 17(かみ)のみこころを(おこな)おうと(おも)(もの)であれば、だれでも、わたしの(かた)っているこの(おしえ)(かみ)からのものか、それとも、わたし自身(じしん)から()たものか、わかるであろう。 18自分(じぶん)から()たことを(かた)(もの)は、自分(じぶん)栄光(えいこう)(もと)めるが、自分(じぶん)をつかわされたかたの栄光(えいこう)(もと)める(もの)真実(しんじつ)であって、その(ひと)(うち)には(いつわ)りがない。 19モーセはあなたがたに律法(りっぽう)(あた)えたではないか。それだのに、あなたがたのうちには、その律法(りっぽう)(おこな)(もの)がひとりもない。あなたがたは、なぜわたしを(ころ)そうと(おも)っているのか」。 20群衆(ぐんしゅう)(こた)えた、「あなたは悪霊(あくれい)()りつかれている。だれがあなたを(ころ)そうと(おも)っているものか」。 21イエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「わたしが一つのわざをしたところ、あなたがたは(みな)それを()(おどろ)いている。 22モーセはあなたがたに割礼(かつれい)(めい)じたので、(これは、(じつ)は、モーセから(はじ)まったのではなく、先祖(せんぞ)たちから(はじ)まったものである)あなたがたは安息日(あんそくにち)にも(ひと)割礼(かつれい)(ほどこ)している。 23もし、モーセの律法(りっぽう)(やぶ)られないように、安息日(あんそくにち)であっても割礼(かつれい)()けるのなら、安息日(あんそくにち)(ひと)全身(ぜんしん)丈夫(じょうぶ)にしてやったからといって、どうして、そんなにおこるのか。 24うわべで(ひと)をさばかないで、(ただ)しいさばきをするがよい」。
25さて、エルサレムのある(ひと)たちが()った、「この(ひと)人々(ひとびと)(ころ)そうと(おも)っている(もの)ではないか。 26()よ、(かれ)公然(こうぜん)(かた)っているのに、人々(ひとびと)はこれに(たい)して(なに)()わない。役人(やくにん)たちは、この(ひと)がキリストであることを、ほんとうに()っているのではなかろうか。 27わたしたちはこの(ひと)がどこからきたのか()っている。しかし、キリストが(あらわ)れる(とき)には、どこから()るのか()っている(もの)は、ひとりもいない」。 28イエスは(みや)(うち)(おし)えながら、(さけ)んで()われた、「あなたがたは、わたしを()っており、また、わたしがどこからきたかも()っている。しかし、わたしは自分(じぶん)からきたのではない。わたしをつかわされたかたは真実(しんじつ)であるが、あなたがたは、そのかたを()らない。 29わたしは、そのかたを()っている。わたしはそのかたのもとからきた(もの)で、そのかたがわたしをつかわされたのである」。 30そこで人々(ひとびと)はイエスを(とら)えようと(はか)ったが、だれひとり()をかける(もの)はなかった。イエスの(とき)が、まだきていなかったからである。 31しかし、群衆(ぐんしゅう)(なか)(おお)くの(もの)が、イエスを(しん)じて()った、「キリストがきても、この(ひと)(おこな)ったよりも(おお)くのしるしを(おこな)うだろうか」。
32群衆(ぐんしゅう)がイエスについてこのようなうわさをしているのを、パリサイ(びと)たちは(みみ)にした。そこで、祭司長(さいしちょう)たちやパリサイ(びと)たちは、イエスを(とら)えようとして、下役(したやく)どもをつかわした。 33イエスは()われた、「(いま)しばらくの(あいだ)、わたしはあなたがたと一緒(いっしょ)にいて、それから、わたしをおつかわしになったかたのみもとに()く。 34あなたがたはわたしを(さが)すであろうが、()つけることはできない。そしてわたしのいる(ところ)に、あなたがたは()ることができない」。 35そこでユダヤ(じん)たちは(たがい)()った、「わたしたちが()つけることができないというのは、どこへ()こうとしているのだろう。ギリシヤ(じん)(なか)離散(りさん)している(ひと)たちのところにでも()って、ギリシヤ(じん)(おし)えようというのだろうか。 36また、『わたしを(さが)すが、()つけることはできない。そしてわたしのいる(ところ)には()ることができないだろう』と()ったその言葉(ことば)は、どういう意味(いみ)だろう」。
37(まつり)(おわ)りの大事(だいじ)()に、イエスは()って、(さけ)んで()われた、「だれでもかわく(もの)は、わたしのところにきて()むがよい。 38わたしを(しん)じる(もの)は、聖書(せいしょ)()いてあるとおり、その(はら)から()ける(みず)(かわ)となって()()るであろう」。 39これは、イエスを(しん)じる人々(ひとびと)()けようとしている御霊(みたま)をさして()われたのである。すなわち、イエスはまだ栄光(えいこう)()けておられなかったので、御霊(みたま)がまだ(くだ)っていなかったのである。 40群衆(ぐんしゅう)のある(もの)がこれらの言葉(ことば)()いて、「このかたは、ほんとうに、あの預言者(よげんしゃ)である」と()い、 41ほかの(ひと)たちは「このかたはキリストである」と()い、また、ある人々(ひとびと)は、「キリストはまさか、ガリラヤからは()てこないだろう。 42キリストは、ダビデの子孫(しそん)から、またダビデのいたベツレヘムの(むら)から()ると、聖書(せいしょ)()いてあるではないか」と()った。 43こうして、群衆(ぐんしゅう)(あいだ)にイエスのことで分争(ぶんそう)(しょう)じた。 44(かれ)らのうちのある人々(ひとびと)は、イエスを(とら)えようと(おも)ったが、だれひとり()をかける(もの)はなかった。
45さて、下役(したやく)どもが祭司長(さいしちょう)たちやパリサイ(びと)たちのところに(かえ)ってきたので、(かれ)らはその下役(したやく)どもに()った、「なぜ、あの(ひと)()れてこなかったのか」。 46下役(したやく)どもは(こた)えた、「この(ひと)(かた)るように(かた)った(もの)は、これまでにありませんでした」。 47パリサイ(びと)たちが(かれ)らに(こた)えた、「あなたがたまでが、だまされているのではないか。 48役人(やくにん)たちやパリサイ(びと)たちの(なか)で、ひとりでも(かれ)(しん)じた(もの)があっただろうか。 49律法(りっぽう)をわきまえないこの群衆(ぐんしゅう)は、のろわれている」。 50(かれ)らの(なか)のひとりで、以前(いぜん)にイエスに()いにきたことのあるニコデモが、(かれ)らに()った、 51「わたしたちの律法(りっぽう)によれば、まずその(ひと)()(ぶん)()き、その(ひと)のしたことを()った(うえ)でなければ、さばくことをしないのではないか」。 52(かれ)らは(こた)えて()った、「あなたもガリラヤ()なのか。よく調(しら)べてみなさい、ガリラヤからは預言者(よげんしゃ)()るものではないことが、わかるだろう」。
53そして、人々(ひとびと)はおのおの(いえ)(かえ)って()った。

第八章

1イエスはオリブ(やま)()かれた。 2(あさ)(はや)くまた(みや)にはいられると、人々(ひとびと)(みな)みもとに(あつ)まってきたので、イエスはすわって(かれ)らを(おし)えておられた。 3すると、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちやパリサイ(びと)たちが、姦淫(かんいん)をしている(とき)につかまえられた(おんな)をひっぱってきて、(なか)()たせた(うえ)、イエスに()った、 4先生(せんせい)、この(おんな)姦淫(かんいん)()でつかまえられました。 5モーセは律法(りっぽう)(なか)で、こういう(おんな)(いし)()(ころ)せと(めい)じましたが、あなたはどう(おも)いますか」。 6(かれ)らがそう()ったのは、イエスをためして、(うった)える口実(こうじつ)()るためであった。しかし、イエスは()をかがめて、(ゆび)地面(じめん)(なに)()いておられた。 7(かれ)らが()(つづ)けるので、イエスは()(おこ)して(かれ)らに()われた、「あなたがたの(なか)(つみ)のない(もの)が、まずこの(おんな)(いし)()げつけるがよい」。 8そしてまた()をかがめて、地面(じめん)(もの)()きつづけられた。 9これを()くと、(かれ)らは年寄(としより)から(はじ)めて、ひとりびとり()()き、ついに、イエスだけになり、(おんな)(なか)にいたまま(のこ)された。 10そこでイエスは()(おこ)して(おんな)()われた、「(おんな)よ、みんなはどこにいるか。あなたを(ばっ)する(もの)はなかったのか」。 11(おんな)()った、「(しゅ)よ、だれもございません」。イエスは()われた、「わたしもあなたを(ばっ)しない。お(かえ)りなさい。今後(こんご)はもう(つみ)(おか)さないように」。〕
12イエスは、また人々(ひとびと)(かた)ってこう()われた、「わたしは()(ひかり)である。わたしに(したが)って()(もの)は、やみのうちを(ある)くことがなく、(いのち)(ひかり)をもつであろう」。 13するとパリサイ(びと)たちがイエスに()った、「あなたは、自分(じぶん)のことをあかししている。あなたのあかしは真実(しんじつ)ではない」。 14イエスは(かれ)らに(こた)えて()われた、「たとい、わたしが自分(じぶん)のことをあかししても、わたしのあかしは真実(しんじつ)である。それは、わたしがどこからきたのか、また、どこへ()くのかを()っているからである。しかし、あなたがたは、わたしがどこからきて、どこへ()くのかを()らない。 15あなたがたは(にく)によって(ひと)をさばくが、わたしはだれもさばかない。 16しかし、もしわたしがさばくとすれば、わたしのさばきは(ただ)しい。なぜなら、わたしはひとりではなく、わたしをつかわされたかたが、わたしと一緒(いっしょ)だからである。 17あなたがたの律法(りっぽう)には、ふたりによる証言(しょうげん)真実(しんじつ)だと、()いてある。 18わたし自身(じしん)のことをあかしするのは、わたしであるし、わたしをつかわされた(ちち)も、わたしのことをあかしして(くだ)さるのである」。 19すると、(かれ)らはイエスに()った、「あなたの(ちち)はどこにいるのか」。イエスは(こた)えられた、「あなたがたは、わたしをもわたしの(ちち)をも()っていない。もし、あなたがたがわたしを()っていたなら、わたしの(ちち)をも()っていたであろう」。 20イエスが(みや)(うち)(おし)えていた(とき)、これらの言葉(ことば)をさいせん(はこ)のそばで(かた)られたのであるが、イエスの(とき)がまだきていなかったので、だれも(とら)える(もの)がなかった。
21さて、また(かれ)らに()われた、「わたしは()って()く。あなたがたはわたしを(さが)(もと)めるであろう。そして自分(じぶん)(つみ)のうちに()ぬであろう。わたしの()(ところ)には、あなたがたは()ることができない」。 22そこでユダヤ(じん)たちは()った、「わたしの()(ところ)に、あなたがたは()ることができないと、()ったのは、あるいは自殺(じさつ)でもしようとするつもりか」。 23イエスは(かれ)らに()われた、「あなたがたは(した)から()(もの)だが、わたしは(うえ)からきた(もの)である。あなたがたはこの()(もの)であるが、わたしはこの()(もの)ではない。 24だからわたしは、あなたがたは自分(じぶん)(つみ)のうちに()ぬであろうと、()ったのである。もしわたしがそういう(もの)であることをあなたがたが(しん)じなければ、(つみ)のうちに()ぬことになるからである」。 25そこで(かれ)らはイエスに()った、「あなたは、いったい、どういうかたですか」。イエスは(かれ)らに()われた、「わたしがどういう(もの)であるかは、(はじ)めからあなたがたに()っているではないか。 26あなたがたについて、わたしの()うべきこと、さばくべきことが、たくさんある。しかし、わたしをつかわされたかたは真実(しんじつ)なかたである。わたしは、そのかたから()いたままを()にむかって(かた)るのである」。 27(かれ)らは、イエスが(ちち)について(はな)しておられたことを(さと)らなかった。 28そこでイエスは()われた、「あなたがたが(ひと)()()げてしまった(のち)はじめて、わたしがそういう(もの)であること、また、わたしは自分(じぶん)からは(なに)もせず、ただ(ちち)(おし)えて(くだ)さったままを(はな)していたことが、わかってくるであろう。 29わたしをつかわされたかたは、わたしと一緒(いっしょ)におられる。わたしは、いつも(かみ)のみこころにかなうことをしているから、わたしをひとり()きざりになさることはない」。 30これらのことを(かた)られたところ、(おお)くの人々(ひとびと)がイエスを(しん)じた。
31イエスは自分(じぶん)(しん)じたユダヤ(じん)たちに()われた、「もしわたしの言葉(ことば)のうちにとどまっておるなら、あなたがたは、ほんとうにわたしの弟子(でし)なのである。 32また真理(しんり)()るであろう。そして真理(しんり)は、あなたがたに自由(じゆう)()させるであろう」。 33そこで、(かれ)らはイエスに()った、「わたしたちはアブラハムの子孫(しそん)であって、(ひと)奴隷(どれい)になったことなどは、一度(いちど)もない。どうして、あなたがたに自由(じゆう)()させるであろうと、()われるのか」。 34イエスは(かれ)らに(こた)えられた、「よくよくあなたがたに()っておく。すべて(つみ)(おか)(もの)(つみ)奴隷(どれい)である。 35そして、奴隷(どれい)はいつまでも(いえ)にいる(もの)ではない。しかし、()はいつまでもいる。 36だから、もし()があなたがたに自由(じゆう)()させるならば、あなたがたは、ほんとうに自由(じゆう)(もの)となるのである。 37わたしは、あなたがたがアブラハムの子孫(しそん)であることを()っている。それだのに、あなたがたはわたしを(ころ)そうとしている。わたしの言葉(ことば)が、あなたがたのうちに()をおろしていないからである。 38わたしはわたしの(ちち)のもとで()たことを(かた)っているが、あなたがたは自分(じぶん)(ちち)から()いたことを(おこな)っている」。 39(かれ)らはイエスに(こた)えて()った、「わたしたちの(ちち)はアブラハムである」。イエスは(かれ)らに()われた、「もしアブラハムの()であるなら、アブラハムのわざをするがよい。 40ところが(いま)(かみ)から()いた真理(しんり)をあなたがたに(かた)ってきたこのわたしを、(ころ)そうとしている。そんなことをアブラハムはしなかった。 41あなたがたは、あなたがたの(ちち)のわざを(おこな)っているのである」。(かれ)らは()った、「わたしたちは、不品行(ふひんこう)結果(けっか)うまれた(もの)ではない。わたしたちにはひとりの(ちち)がある。それは(かみ)である」。 42イエスは(かれ)らに()われた、「(かみ)があなたがたの(ちち)であるならば、あなたがたはわたしを(あい)するはずである。わたしは(かみ)から()(もの)、また(かみ)からきている(もの)であるからだ。わたしは自分(じぶん)からきたのではなく、(かみ)からつかわされたのである。 43どうしてあなたがたは、わたしの(はな)すことがわからないのか。あなたがたが、わたしの言葉(ことば)(さと)ることができないからである。 44あなたがたは自分(じぶん)(ちち)、すなわち、悪魔(あくま)から()てきた(もの)であって、その(ちち)欲望(よくぼう)どおりを(おこな)おうと(おも)っている。(かれ)(はじ)めから、人殺(ひとごろ)しであって、真理(しんり)()(もの)ではない。(かれ)のうちには真理(しんり)がないからである。(かれ)(いつわ)りを()うとき、いつも自分(じぶん)本音(ほんね)をはいているのである。(かれ)(いつわ)(もの)であり、(いつわ)りの(ちち)であるからだ。 45しかし、わたしが真理(しんり)(かた)っているので、あなたがたはわたしを(しん)じようとしない。 46あなたがたのうち、だれがわたしに(つみ)があると()めうるのか。わたしは真理(しんり)(かた)っているのに、なぜあなたがたは、わたしを(しん)じないのか。 47(かみ)からきた(もの)(かみ)言葉(ことば)()(したが)うが、あなたがたが()(したが)わないのは、(かみ)からきた(もの)でないからである」。
48ユダヤ(じん)たちはイエスに(こた)えて()った、「あなたはサマリヤ(びと)で、悪霊(あくれい)()りつかれていると、わたしたちが()うのは、当然(とうぜん)ではないか」。 49イエスは(こた)えられた、「わたしは、悪霊(あくれい)()りつかれているのではなくて、わたしの(ちち)(おも)んじているのだが、あなたがたはわたしを(かろ)んじている。 50わたしは自分(じぶん)栄光(えいこう)(もと)めてはいない。それを(もと)めるかたが(べつ)にある。そのかたは、またさばくかたである。 51よくよく()っておく。もし(ひと)がわたしの言葉(ことば)(まも)るならば、その(ひと)はいつまでも()()ることがないであろう」。 52ユダヤ(じん)たちが()った、「あなたが悪霊(あくれい)()りつかれていることが、(いま)わかった。アブラハムは()に、預言者(よげんしゃ)たちも()んでいる。それだのに、あなたは、わたしの言葉(ことば)(まも)(もの)はいつまでも()(あじ)わうことがないであろうと、()われる。 53あなたは、わたしたちの(ちち)アブラハムより(えら)いのだろうか。(かれ)()に、預言者(よげんしゃ)たちも()んだではないか。あなたは、いったい、自分(じぶん)をだれと(おも)っているのか」。 54イエスは(こた)えられた、「わたしがもし自分(じぶん)栄光(えいこう)()するなら、わたしの栄光(えいこう)は、むなしいものである。わたしに栄光(えいこう)(あた)えるかたは、わたしの(ちち)であって、あなたがたが自分(じぶん)(かみ)だと()っているのは、そのかたのことである。 55あなたがたはその(かみ)()っていないが、わたしは()っている。もしわたしが(かみ)()らないと()うならば、あなたがたと(おな)じような(いつわ)(もの)であろう。しかし、わたしはそのかたを()り、その御言(みことば)(まも)っている。 56あなたがたの(ちち)アブラハムは、わたしのこの()()ようとして(たの)しんでいた。そしてそれを()(よろこ)んだ」。 57そこでユダヤ(じん)たちはイエスに()った、「あなたはまだ五十にもならないのに、アブラハムを()たのか」。 58イエスは(かれ)らに()われた、「よくよくあなたがたに()っておく。アブラハムの(うま)れる(まえ)からわたしは、いるのである」。 59そこで(かれ)らは(いし)をとって、イエスに()げつけようとした。しかし、イエスは()(かく)して、(みや)から()()かれた。

第九章

1イエスが(みち)をとおっておられるとき、(うま)れつきの盲人(もうじん)()られた。 2弟子(でし)たちはイエスに(たず)ねて()った、「先生(せんせい)、この(ひと)(うま)れつき盲人(もうじん)なのは、だれが(つみ)(おか)したためですか。本人(ほんにん)ですか、それともその両親(りょうしん)ですか」。 3イエスは(こた)えられた、「本人(ほんにん)(つみ)(おか)したのでもなく、また、その両親(りょうしん)(おか)したのでもない。ただ(かみ)のみわざが、(かれ)(うえ)(あらわ)れるためである。 4わたしたちは、わたしをつかわされたかたのわざを、(ひる)(あいだ)にしなければならない。(よる)()る。すると、だれも(はたら)けなくなる。 5わたしは、この()にいる(あいだ)は、()(ひかり)である」。 6イエスはそう()って、()につばきをし、そのつばきで、どろをつくり、そのどろを盲人(もうじん)()()って()われた、 7「シロアム(つかわされた(もの)、の())の(いけ)()って(あら)いなさい」。そこで(かれ)()って(あら)った。そして()えるようになって、(かえ)って()った。 8近所(きんじょ)人々(ひとびと)や、(かれ)がもと、こじきであったのを見知(みし)っていた人々(ひとびと)()った、「この(ひと)は、すわってこじきをしていた(もの)ではないか」。 9ある人々(ひとびと)は「その(ひと)だ」と()い、()人々(ひとびと)は「いや、ただあの(ひと)()ているだけだ」と()った。しかし、本人(ほんにん)は「わたしがそれだ」と()った。 10そこで人々(ひとびと)(かれ)()った、「では、おまえの()はどうしてあいたのか」。 11(かれ)(こた)えた、「イエスというかたが、どろをつくって、わたしの()()り、『シロアムに()って(あら)え』と()われました。それで、()って(あら)うと、()えるようになりました」。 12人々(ひとびと)(かれ)()った、「その(ひと)はどこにいるのか」。(かれ)は「()りません」と(こた)えた。
13人々(ひとびと)は、もと盲人(もうじん)であったこの(ひと)を、パリサイ(びと)たちのところにつれて()った。 14イエスがどろをつくって(かれ)()をあけたのは、安息日(あんそくにち)であった。 15パリサイ(びと)たちもまた、「どうして()えるようになったのか」、と(かれ)(たず)ねた。(かれ)(こた)えた、「あのかたがわたしの()にどろを()り、わたしがそれを(あら)い、そして()えるようになりました」。 16そこで、あるパリサイ(びと)たちが()った、「その(ひと)(かみ)からきた(ひと)ではない。安息日(あんそくにち)(まも)っていないのだから」。しかし、ほかの人々(ひとびと)()った、「(つみ)のある(ひと)が、どうしてそのようなしるしを(おこな)うことができようか」。そして(かれ)らの(あいだ)分争(ぶんそう)(しょう)じた。 17そこで(かれ)らは、もう一()この盲人(もうじん)()いた、「おまえの()をあけてくれたその(ひと)を、どう(おも)うか」。「預言者(よげんしゃ)だと(おも)います」と(かれ)()った。 18ユダヤ(じん)たちは、(かれ)がもと盲人(もうじん)であったが()えるようになったことを、まだ(しん)じなかった。ついに(かれ)らは、()()えるようになったこの(ひと)両親(りょうしん)()んで、 19(たず)ねて()った、「これが、(うま)れつき盲人(もうじん)であったと、おまえたちの()っているむすこか。それではどうして、いま()()えるのか」。 20両親(りょうしん)(こた)えて()った、「これがわたしどものむすこであること、また(うま)れつき盲人(もうじん)であったことは(ぞん)じています。 21しかし、どうしていま()えるようになったのか、それは()りません。また、だれがその()をあけて(くだ)さったのかも()りません。あれに()いて(くだ)さい。あれはもうおとなですから、自分(じぶん)のことは自分(じぶん)(はな)せるでしょう」。 22両親(りょうしん)はユダヤ(じん)たちを(おそ)れていたので、こう(こた)えたのである。それは、もしイエスをキリストと告白(こくはく)する(もの)があれば、会堂(かいどう)から()()すことに、ユダヤ(じん)たちが(すで)()めていたからである。 23(かれ)両親(りょうしん)が「おとなですから、あれに()いて(くだ)さい」と()ったのは、そのためであった。
24そこで(かれ)らは、盲人(もうじん)であった(ひと)をもう一度(いちど)()んで()った、「(かみ)栄光(えいこう)()するがよい。あの(ひと)罪人(つみびと)であることは、わたしたちにはわかっている」。 25すると(かれ)()った、「あのかたが罪人(つみびと)であるかどうか、わたしは()りません。ただ一つのことだけ()っています。わたしは(めくら)であったが、(いま)()えるということです」。 26そこで(かれ)らは()った、「その(ひと)はおまえに(なに)をしたのか。どんなにしておまえの()をあけたのか」。 27(かれ)(こた)えた、「そのことはもう(はな)してあげたのに、()いてくれませんでした。なぜまた()こうとするのですか。あなたがたも、あの(ひと)弟子(でし)になりたいのですか」。 28そこで(かれ)らは(かれ)をののしって()った、「おまえはあれの弟子(でし)だが、わたしたちはモーセの弟子(でし)だ。 29モーセに(かみ)(かた)られたということは()っている。だが、あの(ひと)がどこからきた(もの)か、わたしたちは()らぬ」。 30そこで(かれ)(こた)えて()った、「わたしの()をあけて(くだ)さったのに、そのかたがどこからきたか、ご(ぞん)じないとは、不思議(ふしぎ)千万(せんばん)です。 31わたしたちはこのことを()っています。(かみ)罪人(つみびと)()うことはお()きいれになりませんが、(かみ)(うやま)い、そのみこころを(おこな)(ひと)()うことは、()きいれて(くだ)さいます。 32(うま)れつき(めくら)であった(もの)()をあけた(ひと)があるということは、世界(せかい)(はじ)まって以来(いらい)()いたことがありません。 33もしあのかたが(かみ)からきた(ひと)でなかったら、何一(なにひと)つできなかったはずです」。 34これを()いて(かれ)らは()った、「おまえは(まった)(つみ)(なか)(うま)れていながら、わたしたちを(おし)えようとするのか」。そして(かれ)(そと)()()した。
35イエスは、その(ひと)(そと)()()されたことを()かれた。そして(かれ)()って()われた、「あなたは(ひと)()(しん)じるか」。 36(かれ)(こた)えて()った、「(しゅ)よ、それはどなたですか。そのかたを(しん)じたいのですが」。 37イエスは(かれ)()われた、「あなたは、もうその(ひと)()っている。(いま)あなたと(はな)しているのが、その(ひと)である」。 38すると(かれ)は、「(しゅ)よ、(しん)じます」と()って、イエスを(はい)した。 39そこでイエスは()われた、「わたしがこの()にきたのは、さばくためである。すなわち、()えない(ひと)たちが()えるようになり、()える(ひと)たちが()えないようになるためである」。 40そこにイエスと一緒(いっしょ)にいたあるパリサイ(びと)たちが、それを()いてイエスに()った、「それでは、わたしたちも(めくら)なのでしょうか」。 41イエスは(かれ)らに()われた、「もしあなたがたが盲人(もうじん)であったなら、(つみ)はなかったであろう。しかし、(いま)あなたがたが『()える』と()()るところに、あなたがたの(つみ)がある。

第十章

1よくよくあなたがたに()っておく。(ひつじ)(かこ)いにはいるのに、(もん)からでなく、ほかの(ところ)からのりこえて()(もの)は、盗人(ぬすびと)であり、強盗(ごうとう)である。 2(もん)からはいる(もの)は、(ひつじ)羊飼(ひつじかい)である。 3門番(もんばん)(かれ)のために(もん)(ひら)き、(ひつじ)(かれ)(こえ)()く。そして(かれ)自分(じぶん)(ひつじ)()をよんで()()す。 4自分(じぶん)(ひつじ)をみな()してしまうと、(かれ)(ひつじ)先頭(せんとう)()って()く。(ひつじ)はその(こえ)()っているので、(かれ)について()くのである。 5ほかの(ひと)には、ついて()かないで()()る。その(ひと)(こえ)()らないからである」。 6イエスは(かれ)らにこの比喩(ひゆ)(はな)されたが、(かれ)らは自分(じぶん)たちにお(はな)しになっているのが(なに)のことだか、わからなかった。
7そこで、イエスはまた()われた、「よくよくあなたがたに()っておく。わたしは(ひつじ)(もん)である。 8わたしよりも(まえ)にきた(ひと)は、みな盗人(ぬすびと)であり、強盗(ごうとう)である。(ひつじ)(かれ)らに()(したが)わなかった。 9わたしは(もん)である。わたしをとおってはいる(もの)(すく)われ、また出入(でい)りし、牧草(ぼくそう)にありつくであろう。 10盗人(ぬすびと)()るのは、(ぬす)んだり、(ころ)したり、(ほろ)ぼしたりするためにほかならない。わたしがきたのは、(ひつじ)(いのち)()させ、(ゆた)かに()させるためである。 11わたしはよい羊飼(ひつじかい)である。よい羊飼(ひつじかい)は、(ひつじ)のために(いのち)()てる。 12羊飼(ひつじかい)ではなく、(ひつじ)自分(じぶん)のものでもない雇人(やといにん)は、おおかみが()るのを()ると、(ひつじ)をすてて()()る。そして、おおかみは(ひつじ)(うば)い、また()()らす。 13(かれ)雇人(やといにん)であって、(ひつじ)のことを(こころ)にかけていないからである。 14わたしはよい羊飼(ひつじかい)であって、わたしの(ひつじ)()り、わたしの(ひつじ)はまた、わたしを()っている。 15それはちょうど、(ちち)がわたしを()っておられ、わたしが(ちち)()っているのと(おな)じである。そして、わたしは(ひつじ)のために(いのち)()てるのである。 16わたしにはまた、この(かこ)いにいない()(ひつじ)がある。わたしは(かれ)らをも(みちび)かねばならない。(かれ)らも、わたしの(こえ)()(したが)うであろう。そして、ついに一つの()れ、ひとりの羊飼(ひつじかい)となるであろう。 17(ちち)は、わたしが自分(じぶん)(いのち)()てるから、わたしを(あい)して(くだ)さるのである。(いのち)()てるのは、それを(ふたた)()るためである。 18だれかが、わたしからそれを()()るのではない。わたしが、自分(じぶん)からそれを()てるのである。わたしには、それを()てる(ちから)があり、またそれを()ける(ちから)もある。これはわたしの(ちち)から(さず)かった(さだ)めである」。
19これらの言葉(ことば)(かた)られたため、ユダヤ(じん)(あいだ)にまたも分争(ぶんそう)(しょう)じた。 20そのうちの(おお)くの(もの)()った、「(かれ)悪霊(あくれい)()りつかれて、()(くる)っている。どうして、あなたがたはその()うことを()くのか」。 21()人々(ひとびと)()った、「それは悪霊(あくれい)()りつかれた(もの)言葉(ことば)ではない。悪霊(あくれい)盲人(もうじん)()をあけることができようか」。
22そのころ、エルサレムで(みや)きよめの(まつり)(おこな)われた。(とき)(ふゆ)であった。 23イエスは、(みや)(なか)にあるソロモンの(ろう)(ある)いておられた。 24するとユダヤ(じん)たちが、イエスを()(かこ)んで()った、「いつまでわたしたちを不安(ふあん)のままにしておくのか。あなたがキリストであるなら、そうとはっきり()っていただきたい」。 25イエスは(かれ)らに(こた)えられた、「わたしは(はな)したのだが、あなたがたは(しん)じようとしない。わたしの(ちち)()によってしているすべてのわざが、わたしのことをあかししている。 26あなたがたが(しん)じないのは、わたしの(ひつじ)でないからである。 27わたしの(ひつじ)はわたしの(こえ)()(したが)う。わたしは(かれ)らを()っており、(かれ)らはわたしについて()る。 28わたしは、(かれ)らに永遠(えいえん)(いのち)(あた)える。だから、(かれ)らはいつまでも(ほろ)びることがなく、また、(かれ)らをわたしの()から(うば)()(もの)はない。 29わたしの(ちち)がわたしに(くだ)さったものは、すべてにまさるものである。そしてだれも(ちち)のみ()から、それを(うば)()ることはできない。 30わたしと(ちち)とは一つである」。 31そこでユダヤ(じん)たちは、イエスを()(ころ)そうとして、また(いし)()りあげた。 32するとイエスは(かれ)らに(こた)えられた、「わたしは、(ちち)による(おお)くのよいわざを、あなたがたに(しめ)した。その(なか)のどのわざのために、わたしを(いし)()(ころ)そうとするのか」。 33ユダヤ(じん)たちは(こた)えた、「あなたを(いし)(ころ)そうとするのは、よいわざをしたからではなく、(かみ)(けが)したからである。また、あなたは人間(にんげん)であるのに、自分(じぶん)(かみ)としているからである」。 34イエスは(かれ)らに(こた)えられた、「あなたがたの律法(りっぽう)に、『わたしは()う、あなたがたは神々(かみがみ)である』と()いてあるではないか。 35(かみ)(ことば)(たく)された人々(ひとびと)が、神々(かみがみ)といわれておるとすれば、(そして聖書(せいしょ)(ことば)は、すたることがあり()ない) 36(ちち)(せい)(べつ)して、()につかわされた(もの)が、『わたしは(かみ)()である』と()ったからとて、どうして『あなたは(かみ)(けが)(もの)だ』と()うのか。 37もしわたしが(ちち)のわざを(おこな)わないとすれば、わたしを(しん)じなくてもよい。 38しかし、もし(おこな)っているなら、たといわたしを(しん)じなくても、わたしのわざを(しん)じるがよい。そうすれば、(ちち)がわたしにおり、また、わたしが(ちち)におることを()って(さと)るであろう」。 39そこで、(かれ)らはまたイエスを(とら)えようとしたが、イエスは(かれ)らの()をのがれて、()って()かれた。
40さて、イエスはまたヨルダンの()こう(ぎし)、すなわち、ヨハネが(はじ)めにバプテスマを(さづ)けていた(ところ)()き、そこに滞在(たいざい)しておられた。 41(おお)くの人々(ひとびと)がイエスのところにきて、(たがい)()った、「ヨハネはなんのしるしも(おこな)わなかったが、ヨハネがこのかたについて()ったことは、(みな)ほんとうであった」。 42そして、そこで(おお)くの(もの)がイエスを(しん)じた。

第十一章

1さて、ひとりの病人(びょうにん)がいた。ラザロといい、マリヤとその姉妹(しまい)マルタの(むら)ベタニヤの(ひと)であった。 2このマリヤは(しゅ)香油(こうゆ)をぬり、自分(じぶん)(かみ)()で、(しゅ)(あし)をふいた(おんな)であって、病気(びょうき)であったのは、彼女(かのじょ)兄弟(きょうだい)ラザロであった。 3姉妹(しまい)たちは(ひと)をイエスのもとにつかわして、「(しゅ)よ、ただ(いま)、あなたが(あい)しておられる(もの)病気(びょうき)をしています」と()わせた。 4イエスはそれを()いて()われた、「この病気(びょうき)()ぬほどのものではない。それは(かみ)栄光(えいこう)のため、また、(かみ)()がそれによって栄光(えいこう)()けるためのものである」。
5イエスは、マルタとその姉妹(しまい)とラザロとを(あい)しておられた。 6ラザロが病気(びょうき)であることを()いてから、なおふつか、そのおられた(ところ)滞在(たいざい)された。 7それから弟子(でし)たちに、「もう一()ユダヤに()こう」と()われた。 8弟子(でし)たちは()った、「先生(せんせい)、ユダヤ(じん)らが、さきほどもあなたを(いし)(ころ)そうとしていましたのに、またそこに()かれるのですか」。 9イエスは(こた)えられた、「一(にち)には十二時間(じかん)あるではないか。昼間(ひるま)あるけば、(ひと)はつまずくことはない。この()(ひかり)()ているからである。 10しかし、(よる)あるけば、つまずく。その(ひと)のうちに、(ひかり)がないからである」。 11そう()われたが、それからまた、(かれ)らに()われた、「わたしたちの(とも)ラザロが(ねむ)っている。わたしは(かれ)(おこ)しに()く」。 12すると弟子(でし)たちは()った、「(しゅ)よ、(ねむ)っているのでしたら、(たす)かるでしょう」。 13イエスはラザロが()んだことを()われたのであるが、弟子(でし)たちは、(ねむ)って(やす)んでいることをさして()われたのだと(おも)った。 14するとイエスは、あからさまに(かれ)らに()われた、「ラザロは()んだのだ。 15そして、わたしがそこにいあわせなかったことを、あなたがたのために(よろこ)ぶ。それは、あなたがたが(しん)じるようになるためである。では、(かれ)のところに()こう」。 16するとデドモと()ばれているトマスが、仲間(なかま)弟子(でし)たちに()った、「わたしたちも()って、先生(せんせい)一緒(いっしょ)()のうではないか」。
17さて、イエスが()ってごらんになると、ラザロはすでに四日間(かかん)(はか)(なか)()かれていた。 18ベタニヤはエルサレムに(ちか)く、二十五(ちょう)ばかり(はな)れたところにあった。 19(おお)ぜいのユダヤ(じん)が、その兄弟(きょうだい)のことで、マルタとマリヤとを(なぐさ)めようとしてきていた。 20マルタはイエスがこられたと()いて、出迎(でむか)えに()ったが、マリヤは(いえ)ですわっていた。 21マルタはイエスに()った、「(しゅ)よ、もしあなたがここにいて(くだ)さったなら、わたしの兄弟(きょうだい)()ななかったでしょう。 22しかし、あなたがどんなことをお(ねが)いになっても、(かみ)はかなえて(くだ)さることを、わたしは(いま)でも(ぞん)じています」。 23イエスはマルタに()われた、「あなたの兄弟(きょうだい)はよみがえるであろう」。 24マルタは()った、「(おわ)りの()のよみがえりの(とき)よみがえることは、(ぞん)じています」。 25イエスは彼女(かのじょ)()われた、「わたしはよみがえりであり、(いのち)である。わたしを(しん)じる(もの)は、たとい()んでも()きる。 26また、()きていて、わたしを(しん)じる(もの)は、いつまでも()なない。あなたはこれを(しん)じるか」。 27マルタはイエスに()った、「(しゅ)よ、(しん)じます。あなたがこの()にきたるべきキリスト、(かみ)御子(みこ)であると(しん)じております」。 28マルタはこう()ってから、(かえ)って姉妹(しまい)のマリヤを()び、「先生(せんせい)がおいでになって、あなたを()んでおられます」と小声(こごえ)()った。 29これを()いたマリヤはすぐ()()がって、イエスのもとに()った。 30イエスはまだ(むら)に、はいってこられず、マルタがお(むか)えしたその場所(ばしょ)におられた。 31マリヤと一緒(いっしょ)(いえ)にいて彼女(かのじょ)(なぐさ)めていたユダヤ(じん)たちは、マリヤが(いそ)いで()()がって()()くのを()て、彼女(かのじょ)(はか)()きに()くのであろうと(おも)い、そのあとからついて()った。 32マリヤは、イエスのおられる(ところ)()ってお()にかかり、その(あし)もとにひれ()して()った、「(しゅ)よ、もしあなたがここにいて(くだ)さったなら、わたしの兄弟(きょうだい)()ななかったでしょう」。 33イエスは、彼女(かのじょ)()き、また、彼女(かのじょ)一緒(いっしょ)にきたユダヤ(じん)たちも()いているのをごらんになり、(はげ)しく感動(かんどう)し、また(こころ)(さわ)がせ、そして()われた、 34(かれ)をどこに()いたのか」。(かれ)らはイエスに()った、「(しゅ)よ、きて、ごらん(くだ)さい」。 35イエスは(なみだ)(なが)された。 36するとユダヤ(じん)たちは()った、「ああ、なんと(かれ)(あい)しておられたことか」。 37しかし、(かれ)らのある(ひと)たちは()った、「あの盲人(もうじん)()をあけたこの(ひと)でも、ラザロを()なせないようには、できなかったのか」。 38イエスはまた(はげ)しく感動(かんどう)して、(はか)にはいられた。それは洞穴(ほらあな)であって、そこに(いし)がはめてあった。 39イエスは()われた、「(いし)()りのけなさい」。()んだラザロの姉妹(しまい)マルタが()った、「(しゅ)よ、もう(くさ)くなっております。四()もたっていますから」。 40イエスは彼女(かのじょ)()われた、「もし(しん)じるなら(かみ)栄光(えいこう)()るであろうと、あなたに()ったではないか」。 41人々(ひとびと)(いし)()りのけた。すると、イエスは()(てん)にむけて()われた、「(ちち)よ、わたしの(ねが)いをお()(くだ)さったことを感謝(かんしゃ)します。 42あなたがいつでもわたしの(ねが)いを()きいれて(くだ)さることを、よく()っています。しかし、こう(もう)しますのは、そばに()っている人々(ひとびと)に、あなたがわたしをつかわされたことを、(しん)じさせるためであります」。 43こう()いながら、大声(おおごえ)で「ラザロよ、()てきなさい」と()ばわれた。 44すると、死人(しにん)手足(てあし)(ぬの)でまかれ、(かお)(かお)おおいで(つつ)まれたまま、()てきた。イエスは人々(ひとびと)()われた、「(かれ)をほどいてやって、(かえ)らせなさい」。
45マリヤのところにきて、イエスのなさったことを()(おお)くのユダヤ(じん)たちは、イエスを(しん)じた。 46しかし、そのうちの数人(すうにん)がパリサイ(びと)たちのところに()って、イエスのされたことを()げた。 47そこで、祭司長(さいしちょう)たちとパリサイ(びと)たちとは、議会(ぎかい)召集(しょうしゅう)して()った、「この(ひと)(おお)くのしるしを(おこな)っているのに、お(たがい)(なに)をしているのだ。 48もしこのままにしておけば、みんなが(かれ)(しん)じるようになるだろう。そのうえ、ローマ(じん)がやってきて、わたしたちの土地(とち)人民(じんみん)(うば)ってしまうであろう」。 49(かれ)らのうちのひとりで、その(とし)大祭司(だいさいし)であったカヤパが、(かれ)らに()った、「あなたがたは、(なに)もわかっていないし、 50ひとりの(ひと)人民(じんみん)(かわ)って()んで、全国民(ぜんこくみん)(ほろ)びないようになるのがわたしたちにとって()だということを、(かんが)えてもいない」。 51このことは(かれ)自分(じぶん)から()ったのではない。(かれ)はこの(とし)大祭司(だいさいし)であったので、預言(よげん)をして、イエスが国民(こくみん)のために、 52ただ国民(こくみん)のためだけではなく、また散在(さんざい)している(かみ)()らを一つに(あつ)めるために、()ぬことになっていると、()ったのである。 53(かれ)らはこの()からイエスを(ころ)そうと相談(そうだん)した。 54そのためイエスは、もはや公然(こうぜん)とユダヤ(じん)(あいだ)(ある)かないで、そこを()て、荒野(あらの)(ちか)地方(ちほう)のエフライムという(まち)()かれ、そこに弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)滞在(たいざい)しておられた。
55さて、ユダヤ(じん)過越(すぎこし)(まつり)(ちか)づいたので、(おお)くの人々(ひとびと)()をきよめるために、(まつり)(まえ)に、地方(ちほう)からエルサレムへ(のぼ)った。 56人々(ひとびと)はイエスを(さが)(もと)め、(みや)(にわ)()って(たがい)()った、「あなたがたはどう(おも)うか。イエスはこの(まつり)にこないのだろうか」。 57祭司長(さいしちょう)たちとパリサイ(びと)たちとは、イエスを(とら)えようとして、そのいどころを()っている(もの)があれば(もう)()よ、という指令(しれい)()していた。

第十二章

1過越(すぎこし)(まつり)の六()まえに、イエスはベタニヤに()かれた。そこは、イエスが死人(しにん)(なか)からよみがえらせたラザロのいた(ところ)である。 2イエスのためにそこで夕食(ゆうしょく)用意(ようい)がされ、マルタは給仕(きゅうじ)をしていた。イエスと一緒(いっしょ)食卓(しょくたく)についていた(もの)のうちに、ラザロも(くわ)わっていた。 3その(とき)、マリヤは高価(こうか)純粋(じゅんすい)なナルドの香油(こうゆ)(きん)()ってきて、イエスの(あし)にぬり、自分(じぶん)(かみ)()でそれをふいた。すると、香油(こうゆ)のかおりが(いえ)にいっぱいになった。 4弟子(でし)のひとりで、イエスを裏切(うらぎ)ろうとしていたイスカリオテのユダが()った、 5「なぜこの香油(こうゆ)を三百デナリに()って、(まず)しい(ひと)たちに、(ほどこ)さなかったのか」。 6(かれ)がこう()ったのは、(まず)しい(ひと)たちに(たい)する(おも)いやりがあったからではなく、自分(じぶん)盗人(ぬすびと)であり、財布(さいふ)(あず)かっていて、その中身(なかみ)をごまかしていたからであった。 7イエスは()われた、「この(おんな)のするままにさせておきなさい。わたしの(ほうむ)りの()のために、それをとっておいたのだから。 8(まず)しい(ひと)たちはいつもあなたがたと(とも)にいるが、わたしはいつも(とも)にいるわけではない」。 9(おお)ぜいのユダヤ(じん)たちが、そこにイエスのおられるのを()って、()しよせてきた。それはイエスに()うためだけではなく、イエスが死人(しにん)のなかから、よみがえらせたラザロを()るためでもあった。 10そこで祭司長(さいしちょう)たちは、ラザロも(ころ)そうと相談(そうだん)した。 11それは、ラザロのことで、(おお)くのユダヤ(じん)(かれ)らを(はな)()って、イエスを(しん)じるに(いた)ったからである。
12その翌日(よくじつ)(まつり)にきていた(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)は、イエスがエルサレムにこられると()いて、 13しゅろの(えだ)()にとり、(むか)えに()()った。そして(さけ)んだ、
「ホサナ、
(しゅ)御名(みな)によってきたる(もの)祝福(しゅくふく)あれ、
イスラエルの(おう)に」。
14イエスは、ろばの()()つけて、その(うえ)()られた。それは
15「シオンの(むすめ)よ、(おそ)れるな。
()よ、あなたの(おう)
ろばの()()っておいでになる」
()いてあるとおりであった。 16弟子(でし)たちは(はじ)めにはこのことを(さと)らなかったが、イエスが栄光(えいこう)()けられた(とき)に、このことがイエスについて()かれてあり、またそのとおりに、人々(ひとびと)がイエスに(たい)してしたのだということを、(おも)(おこ)した。 17また、イエスがラザロを(はか)から()()して、死人(しにん)(なか)からよみがえらせたとき、イエスと一緒(いっしょ)にいた群衆(ぐんしゅう)が、そのあかしをした。 18群衆(ぐんしゅう)がイエスを(むか)えに()たのは、イエスがこのようなしるしを(おこな)われたことを、()いていたからである。 19そこで、パリサイ(びと)たちは(たがい)()った、「(なに)をしてもむだだった。()をあげて(かれ)のあとを()って()ったではないか」。
20(まつり)礼拝(れいはい)するために(のぼ)ってきた人々(ひとびと)のうちに、数人(すうにん)のギリシヤ(じん)がいた。 21(かれ)らはガリラヤのベツサイダ()であるピリポのところにきて、「(きみ)よ、イエスにお()にかかりたいのですが」と()って(たの)んだ。 22ピリポはアンデレのところに()ってそのことを(はな)し、アンデレとピリポは、イエスのもとに()って(つた)えた。 23すると、イエスは(こた)えて()われた、「(ひと)()栄光(えいこう)()ける(とき)がきた。 24よくよくあなたがたに()っておく。一(つぶ)(むぎ)()()ちて()ななければ、それはただ一(つぶ)のままである。しかし、もし()んだなら、(ゆた)かに()(むす)ぶようになる。 25自分(じぶん)(いのち)(あい)する(もの)はそれを(うしな)い、この()自分(じぶん)(いのち)(にく)(もの)は、それを(たも)って永遠(えいえん)(いのち)(いた)るであろう。 26もしわたしに(つか)えようとする(ひと)があれば、その(ひと)はわたしに(したが)って()るがよい。そうすれば、わたしのおる(ところ)に、わたしに(つか)える(もの)もまた、おるであろう。もしわたしに(つか)えようとする(ひと)があれば、その(ひと)(ちち)(おも)んじて(くだ)さるであろう。 27(いま)わたしは(こころ)(さわ)いでいる。わたしはなんと()おうか。(ちち)よ、この(とき)からわたしをお(すく)(くだ)さい。しかし、わたしはこのために、この(とき)(いた)ったのです。 28(ちち)よ、み()があがめられますように」。すると(てん)から(こえ)があった、「わたしはすでに栄光(えいこう)をあらわした。そして、(さら)にそれをあらわすであろう」。 29すると、そこに()っていた群衆(ぐんしゅう)がこれを()いて、「(かみなり)がなったのだ」と()い、ほかの(ひと)たちは、「御使(みつかい)(かれ)(はな)しかけたのだ」と()った。 30イエスは(こた)えて()われた、「この(こえ)があったのは、わたしのためではなく、あなたがたのためである。 31(いま)はこの()がさばかれる(とき)である。(いま)こそこの()(きみ)()()されるであろう。 32そして、わたしがこの()から()げられる(とき)には、すべての(ひと)をわたしのところに()きよせるであろう」。 33イエスはこう()って、自分(じぶん)がどんな()(ほう)()のうとしていたかを、お(しめ)しになったのである。 34すると群衆(ぐんしゅう)はイエスにむかって()った、「わたしたちは律法(りっぽう)によって、キリストはいつまでも()きておいでになるのだ、と()いていました。それだのに、どうして(ひと)()()げられねばならないと、()われるのですか。その(ひと)()とは、だれのことですか」。 35そこでイエスは(かれ)らに()われた、「もうしばらくの(あいだ)(ひかり)はあなたがたと一緒(いっしょ)にここにある。(ひかり)がある(あいだ)(ある)いて、やみに()いつかれないようにしなさい。やみの(なか)(ある)(もの)は、自分(じぶん)がどこへ()くのかわかっていない。 36(ひかり)のある(あいだ)に、(ひかり)()となるために、(ひかり)(しん)じなさい」。
イエスはこれらのことを(はな)してから、そこを()()って、(かれ)らから()をお(かく)しになった。 37このように(おお)くのしるしを(かれ)らの(まえ)でなさったが、(かれ)らはイエスを(しん)じなかった。 38それは、預言者(よげんしゃ)イザヤの(つぎ)言葉(ことば)成就(じょうじゅ)するためである、「(しゅ)よ、わたしたちの()くところを、だれが(しん)じたでしょうか。また、(しゅ)のみ(うで)はだれに(しめ)されたでしょうか」。 39こういうわけで、(かれ)らは(しん)じることができなかった。イザヤはまた、こうも()った、 40(かみ)(かれ)らの()をくらまし、(こころ)をかたくなになさった。それは、(かれ)らが()()ず、(こころ)(さと)らず、()(あらた)めていやされることがないためである」。 41イザヤがこう()ったのは、イエスの栄光(えいこう)()たからであって、イエスのことを(かた)ったのである。 42しかし、役人(やくにん)たちの(なか)にも、イエスを(しん)じた(もの)(おお)かったが、パリサイ(びと)をはばかって、告白(こくはく)はしなかった。会堂(かいどう)から()()されるのを(おそ)れていたのである。 43(かれ)らは(かみ)のほまれよりも、(ひと)のほまれを(この)んだからである。
44イエスは大声(おおごえ)()われた、「わたしを(しん)じる(もの)は、わたしを(しん)じるのではなく、わたしをつかわされたかたを(しん)じるのであり、 45また、わたしを()(もの)は、わたしをつかわされたかたを()るのである。 46わたしは(ひかり)としてこの()にきた。それは、わたしを(しん)じる(もの)が、やみのうちにとどまらないようになるためである。 47たとい、わたしの()うことを()いてそれを(まも)らない(ひと)があっても、わたしはその(ひと)をさばかない。わたしがきたのは、この()をさばくためではなく、この()(すく)うためである。 48わたしを()てて、わたしの言葉(ことば)()けいれない(ひと)には、その(ひと)をさばくものがある。わたしの(かた)ったその言葉(ことば)が、(おわ)りの()にその(ひと)をさばくであろう。 49わたしは自分(じぶん)から(かた)ったのではなく、わたしをつかわされた(ちち)自身(じしん)が、わたしの()うべきこと、(かた)るべきことをお(めい)じになったのである。 50わたしは、この命令(めいれい)永遠(えいえん)(いのち)であることを()っている。それゆえに、わたしが(かた)っていることは、わたしの(ちち)がわたしに(おお)せになったことを、そのまま(かた)っているのである」。

第十三章

1過越(すぎこし)(まつり)(まえ)に、イエスは、この()()って(ちち)のみもとに()くべき自分(じぶん)(とき)がきたことを()り、()にいる自分(じぶん)(もの)たちを(あい)して、(かれ)らを最後(さいご)まで(あい)(とお)された。 2夕食(ゆうしょく)のとき、悪魔(あくま)はすでにシモンの()イスカリオテのユダの(こころ)に、イエスを裏切(うらぎ)ろうとする(おも)いを()れていたが、 3イエスは、(ちち)がすべてのものを自分(じぶん)()にお(あた)えになったこと、また、自分(じぶん)(かみ)から()てきて、(かみ)にかえろうとしていることを(おも)い、 4夕食(ゆうしょく)(せき)から()()がって、上着(うわぎ)()ぎ、()ぬぐいをとって(こし)()き、 5それから(みず)をたらいに()れて、弟子(でし)たちの(あし)(あら)い、(こし)()いた()ぬぐいでふき(はじ)められた。 6こうして、シモン・ペテロの(ばん)になった。すると(かれ)はイエスに、「(しゅ)よ、あなたがわたしの(あし)をお(あら)いになるのですか」と()った。 7イエスは(かれ)(こた)えて()われた、「わたしのしていることは(いま)あなたにはわからないが、あとでわかるようになるだろう」。 8ペテロはイエスに()った、「わたしの(あし)(けっ)して(あら)わないで(くだ)さい」。イエスは(かれ)(こた)えられた、「もしわたしがあなたの(あし)(あら)わないなら、あなたはわたしとなんの(かか)わりもなくなる」。 9シモン・ペテロはイエスに()った、「(しゅ)よ、では、(あし)だけではなく、どうぞ、()(あたま)も」。 10イエスは(かれ)()われた、「すでにからだを(あら)った(もの)は、(あし)のほかは(あら)必要(ひつよう)がない。全身(ぜんしん)がきれいなのだから。あなたがたはきれいなのだ。しかし、みんながそうなのではない」。 11イエスは自分(じぶん)裏切(うらぎ)(もの)()っておられた。それで、「みんながきれいなのではない」と()われたのである。
12こうして(かれ)らの(あし)(あら)ってから、上着(うわぎ)をつけ、ふたたび(せき)にもどって、(かれ)らに()われた、「わたしがあなたがたにしたことがわかるか。 13あなたがたはわたしを教師(きょうし)、また(しゅ)()んでいる。そう()うのは(ただ)しい。わたしはそのとおりである。 14しかし、(しゅ)であり、また教師(きょうし)であるわたしが、あなたがたの(あし)(あら)ったからには、あなたがたもまた、(たがい)(あし)(あら)()うべきである。 15わたしがあなたがたにしたとおりに、あなたがたもするように、わたしは手本(てほん)(しめ)したのだ。 16よくよくあなたがたに()っておく。(しもべ)はその主人(しゅじん)にまさるものではなく、つかわされた(もの)はつかわした(もの)にまさるものではない。 17もしこれらのことがわかっていて、それを(おこな)うなら、あなたがたはさいわいである。 18あなたがた全部(ぜんぶ)(もの)について、こう()っているのではない。わたしは自分(じぶん)(えら)んだ(ひと)たちを()っている。しかし、『わたしのパンを()べている(もの)が、わたしにむかってそのかかとをあげた』とある聖書(せいしょ)成就(じょうじゅ)されなければならない。 19そのことがまだ(おこ)らない(いま)のうちに、あなたがたに()っておく。いよいよ(こと)(おこ)ったとき、わたしがそれであることを、あなたがたが(しん)じるためである。 20よくよくあなたがたに()っておく。わたしがつかわす(もの)()けいれる(もの)は、わたしを()けいれるのである。わたしを()けいれる(もの)は、わたしをつかわされたかたを、()けいれるのである」。
21イエスがこれらのことを()われた(のち)、その(こころ)(さわ)ぎ、おごそかに()われた、「よくよくあなたがたに()っておく。あなたがたのうちのひとりが、わたしを裏切(うらぎ)ろうとしている」。 22弟子(でし)たちはだれのことを()われたのか(さっ)しかねて、(たがい)(かお)見合(みあ)わせた。 23弟子(でし)たちのひとりで、イエスの(あい)しておられた(もの)が、み(むね)(ちか)(せき)についていた。 24そこで、シモン・ペテロは(かれ)合図(あいず)をして()った、「だれのことをおっしゃったのか、()らせてくれ」。 25その弟子(でし)はそのままイエスの(むね)によりかかって、「(しゅ)よ、だれのことですか」と(たず)ねると、 26イエスは(こた)えられた、「わたしが一きれの食物(しょくもつ)をひたして(あた)える(もの)が、それである」。そして、一きれの食物(しょくもつ)をひたしてとり()げ、シモンの()イスカリオテのユダにお(あた)えになった。 27この一きれの食物(しょくもつ)()けるやいなや、サタンがユダにはいった。そこでイエスは(かれ)()われた、「しようとしていることを、(いま)すぐするがよい」。 28(せき)(とも)にしていた(もの)のうち、なぜユダにこう()われたのか、わかっていた(もの)はひとりもなかった。 29ある人々(ひとびと)は、ユダが金入(かねい)れをあずかっていたので、イエスが(かれ)に、「(まつり)のために必要(ひつよう)なものを()え」と()われたか、あるいは、(まず)しい(もの)(なに)(ほどこ)させようとされたのだと(おも)っていた。 30ユダは一きれの食物(しょくもつ)()けると、すぐに()()った。(とき)(よる)であった。
31さて、(かれ)()()くと、イエスは()われた、「(いま)(ひと)()栄光(えいこう)()けた。(かみ)もまた(かれ)によって栄光(えいこう)をお()けになった。 32(かれ)によって栄光(えいこう)をお()けになったのなら、(かみ)自身(じしん)(かれ)栄光(えいこう)をお(さづ)けになるであろう。すぐにもお(さづ)けになるであろう。 33()たちよ、わたしはまだしばらく、あなたがたと一緒(いっしょ)にいる。あなたがたはわたしを(さが)すだろうが、すでにユダヤ(じん)たちに()ったとおり、(いま)あなたがたにも()う、『あなたがたはわたしの()(ところ)()ることはできない』。 34わたしは、(あたら)しいいましめをあなたがたに(あた)える、(たがい)(あい)()いなさい。わたしがあなたがたを(あい)したように、あなたがたも(たがい)(あい)()いなさい。 35(たがい)(あい)()うならば、それによって、あなたがたがわたしの弟子(でし)であることを、すべての(もの)(みと)めるであろう」。
36シモン・ペテロがイエスに()った、「(しゅ)よ、どこへおいでになるのですか」。イエスは(こた)えられた、「あなたはわたしの()くところに、(いま)はついて()ることはできない。しかし、あとになってから、ついて()ることになろう」。 37ペテロはイエスに()った、「(しゅ)よ、なぜ、(いま)あなたについて()くことができないのですか。あなたのためには、(いのち)()てます」。 38イエスは(こた)えられた、「わたしのために(いのち)()てると()うのか。よくよくあなたに()っておく。(にわとり)()(まえ)に、あなたはわたしを三()()らないと()うであろう」。

第十四章

1「あなたがたは、(こころ)(さわ)がせないがよい。(かみ)(しん)じ、またわたしを(しん)じなさい。 2わたしの(ちち)(いえ)には、すまいがたくさんある。もしなかったならば、わたしはそう()っておいたであろう。あなたがたのために、場所(ばしょ)用意(ようい)しに()くのだから。 3そして、()って、場所(ばしょ)用意(ようい)ができたならば、またきて、あなたがたをわたしのところに(むか)えよう。わたしのおる(ところ)にあなたがたもおらせるためである。 4わたしがどこへ()くのか、その(みち)はあなたがたにわかっている」。 5トマスはイエスに()った、「(しゅ)よ、どこへおいでになるのか、わたしたちにはわかりません。どうしてその(みち)がわかるでしょう」。 6イエスは(かれ)()われた、「わたしは(みち)であり、真理(しんり)であり、(いのち)である。だれでもわたしによらないでは、(ちち)のみもとに()くことはできない。 7もしあなたがたがわたしを()っていたならば、わたしの(ちち)をも()ったであろう。しかし、(いま)(ちち)()っており、またすでに(ちち)()たのである」。 8ピリポはイエスに()った、「(しゅ)よ、わたしたちに(ちち)(しめ)して(くだ)さい。そうして(くだ)されば、わたしたちは満足(まんぞく)します」。 9イエスは(かれ)()われた、「ピリポよ、こんなに(なが)くあなたがたと一緒(いっしょ)にいるのに、わたしがわかっていないのか。わたしを()(もの)は、(ちち)()たのである。どうして、わたしたちに(ちち)(しめ)してほしいと、()うのか。 10わたしが(ちち)におり、(ちち)がわたしにおられることをあなたは(しん)じないのか。わたしがあなたがたに(はな)している言葉(ことば)は、自分(じぶん)から(はな)しているのではない。(ちち)がわたしのうちにおられて、みわざをなさっているのである。 11わたしが(ちち)におり、(ちち)がわたしにおられることを(しん)じなさい。もしそれが(しん)じられないならば、わざそのものによって(しん)じなさい。 12よくよくあなたがたに()っておく。わたしを(しん)じる(もの)は、またわたしのしているわざをするであろう。そればかりか、もっと(おお)きいわざをするであろう。わたしが(ちち)のみもとに()くからである。 13わたしの()によって(ねが)うことは、なんでもかなえてあげよう。(ちち)()によって栄光(えいこう)をお()けになるためである。 14何事(なにごと)でもわたしの()によって(ねが)うならば、わたしはそれをかなえてあげよう。 15もしあなたがたがわたしを(あい)するならば、わたしのいましめを(まも)るべきである。 16わたしは(ちち)にお(ねが)いしよう。そうすれば、(ちち)(べつ)(たす)(ぬし)(おく)って、いつまでもあなたがたと(とも)におらせて(くだ)さるであろう。 17それは真理(しんり)御霊(みたま)である。この()はそれを()ようともせず、()ろうともしないので、それを()けることができない。あなたがたはそれを()っている。なぜなら、それはあなたがたと(とも)におり、またあなたがたのうちにいるからである。
18わたしはあなたがたを()てて孤児(こじ)とはしない。あなたがたのところに(かえ)って()る。 19もうしばらくしたら、()はもはやわたしを()なくなるだろう。しかし、あなたがたはわたしを()る。わたしが()きるので、あなたがたも()きるからである。 20その()には、わたしはわたしの(ちち)におり、あなたがたはわたしにおり、また、わたしがあなたがたにおることが、わかるであろう。 21わたしのいましめを(こころ)にいだいてこれを(まも)(もの)は、わたしを(あい)する(もの)である。わたしを(あい)する(もの)は、わたしの(ちち)(あい)されるであろう。わたしもその(ひと)(あい)し、その(ひと)にわたし自身(じしん)をあらわすであろう」。 22イスカリオテでない(ほう)のユダがイエスに()った、「(しゅ)よ、あなたご自身(じしん)をわたしたちにあらわそうとして、()にはあらわそうとされないのはなぜですか」。 23イエスは(かれ)(こた)えて()われた、「もしだれでもわたしを(あい)するならば、わたしの言葉(ことば)(まも)るであろう。そして、わたしの(ちち)はその(ひと)(あい)し、また、わたしたちはその(ひと)のところに()って、その(ひと)一緒(いっしょ)()むであろう。 24わたしを(あい)さない(もの)はわたしの言葉(ことば)(まも)らない。あなたがたが()いている言葉(ことば)は、わたしの言葉(ことば)ではなく、わたしをつかわされた(ちち)言葉(ことば)である。
25これらのことは、あなたがたと一緒(いっしょ)にいた(とき)、すでに(かた)ったことである。 26しかし、(たす)(ぬし)、すなわち、(ちち)がわたしの()によってつかわされる聖霊(せいれい)は、あなたがたにすべてのことを(おし)え、またわたしが(はな)しておいたことを、ことごとく(おも)(おこ)させるであろう。 27わたしは平安(へいあん)をあなたがたに(のこ)して()く。わたしの平安(へいあん)をあなたがたに(あた)える。わたしが(あた)えるのは、()(あた)えるようなものとは(こと)なる。あなたがたは(こころ)(さわ)がせるな、またおじけるな。 28『わたしは()って()くが、またあなたがたのところに(かえ)って()る』と、わたしが()ったのを、あなたがたは()いている。もしわたしを(あい)しているなら、わたしが(ちち)のもとに()くのを(よろこ)んでくれるであろう。(ちち)がわたしより(おお)きいかたであるからである。 29(いま)わたしは、そのことが(おこ)らない(さき)にあなたがたに(かた)った。それは、(こと)(おこ)った(とき)にあなたがたが(しん)じるためである。 30わたしはもはや、あなたがたに、(おお)くを(かた)るまい。この()(きみ)()るからである。だが、(かれ)はわたしに(たい)して、なんの(ちから)もない。 31しかし、わたしが(ちち)(あい)していることを()()るように、わたしは(ちち)がお(めい)じになったとおりのことを(おこな)うのである。()て。さあ、ここから()かけて()こう。

第十五章

1わたしはまことのぶどうの()、わたしの(ちち)農夫(のうふ)である。 2わたしにつながっている(えだ)()(むす)ばないものは、(ちち)がすべてこれをとりのぞき、()(むす)ぶものは、もっと(ゆた)かに(みの)らせるために、手入(てい)れしてこれをきれいになさるのである。 3あなたがたは、わたしが(かた)った言葉(ことば)によって(すで)にきよくされている。 4わたしにつながっていなさい。そうすれば、わたしはあなたがたとつながっていよう。(えだ)がぶどうの()につながっていなければ、自分(じぶん)だけでは()(むす)ぶことができないように、あなたがたもわたしにつながっていなければ()(むす)ぶことができない。 5わたしはぶどうの()、あなたがたはその(えだ)である。もし(ひと)がわたしにつながっており、またわたしがその(ひと)とつながっておれば、その(ひと)()(ゆた)かに(むす)ぶようになる。わたしから(はな)れては、あなたがたは何一(なにひと)つできないからである。 6(ひと)がわたしにつながっていないならば、(えだ)のように(そと)()げすてられて()れる。人々(ひとびと)はそれをかき(あつ)め、()()()れて、()いてしまうのである。 7あなたがたがわたしにつながっており、わたしの言葉(ことば)があなたがたにとどまっているならば、なんでも(のぞ)むものを(もと)めるがよい。そうすれば、(あた)えられるであろう。 8あなたがたが()(ゆた)かに(むす)び、そしてわたしの弟子(でし)となるならば、それによって、わたしの(ちち)栄光(えいこう)をお()けになるであろう。 9(ちち)がわたしを(あい)されたように、わたしもあなたがたを(あい)したのである。わたしの(あい)のうちにいなさい。 10もしわたしのいましめを(まも)るならば、あなたがたはわたしの(あい)のうちにおるのである。それはわたしがわたしの(ちち)のいましめを(まも)ったので、その(あい)のうちにおるのと(おな)じである。 11わたしがこれらのことを(はな)したのは、わたしの(よろこ)びがあなたがたのうちにも宿(やど)るため、また、あなたがたの(よろこ)びが()ちあふれるためである。
12わたしのいましめは、これである。わたしがあなたがたを(あい)したように、あなたがたも(たがい)(あい)()いなさい。 13(ひと)がその(とも)のために自分(じぶん)(いのち)()てること、これよりも(おお)きな(あい)はない。 14あなたがたにわたしが(めい)じることを(おこな)うならば、あなたがたはわたしの(とも)である。 15わたしはもう、あなたがたを(しもべ)とは()ばない。(しもべ)主人(しゅじん)のしていることを()らないからである。わたしはあなたがたを(とも)()んだ。わたしの(ちち)から()いたことを(みな)、あなたがたに()らせたからである。 16あなたがたがわたしを(えら)んだのではない。わたしがあなたがたを(えら)んだのである。そして、あなたがたを()てた。それは、あなたがたが()って()をむすび、その()がいつまでも(のこ)るためであり、また、あなたがたがわたしの()によって(ちち)(もと)めるものはなんでも、(ちち)(あた)えて(くだ)さるためである。 17これらのことを(めい)じるのは、あなたがたが(たがい)(あい)()うためである。
18もしこの()があなたがたを(にく)むならば、あなたがたよりも(さき)にわたしを(にく)んだことを、()っておくがよい。 19もしあなたがたがこの()から()たものであったなら、この()は、あなたがたを自分(じぶん)のものとして(あい)したであろう。しかし、あなたがたはこの()のものではない。かえって、わたしがあなたがたをこの()から(えら)()したのである。だから、この()はあなたがたを(にく)むのである。 20わたしがあなたがたに『(しもべ)はその主人(しゅじん)にまさるものではない』と()ったことを、おぼえていなさい。もし人々(ひとびと)がわたしを迫害(はくがい)したなら、あなたがたをも迫害(はくがい)するであろう。また、もし(かれ)らがわたしの言葉(ことば)(まも)っていたなら、あなたがたの言葉(ことば)をも(まも)るであろう。 21(かれ)らはわたしの()のゆえに、あなたがたに(たい)してすべてそれらのことをするであろう。それは、わたしをつかわされたかたを(かれ)らが()らないからである。 22もしわたしがきて(かれ)らに(かた)らなかったならば、(かれ)らは(つみ)(おか)さないですんだであろう。しかし(いま)となっては、(かれ)らには、その(つみ)について()いのがれる(みち)がない。 23わたしを(にく)(もの)は、わたしの(ちち)をも(にく)む。 24もし、ほかのだれもがしなかったようなわざを、わたしが(かれ)らの(あいだ)でしなかったならば、(かれ)らは(つみ)(おか)さないですんだであろう。しかし事実(じじつ)(かれ)らはわたしとわたしの(ちち)とを()て、(にく)んだのである。 25それは、『(かれ)らは理由(りゆう)なしにわたしを(にく)んだ』と()いてある(かれ)らの律法(りっぽう)言葉(ことば)成就(じょうじゅ)するためである。 26わたしが(ちち)のみもとからあなたがたにつかわそうとしている(たす)(ぬし)、すなわち、(ちち)のみもとから()真理(しんり)御霊(みたま)(くだ)(とき)、それはわたしについてあかしをするであろう。 27あなたがたも、(はじ)めからわたしと一緒(いっしょ)にいたのであるから、あかしをするのである。

第十六章

1わたしがこれらのことを(かた)ったのは、あなたがたがつまずくことのないためである。 2人々(ひとびと)はあなたがたを会堂(かいどう)から()()すであろう。(さら)にあなたがたを(ころ)(もの)がみな、それによって自分(じぶん)たちは(かみ)(つか)えているのだと(おも)(とき)()るであろう。 3(かれ)らがそのようなことをするのは、(ちち)をもわたしをも()らないからである。 4わたしがあなたがたにこれらのことを()ったのは、(かれ)らの(とき)がきた場合(ばあい)、わたしが(かれ)らについて()ったことを、(おも)(おこ)させるためである。これらのことを(はじ)めから()わなかったのは、わたしがあなたがたと一緒(いっしょ)にいたからである。 5けれども(いま)わたしは、わたしをつかわされたかたのところに()こうとしている。しかし、あなたがたのうち、だれも『どこへ()くのか』と(たず)ねる(もの)はない。 6かえって、わたしがこれらのことを()ったために、あなたがたの(こころ)(うれ)いで()たされている。 7しかし、わたしはほんとうのことをあなたがたに()うが、わたしが()って()くことは、あなたがたの(えき)になるのだ。わたしが()って()かなければ、あなたがたのところに(たす)(ぬし)はこないであろう。もし()けば、それをあなたがたにつかわそう。 8それがきたら、(つみ)()とさばきとについて、()(ひと)()(ひら)くであろう。 9(つみ)についてと()ったのは、(かれ)らがわたしを(しん)じないからである。 10()についてと()ったのは、わたしが(ちち)のみもとに()き、あなたがたは、もはやわたしを()なくなるからである。 11さばきについてと()ったのは、この()(きみ)がさばかれるからである。
12わたしには、あなたがたに()うべきことがまだ(おお)くあるが、あなたがたは(いま)はそれに()えられない。 13けれども真理(しんり)御霊(みたま)()(とき)には、あなたがたをあらゆる真理(しんり)(みちび)いてくれるであろう。それは自分(じぶん)から(かた)るのではなく、その()くところを(かた)り、きたるべき(こと)をあなたがたに()らせるであろう。 14御霊(みたま)はわたしに栄光(えいこう)()させるであろう。わたしのものを()けて、それをあなたがたに()らせるからである。 15(ちち)がお()ちになっているものはみな、わたしのものである。御霊(みたま)はわたしのものを()けて、それをあなたがたに()らせるのだと、わたしが()ったのは、そのためである。
16しばらくすれば、あなたがたはもうわたしを()なくなる。しかし、またしばらくすれば、わたしに()えるであろう」。 17そこで、弟子(でし)たちのうちのある(もの)(たがい)()()った、「『しばらくすれば、わたしを()なくなる。またしばらくすれば、わたしに()えるであろう』と()われ、『わたしの(ちち)のところに()く』と()われたのは、いったい、どういうことなのであろう」。 18(かれ)らはまた()った、「『しばらくすれば』と()われるのは、どういうことか。わたしたちには、その言葉(ことば)意味(いみ)がわからない」。 19イエスは、(かれ)らが(たず)ねたがっていることに()がついて、(かれ)らに()われた、「しばらくすればわたしを()なくなる、またしばらくすればわたしに()えるであろうと、わたしが()ったことで、(たがい)(ろん)()っているのか。 20よくよくあなたがたに()っておく。あなたがたは()(かな)しむが、この()(よろこ)ぶであろう。あなたがたは(うれ)えているが、その(うれ)いは(よろこ)びに(かわ)るであろう。 21(おんな)()()場合(ばあい)には、その(とき)がきたというので、不安(ふあん)(かん)じる。しかし、()()んでしまえば、もはやその(くる)しみをおぼえてはいない。ひとりの(ひと)がこの()(うま)れた、という(よろこ)びがあるためである。 22このように、あなたがたにも(いま)不安(ふあん)がある。しかし、わたしは(ふたた)びあなたがたと()うであろう。そして、あなたがたの(こころ)(よろこ)びに()たされるであろう。その(よろこ)びをあなたがたから()()(もの)はいない。 23その()には、あなたがたがわたしに()うことは、(なに)もないであろう。よくよくあなたがたに()っておく。あなたがたが(ちち)(もと)めるものはなんでも、わたしの()によって(くだ)さるであろう。 24(いま)までは、あなたがたはわたしの()によって(もと)めたことはなかった。(もと)めなさい、そうすれば、(あた)えられるであろう。そして、あなたがたの(よろこ)びが()ちあふれるであろう。
25わたしはこれらのことを比喩(ひゆ)(はな)したが、もはや比喩(ひゆ)では(はな)さないで、あからさまに、(ちち)のことをあなたがたに(はな)してきかせる(とき)()るであろう。 26その()には、あなたがたは、わたしの()によって(もと)めるであろう。わたしは、あなたがたのために(ちち)(ねが)ってあげようとは()うまい。 27(ちち)自身(じしん)があなたがたを(あい)しておいでになるからである。それは、あなたがたがわたしを(あい)したため、また、わたしが(かみ)のみもとからきたことを(しん)じたためである。 28わたしは(ちち)から()てこの()にきたが、またこの()()って、(ちち)のみもとに()くのである」。
29弟子(でし)たちは()った、「(いま)はあからさまにお(はな)しになって、(すこ)しも比喩(ひゆ)ではお(はな)しになりません。 30あなたはすべてのことをご(ぞん)じであり、だれもあなたにお(たず)ねする必要(ひつよう)のないことが、(いま)わかりました。このことによって、わたしたちはあなたが(かみ)からこられたかたであると(しん)じます」。 31イエスは(こた)えられた、「あなたがたは(いま)(しん)じているのか。 32()よ、あなたがたは()らされて、それぞれ自分(じぶん)(いえ)(かえ)り、わたしをひとりだけ(のこ)(とき)()るであろう。いや、すでにきている。しかし、わたしはひとりでいるのではない。(ちち)がわたしと一緒(いっしょ)におられるのである。 33これらのことをあなたがたに(はな)したのは、わたしにあって平安(へいあん)()るためである。あなたがたは、この()ではなやみがある。しかし、勇気(ゆうき)()しなさい。わたしはすでに()()っている」。

第十七章

1これらのことを(かた)()えると、イエスは(てん)()あげて()われた、「(ちち)よ、(とき)がきました。あなたの()があなたの栄光(えいこう)をあらわすように、()栄光(えいこう)をあらわして(くだ)さい。 2あなたは、()(たま)わったすべての(もの)に、永遠(えいえん)(いのち)(さづ)けさせるため、万民(ばんみん)支配(しはい)する権威(けんい)()にお(あた)えになったのですから。 3永遠(えいえん)(いのち)とは、唯一(ゆいいつ)の、まことの(かみ)でいますあなたと、また、あなたがつかわされたイエス・キリストとを()ることであります。 4わたしは、わたしにさせるためにお(さづ)けになったわざをなし()げて、地上(ちじょう)であなたの栄光(えいこう)をあらわしました。 5(ちち)よ、()(つく)られる(まえ)に、わたしがみそばで()っていた栄光(えいこう)で、(いま)(まえ)にわたしを(かがや)かせて(くだ)さい。
6わたしは、あなたが()から(えら)んでわたしに(たま)わった人々(ひとびと)に、み()をあらわしました。(かれ)らはあなたのものでありましたが、わたしに(くだ)さいました。そして、(かれ)らはあなたの言葉(ことば)(まも)りました。 7いま(かれ)らは、わたしに(たま)わったものはすべて、あなたから()たものであることを()りました。 8なぜなら、わたしはあなたからいただいた言葉(ことば)(かれ)らに(あた)え、そして(かれ)らはそれを()け、わたしがあなたから()たものであることをほんとうに()り、また、あなたがわたしをつかわされたことを(しん)じるに(いた)ったからです。 9わたしは(かれ)らのためにお(ねが)いします。わたしがお(ねが)いするのは、この()のためにではなく、あなたがわたしに(たま)わった(もの)たちのためです。(かれ)らはあなたのものなのです。 10わたしのものは(みな)あなたのもの、あなたのものはわたしのものです。そして、わたしは(かれ)らによって栄光(えいこう)()けました。 11わたしはもうこの()にはいなくなりますが、(かれ)らはこの()(のこ)っており、わたしはみもとに(まい)ります。(せい)なる(ちち)よ、わたしに(たま)わった御名(みな)によって(かれ)らを(まも)って(くだ)さい。それはわたしたちが一つであるように、(かれ)らも一つになるためであります。 12わたしが(かれ)らと一緒(いっしょ)にいた(あいだ)は、あなたからいただいた御名(みな)によって(かれ)らを(まも)り、また保護(ほご)してまいりました。(かれ)らのうち、だれも(ほろ)びず、ただ(ほろ)びの()だけが(ほろ)びました。それは聖書(せいしょ)成就(じょうじゅ)するためでした。 13(いま)わたしはみもとに(まい)ります。そして()にいる(あいだ)にこれらのことを(かた)るのは、わたしの(よろこ)びが(かれ)らのうちに()ちあふれるためであります。 14わたしは(かれ)らに御言(みことば)(あた)えましたが、()(かれ)らを(にく)みました。わたしが()のものでないように、(かれ)らも()のものではないからです。 15わたしがお(ねが)いするのは、(かれ)らを()から()()ることではなく、(かれ)らを()しき(もの)から(まも)って(くだ)さることであります。 16わたしが()のものでないように、(かれ)らも()のものではありません。 17真理(しんり)によって(かれ)らを(せい)(べつ)して(くだ)さい。あなたの御言(みことば)真理(しんり)であります。 18あなたがわたしを()につかわされたように、わたしも(かれ)らを()につかわしました。 19また(かれ)らが真理(しんり)によって(せい)(べつ)されるように、(かれ)らのためわたし自身(じしん)(せい)(べつ)いたします。
20わたしは(かれ)らのためばかりではなく、(かれ)らの言葉(ことば)()いてわたしを(しん)じている人々(ひとびと)のためにも、お(ねが)いいたします。 21(ちち)よ、それは、あなたがわたしのうちにおられ、わたしがあなたのうちにいるように、みんなの(もの)が一つとなるためであります。すなわち、(かれ)らをもわたしたちのうちにおらせるためであり、それによって、あなたがわたしをおつかわしになったことを、()(しん)じるようになるためであります。 22わたしは、あなたからいただいた栄光(えいこう)(かれ)らにも(あた)えました。それは、わたしたちが一つであるように、(かれ)らも一つになるためであります。 23わたしが(かれ)らにおり、あなたがわたしにいますのは、(かれ)らが完全(かんぜん)に一つとなるためであり、また、あなたがわたしをつかわし、わたしを(あい)されたように、(かれ)らをお(あい)しになったことを、()()るためであります。 24(ちち)よ、あなたがわたしに(たま)わった人々(ひとびと)が、わたしのいる(ところ)一緒(いっしょ)にいるようにして(くだ)さい。天地(てんち)(つく)られる(まえ)からわたしを(あい)して(くだ)さって、わたしに(たま)わった栄光(えいこう)を、(かれ)らに()させて(くだ)さい。 25(ただ)しい(ちち)よ、この()はあなたを()っていません。しかし、わたしはあなたを()り、また(かれ)らも、あなたがわたしをおつかわしになったことを()っています。 26そしてわたしは(かれ)らに御名(みな)()らせました。またこれからも()らせましょう。それは、あなたがわたしを(あい)して(くだ)さったその(あい)(かれ)らのうちにあり、またわたしも(かれ)らのうちにおるためであります」。

第十八章

1イエスはこれらのことを(かた)()えて、弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)にケデロンの(たに)()こうへ()かれた。そこには(その)があって、イエスは弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)にその(なか)にはいられた。 2イエスを裏切(うらぎ)ったユダは、その(ところ)をよく()っていた。イエスと弟子(でし)たちとがたびたびそこで(あつ)まったことがあるからである。 3さてユダは、一隊(いったい)兵卒(へいそつ)祭司長(さいしちょう)やパリサイ(びと)たちの(おく)った下役(したやく)どもを()()れ、たいまつやあかりや武器(ぶき)()って、そこへやってきた。 4しかしイエスは、自分(じぶん)()(おこ)ろうとすることをことごとく承知(しょうち)しておられ、(すす)()(かれ)らに()われた、「だれを(さが)しているのか」。 5(かれ)らは「ナザレのイエスを」と(こた)えた。イエスは(かれ)らに()われた、「わたしが、それである」。イエスを裏切(うらぎ)ったユダも、(かれ)らと一緒(いっしょ)()っていた。 6イエスが(かれ)らに「わたしが、それである」と()われたとき、(かれ)らはうしろに()きさがって()(たお)れた。 7そこでまた(かれ)らに、「だれを(さが)しているのか」とお(たず)ねになると、(かれ)らは「ナザレのイエスを」と()った。 8イエスは(こた)えられた、「わたしがそれであると、()ったではないか。わたしを(さが)しているのなら、この(ひと)たちを()らせてもらいたい」。 9それは、「あなたが(あた)えて(くだ)さった(ひと)たちの(なか)のひとりも、わたしは(うしな)わなかった」とイエスの()われた言葉(ことば)が、成就(じょうじゅ)するためである。 10シモン・ペテロは(けん)()っていたが、それを()いて、大祭司(だいさいし)(しもべ)()りかかり、その(みぎ)(みみ)()(おと)した。その(しもべ)()はマルコスであった。 11すると、イエスはペテロに()われた、「(けん)をさやに(おさ)めなさい。(ちち)がわたしに(くだ)さった(さかずき)は、()むべきではないか」。
12それから一隊(いったい)兵卒(へいそつ)やその千卒長(せんそつちょう)やユダヤ(じん)下役(したやく)どもが、イエスを(とら)え、(しば)りあげて、 13まずアンナスのところに()()れて()った。(かれ)はその(とし)大祭司(だいさいし)カヤパのしゅうとであった。 14カヤパは(まえ)に、ひとりの(ひと)(たみ)のために()ぬのはよいことだと、ユダヤ(じん)助言(じょげん)した(もの)であった。
15シモン・ペテロともうひとりの弟子(でし)とが、イエスについて()った。この弟子(でし)大祭司(だいさいし)()()いであったので、イエスと一緒(いっしょ)大祭司(だいさいし)中庭(なかにわ)にはいった。 16しかし、ペテロは(そと)戸口(とぐち)()っていた。すると大祭司(だいさいし)()()いであるその弟子(でし)が、(そと)()()って門番(もんばん)(おんな)(はな)し、ペテロを(うち)()れてやった。 17すると、この門番(もんばん)(おんな)がペテロに()った、「あなたも、あの(ひと)弟子(でし)のひとりではありませんか」。ペテロは「いや、そうではない」と(こた)えた。 18(しもべ)下役(したやく)どもは、(さむ)(とき)であったので、炭火(すみび)をおこし、そこに()ってあたっていた。ペテロもまた(かれ)らに()じり、()ってあたっていた。
19大祭司(だいさいし)はイエスに、弟子(でし)たちのことやイエスの(おしえ)のことを(たず)ねた。 20イエスは(こた)えられた、「わたしはこの()(たい)して公然(こうぜん)(かた)ってきた。すべてのユダヤ(じん)(あつ)まる会堂(かいどう)(みや)で、いつも(おし)えていた。何事(なにごと)(かく)れて(かた)ったことはない。 21なぜ、わたしに(たず)ねるのか。わたしが(かれ)らに(かた)ったことは、それを()いた人々(ひとびと)(たず)ねるがよい。わたしの()ったことは、(かれ)らが()っているのだから」。 22イエスがこう()われると、そこに()っていた下役(したやく)のひとりが、「大祭司(だいさいし)にむかって、そのような(こたえ)をするのか」と()って、平手(ひらて)でイエスを()った。 23イエスは(こた)えられた、「もしわたしが(なに)(わる)いことを()ったのなら、その(わる)理由(りゆう)()いなさい。しかし、(ただ)しいことを()ったのなら、なぜわたしを()つのか」。 24それからアンナスは、イエスを(しば)ったまま大祭司(だいさいし)カヤパのところへ(おく)った。 25シモン・ペテロは、()って()にあたっていた。すると人々(ひとびと)(かれ)()った、「あなたも、あの(ひと)弟子(でし)のひとりではないか」。(かれ)はそれをうち()して、「いや、そうではない」と()った。 26大祭司(だいさいし)(しもべ)のひとりで、ペテロに(みみ)()りおとされた(ひと)親族(しんぞく)(もの)()った、「あなたが(その)であの(ひと)一緒(いっしょ)にいるのを、わたしは()たではないか」。 27ペテロはまたそれを()()した。するとすぐに、(にわとり)()いた。
28それから人々(ひとびと)は、イエスをカヤパのところから官邸(かんてい)につれて()った。(とき)夜明(よあ)けであった。(かれ)らは、けがれを()けないで過越(すぎこし)食事(しょくじ)ができるように、官邸(かんてい)にはいらなかった。 29そこで、ピラトは(かれ)らのところに()てきて()った、「あなたがたは、この(ひと)(たい)してどんな(うった)えを(おこ)すのか」。 30(かれ)らはピラトに(こた)えて()った、「もしこの(ひと)悪事(あくじ)をはたらかなかったなら、あなたに()(わた)すようなことはしなかったでしょう」。 31そこでピラトは(かれ)らに()った、「あなたがたは(かれ)()()って、自分(じぶん)たちの律法(りっぽう)でさばくがよい」。ユダヤ(じん)らは(かれ)()った、「わたしたちには、(ひと)死刑(しけい)にする権限(けんげん)がありません」。 32これは、ご自身(じしん)がどんな()にかたをしようとしているかを(しめ)すために()われたイエスの言葉(ことば)が、成就(じょうじゅ)するためである。
33さて、ピラトはまた官邸(かんてい)にはいり、イエスを()()して()った、「あなたは、ユダヤ(じん)(おう)であるか」。 34イエスは(こた)えられた、「あなたがそう()うのは、自分(じぶん)(かんが)えからか。それともほかの人々(ひとびと)が、わたしのことをあなたにそう()ったのか」。 35ピラトは(こた)えた、「わたしはユダヤ(じん)なのか。あなたの同族(どうぞく)祭司長(さいしちょう)たちが、あなたをわたしに()(わた)したのだ。あなたは、いったい、(なに)をしたのか」。 36イエスは(こた)えられた、「わたしの(くに)はこの()のものではない。もしわたしの(くに)がこの()のものであれば、わたしに(したが)っている(もの)たちは、わたしをユダヤ(じん)(わた)さないように(たたか)ったであろう。しかし事実(じじつ)、わたしの(くに)はこの()のものではない」。 37そこでピラトはイエスに()った、「それでは、あなたは(おう)なのだな」。イエスは(こた)えられた、「あなたの()うとおり、わたしは(おう)である。わたしは真理(しんり)についてあかしをするために(うま)れ、また、そのためにこの()にきたのである。だれでも真理(しんり)につく(もの)は、わたしの(こえ)(みみ)(かたむ)ける」。 38ピラトはイエスに()った、「真理(しんり)とは(なに)か」。こう()って、(かれ)はまたユダヤ(じん)(ところ)()()き、(かれ)らに()った、「わたしには、この(ひと)になんの(つみ)()いだせない。 39過越(すぎこし)(とき)には、わたしがあなたがたのために、ひとりの(ひと)(ゆる)してやるのが、あなたがたのしきたりになっている。ついては、あなたがたは、このユダヤ(じん)(おう)(ゆる)してもらいたいのか」。 40すると(かれ)らは、また(さけ)んで「その(ひと)ではなく、バラバを」と()った。このバラバは強盗(ごうとう)であった。

第十九章

1そこでピラトは、イエスを(とら)え、むちで()たせた。 2兵卒(へいそつ)たちは、いばらで(かんむり)をあんで、イエスの(あたま)にかぶらせ、(むらさき)上着(うわぎ)()せ、 3それから、その(まえ)(すす)()て、「ユダヤ(じん)(おう)、ばんざい」と()った。そして平手(ひらて)でイエスを()ちつづけた。 4するとピラトは、また()()ってユダヤ(じん)たちに()った、「()よ、わたしはこの(ひと)をあなたがたの(まえ)()()すが、それはこの(ひと)になんの(つみ)()いだせないことを、あなたがたに()ってもらうためである」。 5イエスはいばらの(かんむり)をかぶり、(むらさき)上着(うわぎ)()たままで(そと)()られると、ピラトは(かれ)らに()った、「()よ、この(ひと)だ」。 6祭司長(さいしちょう)たちや下役(したやく)どもはイエスを()ると、(さけ)んで「十字架(じゅうじか)につけよ、十字架(じゅうじか)につけよ」と()った。ピラトは(かれ)らに()った、「あなたがたが、この(ひと)()()って十字架(じゅうじか)につけるがよい。わたしは、(かれ)にはなんの(つみ)()いだせない」。 7ユダヤ(じん)たちは(かれ)(こた)えた、「わたしたちには律法(りっぽう)があります。その律法(りっぽう)によれば、(かれ)自分(じぶん)(かみ)()としたのだから、死罪(しざい)(あた)(もの)です」。 8ピラトがこの言葉(ことば)()いたとき、ますますおそれ、 9もう一()官邸(かんてい)にはいってイエスに()った、「あなたは、もともと、どこからきたのか」。しかし、イエスはなんの(こたえ)もなさらなかった。 10そこでピラトは()った、「(なに)(こた)えないのか。わたしには、あなたを(ゆる)権威(けんい)があり、また十字架(じゅうじか)につける権威(けんい)があることを、()らないのか」。 11イエスは(こた)えられた、「あなたは、(うえ)から(たま)わるのでなければ、わたしに(たい)してなんの権威(けんい)もない。だから、わたしをあなたに()(わた)した(もの)(つみ)は、もっと(おお)きい」。 12これを()いて、ピラトはイエスを(ゆる)そうと(つと)めた。しかしユダヤ(じん)たちが(さけ)んで()った、「もしこの(ひと)(ゆる)したなら、あなたはカイザルの味方(みかた)ではありません。自分(じぶん)(おう)とするものはすべて、カイザルにそむく(もの)です」。 13ピラトはこれらの言葉(ことば)()いて、イエスを(そと)()()して()き、敷石(しきいし)(ヘブル()ではガバタ)という場所(ばしょ)裁判(さいばん)(せき)についた。 14その()過越(すぎこし)準備(じゅんび)()であって、(とき)(ひる)の十二()ころであった。ピラトはユダヤ(じん)らに()った、「()よ、これがあなたがたの(おう)だ」。 15すると(かれ)らは(さけ)んだ、「(ころ)せ、(ころ)せ、(かれ)十字架(じゅうじか)につけよ」。ピラトは(かれ)らに()った、「あなたがたの(おう)を、わたしが十字架(じゅうじか)につけるのか」。祭司長(さいしちょう)たちは(こた)えた、「わたしたちには、カイザル以外(いがい)(おう)はありません」。 16そこでピラトは、十字架(じゅうじか)につけさせるために、イエスを(かれ)らに()(わた)した。
(かれ)らはイエスを()()った。 17イエスはみずから十字架(じゅうじか)背負(せお)って、されこうべ(ヘブル()ではゴルゴダ)という場所(ばしょ)()()かれた。 18(かれ)らはそこで、イエスを十字架(じゅうじか)につけた。イエスをまん(なか)にして、ほかのふたりの(もの)両側(りょうがわ)に、イエスと一緒(いっしょ)十字架(じゅうじか)につけた。 19ピラトは罪状(ざいじょう)()きを()いて、十字架(じゅうじか)(うえ)にかけさせた。それには「ユダヤ(じん)(おう)、ナザレのイエス」と()いてあった。 20イエスが十字架(じゅうじか)につけられた場所(ばしょ)(みやこ)(ちか)かったので、(おお)くのユダヤ(じん)がこの罪状(ざいじょう)()きを()んだ。それはヘブル、ローマ、ギリシヤの国語(こくご)()いてあった。 21ユダヤ(じん)祭司長(さいしちょう)たちがピラトに()った、「『ユダヤ(じん)(おう)』と()かずに、『この(ひと)はユダヤ(じん)(おう)()(しょう)していた』と()いてほしい」。 22ピラトは(こた)えた、「わたしが()いたことは、()いたままにしておけ」。
23さて、兵卒(へいそつ)たちはイエスを十字架(じゅうじか)につけてから、その上着(うわぎ)をとって四つに()け、おのおの、その一つを()った。また下着(したぎ)()()ってみたが、それには()()がなく、(うえ)(ほう)から全部(ぜんぶ)一つに()ったものであった。 24そこで(かれ)らは(たがい)()った、「それを()かないで、だれのものになるか、くじを()こう」。これは、「(かれ)らは(たがい)にわたしの上着(うわぎ)()()い、わたしの(ころも)をくじ引にした」という聖書(せいしょ)成就(じょうじゅ)するためで、兵卒(へいそつ)たちはそのようにしたのである。 25さて、イエスの十字架(じゅうじか)のそばには、イエスの(はは)と、(はは)姉妹(しまい)と、クロパの(つま)マリヤと、マグダラのマリヤとが、たたずんでいた。 26イエスは、その(はは)愛弟子(あいでし)とがそばに()っているのをごらんになって、(はは)にいわれた、「婦人(ふじん)よ、ごらんなさい。これはあなたの()です」。 27それからこの弟子(でし)()われた、「ごらんなさい。これはあなたの(はは)です」。そのとき以来(いらい)、この弟子(でし)はイエスの(はは)自分(じぶん)(いえ)()きとった。
28そののち、イエスは(いま)万事(ばんじ)(おわ)ったことを()って、「わたしは、かわく」と()われた。それは、聖書(せいしょ)(まっと)うされるためであった。 29そこに、()いぶどう(しゅ)がいっぱい()れてある(うつわ)がおいてあったので、人々(ひとびと)は、このぶどう(しゅ)(ふく)ませた海綿(かいめん)をヒソプの(くき)(むす)びつけて、イエスの(くち)もとにさし()した。 30すると、イエスはそのぶどう(しゅ)()けて、「すべてが(おわ)った」と()われ、(くび)をたれて(いき)をひきとられた。
31さてユダヤ(じん)たちは、その()準備(じゅんび)()であったので、安息日(あんそくにち)死体(したい)十字架(じゅうじか)(うえ)(のこ)しておくまいと、((とく)にその安息日(あんそくにち)大事(だいじ)()であったから)、ピラトに(ねが)って、(あし)()った(うえ)で、死体(したい)()りおろすことにした。 32そこで兵卒(へいそつ)らがきて、イエスと一緒(いっしょ)十字架(じゅうじか)につけられた(はじ)めの(もの)と、もうひとりの(もの)との(あし)()った。 33しかし、(かれ)らがイエスのところにきた(とき)、イエスはもう()んでおられたのを()て、その(あし)()ることはしなかった。 34しかし、ひとりの兵卒(へいそつ)がやりでそのわきを()きさすと、すぐ()(みず)とが(なが)()た。 35それを()(もの)があかしをした。そして、そのあかしは真実(しんじつ)である。その(ひと)は、自分(じぶん)真実(しんじつ)(かた)っていることを()っている。それは、あなたがたも(しん)ずるようになるためである。 36これらのことが(おこ)ったのは、「その(ほね)はくだかれないであろう」との聖書(せいしょ)言葉(ことば)が、成就(じょうじゅ)するためである。 37また聖書(せいしょ)のほかのところに、「(かれ)らは自分(じぶん)()(とお)した(もの)()るであろう」とある。
38そののち、ユダヤ(じん)をはばかって、ひそかにイエスの弟子(でし)となったアリマタヤのヨセフという(ひと)が、イエスの死体(したい)()りおろしたいと、ピラトに(ねが)()た。ピラトはそれを(ゆる)したので、(かれ)はイエスの死体(したい)()りおろしに()った。 39また、(まえ)に、(よる)、イエスのみもとに()ったニコデモも、没薬(もつやく)沈香(ぢんこう)とをまぜたものを百(きん)ほど()ってきた。 40(かれ)らは、イエスの死体(したい)()りおろし、ユダヤ(じん)埋葬(まいそう)習慣(しゅうかん)にしたがって、香料(こうりょう)()れて亜麻布(あまぬの)()いた。 41イエスが十字架(じゅうじか)にかけられた(ところ)には、一つの(その)があり、そこにはまだだれも(ほうむ)られたことのない(あたら)しい(はか)があった。 42その()はユダヤ(じん)準備(じゅんび)()であったので、その(はか)(ちか)くにあったため、イエスをそこに(おさ)めた。

第二十章

1さて、一(しゅう)(はじ)めの()に、(あさ)(はや)くまだ(くら)いうちに、マグダラのマリヤが(はか)()くと、(はか)から(いし)がとりのけてあるのを()た。 2そこで(はし)って、シモン・ペテロとイエスが(あい)しておられた、もうひとりの弟子(でし)のところへ()って、(かれ)らに()った、「だれかが、(しゅ)(はか)から()()りました。どこへ()いたのか、わかりません」。 3そこでペテロともうひとりの弟子(でし)()かけて、(はか)へむかって()った。 4ふたりは一緒(いっしょ)(はし)()したが、そのもうひとりの弟子(でし)(ほう)が、ペテロよりも(はや)(はし)って(さき)(はか)()き、 5そして()をかがめてみると、亜麻布(あまぬの)がそこに()いてあるのを()たが、(なか)へははいらなかった。 6シモン・ペテロも(つづ)いてきて、(はか)(なか)にはいった。(かれ)亜麻布(あまぬの)がそこに()いてあるのを()たが、 7イエスの(あたま)()いてあった(ぬの)亜麻布(あまぬの)のそばにはなくて、はなれた(べつ)場所(ばしょ)にくるめてあった。 8すると、(さき)(はか)()いたもうひとりの弟子(でし)もはいってきて、これを()(しん)じた。 9しかし、(かれ)らは死人(しにん)のうちからイエスがよみがえるべきことをしるした(せい)()を、まだ(さと)っていなかった。 10それから、ふたりの弟子(でし)たちは自分(じぶん)(いえ)(かえ)って()った。
11しかし、マリヤは(はか)(そと)()って()いていた。そして()きながら、()をかがめて(はか)(なか)をのぞくと、 12(しろ)(ころも)()たふたりの御使(みつかい)が、イエスの死体(したい)のおかれていた場所(ばしょ)に、ひとりは(あたま)(ほう)に、ひとりは(あし)(ほう)に、すわっているのを()た。 13すると、(かれ)らはマリヤに、「(おんな)よ、なぜ()いているのか」と()った。マリヤは(かれ)らに()った、「だれかが、わたしの(しゅ)()()りました。そして、どこに()いたのか、わからないのです」。 14そう()って、うしろをふり()くと、そこにイエスが()っておられるのを()た。しかし、それがイエスであることに()がつかなかった。 15イエスは(おんな)()われた、「(おんな)よ、なぜ()いているのか。だれを(さが)しているのか」。マリヤは、その(ひと)(その)番人(ばんにん)だと(おも)って()った、「もしあなたが、あのかたを(うつ)したのでしたら、どこへ()いたのか、どうぞ、おっしゃって(くだ)さい。わたしがそのかたを()()ります」。 16イエスは彼女(かのじょ)に「マリヤよ」と()われた。マリヤはふり(かえ)って、イエスにむかってヘブル()で「ラボニ」と()った。それは、先生(せんせい)という意味(いみ)である。 17イエスは彼女(かのじょ)()われた、「わたしにさわってはいけない。わたしは、まだ(ちち)のみもとに(のぼ)っていないのだから。ただ、わたしの兄弟(きょうだい)たちの(ところ)()って、『わたしは、わたしの(ちち)またあなたがたの(ちち)であって、わたしの(かみ)またあなたがたの(かみ)であられるかたのみもとへ(のぼ)って()く』と、(かれ)らに(つた)えなさい」。 18マグダラのマリヤは弟子(でし)たちのところに()って、自分(じぶん)(しゅ)()ったこと、またイエスがこれこれのことを自分(じぶん)(おお)せになったことを、報告(ほうこく)した。
19その()、すなわち、一(しゅう)(はじ)めの()夕方(ゆうがた)弟子(でし)たちはユダヤ(じん)をおそれて、自分(じぶん)たちのおる(ところ)()をみなしめていると、イエスがはいってきて、(かれ)らの(なか)()ち、「(やす)かれ」と()われた。 20そう()って、()とわきとを、(かれ)らにお()せになった。弟子(でし)たちは(しゅ)()(よろこ)んだ。 21イエスはまた(かれ)らに()われた、「(やす)かれ。(ちち)がわたしをおつかわしになったように、わたしもまたあなたがたをつかわす」。 22そう()って、(かれ)らに(いき)()きかけて(おお)せになった、「聖霊(せいれい)()けよ。 23あなたがたがゆるす(つみ)は、だれの(つみ)でもゆるされ、あなたがたがゆるさずにおく(つみ)は、そのまま(のこ)るであろう」。
24十二弟子(でし)のひとりで、デドモと()ばれているトマスは、イエスがこられたとき、(かれ)らと一緒(いっしょ)にいなかった。 25ほかの弟子(でし)たちが、(かれ)に「わたしたちは(しゅ)にお()にかかった」と()うと、トマスは(かれ)らに()った、「わたしは、その()(くぎ)あとを()、わたしの(ゆび)をその(くぎ)あとにさし()れ、また、わたしの()をそのわきにさし()れてみなければ、(けっ)して(しん)じない」。
26()ののち、イエスの弟子(でし)たちはまた(いえ)(うち)におり、トマスも一緒(いっしょ)にいた。()はみな()ざされていたが、イエスがはいってこられ、(なか)()って「(やす)かれ」と()われた。 27それからトマスに()われた、「あなたの(ゆび)をここにつけて、わたしの()()なさい。()をのばしてわたしのわきにさし()れてみなさい。(しん)じない(もの)にならないで、(しん)じる(もの)になりなさい」。 28トマスはイエスに(こた)えて()った、「わが(しゅ)よ、わが(かみ)よ」。 29イエスは(かれ)()われた、「あなたはわたしを()たので(しん)じたのか。()ないで(しん)ずる(もの)は、さいわいである」。
30イエスは、この(しょ)()かれていないしるしを、ほかにも(おお)く、弟子(でし)たちの(まえ)(おこな)われた。 31しかし、これらのことを()いたのは、あなたがたがイエスは(かみ)()キリストであると(しん)じるためであり、また、そう(しん)じて、イエスの()によって(いのち)()るためである。

第二十一章

1そののち、イエスはテベリヤの(うみ)べで、ご自身(じしん)をまた弟子(でし)たちにあらわされた。そのあらわされた次第(しだい)は、こうである。 2シモン・ペテロが、デドモと()ばれているトマス、ガリラヤのカナのナタナエル、ゼベダイの()らや、ほかのふたりの弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)にいた(とき)のことである。 3シモン・ペテロは(かれ)らに「わたしは(りょう)()くのだ」と()うと、(かれ)らは「わたしたちも一緒(いっしょ)()こう」と()った。(かれ)らは()()って(ふね)()った。しかし、その()はなんの獲物(えもの)もなかった。 4()()けたころ、イエスが(きし)()っておられた。しかし弟子(でし)たちはそれがイエスだとは()らなかった。 5イエスは(かれ)らに()われた、「()たちよ、(なに)()べるものがあるか」。(かれ)らは「ありません」と(こた)えた。 6すると、イエスは(かれ)らに()われた、「(ふね)(みぎ)(ほう)(あみ)をおろして()なさい。そうすれば、(なに)かとれるだろう」。(かれ)らは(あみ)をおろすと、(うお)(おお)くとれたので、それを()()げることができなかった。 7イエスの(あい)しておられた弟子(でし)が、ペテロに「あれは(しゅ)だ」と()った。シモン・ペテロは(しゅ)であると()いて、(はだか)になっていたため、上着(うわぎ)をまとって(うみ)にとびこんだ。 8しかし、ほかの弟子(でし)たちは(ふね)()ったまま、(うお)のはいっている(あみ)()きながら(かえ)って()った。(りく)からはあまり(とお)くない五十(けん)ほどの(ところ)にいたからである。
9(かれ)らが(りく)(のぼ)って()ると、炭火(すみび)がおこしてあって、その(うえ)(うお)がのせてあり、またそこにパンがあった。 10イエスは(かれ)らに()われた、「(いま)とった(うお)(すこ)()ってきなさい」。 11シモン・ペテロが()って、(あみ)(りく)()()げると、百五十三びきの(おお)きな(うお)でいっぱいになっていた。そんなに(おお)かったが、(あみ)はさけないでいた。 12イエスは(かれ)らに()われた、「さあ、(あさ)食事(しょくじ)をしなさい」。弟子(でし)たちは、(しゅ)であることがわかっていたので、だれも「あなたはどなたですか」と(すす)んで(たず)ねる(もの)がなかった。 13イエスはそこにきて、パンをとり(かれ)らに(あた)え、また(うお)(おな)じようにされた。 14イエスが死人(しにん)(なか)からよみがえったのち、弟子(でし)たちにあらわれたのは、これで(すで)に三度目(どめ)である。
15(かれ)らが食事(しょくじ)をすませると、イエスはシモン・ペテロに()われた、「ヨハネの()シモンよ、あなたはこの(ひと)たちが(あい)する以上(いじょう)に、わたしを(あい)するか」。ペテロは()った、「(しゅ)よ、そうです。わたしがあなたを(あい)することは、あなたがご(ぞん)じです」。イエスは(かれ)に「わたしの小羊(こひつじ)(やしな)いなさい」と()われた。 16またもう一度(いちど)(かれ)()われた、「ヨハネの()シモンよ、わたしを(あい)するか」。(かれ)はイエスに()った、「(しゅ)よ、そうです。わたしがあなたを(あい)することは、あなたがご(ぞん)じです」。イエスは(かれ)()われた、「わたしの(ひつじ)()いなさい」。 17イエスは三度目(どめ)()われた、「ヨハネの()シモンよ、わたしを(あい)するか」。ペテロは「わたしを(あい)するか」とイエスが三()()われたので、(こころ)をいためてイエスに()った、「(しゅ)よ、あなたはすべてをご(ぞん)じです。わたしがあなたを(あい)していることは、おわかりになっています」。イエスは(かれ)()われた、「わたしの(ひつじ)(やしな)いなさい。 18よくよくあなたに()っておく。あなたが(わか)かった(とき)には、自分(じぶん)(おび)をしめて、(おも)いのままに(ある)きまわっていた。しかし(とし)をとってからは、自分(じぶん)()をのばすことになろう。そして、ほかの(ひと)があなたに(おび)(むす)びつけ、()きたくない(ところ)()れて()くであろう」。 19これは、ペテロがどんな()(かた)で、(かみ)栄光(えいこう)をあらわすかを(しめ)すために、お(はな)しになったのである。こう(はな)してから、「わたしに(したが)ってきなさい」と()われた。 20ペテロはふり(かえ)ると、イエスの(あい)しておられた弟子(でし)がついて()るのを()た。この弟子(でし)は、あの夕食(ゆうしょく)のときイエスの(むね)(ちか)くに()りかかって、「(しゅ)よ、あなたを裏切(うらぎ)(もの)は、だれなのですか」と(たず)ねた(ひと)である。 21ペテロはこの弟子(でし)()て、イエスに()った、「(しゅ)よ、この(ひと)はどうなのですか」。 22イエスは(かれ)()われた、「たとい、わたしの()(とき)まで(かれ)()(のこ)っていることを、わたしが(のぞ)んだとしても、あなたにはなんの(かか)わりがあるか。あなたは、わたしに(したが)ってきなさい」。 23こういうわけで、この弟子(でし)()ぬことがないといううわさが、兄弟(きょうだい)たちの(あいだ)にひろまった。しかし、イエスは(かれ)()ぬことはないと()われたのではなく、ただ「たとい、わたしの()(とき)まで(かれ)()(のこ)っていることを、わたしが(のぞ)んだとしても、あなたにはなんの(かか)わりがあるか」と()われただけである。
24これらの(こと)についてあかしをし、またこれらの(こと)()いたのは、この弟子(でし)である。そして(かれ)のあかしが真実(しんじつ)であることを、わたしたちは()っている。 25イエスのなさったことは、このほかにまだ数多(かずおお)くある。もしいちいち()きつけるならば、世界(せかい)もその()かれた文書(ぶんしょ)(おさ)めきれないであろうと(おも)う。