使徒行伝

第一章

1テオピロよ、わたしは(さき)(だい)(かん)(あら)わして、イエスが(おこな)い、また(おし)えはじめてから、 2(えら)びになった使徒(しと)たちに、聖霊(せいれい)によって(めい)じたのち、(てん)()げられた()までのことを、ことごとくしるした。 3イエスは苦難(くなん)()けたのち、自分(じぶん)()きていることを数々(かずかず)(たし)かな証拠(しょうこ)によって(しめ)し、四十(にち)にわたってたびたび(かれ)らに(あらわ)れて、(かみ)(くに)のことを(かた)られた。 4そして食事(しょくじ)(とも)にしているとき、(かれ)らにお(めい)じになった、「エルサレムから(はな)れないで、かねてわたしから()いていた(ちち)約束(やくそく)()っているがよい。 5すなわち、ヨハネは(みず)でバプテスマを(さづ)けたが、あなたがたは()もなく聖霊(せいれい)によって、バプテスマを(さづ)けられるであろう」。
6さて、弟子(でし)たちが一緒(いっしょ)(あつ)まったとき、イエスに()うて()った、「(しゅ)よ、イスラエルのために(くに)復興(ふっこう)なさるのは、この(とき)なのですか」。 7(かれ)らに()われた、「時期(じき)場合(ばあい)は、(ちち)がご自分(じぶん)権威(けんい)によって(さだ)めておられるのであって、あなたがたの()(かぎ)りではない。 8ただ、聖霊(せいれい)があなたがたにくだる(とき)、あなたがたは(ちから)()けて、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土(ぜんど)、さらに()のはてまで、わたしの証人(しょうにん)となるであろう」。 9こう()(おわ)ると、イエスは(かれ)らの()ている(まえ)(てん)()げられ、(くも)(むか)えられて、その姿(すがた)()えなくなった。 10イエスの(のぼ)って()かれるとき、(かれ)らが(てん)()つめていると、()よ、(しろ)(ころも)()たふたりの(ひと)が、(かれ)らのそばに()っていて 11()った、「ガリラヤの(ひと)たちよ、なぜ(てん)(あお)いで()っているのか。あなたがたを(はな)れて(てん)()げられたこのイエスは、(てん)(のぼ)って()かれるのをあなたがたが()たのと(おな)有様(ありさま)で、またおいでになるであろう」。
12それから(かれ)らは、オリブという(やま)(くだ)ってエルサレムに(かえ)った。この(やま)はエルサレムに(ちか)く、安息日(あんそくにち)(ゆる)されている距離(きょり)のところにある。 13(かれ)らは、市内(しない)()って、その()まっていた屋上(おくじょう)()にあがった。その(ひと)たちは、ペテロ、ヨハネ、ヤコブ、アンデレ、ピリポとトマス、バルトロマイとマタイ、アルパヨの()ヤコブと熱心(ねっしん)(とう)のシモンとヤコブの()ユダとであった。 14(かれ)らはみな、婦人(ふじん)たち、(とく)にイエスの(はは)マリヤ、およびイエスの兄弟(きょうだい)たちと(とも)に、(こころ)()わせて、ひたすら(いのり)をしていた。
15そのころ、百二十(めい)ばかりの人々(ひとびと)が、一団(いちだん)となって(あつ)まっていたが、ペテロはこれらの兄弟(きょうだい)たちの(なか)()って()った、 16兄弟(きょうだい)たちよ、イエスを(とら)えた(もの)たちの()びきになったユダについては、聖霊(せいれい)がダビデの(くち)をとおして預言(よげん)したその言葉(ことば)は、成就(じょうじゅ)しなければならなかった。 17(かれ)はわたしたちの仲間(なかま)(くわ)えられ、この(つとめ)(さず)かっていた(もの)であった。( 18(かれ)不義(ふぎ)報酬(ほうしゅう)で、ある地所(じしょ)()()れたが、そこへまっさかさまに()ちて、(はら)がまん(なか)から()()け、はらわたがみな(なが)()てしまった。 19そして、この(こと)はエルサレムの(ぜん)住民(じゅうみん)()れわたり、そこで、この地所(じしょ)(かれ)らの国語(こくご)でアケルダマと()ばれるようになった。「()地所(じしょ)」との()である。) 20詩篇(しへん)に、
『その屋敷(やしき)()()てよ、
そこにはひとりも()(もの)がいなくなれ』
()いてあり、また
『その(しょく)は、ほかの(もの)()らせよ』
とあるとおりである。 21そういうわけで、(しゅ)イエスがわたしたちの(あいだ)にゆききされた期間中(きかんちゅう)22すなわち、ヨハネのバプテスマの(とき)から(はじ)まって、わたしたちを(はな)れて(てん)()げられた()(いた)るまで、始終(しじゅう)わたしたちと行動(こうどう)(とも)にした(ひと)たちのうち、だれかひとりが、わたしたちに(くわ)わって(しゅ)復活(ふっかつ)証人(しょうにん)にならねばならない」。 23そこで一同(いちどう)は、バルサバと()ばれ、またの()をユストというヨセフと、マッテヤとのふたりを()て、 24(いの)って()った、「すべての(ひと)(こころ)をご(ぞん)じである(しゅ)よ。このふたりのうちのどちらを(えら)んで、 25ユダがこの使徒(しと)職務(しょくむ)から()ちて、自分(じぶん)()くべきところへ()ったそのあとを()がせなさいますか、お(しめ)(くだ)さい」。 26それから、ふたりのためにくじを()いたところ、マッテヤに(あた)ったので、この(ひと)が十一(にん)使徒(しと)たちに(くわ)えられることになった。

第二章

1五旬節(ごじゅんせつ)()がきて、みんなの(もの)一緒(いっしょ)(あつ)まっていると、 2突然(とつぜん)(はげ)しい(かぜ)()いてきたような(おと)(てん)から(おこ)ってきて、一同(いちどう)がすわっていた(いえ)いっぱいに(ひび)きわたった。 3また、(した)のようなものが、(ほのお)のように(わか)れて(あらわ)れ、ひとりびとりの(うえ)にとどまった。 4すると、一同(いちどう)聖霊(せいれい)()たされ、御霊(みたま)(かた)らせるままに、いろいろの他国(たこく)言葉(ことば)(かた)()した。
5さて、エルサレムには、天下(てんか)のあらゆる国々(くにぐに)から、信仰(しんこう)(ぶか)いユダヤ(じん)たちがきて()んでいたが、 6この物音(ものおと)(おお)ぜいの(ひと)(あつ)まってきて、(かれ)らの(うま)故郷(こきょう)国語(こくご)で、使徒(しと)たちが(はな)しているのを、だれもかれも()いてあっけに()られた。 7そして(おどろ)(あや)しんで()った、「()よ、いま(はな)しているこの(ひと)たちは、(みな)ガリラヤ(びと)ではないか。 8それだのに、わたしたちがそれぞれ、(うま)故郷(こきょう)国語(こくご)(かれ)らから()かされるとは、いったい、どうしたことか。 9わたしたちの(なか)には、パルテヤ(びと)、メジヤ(びと)、エラム(びと)もおれば、メソポタミヤ、ユダヤ、カパドキヤ、ポントとアジヤ、 10フルギヤとパンフリヤ、エジプトとクレネに(ちか)いリビヤ地方(ちほう)などに()(もの)もいるし、またローマ(じん)(たび)にきている(もの)11ユダヤ(じん)改宗者(かいしゅうしゃ)、クレテ(びと)とアラビヤ(じん)もいるのだが、あの人々(ひとびと)がわたしたちの国語(こくご)で、(かみ)(おお)きな(はたら)きを()べるのを()くとは、どうしたことか」。 12みんなの(もの)(おどろ)(まど)って、(たがい)()()った、「これは、いったい、どういうわけなのだろう」。 13しかし、ほかの(ひと)たちはあざ(わら)って、「あの(ひと)たちは(あたら)しい(さけ)()っているのだ」と()った。
14そこで、ペテロが十一(にん)(もの)(とも)()ちあがり、(こえ)をあげて人々(ひとびと)(かた)りかけた。
「ユダヤの(ひと)たち、ならびにエルサレムに()むすべてのかたがた、どうか、この(こと)()っていただきたい。わたしの()うことに(みみ)(かたむ)けていただきたい。 15(いま)(あさ)の九()であるから、この(ひと)たちは、あなたがたが(おも)っているように、(さけ)()っているのではない。 16そうではなく、これは預言者(よげんしゃ)ヨエルが預言(よげん)していたことに(ほか)ならないのである。すなわち、
17(かみ)がこう(おお)せになる。
(おわ)りの(とき)には、
わたしの(れい)をすべての(ひと)(そそ)ごう。
そして、あなたがたのむすこ(むすめ)預言(よげん)をし、
若者(わかもの)たちは(まぼろし)()
老人(ろうじん)たちは(ゆめ)()るであろう。
18その(とき)には、わたしの男女(だんじょ)(しもべ)たちにも
わたしの(れい)(そそ)ごう。
そして(かれ)らも預言(よげん)をするであろう。
19また、(うえ)では、(てん)奇跡(きせき)()せ、
(した)では、()にしるしを、
すなわち、()()()ちこめる(けむり)とを、
()せるであろう。
20(しゅ)(おお)いなる(かがや)かしい()()(まえ)に、
()はやみに
(つき)()(かわ)るであろう。
21そのとき、(しゅ)()()(もと)める(もの)は、
みな(すく)われるであろう』。
22イスラエルの(ひと)たちよ、(いま)わたしの(かた)ることを()きなさい。あなたがたがよく()っているとおり、ナザレ(びと)イエスは、(かみ)(かれ)をとおして、あなたがたの(なか)(おこな)われた数々(かずかず)(ちから)あるわざと奇跡(きせき)としるしとにより、(かみ)からつかわされた(もの)であることを、あなたがたに(しめ)されたかたであった。 23このイエスが(わた)されたのは(かみ)(さだ)めた計画(けいかく)予知(よち)とによるのであるが、あなたがたは(かれ)不法(ふほう)人々(ひとびと)()十字架(じゅうじか)につけて(ころ)した。 24(かみ)はこのイエスを()(くる)しみから()(はな)って、よみがえらせたのである。イエスが()支配(しはい)されているはずはなかったからである。 25ダビデはイエスについてこう()っている、
『わたしは(つね)()(まえ)(しゅ)()た。
(しゅ)は、わたしが(うご)かされないため、
わたしの(みぎ)にいて(くだ)さるからである。
26それゆえ、わたしの(こころ)(たの)しみ、
わたしの(した)はよろこび(うた)った。
わたしの肉体(にくたい)もまた、(のぞ)みに()きるであろう。
27あなたは、わたしの(たましい)黄泉(よみ)()ておくことをせず、
あなたの聖者(せいじゃ)()()てるのを、お(ゆる)しにならないであろう。
28あなたは、いのちの(みち)をわたしに(しめ)し、
(まえ)にあって、わたしを(よろこ)びで()たして(くだ)さるであろう』。
29兄弟(きょうだい)たちよ、族長(ぞくちょう)ダビデについては、わたしはあなたがたにむかって大胆(だいたん)()うことができる。(かれ)()んで(ほうむ)られ、(げん)にその(はか)今日(きょう)(いた)るまで、わたしたちの(あいだ)(のこ)っている。 30(かれ)預言者(よげんしゃ)であって、『その子孫(しそん)のひとりを王位(おうい)につかせよう』と、(かみ)(かた)(かれ)(ちか)われたことを(みと)めていたので、 31キリストの復活(ふっかつ)をあらかじめ()って、『(かれ)黄泉(よみ)()ておかれることがなく、またその肉体(にくたい)()()てることもない』と(かた)ったのである。 32このイエスを、(かみ)はよみがえらせた。そして、わたしたちは(みな)その証人(しょうにん)なのである。 33それで、イエスは(かみ)(みぎ)()げられ、(ちち)から約束(やくそく)聖霊(せいれい)()けて、それをわたしたちに(そそ)がれたのである。このことは、あなたがたが(げん)見聞(みき)きしているとおりである。 34ダビデが(てん)(のぼ)ったのではない。(かれ)自身(じしん)こう()っている、
(しゅ)はわが(しゅ)(おお)せになった、
35あなたの(てき)をあなたの(あし)(だい)にするまでは、
わたしの(みぎ)()していなさい』。
36だから、イスラエルの(ぜん)()は、この(こと)をしかと()っておくがよい。あなたがたが十字架(じゅうじか)につけたこのイエスを、(かみ)は、(しゅ)またキリストとしてお()てになったのである」。
37人々(ひとびと)はこれを()いて、(つよ)(こころ)()され、ペテロやほかの使徒(しと)たちに、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしたちは、どうしたらよいのでしょうか」と()った。 38すると、ペテロが(こた)えた、「()(あらた)めなさい。そして、あなたがたひとりびとりが(つみ)のゆるしを()るために、イエス・キリストの()によって、バプテスマを()けなさい。そうすれば、あなたがたは聖霊(せいれい)賜物(たまもの)()けるであろう。 39この約束(やくそく)は、われらの(しゅ)なる(かみ)()しにあずかるすべての(もの)、すなわちあなたがたと、あなたがたの()らと、(とお)くの(もの)一同(いちどう)とに、(あた)えられているものである」。 40ペテロは、ほかになお(おお)くの言葉(ことば)であかしをなし、人々(ひとびと)に「この(まが)った時代(じだい)から(すく)われよ」と()って(すす)めた。 41そこで、(かれ)(すす)めの言葉(ことば)()けいれた(もの)たちは、バプテスマを()けたが、その()仲間(なかま)(くわ)わったものが三千(にん)ほどあった。 42そして一同(いちどう)はひたすら、使徒(しと)たちの(おしえ)(まも)り、信徒(しんと)(まじ)わりをなし、(とも)にパンをさき、(いのり)をしていた。
43みんなの(もの)におそれの(ねん)(しょう)じ、(おお)くの奇跡(きせき)としるしとが、使徒(しと)たちによって、次々(つぎつぎ)(おこな)われた。 44信者(しんじゃ)たちはみな一緒(いっしょ)にいて、いっさいの(もの)共有(きょうゆう)にし、 45資産(しさん)()(もの)()っては、必要(ひつよう)(おう)じてみんなの(もの)()(あた)えた。 46そして日々(ひび)(こころ)を一つにして、()えず(みや)もうでをなし、(いえ)ではパンをさき、よろこびと、まごころとをもって、食事(しょくじ)(とも)にし、 47(かみ)をさんびし、すべての(ひと)好意(こうい)()たれていた。そして(しゅ)は、(すく)われる(もの)日々(ひび)仲間(なかま)(くわ)えて(くだ)さったのである。

第三章

1さて、ペテロとヨハネとが、午後(ごご)()(いのり)のときに(みや)(のぼ)ろうとしていると、 2(うま)れながら(あし)のきかない(おとこ)が、かかえられてきた。この(おとこ)は、(みや)もうでに()人々(ひとびと)(ほどこ)しをこうため、毎日(まいにち)、「(うつく)しの(もん)」と()ばれる(みや)(もん)のところに、()かれていた(もの)である。 3(かれ)は、ペテロとヨハネとが、(みや)にはいって()こうとしているのを()て、(ほどこ)しをこうた。 4ペテロとヨハネとは(かれ)をじっと()て、「わたしたちを()なさい」と()った。 5(かれ)(なに)かもらえるのだろうと期待(きたい)して、ふたりに注目(ちゅうもく)していると、 6ペテロが()った、「金銀(きんぎん)はわたしには()い。しかし、わたしにあるものをあげよう。ナザレ(びと)イエス・キリストの()によって(ある)きなさい」。 7こう()って(かれ)右手(みぎて)()って(おこ)してやると、(あし)と、くるぶしとが、()ちどころに(つよ)くなって、 8(おど)りあがって()ち、(ある)()した。そして、(ある)(まわ)ったり(おど)ったりして(かみ)をさんびしながら、(かれ)らと(とも)(みや)にはいって()った。 9民衆(みんしゅう)はみな、(かれ)(ある)(まわ)り、また(かみ)をさんびしているのを()10これが(みや)の「(うつく)しの(もん)」のそばにすわって、(ほどこ)しをこうていた(もの)であると()り、(かれ)()(おこ)ったことについて、(おどろ)(あや)しんだ。
11(かれ)がなおもペテロとヨハネとにつきまとっているとき、人々(ひとびと)(みな)ひどく(おどろ)いて、「ソロモンの(ろう)」と()ばれる柱廊(ちゅうろう)にいた(かれ)らのところに()(あつ)まってきた。 12ペテロはこれを()て、人々(ひとびと)にむかって()った、「イスラエルの(ひと)たちよ、なぜこの(こと)不思議(ふしぎ)(おも)うのか。また、わたしたちが自分(じぶん)(ちから)信心(しんじん)で、あの(ひと)(ある)かせたかのように、なぜわたしたちを()つめているのか。 13アブラハム、イサク、ヤコブの(かみ)、わたしたちの先祖(せんぞ)(かみ)は、その(しもべ)イエスに栄光(えいこう)(たま)わったのであるが、あなたがたは、このイエスを()(わた)し、ピラトがゆるすことに()めていたのに、それを(かれ)面前(めんぜん)(こば)んだ。 14あなたがたは、この(せい)なる(ただ)しいかたを(こば)んで、人殺(ひとごろ)しの(おとこ)をゆるすように要求(ようきゅう)し、 15いのちの(きみ)(ころ)してしまった。しかし、(かみ)はこのイエスを死人(しにん)(なか)から、よみがえらせた。わたしたちは、その(こと)証人(しょうにん)である。 16そして、イエスの()が、それを(しん)じる信仰(しんこう)のゆえに、あなたがたのいま()()っているこの(ひと)を、(つよ)くしたのであり、イエスによる信仰(しんこう)が、(かれ)をあなたがた一同(いちどう)(まえ)で、このとおり完全(かんぜん)にいやしたのである。
17さて、兄弟(きょうだい)たちよ、あなたがたは()らずにあのような(こと)をしたのであり、あなたがたの指導者(しどうしゃ)たちとても同様(どうよう)であったことは、わたしにわかっている。 18(かみ)はあらゆる預言者(よげんしゃ)(くち)をとおして、キリストの受難(じゅなん)予告(よこく)しておられたが、それをこのように成就(じょうじゅ)なさったのである。 19だから、自分(じぶん)(つみ)をぬぐい()っていただくために、()(あらた)めて本心(ほんしん)()ちかえりなさい。 20それは、(しゅ)のみ(まえ)から(なぐさ)めの(とき)がきて、あなたがたのためにあらかじめ(さだ)めてあったキリストなるイエスを、(かみ)がつかわして(くだ)さるためである。 21このイエスは、(かみ)(せい)なる預言者(よげんしゃ)たちの(くち)をとおして、(むかし)から預言(よげん)しておられた万物(ばんぶつ)更新(こうしん)(とき)まで、(てん)にとどめておかれねばならなかった。 22モーセは()った、『(しゅ)なる(かみ)は、わたしをお()てになったように、あなたがたの兄弟(きょうだい)(なか)から、ひとりの預言者(よげんしゃ)をお()てになるであろう。その預言者(よげんしゃ)があなたがたに(かた)ることには、ことごとく()きしたがいなさい。 23(かれ)()きしたがわない(もの)は、みな(たみ)(なか)から(ほろ)ぼし()られるであろう』。 24サムエルをはじめ、その(のち)つづいて(かた)ったほどの預言者(よげんしゃ)はみな、この(とき)のことを予告(よこく)した。 25あなたがたは預言者(よげんしゃ)()であり、(かみ)があなたがたの先祖(せんぞ)たちと(むす)ばれた契約(けいやく)()である。(かみ)はアブラハムに(たい)して、『地上(ちじょう)(しょ)民族(みんぞく)は、あなたの子孫(しそん)によって祝福(しゅくふく)()けるであろう』と(おお)せられた。 26(かみ)がまずあなたがたのために、その(しもべ)()てて、おつかわしになったのは、あなたがたひとりびとりを、(あく)から()ちかえらせて、祝福(しゅくふく)にあずからせるためなのである」。

第四章

1(かれ)らが人々(ひとびと)にこのように(かた)っているあいだに、祭司(さいし)たち、宮守(みやもり)がしら、サドカイ(びと)たちが近寄(ちかよ)ってきて、 2(かれ)らが人々(ひとびと)(おしえ)()き、イエス自身(じしん)(おこ)った死人(しにん)復活(ふっかつ)宣伝(せんでん)しているのに()をいら()て、 3(かれ)らに()をかけて(とら)え、はや()()れていたので、(よく)(あさ)まで留置(りゅうち)しておいた。 4しかし、(かれ)らの(はなし)()いた(おお)くの(ひと)たちは(しん)じた。そして、その(おとこ)(かず)が五千(にん)ほどになった。
5()くる()役人(やくにん)長老(ちょうろう)律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが、エルサレムに召集(しょうしゅう)された。 6大祭司(だいさいし)アンナスをはじめ、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル、そのほか大祭司(だいさいし)一族(いちぞく)もみな(あつ)まった。 7そして、そのまん(なか)使徒(しと)たちを()たせて尋問(じんもん)した、「あなたがたは、いったい、なんの権威(けんい)、また、だれの()によって、このことをしたのか」。 8その(とき)、ペテロが聖霊(せいれい)()たされて()った、「(たみ)役人(やくにん)たち、ならびに長老(ちょうろう)たちよ、 9わたしたちが、きょう、取調(とりしら)べを()けているのは、病人(びょうにん)(たい)してした()いわざについてであり、この(ひと)がどうしていやされたかについてであるなら、 10あなたがたご一同(いちどう)も、またイスラエルの人々(ひとびと)全体(ぜんたい)も、()っていてもらいたい。この(ひと)元気(げんき)になってみんなの(まえ)()っているのは、ひとえに、あなたがたが十字架(じゅうじか)につけて(ころ)したのを、(かみ)死人(しにん)(なか)からよみがえらせたナザレ(びと)イエス・キリストの御名(みな)によるのである。 11このイエスこそは『あなたがた(いえ)(つく)りらに()てられたが、(すみ)のかしら(いし)となった(いし)』なのである。 12この(ひと)による以外(いがい)(すくい)はない。わたしたちを(すく)いうる()は、これを(べつ)にしては、天下(てんか)のだれにも(あた)えられていないからである」。
13人々(ひとびと)はペテロとヨハネとの大胆(だいたん)(はな)しぶりを()、また同時(どうじ)に、ふたりが無学(むがく)な、ただの(ひと)たちであることを()って、不思議(ふしぎ)(おも)った。そして(かれ)らがイエスと(とも)にいた(もの)であることを(みと)め、 14かつ、(かれ)らにいやされた(もの)がそのそばに()っているのを()ては、まったく(かえ)言葉(ことば)がなかった。 15そこで、ふたりに議会(ぎかい)から退場(たいじょう)するように(めい)じてから、(たがい)協議(きょうぎ)をつづけて 16()った、「あの(ひと)たちを、どうしたらよかろうか。(かれ)らによって(いちじる)しいしるしが(おこな)われたことは、エルサレムの住民(じゅうみん)全体(ぜんたい)()れわたっているので、否定(ひてい)しようもない。 17ただ、これ以上(いじょう)このことが民衆(みんしゅう)(あいだ)にひろまらないように、今後(こんご)はこの()によって、いっさいだれにも(かた)ってはいけないと、おどしてやろうではないか」。 18そこで、ふたりを()()れて、イエスの()によって(かた)ることも()くことも、いっさい相成(あいな)らぬと()いわたした。 19ペテロとヨハネとは、これに(たい)して()った、「(かみ)()(したが)うよりも、あなたがたに()(したが)(ほう)が、(かみ)(まえ)(ただ)しいかどうか、判断(はんだん)してもらいたい。 20わたしたちとしては、自分(じぶん)()たこと()いたことを、(かた)らないわけにはいかない」。 21そこで、(かれ)らはふたりを(さら)におどしたうえ、ゆるしてやった。みんなの(もの)が、この出来事(できごと)のために、(かみ)をあがめていたので、その人々(ひとびと)手前(てまえ)、ふたりを(ばっ)するすべがなかったからである。 22そのしるしによっていやされたのは、四十(さい)あまりの(ひと)であった。
23ふたりはゆるされてから、仲間(なかま)(もの)たちのところに(かえ)って、祭司長(さいしちょう)たちや長老(ちょうろう)たちが()ったいっさいのことを報告(ほうこく)した。 24一同(いちどう)はこれを()くと、(くち)をそろえて、(かみ)にむかい(こえ)をあげて()った、「(てん)()(うみ)と、その(なか)のすべてのものとの(つく)りぬしなる(しゅ)よ。 25あなたは、わたしたちの先祖(せんぞ)、あなたの(しもべ)ダビデの(くち)をとおして、聖霊(せいれい)によって、こう(おお)せになりました、
『なぜ、異邦人(いほうじん)らは、(さわ)()ち、
もろもろの(たみ)は、むなしいことを(はか)り、
26地上(ちじょう)(おう)たちは、()ちかまえ、
支配者(しはいしゃ)たちは、(とう)()んで、
(しゅ)とそのキリストとに(さか)らったのか』。
27まことに、ヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人(いほうじん)らやイスラエルの(たみ)一緒(いっしょ)になって、この(みやこ)(あつ)まり、あなたから(あぶら)(そそ)がれた(せい)なる(しもべ)イエスに(さか)らい、 28()とみ(むね)とによって、あらかじめ(さだ)められていたことを、なし()げたのです。 29(しゅ)よ、いま、(かれ)らの脅迫(きょうはく)()をとめ、(しもべ)たちに、(おも)()って大胆(だいたん)御言葉(みことば)(かた)らせて(くだ)さい。 30そしてみ()()ばしていやしをなし、(せい)なる(しもべ)イエスの()によって、しるしと奇跡(きせき)とを(おこな)わせて(くだ)さい」。 31(かれ)らが(いの)()えると、その(あつ)まっていた場所(ばしょ)()(うご)き、一同(いちどう)聖霊(せいれい)()たされて、大胆(だいたん)(かみ)(ことば)(かた)()した。
32(しん)じた(もの)()れは、(こころ)を一つにし(おも)いを一つにして、だれひとりその()(もの)自分(じぶん)のものだと主張(しゅちょう)する(もの)がなく、いっさいの(もの)共有(きょうゆう)にしていた。 33使徒(しと)たちは(しゅ)イエスの復活(ふっかつ)について、非常(ひじょう)力強(ちからづよ)くあかしをした。そして(おお)きなめぐみが、(かれ)一同(いちどう)(そそ)がれた。 34(かれ)らの(なか)(とぼ)しい(もの)は、ひとりもいなかった。地所(じしょ)家屋(かおく)()っている(ひと)たちは、それを()り、()った(もの)代金(だいきん)をもってきて、 35使徒(しと)たちの(あし)もとに()いた。そしてそれぞれの必要(ひつよう)(おう)じて、だれにでも()(あた)えられた。
36クプロ(うま)れのレビ(びと)で、使徒(しと)たちにバルナバ(「(なぐさ)めの()」との())と()ばれていたヨセフは、 37自分(じぶん)所有(しょゆう)する(はたけ)()り、その代金(だいきん)をもってきて、使徒(しと)たちの(あし)もとに()いた。

第五章

1ところが、アナニヤという(ひと)とその(つま)サッピラとは(とも)資産(しさん)()ったが、 2共謀(きょうぼう)して、その代金(だいきん)をごまかし、一部(いちぶ)だけを()ってきて、使徒(しと)たちの(あし)もとに()いた。 3そこで、ペテロが()った、「アナニヤよ、どうしてあなたは、自分(じぶん)(こころ)をサタンに(うば)われて、聖霊(せいれい)(あざむ)き、地所(じしょ)代金(だいきん)をごまかしたのか。 4()らずに(のこ)しておけば、あなたのものであり、()ってしまっても、あなたの自由(じゆう)になったはずではないか。どうして、こんなことをする()になったのか。あなたは(ひと)(あざむ)いたのではなくて、(かみ)(あざむ)いたのだ」。 5アナニヤはこの言葉(ことば)()いているうちに、(たお)れて(いき)()えた。このことを(つた)()いた人々(ひとびと)は、みな非常(ひじょう)なおそれを(かん)じた。 6それから、若者(わかもの)たちが()って、その死体(したい)(つつ)み、(はこ)()して(ほうむ)った。
7時間(じかん)ばかりたってから、たまたま(かれ)(つま)が、この出来事(できごと)()らずに、はいってきた。 8そこで、ペテロが彼女(かのじょ)にむかって()った、「あの地所(じしょ)は、これこれの値段(ねだん)()ったのか。そのとおりか」。彼女(かのじょ)は「そうです、その値段(ねだん)です」と(こた)えた。 9ペテロは()った、「あなたがたふたりが、(こころ)()わせて(しゅ)御霊(みたま)(こころ)みるとは、何事(なにごと)であるか。()よ、あなたの(おっと)(ほうむ)った(ひと)たちの(あし)が、そこの門口(かどぐち)にきている。あなたも(はこ)()されるであろう」。 10すると(おんな)は、たちまち(かれ)(あし)もとに(たお)れて、(いき)()えた。そこに若者(わかもの)たちがはいってきて、(おんな)()んでしまっているのを()、それを(はこ)()してその(おっと)のそばに(ほうむ)った。 11教会(きょうかい)全体(ぜんたい)ならびにこれを(つた)()いた(ひと)たちは、みな非常(ひじょう)なおそれを(かん)じた。
12そのころ、(おお)くのしるしと奇跡(きせき)とが、次々(つぎつぎ)使徒(しと)たちの()により人々(ひとびと)(なか)(おこな)われた。そして、一同(いちどう)(こころ)を一つにして、ソロモンの(ろう)(あつ)まっていた。 13ほかの(もの)たちは、だれひとり、その(まじ)わりに()ろうとはしなかったが、民衆(みんしゅう)(かれ)らを尊敬(そんけい)していた。 14しかし、(しゅ)(しん)じて仲間(なかま)(くわ)わる(もの)が、男女(だんじょ)とも、ますます(おお)くなってきた。 15ついには、病人(びょうにん)大通(おおどお)りに(はこ)()し、寝台(しんだい)寝床(ねどこ)(うえ)()いて、ペテロが(とお)るとき、(かれ)(かげ)なりと、そのうちのだれかにかかるようにしたほどであった。 16またエルサレム附近(ふきん)町々(まちまち)からも、(おお)ぜいの(ひと)が、病人(びょうにん)(けが)れた(れい)(くる)しめられている(ひと)たちを()()れて、(あつ)まってきたが、その全部(ぜんぶ)(もの)が、ひとり(のこ)らずいやされた。
17そこで、大祭司(だいさいし)とその仲間(なかま)(もの)、すなわち、サドカイ()(ひと)たちが、みな嫉妬(しっと)(ねん)()たされて()ちあがり、 18使徒(しと)たちに()をかけて(とら)え、公共(こうきょう)留置場(りゅうちじょう)()れた。 19ところが(よる)(しゅ)使(つかい)(ごく)()(ひら)き、(かれ)らを()()して()った、 20「さあ()きなさい。そして、(みや)(にわ)()ち、この(いのち)言葉(ことば)()れなく、人々(ひとびと)(かた)りなさい」。 21(かれ)らはこれを()き、夜明(よあ)けごろ(みや)にはいって(おし)えはじめた。
一方(いっぽう)では、大祭司(だいさいし)とその仲間(なかま)(もの)とが、(あつ)まってきて、議会(ぎかい)とイスラエル(びと)長老(ちょうろう)一同(いちどう)とを召集(しょうしゅう)し、使徒(しと)たちを()()してこさせるために、(ひと)(ごく)につかわした。 22そこで、下役(したやく)どもが()って()ると、使徒(しと)たちが(ごく)にいないので、()(かえ)して報告(ほうこく)した、 23(ごく)には、しっかりと(じょう)がかけてあり、戸口(とぐち)には、番人(ばんにん)()っていました。ところが、あけて()たら、(なか)にはだれもいませんでした」。 24宮守(みやもり)がしらと祭司長(さいしちょう)たちとは、この報告(ほうこく)()いて、これは、いったい、どんな(こと)になるのだろうと、あわて(まど)っていた。 25そこへ、ある(ひと)がきて()らせた、「()ってごらんなさい。あなたがたが(ごく)()れたあの(ひと)たちが、(みや)(にわ)()って、民衆(みんしゅう)(おし)えています」。 26そこで宮守(みやもり)がしらが、下役(したやく)どもと一緒(いっしょ)()かけて()って、使徒(しと)たちを()れてきた。しかし、人々(ひとびと)(いし)()(ころ)されるのを(おそ)れて、手荒(てあら)なことはせず、 27(かれ)らを()れてきて、議会(ぎかい)(なか)()たせた。すると、大祭司(だいさいし)()うて 28()った、「あの()使(つか)って(おし)えてはならないと、きびしく(めい)じておいたではないか。それだのに、なんという(こと)だ。エルサレム(なか)にあなたがたの(おしえ)を、はんらんさせている。あなたがたは(たし)かに、あの(ひと)()責任(せきにん)をわたしたちに()わせようと、たくらんでいるのだ」。 29これに(たい)して、ペテロをはじめ使徒(しと)たちは()った、「人間(にんげん)(したが)うよりは、(かみ)(したが)うべきである。 30わたしたちの先祖(せんぞ)(かみ)は、あなたがたが()にかけて(ころ)したイエスをよみがえらせ、 31そして、イスラエルを()(あらた)めさせてこれに(つみ)のゆるしを(あた)えるために、このイエスを(みちび)()とし救主(すくいぬし)として、ご自身(じしん)(みぎ)()げられたのである。 32わたしたちはこれらの(こと)証人(しょうにん)である。(かみ)がご自身(じしん)(したが)(もの)(たま)わった聖霊(せいれい)もまた、その証人(しょうにん)である」。
33これを()いた(もの)たちは、(はげ)しい(いか)りのあまり、使徒(しと)たちを(ころ)そうと(おも)った。 34ところが、国民(こくみん)全体(ぜんたい)尊敬(そんけい)されていた律法(りっぽう)学者(がくしゃ)ガマリエルというパリサイ(びと)が、議会(ぎかい)()って、使徒(しと)たちをしばらくのあいだ(そと)()すように要求(ようきゅう)してから、 35一同(いちどう)にむかって()った、「イスラエルの諸君(しょくん)、あの(ひと)たちをどう(あつか)うか、よく()をつけるがよい。 36(さき)ごろ、チゥダが(おこ)って、自分(じぶん)(なに)(えら)(もの)のように()いふらしたため、(かれ)(したが)った(おとこ)(かず)が、四百(にん)ほどもあったが、結局(けっきょく)(かれ)(ころ)されてしまい、(したが)った(もの)もみな四散(しさん)して、(まった)(あと)(ほう)もなくなっている。 37そののち、人口(じんこう)調査(ちょうさ)(とき)に、ガリラヤ(ひと)ユダが民衆(みんしゅう)(ひき)いて反乱(はんらん)(おこ)したが、この(ひと)(ほろ)び、(したが)った(もの)もみな()らされてしまった。 38そこで、この(さい)諸君(しょくん)(もう)()げる。あの(ひと)たちから()()いて、そのなすままにしておきなさい。その(くわだ)てや、しわざが、人間(にんげん)から()たものなら、自滅(じめつ)するだろう。 39しかし、もし(かみ)から()たものなら、あの(ひと)たちを(ほろ)ぼすことはできまい。まかり(ちが)えば、諸君(しょくん)(かみ)(てき)にまわすことになるかも()れない」。そこで(かれ)らはその勧告(かんこく)にしたがい、 40使徒(しと)たちを()()れて、むち()ったのち、今後(こんご)イエスの()によって(かた)ることは相成(あいな)らぬと()いわたして、ゆるしてやった。 41使徒(しと)たちは、御名(みな)のために(はじ)(くわ)えられるに()(もの)とされたことを(よろこ)びながら、議会(ぎかい)から()てきた。 42そして、毎日(まいにち)(みや)(いえ)で、イエスがキリストであることを、()きつづき(おし)えたり()(つた)えたりした。

第六章

1そのころ、弟子(でし)(かず)がふえてくるにつれて、ギリシヤ()使(つか)うユダヤ(じん)たちから、ヘブル()使(つか)うユダヤ(じん)たちに(たい)して、自分(じぶん)たちのやもめらが、日々(ひび)配給(はいきゅう)で、おろそかにされがちだと、苦情(くじょう)(もう)()てた。 2そこで、十二使徒(しと)弟子(でし)全体(ぜんたい)()(あつ)めて()った、「わたしたちが(かみ)(ことば)をさしおいて、食卓(しょくたく)のことに(たずさ)わるのはおもしろくない。 3そこで、兄弟(きょうだい)たちよ、あなたがたの(なか)から、御霊(みたま)知恵(ちえ)とに()ちた、評判(ひょうばん)のよい(ひと)たち七(にん)(さが)()してほしい。その(ひと)たちにこの仕事(しごと)をまかせ、 4わたしたちは、もっぱら(いのり)御言(みことば)のご(よう)(あた)ることにしよう」。 5この提案(ていあん)会衆(かいしゅう)一同(いちどう)賛成(さんせい)するところとなった。そして信仰(しんこう)聖霊(せいれい)とに()ちた(ひと)ステパノ、それからピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ、およびアンテオケの改宗者(かいしゅうしゃ)ニコラオを(えら)()して、 6使徒(しと)たちの(まえ)()たせた。すると、使徒(しと)たちは(いの)って()(かれ)らの(うえ)においた。
7こうして(かみ)(ことば)は、ますますひろまり、エルサレムにおける弟子(でし)(かず)が、非常(ひじょう)にふえていき、祭司(さいし)たちも多数(たすう)信仰(しんこう)()けいれるようになった。
8さて、ステパノは(めぐ)みと(ちから)とに()ちて、民衆(みんしゅう)(なか)で、めざましい奇跡(きせき)としるしとを(おこな)っていた。 9すると、いわゆる「リベルテン」の会堂(かいどう)(ぞく)する人々(ひとびと)、クレネ(びと)、アレキサンドリヤ(びと)、キリキヤやアジヤからきた人々(ひとびと)などが()って、ステパノと議論(ぎろん)したが、 10(かれ)知恵(ちえ)御霊(みたま)とで(かた)っていたので、それに対抗(たいこう)できなかった。 11そこで、(かれ)らは人々(ひとびと)をそそのかして、「わたしたちは、(かれ)がモーセと(かみ)とを(けが)言葉(ことば)()くのを()いた」と()わせた。 12その(うえ)民衆(みんしゅう)長老(ちょうろう)たちや律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちを煽動(せんどう)し、(かれ)(おそ)って(とら)えさせ、議会(ぎかい)にひっぱってこさせた。 13それから、(いつわ)りの証人(しょうにん)たちを()てて()わせた、「この(ひと)は、この聖所(せいじょ)律法(りっぽう)とに(さか)らう言葉(ことば)()いて、どうしても、やめようとはしません。 14『あのナザレ(びと)イエスは、この聖所(せいじょ)()ちこわし、モーセがわたしたちに(つた)えた慣例(かんれい)()えてしまうだろう』などと、(かれ)()うのを、わたしたちは()きました」。 15議会(ぎかい)(せき)についていた(ひと)たちは(みな)、ステパノに()(そそ)いだが、(かれ)(かお)は、ちょうど天使(てんし)(かお)のように()えた。

第七章

1大祭司(だいさいし)は「そのとおりか」と(たず)ねた。 2そこで、ステパノが()った、
兄弟(きょうだい)たち、(ちち)たちよ、お()(くだ)さい。わたしたちの父祖(ふそ)アブラハムが、カランに()(まえ)、まだメソポタミヤにいたとき、栄光(えいこう)(かみ)(かれ)(あらわ)れて 3(おお)せになった、『あなたの土地(とち)親族(しんぞく)から(はな)れて、あなたにさし(しめ)()()きなさい』。 4そこで、アブラハムはカルデヤ(びと)()()て、カランに()んだ。そして、(かれ)(ちち)()んだのち、(かみ)(かれ)をそこから、(いま)あなたがたの()んでいるこの()移住(いじゅう)させたが、 5そこでは、遺産(いさん)となるものは(なに)一つ、一歩(いっぽ)(はば)土地(とち)すらも、(あた)えられなかった。ただ、その()所領(しょりょう)として(さづ)けようとの約束(やくそく)を、(かれ)と、そして(かれ)にはまだ()がなかったのに、その子孫(しそん)とに(あた)えられたのである。 6(かみ)はこう(おお)せになった、『(かれ)子孫(しそん)他国(たこく)()()せるであろう。そして、そこで四百(ねん)のあいだ、奴隷(どれい)にされて虐待(ぎゃくたい)()けるであろう』。 7それから、さらに(おお)せになった、『(かれ)らを奴隷(どれい)にする国民(こくみん)を、わたしはさばくであろう。その(のち)(かれ)らはそこからのがれ()て、この場所(ばしょ)でわたしを礼拝(れいはい)するであろう』。 8そして、(かみ)はアブラハムに、割礼(かつれい)契約(けいやく)をお(あた)えになった。こうして、(かれ)はイサクの(ちち)となり、これに八日目(かめ)割礼(かつれい)(ほどこ)し、それから、イサクはヤコブの(ちち)となり、ヤコブは十二(にん)族長(ぞくちょう)たちの(ちち)となった。
9族長(ぞくちょう)たちは、ヨセフをねたんで、エジプトに()りとばした。しかし、(かみ)(かれ)(とも)にいまして、 10あらゆる苦難(くなん)から(かれ)(すく)()し、エジプト(おう)パロの(まえ)(めぐ)みを(あた)え、知恵(ちえ)をあらわさせた。そこで、パロは(かれ)宰相(さいしょう)(にん)につかせ、エジプトならびに王家(おうけ)全体(ぜんたい)支配(しはい)(あた)らせた。 11(とき)に、エジプトとカナンとの全土(ぜんど)にわたって、ききんが(おこ)り、(おお)きな苦難(くなん)(おそ)ってきて、わたしたちの先祖(せんぞ)たちは、食物(しょくもつ)()られなくなった。 12ヤコブは、エジプトには食糧(しょくりょう)があると()いて、(はじ)めに先祖(せんぞ)たちをつかわしたが、 13(かい)()(とき)に、ヨセフが兄弟(きょうだい)たちに、自分(じぶん)()(うえ)()()けたので、(かれ)親族(しんぞく)関係(かんけい)がパロに()れてきた。 14ヨセフは使(つかい)をやって、(ちち)ヤコブと七十五(にん)にのぼる親族(しんぞく)一同(いちどう)とを(まね)いた。 15こうして、ヤコブはエジプトに(くだ)り、(かれ)自身(じしん)先祖(せんぞ)たちもそこで()に、 16それから(かれ)らは、シケムに(うつ)されて、かねてアブラハムがいくらかの(かね)()してこの()のハモルの()らから()っておいた(はか)に、(ほうむ)られた。
17(かみ)がアブラハムに(たい)して()てられた約束(やくそく)時期(じき)(ちか)づくにつれ、(たみ)はふえてエジプト全土(ぜんど)にひろがった。 18やがて、ヨセフのことを()らない(べつ)(おう)が、エジプトに(おこ)った。 19この(おう)は、わたしたちの同族(どうぞく)(たい)策略(さくりゃく)をめぐらして、先祖(せんぞ)たちを虐待(ぎゃくたい)し、その(おさ)()らを()かしておかないように()てさせた。 20モーセが(うま)れたのは、ちょうどこのころのことである。(かれ)はまれに()(うつく)しい()であった。三か(げつ)(あいだ)は、(ちち)(いえ)(そだ)てられたが、 21そののち()てられたのを、パロの(むすめ)(ひろ)いあげて、自分(じぶん)()として(そだ)てた。 22モーセはエジプト(じん)のあらゆる学問(がくもん)(おし)()まれ、言葉(ことば)にもわざにも、(ちから)があった。
23四十(さい)になった(とき)、モーセは自分(じぶん)兄弟(きょうだい)であるイスラエル(びと)たちのために(つく)すことを、(おも)()った。 24ところが、そのひとりがいじめられているのを()て、これをかばい、虐待(ぎゃくたい)されているその(ひと)のために、相手(あいて)のエジプト(じん)()って仕返(しかえ)しをした。 25(かれ)は、自分(じぶん)()によって(かみ)兄弟(きょうだい)たちを(すく)って(くだ)さることを、みんなが(さと)るものと(おも)っていたが、実際(じっさい)はそれを(さと)らなかったのである。 26翌日(よくじつ)モーセは、(かれ)らが(あらそ)()っているところに(あらわ)れ、仲裁(ちゅうさい)しようとして()った、『まて、(きみ)たちは兄弟(きょうだい)同志(どうし)ではないか。どうして(たがい)(きず)つけ()っているのか』。 27すると、仲間(なかま)をいじめていた(もの)が、モーセを()()ばして()った、『だれが、(きみ)をわれわれの支配者(しはいしゃ)裁判人(さいばんにん)にしたのか。 28(きみ)は、きのう、エジプト(じん)(ころ)したように、わたしも(ころ)そうと(おも)っているのか』。 29モーセは、この言葉(ことば)()いて()げ、ミデアンの()()()せ、そこで(おとこ)()ふたりをもうけた。
30四十(ねん)たった(とき)、シナイ(ざん)荒野(あらの)において、御使(みつかい)(しば)()える(ほのお)(なか)でモーセに(あらわ)れた。 31(かれ)はこの光景(こうけい)()不思議(ふしぎ)(おも)い、それを()きわめるために近寄(ちかよ)ったところ、(しゅ)(こえ)(きこ)えてきた、 32『わたしは、あなたの先祖(せんぞ)たちの(かみ)、アブラハム、イサク、ヤコブの(かみ)である』。モーセは(おそ)れおののいて、もうそれを()勇気(ゆうき)もなくなった。 33すると、(しゅ)(かれ)()われた、『あなたの(あし)から、くつを()ぎなさい。あなたの()っているこの場所(ばしょ)は、(せい)なる()である。 34わたしは、エジプトにいるわたしの(たみ)虐待(ぎゃくたい)されている有様(ありさま)(たし)かに()とどけ、その苦悩(くのう)のうめき(ごえ)()いたので、(かれ)らを(すく)()すために(くだ)ってきたのである。さあ、(いま)あなたをエジプトにつかわそう』。
35こうして、『だれが、(きみ)支配者(しはいしゃ)裁判人(さいばんにん)にしたのか』と()って排斥(はいせき)されたこのモーセを、(かみ)は、(しば)(なか)(かれ)(あらわ)れた御使(みつかい)()によって、支配者(しはいしゃ)解放者(かいほうしゃ)として、おつかわしになったのである。 36この(ひと)が、人々(ひとびと)(みちび)()して、エジプトの()においても、紅海(こうかい)においても、また四十(ねん)のあいだ荒野(あらの)においても、奇跡(きせき)としるしとを(おこな)ったのである。 37この(ひと)が、イスラエル(ひと)たちに、『(かみ)はわたしをお()てになったように、あなたがたの兄弟(きょうだい)たちの(なか)から、ひとりの預言者(よげんしゃ)をお()てになるであろう』と()ったモーセである。 38この(ひと)が、シナイ(ざん)で、(かれ)(かた)りかけた御使(みつかい)先祖(せんぞ)たちと(とも)に、荒野(あらの)における集会(しゅうかい)にいて、()ける御言葉(みことば)(さず)かり、それをあなたがたに(つた)えたのである。 39ところが、先祖(せんぞ)たちは(かれ)(したが)おうとはせず、かえって(かれ)退(しりぞ)け、(こころ)(なか)でエジプトにあこがれて、 40『わたしたちを(みちび)いてくれる神々(かみがみ)(つく)って(くだ)さい。わたしたちをエジプトの()から(みちび)いてきたあのモーセがどうなったのか、わかりませんから』とアロンに()った。 41そのころ、(かれ)らは()(うし)(ぞう)(つく)り、その偶像(ぐうぞう)(そな)(もの)をささげ、自分(じぶん)たちの()(つく)ったものを(まつ)ってうち興じていた。 42そこで、(かみ)(かお)をそむけ、(かれ)らを(てん)(ほし)(おが)むままに(まか)せられた。預言者(よげんしゃ)(しょ)にこう()いてあるとおりである、
『イスラエルの(いえ)よ、
四十(ねん)のあいだ荒野(あらの)にいた(とき)に、
いけにえと(そな)(もの)とを、わたしにささげたことがあったか。
43あなたがたは、モロクの幕屋(まくや)やロンパの(ほし)(かみ)を、かつぎ(まわ)った。
それらは、(おが)むために自分(じぶん)(つく)った偶像(ぐうぞう)()ぎぬ。
だからわたしは、あなたがたをバビロンのかなたへ、(うつ)してしまうであろう』。
44わたしたちの先祖(せんぞ)には、荒野(あらの)にあかしの幕屋(まくや)があった。それは、()たままの(かた)にしたがって(つく)るようにと、モーセに(かた)ったかたのご命令(めいれい)どおりに(つく)ったものである。 45この幕屋(まくや)は、わたしたちの先祖(せんぞ)が、ヨシュアに(ひき)いられ、(かみ)によって(しょ)民族(みんぞく)(かれ)らの(まえ)から()(はら)い、その所領(しょりょう)をのり()ったときに、そこに()()まれ、次々(つぎつぎ)()()がれて、ダビデの時代(じだい)(およ)んだものである。 46ダビデは、(かみ)(めぐ)みをこうむり、そして、ヤコブの(かみ)のために(みや)造営(ぞうえい)したいと(ねが)った。 47けれども、じっさいにその(みや)()てたのは、ソロモンであった。 48しかし、いと(たか)(もの)は、()(つく)った(いえ)(うち)にはお()みにならない。預言者(よげんしゃ)()っているとおりである、
49(しゅ)(おお)せられる、
どんな(いえ)をわたしのために()てるのか。
わたしのいこいの場所(ばしょ)は、どれか。
(てん)はわたしの王座(おうざ)
()はわたしの(あし)(だい)である。
50これは(みな)わたしの()(つく)ったものではないか』。 51ああ、強情(ごうじょう)で、(こころ)にも(みみ)にも割礼(かつれい)のない(ひと)たちよ。あなたがたは、いつも聖霊(せいれい)(さか)らっている。それは、あなたがたの先祖(せんぞ)たちと(おな)じである。 52いったい、あなたがたの先祖(せんぞ)迫害(はくがい)しなかった預言者(よげんしゃ)が、ひとりでもいたか。(かれ)らは(ただ)しいかたの()ることを予告(よこく)した(ひと)たちを(ころ)し、(いま)やあなたがたは、その(ただ)しいかたを裏切(うらぎ)(もの)、また(ころ)(もの)となった。 53あなたがたは、御使(みつかい)たちによって(つた)えられた律法(りっぽう)()けたのに、それを(まも)ることをしなかった」。
54人々(ひとびと)はこれを()いて、(こころ)(そこ)から(はげ)しく(いか)り、ステパノにむかって、()ぎしりをした。 55しかし、(かれ)聖霊(せいれい)()たされて、(てん)()つめていると、(かみ)栄光(えいこう)(あらわ)れ、イエスが(かみ)(みぎ)()っておられるのが()えた。 56そこで、(かれ)は「ああ、(てん)(ひら)けて、(ひと)()(かみ)(みぎ)()っておいでになるのが()える」と()った。 57人々(ひとびと)大声(おおごえ)(さけ)びながら、(みみ)をおおい、ステパノを()がけて、いっせいに殺到(さっとう)し、 58(かれ)市外(しがい)()()して、(いし)()った。これに()()った(ひと)たちは、自分(じぶん)上着(うわぎ)()いで、サウロという若者(わかもの)(あし)もとに()いた。 59こうして、(かれ)らがステパノに(いし)()げつけている(あいだ)、ステパノは(いの)りつづけて()った、「(しゅ)イエスよ、わたしの(れい)をお()(くだ)さい」。 60そして、ひざまずいて、大声(おおごえ)(さけ)んだ、「(しゅ)よ、どうぞ、この(つみ)(かれ)らに()わせないで(くだ)さい」。こう()って、(かれ)(ねむ)りについた。

第八章

1サウロは、ステパノを(ころ)すことに賛成(さんせい)していた。
その()、エルサレムの教会(きょうかい)(たい)して(おお)迫害(はくがい)(おこ)り、使徒(しと)以外(いがい)(もの)はことごとく、ユダヤとサマリヤとの地方(ちほう)()らされて()った。 2信仰(しんこう)(ぶか)(ひと)たちはステパノを(ほうむ)り、(かれ)のために(むね)()って、非常(ひじょう)(かな)しんだ。 3ところが、サウロは家々(いえいえ)()()って、(おとこ)(おんな)()きずり()し、次々(つぎつぎ)(ごく)(わた)して、教会(きょうかい)(あら)(まわ)った。
4さて、()らされて()った(ひと)たちは、御言(みことば)()(つた)えながら、めぐり(ある)いた。 5ピリポはサマリヤの(まち)(くだ)って()き、人々(ひとびと)にキリストを()べはじめた。 6群衆(ぐんしゅう)はピリポの(はなし)()き、その(おこな)っていたしるしを()て、こぞって(かれ)(かた)ることに(みみ)(かたむ)けた。 7(けが)れた(れい)につかれた(おお)くの人々(ひとびと)からは、その(れい)大声(おおごえ)でわめきながら()()くし、また、(おお)くの中風(ちゅうぶ)をわずらっている(もの)や、(あし)のきかない(もの)がいやされたからである。 8それで、この(まち)では人々(ひとびと)が、大変(たいへん)なよろこびかたであった。
9さて、この(まち)以前(いぜん)からシモンという(ひと)がいた。(かれ)魔術(まじゅつ)(おこな)ってサマリヤの(ひと)たちを(おどろ)かし、自分(じぶん)をさも(えら)(もの)のように()いふらしていた。 10それで、(ちい)さい(もの)から(おお)きい(もの)にいたるまで(みな)(かれ)について()き、「この(ひと)こそは『大能(たいのう)』と()ばれる(かみ)(ちから)である」と()っていた。 11(かれ)らがこの(ひと)について()ったのは、ながい(あいだ)その魔術(まじゅつ)(おどろ)かされていたためであった。 12ところが、ピリポが(かみ)(くに)とイエス・キリストの()について()(つた)えるに(およ)んで、(おとこ)(おんな)(しん)じて、ぞくぞくとバプテスマを()けた。 13シモン自身(じしん)(しん)じて、バプテスマを()け、それから、()きつづきピリポについて()った。そして、数々(かずかず)のしるしやめざましい奇跡(きせき)(おこな)われるのを()て、(おどろ)いていた。
14エルサレムにいる使徒(しと)たちは、サマリヤの人々(ひとびと)が、(かみ)(ことば)()()れたと()いて、ペテロとヨハネとを、そこにつかわした。 15ふたりはサマリヤに(くだ)って()って、みんなが聖霊(せいれい)()けるようにと、(かれ)らのために(いの)った。 16それは、(かれ)らはただ(しゅ)イエスの()によってバプテスマを()けていただけで、聖霊(せいれい)はまだだれにも(くだ)っていなかったからである。 17そこで、ふたりが()(かれ)らの(うえ)においたところ、(かれ)らは聖霊(せいれい)()けた。 18シモンは、使徒(しと)たちが()をおいたために、御霊(みたま)人々(ひとびと)(さづ)けられたのを()て、(かね)をさし()し、 19「わたしが()をおけばだれにでも聖霊(せいれい)(さづ)けられるように、その(ちから)をわたしにも(くだ)さい」と()った。 20そこで、ペテロが(かれ)()った、「おまえの(かね)は、おまえもろとも、うせてしまえ。(かみ)賜物(たまもの)が、(かね)()られるなどと(おも)っているのか。 21おまえの(こころ)(かみ)(まえ)(ただ)しくないから、おまえは、とうてい、この(こと)にあずかることができない。 22だから、この悪事(あくじ)()いて、(しゅ)(いの)れ。そうすればあるいはそんな(おも)いを(こころ)にいだいたことが、ゆるされるかも()れない。 23おまえには、まだ(にが)胆汁(たんじゅう)があり、不義(ふぎ)のなわ()がからみついている。それが、わたしにわかっている」。 24シモンはこれを()いて()った、「(おお)せのような(こと)が、わたしの()(おこ)らないように、どうぞ、わたしのために(しゅ)(いの)って(くだ)さい」。
25使徒(しと)たちは力強(ちからづよ)くあかしをなし、また(しゅ)(ことば)(かた)った(のち)、サマリヤ(ひと)(おお)くの村々(むらむら)福音(ふくいん)()(つた)えて、エルサレムに(かえ)った。
26しかし、(しゅ)使(つかい)がピリポにむかって()った、「()って南方(なんぽう)()き、エルサレムからガザへ(くだ)(みち)()なさい」(このガザは、(いま)()れはてている)。 27そこで、(かれ)()って()かけた。すると、ちょうど、エチオピヤ(じん)女王(じょおう)カンダケの高官(こうかん)で、女王(じょおう)財宝(ざいほう)全部(ぜんぶ)管理(かんり)していた宦官(かんがん)であるエチオピヤ(じん)が、礼拝(れいはい)のためエルサレムに(のぼ)り、 28その帰途(きと)についていたところであった。(かれ)自分(じぶん)馬車(ばしゃ)()って、預言者(よげんしゃ)イザヤの(しょ)()んでいた。 29御霊(みたま)がピリポに「(すす)()って、あの馬車(ばしゃ)(なら)んで()きなさい」と()った。 30そこでピリポが()けて()くと、預言者(よげんしゃ)イザヤの(しょ)()んでいるその(ひと)(こえ)(きこ)えたので、「あなたは、()んでいることが、おわかりですか」と(たず)ねた。 31(かれ)は「だれかが、()びきをしてくれなければ、どうしてわかりましょう」と(こた)えた。そして、馬車(ばしゃ)()って一緒(いっしょ)にすわるようにと、ピリポにすすめた。 32(かれ)()んでいた聖書(せいしょ)箇所(かしょ)は、これであった、
(かれ)は、ほふり()()かれて()(ひつじ)のように、
また、黙々(もくもく)として、
()()(もの)(まえ)()小羊(こひつじ)のように、
(くち)(ひら)かない。
33(かれ)は、いやしめられて、
そのさばきも(おこな)われなかった。
だれが、(かれ)子孫(しそん)のことを(かた)ることができようか、
(かれ)(いのち)地上(ちじょう)から()()られているからには」。
34宦官(かんがん)はピリポにむかって()った、「お(たず)ねしますが、ここで預言者(よげんしゃ)はだれのことを()っているのですか。自分(じぶん)のことですか、それとも、だれかほかの(ひと)のことですか」。 35そこでピリポは(くち)(ひら)き、この(せい)()から()(おこ)して、イエスのことを()(つた)えた。 36(みち)(すす)んで()くうちに、(みず)のある(ところ)にきたので、宦官(かんがん)()った、「ここに(みず)があります。わたしがバプテスマを()けるのに、なんのさしつかえがありますか」。〔 37これに(たい)して、ピリポは、「あなたがまごころから(しん)じるなら、()けてさしつかえはありません」と()った。すると、(かれ)は「わたしは、イエス・キリストを(かみ)()(しん)じます」と(こた)えた。〕 38そこで(くるま)をとめさせ、ピリポと宦官(かんがん)と、ふたりとも、(みず)(なか)()りて()き、ピリポが宦官(かんがん)にバプテスマを(さづ)けた。 39ふたりが(みず)から()がると、(しゅ)(れい)がピリポをさらって()ったので、宦官(かんがん)はもう(かれ)()ることができなかった。宦官(かんがん)はよろこびながら(たび)をつづけた。 40その(のち)、ピリポはアゾトに姿(すがた)をあらわして、町々(まちまち)をめぐり(ある)き、いたるところで福音(ふくいん)()(つた)えて、ついにカイザリヤに()いた。

第九章

1さてサウロは、なおも(しゅ)弟子(でし)たちに(たい)する脅迫(きょうはく)殺害(さつがい)(いき)をはずませながら、大祭司(だいさいし)のところに()って、 2ダマスコの(しょ)会堂(かいどう)あての添書(てんしょ)(もと)めた。それは、この(みち)(もの)()つけ次第(しだい)男女(だんじょ)(べつ)なく(しば)りあげて、エルサレムにひっぱって()るためであった。 3ところが、(みち)(いそ)いでダマスコの(ちか)くにきたとき、突然(とつぜん)(てん)から(ひかり)がさして、(かれ)をめぐり(てら)した。 4(かれ)()(たお)れたが、その(とき)「サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害(はくがい)するのか」と()びかける(こえ)()いた。 5そこで(かれ)は「(しゅ)よ、あなたは、どなたですか」と(たず)ねた。すると(こたえ)があった、「わたしは、あなたが迫害(はくがい)しているイエスである。 6さあ()って、(まち)にはいって()きなさい。そうすれば、そこであなたのなすべき(こと)()げられるであろう」。 7サウロの同行者(どうこうしゃ)たちは(もの)()えずに()っていて、(こえ)だけは(きこ)えたが、だれも()えなかった。 8サウロは()から()()がって()(ひら)いてみたが、(なに)()えなかった。そこで人々(ひとびと)は、(かれ)()()いてダマスコへ()れて()った。 9(かれ)は三日間(かかん)()()えず、また()べることも()むこともしなかった。
10さて、ダマスコにアナニヤというひとりの弟子(でし)がいた。この(ひと)(しゅ)(まぼろし)(なか)(あらわ)れて、「アナニヤよ」とお()びになった。(かれ)は「(しゅ)よ、わたしでございます」と(こた)えた。 11そこで(しゅ)(かれ)()われた、「()って、『()すぐ』という()路地(ろじ)()き、ユダの(いえ)でサウロというタルソ(びと)(たず)ねなさい。(かれ)はいま(いの)っている。 12(かれ)はアナニヤという(ひと)がはいってきて、()自分(じぶん)(うえ)において(ふたた)()えるようにしてくれるのを、(まぼろし)()たのである」。 13アナニヤは(こた)えた、「(しゅ)よ、あの(ひと)がエルサレムで、どんなにひどい(こと)をあなたの聖徒(せいと)たちにしたかについては、(おお)くの(ひと)たちから()いています。 14そして(かれ)はここでも、御名(みな)をとなえる(もの)たちをみな捕縛(ほばく)する(けん)を、祭司長(さいしちょう)たちから()てきているのです」。 15しかし、(しゅ)(おお)せになった、「さあ、()きなさい。あの(ひと)は、異邦人(いほうじん)たち、(おう)たち、またイスラエルの()らにも、わたしの()(つた)える(うつわ)として、わたしが(えら)んだ(もの)である。 16わたしの()のために(かれ)がどんなに(くる)しまなければならないかを、(かれ)()らせよう」。 17そこでアナニヤは、()かけて()ってその(いえ)にはいり、()をサウロの(うえ)において()った、「兄弟(きょうだい)サウロよ、あなたが()途中(とちゅう)(あらわ)れた(しゅ)イエスは、あなたが(ふたた)()えるようになるため、そして聖霊(せいれい)()たされるために、わたしをここにおつかわしになったのです」。 18するとたちどころに、サウロの()から、うろこのようなものが()ちて、(もと)どおり()えるようになった。そこで(かれ)()ってバプテスマを()け、 19また食事(しょくじ)をとって元気(げんき)()りもどした。
サウロは、ダマスコにいる弟子(でし)たちと(とも)数日間(すうじつかん)()ごしてから、 20ただちに(しょ)会堂(かいどう)でイエスのことを()(つた)え、このイエスこそ(かみ)()であると()きはじめた。 21これを()いた(ひと)たちはみな非常(ひじょう)(おどろ)いて()った、「あれは、エルサレムでこの()をとなえる(もの)たちを(くる)しめた(おとこ)ではないか。その(うえ)ここにやってきたのも、(かれ)らを(しば)りあげて、祭司長(さいしちょう)たちのところへひっぱって()くためではなかったか」。 22しかし、サウロはますます(ちから)(くわ)わり、このイエスがキリストであることを論証(ろんしょう)して、ダマスコに()むユダヤ(じん)たちを()()せた。
23相当(そうとう)日数(にっすう)がたったころ、ユダヤ(じん)たちはサウロを(ころ)相談(そうだん)をした。 24ところが、その陰謀(いんぼう)(かれ)()るところとなった。(かれ)らはサウロを(ころ)そうとして、夜昼(よるひる)(まち)(もん)見守(みまも)っていたのである。 25そこで(かれ)弟子(でし)たちが、(よる)(あいだ)(かれ)をかごに()せて、(まち)城壁(じょうへき)づたいにつりおろした。
26サウロはエルサレムに()いて、弟子(でし)たちの仲間(なかま)(くわ)わろうと(つと)めたが、みんなの(もの)(かれ)弟子(でし)だとは(しん)じないで、(おそ)れていた。 27ところが、バルナバは(かれ)世話(せわ)をして使徒(しと)たちのところへ()れて()き、途中(とちゅう)(しゅ)(かれ)(あらわ)れて(かた)りかけたことや、(かれ)がダマスコでイエスの()大胆(だいたん)()(つた)えた次第(しだい)を、(かれ)らに説明(せつめい)して()かせた。 28それ以来(いらい)(かれ)使徒(しと)たちの仲間(なかま)(くわ)わり、エルサレムに出入(でい)りし、(しゅ)()によって大胆(だいたん)(かた)り、 29ギリシヤ()使(つか)うユダヤ(じん)たちとしばしば(かた)()い、また(ろん)()った。しかし、(かれ)らは(かれ)(ころ)そうとねらっていた。 30兄弟(きょうだい)たちはそれと()って、(かれ)をカイザリヤに()れてくだり、タルソへ(おく)()した。
31こうして教会(きょうかい)は、ユダヤ、ガリラヤ、サマリヤ(ぜん)地方(ちほう)にわたって平安(へいあん)(たも)ち、基礎(きそ)がかたまり、(しゅ)をおそれ聖霊(せいれい)にはげまされて(あゆ)み、次第(しだい)信徒(しんと)(かず)()して()った。
32ペテロは方々(ほうぼう)をめぐり(ある)いたが、ルダに()聖徒(せいと)たちのところへも(くだ)って()った。 33そして、そこで、八年間(ねんかん)(とこ)についているアイネヤという(ひと)()った。この(ひと)中風(ちゅうぶ)であった。 34ペテロが(かれ)()った、「アイネヤよ、イエス・キリストがあなたをいやして(くだ)さるのだ。()きなさい。そして(とこ)()りあげなさい」。すると、(かれ)はただちに()きあがった。 35ルダとサロンに()(ひと)たちは、みなそれを()て、(しゅ)帰依(きえ)した。
36ヨッパにタビタ(これを(やく)すと、ドルカス、すなわち、かもしか)という(おんな)弟子(でし)がいた。数々(かずかず)のよい(はたら)きや(ほどこ)しをしていた婦人(ふじん)であった。 37ところが、そのころ病気(びょうき)になって()んだので、人々(ひとびと)はそのからだを(あら)って、屋上(おくじょう)()安置(あんち)した。 38ルダはヨッパに(ちか)かったので、弟子(でし)たちはペテロがルダにきていると()き、ふたりの(もの)(かれ)のもとにやって、「どうぞ、(はや)くこちらにおいで(くだ)さい」と(たの)んだ。 39そこでペテロは()って、ふたりの(もの)()れられてきた。(かれ)()くとすぐ、屋上(おくじょう)()案内(あんない)された。すると、やもめたちがみんな(かれ)のそばに()ってきて、ドルカスが生前(せいぜん)つくった下着(したぎ)上着(うわぎ)数々(かずかず)を、()きながら()せるのであった。 40ペテロはみんなの(もの)(そと)()し、ひざまずいて(いの)った。それから死体(したい)(ほう)()いて、「タビタよ、()きなさい」と()った。すると彼女(かのじょ)()をあけ、ペテロを()()きなおった。 41ペテロは彼女(かのじょ)()をかして()たせた。それから、聖徒(せいと)たちや、やもめたちを()()れて、彼女(かのじょ)()きかえっているのを()せた。 42このことがヨッパ(ちゅう)()れわたり、(おお)くの人々(ひとびと)(しゅ)(しん)じた。 43ペテロは、(かわ)なめしシモンという(ひと)(いえ)()まり、しばらくの(あいだ)ヨッパに滞在(たいざい)した。

第十章

1さて、カイザリヤにコルネリオという()(ひと)がいた。イタリヤ(たい)()ばれた部隊(ぶたい)百卒長(ひゃくそつちょう)で、 2信心(しんじん)(ぶか)く、家族(かぞく)一同(いちどう)(とも)(かみ)(うやま)い、(たみ)数々(かずかず)(ほどこ)しをなし、()えず(かみ)(いのり)をしていた。 3ある()午後(ごご)()ごろ、(かみ)使(つかい)(かれ)のところにきて、「コルネリオよ」と()ぶのを、(まぼろし)ではっきり()た。 4(かれ)御使(みつかい)()つめていたが、(おそ)ろしくなって、「(しゅ)よ、なんでございますか」と()った。すると御使(みつかい)()った、「あなたの(いのり)(ほどこ)しは(かみ)のみ(まえ)にとどいて、おぼえられている。 5ついては(いま)、ヨッパに(ひと)をやって、ペテロと()ばれるシモンという(ひと)(まね)きなさい。 6この(ひと)は、(うみ)べに(いえ)をもつ(かわ)なめしシモンという(もの)(きゃく)となっている」。 7このお()げをした御使(みつかい)()()ったのち、コルネリオは、(しもべ)ふたりと、部下(ぶか)(なか)信心(しんじん)(ぶか)兵卒(へいそつ)ひとりとを()び、 8いっさいの(こと)説明(せつめい)して()かせ、ヨッパへ(おく)()した。
9翌日(よくじつ)、この三(にん)(たび)をつづけて(まち)(ちか)くにきたころ、ペテロは(いのり)をするため屋上(おくじょう)にのぼった。(とき)(ひる)の十二()ごろであった。 10(かれ)空腹(くうふく)をおぼえて、(なに)()べたいと(おも)った。そして、人々(ひとびと)食事(しょくじ)用意(ようい)をしている(あいだ)に、夢心地(ゆめごこち)になった。 11すると、(てん)(ひら)け、(おお)きな(ぬの)のような()(もの)が、()すみをつるされて、地上(ちじょう)()りて()るのを()た。 12その(なか)には、地上(ちじょう)の四つ(あし)()うもの、また(そら)(とり)など、各種(かくしゅ)()きものがはいっていた。 13そして(こえ)(かれ)(きこ)えてきた、「ペテロよ。()って、それらをほふって()べなさい」。 14ペテロは()った、「(しゅ)よ、それはできません。わたしは(いま)までに、(きよ)くないもの、(けが)れたものは、何一(なにひと)()べたことがありません」。 15すると、(こえ)が二度目(どめ)にかかってきた、「(かみ)がきよめたものを、(きよ)くないなどと()ってはならない」。 16こんなことが三()もあってから、その()(もの)はすぐ(てん)()()げられた。
17ペテロが、いま()(まぼろし)はなんの(こと)だろうかと、ひとり思案(しあん)にくれていると、ちょうどその(とき)、コルネリオから(おく)られた(ひと)たちが、シモンの(いえ)(たず)()てて、その門口(かどぐち)()っていた。 18そして(こえ)をかけて、「ペテロと()ばれるシモンというかたが、こちらにお()まりではございませんか」と(たず)ねた。 19ペテロはなおも(まぼろし)について、(おも)いめぐらしていると、御霊(みたま)()った、「ごらんなさい、三(にん)(ひと)たちが、あなたを(たず)ねてきている。 20さあ、()って(した)()り、ためらわないで、(かれ)らと一緒(いっしょ)()かけるがよい。わたしが(かれ)らをよこしたのである」。 21そこでペテロは、その(ひと)たちのところに()りて()って()った、「わたしがお(たず)ねのペテロです。どんなご(よう)でおいでになったのですか」。 22(かれ)らは(こた)えた、「(ただ)しい(ひと)で、(かみ)(うやま)い、ユダヤの全国民(ぜんこくみん)好感(こうかん)()たれている百卒長(ひゃくそつちょう)コルネリオが、あなたを(いえ)(まね)いてお(はなし)(うかが)うようにとのお()げを、(せい)なる御使(みつかい)から()けましたので、(まい)りました」。 23そこで、ペテロは、(かれ)らを(むか)えて()まらせた。
翌日(よくじつ)、ペテロは()って、(かれ)らと()れだって()(はっ)した。ヨッパの兄弟(きょうだい)たち数人(すうにん)一緒(いっしょ)()った。 24その(つぎ)()に、一行(いっこう)はカイザリヤに()いた。コルネリオは親族(しんぞく)(した)しい友人(ゆうじん)たちを()(あつ)めて、()っていた。 25ペテロがいよいよ到着(とうちゃく)すると、コルネリオは出迎(でむか)えて、(かれ)(あし)もとにひれ()して(はい)した。 26するとペテロは、(かれ)()(おこ)して()った、「お()ちなさい。わたしも(おな)人間(にんげん)です」。 27それから(とも)(はな)しながら、へやにはいって()くと、そこには、すでに(おお)ぜいの(ひと)(あつ)まっていた。 28ペテロは(かれ)らに()った、「あなたがたが()っているとおり、ユダヤ(じん)他国(たこく)(ひと)交際(こうさい)したり、出入(でい)りしたりすることは、(きん)じられています。ところが、(かみ)は、どんな人間(にんげん)をも(きよ)くないとか、(けが)れているとか()ってはならないと、わたしにお(しめ)しになりました。 29(まね)きにあずかった(とき)(すこ)しもためらわずに(まい)ったのは、そのためなのです。そこで(うかが)いますが、どういうわけで、わたしを(まね)いてくださったのですか」。 30これに(たい)してコルネリオが(こた)えた、「四()(まえ)、ちょうどこの時刻(じこく)に、わたしが自宅(じたく)午後(ごご)()(いのり)をしていますと、突然(とつぜん)(かがや)いた(ころも)()(ひと)が、(まえ)()って(もう)しました、 31『コルネリオよ、あなたの(いのり)()きいれられ、あなたの(ほどこ)しは(かみ)のみ(まえ)におぼえられている。 32そこでヨッパに(ひと)(おく)ってペテロと()ばれるシモンを(まね)きなさい。その(ひと)(かわ)なめしシモンの海沿(うみぞ)いの(いえ)()まっている』。 33それで、早速(さっそく)あなたをお()びしたのです。ようこそおいで(くだ)さいました。(いま)わたしたちは、(しゅ)があなたにお()げになったことを(のこ)らず(うかが)おうとして、みな(かみ)のみ(まえ)にまかり()ているのです」。
34そこでペテロは(くち)(ひら)いて()った、「(かみ)(ひと)をかたよりみないかたで、 35(かみ)(うやま)()(おこな)(もの)はどの国民(こくみん)でも()けいれて(くだ)さることが、ほんとうによくわかってきました。 36あなたがたは、(かみ)がすべての(もの)(しゅ)なるイエス・キリストによって平和(へいわ)福音(ふくいん)()(つた)えて、イスラエルの()らにお(おく)(くだ)さった御言(みことば)をご(ぞん)じでしょう。 37それは、ヨハネがバプテスマを()いた(のち)、ガリラヤから(はじ)まってユダヤ全土(ぜんど)にひろまった福音(ふくいん)()べたものです。 38(かみ)はナザレのイエスに聖霊(せいれい)(ちから)とを(そそ)がれました。このイエスは、(かみ)(とも)におられるので、よい(はたら)きをしながら、また悪魔(あくま)(おさ)えつけられている人々(ひとびと)をことごとくいやしながら、巡回(じゅんかい)されました。 39わたしたちは、イエスがこうしてユダヤ(じん)()やエルサレムでなさったすべてのことの証人(しょうにん)であります。人々(ひとびと)はこのイエスを()にかけて(ころ)したのです。 40しかし(かみ)はイエスを三()()によみがえらせ、 41全部(ぜんぶ)人々(ひとびと)にではなかったが、わたしたち証人(しょうにん)としてあらかじめ(えら)ばれた(もの)たちに(あらわ)れるようにして(くだ)さいました。わたしたちは、イエスが死人(しにん)(なか)から復活(ふっかつ)された(のち)(とも)飲食(いんしょく)しました。 42それから、イエスご自身(じしん)生者(せいじゃ)死者(ししゃ)との審判者(しんぱんしゃ)として(かみ)(さだ)められたかたであることを、人々(ひとびと)()(つた)え、またあかしするようにと、(かみ)はわたしたちにお(めい)じになったのです。 43預言者(よげんしゃ)たちもみな、イエスを(しん)じる(もの)はことごとく、その()によって(つみ)のゆるしが()けられると、あかしをしています」。
44ペテロがこれらの言葉(ことば)をまだ(かた)()えないうちに、それを()いていたみんなの(ひと)たちに、聖霊(せいれい)がくだった。 45割礼(かつれい)()けている信者(しんじゃ)で、ペテロについてきた(ひと)たちは、異邦人(いほうじん)たちにも聖霊(せいれい)賜物(たまもの)(そそ)がれたのを()て、(おどろ)いた。 46それは、(かれ)らが異言(いげん)(かた)って(かみ)をさんびしているのを()いたからである。そこで、ペテロが()()した、 47「この(ひと)たちがわたしたちと(おな)じように聖霊(せいれい)()けたからには、(かれ)らに(みず)でバプテスマを(さづ)けるのを、だれがこばみ()ようか」。 48こう()って、ペテロはその人々(ひとびと)(めい)じて、イエス・キリストの()によってバプテスマを()けさせた。それから、(かれ)らはペテロに(ねが)って、なお数日(すうじつ)のあいだ滞在(たいざい)してもらった。

第十一章

1さて、異邦人(いほうじん)たちも(かみ)(ことば)()けいれたということが、使徒(しと)たちやユダヤにいる兄弟(きょうだい)たちに(きこ)えてきた。 2そこでペテロがエルサレムに(のぼ)ったとき、割礼(かつれい)(おも)んじる(もの)たちが(かれ)をとがめて()った、 3「あなたは、割礼(かつれい)のない(ひと)たちのところに()って、食事(しょくじ)(とも)にしたということだが」。 4そこでペテロは(くち)(ひら)いて、順序(じゅんじょ)(ただ)しく説明(せつめい)して()った、 5「わたしがヨッパの(まち)(いの)っていると、夢心地(ゆめごこち)になって(まぼろし)()た。(おお)きな(ぬの)のような()(もの)が、()すみをつるされて、(てん)から()りてきて、わたしのところにとどいた。 6注意(ちゅうい)して()つめていると、地上(ちじょう)の四つ(あし)()(けもの)()うもの、(そら)(とり)などが、はいっていた。 7それから(こえ)がして、『ペテロよ、()って、それらをほふって()べなさい』と、わたしに()うのが(きこ)えた。 8わたしは()った、『(しゅ)よ、それはできません。わたしは(いま)までに、(きよ)くないものや(けが)れたものを(くち)()れたことが一度(いちど)もございません』。 9すると、二度目(どめ)(てん)から(こえ)がかかってきた、『(かみ)がきよめたものを、(きよ)くないなどと()ってはならない』。 10こんなことが三()もあってから、全部(ぜんぶ)のものがまた(てん)()()げられてしまった。 11ちょうどその(とき)、カイザリヤからつかわされてきた三(にん)(ひと)が、わたしたちの()まっていた(いえ)()いた。 12御霊(みたま)がわたしに、ためらわずに(かれ)らと(とも)()けと()ったので、ここにいる六(にん)兄弟(きょうだい)たちも、わたしと一緒(いっしょ)()かけて()き、一同(いちどう)がその(ひと)(いえ)にはいった。 13すると(かれ)はわたしたちに、御使(みつかい)(かれ)(いえ)(あらわ)れて、『ヨッパに(ひと)をやって、ペテロと()ばれるシモンを(まね)きなさい。 14この(ひと)は、あなたとあなたの(ぜん)家族(かぞく)とが(すく)われる言葉(ことば)(かた)って(くだ)さるであろう』と()げた次第(しだい)を、(はな)してくれた。 15そこでわたしが(かた)()したところ、聖霊(せいれい)が、ちょうど最初(さいしょ)わたしたちの(うえ)にくだったと(おな)じように、(かれ)らの(うえ)にくだった。 16その(とき)わたしは、(しゅ)が『ヨハネは(みず)でバプテスマを(さづ)けたが、あなたがたは聖霊(せいれい)によってバプテスマを()けるであろう』と(おお)せになった言葉(ことば)(おも)()した。 17このように、わたしたちが(しゅ)イエス・キリストを(しん)じた(とき)(くだ)さったのと(おな)賜物(たまもの)を、(かみ)(かれ)らにもお(あた)えになったとすれば、わたしのような(もの)が、どうして(かみ)(さまた)げることができようか」。 18人々(ひとびと)はこれを()いて(だま)ってしまった。それから(かみ)をさんびして、「それでは(かみ)は、異邦人(いほうじん)にも(いのち)にいたる悔改(くいあらた)めをお(あた)えになったのだ」と()った。
19さて、ステパノのことで(おこ)った迫害(はくがい)のために()らされた人々(ひとびと)は、ピニケ、クプロ、アンテオケまでも(すす)んで()ったが、ユダヤ(じん)以外(いがい)(もの)には、だれにも御言(みことば)(かた)っていなかった。 20ところが、その(なか)数人(すうにん)のクプロ(びと)とクレネ(びと)がいて、アンテオケに()ってからギリシヤ(じん)にも()びかけ、(しゅ)イエスを()(つた)えていた。 21そして、(しゅ)のみ()(かれ)らと(とも)にあったため、(しん)じて(しゅ)帰依(きえ)するものの(かず)(おお)かった。
22このうわさがエルサレムにある教会(きょうかい)(つた)わってきたので、教会(きょうかい)はバルナバをアンテオケにつかわした。 23(かれ)は、そこに()いて、(かみ)のめぐみを()てよろこび、(しゅ)(たい)する信仰(しんこう)()るがない(こころ)()ちつづけるようにと、みんなの(もの)(はげ)ました。 24(かれ)聖霊(せいれい)信仰(しんこう)とに()ちた立派(りっぱ)(ひと)であったからである。こうして(しゅ)(くわ)わる人々(ひとびと)が、(おお)ぜいになった。 25そこでバルナバはサウロを(さが)しにタルソへ()かけて()き、 26(かれ)()つけたうえ、アンテオケに()れて(かえ)った。ふたりは、まる一(ねん)、ともどもに教会(きょうかい)(あつ)まりをし、(おお)ぜいの人々(ひとびと)(おし)えた。このアンテオケで(はじ)めて、弟子(でし)たちがクリスチャンと()ばれるようになった。
27そのころ、預言者(よげんしゃ)たちがエルサレムからアンテオケにくだってきた。 28その(なか)のひとりであるアガボという(もの)()って、世界中(せかいじゅう)(だい)ききんが(おこ)るだろうと、御霊(みたま)によって預言(よげん)したところ、(はた)してそれがクラウデオ(てい)(とき)(おこ)った。 29そこで弟子(でし)たちは、それぞれの(ちから)(おう)じて、ユダヤに()んでいる兄弟(きょうだい)たちに援助(えんじょ)(おく)ることに()めた。 30そして、それをバルナバとサウロとの()(たく)して、長老(ちょうろう)たちに(おく)りとどけた。

第十二章

1そのころ、ヘロデ(おう)教会(きょうかい)のある(もの)たちに圧迫(あっぱく)()をのばし、 2ヨハネの兄弟(きょうだい)ヤコブをつるぎで()(ころ)した。 3そして、それがユダヤ(じん)たちの()にかなったのを()て、さらにペテロをも(とら)えにかかった。それは除酵祭(じょこうさい)(とき)のことであった。 4ヘロデはペテロを(とら)えて(ごく)(とう)じ、四(にん)(くみ)兵卒(へいそつ)(くみ)()(わた)して、見張(みは)りをさせておいた。過越(すぎこし)(まつり)のあとで、(かれ)民衆(みんしゅう)(まえ)()()すつもりであったのである。 5こうして、ペテロは(ごく)()れられていた。教会(きょうかい)では、(かれ)のために熱心(ねっしん)(いのり)(かみ)にささげられた。
6ヘロデが(かれ)()()そうとしていたその(よる)、ペテロは二重(にじゅう)(くさり)につながれ、ふたりの兵卒(へいそつ)(あいだ)()かれて(ねむ)っていた。番兵(ばんぺい)たちは戸口(とぐち)(ごく)見張(みは)っていた。 7すると、突然(とつぜん)(しゅ)使(つかい)がそばに()ち、(ひかり)獄内(ごくない)(てら)した。そして御使(みつかい)はペテロのわき(ばら)をつついて(おこ)し、「(はや)()きあがりなさい」と()った。すると(くさり)(かれ)両手(りょうて)から、はずれ()ちた。 8御使(みつかい)が「(おび)をしめ、くつをはきなさい」と()ったので、(かれ)はそのとおりにした。それから「上着(うわぎ)()て、ついてきなさい」と()われたので、 9ペテロはついて()()った。(かれ)には御使(みつかい)のしわざが現実(げんじつ)のこととは(かんが)えられず、ただ(まぼろし)()ているように(おも)われた。 10(かれ)らは(だい)一、(だい)二の衛所(えいしょ)(とお)りすぎて、(まち)()ける(てつ)(もん)のところに()ると、それがひとりでに(ひら)いたので、そこを()て一つの通路(つうろ)(すす)んだとたんに、御使(みつかい)(かれ)(はな)()った。 11その(とき)ペテロはわれにかえって()った、「(いま)はじめて、ほんとうのことがわかった。(しゅ)御使(みつかい)をつかわして、ヘロデの()から、またユダヤ(じん)たちの()ちもうけていたあらゆる(わざわい)から、わたしを(すく)()して(くだ)さったのだ」。
12ペテロはこうとわかってから、マルコと()ばれているヨハネの(はは)マリヤの(いえ)()った。その(いえ)には(おお)ぜいの(ひと)(あつ)まって(いの)っていた。 13(かれ)(もん)()をたたいたところ、ロダという女中(じょちゅう)取次(とりつ)ぎに()てきたが、 14ペテロの(こえ)だとわかると、(よろこ)びのあまり、(もん)をあけもしないで(いえ)()()み、ペテロが門口(かどぐち)()っていると報告(ほうこく)した。 15人々(ひとびと)は「あなたは()(くる)っている」と()ったが、彼女(かのじょ)自分(じぶん)()うことに間違(まちが)いはないと、()()った。そこで(かれ)らは「それでは、ペテロの御使(みつかい)だろう」と()った。 16しかし、ペテロが(もん)をたたきつづけるので、(かれ)らがあけると、そこにペテロがいたのを()(おどろ)いた。 17ペテロは()()って(かれ)らを(しず)め、(しゅ)(ごく)から(かれ)()()して(くだ)さった次第(しだい)説明(せつめい)し、「このことを、ヤコブやほかの兄弟(きょうだい)たちに(つた)えて(くだ)さい」と()(のこ)して、どこかほかの(ところ)()()った。
18()()けると、兵卒(へいそつ)たちの(あいだ)に、ペテロはいったいどうなったのだろうと、(たい)へんな(さわ)ぎが(おこ)った。 19ヘロデはペテロを(さが)しても()つからないので、番兵(ばんぺい)たちを()調(しら)べたうえ、(かれ)らを死刑(しけい)(しょ)するように(めい)じ、そして、ユダヤからカイザリヤにくだって()って、そこに滞在(たいざい)した。
20さて、ツロとシドンとの人々(ひとびと)は、ヘロデの(いか)りに(ふれ)ていたので、一同(いちどう)うちそろって(おう)をおとずれ、(おう)侍従(じじゅう)(かん)ブラストに()りいって、和解(わかい)かたを依頼(いらい)した。(かれ)らの地方(ちほう)が、(おう)(くに)から食糧(しょくりょう)()ていたからである。 21(さだ)められた()に、ヘロデは(おう)(ふく)をまとって王座(おうざ)にすわり、(かれ)らにむかって演説(えんぜつ)をした。 22(あつ)まった人々(ひとびと)は、「これは(かみ)(こえ)だ、人間(にんげん)(こえ)ではない」と(さけ)びつづけた。 23するとたちまち、(しゅ)使(つかい)(かれ)()った。(かみ)栄光(えいこう)()することをしなかったからである。(かれ)(むし)にかまれて(いき)()えてしまった。
24こうして、(しゅ)(ことば)はますます(さか)んにひろまって()った。
25バルナバとサウロとは、その任務(にんむ)(はた)したのち、マルコと()ばれていたヨハネを()れて、エルサレムから(かえ)ってきた。

第十三章

1さて、アンテオケにある教会(きょうかい)には、バルナバ、ニゲルと()ばれるシメオン、クレネ(びと)ルキオ、領主(りょうしゅ)ヘロデの乳兄弟(ちきょうだい)マナエン、およびサウロなどの預言者(よげんしゃ)教師(きょうし)がいた。 2一同(いちどう)(しゅ)礼拝(れいはい)をささげ、断食(だんじき)をしていると、聖霊(せいれい)が「さあ、バルナバとサウロとを、わたしのために(せい)(べつ)して、(かれ)らに(さづ)けておいた仕事(しごと)(あた)らせなさい」と()げた。 3そこで一同(いちどう)は、断食(だんじき)(いのり)とをして、()をふたりの(うえ)においた(のち)出発(しゅっぱつ)させた。
4ふたりは聖霊(せいれい)(おく)()されて、セルキヤにくだり、そこから(ふね)でクプロに(わた)った。 5そしてサラミスに()くと、ユダヤ(じん)(しょ)会堂(かいどう)(かみ)(ことば)()べはじめた。(かれ)らはヨハネを(たす)()として()れていた。 6(しま)全体(ぜんたい)巡回(じゅんかい)して、パポスまで()ったところ、そこでユダヤ(じん)魔術(まじゅつ)()、バルイエスというにせ預言者(よげんしゃ)出会(であ)った。 7(かれ)地方(ちほう)総督(そうとく)セルギオ・パウロのところに出入(でい)りをしていた。この総督(そうとく)賢明(けんめい)(ひと)であって、バルナバとサウロとを(まね)いて、(かみ)(ことば)()こうとした。 8ところが魔術(まじゅつ)()エルマ((かれ)()は「魔術(まじゅつ)()」との())は、総督(そうとく)信仰(しんこう)からそらそうとして、しきりにふたりの邪魔(じゃま)をした。 9サウロ、またの()はパウロ、は聖霊(せいれい)()たされ、(かれ)をにらみつけて 10()った、「ああ、あらゆる(いつわ)りと邪悪(じゃあく)とでかたまっている悪魔(あくま)()よ、すべて(ただ)しいものの(てき)よ。(しゅ)のまっすぐな(みち)()げることを()めないのか。 11()よ、(しゅ)のみ()がおまえの(うえ)(およ)んでいる。おまえは(めくら)になって、当分(とうぶん)()(ひかり)()えなくなるのだ」。たちまち、かすみとやみとが(かれ)にかかったため、(かれ)()さぐりしながら、()()いてくれる(ひと)(さが)しまわった。 12総督(そうとく)はこの出来事(できごと)()て、(しゅ)(おしえ)にすっかり(おどろ)き、そして(しん)じた。
13パウロとその一行(いっこう)は、パポスから船出(ふなで)して、パンフリヤのペルガに(わた)った。ここでヨハネは一行(いっこう)から()()いて、エルサレムに(かえ)ってしまった。 14しかしふたりは、ペルガからさらに(すす)んで、ピシデヤのアンテオケに()き、安息日(あんそくにち)会堂(かいどう)にはいって(せき)()いた。 15律法(りっぽう)預言(よげん)(しょ)朗読(ろうどく)があったのち、会堂司(かいどうづかさ)たちが(かれ)らのところに(ひと)をつかわして、「兄弟(きょうだい)たちよ、もしあなたがたのうち、どなたか、この人々(ひとびと)(なに)奨励(しょうれい)言葉(ことば)がありましたら、どうぞお(はな)(くだ)さい」と()わせた。 16そこでパウロが()ちあがり、()()りながら()った。
「イスラエルの(ひと)たち、ならびに(かみ)(うやま)うかたがたよ、お()(くだ)さい。 17この(たみ)イスラエルの(かみ)は、わたしたちの先祖(せんぞ)(えら)び、エジプトの()滞在(たいざい)(ちゅう)、この(たみ)(おお)いなるものとし、み(うで)(たか)くさし()げて、(かれ)らをその()から(みちび)()された。 18そして(やく)四十(ねん)にわたって、荒野(あらの)(かれ)らをはぐくみ、 19カナンの()では七つの()民族(みんぞく)()(ほろ)ぼし、その()(かれ)らに(ゆず)(あた)えられた。 20それらのことが(やく)四百五十(ねん)年月(ねんげつ)にわたった。その(のち)(かみ)はさばき(ひと)たちをおつかわしになり、預言者(よげんしゃ)サムエルの(とき)(およ)んだ。 21その(とき)人々(ひとびと)(おう)要求(ようきゅう)したので、(かみ)はベニヤミン(ぞく)(ひと)、キスの()サウロを四十年間(ねんかん)(かれ)らにおつかわしになった。 22それから(かみ)はサウロを退(しりぞ)け、ダビデを()てて(おう)とされたが、(かれ)についてあかしをして、『わたしはエッサイの()ダビデを()つけた。(かれ)はわたしの(こころ)にかなった(ひと)で、わたしの(おも)うところを、ことごとく実行(じっこう)してくれるであろう』と()われた。 23(かみ)約束(やくそく)にしたがって、このダビデの子孫(しそん)(なか)から救主(すくいぬし)イエスをイスラエルに(おく)られたが、 24そのこられる(まえ)に、ヨハネがイスラエルのすべての(たみ)悔改(くいあらた)めのバプテスマを、あらかじめ()(つた)えていた。 25ヨハネはその一生(いっしょう)行程(こうてい)(おわ)ろうとするに(あた)って()った、『わたしは、あなたがたが(かんが)えているような(もの)ではない。しかし、わたしのあとから()るかたがいる。わたしはそのくつを()がせてあげる()うちもない』。 26兄弟(きょうだい)たち、アブラハムの子孫(しそん)のかたがた、ならびに(みな)さんの(なか)(かみ)(うやま)(ひと)たちよ。この(すくい)言葉(ことば)はわたしたちに(おく)られたのである。 27エルサレムに()人々(ひとびと)やその指導者(しどうしゃ)たちは、イエスを(みと)めずに(けい)(しょ)し、それによって、安息日(あんそくにち)ごとに()預言者(よげんしゃ)言葉(ことば)成就(じょうじゅ)した。 28また、なんら()(あた)理由(りゆう)()いだせなかったのに、ピラトに強要(きょうよう)してイエスを(ころ)してしまった。 29そして、イエスについて()いてあることを、(みな)なし()げてから、人々(ひとびと)はイエスを()から()りおろして(はか)(ほうむ)った。 30しかし、(かみ)はイエスを死人(しにん)(なか)から、よみがえらせたのである。 31イエスは、ガリラヤからエルサレムへ一緒(いっしょ)(のぼ)った(ひと)たちに、幾日(いくにち)ものあいだ(あらわ)れ、そして、(かれ)らは(いま)や、人々(ひとびと)(たい)してイエスの証人(しょうにん)となっている。 32わたしたちは、(かみ)先祖(せんぞ)たちに(たい)してなされた約束(やくそく)を、ここに()(つた)えているのである。 33(かみ)は、イエスをよみがえらせて、わたしたち子孫(しそん)にこの約束(やくそく)を、お(はた)しになった。それは詩篇(しへん)(だい)(へん)にも、『あなたこそは、わたしの()。きょう、わたしはあなたを()んだ』と()いてあるとおりである。 34また、(かみ)がイエスを死人(しにん)(なか)からよみがえらせて、いつまでも()()てることのないものとされたことについては、『わたしは、ダビデに約束(やくそく)した(たし)かな(せい)なる祝福(しゅくふく)を、あなたがたに(さづ)けよう』と()われた。 35だから、ほかの箇所(かしょ)でもこう()っておられる、『あなたの聖者(せいじゃ)()()てるようなことは、お(ゆる)しにならないであろう』。 36事実(じじつ)、ダビデは、その時代(じだい)人々(ひとびと)(かみ)のみ(むね)にしたがって(つか)えたが、やがて(ねむ)りにつき、先祖(せんぞ)たちの(なか)(くわ)えられて、ついに()()ててしまった。 37しかし、(かみ)がよみがえらせたかたは、()()てることがなかったのである。 38だから、兄弟(きょうだい)たちよ、この(こと)承知(しょうち)しておくがよい。すなわち、このイエスによる(つみ)のゆるしの福音(ふくいん)が、(いま)やあなたがたに()(つた)えられている。そして、モーセの律法(りっぽう)では()とされることができなかったすべての(こと)についても、 39(しん)じる(もの)はもれなく、イエスによって()とされるのである。 40だから預言者(よげんしゃ)たちの(しょ)にかいてある(つぎ)のようなことが、あなたがたの()(おこ)らないように()をつけなさい。
41()よ、(あなど)(もの)たちよ。(おどろ)け、そして(ほろ)()れ。
わたしは、あなたがたの時代(じだい)に一つの(こと)をする。
それは、(ひと)がどんなに説明(せつめい)して()かせても、
あなたがたのとうてい(しん)じないような(こと)なのである』」。
42ふたりが会堂(かいどう)()(とき)人々(ひとびと)(つぎ)安息日(あんそくにち)にも、これと(おな)(はなし)をしてくれるようにと、しきりに(ねが)った。 43そして集会(しゅうかい)(おわ)ってからも、(おお)ぜいのユダヤ(じん)信心(しんじん)(ぶか)改宗者(かいしゅうしゃ)たちが、パウロとバルナバとについてきたので、ふたりは、(かれ)らが()きつづき(かみ)のめぐみにとどまっているようにと、()きすすめた。
44(つぎ)安息日(あんそくにち)には、ほとんど全市(ぜんし)をあげて、(かみ)(ことば)()きに(あつ)まってきた。 45するとユダヤ(じん)たちは、その群衆(ぐんしゅう)()てねたましく(おも)い、パウロの(かた)ることに(くち)ぎたなく反対(はんたい)した。 46パウロとバルナバとは大胆(だいたん)(かた)った、「(かみ)(ことば)は、まず、あなたがたに(かた)(つた)えられなければならなかった。しかし、あなたがたはそれを退(しりぞ)け、自分(じぶん)自身(じしん)永遠(えいえん)(いのち)にふさわしからぬ(もの)にしてしまったから、さあ、わたしたちはこれから方向(ほうこう)をかえて、異邦人(いほうじん)たちの(ほう)()くのだ。 47(しゅ)はわたしたちに、こう(めい)じておられる、
『わたしは、あなたを()てて異邦人(いほうじん)(ひかり)とした。
あなたが()(はて)までも(すくい)をもたらすためである』」。
48異邦人(いほうじん)たちはこれを()いてよろこび、(しゅ)御言(みことば)をほめたたえてやまなかった。そして、永遠(えいえん)(いのち)にあずかるように(さだ)められていた(もの)は、みな(しん)じた。 49こうして、(しゅ)御言(みことば)はこの地方(ちほう)全体(ぜんたい)にひろまって()った。 50ところが、ユダヤ(じん)たちは、信心(しんじん)(ぶか)貴婦人(きふじん)たちや(まち)有力(ゆうりょく)(しゃ)たちを煽動(せんどう)して、パウロとバルナバを迫害(はくがい)させ、ふたりをその地方(ちほう)から()()させた。 51ふたりは、(かれ)らに()けて(あし)のちりを(はら)(おと)して、イコニオムへ()った。 52弟子(でし)たちは、ますます(よろこ)びと聖霊(せいれい)とに()たされていた。

第十四章

1ふたりは、イコニオムでも(おな)じようにユダヤ(じん)会堂(かいどう)にはいって(かた)った結果(けっか)、ユダヤ(じん)やギリシヤ(じん)(おお)ぜい(しん)じた。 2ところが、(しん)じなかったユダヤ(じん)たちは異邦人(いほうじん)たちをそそのかして、兄弟(きょうだい)たちに(たい)して悪意(あくい)をいだかせた。 3それにもかかわらず、ふたりは(なが)期間(きかん)をそこで()ごして、大胆(だいたん)(しゅ)のことを(かた)った。(しゅ)は、(かれ)らの()によってしるしと奇跡(きせき)とを(おこな)わせ、そのめぐみの言葉(ことば)をあかしされた。 4そこで(まち)人々(ひとびと)が二()(わか)れ、ある(ひと)たちはユダヤ(じん)(がわ)につき、ある(ひと)たちは使徒(しと)(がわ)についた。 5その(とき)異邦人(いほうじん)やユダヤ(じん)役人(やくにん)たちと一緒(いっしょ)になって反対(はんたい)運動(うんどう)(おこ)し、使徒(しと)たちをはずかしめ、(いし)()とうとしたので、 6ふたりはそれと()づいて、ルカオニヤの町々(まちまち)、ルステラ、デルベおよびその附近(ふきん)()へのがれ、 7そこで()きつづき福音(ふくいん)(つた)えた。
8ところが、ルステラに(あし)のきかない(ひと)が、すわっていた。(かれ)(うま)れながらの(あし)なえで、(ある)いた経験(けいけん)(まった)くなかった。 9この(ひと)がパウロの(かた)るのを()いていたが、パウロは(かれ)をじっと()て、いやされるほどの信仰(しんこう)(かれ)にあるのを(みと)め、 10大声(おおごえ)で「自分(じぶん)(あし)で、まっすぐに()ちなさい」と()った。すると(かれ)(おど)()がって(ある)()した。 11群衆(ぐんしゅう)はパウロのしたことを()て、(こえ)()りあげ、ルカオニヤの地方(ちほう)()で、「神々(かみがみ)人間(にんげん)姿(すがた)をとって、わたしたちのところにお(くだ)りになったのだ」と(さけ)んだ。 12(かれ)らはバルナバをゼウスと()び、パウロはおもに(かた)(ひと)なので、(かれ)をヘルメスと()んだ。 13そして、郊外(こうがい)にあるゼウス神殿(しんでん)祭司(さいし)が、群衆(ぐんしゅう)(とも)に、ふたりに犠牲(ぎせい)をささげようと(おも)って、()(うし)数頭(すうとう)花輪(はなわ)とを門前(もんぜん)()ってきた。 14ふたりの使徒(しと)バルナバとパウロとは、これを()いて自分(じぶん)上着(うわぎ)()()き、群衆(ぐんしゅう)(なか)()()んで()き、(さけ)んで 15()った、「(みな)さん、なぜこんな(こと)をするのか。わたしたちとても、あなたがたと(おな)じような人間(にんげん)である。そして、あなたがたがこのような()にもつかぬものを()てて、(てん)()(うみ)と、その(なか)のすべてのものをお(つく)りになった()ける(かみ)()(かえ)るようにと、福音(ふくいん)()いているものである。 16(かみ)()()った時代(じだい)には、すべての国々(くにぐに)(ひと)が、それぞれの(みち)()くままにしておかれたが、 17それでも、ご自分(じぶん)のことをあかししないでおられたわけではない。すなわち、あなたがたのために(てん)から(あめ)()らせ、(みの)りの季節(きせつ)(あた)え、食物(しょくもつ)(よろこ)びとで、あなたがたの(こころ)()たすなど、いろいろのめぐみをお(あた)えになっているのである」。 18こう()って、ふたりは、やっとのことで、群衆(ぐんしゅう)自分(じぶん)たちに犠牲(ぎせい)をささげるのを、(おも)(とど)まらせた。
19ところが、あるユダヤ(じん)たちはアンテオケやイコニオムから()しかけてきて、群衆(ぐんしゅう)仲間(なかま)()()れたうえ、パウロを(いし)()ち、()んでしまったと(おも)って、(かれ)(まち)(そと)()きずり()した。 20しかし、弟子(でし)たちがパウロを()(かこ)んでいる(あいだ)に、(かれ)()きあがって(まち)にはいって()った。そして翌日(よくじつ)には、バルナバと一緒(いっしょ)にデルベにむかって()かけた。 21その(まち)福音(ふくいん)(つた)えて、(おお)ぜいの(ひと)弟子(でし)とした(のち)、ルステラ、イコニオム、アンテオケの町々(まちまち)(かえ)って()き、 22弟子(でし)たちを(ちから)づけ、信仰(しんこう)()ちつづけるようにと奨励(しょうれい)し、「わたしたちが(かみ)(くに)にはいるのには、(おお)くの苦難(くなん)()なければならない」と(かた)った。 23また教会(きょうかい)ごとに(かれ)らのために長老(ちょうろう)たちを任命(にんめい)し、断食(だんじき)をして(いの)り、(かれ)らをその(しん)じている(しゅ)にゆだねた。
24それから、ふたりはピシデヤを通過(つうか)してパンフリヤにきたが、 25ペルガで御言(みことば)(かた)った(のち)、アタリヤにくだり、 26そこから(ふね)でアンテオケに(かえ)った。(かれ)らが(いま)なし(おわ)った(はたら)きのために、(かみ)祝福(しゅくふく)()けて(おく)()されたのは、このアンテオケからであった。 27(かれ)らは到着(とうちゃく)早々(そうそう)教会(きょうかい)人々(ひとびと)()(あつ)めて、(かみ)(かれ)らと(とも)にいてして(くだ)さった数々(かずかず)のこと、また信仰(しんこう)(もん)異邦人(いほうじん)(ひら)いて(くだ)さったことなどを、報告(ほうこく)した。 28そして、ふたりはしばらくの(あいだ)弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)()ごした。

第十五章

1さて、ある(ひと)たちがユダヤから(くだ)ってきて、兄弟(きょうだい)たちに「あなたがたも、モーセの慣例(かんれい)にしたがって割礼(かつれい)()けなければ、(すく)われない」と、()いていた。 2そこで、パウロやバルナバと(かれ)らとの(あいだ)に、(すく)なからぬ紛糾(ふんきゅう)争論(そうろん)とが(しょう)じたので、パウロ、バルナバそのほか数人(すうにん)(もの)がエルサレムに(のぼ)り、使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちと、この問題(もんだい)について協議(きょうぎ)することになった。 3(かれ)らは教会(きょうかい)人々(ひとびと)見送(みおく)られ、ピニケ、サマリヤをとおって、(みち)すがら、異邦人(いほうじん)たちの改宗(かいしゅう)模様(もよう)をくわしく説明(せつめい)し、すべての兄弟(きょうだい)たちを(おお)いに(よろこ)ばせた。 4エルサレムに()くと、(かれ)らは教会(きょうかい)使徒(しと)たち、長老(ちょうろう)たちに(むか)えられて、(かみ)(かれ)らと(とも)にいてなされたことを、ことごとく報告(ほうこく)した。 5ところが、パリサイ()から信仰(しんこう)にはいってきた(ひと)たちが()って、「異邦人(いほうじん)にも割礼(かつれい)(ほどこ)し、またモーセの律法(りっぽう)(まも)らせるべきである」と主張(しゅちょう)した。
6そこで、使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちが、この問題(もんだい)について審議(しんぎ)するために(あつ)まった。 7(はげ)しい争論(そうろん)があった(のち)、ペテロが()って()った、「兄弟(きょうだい)たちよ、ご承知(しょうち)のとおり、異邦人(いほうじん)がわたしの(くち)から福音(ふくいん)言葉(ことば)()いて(しん)じるようにと、(かみ)(はじ)めのころに、諸君(しょくん)(なか)からわたしをお(えら)びになったのである。 8そして、(ひと)(こころ)をご(ぞん)じである(かみ)は、聖霊(せいれい)をわれわれに(たま)わったと同様(どうよう)(かれ)らにも(たま)わって、(かれ)らに(たい)してあかしをなし、 9また、その信仰(しんこう)によって(かれ)らの(こころ)をきよめ、われわれと(かれ)らとの(あいだ)に、なんの()けへだてもなさらなかった。 10しかるに、諸君(しょくん)はなぜ、(いま)われわれの先祖(せんぞ)もわれわれ自身(じしん)も、()いきれなかったくびきをあの弟子(でし)たちの(くび)にかけて、(かみ)(こころ)みるのか。 11(たし)かに、(しゅ)イエスのめぐみによって、われわれは(すく)われるのだと(しん)じるが、(かれ)らとても同様(どうよう)である」。
12すると、(ぜん)会衆(かいしゅう)(だま)ってしまった。それから、バルナバとパウロとが、(かれ)らをとおして異邦人(いほうじん)(あいだ)(かみ)(おこな)われた数々(かずかず)のしるしと奇跡(きせき)のことを、説明(せつめい)するのを()いた。 13ふたりが(かた)()えた(のち)、ヤコブはそれに(おう)じて()べた、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしの意見(いけん)()いていただきたい。 14(かみ)(はじ)めに異邦人(いほうじん)たちを(かえり)みて、その(なか)から御名(みな)()(たみ)(えら)()された次第(しだい)は、シメオンがすでに説明(せつめい)した。 15預言者(よげんしゃ)たちの言葉(ことば)も、それと一致(いっち)している。すなわち、こう()いてある、
16『その(のち)、わたしは(かえ)ってきて、
(たお)れたダビデの幕屋(まくや)()てかえ、
くずれた箇所(かしょ)修理(しゅうり)し、
それを()(なお)そう。
17(のこ)っている人々(ひとびと)も、
わたしの()(とな)えているすべての異邦人(いほうじん)も、
(しゅ)(たず)(もと)めるようになるためである。
18()(はじ)めからこれらの(こと)()らせておられる(しゅ)が、こう(おお)せになった』。
19そこで、わたしの意見(いけん)では、異邦人(いほうじん)(なか)から(かみ)帰依(きえ)している(ひと)たちに、わずらいをかけてはいけない。 20ただ、偶像(ぐうぞう)(そな)えて(けが)れた(もの)と、不品行(ふひんこう)と、()(ころ)したものと、()とを、()けるようにと、(かれ)らに()(おく)ることにしたい。 21(ふる)時代(じだい)から、どの(まち)にもモーセの律法(りっぽう)()(つた)える(もの)がいて、安息日(あんそくにち)ごとにそれを(しょ)会堂(かいどう)朗読(ろうどく)するならわしであるから」。
22そこで、使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちは、(ぜん)教会(きょうかい)協議(きょうぎ)した(すえ)、お(たがい)(なか)から人々(ひとびと)(えら)んで、パウロやバルナバと(とも)に、アンテオケに派遣(はけん)することに()めた。(えら)ばれたのは、バルサバというユダとシラスとであったが、いずれも兄弟(きょうだい)たちの(あいだ)(おも)んじられていた(ひと)たちであった。 23この(ひと)たちに(たく)された書面(しょめん)はこうである。
「あなたがたの兄弟(きょうだい)である使徒(しと)および長老(ちょうろう)たちから、アンテオケ、シリヤ、キリキヤにいる異邦人(いほうじん)兄弟(きょうだい)がたに、あいさつを(おく)る。 24こちらから()ったある(もの)たちが、わたしたちからの指示(しじ)もないのに、いろいろなことを()って、あなたがたを(さわ)がせ、あなたがたの(こころ)(みだ)したと(つた)()いた。 25そこで、わたしたちは人々(ひとびと)(えら)んで、(あい)するバルナバおよびパウロと(とも)に、あなたがたのもとに派遣(はけん)することに、衆議(しゅうぎ)一決(いっけつ)した。 26このふたりは、われらの(しゅ)イエス・キリストの()のために、その(いのち)()()した人々(ひとびと)であるが、 27(かれ)らと(とも)に、ユダとシラスとを派遣(はけん)する次第(しだい)である。この(ひと)たちは、あなたがたに、(おな)趣旨(しゅし)のことを、口頭(こうとう)でも(つた)えるであろう。 28すなわち、聖霊(せいれい)とわたしたちとは、(つぎ)必要(ひつよう)事項(じこう)のほかは、どんな負担(ふたん)をも、あなたがたに()わせないことに()めた。 29それは、偶像(ぐうぞう)(そな)えたものと、()と、()(ころ)したものと、不品行(ふひんこう)とを、()けるということである。これらのものから(とお)ざかっておれば、それでよろしい。以上(いじょう)」。
30さて、一行(いっこう)人々(ひとびと)見送(みおく)られて、アンテオケに(くだ)って()き、会衆(かいしゅう)(あつ)めて、その書面(しょめん)手渡(てわた)した。 31人々(ひとびと)はそれを()んで、その(すす)めの言葉(ことば)をよろこんだ。 32ユダとシラスとは(とも)預言者(よげんしゃ)であったので、(おお)くの言葉(ことば)をもって兄弟(きょうだい)たちを(はげ)まし、また(ちから)づけた。 33ふたりは、しばらくの(とき)を、そこで()ごした(のち)兄弟(きょうだい)たちから、(たび)平安(へいあん)(いの)られて、見送(みおく)りを()け、自分(じぶん)らを派遣(はけん)した人々(ひとびと)のところに(かえ)って()った。〔 34しかし、シラスだけは、()きつづきとどまることにした。〕 35パウロとバルナバとはアンテオケに滞在(たいざい)をつづけて、ほかの(おお)くの(ひと)たちと(とも)に、(しゅ)言葉(ことば)(おし)えかつ()(つた)えた。
36幾日(いくにち)かの(のち)、パウロはバルナバに()った、「さあ、(まえ)(しゅ)言葉(ことば)(つた)えたすべての町々(まちまち)にいる兄弟(きょうだい)たちを、また訪問(ほうもん)して、みんながどうしているかを()てこようではないか」。 37そこで、バルナバはマルコというヨハネも一緒(いっしょ)()れて()くつもりでいた。 38しかし、パウロは、(まえ)にパンフリヤで一行(いっこう)から(はな)れて、(はたら)きを(とも)にしなかったような(もの)は、()れて()かないがよいと(かんが)えた。 39こうして激論(げきろん)(おこ)り、その結果(けっか)ふたりは(たがい)(わか)(わか)れになり、バルナバはマルコを()れてクプロに(わた)って()き、 40パウロはシラスを(えら)び、兄弟(きょうだい)たちから(しゅ)(めぐ)みにゆだねられて、()(はっ)した。 41そしてパウロは、シリヤ、キリキヤの地方(ちほう)をとおって、(しょ)教会(きょうかい)(ちから)づけた。

第十六章

1それから、(かれ)はデルベに()き、(つぎ)にルステラに()った。そこにテモテという()弟子(でし)がいた。信者(しんじゃ)のユダヤ婦人(ふじん)(はは)とし、ギリシヤ(じん)(ちち)としており、 2ルステラとイコニオムの兄弟(きょうだい)たちの(あいだ)で、評判(ひょうばん)のよい人物(じんぶつ)であった。 3パウロはこのテモテを()れて()きたかったので、その地方(ちほう)にいるユダヤ(じん)手前(てまえ)、まず(かれ)割礼(かつれい)()けさせた。(かれ)(ちち)がギリシヤ(じん)であることは、みんな()っていたからである。 4それから(かれ)らは(とお)町々(まちまち)で、エルサレムの使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちの()()めた事項(じこう)(まも)るようにと、人々(ひとびと)にそれを(わた)した。 5こうして、(しょ)教会(きょうかい)はその信仰(しんこう)(つよ)められ、()ごとに(かず)()していった。
6それから(かれ)らは、アジヤで御言(みことば)(かた)ることを聖霊(せいれい)(きん)じられたので、フルギヤ・ガラテヤ地方(ちほう)をとおって()った。 7そして、ムシヤのあたりにきてから、ビテニヤに(すす)んで()こうとしたところ、イエスの御霊(みたま)がこれを(ゆる)さなかった。 8それで、ムシヤを通過(つうか)して、トロアスに(くだ)って()った。 9ここで(よる)、パウロは一つの(まぼろし)()た。ひとりのマケドニヤ(びと)()って、「マケドニヤに(わた)ってきて、わたしたちを(たす)けて(くだ)さい」と、(かれ)懇願(こんがん)するのであった。 10パウロがこの(まぼろし)()(とき)、これは(かれ)らに福音(ふくいん)(つた)えるために、(かみ)がわたしたちをお(まね)きになったのだと確信(かくしん)して、わたしたちは、ただちにマケドニヤに(わた)って()くことにした。
11そこで、わたしたちはトロアスから船出(ふなで)して、サモトラケに直航(ちょっこう)し、翌日(よくじつ)ネアポリスに()いた。 12そこからピリピへ()った。これはマケドニヤのこの地方(ちほう)(だい)一の(まち)で、植民(しょくみん)都市(とし)であった。わたしたちは、この(まち)数日間(すうじつかん)滞在(たいざい)した。 13ある安息日(あんそくにち)に、わたしたちは(まち)(もん)()て、(いの)()があると(おも)って、(かわ)のほとりに()った。そして、そこにすわり、(あつ)まってきた婦人(ふじん)たちに(はなし)をした。 14ところが、テアテラ()(むらさき)(ぬの)商人(しょうにん)で、(かみ)(うやま)うルデヤという婦人(ふじん)()いていた。(しゅ)彼女(かのじょ)(こころ)(ひら)いて、パウロの(かた)ることに(みみ)(かたむ)けさせた。 15そして、この婦人(ふじん)もその家族(かぞく)も、(とも)にバプテスマを()けたが、その(とき)彼女(かのじょ)は「もし、わたしを(しゅ)(しん)じる(もの)とお(おも)いでしたら、どうぞ、わたしの(いえ)にきて()まって(くだ)さい」と懇望(こんもう)し、しいてわたしたちをつれて()った。
16ある(とき)、わたしたちが、(いの)()()途中(とちゅう)(うらな)いの(れい)につかれた(おんな)奴隷(どれい)出会(であ)った。彼女(かのじょ)(うらな)いをして、その主人(しゅじん)たちに(おお)くの利益(りえき)()させていた(もの)である。 17この(おんな)が、パウロやわたしたちのあとを()ってきては、「この(ひと)たちは、いと(たか)(かみ)(しもべ)たちで、あなたがたに(すくい)(みち)(つた)えるかただ」と、(さけ)()すのであった。 18そして、そんなことを(いく)日間(にちかん)もつづけていた。パウロは(こま)りはてて、その(れい)にむかい「イエス・キリストの()によって(めい)じる。その(おんな)から()()け」と()った。すると、その瞬間(しゅんかん)(れい)(おんな)から()()った。
19彼女(かのじょ)主人(しゅじん)たちは、自分(じぶん)らの利益(りえき)()(のぞ)みが()えたのを()て、パウロとシラスとを(とら)え、役人(やくにん)()(わた)すため広場(ひろば)()きずって()った。 20それから、ふたりを長官(ちょうかん)たちの(まえ)()()して(うった)えた、「この(ひと)たちはユダヤ(じん)でありまして、わたしたちの(まち)をかき(みだ)し、 21わたしたちローマ(じん)が、採用(さいよう)実行(じっこう)もしてはならない風習(ふうしゅう)宣伝(せんでん)しているのです」。 22群衆(ぐんしゅう)もいっせいに()って、ふたりを()めたてたので、長官(ちょうかん)たちはふたりの上着(うわぎ)をはぎ()り、むちで()つことを(めい)じた。 23それで、ふたりに(なに)()もむちを(くわ)えさせたのち、(ごく)()れ、獄吏(ごくり)にしっかり(ばん)をするようにと(めい)じた。 24獄吏(ごくり)はこの厳命(げんめい)()けたので、ふたりを(おく)獄屋(ごくや)()れ、その(あし)(あし)かせをしっかとかけておいた。
25真夜中(まよなか)ごろ、パウロとシラスとは、(かみ)(いの)り、さんびを(うた)いつづけたが、囚人(しゅうじん)たちは(みみ)をすまして()きいっていた。 26ところが突然(とつぜん)(おお)地震(じしん)(おこ)って、(ごく)土台(どだい)()(うご)き、()全部(ぜんぶ)たちまち(ひら)いて、みんなの(もの)(くさり)()けてしまった。 27獄吏(ごくり)()をさまし、(ごく)()(ひら)いてしまっているのを()て、囚人(しゅうじん)たちが()()したものと(おも)い、つるぎを()いて自殺(じさつ)しかけた。 28そこでパウロは大声(おおごえ)をあげて()った、「自害(じがい)してはいけない。われわれは(みな)ひとり(のこ)らず、ここにいる」。 29すると、獄吏(ごくり)は、あかりを()()れた(うえ)(ごく)()()んできて、おののきながらパウロとシラスの(まえ)にひれ()した。 30それから、ふたりを(そと)()()して()った、「先生(せんせい)がた、わたしは(すく)われるために、(なに)をすべきでしょうか」。 31ふたりが()った、「(しゅ)イエスを(しん)じなさい。そうしたら、あなたもあなたの家族(かぞく)(すく)われます」。 32それから、(かれ)とその家族(かぞく)一同(いちどう)とに、(かみ)(ことば)(かた)って()かせた。 33(かれ)真夜中(まよなか)にもかかわらず、ふたりを()()って、その()(きず)(あら)ってやった。そして、その()自分(じぶん)家族(かぞく)も、ひとり(のこ)らずバプテスマを()け、 34さらに、ふたりを自分(じぶん)(いえ)案内(あんない)して食事(しょくじ)のもてなしをし、(かみ)(しん)じる(もの)となったことを、(ぜん)家族(かぞく)(とも)(こころ)から(よろこ)んだ。
35()()けると、長官(ちょうかん)たちは(けい)()らをつかわして、「あの(ひと)たちを釈放(しゃくほう)せよ」と()わせた。 36そこで、獄吏(ごくり)はこの言葉(ことば)をパウロに(つた)えて()った、「長官(ちょうかん)たちが、あなたがたを釈放(しゃくほう)させるようにと、使(つかい)をよこしました。さあ、()てきて、無事(ぶじ)にお(かえ)りなさい」。 37ところが、パウロは(けい)()らに()った、「(かれ)らは、ローマ(じん)であるわれわれを、裁判(さいばん)にかけもせずに、公衆(こうしゅう)(まえ)でむち()ったあげく、(ごく)()れてしまった。しかるに(いま)になって、ひそかに、われわれを()そうとするのか。それは、いけない。(かれ)自身(じしん)がここにきて、われわれを()()すべきである」。 38(けい)()らはこの言葉(ことば)長官(ちょうかん)たちに報告(ほうこく)した。すると長官(ちょうかん)たちは、ふたりがローマ(じん)だと()いて(おそ)れ、 39自分(じぶん)でやってきてわびた(うえ)、ふたりを(ごく)から()()し、(まち)から()()るようにと(たの)んだ。 40ふたりは(ごく)()て、ルデヤの(いえ)()った。そして、兄弟(きょうだい)たちに()って(すす)めをなし、それから()かけた。

第十七章

1一行(いっこう)は、アムピポリスとアポロニヤとをとおって、テサロニケに()った。ここにはユダヤ(じん)会堂(かいどう)があった。 2パウロは(れい)によって、その会堂(かいどう)にはいって()って、三つの安息日(あんそくにち)にわたり、聖書(せいしょ)(もとづ)いて(かれ)らと(ろん)じ、 3キリストは(かなら)苦難(くなん)()け、そして死人(しにん)(なか)からよみがえるべきこと、また「わたしがあなたがたに(つた)えているこのイエスこそは、キリストである」とのことを、説明(せつめい)もし論証(ろんしょう)もした。 4ある(ひと)たちは納得(なっとく)がいって、パウロとシラスにしたがった。その(なか)には、信心(しんじん)(ぶか)いギリシヤ(じん)多数(たすう)あり、貴婦人(きふじん)たちも(すく)なくなかった。 5ところが、ユダヤ(じん)たちは、それをねたんで、(まち)をぶらついているならず(もの)らを(あつ)めて暴動(ぼうどう)(おこ)し、(まち)(さわ)がせた。それからヤソンの(いえ)(おそ)い、ふたりを民衆(みんしゅう)(まえ)にひっぱり()そうと、しきりに(さが)した。 6しかし、ふたりが()つからないので、ヤソンと兄弟(きょうだい)たち数人(すうにん)を、()当局者(とうきょくしゃ)のところに()きずって()き、(さけ)んで()った、「天下(てんか)をかき(まわ)してきたこの(ひと)たちが、ここにもはいり()んでいます。 7その(ひと)たちをヤソンが自分(じぶん)(いえ)(むか)()れました。この連中(れんちゅう)は、みなカイザルの詔勅(しょうちょく)にそむいて行動(こうどう)し、イエスという(べつ)(おう)がいるなどと()っています」。 8これを()いて、群衆(ぐんしゅう)()当局者(とうきょくしゃ)不安(ふあん)(かん)じた。 9そして、ヤソンやほかの(もの)たちから、保証(ほしょう)(きん)()った(うえ)(かれ)らを釈放(しゃくほう)した。
10そこで、兄弟(きょうだい)たちはただちに、パウロとシラスとを、(よる)(あいだ)にベレヤへ(おく)()した。ふたりはベレヤに到着(とうちゃく)すると、ユダヤ(じん)会堂(かいどう)()った。 11ここにいるユダヤ(じん)はテサロニケの(もの)たちよりも素直(すなお)であって、(こころ)から(おしえ)()けいれ、(はた)してそのとおりかどうかを()ろうとして、日々(ひび)聖書(せいしょ)調(しら)べていた。 12そういうわけで、(かれ)らのうちの(おお)くの(もの)信者(しんじゃ)になった。また、ギリシヤの貴婦人(きふじん)男子(だんし)(しん)じた(もの)も、(すく)なくなかった。 13テサロニケのユダヤ(じん)たちは、パウロがベレヤでも(かみ)(ことば)(つた)えていることを()り、そこにも()しかけてきて、群衆(ぐんしゅう)煽動(せんどう)して(さわ)がせた。 14そこで、兄弟(きょうだい)たちは、ただちにパウロを(おく)()して、(うみ)べまで()かせ、シラスとテモテとはベレヤに居残(いのこ)った。 15パウロを案内(あんない)した(ひと)たちは、(かれ)をアテネまで()れて()き、テモテとシラスとになるべく(はや)()るようにとのパウロの伝言(でんごん)()けて、(かえ)った。
16さて、パウロはアテネで(かれ)らを()っている(あいだ)に、市内(しない)偶像(ぐうぞう)がおびただしくあるのを()て、(こころ)(いきどお)りを(かん)じた。 17そこで(かれ)は、会堂(かいどう)ではユダヤ(じん)信心(しんじん)(ぶか)(ひと)たちと(ろん)じ、広場(ひろば)では毎日(まいにち)そこで出会(であ)人々(ひとびと)相手(あいて)(ろん)じた。 18また、エピクロス()やストア()哲学者(てつがくしゃ)数人(すうにん)も、パウロと議論(ぎろん)(たたか)わせていたが、その(なか)のある(もの)たちが()った、「このおしゃべりは、いったい、(なに)()おうとしているのか」。また、ほかの(もの)たちは、「あれは、異国(いこく)神々(かみがみ)(つた)えようとしているらしい」と()った。パウロが、イエスと復活(ふっかつ)とを、()(つた)えていたからであった。 19そこで、(かれ)らはパウロをアレオパゴスの評議所(ひょうぎしょ)()れて()って、「(きみ)(かた)っている(あたら)しい(おしえ)がどんなものか、()らせてもらえまいか。 20(きみ)がなんだか(めず)らしいことをわれわれに()かせているので、それがなんの(こと)なのか()りたいと(おも)うのだ」と()った。 21いったい、アテネ(びと)もそこに滞在(たいざい)している外国(がいこく)(じん)もみな、(なに)耳新(みみあたら)しいことを(はな)したり()いたりすることのみに、(とき)()ごしていたのである。 22そこでパウロは、アレオパゴスの評議所(ひょうぎしょ)のまん(なか)()って()った。
「アテネの(ひと)たちよ、あなたがたは、あらゆる(てん)において、すこぶる宗教(しゅうきょう)(こころ)()んでおられると、わたしは()ている。 23(じつ)は、わたしが(みち)(とお)りながら、あなたがたの(おが)むいろいろなものを、よく()ているうちに、『()られない(かみ)に』と(きざ)まれた祭壇(さいだん)もあるのに()がついた。そこで、あなたがたが()らずに(おが)んでいるものを、いま()らせてあげよう。 24この世界(せかい)と、その(なか)にある万物(ばんぶつ)とを(つく)った(かみ)は、天地(てんち)(しゅ)であるのだから、()(つく)った(みや)などにはお()みにならない。 25また、(なに)不足(ふそく)でもしておるかのように、(ひと)()によって(つか)えられる必要(ひつよう)もない。(かみ)は、すべての人々(ひとびと)(いのち)(いき)万物(ばんぶつ)とを(あた)え、 26また、ひとりの(ひと)から、あらゆる民族(みんぞく)(つく)(りだ)して、()全面(ぜんめん)()まわせ、それぞれに時代(じだい)区分(くぶん)し、国土(こくど)境界(きょうかい)(さだ)めて(くだ)さったのである。 27こうして、人々(ひとびと)熱心(ねっしん)()(もと)めて(さが)しさえすれば、(かみ)()いだせるようにして(くだ)さった。事実(じじつ)(かみ)はわれわれひとりびとりから(とお)(はな)れておいでになるのではない。 28われわれは(かみ)のうちに()き、(うご)き、存在(そんざい)しているからである。あなたがたのある詩人(しじん)たちも()ったように、
『われわれも、(たし)かにその子孫(しそん)である』。
29このように、われわれは(かみ)子孫(しそん)なのであるから、(かみ)たる(もの)を、人間(にんげん)技巧(ぎこう)空想(くうそう)(きん)(ぎん)(いし)などに()()けたものと(おな)じと、()なすべきではない。 30(かみ)は、このような無知(むち)時代(じだい)を、これまでは見過(みす)ごしにされていたが、(いま)はどこにおる(ひと)でも、みな()(あらた)めなければならないことを(めい)じておられる。 31(かみ)は、()をもってこの世界(せかい)をさばくためその()(さだ)め、お(えら)びになったかたによってそれをなし()げようとされている。すなわち、このかたを死人(しにん)(なか)からよみがえらせ、その確証(かくしょう)をすべての(ひと)(しめ)されたのである」。
32死人(しにん)のよみがえりのことを()くと、ある(もの)たちはあざ(わら)い、またある(もの)たちは、「この(こと)については、いずれまた()くことにする」と()った。 33こうして、パウロは(かれ)らの(なか)から()()った。 34しかし、(かれ)にしたがって(しん)じた(もの)も、幾人(いくにん)かあった。その(なか)には、アレオパゴスの裁判人(さいばんにん)デオヌシオとダマリスという(おんな)、また、その()人々(ひとびと)もいた。

第十八章

1その(のち)、パウロはアテネを()ってコリントへ()った。 2そこで、アクラというポント(うま)れのユダヤ(じん)と、その(つま)プリスキラとに出会(であ)った。クラウデオ(てい)が、すべてのユダヤ(じん)をローマから退去(たいきょ)させるようにと、命令(めいれい)したため、(かれ)らは(ちか)ごろイタリヤから()てきたのである。 3パウロは(かれ)らのところに()ったが、(たがい)同業(どうぎょう)であったので、その(いえ)()()んで、一緒(いっしょ)仕事(しごと)をした。天幕(てんまく)(つく)りがその職業(しょくぎょう)であった。 4パウロは安息日(あんそくにち)ごとに会堂(かいどう)(ろん)じては、ユダヤ(じん)やギリシヤ(じん)説得(せっとく)(つと)めた。
5シラスとテモテが、マケドニヤから(くだ)ってきてからは、パウロは御言(みことば)(つた)えることに専念(せんねん)し、イエスがキリストであることを、ユダヤ(じん)たちに力強(ちからづよ)くあかしした。 6しかし、(かれ)らがこれに反抗(はんこう)してののしり(つづ)けたので、パウロは自分(じぶん)上着(うわぎ)()りはらって、(かれ)らに()った、「あなたがたの()は、あなたがた自身(じしん)にかえれ。わたしには責任(せきにん)がない。(いま)からわたしは異邦人(いほうじん)(ほう)()く」。 7こう()って、(かれ)はそこを()り、テテオ・ユストという(かみ)(うやま)(ひと)(いえ)()った。その(いえ)会堂(かいどう)(とな)()っていた。 8会堂司(かいどうづかさ)クリスポは、その家族(かぞく)一同(いちどう)(とも)(しゅ)(しん)じた。また(おお)くのコリント(びと)も、パウロの(はなし)()いて(しん)じ、ぞくぞくとバプテスマを()けた。 9すると、ある()(まぼろし)のうちに(しゅ)がパウロに()われた、「(おそ)れるな。(かた)りつづけよ、(だま)っているな。 10あなたには、わたしがついている。だれもあなたを(おそ)って、危害(きがい)(くわ)えるようなことはない。この(まち)には、わたしの(たみ)(おお)ぜいいる」。 11パウロは一(ねん)六か(げつ)(あいだ)ここに(こし)をすえて、(かみ)(ことば)(かれ)らの(あいだ)(おし)えつづけた。
12ところが、ガリオがアカヤの総督(そうとく)であった(とき)、ユダヤ(じん)たちは一緒(いっしょ)になってパウロを(おそ)い、(かれ)法廷(ほうてい)にひっぱって()って(うった)えた、 13「この(ひと)は、律法(りっぽう)にそむいて(かみ)(おが)むように、人々(ひとびと)をそそのかしています」。 14パウロが(くち)(ひら)こうとすると、ガリオはユダヤ(じん)たちに()った、「ユダヤ(じん)諸君(しょくん)(なに)不法(ふほう)行為(こうい)とか、悪質(あくしつ)犯罪(はんざい)とかのことなら、わたしは当然(とうぜん)諸君(しょくん)(うった)えを()()げもしようが、 15これは諸君(しょくん)言葉(ことば)名称(めいしょう)律法(りっぽう)(かん)する問題(もんだい)なのだから、諸君(しょくん)みずから始末(しまつ)するがよかろう。わたしはそんな(こと)裁判人(さいばんにん)にはなりたくない」。 16こう()って、(かれ)らを法廷(ほうてい)から()いはらった。 17そこで、みんなの(もの)は、会堂司(かいどうづかさ)ソステネを()(とら)え、法廷(ほうてい)(まえ)()ちたたいた。ガリオはそれに(たい)して、そ()らぬ(かお)をしていた。
18さてパウロは、なお幾日(いくにち)ものあいだ滞在(たいざい)した(のち)兄弟(きょうだい)たちに(わか)れを()げて、シリヤへ()出帆(しゅっぱん)した。プリスキラとアクラも同行(どうこう)した。パウロは、かねてから、ある誓願(せいがん)()てていたので、ケンクレヤで(あたま)をそった。 19一行(いっこう)がエペソに()くと、パウロはふたりをそこに(のこ)しておき、自分(じぶん)だけ会堂(かいどう)にはいって、ユダヤ(じん)たちと(ろん)じた。 20人々(ひとびと)は、パウロにもっと(なが)いあいだ滞在(たいざい)するように(ねが)ったが、(かれ)()きいれないで、 21(かみ)のみこころなら、またあなたがたのところに(かえ)ってこよう」と()って、(わか)れを()げ、エペソから船出(ふなで)した。 22それから、カイザリヤで上陸(じょうりく)してエルサレムに(のぼ)り、教会(きょうかい)にあいさつしてから、アンテオケに(くだ)って()った。 23そこにしばらくいてから、(かれ)はまた()かけ、ガラテヤおよびフルギヤの地方(ちほう)歴訪(れきほう)して、すべての弟子(でし)たちを(ちから)づけた。
24さて、アレキサンデリヤ(うま)れで、聖書(せいしょ)精通(せいつう)し、しかも、雄弁(ゆうべん)なアポロというユダヤ(じん)が、エペソにきた。 25この(ひと)(しゅ)(みち)(つう)じており、また、(れい)()えてイエスのことを(くわ)しく(かた)ったり(おし)えたりしていたが、ただヨハネのバプテスマしか()っていなかった。 26(かれ)会堂(かいどう)大胆(だいたん)(かた)(はじ)めた。それをプリスキラとアクラとが()いて、(かれ)(まね)きいれ、さらに(くわ)しく(かみ)(みち)()()かせた。 27それから、アポロがアカヤに(わた)りたいと(おも)っていたので、兄弟(きょうだい)たちは(かれ)(はげ)まし、先方(せんぽう)弟子(でし)たちに、(かれ)をよく(むか)えるようにと、手紙(てがみ)()(おく)った。(かれ)到着(とうちゃく)して、すでにめぐみによって信者(しんじゃ)になっていた(ひと)たちに、(おお)いに(ちから)になった。 28(かれ)はイエスがキリストであることを、聖書(せいしょ)(もとづ)いて(しめ)し、公然(こうぜん)と、ユダヤ(じん)たちを(はげ)しい語調(ごちょう)論破(ろんぱ)したからである。

第十九章

1アポロがコリントにいた(とき)、パウロは奥地(おくち)をとおってエペソにきた。そして、ある弟子(でし)たちに出会(であ)って、 2(かれ)らに「あなたがたは、信仰(しんこう)にはいった(とき)に、聖霊(せいれい)()けたのか」と(たず)ねたところ、「いいえ、聖霊(せいれい)なるものがあることさえ、()いたことがありません」と(こた)えた。 3「では、だれの()によってバプテスマを()けたのか」と(かれ)がきくと、(かれ)らは「ヨハネの()によるバプテスマを()けました」と(こた)えた。 4そこで、パウロが()った、「ヨハネは悔改(くいあらた)めのバプテスマを(さづ)けたが、それによって、自分(じぶん)のあとに()るかた、すなわち、イエスを(しん)じるように、人々(ひとびと)(すす)めたのである」。 5人々(ひとびと)はこれを()いて、(しゅ)イエスの()によるバプテスマを()けた。 6そして、パウロが(かれ)らの(うえ)()をおくと、聖霊(せいれい)(かれ)らにくだり、それから(かれ)らは異言(いげん)(かた)ったり、預言(よげん)をしたりし()した。 7その(ひと)たちはみんなで十二(にん)ほどであった。
8それから、パウロは会堂(かいどう)にはいって、三か(げつ)のあいだ、大胆(だいたん)(かみ)(くに)について(ろん)じ、また(すす)めをした。 9ところが、ある(ひと)たちは(こころ)をかたくなにして、(しん)じようとせず、会衆(かいしゅう)(まえ)でこの(みち)をあしざまに()ったので、(かれ)弟子(でし)たちを()()れて、その(ひと)たちから(はな)れ、ツラノの講堂(こうどう)毎日(まいにち)(ろん)じた。 10それが二年間(ねんかん)(つづ)いたので、アジヤに()んでいる(もの)は、ユダヤ(じん)もギリシヤ(じん)(みな)(しゅ)(ことば)()いた。
11(かみ)は、パウロの()によって、異常(いじょう)(ちから)あるわざを次々(つぎつぎ)になされた。 12たとえば、人々(ひとびと)が、(かれ)()につけている()ぬぐいや前掛(まえか)けを()って病人(びょうにん)にあてると、その病気(びょうき)(のぞ)かれ、悪霊(あくれい)()()くのであった。 13そこで、ユダヤ(じん)のまじない()で、遍歴(へんれき)している(もの)たちが、悪霊(あくれい)につかれている(もの)にむかって、(しゅ)イエスの()をとなえ、「パウロの()(つた)えているイエスによって(めい)じる。()()け」と、ためしに()ってみた。 14ユダヤの祭司長(さいしちょう)スケワという(もの)の七(にん)のむすこたちも、そんなことをしていた。 15すると悪霊(あくれい)がこれに(たい)して()った、「イエスなら自分(じぶん)()っている。パウロもわかっている。だが、おまえたちは、いったい何者(なにもの)だ」。 16そして、悪霊(あくれい)につかれている(ひと)が、(かれ)らに()びかかり、みんなを(おさ)えつけて()かしたので、(かれ)らは(きず)()ったまま(はだか)になって、その(いえ)()()した。 17このことがエペソに()むすべてのユダヤ(じん)やギリシヤ(じん)()れわたって、みんな恐怖(きょうふ)(おそ)われ、そして、(しゅ)イエスの()があがめられた。 18また信者(しんじゃ)になった(もの)(おお)ぜいきて、自分(じぶん)行為(こうい)()ちあけて告白(こくはく)した。 19それから、魔術(まじゅつ)(おこな)っていた(おお)くの(もの)が、魔術(まじゅつ)(ほん)()()してきては、みんなの(まえ)()()てた。その値段(ねだん)総計(そうけい)したところ、(ぎん)五万にも(のぼ)ることがわかった。 20このようにして、(しゅ)(ことば)はますます(さか)んにひろまり、また(ちから)()(くわ)えていった。
21これらの(こと)があった(のち)、パウロは御霊(みたま)(かん)じて、マケドニヤ、アカヤをとおって、エルサレムへ()決心(けっしん)をした。そして()った、「わたしは、そこに()ったのち、ぜひローマをも()なければならない」。 22そこで、自分(じぶん)(つか)えている(もの)(なか)から、テモテとエラストとのふたりを、まずマケドニヤに(おく)()し、パウロ自身(じしん)は、なおしばらくアジヤにとどまった。
23そのころ、この(みち)について容易(ようい)ならぬ騒動(そうどう)(おこ)った。 24そのいきさつは、こうである。デメテリオという銀細工人(ぎんざいくにん)が、(ぎん)でアルテミス神殿(しんでん)模型(もけい)(つく)って、職人(しょくにん)たちに(すく)なからぬ利益(りえき)()させていた。 25この(おとこ)がその職人(しょくにん)たちや、同類(どうるい)仕事(しごと)をしていた(もの)たちを(あつ)めて()った、「諸君(しょくん)、われわれがこの仕事(しごと)で、(かね)もうけをしていることは、ご承知(しょうち)のとおりだ。 26しかるに、諸君(しょくん)見聞(みき)きしているように、あのパウロが、()(つく)られたものは神様(かみさま)ではないなどと()って、エペソばかりか、ほとんどアジヤ全体(ぜんたい)にわたって、(おお)ぜいの人々(ひとびと)()きつけて(あやま)らせた。 27これでは、お(たがい)仕事(しごと)悪評(あくひょう)()つおそれがあるばかりか、(おお)女神(めがみ)アルテミスの(みや)(かろ)んじられ、ひいては(ぜん)アジヤ、いや(ぜん)世界(せかい)(おが)んでいるこの(おお)女神(めがみ)のご威光(いこう)さえも、()えてしまいそうである」。
28これを()くと、人々(ひとびと)(いか)りに()え、大声(おおごえ)で「(おお)いなるかな、エペソ(びと)のアルテミス」と(さけ)びつづけた。 29そして、町中(まちじゅう)(だい)混乱(こんらん)(おちい)り、人々(ひとびと)はパウロの道連(みちづ)れであるマケドニヤ(びと)ガイオとアリスタルコとを(とら)えて、いっせいに劇場(げきじょう)へなだれ()んだ。 30パウロは群衆(ぐんしゅう)(なか)にはいって()こうとしたが、弟子(でし)たちがそれをさせなかった。 31アジヤ(しゅう)議員(ぎいん)で、パウロの友人(ゆうじん)であった(ひと)たちも、(かれ)使(つかい)をよこして、劇場(げきじょう)にはいって()かないようにと、しきりに(たの)んだ。 32(なか)では、集会(しゅうかい)混乱(こんらん)(おちい)ってしまって、ある(もの)はこのことを、ほかの(もの)はあのことを、どなりつづけていたので、大多数(だいたすう)(もの)は、なんのために(あつ)まったのかも、わからないでいた。 33そこで、ユダヤ(じん)たちが、(まえ)()()したアレキサンデルなる(もの)を、群衆(ぐんしゅう)(なか)のある(ひと)たちが(うなが)したため、(かれ)()()って、人々(ひとびと)弁明(べんめい)(こころ)みようとした。 34ところが、(かれ)がユダヤ(じん)だとわかると、みんなの(もの)がいっせいに「(おお)いなるかな、エペソ(びと)のアルテミス」と二時間(じかん)ばかりも(さけ)びつづけた。 35ついに、()書記(しょき)(やく)群衆(ぐんしゅう)()(しず)めて()った、「エペソの諸君(しょくん)、エペソ()(おお)女神(めがみ)アルテミスと、(あま)くだったご神体(しんたい)との守護(しゅご)(やく)であることを()らない(もの)が、ひとりでもいるだろうか。 36これは否定(ひてい)のできない事実(じじつ)であるから、諸君(しょくん)はよろしく(しず)かにしているべきで、乱暴(らんぼう)行動(こうどう)は、いっさいしてはならない。 37諸君(しょくん)はこの(ひと)たちをここにひっぱってきたが、(かれ)らは(みや)(あら)(もの)でも、われわれの女神(めがみ)をそしる(もの)でもない。 38だから、もしデメテリオなりその職人(しょくにん)仲間(なかま)なりが、だれかに(たい)して(うった)(こと)があるなら、裁判(さいばん)()はあるし、総督(そうとく)もいるのだから、それぞれ(うった)()るがよい。 39しかし、(なに)かもっと要求(ようきゅう)したい(こと)があれば、それは正式(せいしき)議会(ぎかい)解決(かいけつ)してもらうべきだ。 40きょうの事件(じけん)については、この(さわ)ぎを弁護(べんご)できるような理由(りゆう)(まった)くないのだから、われわれは治安(ちあん)をみだす(つみ)()われるおそれがある」。 41こう()って、(かれ)はこの集会(しゅうかい)解散(かいさん)させた。

第二十章

1(さわ)ぎがやんだ(のち)、パウロは弟子(でし)たちを()(あつ)めて激励(げきれい)(あた)えた(うえ)(わか)れのあいさつを()べ、マケドニヤへ()かって出発(しゅっぱつ)した。 2そして、その地方(ちほう)をとおり、(おお)くの言葉(ことば)人々(ひとびと)(はげ)ましたのち、ギリシヤにきた。 3(かれ)はそこで三か(げつ)()ごした。それからシリヤへ()かって、船出(ふなで)しようとしていた矢先(やさき)(かれ)(たい)するユダヤ(じん)陰謀(いんぼう)(おこ)ったので、マケドニヤを経由(けいゆ)して(かえ)ることに(けっ)した。 4プロの()であるエペソ(びと)ソパテロ、テサロニケ(びと)アリスタルコとセクンド、デルベ(びと)ガイオ、それからテモテ、またアジヤ(びと)テキコとトロピモがパウロの同行者(どうこうしゃ)であった。 5この(ひと)たちは(せん)(ぱつ)して、トロアスでわたしたちを()っていた。 6わたしたちは、除酵祭(じょこうさい)(おわ)ったのちに、ピリピから出帆(しゅっぱん)し、五()かかってトロアスに到着(とうちゃく)して、(かれ)らと()()い、そこに七日間(なぬかかん)滞在(たいざい)した。
7(しゅう)(はじ)めの()に、わたしたちがパンをさくために(あつ)まった(とき)、パウロは翌日(よくじつ)出発(しゅっぱつ)することにしていたので、しきりに人々(ひとびと)(かた)()い、夜中(よなか)まで(かた)りつづけた。 8わたしたちが(あつ)まっていた屋上(おくじょう)()には、あかりがたくさんともしてあった。 9ユテコという若者(わかもの)(まど)(こし)をかけていたところ、パウロの(はなし)がながながと(つづ)くので、ひどく(ねむ)けがさしてきて、とうとうぐっすり寝入(ねい)ってしまい、三(かい)から(した)()ちた。(いだ)(おこ)してみたら、もう()んでいた。 10そこでパウロは()りてきて、若者(わかもの)(うえ)()をかがめ、(かれ)(いだ)きあげて、「(さわ)ぐことはない。まだ(いのち)がある」と()った。 11そして、また()がって()って、パンをさいて()べてから、()けがたまで(なが)いあいだ人々(ひとびと)(かた)()って、ついに出発(しゅっぱつ)した。 12人々(ひとびと)()きかえった若者(わかもの)()れかえり、ひとかたならず(なぐさ)められた。
13さて、わたしたちは(さき)(ふね)()()み、アソスへ()かって出帆(しゅっぱん)した。そこからパウロを(ふね)()せて()くことにしていた。(かれ)だけは陸路(りくろ)をとることに()めていたからである。 14パウロがアソスで、わたしたちと()()った(とき)、わたしたちは(かれ)(ふね)()せてミテレネに()った。 15そこから出帆(しゅっぱん)して、翌日(よくじつ)キヨスの沖合(おきあい)にいたり、(つぎ)()にサモスに()り、その翌日(よくじつ)ミレトに()いた。 16それは、パウロがアジヤで時間(じかん)をとられないため、エペソには()らないで(ぞっ)(こう)することに()めていたからである。(かれ)は、できればペンテコステの()には、エルサレムに()いていたかったので、(たび)(いそ)いだわけである。
17そこでパウロは、ミレトからエペソに使(つかい)をやって、教会(きょうかい)長老(ちょうろう)たちを()()せた。 18そして、(かれ)のところに()(あつ)まってきた(とき)(かれ)らに()った。
「わたしが、アジヤの()(あし)()()れた最初(さいしょ)()以来(いらい)、いつもあなたがたとどんなふうに()ごしてきたか、よくご(ぞん)じである。 19すなわち、謙遜(けんそん)(かぎ)りをつくし、(なみだ)(なが)し、ユダヤ(じん)陰謀(いんぼう)によってわたしの()(およ)んだ数々(かずかず)試練(しれん)(なか)にあって、(しゅ)(つか)えてきた。 20また、あなたがたの(えき)になることは、公衆(こうしゅう)(まえ)でも、また家々(いえいえ)でも、すべてあますところなく(はな)して()かせ、また(おし)え、 21ユダヤ(じん)にもギリシヤ(じん)にも、(かみ)(たい)する悔改(くいあらた)めと、わたしたちの(しゅ)イエスに(たい)する信仰(しんこう)とを、(つよ)(すす)めてきたのである。 22(いま)や、わたしは御霊(みたま)(せま)られてエルサレムへ()く。あの(みやこ)で、どんな(こと)がわたしの()にふりかかって()るか、わたしにはわからない。 23ただ、聖霊(せいれい)(いた)るところの町々(まちまち)で、わたしにはっきり()げているのは、投獄(とうごく)患難(かんなん)とが、わたしを()ちうけているということだ。 24しかし、わたしは自分(じぶん)行程(こうてい)(はし)()え、(しゅ)イエスから(たま)わった、(かみ)のめぐみの福音(ふくいん)をあかしする任務(にんむ)(はた)()さえしたら、このいのちは自分(じぶん)にとって、(すこ)しも()しいとは(おも)わない。 25わたしはいま(しん)じている、あなたがたの(あいだ)(ある)(まわ)って御国(みくに)()(つた)えたこのわたしの(かお)を、みんなが今後(こんご)()()ることはあるまい。 26だから、きょう、この()にあなたがたに断言(だんげん)しておく。わたしは、すべての(ひと)()について、なんら責任(せきにん)がない。 27(かみ)のみ(むね)(みな)あますところなく、あなたがたに(つた)えておいたからである。 28どうか、あなたがた自身(じしん)()をつけ、また、すべての()れに()をくばっていただきたい。聖霊(せいれい)は、(かみ)御子(みこ)()であがない()られた(かみ)教会(きょうかい)(ぼく)させるために、あなたがたをその()れの監督者(かんとくしゃ)にお()てになったのである。 29わたしが()った(のち)狂暴(きょうぼう)なおおかみが、あなたがたの(なか)にはいり()んできて、容赦(ようしゃ)なく()れを(あら)すようになることを、わたしは()っている。 30また、あなたがた自身(じしん)(なか)からも、いろいろ(まが)ったことを()って、弟子(でし)たちを自分(じぶん)(ほう)に、ひっぱり()もうとする(もの)らが(おこ)るであろう。 31だから、()をさましていなさい。そして、わたしが三(ねん)(あいだ)(よる)(ひる)(なみだ)をもって、あなたがたひとりびとりを()えずさとしてきたことを、(わす)れないでほしい。 32(いま)わたしは、(しゅ)とその(めぐ)みの(ことば)とに、あなたがたをゆだねる。御言(みことば)には、あなたがたの(とく)をたて、(せい)(べつ)されたすべての人々(ひとびと)(とも)に、御国(みくに)をつがせる(ちから)がある。 33わたしは、(ひと)(きん)(ぎん)衣服(いふく)をほしがったことはない。 34あなたがた自身(じしん)()っているとおり、わたしのこの両手(りょうて)は、自分(じぶん)生活(せいかつ)のためにも、また一緒(いっしょ)にいた(ひと)たちのためにも、(はたら)いてきたのだ。 35わたしは、あなたがたもこのように(はたら)いて、(よわ)(もの)(たす)けなければならないこと、また『()けるよりは(あた)える(ほう)が、さいわいである』と()われた(しゅ)イエスの言葉(ことば)記憶(きおく)しているべきことを、万事(ばんじ)について(おし)(しめ)したのである」。
36こう()って、パウロは一同(いちどう)(とも)にひざまずいて(いの)った。 37みんなの(もの)は、はげしく()(かな)しみ、パウロの(くび)(いだ)いて、幾度(いくど)接吻(せっぷん)し、 38もう二()自分(じぶん)(かお)()ることはあるまいと(かれ)()ったので、(とく)(こころ)(いた)めた。それから(かれ)(ふね)まで見送(みおく)った。

第二十一章

1さて、わたしたちは人々(ひとびと)(わか)れて船出(ふなで)してから、コスに直航(ちょっこう)し、(つぎ)()はロドスに、そこからパタラに()いた。 2ここでピニケ()きの(ふね)()つけたので、それに()()んで出帆(しゅっぱん)した。 3やがてクプロが()えてきたが、それを左手(ひだりて)にして(とお)りすぎ、シリヤへ航行(こうこう)をつづけ、ツロに入港(にゅうこう)した。ここで積荷(つみに)陸上(りくあ)げされることになっていたからである。 4わたしたちは、弟子(でし)たちを(さが)()して、そこに七日間(なぬかかん)()まった。ところが(かれ)らは、御霊(みたま)(しめ)しを()けて、エルサレムには(のぼ)って()かないようにと、しきりにパウロに注意(ちゅうい)した。 5しかし、滞在(たいざい)期間(きかん)(おわ)った(とき)、わたしたちはまた旅立(たびだ)つことにしたので、みんなの(もの)は、(つま)子供(こども)()()れて、(まち)はずれまで、わたしたちを見送(みおく)りにきてくれた。そこで、(とも)海岸(かいがん)にひざまずいて(いの)り、 6(たがい)(わか)れを()げた。それから、わたしたちは(ふね)()()み、(かれ)らはそれぞれ自分(じぶん)(いえ)(かえ)った。
7わたしたちは、ツロからの航行(こうこう)(おわ)ってトレマイに()き、そこの兄弟(きょうだい)たちにあいさつをし、(かれ)らのところに一(にち)滞在(たいざい)した。 8翌日(よくじつ)そこをたって、カイザリヤに()き、かの七(にん)のひとりである伝道者(でんどうしゃ)ピリポの(いえ)()き、そこに()まった。 9この(ひと)に四(にん)(むすめ)があったが、いずれも処女(しょじょ)であって、預言(よげん)をしていた。 10幾日(いくにち)滞在(たいざい)している(あいだ)に、アガボという預言者(よげんしゃ)がユダヤから(くだ)ってきた。 11そして、わたしたちのところにきて、パウロの(おび)()り、それで自分(じぶん)手足(てあし)(しば)って()った、「聖霊(せいれい)がこうお()げになっている、『この(おび)()(ぬし)を、ユダヤ(じん)たちがエルサレムでこのように(しば)って、異邦人(いほうじん)()(わた)すであろう』」。 12わたしたちはこれを()いて、土地(とち)(ひと)たちと一緒(いっしょ)になって、エルサレムには(のぼ)って()かないようにと、パウロに(ねが)(つづ)けた。 13その(とき)パウロは(こた)えた、「あなたがたは、()いたり、わたしの(こころ)をくじいたりして、いったい、どうしようとするのか。わたしは、(しゅ)イエスの()のためなら、エルサレムで(しば)られるだけでなく、()ぬことをも覚悟(かくご)しているのだ」。 14こうして、パウロが勧告(かんこく)()きいれてくれないので、わたしたちは「(しゅ)のみこころが(おこな)われますように」と()っただけで、それ以上(いじょう)(なに)()わなかった。
15数日後(すうじつご)、わたしたちは旅装(りょそう)(ととの)えてエルサレムへ(のぼ)って()った。 16カイザリヤの弟子(でし)たちも数人(すうにん)、わたしたちと同行(どうこう)して、(ふる)くからの弟子(でし)であるクプロ(びと)マナソンの(いえ)案内(あんない)してくれた。わたしたちはその(いえ)()まることになっていたのである。
17わたしたちがエルサレムに到着(とうちゃく)すると、兄弟(きょうだい)たちは(よろこ)んで(むか)えてくれた。 18翌日(よくじつ)パウロはわたしたちを()れて、ヤコブを訪問(ほうもん)しに()った。そこに長老(ちょうろう)たちがみな(あつ)まっていた。 19パウロは(かれ)らにあいさつをした(のち)(かみ)自分(じぶん)(はたら)きをとおして、異邦人(いほうじん)(あいだ)になさった(こと)どもを一々(いちいち)説明(せつめい)した。 20一同(いちどう)はこれを()いて(かみ)をほめたたえ、そして(かれ)()った、「兄弟(きょうだい)よ、ご承知(しょうち)のように、ユダヤ(じん)(なか)信者(しんじゃ)になった(もの)が、数万(すうまん)にものぼっているが、みんな律法(りっぽう)熱心(ねっしん)(ひと)たちである。 21ところが、(かれ)らが(つた)()いているところによれば、あなたは異邦人(いほうじん)(なか)にいるユダヤ(じん)一同(いちどう)(たい)して、子供(こども)割礼(かつれい)(ほどこ)すな、またユダヤの慣例(かんれい)にしたがうなと()って、モーセにそむくことを(おし)えている、ということである。 22どうしたらよいか。あなたがここにきていることは、(かれ)らもきっと()()むに(ちが)いない。 23ついては、(いま)わたしたちが()うとおりのことをしなさい。わたしたちの(なか)に、誓願(せいがん)()てている(もの)が四(にん)いる。 24この(ひと)たちを()れて()って、(かれ)らと(とも)にきよめを(おこな)い、また(かれ)らの(あたま)をそる費用(ひよう)()()けてやりなさい。そうすれば、あなたについて、うわさされていることは、()()もないことで、あなたは律法(りっぽう)(まも)って、(ただ)しい生活(せいかつ)をしていることが、みんなにわかるであろう。 25異邦人(いほうじん)信者(しんじゃ)になった(ひと)たちには、すでに手紙(てがみ)で、偶像(ぐうぞう)(そな)えたものと、()と、()(ころ)したものと、不品行(ふひんこう)とを、(つつし)むようにとの決議(けつぎ)が、わたしたちから()らせてある」。 26そこでパウロは、その(つぎ)()に四(にん)(もの)()れて、(かれ)らと(とも)にきよめを()けてから(みや)にはいった。そしてきよめの期間(きかん)(おわ)って、ひとりびとりのために(そな)(もの)をささげる(とき)報告(ほうこく)しておいた。
27七日(なぬか)期間(きかん)(おわ)ろうとしていた(とき)、アジヤからきたユダヤ(じん)たちが、(みや)(うち)でパウロを()かけて、群衆(ぐんしゅう)全体(ぜんたい)煽動(せんどう)しはじめ、パウロに()をかけて(さけ)()てた、 28「イスラエルの人々(ひとびと)よ、加勢(かせい)にきてくれ。この(ひと)は、いたるところで(たみ)律法(りっぽう)とこの場所(ばしょ)にそむくことを、みんなに(おし)えている。その(うえ)に、ギリシヤ(じん)(みや)(うち)()()んで、この神聖(しんせい)場所(ばしょ)(けが)したのだ」。 29(かれ)らは、(まえ)にエペソ(びと)トロピモが、パウロと一緒(いっしょ)(まち)(ある)いていたのを()かけて、その(ひと)をパウロが(みや)(うち)()()んだのだと(おも)ったのである。 30そこで、()全体(ぜんたい)(さわ)()し、民衆(みんしゅう)()(あつ)まってきて、パウロを(とら)え、(みや)(そと)()きずり()した。そして、すぐそのあとに(みや)(もん)()ざされた。 31(かれ)らがパウロを(ころ)そうとしていた(とき)に、エルサレム全体(ぜんたい)混乱(こんらん)状態(じょうたい)(おちい)っているとの情報(じょうほう)が、守備(しゅび)(たい)千卒長(せんそつちょう)にとどいた。 32そこで、(かれ)はさっそく、兵卒(へいそつ)百卒長(ひゃくそつちょう)たちを(ひき)いて、その()()けつけた。人々(ひとびと)千卒長(せんそつちょう)兵卒(へいそつ)たちを()て、パウロを()ちたたくのをやめた。 33千卒長(せんそつちょう)近寄(ちかよ)ってきてパウロを(とら)え、(かれ)二重(にじゅう)(くさり)(しば)っておくように(めい)じた(うえ)、パウロは何者(なにもの)か、また(なに)をしたのか、と(たず)ねた。 34しかし、群衆(ぐんしゅう)がそれぞれ(ちが)ったことを(さけ)びつづけるため、(さわ)がしくて、(たし)かなことがわからないので、(かれ)はパウロを兵営(へいえい)()れて()くように(めい)じた。 35パウロが階段(かいだん)にさしかかった(とき)には、群衆(ぐんしゅう)暴行(ぼうこう)()けるため、兵卒(へいそつ)たちにかつがれて()くという始末(しまつ)であった。 36(おお)ぜいの民衆(みんしゅう)が「あれをやっつけてしまえ」と(さけ)びながら、ついてきたからである。
37パウロが兵営(へいえい)(なか)()れて()かれようとした(とき)千卒長(せんそつちょう)に、「ひと(こと)あなたにお(はな)してもよろしいですか」と(たず)ねると、千卒長(せんそつちょう)()った、「おまえはギリシヤ()(はな)せるのか。 38では、もしかおまえは、(さき)ごろ反乱(はんらん)(おこ)した(のち)、四千(にん)刺客(しかく)()()れて荒野(あらの)()げて()ったあのエジプト(じん)ではないのか」。 39パウロは(こた)えた、「わたしはタルソ(うま)れのユダヤ(じん)で、キリキヤのれっきとした都市(とし)市民(しみん)です。お(ねが)いですが、民衆(みんしゅう)(はなし)をさせて(くだ)さい」。 40千卒長(せんそつちょう)(ゆる)してくれたので、パウロは階段(かいだん)(うえ)()ち、民衆(みんしゅう)にむかって()()った。すると、一同(いちどう)がすっかり静粛(せいしゅく)になったので、パウロはヘブル()(はな)()した。

第二十二章

1兄弟(きょうだい)たち、(ちち)たちよ、いま(もう)()げるわたしの弁明(べんめい)()いていただきたい」。 2パウロが、ヘブル()でこう(かた)りかけるのを()いて、人々(ひとびと)はますます静粛(せいしゅく)になった。 3そこで(かれ)言葉(ことば)をついで()った、「わたしはキリキヤのタルソで(うま)れたユダヤ(じん)であるが、この(みやこ)(そだ)てられ、ガマリエルのひざもとで先祖(せんぞ)伝来(でんらい)律法(りっぽう)について、きびしい薫陶(くんとう)()け、今日(きょう)(みな)さんと(おな)じく(かみ)(たい)して熱心(ねっしん)(もの)であった。 4そして、この(みち)迫害(はくがい)し、(おとこ)であれ(おんな)であれ、(しば)りあげて(ごく)(とう)じ、(かれ)らを()(いた)らせた。 5このことは、大祭司(だいさいし)長老(ちょうろう)たち一同(いちどう)も、証明(しょうめい)するところである。さらにわたしは、この(ひと)たちからダマスコの同志(どうし)たちへあてた手紙(てがみ)をもらって、その()にいる(もの)たちを(しば)りあげ、エルサレムにひっぱってきて、処罰(しょばつ)するため、()かけて()った。
6(たび)をつづけてダマスコの(ちか)くにきた(とき)に、真昼(まひる)ごろ、突然(とつぜん)、つよい(ひかり)(てん)からわたしをめぐり(てら)した。 7わたしは()(たお)れた。そして、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害(はくがい)するのか』と、()びかける(こえ)()いた。 8これに(たい)してわたしは、『(しゅ)よ、あなたはどなたですか』と()った。すると、その(こえ)が、『わたしは、あなたが迫害(はくがい)しているナザレ(びと)イエスである』と(こた)えた。 9わたしと一緒(いっしょ)にいた(もの)たちは、その(ひかり)()たが、わたしに(かた)りかけたかたの(こえ)()かなかった。 10わたしが『(しゅ)よ、わたしは(なに)をしたらよいでしょうか』と(たず)ねたところ、(しゅ)()われた、『()きあがってダマスコに()きなさい。そうすれば、あなたがするように()めてある(こと)が、すべてそこで()げられるであろう』。 11わたしは、(ひかり)(かがや)きで()がくらみ、(なに)()えなくなっていたので、()れの(もの)たちに()()かれながら、ダマスコに()った。
12すると、律法(りっぽう)忠実(ちゅうじつ)で、ダマスコ在住(ざいじゅう)のユダヤ(じん)全体(ぜんたい)評判(ひょうばん)のよいアナニヤという(ひと)が、 13わたしのところにきて、そばに()ち、『兄弟(きょうだい)サウロよ、()えるようになりなさい』と()った。するとその瞬間(しゅんかん)に、わたしの()(ひら)いて、(かれ)姿(すがた)()えた。 14(かれ)()った、『わたしたちの先祖(せんぞ)(かみ)が、あなたを(えら)んでみ(むね)()らせ、かの義人(ぎじん)()させ、その(くち)から(こえ)をお()かせになった。 15それはあなたが、その見聞(みき)きした(こと)につき、すべての(ひと)(たい)して、(かれ)証人(しょうにん)になるためである。 16そこで(いま)、なんのためらうことがあろうか。すぐ()って、み()をとなえてバプテスマを()け、あなたの(つみ)(あら)(おと)しなさい』。
17それからわたしは、エルサレムに(かえ)って(みや)(いの)っているうちに、(ゆめ)うつつになり、 18(しゅ)にまみえたが、(しゅ)()われた、『(いそ)いで、すぐにエルサレムを()()きなさい。わたしについてのあなたのあかしを、人々(ひとびと)()けいれないから』。 19そこで、わたしが()った、『(しゅ)よ、(かれ)らは、わたしがいたるところの会堂(かいどう)で、あなたを(しん)じる人々(ひとびと)(ごく)(とう)じたり、むち()ったりしていたことを、()っています。 20また、あなたの証人(しょうにん)ステパノの()(なが)された(とき)も、わたしは()()っていてそれに賛成(さんせい)し、また(かれ)(ころ)した(ひと)たちの上着(うわぎ)(ばん)をしていたのです』。 21すると、(しゅ)がわたしに()われた、『()きなさい。わたしが、あなたを(とお)異邦(いほう)(たみ)へつかわすのだ』」。
22(かれ)言葉(ことば)をここまで()いていた人々(ひとびと)は、このとき、(こえ)()りあげて()った、「こんな(おとこ)地上(ちじょう)から()(のぞ)いてしまえ。()かしおくべきではない」。 23人々(ひとびと)がこうわめき()てて、空中(くうちゅう)上着(うわぎ)()げ、ちりをまき()らす始末(しまつ)であったので、 24千卒長(せんそつちょう)はパウロを兵営(へいえい)()()れるように(めい)じ、どういうわけで、(かれ)(たい)してこんなにわめき()てているのかを(たし)かめるため、(かれ)をむちの拷問(ごうもん)にかけて、()調(しら)べるように()いわたした。 25(かれ)らがむちを()てるため、(かれ)(しば)りつけていた(とき)、パウロはそばに()っている百卒長(ひゃくそつちょう)()った、「ローマの市民(しみん)たる(もの)を、裁判(さいばん)にかけもしないで、むち()ってよいのか」。 26百卒長(ひゃくそつちょう)はこれを()き、千卒長(せんそつちょう)のところに()って報告(ほうこく)し、そして()った、「どうなさいますか。あの(ひと)はローマの市民(しみん)なのです」。 27そこで、千卒長(せんそつちょう)がパウロのところにきて()った、「わたしに()ってくれ。あなたはローマの市民(しみん)なのか」。パウロは「そうです」と()った。 28これに(たい)して千卒長(せんそつちょう)()った、「わたしはこの市民(しみん)(けん)を、多額(たがく)(かね)()()ったのだ」。するとパウロは()った、「わたしは(うま)れながらの市民(しみん)です」。 29そこで、パウロを()調(しら)べようとしていた(ひと)たちは、ただちに(かれ)から()()いた。千卒長(せんそつちょう)も、パウロがローマの市民(しみん)であること、また、そういう(ひと)(しば)っていたことがわかって、(おそ)れた。
30翌日(よくじつ)(かれ)は、ユダヤ(じん)がなぜパウロを(うった)()たのか、その真相(しんそう)()ろうと(おも)って(かれ)()いてやり、同時(どうじ)祭司長(さいしちょう)たちと(ぜん)議会(ぎかい)とを召集(しょうしゅう)させ、そこに(かれ)()()して、(かれ)らの(まえ)()たせた。

第二十三章

1パウロは議会(ぎかい)()つめて()った、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしは今日(きょう)まで、(かみ)(まえ)に、ひたすら(あき)らかな良心(りょうしん)にしたがって行動(こうどう)してきた」。 2すると、大祭司(だいさいし)アナニヤが、パウロのそばに()っている(もの)たちに、(かれ)(くち)()てと(めい)じた。 3そのとき、パウロはアナニヤにむかって()った、「(しろ)()られた(かべ)よ、(かみ)があなたを()つであろう。あなたは、律法(りっぽう)にしたがって、わたしをさばくために()についているのに、律法(りっぽう)にそむいて、わたしを()つことを(めい)じるのか」。 4すると、そばに()っている(もの)たちが()った、「(かみ)大祭司(だいさいし)(たい)して無礼(ぶれい)なことを()うのか」。 5パウロは()った、「兄弟(きょうだい)たちよ、(かれ)大祭司(だいさいし)だとは()らなかった。聖書(せいしょ)に『(たみ)のかしらを(わる)()ってはいけない』と、()いてあるのだった」。
6パウロは、議員(ぎいん)一部(いちぶ)がサドカイ(びと)であり、一部(いちぶ)はパリサイ(びと)であるのを()て、議会(ぎかい)(なか)(こえ)(たか)めて()った、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしはパリサイ(びと)であり、パリサイ(びと)()である。わたしは、死人(しにん)復活(ふっかつ)(のぞ)みをいだいていることで、裁判(さいばん)()けているのである」。 7(かれ)がこう()ったところ、パリサイ(びと)とサドカイ(びと)との(あいだ)争論(そうろん)(しょう)じ、会衆(かいしゅう)(あい)(わか)れた。 8元来(がんらい)、サドカイ(びと)は、復活(ふっかつ)とか天使(てんし)とか(れい)とかは、いっさい存在(そんざい)しないと()い、パリサイ(びと)は、それらは、みな存在(そんざい)すると主張(しゅちょう)している。 9そこで、大騒(おおさわ)ぎとなった。パリサイ()のある律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが()って、(つよ)主張(しゅちょう)して()った、「われわれは、この(ひと)には(なに)(わる)いことがないと(おも)う。あるいは、(れい)天使(てんし)かが、(かれ)()げたのかも()れない」。 10こうして、争論(そうろん)(はげ)しくなったので、千卒長(せんそつちょう)は、パウロが(かれ)らに()()かれるのを()づかって、兵卒(へいそつ)どもに、()りて()ってパウロを(かれ)らの(なか)から(ちから)づくで()()し、兵営(へいえい)()れて()るように、(めい)じた。
11その()(しゅ)がパウロに(のぞ)んで()われた、「しっかりせよ。あなたは、エルサレムでわたしのことをあかししたように、ローマでもあかしをしなくてはならない」。
12()()けると、ユダヤ(じん)らは(もう)()わせをして、パウロを(ころ)すまでは飲食(いんしょく)をいっさい()つと、(ちか)()った。 13この陰謀(いんぼう)(くわ)わった(もの)は、四十(にん)あまりであった。 14(かれ)らは、祭司長(さいしちょう)たちや長老(ちょうろう)たちのところに()って、こう()った。「われわれは、パウロを(ころ)すまでは(なに)()べないと、(かた)(ちか)()いました。 15ついては、あなたがたは議会(ぎかい)()んで、(かれ)のことでなお(くわ)しく取調(とりしら)べをするように()せかけ、パウロをあなたがたのところに()()すように、千卒長(せんそつちょう)(たの)んで(くだ)さい。われわれとしては、パウロがそこにこないうちに(ころ)してしまう()はずをしています」。
16ところが、パウロの姉妹(しまい)()が、この待伏(まちぶ)せのことを(みみ)にし、兵営(へいえい)にはいって()って、パウロにそれを()らせた。 17そこでパウロは、百卒長(ひゃくそつちょう)のひとりを()んで()った、「この若者(わかもの)千卒長(せんそつちょう)のところに()れて()ってください。(なに)報告(ほうこく)することがあるようですから」。 18この百卒長(ひゃくそつちょう)若者(わかもの)()れて()き、千卒長(せんそつちょう)()きあわせて()った、「囚人(しゅうじん)のパウロが、この若者(わかもの)があなたに(はな)したいことがあるので、あなたのところに()れて()ってくれるようにと、わたしを()んで(たの)みました」。 19そこで千卒長(せんそつちょう)は、若者(わかもの)()()り、(ひと)のいないところへ()れて()って(たず)ねた、「わたしに(はな)したいことというのは、(なに)か」。 20若者(わかもの)()った、「ユダヤ(じん)たちが、パウロのことをもっと(くわ)しく取調(とりしら)べをすると()せかけて、あす議会(ぎかい)(かれ)()()すように、あなたに(たの)むことに()めています。 21どうぞ、(かれ)らの(たの)みを()()げないで(くだ)さい。四十(にん)あまりの(もの)が、パウロを待伏(まちぶ)せしているのです。(かれ)らは、パウロを(ころ)すまでは飲食(いんしょく)をいっさい()つと、(かた)(ちか)()っています。そして、いま()はずをととのえて、あなたの許可(きょか)()っているところなのです」。 22そこで千卒長(せんそつちょう)は、「このことをわたしに()らせたことは、だれにも口外(こうがい)するな」と(めい)じて、若者(わかもの)(かえ)した。
23それから(かれ)は、百卒長(ひゃくそつちょう)ふたりを()んで()った、「歩兵(ほへい)二百(めい)騎兵(きへい)七十(めい)(そう)(へい)二百(めい)を、カイザリヤに()出発(しゅっぱつ)できるように、今夜(こんや)()までに用意(ようい)せよ。 24また、パウロを()せるために(うま)用意(ようい)して、(かれ)総督(そうとく)ペリクスのもとへ無事(ぶじ)()れて()け」。 25さらに(かれ)は、(つぎ)のような文面(ぶんめん)手紙(てがみ)()いた。 26「クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督(そうとく)ペリクス閣下(かっか)平安(へいあん)(いの)ります。 27本人(ほんにん)のパウロが、ユダヤ(じん)らに(とら)えられ、まさに(ころ)されようとしていたのを、(かれ)のローマ市民(しみん)であることを()ったので、わたしは兵卒(へいそつ)たちを(ひき)いて()って、(かれ)(すく)()しました。 28それから、(かれ)(うった)えられた理由(りゆう)()ろうと(おも)い、(かれ)議会(ぎかい)()れて()きました。 29ところが、(かれ)はユダヤ(じん)律法(りっぽう)問題(もんだい)(うった)えられたものであり、なんら死刑(しけい)または投獄(とうごく)(あた)(つみ)のないことがわかりました。 30しかし、この(ひと)(たい)して陰謀(いんぼう)がめぐらされているとの報告(ほうこく)がありましたので、わたしは()りあえず、(かれ)閣下(かっか)のもとにお(おく)りすることにし、(うった)える(もの)たちには、閣下(かっか)(まえ)で、(かれ)(たい)する(もうし)()てをするようにと、(めい)じておきました」。
31そこで歩兵(ほへい)たちは、(めい)じられたとおりパウロを()()って、(よる)(あいだ)にアンテパトリスまで()れて()き、 32翌日(よくじつ)は、騎兵(きへい)たちにパウロを護送(ごそう)させることにして、兵営(へいえい)(かえ)って()った。 33騎兵(きへい)たちは、カイザリヤに()くと、手紙(てがみ)総督(そうとく)手渡(てわた)し、さらにパウロを(かれ)()きあわせた。 34総督(そうとく)手紙(てがみ)()んでから、パウロに、どの(しゅう)(もの)かと(たず)ね、キリキヤの()だと()って、 35(うった)(ひと)たちがきた(とき)に、おまえを調(しら)べることにする」と()った。そして、ヘロデの官邸(かんてい)(かれ)(まも)っておくように(めい)じた。

第二十四章

1()(のち)大祭司(だいさいし)アナニヤは、長老(ちょうろう)数名(すうめい)と、テルトロという弁護人(べんごにん)とを()れて(くだ)り、総督(そうとく)にパウロを(うった)()た。 2パウロが()()されたので、テルトロは論告(ろんこく)(はじ)めた。
「ペリクス閣下(かっか)、わたしたちが、閣下(かっか)のお(かげ)でじゅうぶんに平和(へいわ)(たの)しみ、またこの(くに)が、ご配慮(はいりょ)によって、 3あらゆる方面(ほうめん)に、またいたるところで改善(かいぜん)されていることは、わたしたちの感謝(かんしゃ)してやまないところであります。 4しかし、ご迷惑(めいわく)をかけないように、くどくどと()べずに、手短(てみじか)かに(もう)()げますから、どうぞ、(しの)んでお()()りのほど、お(ねが)いいたします。 5さて、この(おとこ)は、疫病(えきびょう)のような人間(にんげん)で、世界中(せかいじゅう)のすべてのユダヤ(じん)(なか)(さわ)ぎを(おこ)している(もの)であり、また、ナザレ(びと)らの異端(いたん)のかしらであります。 6この(もの)(みや)までも(けが)そうとしていたので、わたしたちは(かれ)捕縛(ほばく)したのです。〔そして、律法(りっぽう)にしたがって、さばこうとしていたところ、 7千卒長(せんそつちょう)ルシヤが干渉(かんしょう)して、(かれ)無理(むり)にわたしたちの()から()(はな)してしまい、 8(かれ)(うった)えた(ひと)たちには、閣下(かっか)のところに()るようにと(めい)じました。〕それで、閣下(かっか)自身(じしん)でお調(しら)べになれば、わたしたちが(かれ)(うった)()理由(りゆう)が、全部(ぜんぶ)おわかりになるでしょう」。 9ユダヤ(じん)たちも、この(うった)えに同調(どうちょう)して、(まった)くそのとおりだと()った。 10そこで、総督(そうとく)合図(あいず)をして発言(はつげん)(うなが)したので、パウロは答弁(とうべん)して()った。
閣下(かっか)が、多年(たねん)にわたり、この国民(こくみん)裁判(さいばん)をつかさどっておられることを、よく承知(しょうち)していますので、わたしは(よろこ)んで、自分(じぶん)のことを弁明(べんめい)いたします。 11調(しら)べになればわかるはずですが、わたしが礼拝(れいはい)をしにエルサレムに(のぼ)ってから、まだ十二(にち)そこそこにしかなりません。 12そして、(みや)(うち)でも、会堂(かいどう)(うち)でも、あるいは市内(しない)でも、わたしがだれかと争論(そうろん)したり、群衆(ぐんしゅう)煽動(せんどう)したりするのを()たものはありませんし、 13(いま)わたしを(うった)()ていることについて、閣下(かっか)(まえ)に、その証拠(しょうこ)をあげうるものはありません。 14ただ、わたしはこの(こと)(みと)めます。わたしは、(かれ)らが異端(いたん)だとしている(みち)にしたがって、わたしたちの先祖(せんぞ)(かみ)(つか)え、律法(りっぽう)(おし)えるところ、また預言者(よげんしゃ)(しょ)()いてあることを、ことごとく(しん)じ、 15また、(ただ)しい(もの)(ただ)しくない(もの)も、やがてよみがえるとの希望(きぼう)を、(かみ)(あお)いでいだいているものです。この希望(きぼう)は、(かれ)自身(じしん)()っているのです。 16わたしはまた、(かみ)(たい)しまた(ひと)(たい)して、良心(りょうしん)()められることのないように、(つね)(つと)めています。 17さてわたしは、幾年(いくねん)ぶりかに(かえ)ってきて、同胞(どうほう)(ほどこ)しをし、また、(そな)(もの)をしていました。 18そのとき、(かれ)らはわたしが(みや)できよめを(おこな)っているのを()ただけであって、群衆(ぐんしゅう)もいず、騒動(そうどう)もなかったのです。 19ところが、アジヤからきた数人(すうにん)のユダヤ(じん)が——(かれ)らが、わたしに(たい)して、(なに)かとがめ()てをすることがあったなら、よろしく閣下(かっか)(まえ)にきて、(うった)えるべきでした。 20あるいは、(なに)かわたしに不正(ふせい)なことがあったなら、わたしが議会(ぎかい)(まえ)()っていた(とき)(かれ)らみずから、それを指摘(してき)すべきでした。 21ただ、わたしは、(かれ)らの(なか)()って、『わたしは、死人(しにん)のよみがえりのことで、きょう、あなたがたの(まえ)でさばきを()けているのだ』と(さけ)んだだけのことです」。
22ここでペリクスは、この(みち)のことを相当(そうとう)わきまえていたので、「千卒長(せんそつちょう)ルシヤが(くだ)って()るのを()って、おまえたちの事件(じけん)判決(はんけつ)することにする」と()って、裁判(さいばん)延期(えんき)した。 23そして百卒長(ひゃくそつちょう)に、パウロを監禁(かんきん)するように、しかし(かれ)寛大(かんだい)()(あつか)い、友人(ゆうじん)らが世話(せわ)をするのを()めないようにと、(めい)じた。
24数日(すうじつ)たってから、ペリクスは、ユダヤ(じん)である(つま)ドルシラと一緒(いっしょ)にきて、パウロを()()し、キリスト・イエスに(たい)する信仰(しんこう)のことを、(かれ)から()いた。 25そこで、パウロが、正義(せいぎ)節制(せっせい)未来(みらい)審判(しんぱん)などについて(ろん)じていると、ペリクスは不安(ふあん)(かん)じてきて、()った、「きょうはこれで(かえ)るがよい。また、よい機会(きかい)()たら、()()すことにする」。 26(かれ)は、それと同時(どうじ)に、パウロから(かね)をもらいたい(した)ごころがあったので、たびたびパウロを()()しては(かた)()った。
27さて、二か(ねん)たった(とき)、ポルキオ・フェストが、ペリクスと交代(こうたい)して(にん)についた。ペリクスは、ユダヤ(じん)歓心(かんしん)()おうと(おも)って、パウロを監禁(かんきん)したままにしておいた。

第二十五章

1さて、フェストは、任地(にんち)()いてから三()(のち)、カイザリヤからエルサレムに(のぼ)ったところ、 2祭司長(さいしちょう)たちやユダヤ(じん)重立(おもだ)った(もの)たちが、パウロを(うった)()て、 3(かれ)をエルサレムに()()すよう()(はか)らっていただきたいと、しきりに(ねが)った。(かれ)らは途中(とちゅう)()()せして、(かれ)(ころ)(かんが)えであった。 4ところがフェストは、パウロがカイザリヤに監禁(かんきん)してあり、自分(じぶん)もすぐそこへ(かえ)ることになっていると(こた)え、 5そして()った、「では、もしあの(おとこ)(なに)不都合(ふつごう)なことがあるなら、おまえたちのうちの有力(ゆうりょく)(しゃ)らが、わたしと一緒(いっしょ)(くだ)って()って、(うった)えるがよかろう」。
6フェストは、(かれ)らのあいだに八()か十()ほど滞在(たいざい)した(のち)、カイザリヤに(くだ)って()き、その翌日(よくじつ)裁判(さいばん)(せき)について、パウロを()()すように(めい)じた。 7パウロが姿(すがた)をあらわすと、エルサレムから(くだ)ってきたユダヤ(じん)たちが、(かれ)()りかこみ、(かれ)(たい)してさまざまの(おも)罪状(ざいじょう)(もう)()てたが、いずれもその証拠(しょうこ)をあげることはできなかった。 8パウロは「わたしは、ユダヤ(じん)律法(りっぽう)(たい)しても、(みや)(たい)しても、またカイザルに(たい)しても、なんら(つみ)(おか)したことはない」と弁明(べんめい)した。 9ところが、フェストはユダヤ(じん)歓心(かんしん)()おうと(おも)って、パウロにむかって()った、「おまえはエルサレムに(のぼ)り、この事件(じけん)(かん)し、わたしからそこで裁判(さいばん)()けることを承知(しょうち)するか」。 10パウロは()った、「わたしは(いま)、カイザルの法廷(ほうてい)()っています。わたしはこの法廷(ほうてい)裁判(さいばん)されるべきです。よくご承知(しょうち)のとおり、わたしはユダヤ(じん)たちに、(なに)(わる)いことをしてはいません。 11もしわたしが(わる)いことをし、()(あた)るようなことをしているのなら、()(まぬか)れようとはしません。しかし、もし(かれ)らの(うった)えることに、なんの根拠(こんきょ)もないとすれば、だれもわたしを(かれ)らに()(わた)権利(けんり)はありません。わたしはカイザルに上訴(じょうそ)します」。 12そこでフェストは、陪席(ばいせき)(もの)たちと協議(きょうぎ)したうえ(こた)えた、「おまえはカイザルに上訴(じょうそ)(もう)()た。カイザルのところに()くがよい」。
13数日(すうじつ)たった(のち)、アグリッパ(おう)とベルニケとが、フェストに敬意(けいい)(ひょう)するため、カイザリヤにきた。 14ふたりは、そこに(なに)日間(にちかん)滞在(たいざい)していたので、フェストは、パウロのことを(おう)(はな)して()った、「ここに、ペリクスが囚人(しゅうじん)として(のこ)して()ったひとりの(おとこ)がいる。 15わたしがエルサレムに()った(とき)、この(おとこ)のことを、祭司長(さいしちょう)たちやユダヤ(じん)長老(ちょうろう)たちが、わたしに報告(ほうこく)し、(かれ)(つみ)(さだ)めるようにと要求(ようきゅう)した。 16そこでわたしは、(かれ)らに(こた)えた、『(うった)えられた(もの)が、(うった)えた(もの)(まえ)()って、告訴(こくそ)(たい)弁明(べんめい)する機会(きかい)(あた)えられない(まえ)に、その(ひと)見放(みはな)してしまうのは、ローマ(じん)慣例(かんれい)にはないことである』。 17それで、(かれ)らがここに(あつ)まってきた(とき)、わたしは(とき)をうつさず、(つぎ)()裁判(さいばん)(せき)について、その(おとこ)()()させた。 18(うった)えた(もの)たちは()()がったが、わたしが推測(すいそく)していたような悪事(あくじ)は、(かれ)について何一(なにひと)(もう)()てはしなかった。 19ただ、(かれ)(あらそ)()っているのは、(かれ)自身(じしん)宗教(しゅうきょう)(かん)し、また、()んでしまったのに()きているとパウロが主張(しゅちょう)しているイエスなる(もの)(かん)する問題(もんだい)()ぎない。 20これらの問題(もんだい)を、どう()(あつか)ってよいかわからなかったので、わたしは(かれ)に、『エルサレムに()って、これらの問題(もんだい)について、そこでさばいてもらいたくはないか』と(たず)ねてみた。 21ところがパウロは、皇帝(こうてい)判決(はんけつ)()ける(とき)まで、このまま自分(じぶん)をとどめておいてほしいと()うので、カイザルに(かれ)(おく)りとどける(とき)までとどめておくようにと、(めい)じておいた」。 22そこで、アグリッパがフェストに「わたしも、その(ひと)()(ぶん)()いて()たい」と()ったので、フェストは、「では、あす(かれ)から()きとるようにしてあげよう」と(こた)えた。
23翌日(よくじつ)、アグリッパとベルニケとは、(おお)いに威儀(いぎ)をととのえて、千卒長(せんそつちょう)たちや()重立(おもだ)った(ひと)たちと(とも)に、引見所(いんけんじょ)にはいってきた。すると、フェストの(めい)によって、パウロがそこに()()された。 24そこで、フェストが()った、「アグリッパ(おう)、ならびにご臨席(りんせき)諸君(しょくん)。ごらんになっているこの人物(じんぶつ)は、ユダヤ(じん)たちがこぞって、エルサレムにおいても、また、この()においても、これ以上(いじょう)()かしておくべきでないと(さけ)んで、わたしに(うった)()ている(もの)である。 25しかし、(かれ)()(あた)ることは(なに)もしていないと、わたしは()ているのだが、(かれ)自身(じしん)皇帝(こうてい)上訴(じょうそ)すると()()したので、(かれ)をそちらへ(おく)ることに()めた。 26ところが、(かれ)について、主君(しゅくん)()きおくる(たし)かなものが(なに)もないので、わたしは、(かれ)諸君(しょくん)(まえ)に、(とく)に、アグリッパ(おう)よ、あなたの(まえ)()()して、取調(とりしら)べをしたのち、上書(じょうしょ)すべき材料(ざいりょう)()ようと(おも)う。 27囚人(しゅうじん)(おく)るのに、その告訴(こくそ)理由(りゆう)(しめ)さないということは、不合理(ふごうり)だと(おも)えるからである」。

第二十六章

1アグリッパはパウロに、「おまえ自身(じしん)のことを(はな)してもよい」と()った。そこでパウロは、()をさし()べて、弁明(べんめい)をし(はじ)めた。
2「アグリッパ(おう)よ、ユダヤ(じん)たちから(うった)えられているすべての(こと)(かん)して、きょう、あなたの(まえ)弁明(べんめい)することになったのは、わたしのしあわせに(おも)うところであります。 3あなたは、ユダヤ(じん)のあらゆる慣例(かんれい)問題(もんだい)を、よく()()いておられるかたですから、わたしの(もう)すことを、寛大(かんだい)なお(こころ)()いていただきたいのです。
4さて、わたしは(わか)時代(じだい)には、(はじ)めから()国民(こくみん)(なか)で、またエルサレムで()ごしたのですが、そのころのわたしの生活(せいかつ)ぶりは、ユダヤ(じん)がみんなよく()っているところです。 5(かれ)らはわたしを(はじ)めから()っているので、証言(しょうげん)しようと(おも)えばできるのですが、わたしは、わたしたちの宗教(しゅうきょう)(もっと)厳格(げんかく)()にしたがって、パリサイ(びと)としての生活(せいかつ)をしていたのです。 6(いま)わたしは、(かみ)がわたしたちの先祖(せんぞ)約束(やくそく)なさった希望(きぼう)をいだいているために、裁判(さいばん)()けているのであります。 7わたしたちの十二の部族(ぶぞく)は、夜昼(よるひる)熱心(ねっしん)(かみ)(つか)えて、その約束(やくそく)()ようと(のぞ)んでいるのです。(おう)よ、この希望(きぼう)のために、わたしはユダヤ(じん)から(うった)えられています。 8(かみ)死人(しにん)をよみがえらせるということが、あなたがたには、どうして(しん)じられないことと(おも)えるのでしょうか。
9わたし自身(じしん)も、以前(いぜん)には、ナザレ(びと)イエスの()(さか)らって反対(はんたい)行動(こうどう)をすべきだと、(おも)っていました。 10そしてわたしは、それをエルサレムで敢行(かんこう)し、祭司長(さいしちょう)たちから権限(けんげん)(あた)えられて、(おお)くの聖徒(せいと)たちを(ごく)()()め、(かれ)らが(ころ)される(とき)には、それに賛成(さんせい)()(あらわ)しました。 11それから、いたるところの会堂(かいどう)で、しばしば(かれ)らを(ばっ)して、無理(むり)やりに(かみ)をけがす言葉(ことば)()わせようとし、(かれ)らに(たい)してひどく()(くる)い、ついに外国(がいこく)町々(まちまち)にまで、迫害(はくがい)()をのばすに(いた)りました。
12こうして、わたしは、祭司長(さいしちょう)たちから権限(けんげん)委任(いにん)とを()けて、ダマスコに()ったのですが、 13(おう)よ、その途中(とちゅう)真昼(まひる)に、(ひかり)(てん)からさして()るのを()ました。それは、太陽(たいよう)よりも、もっと(ひか)(かがや)いて、わたしと同行者(どうこうしゃ)たちとをめぐり(てら)しました。 14わたしたちはみな()(たお)れましたが、その(とき)ヘブル()でわたしにこう()びかける(こえ)()きました、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害(はくがい)するのか。とげのあるむちをければ、(きず)()うだけである』。 15そこで、わたしが『(しゅ)よ、あなたはどなたですか』と(たず)ねると、(しゅ)()われた、『わたしは、あなたが迫害(はくがい)しているイエスである。 16さあ、()きあがって、自分(じぶん)(あし)()ちなさい。わたしがあなたに(あらわ)れたのは、あなたがわたしに()った(こと)と、あなたに(あらわ)れて(しめ)そうとしている(こと)とをあかしし、これを(つた)える(つとめ)に、あなたを(にん)じるためである。 17わたしは、この国民(こくみん)異邦人(いほうじん)との(なか)から、あなたを(すく)()し、あらためてあなたを(かれ)らにつかわすが、 18それは、(かれ)らの()(ひら)き、(かれ)らをやみから(ひかり)へ、悪魔(あくま)支配(しはい)から(かみ)のみもとへ(かえ)らせ、また、(かれ)らが(つみ)のゆるしを()、わたしを(しん)じる信仰(しんこう)によって、(せい)(べつ)された人々(ひとびと)(くわ)わるためである』。
19それですから、アグリッパ(おう)よ、わたしは(てん)よりの啓示(けいじ)にそむかず、 20まず(はじ)めにダマスコにいる人々(ひとびと)に、それからエルサレムにいる人々(ひとびと)、さらにユダヤ全土(ぜんど)、ならびに異邦人(いほうじん)たちに、()(あらた)めて(かみ)()(かえ)り、悔改(くいあらた)めにふさわしいわざを(おこな)うようにと、()(すす)めました。 21そのために、ユダヤ(じん)は、わたしを(みや)()(とら)えて(ころ)そうとしたのです。 22しかし、わたしは今日(こんにち)(いた)るまで(かみ)加護(かご)()け、このように()って、(ちい)さい(もの)にも(おお)きい(もの)にもあかしをなし、預言者(よげんしゃ)たちやモーセが、今後(こんご)(おこ)るべきだと(かた)ったことを、そのまま()べてきました。 23すなわち、キリストが苦難(くなん)()けること、また、死人(しにん)(なか)から最初(さいしょ)によみがえって、この国民(こくみん)異邦人(いほうじん)とに、(ひかり)()(つた)えるに(いた)ることを、あかししたのです」。 24パウロがこのように弁明(べんめい)をしていると、フェストは大声(おおごえ)()った、「パウロよ、おまえは()(くる)っている。博学(はくがく)が、おまえを(くる)わせている」。 25パウロが()った、「フェスト閣下(かっか)よ、わたしは()(くる)ってはいません。わたしは、まじめな真実(しんじつ)言葉(ことば)(かた)っているだけです。 26(おう)はこれらのことをよく()っておられるので、(おう)(たい)しても、率直(そっちょく)(もう)()げているのです。それは、(かた)すみで(おこな)われたのではないのですから、一つとして、(おう)()のがされたことはないと(しん)じます。 27アグリッパ(おう)よ、あなたは預言者(よげんしゃ)(しん)じますか。(しん)じておられると(おも)います」。 28アグリッパがパウロに()った、「おまえは(すこ)()いただけで、わたしをクリスチャンにしようとしている」。 29パウロが()った、「()くことが(すこ)しであろうと、(おお)くであろうと、わたしが(かみ)(いの)るのは、ただあなただけでなく、きょう、わたしの言葉(ことば)()いた(ひと)もみな、わたしのようになって(くだ)さることです。このような(くさり)(べつ)ですが」。
30それから、(おう)総督(そうとく)もベルニケも、また列席(れっせき)人々(ひとびと)も、みな()ちあがった。 31退場(たいじょう)してから、(たがい)(かた)()って()った、「あの(ひと)は、()投獄(とうごく)(あた)るようなことをしてはいない」。 32そして、アグリッパがフェストに()った、「あの(ひと)は、カイザルに上訴(じょうそ)していなかったら、ゆるされたであろうに」。

第二十七章

1さて、わたしたちが、(ふね)でイタリヤに()くことが()まった(とき)、パウロとそのほか数人(すうにん)囚人(しゅうじん)とは、近衛(このえ)(たい)百卒長(ひゃくそつちょう)ユリアスに(たく)された。 2そしてわたしたちは、アジヤ沿岸(えんがん)各所(かくしょ)寄港(きこう)することになっているアドラミテオの(ふね)()()んで、出帆(しゅっぱん)した。テサロニケのマケドニヤ(びと)アリスタルコも同行(どうこう)した。 3(つぎ)()、シドンに入港(にゅうこう)したが、ユリアスは、パウロを親切(しんせつ)()(あつか)い、友人(ゆうじん)をおとずれてかんたいを()けることを、(ゆる)した。 4それからわたしたちは、ここから船出(ふなで)したが、逆風(ぎゃくふう)にあったので、クプロの(しま)かげを航行(こうこう)し、 5キリキヤとパンフリヤの(おき)()ぎて、ルキヤのミラに入港(にゅうこう)した。 6そこに、イタリヤ()きのアレキサンドリヤの(ふね)があったので、百卒長(ひゃくそつちょう)は、わたしたちをその(ふね)()()ませた。 7幾日(いくにち)ものあいだ、(ふね)(すす)みがおそくて、わたしたちは、かろうじてクニドの沖合(おきあい)にきたが、(かぜ)がわたしたちの()()をはばむので、サルモネの(おき)、クレテの(しま)かげを航行(こうこう)し、 8その(きし)沿()って(すす)み、かろうじて「()(みなと)」と()ばれる(ところ)()いた。その(ちか)くにラサヤの(まち)があった。
9(なが)(とき)経過(けいか)し、断食(だんじき)()()ぎてしまい、すでに航海(こうかい)危険(きけん)季節(きせつ)になったので、パウロは人々(ひとびと)警告(けいこく)して()った、 10(みな)さん、わたしの()るところでは、この航海(こうかい)では、積荷(つみに)船体(せんたい)ばかりでなく、われわれの生命(せいめい)にも、危害(きがい)(おお)きな損失(そんしつ)(およ)ぶであろう」。 11しかし百卒長(ひゃくそつちょう)は、パウロの()()よりも、船長(せんちょう)船主(せんしゅ)(ほう)信頼(しんらい)した。 12なお、この(みなと)(ふゆ)()ごすのに(てき)しないので、大多数(だいたすう)(もの)は、ここから()て、できればなんとかして、南西(なんせい)北西(ほくせい)とに(めん)しているクレテのピニクス(こう)()って、そこで(ふゆ)()ごしたいと主張(しゅちょう)した。
13(とき)に、南風(なんぷう)(しず)かに()いてきたので、(かれ)らは、この(とき)とばかりにいかりを()げて、クレテの(きし)沿()って航行(こうこう)した。 14すると()もなく、ユーラクロンと()ばれる暴風(ぼうふう)が、(しま)から()きおろしてきた。 15そのために、(ふね)(なが)されて(かぜ)(さか)らうことができないので、わたしたちは()(なが)されるままに(まか)せた。 16それから、クラウダという小島(こじま)(かげ)に、はいり()んだので、わたしたちは、やっとのことで小舟(こぶね)処置(しょち)することができ、 17それを(ふね)()()げてから、(つな)船体(せんたい)()きつけた。また、スルテスの()()()げるのを(おそ)れ、()をおろして(なが)れるままにした。 18わたしたちは、暴風(ぼうふう)にひどく(なや)まされつづけたので、(つぎ)()に、人々(ひとびと)積荷(つみに)()てはじめ、 19()()には、船具(ふなぐ)までも、てずから()げすてた。 20幾日(いくにち)ものあいだ、太陽(たいよう)(ほし)()えず、暴風(ぼうふう)(はげ)しく()きすさぶので、わたしたちの(たす)かる最後(さいご)(のぞ)みもなくなった。
21みんなの(もの)は、(なが)いあいだ食事(しょくじ)もしないでいたが、その(とき)、パウロが(かれ)らの(なか)()って()った、「(みな)さん、あなたがたが、わたしの忠告(ちゅうこく)()きいれて、クレテから()なかったら、このような危害(きがい)損失(そんしつ)(こうむ)らなくてすんだはずであった。 22だが、この(さい)、お(すす)めする。元気(げんき)()しなさい。(ふね)(うしな)われるだけで、あなたがたの(なか)生命(せいめい)(うしな)うものは、ひとりもいないであろう。 23昨夜(さくや)、わたしが(つか)え、また(おが)んでいる(かみ)からの御使(みつかい)が、わたしのそばに()って()った、 24『パウロよ、(おそ)れるな。あなたは(かなら)ずカイザルの(まえ)()たなければならない。たしかに(かみ)は、あなたと同船(どうせん)(もの)を、ことごとくあなたに(たま)わっている』。 25だから、(みな)さん、元気(げんき)()しなさい。万事(ばんじ)はわたしに()げられたとおりに()って()くと、わたしは、(かみ)かけて(しん)じている。 26われわれは、どこかの(しま)()ちあげられるに相違(そうい)ない」。
27わたしたちがアドリヤ(うみ)(ただよ)ってから十四()()(よる)になった(とき)真夜中(まよなか)ごろ、水夫(すいふ)らはどこかの陸地(りくち)(ちか)づいたように(かん)じた。 28そこで、(みず)(ふか)さを(はか)ってみたところ、二十ひろであることがわかった。それから(すこ)(すす)んで、もう一度(いちど)(はか)ってみたら、十五ひろであった。 29わたしたちが、万一(まんいち)暗礁(あんしょう)()()げては大変(たいへん)だと、人々(ひとびと)()づかって、ともから四つのいかりを()げおろし、()()けるのを()ちわびていた。 30その(とき)水夫(すいふ)らが(ふね)から()()そうと(おも)って、へさきからいかりを()げおろすと()せかけ、小舟(こぶね)(うみ)におろしていたので、 31パウロは、百卒長(ひゃくそつちょう)兵卒(へいそつ)たちに()った、「あの(ひと)たちが、(ふね)(のこ)っていなければ、あなたがたは(たす)からない」。 32そこで兵卒(へいそつ)たちは、小舟(こぶね)(つな)()()って、その(なが)れて()くままに(まか)せた。
33()()けかけたころ、パウロは一同(いちどう)(もの)に、食事(しょくじ)をするように(すす)めて()った、「あなたがたが食事(しょくじ)もせずに、見張(みは)りを(つづ)けてから、(なに)()べないで、きょうが十四()()(あた)る。 34だから、いま食事(しょくじ)()ることをお(すす)めする。それが、あなたがたを(すく)うことになるのだから。たしかに(かみ)()ひとすじでも、あなたがたの(あたま)から(うしな)われることはないであろう」。 35(かれ)はこう()って、パンを()り、みんなの(まえ)(かみ)感謝(かんしゃ)し、それをさいて()べはじめた。 36そこで、みんなの(もの)(もと)()づいて食事(しょくじ)をした。 37(ふね)にいたわたしたちは、()わせて二百七十六(にん)であった。 38みんなの(もの)は、じゅうぶんに食事(しょくじ)をした(のち)穀物(こくもつ)(うみ)()げすてて(ふね)(かろ)くした。
39()()けて、どこの土地(とち)かよくわからなかったが、砂浜(すなはま)のある入江(いりえ)()えたので、できれば、それに(ふね)()()れようということになった。 40そこで、いかりを()(はな)して(うみ)()て、同時(どうじ)にかじの(つな)をゆるめ、(かぜ)(まえ)()をあげて、砂浜(すなはま)にむかって(すす)んだ。 41ところが、潮流(ちょうりゅう)(なが)()(ところ)()(すす)んだため、(ふね)浅瀬(あさせ)()りあげてしまって、へさきがめり()んで(うご)かなくなり、ともの(ほう)激浪(げきろう)のためにこわされた。 42兵卒(へいそつ)たちは、囚人(しゅうじん)らが(およ)いで()げるおそれがあるので、(ころ)してしまおうと(はか)ったが、 43百卒長(ひゃくそつちょう)は、パウロを(すく)いたいと(おも)うところから、その意図(いと)をしりぞけ、(およ)げる(もの)はまず(うみ)()()んで(りく)()き、 44その()(もの)は、(いた)(ふね)破片(はへん)()って()くように(めい)じた。こうして、全部(ぜんぶ)(もの)上陸(じょうりく)して(すく)われたのであった。

第二十八章

1わたしたちが、こうして(すく)われてからわかったが、これはマルタと()ばれる(しま)であった。 2土地(とち)人々(ひとびと)は、わたしたちに並々(なみなみ)ならぬ親切(しんせつ)をあらわしてくれた。すなわち、()りしきる(あめ)(さむ)さをしのぐために、()をたいてわたしたち一同(いちどう)をねぎらってくれたのである。 3そのとき、パウロはひとかかえの(しば)をたばねて()にくべたところ、熱気(ねっき)のためにまむしが()てきて、(かれ)()にかみついた。 4土地(とち)人々(ひとびと)は、この()きものがパウロの()からぶら()がっているのを()て、(たがい)()った、「この(ひと)は、きっと人殺(ひとごろ)しに(ちが)いない。(うみ)からはのがれたが、ディケーの神様(かみさま)(かれ)()かしてはおかないのだ」。 5ところがパウロは、まむしを()(なか)()(おと)して、なんの(がい)(こうむ)らなかった。 6(かれ)らは、(かれ)()もなくはれ()がるか、あるいは、たちまち(たお)れて()ぬだろうと、様子(ようす)をうかがっていた。しかし、(なが)(あいだ)うかがっていても、(かれ)()になんの(かわ)ったことも(おこ)らないのを()て、(かれ)らは(かんが)えを()えて、「この(ひと)神様(かみさま)だ」と()()した。
7さて、その場所(ばしょ)(ちか)くに、(しま)首長(しゅちょう)、ポプリオという(ひと)所有(しょゆう)()があった。(かれ)は、そこにわたしたちを招待(しょうたい)して、三()のあいだ親切(しんせつ)にもてなしてくれた。 8たまたま、ポプリオの(ちち)赤痢(せきり)をわずらい、高熱(こうねつ)(とこ)についていた。そこでパウロは、その(ひと)のところにはいって()って(いの)り、()(かれ)(うえ)においていやしてやった。 9このことがあってから、ほかに病気(びょうき)をしている(しま)(ひと)たちが、ぞくぞくとやってきて、みないやされた。 10(かれ)らはわたしたちを非常(ひじょう)尊敬(そんけい)し、出帆(しゅっぱん)(とき)には、必要(ひつよう)品々(しなじな)()ってきてくれた。
11三か(げつ)たった(のち)、わたしたちは、この(しま)(ふゆ)ごもりをしていたデオスクリの(ふね)(かざ)りのあるアレキサンドリヤの(ふね)で、出帆(しゅっぱん)した。 12そして、シラクサに寄港(きこう)して三()のあいだ停泊(ていはく)し、 13そこから(すす)んでレギオンに()った。それから一(にち)おいて、南風(なんぷう)()いてきたのに(じょう)じ、ふつか()にポテオリに()いた。 14そこで兄弟(きょうだい)たちに()い、(すす)められるまま、(かれ)らのところに七日間(なぬかかん)滞在(たいざい)した。それからわたしたちは、ついにローマに到着(とうちゃく)した。 15ところが、兄弟(きょうだい)たちは、わたしたちのことを()いて、アピオ・ポロおよびトレス・タベルネまで出迎(でむか)えてくれた。パウロは(かれ)らに()って、(かみ)感謝(かんしゃ)(いさ)()った。
16わたしたちがローマに()いた(のち)、パウロは、ひとりの番兵(ばんぺい)をつけられ、ひとりで()むことを(ゆる)された。
17()たってから、パウロは、重立(おもだ)ったユダヤ(じん)たちを(まね)いた。みんなの(もの)(あつ)まったとき、(かれ)らに()った、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしは、わが国民(こくみん)(たい)しても、あるいは先祖(せんぞ)伝来(でんらい)慣例(かんれい)(たい)しても、何一(なにひと)つそむく行為(こうい)がなかったのに、エルサレムで囚人(しゅうじん)としてローマ(じん)たちの()()(わた)された。 18(かれ)らはわたしを()調(しら)べた結果(けっか)、なんら()(あた)罪状(ざいじょう)もないので、わたしを釈放(しゃくほう)しようと(おも)ったのであるが、 19ユダヤ(じん)たちがこれに反対(はんたい)したため、わたしはやむを()ず、カイザルに上訴(じょうそ)するに(いた)ったのである。しかしわたしは、わが同胞(どうほう)(うった)えようなどとしているのではない。 20こういうわけで、あなたがたに()って(かた)()いたいと(ねが)っていた。事実(じじつ)、わたしは、イスラエルのいだいている希望(きぼう)のゆえに、この(くさり)につながれているのである」。 21そこで(かれ)らは、パウロに()った、「わたしたちは、ユダヤ(じん)たちから、あなたについて、なんの文書(ぶんしょ)()()っていないし、また、兄弟(きょうだい)たちの(なか)からここにきて、あなたについて不利(ふり)報告(ほうこく)をしたり、悪口(あっこう)()ったりした(もの)もなかった。 22わたしたちは、あなたの(かんが)えていることを、直接(ちょくせつ)あなたから()くのが、(ただ)しいことだと(おも)っている。(じつ)は、この宗派(しゅうは)については、いたるところで反対(はんたい)のあることが、わたしたちの(みみ)にもはいっている」。
23そこで、()(さだ)めて、(おお)ぜいの(ひと)が、パウロの宿(やど)につめかけてきたので、(あさ)から(ばん)まで、パウロは(かた)(つづ)け、(かみ)(くに)のことをあかしし、またモーセの律法(りっぽう)預言者(よげんしゃ)(しょ)()いて、イエスについて(かれ)らの説得(せっとく)につとめた。 24ある(もの)はパウロの()うことを()けいれ、ある(もの)(しん)じようともしなかった。 25(たがい)意見(いけん)()わなくて、みんなの(もの)(かえ)ろうとしていた(とき)、パウロはひとこと()べて()った、「聖霊(せいれい)はよくも預言者(よげんしゃ)イザヤによって、あなたがたの先祖(せんぞ)(かた)ったものである。
26『この(たみ)()って()え、
あなたがたは()くには()くが、(けっ)して(さと)らない。
()るには()るが、(けっ)して(みと)めない。
27この(たみ)(こころ)(にぶ)くなり、
その(みみ)(きこ)えにくく、
その()()じている。
それは、(かれ)らが()()ず、
(みみ)()かず、
(こころ)(さと)らず、()(あらた)めて
いやされることがないためである』。
28そこで、あなたがたは()っておくがよい。(かみ)のこの(すくい)言葉(ことば)は、異邦人(いほうじん)(おく)られたのだ。(かれ)らは、これに()きしたがうであろう」。〔 29パウロがこれらのことを()(おわ)ると、ユダヤ(じん)らは、(たがい)(ろん)()いながら(かえ)って()った。〕
30パウロは、自分(じぶん)()りた(いえ)(まん)(ねん)のあいだ()んで、たずねて()人々(ひとびと)をみな(むか)()れ、 31はばからず、また(さまた)げられることもなく、(かみ)(くに)()(つた)え、(しゅ)イエス・キリストのことを(おし)えつづけた。