ヨブ記

第一章

1ウヅの()にヨブという()(ひと)があった。そのひととなりは(まった)く、かつ(ただ)しく、(かみ)(おそ)れ、(あく)(とお)ざかった。 2(かれ)(おとこ)()(にん)(おんな)()(にん)があり、 3その家畜(かちく)(ひつじ)七千(とう)、らくだ三千(とう)(うし)五百くびき、()ろば五百(とう)で、しもべも非常(ひじょう)(おお)く、この(ひと)(ひがし)人々(ひとびと)のうちで(もっと)(おお)いなる(もの)であった。 4そのむすこたちは、めいめい自分(じぶん)()に、自分(じぶん)(いえ)でふるまいを(もう)け、その三(にん)姉妹(しまい)をも(まね)いて一緒(いっしょ)()()みするのを(つね)とした。 5そのふるまいの()がひとめぐり(おわ)るごとに、ヨブは(かれ)らを()()せて聖別(せいべつ)し、(あさ)(はや)()きて、(かれ)らすべての(かず)にしたがって燔祭(はんさい)をささげた。これはヨブが「わたしのむすこたちは、ことによったら(つみ)(おか)し、その(こころ)(かみ)をのろったかもしれない」と(おも)ったからである。ヨブはいつも、このように()った。
6ある()(かみ)()たちが()て、(しゅ)(まえ)()った。サタンも()てその(なか)にいた。 7(しゅ)()われた、「あなたはどこから()たか」。サタンは(しゅ)(こた)えて()った、「()()きめぐり、あちらこちら(ある)いてきました」。 8(しゅ)はサタンに()われた、「あなたはわたしのしもべヨブのように(まった)く、かつ(ただ)しく、(かみ)(おそ)れ、(あく)(とお)ざかる(もの)()にないことを()づいたか」。 9サタンは(しゅ)(こた)えて()った、「ヨブはいたずらに(かみ)(おそ)れましょうか。 10あなたは(かれ)とその(いえ)およびすべての所有物(しょゆうぶつ)のまわりにくまなく、まがきを(もう)けられたではありませんか。あなたは(かれ)勤労(きんろう)祝福(しゅくふく)されたので、その家畜(かちく)()にふえたのです。 11しかし(いま)あなたの()()べて、(かれ)のすべての所有物(しょゆうぶつ)()ってごらんなさい。(かれ)(かなら)ずあなたの(かお)()かって、あなたをのろうでしょう」。 12(しゅ)はサタンに()われた、「()よ、(かれ)のすべての所有物(しょゆうぶつ)をあなたの()にまかせる。ただ(かれ)()()をつけてはならない」。サタンは(しゅ)(まえ)から()()った。
13ある()ヨブのむすこ、(むすめ)たちが(だい)一の(あに)(いえ)食事(しょくじ)をし、(さけ)()んでいたとき、 14使者(ししゃ)がヨブのもとに()()った、「(うし)(たがや)し、ろばがそのかたわらで(くさ)()っていると、 15シバびとが(おそ)ってきて、これを(うば)い、つるぎをもってしもべたちを()(ころ)しました。わたしはただひとりのがれて、あなたに()げるために()ました」。 16(かれ)がなお(かた)っているうちに、またひとりが()()った、「(かみ)()(てん)から(くだ)って、(ひつじ)およびしもべたちを()(ほろ)ぼしました。わたしはただひとりのがれて、あなたに()げるために()ました」。 17(かれ)がなお(かた)っているうちに、またひとりが()()った、「カルデヤびとが三(くみ)(わか)れて()て、らくだを(おそ)ってこれを(うば)い、つるぎをもってしもべたちを()(ころ)しました。わたしはただひとりのがれて、あなたに()げるために()ました」。 18(かれ)がなお(かた)っているうちに、またひとりが()()った、「あなたのむすこ、(むすめ)たちが(だい)一の(あに)(いえ)食事(しょくじ)をし、(さけ)()んでいると、 19荒野(あらの)(ほう)から大風(おおかぜ)()いてきて、(いえ)()すみを()ったので、あの(わか)(ひと)たちの(うえ)につぶれ()ちて、(みな)()にました。わたしはただひとりのがれて、あなたに()げるために()ました」。
20このときヨブは()()がり、上着(うわぎ)()き、(あたま)をそり、()()して(はい)し、 21そして()った、
「わたしは(はだか)(はは)(たい)()た。
また(はだか)でかしこに(かえ)ろう。
(しゅ)(あた)え、(しゅ)()られたのだ。
(しゅ)のみ()はほむべきかな」。
22すべてこの(こと)においてヨブは(つみ)(おか)さず、また(かみ)()かって(おろ)かなことを()わなかった。

第二章

1ある()、また(かみ)()たちが()て、(しゅ)(まえ)()った。サタンもまたその(なか)()て、(しゅ)(まえ)()った。 2(しゅ)はサタンに()われた、「あなたはどこから()たか」。サタンは(しゅ)(こた)えて()った、「()()きめぐり、あちらこちら(ある)いてきました」。 3(しゅ)はサタンに()われた、「あなたは、わたしのしもべヨブのように(まった)く、かつ(ただ)しく、(かみ)(おそ)れ、(あく)(とお)ざかる(もの)()にないことを()づいたか。あなたは、わたしを(すす)めて、ゆえなく(かれ)(ほろ)ぼそうとしたが、(かれ)はなお(かた)(たも)って、おのれを(まっと)うした」。 4サタンは(しゅ)(こた)えて()った、「(かわ)には(かわ)をもってします。(ひと)自分(じぶん)(いのち)のために、その()っているすべての(もの)をも(あた)えます。 5しかしいま、あなたの()()べて、(かれ)(ほね)(にく)とを()ってごらんなさい。(かれ)(かなら)ずあなたの(かお)()かって、あなたをのろうでしょう」。 6(しゅ)はサタンに()われた、「()よ、(かれ)はあなたの()にある。ただ(かれ)(いのち)(たす)けよ」。
7サタンは(しゅ)(まえ)から()()って、ヨブを()ち、その(あし)(うら)から(あたま)(いただき)まで、いやな腫物(はれもの)をもって(かれ)(なや)ました。 8ヨブは陶器(とうき)破片(はへん)()り、それで自分(じぶん)()をかき、(はい)(なか)にすわった。 9(とき)にその(つま)(かれ)()った、「あなたはなおも(かた)(たも)って、自分(じぶん)(まっと)うするのですか。(かみ)をのろって()になさい」。 10しかしヨブは彼女(かのじょ)()った、「あなたの(かた)ることは(おろ)かな(おんな)(かた)るのと(おな)じだ。われわれは(かみ)から(さいわい)をうけるのだから、(わざわい)をも、うけるべきではないか」。すべてこの(こと)においてヨブはそのくちびるをもって(つみ)(おか)さなかった。
11(とき)に、ヨブの三(にん)(とも)がこのすべての(わざわい)のヨブに(のぞ)んだのを()いて、めいめい自分(じぶん)(ところ)から(たず)ねて()た。すなわちテマンびとエリパズ、シュヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルである。(かれ)らはヨブをいたわり、(なぐさ)めようとして、たがいに約束(やくそく)してきたのである。 12(かれ)らは()をあげて遠方(えんぽう)から()たが、(かれ)のヨブであることを(みと)めがたいほどであったので、(こえ)をあげて()き、めいめい自分(じぶん)上着(うわぎ)()き、(てん)()かって、ちりをうちあげ、自分(じぶん)たちの(あたま)(うえ)にまき()らした。 13こうして七日(なぬか)七夜(ななよ)(かれ)(とも)()()していて、ひと(こと)(かれ)(はな)しかける(もの)がなかった。(かれ)(くる)しみの非常(ひじょう)(おお)きいのを()たからである。

第三章

1この(のち)、ヨブは(くち)(ひら)いて、自分(じぶん)(うま)れた()をのろった。 2すなわちヨブは()った、
3「わたしの(うま)れた()(ほろ)びうせよ。
(おとこ)()が、(たい)にやどった』と()った()
そのようになれ。
4その()(くら)くなるように。
(かみ)(うえ)からこれを(かえり)みられないように。
(ひかり)がこれを(てら)さないように。
5やみと暗黒(あんこく)がこれを()りもどすように。
(くも)が、その(うえ)にとどまるように。
()(くら)くする(もの)が、これを(おびや)かすように。
6その()は、(くら)やみが、これを(とら)えるように。
(とし)()のうちに(くわ)わらないように。
(つき)(かず)にもはいらないように。
7また、その()は、はらむことのないように。
(よろこ)びの(こえ)がそのうちに()かれないように。
8()をのろう(もの)が、これをのろうように。
レビヤタンを(ふる)(おこ)すに(たく)みな(もの)が、
これをのろうように。
9その()けの(ほし)(くら)くなるように。
(ひかり)(のぞ)んでも、()られないように。
また、あけぼののまぶたを()ることのないように。
10これは、わたしの(はは)(たい)()()じず、
また(なや)みをわたしの()(かく)さなかったからである。
11なにゆえ、わたしは(たい)から()て、()ななかったのか。
(はら)から()たとき(いき)()えなかったのか。
12なにゆえ、ひざが、わたしを()けたのか。
なにゆえ、()ぶさがあって、
わたしはそれを()ったのか。
13そうしなかったならば、
わたしは()して(やす)み、(ねむ)ったであろう。
そうすればわたしは(やす)んじており、
14自分(じぶん)のために()(あと)(きず)(なお)した
()(おう)たち、参議(さんぎ)たち、
15あるいは、こがねを()ち、
しろがねを(いえ)()たした
(きみ)たちと一緒(いっしょ)にいたであろう。
16なにゆえ、わたしは人知(ひとし)れずおりる胎児(たいじ)のごとく、
(ひかり)()ないみどりごのようでなかったのか。
17かしこでは悪人(あくにん)も、あばれることをやめ、
うみ(つか)れた(もの)も、(やす)みを()
18(とら)われ(びと)(とも)(やす)らかにおり、
()使(つか)(もの)(こえ)()かない。
19(ちい)さい(もの)(おお)きい(もの)もそこにおり、
奴隷(どれい)も、その主人(しゅじん)から()(はな)される。
20なにゆえ、(なや)(もの)(ひかり)(たま)い、
(こころ)(くる)しむ(もの)(いのち)(たま)わったのか。
21このような(ひと)()(のぞ)んでも()ない、
これを(もと)めることは(かく)れた(たから)
()るよりも、はなはだしい。
22(かれ)らは(はか)()いだすとき、非常(ひじょう)(よろこ)(たの)しむのだ。
23なにゆえ、その(みち)(かく)された(ひと)に、
(かみ)が、まがきをめぐらされた(ひと)に、(ひかり)(たま)わるのか。
24わたしの(なげ)きはわが食物(しょくもつ)(かわ)って(きた)り、
わたしのうめきは(みず)のように(なが)()る。
25わたしの(おそ)れるものが、わたしに(のぞ)み、
わたしの(おそ)れおののくものが、わが()(およ)ぶ。
26わたしは(やす)らかでなく、またおだやかでない。
わたしは(やす)みを()ない、ただ(なや)みのみが()る」。

第四章

1その(とき)、テマンびとエリパズが(こた)えて()った、
2「もし(ひと)があなたにむかって意見(いけん)()べるならば、
あなたは(はら)()てるでしょうか。
しかしだれが(だま)っておれましょう。
3()よ、あなたは(おお)くの(ひと)(おし)えさとし、
(おとろ)えた()(つよ)くした。
4あなたの言葉(ことば)はつまずく(もの)をたすけ(おこ)し、
かよわいひざを(つよ)くした。
5ところが(いま)、この(こと)があなたに(のぞ)むと、
あなたは()()ない。
この(こと)があなたに()れると、あなたはおじ(まど)う。
6あなたが(かみ)(おそ)れていることは、
あなたのよりどころではないか。
あなたの(みち)(まった)きことは、あなたの(のぞ)みではないか。
7(かんが)えてみよ、だれが(つみ)のないのに、
(ほろ)ぼされた(もの)があるか。
どこに(ただ)しい(もの)で、()(ほろ)ぼされた(もの)があるか。
8わたしの()(ところ)によれば、不義(ふぎ)(たがや)し、
害悪(がいあく)をまく(もの)は、それを()()っている。
9(かれ)らは(かみ)のいぶきによって(ほろ)び、
その(いか)りの(いき)によって()えうせる。
10ししのほえる(こえ)、たけきししの(こえ)はともにやみ、
(わか)きししのきばは()られ、
11()じしは獲物(えもの)()ずに(ほろ)び、
()じしの()()らされる。
12さて、わたしに、言葉(ことば)がひそかに(のぞ)んだ、
わたしの(みみ)はそのささやきを()いた。
13すなわち(ひと)熟睡(じゅくすい)するころ、
(よる)(まぼろし)によって(おも)(みだ)れている(とき)
14(おそ)れがわたしに(のぞ)んだので、おののき、
わたしの(ほね)はことごとく(ふる)えた。
15(とき)に、(れい)があって、わたしの(かお)(まえ)()ぎたので、
わたしの()()はよだった。
16そのものは()ちどまったが、
わたしはその姿(すがた)()わけることができなかった。
一つのかたちが、わたしの()(まえ)にあった。
わたしは(しず)かな(こえ)()いた、
17(ひと)(かみ)(まえ)(ただ)しくありえようか。
(ひと)はその(つく)(ぬし)(まえ)(きよ)くありえようか。
18()よ、(かれ)はそのしもべをさえ(たの)みとせず、
その天使(てんし)をも(あやま)れる(もの)とみなされる。
19まして、(どろ)(いえ)()(もの)
ちりをその(もとい)とする(もの)
しみのようにつぶされる(もの)
20(かれ)らは(あさ)から(ゆう)までの(あいだ)()(くだ)かれ、
(かえり)みる(もの)もなく、永遠(えいえん)(ほろ)びる。
21もしその天幕(てんまく)(つな)
(かれ)らのうちに()()られるなら、
ついに(さと)ることもなく、()にうせるではないか』。

第五章

1(こころ)みに()んでみよ、
だれかあなたに(こた)える(もの)があるか。
どの聖者(せいじゃ)にあなたは(たの)もうとするのか。
2(たし)かに、(いきどお)りは(おろ)かな(もの)(ころ)し、
ねたみはあさはかな(もの)()なせる。
3わたしは(おろ)かな(もの)()()るのを()た、
しかしわたしは、にわかにそのすみかをのろった。
4その()らは(やす)きを()ず、
(まち)(もん)でしえたげられても、これを(すく)(もの)がない。
5その収穫(しゅうかく)()えた(ひと)()べ、
いばらの(なか)からさえ、これを(うば)う。
また、かわいた(もの)はその財産(ざいさん)をあえぎ(もと)める。
6(くる)しみは、ちりから(おこ)るものでなく、
(なや)みは(つち)から(しょう)じるものでない。
7(ひと)(うま)れて(なや)みを()けるのは、
()()(うえ)()ぶにひとしい。
8しかし、わたしであるならば、(かみ)(もと)め、
(かみ)に、わたしの(こと)をまかせる。
9(かれ)(おお)いなる(こと)をされるかたで、(はか)()れない、
その不思議(ふしぎ)なみわざは(かぞ)えがたい。
10(かれ)()(あめ)()らせ、()(みず)(おく)られる。
11(かれ)(ひく)(もの)(たか)くあげ、
(かな)しむ(もの)()()げて、安全(あんぜん)にされる。
12(かれ)悪賢(わるがしこ)(もの)(はか)りごとを(やぶ)られる。
それで何事(なにごと)もその()になし()げることはできない。
13(かれ)(かしこ)(もの)を、(かれ)自身(じしん)悪巧(わるだく)みによって(とら)え、
(まが)った(もの)(はか)りごとをくつがえされる。
14(かれ)らは(ひる)も、やみに()い、
真昼(まひる)にも、(よる)のように手探(てさぐ)りする。
15(かれ)(まず)しい(もの)(かれ)らの(くち)のつるぎから(すく)い、
また(つよ)(もの)()から(すく)われる。
16それゆえ(とぼ)しい(もの)(のぞ)みがあり、
不義(ふぎ)はその(くち)()じる。
17()よ、(かみ)(いまし)められる(ひと)はさいわいだ。
それゆえ全能者(ぜんのうしゃ)(こら)しめを(かろ)んじてはならない。
18(かれ)(きず)つけ、また(つつ)み、
()ち、またその()をもっていやされる。
19(かれ)はあなたを六つの(なや)みから(すく)い、
七つのうちでも、(わざわい)はあなたに()れることがない。
20ききんの(とき)には、あなたをあがなって、
()(まぬか)れさせ、
いくさの(とき)には、つるぎの(ちから)(まぬか)れさせられる。
21あなたは(した)をもってむち()たれる(とき)にも、
おおい(かく)され、
(ほろ)びが()(とき)でも、(おそ)れることはない。
22あなたは(ほろ)びと、ききんとを(わら)い、
()(けもの)をも(おそ)れることはない。
23あなたは()(いし)契約(けいやく)(むす)び、
()(けもの)はあなたと(やわ)らぐからである。
24あなたは自分(じぶん)天幕(てんまく)安全(あんぜん)なことを()り、
自分(じぶん)家畜(かちく)のおりを見回(みまわ)っても、()けた(もの)がなく、
25また、あなたの子孫(しそん)(おお)くなり、
そのすえが()(くさ)のようになるのを()るであろう。
26あなたは高齢(こうれい)(たっ)して(はか)(はい)る、
あたかも(むぎ)(たば)をその季節(きせつ)になって
()()(はこ)びあげるようになるであろう。
27()よ、われわれの(たず)ねきわめた(ところ)はこのとおりだ。
あなたはこれを()いて、みずから()るがよい」。

第六章

1ヨブは(こた)えて()った、
2「どうかわたしの(いきどお)りが(ただ)しく(はか)られ、
同時(どうじ)にわたしの(わざわい)も、はかりにかけられるように。
3そうすれば、これは(うみ)(すな)よりも(おも)いに相違(そうい)ない。
それゆえ、わたしの言葉(ことば)軽率(けいそつ)であったのだ。
4全能者(ぜんのうしゃ)()が、わたしのうちにあり、
わたしの(れい)はその(どく)()み、
(かみ)(おそ)るべき軍勢(ぐんぜい)が、わたしを(おそ)()めている。
5()ろばは、青草(あおくさ)のあるのに()くであろうか。
(うし)飼葉(かいば)(うえ)でうなるであろうか。
6(あじ)のない(もの)(しお)がなくて()べられようか。
すべりひゆのしるは(あじ)があろうか。
7わたしの食欲(しょくよく)はこれに()れることを(こば)む。
これは、わたしのきらう食物(しょくもつ)のようだ。
8どうかわたしの(もと)めるものが()られるように。
どうか(かみ)がわたしの(のぞ)むものをくださるように。
9どうか(かみ)がわたしを()(ほろ)ぼすことをよしとし、
()()べてわたしを()たれるように。
10そうすれば、わたしはなお(なぐさ)めを()
(はげ)しい(くる)しみの(なか)にあっても(よろこ)ぶであろう。
わたしは(せい)なる(もの)言葉(ことば)
(いな)んだことがないからだ。
11わたしにどんな(ちから)があって、
なお()たねばならないのか。
わたしにどんな(おわ)りがあるので、
なお()(しの)ばねばならないのか。
12わたしの(ちから)(いし)(ちから)のようであるのか。
わたしの(にく)青銅(せいどう)のようであるのか。
13まことに、わたしのうちに(たす)けはなく、
(すく)われる(のぞ)みは、わたしから()いやられた。
14その(とも)(たい)するいつくしみをさし(ひか)える(もの)は、
全能者(ぜんのうしゃ)(おそ)れることをすてる。
15わが兄弟(きょうだい)たちは谷川(たにがわ)のように、
()()出水(でみず)のように(あざむ)く。
16これは(こおり)のために(くろ)くなり、
そのうちに(ゆき)(かく)れる。
17これは(あたた)かになると()()り、
(あつ)くなるとその(ところ)からなくなる。
18隊商(たいしょう)はその(みち)(てん)じ、
むなしい(ところ)()って(ほろ)びる。
19テマの隊商(たいしょう)はこれを(のぞ)み、
シバの(たび)びとはこれを(した)う。
20(かれ)らはこれにたよったために失望(しつぼう)し、
そこに()てみて、あわてる。
21あなたがたは(いま)わたしにはこのような(もの)となった。
あなたがたはわたしの災難(さいなん)()(おそ)れた。
22わたしは()ったことがあるか、『わたしに(あた)えよ』と、
あるいは『あなたがたの財産(ざいさん)のうちから
わたしのために、まいないを(おく)れ』と、
23あるいは『あだの()からわたしを(すく)()せ』と、
あるいは『しえたげる(もの)()から
わたしをあがなえ』と。
24わたしに(おし)えよ、そうすればわたしは(だま)るであろう。
わたしの(あやま)っている(ところ)をわたしに(さと)らせよ。
25(ただ)しい言葉(ことば)はいかに(ちから)のあるものか。
しかしあなたがたの(いまし)めは(なに)(いまし)めるのか。
26あなたがたは言葉(ことば)(いまし)めうると(おも)うのか。
(のぞ)みの()えた(もの)(かた)ることは(かぜ)のようなものだ。
27あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、
あなたがたの(とも)をさえ()()いするであろう。
28(いま)、どうぞわたしを()られよ、
わたしはあなたがたの(かお)()かって(いつわ)らない。
29どうぞ、(おも)いなおせ、まちがってはならない。
さらに(おも)いなおせ、
わたしの()は、なおわたしのうちにある。
30わたしの(した)不義(ふぎ)があるか。
わたしの(くち)(わざわい)
わきまえることができぬであろうか。

第七章

1地上(ちじょう)(ひと)には、
(はげ)しい労務(ろうむ)があるではないか。
またその()雇人(やといにん)()のようではないか。
2奴隷(どれい)夕暮(ゆうぐれ)(した)うように、
雇人(やといにん)がその賃銀(ちんぎん)(のぞ)むように、
3わたしは、むなしい(つき)()たせられ、
(なや)みの(よる)(あた)えられる。
4わたしは()るときに()う、『いつ()きるだろうか』と。
しかし(よる)(なが)く、(あかつき)までころびまわる。
5わたしの(にく)はうじと(つち)くれとをまとい、
わたしの(かわ)(かた)まっては、またくずれる。
6わたしの()(はた)のひよりも(はや)く、
(のぞ)みをもたずに()()る。
7記憶(きおく)せよ、わたしの(いのち)(いき)にすぎないことを。
わたしの()(ふたた)(さいわい)()ることがない。
8わたしを()(もの)()は、
かさねてわたしを()ることがなく、
あなたがわたしに()()けられても、
わたしはいない。
9(くも)()えて、なくなるように、
陰府(よみ)(くだ)(もの)()がって()ることがない。
10(かれ)(ふたた)びその(いえ)(かえ)らず、
(かれ)(ところ)も、もはや(かれ)(みと)めない。
11それゆえ、わたしはわが(くち)をおさえず、
わたしの(れい)のもだえによって(かた)り、
わたしの(たましい)(くる)しさによって(なげ)く。
12わたしは(うみ)であるのか、(りゅう)であるのか、
あなたはわたしの(うえ)見張(みは)りを()かれる。
13『わたしの(とこ)はわたしを(なぐさ)め、
わたしの寝床(ねどこ)はわが(なげ)きを(かる)くする』と
わたしが()うとき、
14あなたは(ゆめ)をもってわたしを(おどろ)かし、
(まぼろし)をもってわたしを(おそ)れさせられる。
15それゆえ、わたしは(いき)()まることを(ねが)い、
わが(ほね)よりもむしろ()(えら)ぶ。
16わたしは(いのち)をいとう。
わたしは(なが)()きることを(のぞ)まない。
わたしに(かま)わないでください。
わたしの()(いき)にすぎないのだから。
17(ひと)何者(なにもの)なので、あなたはこれを(おお)きなものとし、
これにみ(こころ)をとめ、
18(あさ)ごとに、これを(たず)ね、
()()なく、これを(こころ)みられるのか。
19いつまで、あなたはわたしに()(はな)さず、
つばをのむまも、わたしを()てておかれないのか。
20(ひと)監視(かんし)される(もの)よ、わたしが(つみ)(おか)したとて、
あなたに(なに)をなしえようか。
なにゆえ、わたしをあなたの(まと)とし、
わたしをあなたの重荷(おもに)とされるのか。
21なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、
わたしの不義(ふぎ)(のぞ)かれないのか。
わたしはいま(つち)(なか)(よこ)たわる。
あなたがわたしを(たず)ねられても、
わたしはいないでしょう」。

第八章

1(とき)にシュヒびとビルダデが(こた)えて()った、
2「いつまであなたは、そのような(こと)()うのか。
あなたの(くち)言葉(ことば)(あら)(かぜ)ではないか。
3(かみ)公義(こうぎ)()げられるであろうか。
全能者(ぜんのうしゃ)正義(せいぎ)()げられるであろうか。
4あなたの()たちが(かれ)(つみ)(おか)したので、
(かれ)らをそのとがの()(わた)されたのだ。
5あなたがもし(かみ)(もと)め、全能者(ぜんのうしゃ)(いの)るならば、
6あなたがもし(きよ)く、(ただ)しくあるならば、
(かれ)(かなら)ずあなたのために()って、
あなたの(ただ)しいすみかを(さか)えさせられる。
7あなたの(はじ)めは(ちい)さくあっても、
あなたの(おわ)りは非常(ひじょう)(おお)きくなるであろう。
8(さき)()(ひと)()うてみよ、
先祖(せんぞ)たちの(たず)ねきわめた(こと)(まな)べ。
9われわれはただ、きのうからあった(もの)で、
(なに)()らない、
われわれの()にある()は、(かげ)のようなものである。
10(かれ)らはあなたに(おし)え、あなたに(かた)り、
その(さと)りから言葉(ことば)()さないであろうか。
11(かみ)(ぐさ)(どろ)のない(ところ)生長(せいちょう)することができようか。
(あし)(みず)のない(ところ)におい(しげ)ることができようか。
12これはなお(あお)くて、まだ()られないのに、
すべての(くさ)(さき)だって()れる。
13すべて(かみ)(わす)れる(もの)(みち)はこのとおりだ。
(かみ)(しん)じない(もの)(のぞ)みは(ほろ)びる。
14その(たの)むところは()たれ、
その()るところは、くもの()のようだ。
15その(いえ)によりかかろうとすれば、(いえ)()たず、
それにすがろうとしても、それは()えない。
16(かれ)()(まえ)青々(あおあお)(しげ)り、
その(わか)(えだ)(その)にはびこらせ、
17その()石塚(いしづか)にからませ、
(いわ)(あいだ)()きていても、
18もしその(ところ)から()(のぞ)かれれば、
その(ところ)(かれ)(こば)んで()うであろう、
『わたしはあなたを()たことがない』と。
19()よ、これこそ(かれ)(みち)(よろこ)びである、
そしてほかの(もの)()から(しょう)じるであろう。
20()よ、(かみ)(まった)(ひと)()てられない。
また(あく)(おこな)(もの)()支持(しじ)されない。
21(かれ)(わら)いをもってあなたの(くち)()たし、
(よろこ)びの(こえ)をもってあなたのくちびるを()たされる。
22あなたを(にく)(もの)(はじ)()せられ、
()しき(もの)天幕(てんまく)はなくなる」。

第九章

1ヨブは(こた)えて()った、
2「まことにわたしは、その(こと)
そのとおりであることを()っている。
しかし(ひと)はどうして(かみ)(まえ)(ただ)しくありえようか。
3よし(かれ)(あらそ)おうとしても、
千に一つも(こた)えることができない。
4(かれ)(こころ)(かしこ)く、力強(ちからづよ)くあられる。
だれが(かれ)にむかい、おのれをかたくなにして、
(さか)えた(もの)があるか。
5(かれ)は、(やま)(うつ)されるが、(やま)()らない。
(かれ)(いか)りをもって、これらをくつがえされる。
6(かれ)が、()(ふる)(うご)かしてその(ところ)(はな)れさせられると、
その(はしら)はゆらぐ。
7(かれ)()(めい)じられると、()()ない。
(かれ)はまた(ほし)()じこめられる。
8(かれ)はただひとり(てん)()り、
(うみ)(なみ)()まれた。
9(かれ)北斗(ほくと)、オリオン、
プレアデスおよび(みなみ)密室(みっしつ)(つく)られた。
10(かれ)(おお)いなる(こと)をされることは(はか)りがたく、
不思議(ふしぎ)(こと)をされることは(かず)()れない。
11()よ、(かれ)がわたしのかたわらを(とお)られても、
わたしは(かれ)()ない。
(かれ)(すす)()かれるが、わたしは(かれ)(みと)めない。
12()よ、(かれ)(うば)()られるのに、
だれが(かれ)をはばむことができるか。
だれが(かれ)にむかって『あなたは(なに)をするのか』と
()うことができるか。
13(かみ)はその(いか)りをやめられない。
ラハブを(たす)ける(もの)どもは(かれ)のもとにかがんだ。
14どうしてわたしは(かれ)(こた)え、
言葉(ことば)(えら)んで、(かれ)議論(ぎろん)することができよう。
15たといわたしは(ただ)しくても(こた)えることができない。
わたしを()められる(もの)
あわれみを()わなければならない。
16たといわたしが()ばわり、
(かれ)がわたしに(こた)えられても、
わたしの(こえ)(みみ)(かたむ)けられたとは(しん)じない。
17(かれ)大風(おおかぜ)をもってわたしを()(くだ)き、
ゆえなく、わたしに(おお)くの(きず)()わせ、
18わたしに(いき)をつかせず、
(にが)(もの)をもってわたしを()たされる。
19(ちから)(あらそ)いであるならば、(かれ)()よ、
さばきの(こと)であるならば、
だれが(かれ)()()すことができよう。
20たといわたしは(ただ)しくても、
わたしの(くち)はわたしを(つみ)ある(もの)とする。
たといわたしは(つみ)がなくても、
(かれ)はわたしを(まが)った(もの)とする。
21わたしは(つみ)がない、しかしわたしは自分(じぶん)()らない。
わたしは自分(じぶん)(いのち)をいとう。
22(みな)同一(どういつ)である。それゆえ、わたしは()う、
(かれ)(つみ)のない(もの)と、()しき(もの)とを
(とも)(ほろ)ぼされるのだ』と。
23(わざわい)がにわかに(ひと)(ころ)すような(こと)があると、
(かれ)(つみ)のない(もの)苦難(くなん)をあざ(わら)われる。
24()悪人(あくにん)()(わた)されてある。
(かれ)はその裁判人(さいばんにん)(かお)をおおわれる。
もし(かれ)でなければ、これはだれのしわざか。
25わたしの()飛脚(ひきゃく)よりも(はや)く、
()()って(さいわい)()ない。
26これは(はし)ること(あし)(ぶね)のごとく、
えじきに(おそ)いかかる、わしのようだ。
27たといわたしは『わが(なげ)きを(わす)れ、
(うれ)(がお)をかえて元気(げんき)よくなろう』と()っても、
28わたしはわがもろもろの(くる)しみを(おそ)れる。
あなたがわたしを(つみ)なき(もの)とされないことを
わたしは()っているからだ。
29わたしは(つみ)ある(もの)とされている。
どうして、いたずらに(ろう)する必要(ひつよう)があるか。
30たといわたしは(ゆき)()(あら)い、
灰汁(あく)()(きよ)めても、
31あなたはわたしを、みぞの(なか)()()まれるので、
わたしの着物(きもの)も、わたしをいとうようになる。
32(かみ)はわたしのように(ひと)ではないゆえ、
わたしは(かれ)(こた)えることができない。
われわれは(とも)にさばきに(のぞ)むことができない。
33われわれの(あいだ)には、
われわれふたりの(うえ)()()くべき仲裁者(ちゅうさいしゃ)がない。
34どうか(かれ)がそのつえをわたしから()(はな)し、
その(いか)りをもって、
わたしを(おそ)れさせられないように。
35そうすれば、わたしは(かた)って、
(かれ)(おそ)れることはない。
わたしはみずからそのような(もの)ではないからだ。

第十章

1わたしは自分(じぶん)(いのち)をいとう。
わたしは自分(じぶん)(なげ)きを(つつ)まず()いあらわし、
わが(たましい)(くる)しみによって(かた)ろう。
2わたしは(かみ)(もう)そう、
わたしを(つみ)ある(もの)とされないように。
なぜわたしと(あらそ)われるかを()らせてほしい。
3あなたはしえたげをなし、み()のわざを()て、
悪人(あくにん)計画(けいかく)(てら)すことを()しとされるのか。
4あなたの()っておられるのは(にく)()か、
あなたは(ひと)()るように()られるのか。
5あなたの()(ひと)()のごとく、
あなたの(とし)(ひと)(ねん)のようであるのか。
6あなたはなにゆえわたしのとがを(たず)ね、
わたしの(つみ)調(しら)べられるのか。
7あなたはわたしの(つみ)のないことを()っておられる。
またあなたの()から(すく)()しうる(もの)はない。
8あなたの()はわたしをかたどり、わたしを(つく)った。
ところが(いま)あなたはかえって、わたしを(ほろ)ぼされる。
9どうぞ(おぼ)えてください、
あなたは(つち)くれをもってわたしを(つく)られた(こと)を。
ところが、わたしをちりに(かえ)そうとされるのか。
10あなたはわたしを(ちち)のように(そそ)ぎ、
乾酪(かんらく)のように()(かた)まらせたではないか。
11あなたは(にく)(かわ)とをわたしに()せ、
(ほね)(すじ)とをもってわたしを()み、
12(いのち)といつくしみとをわたしに(さづ)け、
わたしを(かえり)みてわが(れい)(まも)られた。
13しかしあなたはこれらの(こと)をみ(こころ)()めおかれた。
この(こと)があなたの(こころ)のうちにあった(こと)
わたしは()っている。
14わたしがもし(つみ)(おか)せば、
あなたはわたしに()をつけて、
わたしを(つみ)から()(はな)されない。
15わたしがもし(わる)ければわたしはわざわいだ。
たといわたしが(ただ)しくても、
わたしは(あたま)()げることができない。
わたしは(はじ)()ち、(なや)みを()ているからだ。
16もし(あたま)をあげれば、
あなたは、ししのようにわたしを()い、
わたしにむかって(ふたた)びくすしき(ちから)をあらわされる。
17あなたは証人(しょうにん)()()えてわたしを()め、
わたしにむかってあなたの(いか)りを()し、
(あら)たに軍勢(ぐんぜい)()してわたしを()められる。
18なにゆえあなたはわたしを(たい)から()されたか、
わたしは(いき)()えて()()られることなく、
19(たい)から(はか)(はこ)ばれて、
(はじ)めからなかった(もの)のようであったなら、
よかったのに。
20わたしの(いのち)()はいくばくもないではないか。
どうぞ、しばしわたしを(はな)れて、
(すこ)しく(なぐさ)めを()させられるように。
21わたしが()って、(かえ)ることのないその(まえ)に、
これを()させられるように。
わたしは(くら)()暗黒(あんこく)()()く。
22これは(くら)()で、やみにひとしく、
暗黒(あんこく)秩序(ちつじょ)なく、(ひかり)もやみのようだ」。

第十一章

1そこでナアマびとゾパルは(こた)えて()った、
2言葉(ことば)(おお)ければ、(こたえ)なしにすまされるだろうか。
(くち)達者(たっしゃ)(ひと)()とされるだろうか。
3あなたのむなしい言葉(ことば)(ひと)沈黙(ちんもく)させるだろうか。
あなたがあざけるとき、
(ひと)はあなたを()じさせないだろうか。
4あなたは()う、『わたしの(おしえ)(ただ)しい、
わたしは(かみ)()(いさぎよ)い』と。
5どうぞ(かみ)言葉(ことば)()し、
あなたにむかってくちびるを(ひら)き、
6知恵(ちえ)秘密(ひみつ)をあなたに(しめ)されるように。
(かみ)はさまざまの知識(ちしき)をもたれるからである。
それであなたは()るがよい、(かみ)はあなたの(つみ)よりも
(かる)くあなたを(ばっ)せられることを。
7あなたは(かみ)(ふか)(こと)(きわ)めることができるか。
全能者(ぜんのうしゃ)限界(げんかい)(きわ)めることができるか。
8それは(てん)よりも(たか)い、あなたは(なに)をなしうるか。
それは陰府(よみ)よりも(ふか)い、あなたは(なに)()りうるか。
9その(りょう)()よりも(なが)く、(うみ)よりも(ひろ)い。
10(かれ)がもし()きめぐって(ひと)(とら)え、
さばきに()(あつ)められるとき、
だれが(かれ)をはばむことができよう。
11(かれ)(いや)しい人間(にんげん)()っておられるからだ。
(かれ)不義(ふぎ)()(とき)
これに(こころ)をとめられぬであろうか。
12しかし()ろばの()(ひと)として(うま)れるとき、
(おろ)かな(もの)(さと)りを()るであろう。
13もしあなたが(こころ)(ただ)しくするならば、
(かみ)()かって()()べるであろう。
14もしあなたの()不義(ふぎ)があるなら、それを(とお)()れ、
あなたの天幕(てんまく)(あく)()まわせてはならない。
15そうすれば、あなたは()じることなく
(かお)をあげることができ、
(かた)()って、(おそ)れることはない。
16あなたは(くる)しみを(わす)れ、
あなたのこれを(おぼ)えることは、
(なが)()った(みず)のようになる。
17そしてあなたの(いのち)真昼(まひる)よりも(ひか)(かがや)き、
たとい(くら)くても(あさ)のようになる。
18あなたは(のぞ)みがあるゆえに(やす)んじ、
保護(ほご)されて(やす)らかにいこうことができる。
19あなたは()してやすみ、
あなたを(おそ)れさせるものはない。
(おお)くの(もの)はあなたの好意(こうい)(もと)めるであろう。
20しかし()しき(もの)()(おとろ)える。
(かれ)らは()()(うしな)い、
その(のぞ)みは(いき)()えるにひとしい」。

第十二章

1そこでヨブは(こた)えて()った、
2「まことに、あなたがたのみ、(ひと)である、
知恵(ちえ)はあなたがたと(とも)()ぬであろう。
3しかしわたしも、あなたがたと同様(どうよう)(さと)りをもつ。
わたしはあなたがたに(おと)らない。
だれがこのような(こと)()らないだろうか。
4わたしは(かみ)()ばわって、()かれた(もの)であるのに、
その(とも)物笑(ものわら)いとなっている。
(ただ)しく(まった)(ひと)物笑(ものわら)いとなる。
5(やす)らかな(もの)(おも)いには、
不幸(ふこう)(もの)(たい)する(あなど)りがあって、
(あし)のすべる(もの)()っている。
6かすめ(うば)(もの)天幕(てんまく)(さか)え、
(かみ)(いか)らす(もの)(やす)らかである。
自分(じぶん)()(かみ)(たずさ)えている(もの)同様(どうよう)だ。
7しかし(けもの)()うてみよ、
それはあなたに(おし)える。
(そら)(とり)()うてみよ、
それはあなたに()げる。
8あるいは()(くさ)()()うてみよ、
(かれ)らはあなたに(おし)える。
(うみ)(うお)もまたあなたに(しめ)す。
9これらすべてのもののうち、いずれか
(しゅ)()がこれをなしたことを()らぬ(もの)があろうか。
10すべての()(もの)(いのち)
およびすべての(ひと)(いき)(かれ)()のうちにある。
11(くち)食物(しょくもつ)(あじ)わうように、
(みみ)言葉(ことば)をわきまえないであろうか。
12()いた(もの)には知恵(ちえ)があり、
(いのち)(なが)(もの)には(さと)りがある。
13知恵(ちえ)(ちから)(かみ)(とも)にあり、
深慮(しんりょ)(さと)りも(かれ)のものである。
14(かれ)破壊(はかい)すれば、(ふたた)()てることができない。
(かれ)(ひと)()()めれば、(ひら)()すことができない。
15(かれ)(みず)()めれば、それはかれ、
(かれ)(みず)()せば、()をくつがえす。
16(ちから)(ふか)知恵(ちえ)(かれ)(とも)にあり、
(まど)わされる(もの)(まど)わす(もの)(かれ)のものである。
17(かれ)()()たちを(はだか)にして()()き、
さばきびとらを(おろ)かにし、
18(おう)たちのきずなを()き、
(かれ)らの(こし)腰帯(こしおび)()き、
19祭司(さいし)たちを(はだか)にして()()き、
(ちから)ある(もの)(ほろ)ぼし、
20みずから(たの)(もの)たちの言葉(ことば)(うば)い、
長老(ちょうろう)たちの分別(ふんべつ)()()り、
21(きみ)たちの(うえ)(あなど)りを(そそ)ぎ、
(つよ)(もの)たちの(おび)()き、
22(くら)やみの(なか)から(かく)れた(こと)どもをあらわし、
暗黒(あんこく)(ひかり)()()し、
23国々(くにぐに)(おお)きくし、またこれを(ほろ)ぼし、
国々(くにぐに)(ひろ)くし、また(とら)()き、
24()(たみ)(ちょう)たちの(さと)りを(うば)い、
(かれ)らを(みち)なき荒野(あらの)にさまよわせ、
25(ひかり)なき(くら)やみに手探(てさぐ)りさせ、
()うた(もの)のようによろめかせる。

第十三章

1()よ、わたしの()は、
これをことごとく()た。
わたしの(みみ)はこれを()いて(さと)った。
2あなたがたの()っている(こと)は、わたしも()っている。
わたしはあなたがたに(おと)らない。
3しかしわたしは全能者(ぜんのうしゃ)(もの)()おう、
わたしは(かみ)(ろん)ずることを(のぞ)む。
4あなたがたは(いつわ)りをもってうわべを(つくろ)(もの)
(みな)無用(むよう)医師(いし)だ。
5どうか、あなたがたは(まった)沈黙(ちんもく)するように。
これがあなたがたの知恵(ちえ)であろう。
6(いま)、わたしの(ろん)ずることを()くがよい。
わたしの(くち)()(あらそ)うことに(みみ)(かたむ)けるがよい。
7あなたがたは(かみ)のために不義(ふぎ)()おうとするのか。
また(かれ)のために(いつわ)りを()べるのか。
8あなたがたは(かれ)にひいきしようとするのか。
(かみ)のために(あらそ)おうとするのか。
9(かみ)があなたがたを調(しら)べられるとき、
あなたがたは無事(ぶじ)だろうか。
あなたがたは(ひと)(あざむ)くように
(かれ)(あざむ)くことができるか。
10あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、
(かれ)(かなら)ずあなたがたを()められる。
11その威厳(いげん)はあなたがたを(おそ)れさせないであろうか。
(かれ)をおそれる(おそ)れが
あなたがたに(のぞ)まないであろうか。
12あなたがたの格言(かくげん)(はい)のことわざだ。
あなたがたの(たて)(つち)(たて)だ。
13(もく)して、わたしにかかわるな、わたしは(はな)そう。
何事(なにごと)でもわたしに()るなら、()るがよい。
14わたしはわが(にく)をわが()()り、
わが(いのち)をわが()のうちに()く。
15()よ、(かれ)はわたしを(ころ)すであろう。
わたしは絶望(ぜつぼう)だ。
しかしなおわたしはわたしの(みち)
(かれ)(まえ)(まも)()こう。
16これこそわたしの(すくい)となる。(かみ)(しん)じない(もの)は、
(かみ)(まえ)()ることができないからだ。
17あなたがたはよくわたしの言葉(ことば)()き、
わたしの()べる(ところ)(みみ)()れよ。
18()よ、わたしはすでにわたしの()()()(なら)べた。
わたしは()とされることをみずから()っている。
19だれかわたしと()(あらそ)(こと)のできる(もの)があろうか。
もしあるならば、わたしは(もく)して()ぬであろう。
20ただわたしに二つの(こと)(ゆる)してください。
そうすれば、わたしはあなたの(かお)をさけて
(かく)れることはないでしょう。
21あなたの()をわたしから(はな)してください。
あなたの(おそ)るべき(こと)をもって
わたしを(おそ)れさせないでください。
22そしてお(およ)びください、わたしは(こた)えます。
わたしに(もの)()わせて、
あなたご自身(じしん)、わたしにお(こた)えください。
23わたしのよこしまと、わたしの(つみ)がどれほどあるか。
わたしのとがと(つみ)とをわたしに()らせてください。
24なにゆえ、あなたはみ(かお)をかくし、
わたしをあなたの(てき)とされるのか。
25あなたは()(まわ)される()()をおどし、
()あがったもみがらを()われるのか。
26あなたはわたしについて(にが)(こと)どもを()きしるし、
わたしに(わか)(とき)(つみ)()がせ、
27わたしの(あし)(あし)かせにはめ、
わたしのすべての(みち)をうかがい、
わたしの(あし)周囲(しゅうい)(かぎ)りをつけられる。
28このような(ひと)(くさ)れた(もの)のように()()て、
(むし)()われた衣服(いふく)のようにすたれる。

第十四章

1(おんな)から(うま)れる(ひと)
()(みじか)く、(なや)みに()ちている。
2(かれ)(はな)のように()()()れ、
(かげ)のように()()って、とどまらない。
3あなたはこのような(もの)にさえ()(ひら)き、
あなたの(まえ)()()して、さばかれるであろうか。
4だれが(けが)れたもののうちから(きよ)いものを
()すことができようか、ひとりもない。
5その()(さだ)められ、
その(つき)(かず)もあなたと(とも)にあり、
あなたがその(かぎ)りを(さだ)めて、
()えることのできないようにされたのだから、
6(かれ)から()をはなし、()をひいてください。
そうすれば(かれ)雇人(やといにん)のように、
その()(たの)しむことができるでしょう。
7()には(のぞ)みがある。
たとい()られてもまた()をだし、
その(わか)(えだ)()えることがない。
8たといその()()(なか)()い、
その(みき)(つち)(なか)()れても、
9なお(みず)(うるお)いにあえば()をふき、
若木(わかぎ)のように(えだ)()す。
10しかし(ひと)()ねば()えうせる。
(いき)()えれば、どこにおるか。
11(みず)(みずうみ)から()え、
(かわ)がかれて、かわくように、
12(ひと)()して()、また()きず、
(てん)のつきるまで、()ざめず、
その(ねむ)りからさまされない。
13どうぞ、わたしを陰府(よみ)にかくし、
あなたの(いか)りのやむまで、(ひそ)ませ、
わたしのために(とき)(さだ)めて、
わたしを(おぼ)えてください。
14(ひと)がもし()ねば、また()きるでしょうか。
わたしはわが服役(ふくえき)(しょ)(にち)(あいだ)
わが解放(かいほう)()るまで()つでしょう。
15あなたがお(およ)びになるとき、
わたしは(こた)えるでしょう。
あなたはみ()のわざを(かえり)みられるでしょう。
16その(とき)あなたはわたしの(あゆ)みを(かぞ)え、
わたしの(つみ)()のがされるでしょう。
17わたしのとがは(ふくろ)(なか)(ふう)じられ、
あなたはわたしの(つみ)()りかくされるでしょう。
18しかし(やま)(たお)れてくずれ、
(いわ)もその(ところ)から(うつ)される。
19(みず)(いし)をうがち、
大水(おおみず)()のちりを(あら)()る。
このようにあなたは(ひと)(のぞ)みを()たれる。
20あなたはながく(かれ)()って、(かれ)()()かせ、
(かれ)(かお)かたちを(かわ)らせて()いやられる。
21(かれ)()らは(たっと)くなっても、(かれ)はそれを()らない、
(いや)しくなっても、それを(さと)らない。
22ただおのが()(いた)みを(おぼ)え、
おのれのために(なげ)くのみである」。

第十五章

1そこでテマンびとエリパズは(こた)えて()った、
2知者(ちしゃ)はむなしき知識(ちしき)をもって(こた)えるであろうか。
東風(ひがしかぜ)をもってその(はら)()たすであろうか。
3(やく)()たない談話(だんわ)をもって(ろん)じるであろうか。
無益(むえき)言葉(ことば)をもって(あらそ)うであろうか。
4ところがあなたは(かみ)(おそ)れることを()て、
(かみ)(まえ)(いの)(こと)をやめている。
5あなたの(つみ)はあなたの(くち)(おし)え、
あなたは悪賢(わるがしこ)(ひと)(した)(えら)(もち)いる。
6あなたの(くち)みずからあなたの(つみ)(さだ)める、
わたしではない。
あなたのくちびるがあなたに(さか)らって証明(しょうめい)する。
7あなたは最初(さいしょ)(うま)れた(ひと)であるのか。
(やま)よりも(さき)(うま)れたのか。
8あなたは(かみ)会議(かいぎ)にあずかったのか。
あなたは知恵(ちえ)独占(どくせん)しているのか。
9あなたが()るものは
われわれも()るではないか。
あなたが(さと)るものは
われわれも(さと)るではないか。
10われわれの(なか)にはしらがの(ひと)も、
年老(としお)いた(ひと)もあって、
あなたの(ちち)よりも年上(としうえ)だ。
11(かみ)(なぐさ)めおよびあなたに(たい)するやさしい言葉(ことば)も、
あなたにとって、あまりに(ちい)さいというのか。
12どうしてあなたの(こころ)(くる)うのか。
どうしてあなたの()はしばたたくのか。
13あなたが(かみ)にむかって()をいらだて、
このような言葉(ことば)をあなたの(くち)から()すのはなぜか。
14(ひと)はいかなる(もの)か、どうしてこれは(きよ)くありえよう。
(おんな)から(うま)れた(もの)は、どうして(ただ)しくありえよう。
15()よ、(かみ)はその(せい)なる(もの)にすら(しん)()かれない、
もろもろの(てん)(かれ)()には(きよ)くない。
16まして(にく)むべき(けが)れた(もの)
また不義(ふぎ)(みず)のように()(ひと)においては。
17わたしはあなたに(かた)ろう、()くがよい。
わたしは自分(じぶん)()(こと)()べよう。
18これは知者(ちしゃ)たちがその先祖(せんぞ)からうけて、
(かく)(ところ)なく(かた)(つた)えたものである。
19(かれ)らにのみこの()(さづ)けられて、
他国(たこく)(じん)はその(なか)()()したことがなかった。
20()しき(ひと)一生(いっしょう)(あいだ)、もだえ(くる)しむ。
残酷(ざんこく)(ひと)には(とし)(かず)(さだ)められている。
21その(みみ)には(おそ)ろしい(おと)(きこ)え、
繁栄(はんえい)(とき)にも(ほろ)ぼす(もの)(かれ)(のぞ)む。
22(かれ)は、(くら)やみから(かえ)りうるとは(しん)ぜず、
つるぎにねらわれる。
23(かれ)食物(しょくもつ)はどこにあるかと()いつつさまよい、
(くら)()手近(てぢか)(そな)えられてあるのを()る。
24(なや)みと(くる)しみとが(かれ)(おそ)れさせ、
(たたか)いの(そな)えをした(おう)のように(かれ)()()つ。
25これは(かれ)(かみ)(さか)らってその()()べ、
全能者(ぜんのうしゃ)(さか)らって高慢(こうまん)にふるまい、
26(たて)(あつ)(めん)をもって強情(ごうじょう)に、
(かれ)にはせ()かうからだ。
27また(かれ)脂肪(しぼう)をもってその(かお)をおおい、
その(こし)には脂肪(しぼう)(にく)(あつ)め、
28(ほろ)ぼされた町々(まちまち)()み、
(ひと)()まない(いえ)荒塚(あらつか)となる(ところ)におるからだ。
29(かれ)()める(もの)とならず、その(とみ)はながく(つづ)かない、
また()()()ることはない。
30(かれ)(くら)やみからのがれることができない。
(ほのお)はその(わか)(えだ)()らし、
その(はな)(かぜ)()()られる。
31(かれ)をしてみずから(あざむ)いて、
むなしい(こと)にたよらせてはならない。
その(むく)いはむなしいからだ。
32(かれ)(とき)のこない(まえ)にその(こと)がなし()げられ、
(かれ)(えだ)(みどり)とならないであろう。
33(かれ)はぶどうの()のように、
その(じゅく)さない()をふり(おと)すであろう。
またオリブの()のように、その(はな)(おと)すであろう。
34(かみ)(しん)じない(もの)のやからは()なく、
まいないによる天幕(てんまく)()()(ほろ)ぼされるからだ。
35(かれ)らは害悪(がいあく)をはらみ、不義(ふぎ)()み、
その(はら)(いつわ)りをつくる」。

第十六章

1そこでヨブは(こた)えて()った、
2「わたしはこのような(こと)数多(かずおお)()いた。
あなたがたは(みな)(ひと)(なぐさ)めようとして、
かえって(ひと)(わずら)わす(もの)だ。
3むなしき言葉(ことば)に、はてしがあろうか。
あなたは(なに)(げき)して(こたえ)をするのか。
4わたしもあなたがたのように(かた)ることができる。
もしあなたがたがわたしと(かわ)ったならば、
わたしは言葉(ことば)()って、あなたがたを()め、
あなたがたに()かって(あたま)()ることができる。
5また(くち)をもって、あなたがたを(つよ)くし、
くちびるの(なぐさ)めをもって、あなたがたの(くる)しみを(やわ)らげることができる。
6たといわたしは(かた)っても、
わたしの(くる)しみは(やわ)らげられない。
たといわたしは(しの)んでも、
どれほどそれがわたしを()るであろうか。
7まことに(かみ)(いま)わたしを(つか)れさせた。
(かれ)はわたしのやからをことごとく(あら)した。
8(かれ)はわたしを、しわ()らせた。
これがわたしに(たい)する証拠(しょうこ)である。
またわたしのやせ(おとろ)えた姿(すがた)()って、わたしを()め、
わたしの(かお)にむかって証明(しょうめい)する。
9(かれ)(いか)ってわたしをかき()き、わたしを(にく)み、
わたしに()かって()をかみ()らした。
わたしの(てき)()(するど)くして、わたしを()める。
10人々(ひとびと)はわたしに()かって(くち)()り、
(あなど)ってわたしのほおを()ち、
ともに(あつ)まってわたしを()める。
11(かみ)はわたしをよこしまな(もの)(わた)し、
悪人(あくにん)()()げいれられる。
12わたしは(やす)らかであったのに、
(かれ)はわたしを()()き、
(くび)(とら)えて、わたしを()(くだ)き、
わたしを()てて(まと)とされた。
13その射手(しゃしゅ)はわたしを(かこ)む。
(かれ)無慈悲(むじひ)にもわたしの(こし)射通(いとお)し、
わたしの(きも)()(なが)()させられる。
14(かれ)はわたしを()(やぶ)って、(やぶ)れに(やぶ)れを(くわ)え、
勇士(ゆうし)のようにわたしに、はせかかられる。
15わたしは荒布(あらぬの)(はだ)()いつけ、
わたしの(つの)をちりに()せた。
16わたしの(かお)()いて(あか)くなり、
わたしのまぶたには(ふか)いやみがある。
17しかし、わたしの()には暴虐(ぼうぎゃく)がなく、
わたしの(いのり)(きよ)い。
18()よ、わたしの()をおおってくれるな。
わたしの(さけ)びに、(やす)(ところ)()させるな。
19()よ、(いま)でもわたしの証人(しょうにん)(てん)にある。
わたしのために保証(ほしょう)してくれる(もの)(たか)(ところ)にある。
20わたしの(とも)はわたしをあざける、
しかしわたしの()(かみ)()かって(なみだ)(そそ)ぐ。
21どうか(かれ)(ひと)のために(かみ)弁論(べんろん)し、
(ひと)とその(とも)との(あいだ)をさばいてくれるように。
22数年(すうねん)()()れば、
わたしは(かえ)らぬ旅路(たびじ)()くであろう。

第十七章

1わが(れい)(やぶ)れ、わが()()き、
(はか)はわたしを()っている。
2まことにあざける(もの)どもはわたしのまわりにあり、
わが()(つね)(かれ)らの(あなど)りを()る。
3どうか、あなた(みずか)保証(ほしょう)となられるように。
ほかにだれがわたしのために
保証(ほしょう)となってくれる(もの)があろうか。
4あなたは(かれ)らの(こころ)()じて、
(さと)ることのないようにされた。
それゆえ、(かれ)らに勝利(しょうり)()させられるはずはない。
5()(まえ)()るために(とも)(うった)えるものは、
その()らの()がつぶれるであろう。
6(かれ)はわたしを(たみ)(わら)(ぐさ)とされた。
わたしは(かお)につばきされる(もの)となる。
7わが()(うれ)いによってかすみ、
わがからだはすべて(かげ)のようだ。
8(ただ)しい(もの)はこれに(おどろ)き、
(つみ)なき(もの)(かみ)(しん)ぜぬ(もの)(たい)して(いきどお)る。
9それでもなお(ただ)しい(もの)はその(みち)(かた)(たも)ち、
(いさぎよ)()をもつ(もの)はますます(ちから)()る。
10しかし、あなたがたは(みな)(ふたた)()るがよい、
わたしはあなたがたのうちに(かしこ)(もの)()ないのだ。
11わが()()()り、わが(はか)りごとは(やぶ)れ、
わが(こころ)(ねが)いも(やぶ)れた。
12(かれ)らは(よる)(ひる)()える。
(かれ)らは()う、『(ひかり)(くら)やみに(ちか)づいている』と。
13わたしがもし陰府(よみ)をわたしの(いえ)として(のぞ)み、
(くら)やみに寝床(ねどこ)をのべ、
14(あな)()かって『あなたはわたしの(ちち)である』と()い、
うじに()かって『あなたはわたしの(はは)
わたしの姉妹(しまい)である』と()うならば、
15わたしの(のぞ)みはどこにあるか、
だれがわたしの(のぞ)みを()ることができようか。
16これは(くだ)って陰府(よみ)関門(かんもん)にいたり、
われわれは(とも)にちりに(くだ)るであろうか」。

第十八章

1そこでシュヒびとビルダデは(こた)えて()った、
2「あなたはいつまで言葉(ことば)にわなを(もう)けるのか。
あなたはまず(さと)るがよい、
それからわれわれは(ろん)じよう。
3なぜ、われわれは(けもの)のように(おも)われるのか。
なぜ、あなたの()(おろ)かな(もの)()えるのか。
4(いか)っておのが()()(もの)よ、
あなたのために()()てられるだろうか。
(いわ)はその(ところ)から(うつ)されるだろうか。
5()しき(もの)(ひかり)()え、
その()(ほのお)(ひかり)(はな)たず、
6その天幕(てんまく)のうちの(ひかり)(くら)く、
(かれ)(うえ)のともしびは()える。
7その(ちから)ある(あゆ)みはせばめられ、
その(はか)りごとは(かれ)(たお)す。
8(かれ)自分(じぶん)(あし)(あみ)にかかり、
また(おと)(あな)(うえ)(あゆ)む。
9わなは(かれ)のかかとを(とら)え、
(あみ)わなは(かれ)(とら)える。
10()なわは(かれ)(とら)えるために()(かく)され、
()(あみ)(かれ)(とら)えるために(みち)(もう)けられる。
11(おそ)ろしい(こと)四方(しほう)にあって(かれ)(おそ)れさせ、
その(あゆ)みにしたがって(かれ)()う。
12その(ちから)()え、
(わざわい)(かれ)をつまずかすために(そな)わっている。
13その皮膚(ひふ)(やまい)によって()いつくされ、
()のういごは(かれ)手足(てあし)()いつくす。
14(かれ)はその(たの)(ところ)天幕(てんまく)から()(はな)されて、
(おそ)れの(おう)のもとに()いやられる。
15(かれ)(ぞく)さない(もの)(かれ)天幕(てんまく)()み、
硫黄(いおう)(かれ)のすまいの(うえ)にまき()らされる。
16(した)ではその()()れ、
(うえ)ではその(えだ)()られる。
17(かれ)形見(かたみ)()から(ほろ)び、
(かれ)()はちまたに()える。
18(かれ)(ひかり)からやみに()いやられ、
()(なか)から()()される。
19(かれ)はその(たみ)(なか)()もなく、(まご)もなく、
(かれ)のすみかには、ひとりも()(のこ)(もの)はない。
20西(にし)(もの)(かれ)()について(おどろ)き、
(ひがし)(もの)はおじ(おそ)れる。
21まことに、()しき(もの)のすまいはこのようであり、
(かみ)()らない(もの)(ところ)はこのようである」。

第十九章

1そこでヨブは(こた)えて()った、
2「あなたがたはいつまでわたしを(なや)まし、
言葉(ことば)をもってわたしを()(くだ)くのか。
3あなたがたはすでに十度(とたび)もわたしをはずかしめ、
わたしを(わる)くあしらってもなお()じないのか。
4たといわたしが、まことにあやまったとしても、
そのあやまちは、わたし自身(じしん)にとどまる。
5もしあなたがたが、
まことにわたしに()かって(たか)ぶり、
わたしの(はじ)(ろん)じるならば、
6(かみ)がわたしをしえたげ、
その(あみ)でわたしを(かこ)まれたのだ』と()るべきだ。
7()よ、わたしが『暴虐(ぼうぎゃく)』と(さけ)んでも(こた)えられず、
(たす)けを()(もと)めても、さばきはない。
8(かれ)はわたしの(みち)にかきをめぐらして、
()えることのできないようにし、
わたしの()(みち)(くら)やみを()かれた。
9(かれ)はわたしの(さか)えをわたしからはぎ()り、
わたしのこうべから(かんむり)(うば)い、
10四方(しほう)からわたしを()りこわして、うせさせ、
わたしの(のぞ)みを()のように()()り、
11わたしに()かって(いか)りを()やし、
わたしを(てき)のひとりのように(おも)われた。
12その軍勢(ぐんぜい)がいっせいに()て、
(るい)(きず)いて()()せ、
わたしの天幕(てんまく)のまわりに(じん)()った。
13(かれ)はわたしの兄弟(きょうだい)たちを
わたしから(とお)(はな)れさせられた。
わたしを()人々(ひとびと)(まった)くわたしに疎遠(そえん)になった。
14わたしの親類(しんるい)および(した)しい(とも)はわたしを見捨(みす)て、
15わたしの(いえ)宿(やど)(もの)はわたしを(わす)れ、
わたしのはしためらはわたしを他人(たにん)のように(おも)い、
わたしは(かれ)らの()他国(たこく)(じん)となった。
16わたしがしもべを()んでも、(かれ)(こた)えず、
わたしは(くち)をもって(かれ)()わなければならない。
17わたしの(いき)はわが(つま)にいとわれ、
わたしは(おな)(はら)()たちにきらわれる。
18わらべたちさえもわたしを(あなど)り、
わたしが()()がれば、わたしをあざける。
19(した)しい人々(ひとびと)(みな)わたしをいみきらい、
わたしの(あい)した人々(ひとびと)はわたしにそむいた。
20わたしの(ほね)(かわ)(にく)につき、
わたしはわずかに()(かわ)をもってのがれた。
21わが(とも)よ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、
(かみ)のみ()がわたしを()ったからである。
22あなたがたは、なにゆえ(かみ)のようにわたしを()め、
わたしの(にく)をもって満足(まんぞく)しないのか。
23どうか、わたしの言葉(ことば)が、()きとめられるように。
どうか、わたしの言葉(ことば)が、書物(しょもつ)にしるされるように。
24(てつ)(ふで)(なまり)とをもって、
ながく(いわ)(きざ)みつけられるように。
25わたしは()る、
わたしをあがなう(もの)()きておられる、
(のち)()(かれ)(かなら)()(うえ)()たれる。
26わたしの(かわ)がこのように(ほろ)ぼされたのち、
わたしは(にく)(はな)れて(かみ)()るであろう。
27しかもわたしの味方(みかた)として()るであろう。
わたしの()(もの)はこれ以外(いがい)のものではない。
わたしの(こころ)はこれを(のぞ)んでこがれる。
28あなたがたがもし『われわれはどうして
(かれ)()めようか』と()い、
また『(こと)根源(こんげん)(かれ)のうちに()いだされる』
()うならば、
29つるぎを(おそ)れよ、
(いか)りはつるぎの(ばつ)をきたらすからだ。
これによって、あなたがたは、
さばきのあることを()るであろう」。

第二十章

1そこでナアマびとゾパルは(こた)えて()った、
2「これによって、わたしは(こた)えようとの(おも)いを(おこ)し、
これがために心中(しんじゅう)しきりに(さわ)()つ。
3わたしはわたしをはずかしめる非難(ひなん)()く、
しかし、わたしの(さと)りの(れい)がわたしに(こた)えさせる。
4あなたはこの(こと)()らないのか、
(むかし)から()(うえ)(ひと)()かれてよりこのかた、
5()しき(ひと)()(ほこ)はしばらくであって、
(かみ)(しん)じない(もの)(たの)しみは
ただつかのまであることを。
6たといその(たか)さが(てん)(たっ)し、
その(あたま)(くも)におよんでも、
7(かれ)はおのれの(ふん)のように、とこしえに(ほろ)び、
(かれ)()(もの)()うであろう、『(かれ)はどこにおるか』と。
8(かれ)(ゆめ)のように()()って、(ふたた)()ることはない。
(かれ)(よる)(まぼろし)のように()(はら)われるであろう。
9(かれ)()()はかさねて(かれ)()ることがなく、
(かれ)のいた(ところ)(ふたた)(かれ)()ることがなかろう。
10その()らは(まず)しい(もの)(めぐ)みを(もと)め、
その()(かれ)()(ざい)(つぐな)うであろう。
11その(ほね)には(わか)(ちから)()ちている、
しかしそれは(かれ)(とも)にちりに()すであろう。
12たとい(あく)(かれ)(くち)(あま)く、
これを(した)(うら)にかくし、
13これを()しんで()てることなく、
(くち)(なか)(ふく)んでいても、
14その食物(しょくもつ)(かれ)(はら)(うち)(かわ)り、
(かれ)(うち)毒蛇(どくへび)(どく)となる。
15(かれ)()(ざい)をのんでも、またそれを()()す、
(かみ)がそれを(かれ)(はら)から()()されるからだ。
16(かれ)毒蛇(どくへび)(どく)()い、
まむしの(した)(かれ)(ころ)すであろう。
17(かれ)(みつ)凝乳(ぎょうにゅう)(なが)れる川々(かわがわ)()ることができない。
18(かれ)はほねおって()たものを(かえ)して、
それを()うことができない。
その(あきな)いによって()利益(りえき)をもって
(たの)しむことができない。
19(かれ)(まず)しい(もの)をしえたげ、これを()てたからだ。
(かれ)(いえ)(うば)()っても、
それを()てることができない。
20(かれ)欲張(よくば)りは()ることを()らぬゆえ、
その(たの)しむ(なに)(もの)をも(すく)うことができないであろう。
21(かれ)(のこ)して()べなかった(もの)とては一つもない。
それゆえ、その繁栄(はんえい)はながく(つづ)かないであろう。
22その(ちから)()ちている(とき)(かれ)窮境(きゅうきょう)(おちい)り、
(なや)みの()がことごとく(かれ)(うえ)(のぞ)むであろう。
23(かれ)がその(はら)()たそうとすれば、
(かみ)はその(はげ)しい(いか)りを(おく)って、
それを(かれ)(うえ)()注ぎ(そそぎ)(かれ)食物(しょくもつ)とされる。
24(かれ)(てつ)武器(ぶき)(まぬか)れても、
青銅(せいどう)()(かれ)射通(いとお)すであろう。
25(かれ)がこれをその()から()()けば、
きらめく()じりがその(きも)から()てきて、
(おそ)れが(かれ)(うえ)(のぞ)む。
26もろもろの暗黒(あんこく)(かれ)宝物(ほうもつ)のためにたくわえられ、
(ひと)()(おこ)したものでない()(かれ)()きつくし、
その天幕(てんまく)(のこ)っている(もの)(ほろ)ぼすであろう。
27(てん)(かれ)(つみ)をあらわし、
()(おこ)って(かれ)()めるであろう。
28その(いえ)財産(ざいさん)(うば)()られ、
(かみ)(いか)りの()()えうせるであろう。
29これが()しき(ひと)(かみ)から()ける(ぶん)
(かみ)によって(さだ)められた()(ぎょう)である」。

第二十一章

1そこでヨブは(こた)えて()った、
2「あなたがたはとくと、わたしの言葉(ことば)()き、
これをもって、あなたがたの(なぐさ)めとするがよい。
3まずわたしをゆるして(かた)らせなさい。
わたしが(かた)ったのち、あざけるのもよかろう。
4わたしのつぶやきは(ひと)(たい)してであろうか。
わたしはどうして、いらだたないでいられようか。
5あなたがたはわたしを()て、(おどろ)き、
()(くち)にあてるがよい。
6わたしはこれを(おも)うと(おそ)ろしくなって、
からだがしきりに(ふる)えわななく。
7なにゆえ()しき(ひと)()きながらえ、
老齢(ろうれい)(たっ)し、かつ力強(ちからづよ)くなるのか。
8その()らは(かれ)らの(まえ)(かた)()ち、
その子孫(しそん)もその()(まえ)(かた)()つ。
9その(いえ)(やす)らかで、(おそ)れがなく、
(かみ)のつえは(かれ)らの(うえ)(のぞ)むことがない。
10その雄牛(おうし)(たね)(あた)えて、(あやま)ることなく、
その雌牛(めうし)()()んで、そこなうことがない。
11(かれ)らはその(ちい)さい(もの)どもを()れのように()()し、
その()らは()(おど)る。
12(かれ)らは()(つづみ)(こと)()わせて(うた)い、
(ふえ)()によって(たの)しみ、
13その()をさいわいに()ごし、
(やす)らかに陰府(よみ)にくだる。
14(かれ)らは(かみ)()う、『われわれを(はな)れよ、
われわれはあなたの(みち)()ることを(この)まない。
15全能者(ぜんのうしゃ)何者(なにもの)なので、
われわれはこれに(つか)えねばならないのか。
われわれはこれに(いの)っても、なんの(えき)があるか』と。
16()よ、(かれ)らの繁栄(はんえい)(かれ)らの()にあるではないか。
悪人(あくにん)(はか)りごとは、わたしの(とお)(およ)(ところ)でない。
17悪人(あくにん)のともしびの()されること、
(いく)たびあるか。
その(わざわい)(かれ)らの(うえ)(のぞ)むこと、
(かみ)がその(いか)りをもって(くる)しみを(あた)えられること、
(いく)たびあるか。
18(かれ)らが(かぜ)(まえ)のわらのようになること、
あらしに()()られるもみがらのようになること、
(いく)たびあるか。
19あなたがたは()う、
(かみ)(かれ)らの(つみ)()みたくわえて、
その()らに(むく)いられるのだ』と。
どうかそれを(かれ)自身(じしん)(むく)いて、
(かれ)らにその(つみ)()らせられるように。
20すなわち(かれ)自身(じしん)()にその(ほろ)びを()させ、
全能者(ぜんのうしゃ)(いか)りを(かれ)らに()ませられるように。
21その(つき)(かず)のつきるとき、
(かれ)らはその(のち)(いえ)になんのかかわる(ところ)があろうか。
22(かみ)(てん)にある(もの)たちをさえ、さばかれるのに、
だれが(かみ)知識(ちしき)(おし)えることができようか。
23ある(もの)繁栄(はんえい)をきわめ、
(まった)(やす)らかに、かつおだやかに()に、
24そのからだには脂肪(しぼう)()ち、
その(ほね)(ずい)(うるお)っている。
25ある(もの)(こころ)(くる)しめて()に、
なんの(さいわい)をも(あじ)わうことがない。
26(かれ)らはひとしくちりに()し、
うじにおおわれる。
27()よ、わたしはあなたがたの(おも)いを()り、
わたしを(がい)しようとするたくらみを()る。
28あなたがたは()う、『王侯(おうこう)(いえ)はどこにあるか、
悪人(あくにん)()天幕(てんまく)はどこにあるか』と。
29あなたがたは道行(みちゆ)人々(ひとびと)()わなかったか、
(かれ)らの証言(しょうげん)()()れないのか。
30すなわち、(わざわい)()悪人(あくにん)(まぬか)れ、
(はげ)しい(いか)りの()(かれ)(すく)()される。
31だれが(かれ)()かって、
その(みち)()()らせる(もの)があるか、
だれが(かれ)のした(こと)(かれ)(むく)いる(もの)があるか。
32(かれ)はかかれて(はか)()き、
(つか)(うえ)見張(みは)りされ、
33(たに)(つち)くれも(かれ)には(こころよ)く、
すべての(ひと)はそのあとに(したが)う。
(かれ)(まえ)()った(もの)(かぞ)えきれない。
34それで、あなたがたはどうしてむなしい(こと)をもって、
わたしを(なぐさ)めようとするのか。
あなたがたの(こたえ)(いつわ)以外(いがい)(なに)ものでもない」。

第二十二章

1そこでテマンびとエリパズは(こた)えて()った、
2(ひと)(かみ)(えき)することができるであろうか。
(かしこ)(ひと)も、ただ自身(じしん)(えき)するのみである。
3あなたが(ただ)しくても、全能者(ぜんのうしゃ)になんの(よろこ)びがあろう。
あなたが自分(じぶん)(みち)(まっと)うしても、
(かれ)になんの利益(りえき)があろう。
4(かみ)はあなたが(かみ)(おそ)れることのゆえに、
あなたを()め、あなたをさばかれるであろうか。
5あなたの(あく)(おお)きいではないか。
あなたの(つみ)は、はてしがない。
6あなたはゆえなく兄弟(きょうだい)のものを(しち)にとり、
(はだか)(もの)着物(きもの)をはぎ()り、
7(つか)れた(もの)(みず)()ませず、
()えた(もの)食物(しょくもつ)(あた)えなかった。
8(ちから)ある(ひと)土地(とち)()
()ある(ひと)はそのうちに()んだ。
9あなたは、やもめをむなしく()らせた。
みなしごの(うで)()られた。
10それゆえ、わなはあなたをめぐり、
恐怖(きょうふ)は、にわかにあなたを(おどろ)かす。
11あなたの(ひかり)(くら)くされ、
あなたは()ることができない。
大水(おおみず)はあなたをおおうであろう。
12(かみ)(てん)(たか)くおられるではないか。
()よ、いと(たか)(ほし)を。いかに(たか)いことよ。
13それであなたは()う、『(かみ)(なに)()っておられるか。
(かれ)黒雲(くろくも)(とお)して、さばくことができるのか。
14()(くも)(かれ)をおおい(かく)すと、
(かれ)()ることができない。
(かれ)(てん)大空(おおぞら)(あゆ)まれるのだ』と。
15あなたは()しき人々(ひとびと)()んだ
いにしえの(みち)(まも)ろうとするのか。
16(かれ)らは(とき)がこないうちに()()られ、
その(もとい)(かわ)のように()(なが)された。
17(かれ)らは(かみ)()った、『われわれを(はな)れてください』と、
また『全能者(ぜんのうしゃ)はわれわれに(なに)をなしえようか』と。
18しかし(かみ)(かれ)らの(いえ)()(もの)()たされた。
ただし悪人(あくにん)(はか)りごとは
わたしのくみする(ところ)ではない。
19(ただ)しい(もの)はこれを()(よろこ)び、
(つみ)なき(もの)(かれ)らをあざ(わら)って()う、
20『まことにわれわれのあだは(ほろ)ぼされ、
その(のこ)した(もの)()()(ほろ)ぼされた』と。
21あなたは(かみ)(やわ)らいで、平安(へいあん)()るがよい。
そうすれば幸福(こうふく)があなたに()るでしょう。
22どうか、(かれ)(くち)から(おしえ)()け、
その言葉(ことば)をあなたの(こころ)におさめるように。
23あなたがもし全能者(ぜんのうしゃ)()(かえ)って、おのれを(ひく)くし、
あなたの天幕(てんまく)から不義(ふぎ)(のぞ)()り、
24こがねをちりの(なか)()き、
オフルのこがねを谷川(たにがわ)(いし)(なか)()き、
25全能者(ぜんのうしゃ)があなたのこがねとなり、
あなたの貴重(きちょう)なしろがねとなるならば、
26その(とき)、あなたは全能者(ぜんのうしゃ)(よろこ)び、
(かみ)()かって(かお)をあげることができる。
27あなたが(かれ)(いの)るならば、(かれ)はあなたに()かれる。
そしてあなたは自分(じぶん)(ちか)いを(はた)す。
28あなたが(こと)をなそうと(さだ)めるならば、
あなたはその(こと)成就(じょうじゅ)し、
あなたの(みち)には(ひかり)(かがや)く。
29(かれ)(たか)ぶる(もの)(ひく)くされるが、
へりくだる(もの)(すく)われるからだ。
30(かれ)(つみ)のない(もの)(すく)われる。
あなたはその()(いさぎよ)いことによって、
(すく)われるであろう」。

第二十三章

1そこでヨブは(こた)えて()った、
2「きょうもまた、わたしのつぶやきは(はげ)しく、
(かれ)()はわたしの(なげ)きにかかわらず、(おも)い。
3どうか、(かれ)(たず)ねてどこで()えるかを()り、
そのみ()(いた)ることができるように。
4わたしは(かれ)(まえ)にわたしの(うった)えをならべ、
(くち)をきわめて論()するであろう。
5わたしは、わたしに(こた)えられるみ言葉(ことば)()り、
わたしに()われる(ところ)(さと)ろう。
6(かれ)(おお)いなる(ちから)をもって、
わたしと(あらそ)われるであろうか、
いな、かえってわたしを(かえり)みられるであろう。
7かしこでは(ただ)しい(ひと)(かれ)()(あらそ)うことができる。
そうすれば、わたしはわたしをさばく(もの)から
永久(えいきゅう)(すく)われるであろう。
8()よ、わたしが(すす)んでも、(かれ)()ない。
退(しりぞ)いても、(かれ)(みと)めることができない。
9(ひだり)(ほう)(たず)ねても、()うことができない。
(みぎ)(ほう)()かっても、()ることができない。
10しかし(かれ)はわたしの(あゆ)(みち)()っておられる。
(かれ)がわたしを(こころ)みられるとき、
わたしは(きん)のように()()るであろう。
11わたしの(あし)(かれ)(あゆ)みに(かた)(したが)った。
わたしは(かれ)(みち)(まも)って(はな)れなかった。
12わたしは(かれ)のくちびるの命令(めいれい)にそむかず、
その(くち)言葉(ことば)をわたしの(むね)にたくわえた。
13しかし(かれ)(かわ)ることはない。
だれが(かれ)をひるがえすことができようか。
(かれ)はその(こころ)(ほっ)するところを(おこな)われるのだ。
14(かれ)はわたしのために(さだ)めた(こと)をなし()げられる。
そしてこのような(こと)(おお)(かれ)(こころ)にある。
15それゆえ、わたしは(かれ)(まえ)におののく。
わたしは(かんが)えるとき、(かれ)(おそ)れる。
16(かみ)はわたしの(こころ)(よわ)くされた。
全能者(ぜんのうしゃ)はわたしを(おそ)れさせられた。
17わたしは、やみによって()じこめられ、
暗黒(あんこく)がわたしの(かお)をおおっている。

第二十四章

1なにゆえ、全能者(ぜんのうしゃ)はさばきの(とき)
(さだ)めておかれないのか。
なにゆえ、(かれ)()(もの)がその()()ないのか。
2()には地境(じざかい)(うつ)(もの)
()れを(うば)ってそれを()(もの)
3みなしごのろばを()いやる(もの)
やもめの(うし)(しち)()(もの)
4(まず)しい(もの)(みち)から()しのける(もの)がある。
()(よわ)(もの)(みな)(かれ)らをさけて()をかくす。
5()よ、(かれ)らは荒野(あらの)におる()ろばのように()(はたら)き、
()獲物(えもの)(もと)めて、その()らの食物(しょくもつ)とする。
6(かれ)らは(はたけ)でそのまぐさを()り、
また悪人(あくにん)のぶどう(はたけ)(ひろ)(あつ)める。
7(かれ)らは()(もの)がなく、(はだか)(よる)()ごし、
(さむ)さに()をおおうべき(もの)もない。
8(かれ)らは(やま)(あめ)にぬれ、しのぎ()もなく(いわ)にすがる。
9(みなしごをその(はは)のふところから(うば)い、
(まず)しい(もの)(おさ)()(しち)にとる(もの)がある。)
10(かれ)らは()(もの)がなく、(はだか)(ある)き、
()えつつ(むぎ)(たば)(はこ)び、
11悪人(あくにん)のオリブ並み()(なか)(あぶら)をしぼり、
(さか)ぶねを()んでも、かわきを(おぼ)える。
12(まち)(なか)から()のうめきが(おこ)り、
(きず)ついた(もの)(たましい)(たす)けを()(もと)める。
しかし(かみ)(かれ)らの(いのり)(かえり)みられない。
13(ひかり)にそむく(もの)たちがある。
(かれ)らは(ひかり)(みち)()らず、(ひかり)(みち)にとどまらない。
14(ひと)(ころ)(もの)(くら)いうちに()()
(よわ)(もの)(まず)しい(もの)(ころ)し、
(よる)(ぬす)びととなる。
15姦淫(かんいん)する(もの)()はたそがれを()って、
『だれもわたしを()ていないだろう』と()い、
(かお)におおう(もの)()てる。
16(かれ)らは(くら)やみで(いえ)をうがち、
(ひる)()じこもって(ひかり)()らない。
17(かれ)らには暗黒(あんこく)(あさ)である。
(かれ)らは暗黒(あんこく)(おそ)れを(とも)とするからだ。
18あなたがたは()う、
(かれ)らは(みず)のおもてにすみやかに(なが)()り、
その()ける(ぶん)()でのろわれ、
(さか)ぶねを()(もの)はだれも
(かれ)らのぶどう(はたけ)(みち)()かない。
19ひでりと(あつ)さは(ゆき)(みず)(うば)()る、
陰府(よみ)(つみ)(おか)した(もの)(たい)するも、これと同様(どうよう)だ。
20(まち)広場(ひろば)(かれ)らを(わす)れ、
(かれ)らの()(おぼ)えられることなく、
不義(ふぎ)()()られるように()られる』と。
21(かれ)らは()()まぬうまずめをくらい、
やもめをあわれむことをしない。
22しかし(かみ)はその(ちから)をもって、
(つよ)人々(ひとびと)()きながらえさせられる。
(かれ)らは()きる(のぞ)みのない(とき)にも()きあがる。
23(かみ)(かれ)らに安全(あんぜん)(あた)えられるので、
(かれ)らは(やす)らかである。
(かみ)()(かれ)らの(みち)(うえ)にある。
24(かれ)らはしばし(たか)められて、いなくなり、
ぜにあおいのように()れて()えうせ、
(むぎ)穂先(ほさき)のように()()られる。
25もし、そうでないなら、
だれがわたしにその(いつわ)りを証明(しょうめい)し、
わが言葉(ことば)のむなしいことを(しめ)しうるだろうか」。

第二十五章

1そこでシュヒびとビルダデは(こた)えて()った、
2大権(たいけん)(おそ)れとは(かみ)(とも)にある。
(かれ)(たか)(ところ)平和(へいわ)(ほどこ)される。
3その軍勢(ぐんぜい)(かぞ)えることができるか。
(なに)(もの)かその(ひかり)(よく)さないものがあるか。
4それで(ひと)はどうして(かみ)(まえ)(ただ)しくありえようか。
(おんな)から(うま)れた(もの)がどうして(きよ)くありえようか。
5()よ、(つき)さえも(かがや)かず、
(ほし)(かれ)()には(きよ)くない。
6うじのような(ひと)
(むし)のような(ひと)()はなおさらである」。

第二十六章

1そこでヨブは(こた)えて()った、
2「あなたは(ちから)のない(もの)をどれほど(たす)けたかしれない。
気力(きりょく)のない(うで)をどれほど(すく)ったかしれない。
3知恵(ちえ)のない(もの)をどれほど(おし)えたかしれない。
(さと)りをどれほど(おお)(しめ)したかしれない。
4あなたはだれの(たす)けによって言葉(ことば)をだしたのか。
あなたから()たのはだれの(れい)なのか。
5亡霊(ぼうれい)(みず)およびその(なか)()むものの(した)(ふる)う。
6(かみ)(まえ)では陰府(よみ)(はだか)である。
(ほろ)びの(あな)もおおい(かく)すものはない。
7(かれ)(きた)(てん)空間(くうかん)()り、
()(なに)もない(ところ)()けられる。
8(かれ)(みず)()(くも)(なか)(つつ)まれるが、
その(した)(くも)()けない。
9(かれ)(つき)のおもてをおおい(かく)して、
(くも)をその(うえ)にのべ、
10(みず)のおもてに(えん)(えが)いて、
(ひかり)とやみとの(さかい)とされた。
11(かれ)(いまし)めると、(てん)(はしら)(ふる)い、かつ(おどろ)く。
12(かれ)はその(ちから)をもって(うみ)(しず)め、
その知恵(ちえ)をもってラハブを()(くだ)き、
13その(いき)をもって(てん)()れわたらせ、
その()をもって()げるへびを()(とお)される。
14()よ、これらはただ(かれ)(みち)(はし)にすぎない。
われわれが(かれ)について()(ところ)
いかにかすかなささやきであろう。
しかし、その(ちから)のとどろきに(いた)っては、
だれが(さと)ることができるか」。

第二十七章

1ヨブはまた言葉(ことば)をついで()った、
2(かみ)()きておられる。
(かれ)はわたしの()(うば)()られた。
全能者(ぜんのうしゃ)はわたしの(たましい)(なや)まされた。
3わたしの(いき)がわたしのうちにあり、
(かみ)(いき)がわたしの(はな)にある(あいだ)
4わたしのくちびるは不義(ふぎ)()わない、
わたしの(した)(いつわ)りを(かた)らない。
5わたしは(だん)じて、あなたがたを(ただ)しいとは(みと)めない。
わたしは()ぬまで、潔白(けっぱく)主張(しゅちょう)してやめない。
6わたしは(かた)くわが()(たも)って()てない。
わたしは(いま)まで一(にち)(こころ)()められた(こと)がない。
7どうか、わたしの(てき)悪人(あくにん)のようになり、
わたしに(さか)らう(もの)
不義(ふぎ)なる(もの)のようになるように。
8(かみ)(かれ)()ち、その(たましい)()きとられるとき、
(かみ)(しん)じない(もの)になんの(のぞ)みがあろう。
9(わざわい)(かれ)(のぞ)むとき、
(かみ)はその(さけ)びを()かれるであろうか。
10(かれ)全能者(ぜんのうしゃ)(よろこ)ぶであろうか、
(つね)(かみ)()ぶであろうか。
11わたしは(かみ)のみ()についてあなたがたに(おし)え、
全能者(ぜんのうしゃ)(とも)にあるものを(かく)すことをしない。
12()よ、あなたがたは(みな)みずからこれを()た、
それなのに、どうしてむなしい(もの)となったのか。
13これは悪人(あくにん)(かみ)から()ける(ぶん)
圧制者(あっせいしゃ)全能者(ぜんのうしゃ)から()ける()(ぎょう)である。
14その()らがふえればつるぎに(わた)され、
その子孫(しそん)食物(しょくもつ)()きることがない。
15その()(のこ)った(もの)疫病(えきびょう)()んで()められ、
そのやもめらは()(かな)しむことをしない。
16たとい(かれ)(ぎん)をちりのように()み、
衣服(いふく)(つち)のように(そな)えても、
17その(そな)えるものは(ただ)しい(ひと)がこれを()
その(ぎん)(つみ)なき(もの)()かち()るであろう。
18(かれ)()てる(いえ)は、くもの()のようであり、
番人(ばんにん)(つく)小屋(こや)のようである。
19(かれ)()める()()ても、(ふたた)()むことがなく、
()(ひら)けばその(とみ)はない。
20(おそ)ろしい(こと)大水(おおみず)のように(かれ)(おそ)い、
(よる)はつむじ(かぜ)(かれ)(うば)()る。
21東風(ひがしかぜ)(かれ)()げると、(かれ)()り、
(かれ)をその(ところ)から()(はら)う。
22それは(かれ)()げつけて、あわれむことなく、
(かれ)はその(ちから)からのがれようと、もがく。
23それは(かれ)()かって()()らし、
あざけり(わら)って、その(ところ)から()()かせる。

第二十八章

1しろがねには()()(あな)があり、
精錬(せいれん)するこがねには()どころがある。
2くろがねは(つち)から()り、
あかがねは(いし)から()かして()る。
3(ひと)(くら)やみを(やぶ)り、
いやはてまでも(たず)ねきわめて、
(くら)やみおよび暗黒(あんこく)(なか)から鉱石(こうせき)()る。
4(かれ)らは(ひと)()(ところ)(はな)れて縦穴(たてあな)をうがち、
道行(みちゆ)(ひと)(わす)れられ、
(ひと)(はな)れて()をつりさげ、()(うご)く。
5()はそこから食物(しょくもつ)()す。
その(した)()でくつがえされるようにくつがえる。
6その(いし)はサファイヤのある(ところ)
そこにはまた金塊(きんかい)がある。
7その(みち)猛禽(もうきん)()らず、たかの()もこれを()ず、
8猛獣(もうじゅう)もこれを()まず、ししもこれを(とお)らなかった。
9(ひと)(かた)(いわ)()をくだして、
(やま)根元(ねもと)からくつがえす。
10(かれ)(いわ)坑道(こうどう)()り、
その()はもろもろの(たっと)(もの)()る。
11(かれ)水路(すいろ)をふさいで、()れないようにし、
(かく)れた(もの)(ひかり)()()す。
12しかし知恵(ちえ)はどこに()いだされるか。
(さと)りのある(ところ)はどこか。
13(ひと)はそこに(いた)(みち)()らない、
また()ける(もの)()でそれを()ることができない。
14(ふち)()う、『それはわたしのうちにない』と。
また(うみ)()う、『わたしのもとにない』と。
15(せい)(きん)もこれと()えることはできない。
(ぎん)(はか)ってその(あたい)とすることはできない。
16オフルの(きん)をもってしても、
その(あたい)(はか)ることはできない。
(たっと)(しま)めのうも、サファイヤも同様(どうよう)である。
17こがねも、玻璃(はり)もこれに(なら)ぶことができない。
また(せい)(きん)器物(うつわもの)もこれと()えることができない。
18さんごも水晶(すいしょう)()うに()りない。
知恵(ちえ)()るのは真珠(しんじゅ)()るのにまさる。
19エチオピヤのトパズもこれに(なら)ぶことができない。
純金(じゅんきん)をもってしても、その(あたい)(はか)ることはできない。
20それでは知恵(ちえ)はどこから()るか。
(さと)りのある(ところ)はどこか。
21これはすべての()(もの)()(かく)され、
(そら)(とり)にも(かく)されている。
22(ほろ)びも()()う、
『われわれはそのうわさを(みみ)()いただけだ』。
23(かみ)はこれに(いた)(みち)(さと)っておられる、
(かれ)はそのある(ところ)()っておられる。
24(かれ)()(はて)までもみそなわし、
(あめ)(した)()きわめられるからだ。
25(かれ)(かぜ)(おも)さを(あた)え、
(みず)をますで(はか)られたとき、
26(かれ)(あめ)のために規定(きてい)(もう)け、
(かみなり)のひらめきのために(みち)(もう)けられたとき、
27(かれ)知恵(ちえ)()て、これをあらわし、
これを(たし)かめ、これをきわめられた。
28そして(ひと)()われた、
()よ、(しゅ)(おそ)れることは知恵(ちえ)である、
(あく)(はな)れることは(さと)りである』と」。

第二十九章

1ヨブはまた言葉(ことば)をついで()った、
2「ああ()ぎた年月(としつき)のようであったらよいのだが、
(かみ)がわたしを(まも)ってくださった()のようで
あったらよいのだが。
3あの(とき)には、(かれ)のともしびがわたしの(あたま)(うえ)(かがや)き、
(かれ)(ひかり)によってわたしは(くら)やみを(あゆ)んだ。
4わたしの(さか)んな(とき)のようであったならよいのだが。
あの(とき)には、(かみ)(した)しみが
わたしの天幕(てんまく)(うえ)にあった。
5あの(とき)には、全能者(ぜんのうしゃ)がなおわたしと(とも)にいまし、
わたしの子供(こども)たちもわたしの周囲(しゅうい)にいた。
6あの(とき)、わたしの足跡(あしあと)(ちち)(あら)われ、
(いわ)もわたしのために(あぶら)(なが)れを(そそ)ぎだした。
7あの(とき)には、わたしは(まち)(もん)()()き、
わたしの()広場(ひろば)(もう)けた。
8(わか)(もの)はわたしを()てしりぞき、
()いた(もの)()をおこして()ち、
9(きみ)たる(もの)物言(ものい)うことをやめて、
その(くち)()()て、
10(たっと)(もの)(こえ)をおさめて、
その(した)(うえ)あごにつけた。
11(みみ)()いた(もの)はわたしを祝福(しゅくふく)された(もの)となし、
()()(もの)はこれをあかしした。
12これは(たす)けを(もと)める(まず)しい(もの)(すく)い、
また、みなしごおよび(たす)ける(ひと)のない(もの)
(すく)ったからである。
13(いま)にも(ほろ)びようとした(もの)祝福(しゅくふく)がわたしに()た。
わたしはまたやもめの(こころ)をして(よろこ)(うた)わせた。
14わたしは正義(せいぎ)()正義(せいぎ)はわたしをおおった。
わたしの公義(こうぎ)上着(うわぎ)のごとく、
また(かんむり)のようであった。
15わたしは()しいの()となり、
(あし)なえの(あし)となり、
16(まず)しい(もの)(ちち)となり、
()らない(ひと)(うった)えの理由(りゆう)調(しら)べてやった。
17わたしはまた()しき(もの)のきばを()り、
その()(あいだ)から獲物(えもの)()()した。
18その(とき)、わたしは()った、
『わたしは自分(じぶん)()(なか)()に、
わたしの()(すな)のように(おお)くなるであろう。
19わたしの()(みず)のほとりにはびこり、
(つゆ)()もすがらわたしの(えだ)におくであろう。
20わたしの(さか)えはわたしと(とも)(あたら)しく、
わたしの(ゆみ)はわたしの()にいつも(つよ)い』と。
21人々(ひとびと)はわたしに()いて()ち、
(もく)して、わたしの(おしえ)(したが)った。
22わたしが()った(のち)(かれ)らは(ふたた)()わなかった。
わたしの言葉(ことば)(かれ)らの(うえ)
(あめ)のように()りそそいだ。
23(かれ)らは(あめ)()つように、わたしを()(のぞ)み、
(はる)(あめ)(あお)ぐように(くち)(ひら)いて(あお)いだ。
24(かれ)らが希望(きぼう)(うしな)った(とき)にも、
わたしは(かれ)らにむかってほほえんだ。
(かれ)らはわたしの(かお)(ひかり)(のぞ)くことができなかった。
25わたしは(かれ)らのために(みち)(えら)び、
そのかしらとして()し、
軍中(ぐんちゅう)(おう)のようにしており、
(なげ)(もの)(なぐさ)める(ひと)のようであった。

第三十章

1しかし(いま)はわたしよりも(とし)(わか)(もの)が、
かえってわたしをあざ(わら)う。
(かれ)らの(ちち)はわたしが(いや)しめて、
()れの(いぬ)一緒(いっしょ)にさえしなかった(もの)だ。
2(かれ)らの()(ちから)からわたしは(なに)()るであろうか、
(かれ)らはその気力(きりょく)がすでに(おとろ)えた人々(ひとびと)だ。
3(かれ)らは(とぼ)しさと(はげ)しい()えとによって、
かわいた()()をかむ。
4(かれ)らは、ぜにあおいおよび灌木(かんぼく)()()み、
れだまの()をもって()(あたた)める。
5(かれ)らは人々(ひとびと)(なか)から()いだされ、
(ぬす)びとを()うように、人々(ひとびと)(かれ)らを()()ばわる。
6(かれ)らは急流(きゅうりゅう)谷間(たにま)()み、
(つち)(あな)または(いわ)(あな)におり、
7灌木(かんぼく)(なか)にいななき、いらくさの(した)()()う。
8(かれ)らは(おろ)かな(もの)()、また(いや)しい(もの)()であって、
(くに)から()いだされた(もの)だ。
9それなのに、わたしは(いま)(かれ)らの(うた)となり、
(かれ)らの(わら)(ぐさ)となった。
10(かれ)らはわたしをいとい、(とお)くわたしをはなれ、
わたしの(かお)につばきすることも、ためらわない。
11(かみ)がわたしの(つな)()いて、
わたしを(いや)しめられたので、
(かれ)らもわたしの(まえ)(つつし)みを()てた。
12このともがらはわたしの(みぎ)()()がり、
わたしを()いのけ、
わたしにむかって(ほろ)びの(みち)(きず)く。
13(かれ)らはわたしの(みち)をこわし、わたしの(わざわい)(うなが)す。
これをさし()める(もの)はない。
14(かれ)らは(ひろ)(やぶ)(くち)からはいるように(すす)みきたり、
破壊(はかい)(なか)をおし()せる。
15(おそ)ろしい(こと)はわたしに(のぞ)み、
わたしの(ほまれ)(かぜ)のように()(はら)われ、
わたしの繁栄(はんえい)(くも)のように()えうせた。
16(いま)は、わたしの(たましい)はわたしの(うち)にとけて(なが)れ、
(なや)みの()はわたしを(とら)えた。
17(よる)はわたしの(ほね)(はげ)しく(なや)まし、
わたしをかむ(くる)しみは、やむことがない。
18それは暴力(ぼうりょく)をもって、わたしの着物(きもの)(とら)え、
はだ()のえりのように、わたしをしめつける。
19(かみ)がわたしを(どろ)(なか)()()れられたので、
わたしはちり(はい)のようになった。
20わたしがあなたにむかって()ばわっても、
あなたは(こた)えられない。
わたしが()っていても、あなたは(かえり)みられない。
21あなたは(かわ)って、わたしに無情(むじょう)(もの)となり、
()(ちから)をもってわたしを()(なや)まされる。
22あなたはわたしを()げて(かぜ)(うえ)()せ、
大風(おおかぜ)のうなり(こえ)(なか)に、もませられる。
23わたしは()っている、あなたはわたしを()(かえ)らせ、
すべての()(もの)(あつ)まる(いえ)(かえ)らせられることを。
24さりながら荒塚(あらつか)(なか)にある(もの)は、
()()べないであろうか、
(わざわい)(なか)にある(もの)(たす)けを()(もと)めないであろうか。
25わたしは(くる)しい()(おく)(もの)のために
()かなかったか。
わたしの(たましい)(まず)しい(ひと)のために
(かな)しまなかったか。
26しかしわたしが(さいわい)(のぞ)んだのに(わざわい)()た。
(ひかり)()(のぞ)んだのにやみが()た。
27わたしのはらわたは()きかえって、(しず)まらない。
(なや)みの()がわたしに(ちか)づいた。
28わたしは()(ひかり)によらずに(くろ)くなって(ある)き、
公会(こうかい)(なか)()って(たす)けを()(もと)める。
29わたしは山犬(やまいぬ)兄弟(きょうだい)となり、
だちょうの(とも)となった。
30わたしの皮膚(ひふ)(くろ)くなって、はげ()ち、
わたしの(ほね)(あつ)さによって()え、
31わたしの(こと)(かな)しみの()となり、
わたしの(ふえ)()(もの)(こえ)となった。

第三十一章

1わたしは、わたしの()
契約(けいやく)(むす)んだ、
どうして、おとめを(した)うことができようか。
2もしそうすれば(うえ)から(かみ)(くだ)される(ぶん)
どんなであろうか。
(たか)(ところ)から全能者(ぜんのうしゃ)(あた)えられる()(ぎょう)
どんなであろうか。
3不義(ふぎ)なる(もの)には(わざわい)(くだ)らないであろうか。
(あく)をなす(もの)には災難(さいなん)(のぞ)まないであろうか。
4(かれ)はわたしの(みち)をみそなわし、
わたしの(あゆ)みをことごとく(かぞ)えられぬであろうか。
5もし、わたしがうそと(とも)(あゆ)み、
わたしの(あし)(いつわ)りにむかって
(いそ)いだことがあるなら、
6(ただ)しいはかりをもってわたしを(はか)れ、
そうすれば(かみ)はわたしの潔白(けっぱく)()られるであろう。)
7もしわたしの(あゆ)みが、(みち)をはなれ、
わたしの(こころ)がわたしの()にしたがって(あゆ)み、
わたしの()(けが)れがついていたなら、
8わたしのまいたのを()(ひと)()べ、
わたしのために成長(せいちょう)するものが、
()()られてもかまわない。
9もし、わたしの(こころ)が、(おんな)(まよ)ったことがあるか、
またわたしが(とな)(びと)(もん)
()()せしたことがあるなら、
10わたしの(つま)()(ひと)のためにうすをひき、
()(ひと)彼女(かのじょ)(うえ)()てもかまわない。
11これは(おも)(つみ)であって、
さばきびとに(ばっ)せられるべき悪事(あくじ)だからである。
12これは(ほろ)びに(いた)るまでも()きつくす()であって、
わたしのすべての産業(さんぎょう)()こそぎ()くであろう。
13わたしのしもべ、また、はしためが
わたしと()(あらそ)ったときに、
わたしがもしその()(ぶん)退(しりぞ)けたことがあるなら、
14(かみ)()()がられるとき、わたしはどうしようか、
(かみ)(たず)ねられるとき、なんとお(こた)えしようか。
15わたしを胎内(たいない)(つく)られた(もの)は、
(かれ)をも(つく)られたのではないか。
われわれを(はら)(うち)(かたち)(つく)られた(もの)は、
ただひとりではないか。
16わたしがもし(まず)しい(もの)(ねが)いを退(しりぞ)け、
やもめの()(おとろ)えさせ、
17あるいはわたしひとりで食物(しょくもつ)()べて、
みなしごに()べさせなかったことがあるなら、
18(わたしは(かれ)(おさな)(とき)から(ちち)のように(かれ)(そだ)て、
またその(はは)(たい)()たときから(かれ)(みちび)いた。)
19もし着物(きもの)がないために()のうとする(もの)や、
()をおおう(もの)のない(まず)しい(ひと)をわたしが()(とき)に、
20その(こし)がわたしを祝福(しゅくふく)せず、
また(かれ)がわたしの(ひつじ)()
(あたた)まらなかったことがあるなら、
21もしわたしを(たす)ける(もの)(もん)におるのを()て、
みなしごにむかってわたしの()
()()げたことがあるなら、
22わたしの(かた)(ほね)が、(かた)から()ち、
わたしの(うで)が、つけ()から()れてもかまわない。
23わたしは(かみ)から()(わざわい)(おそ)れる、
その威光(いこう)(まえ)には何事(なにごと)もなすことはできない。
24わたしがもし(きん)をわが(のぞ)みとし、
(せい)(きん)をわが(たの)みと()ったことがあるなら、
25わたしがもしわが(とみ)(おお)いなる(こと)と、
わたしの()(おお)くの(もの)()(こと)とを
(よろこ)んだことがあるなら、
26わたしがもし()(かがや)くのを()
または(つき)()りわたって(うご)くのを()(とき)
27(こころ)ひそかに(まよ)って、()(くち)づけしたことがあるなら、
28これもまたさばきびとに(ばっ)せらるべき悪事(あくじ)だ。
わたしは(うえ)なる(かみ)(あざむ)いたからである。
29わたしがもしわたしを(にく)(もの)(ほろ)びるのを(よろこ)び、
または(わざわい)(かれ)(のぞ)んだとき、
()(ほこ)ったことがあるなら、
30(わたしはわが(くち)(つみ)(おか)させず、
のろいをもって(かれ)(いのち)(もと)めたことはなかった。)
31もし、わたしの天幕(てんまく)人々(ひとびと)で、
『だれか(かれ)(にく)()きなかった(もの)があるか』と、
()わなかったことがあるなら、
32他国(たこく)(じん)はちまたに宿(やど)らず、
わたしはわが(もん)(たび)びとに(ひら)いた。)
33わたしがもし人々(ひとびと)(まえ)にわたしのとがをおおい、
わたしの悪事(あくじ)(むね)(なか)(かく)したことがあるなら、
34わたしが大衆(たいしゅう)(おそ)れ、宗族(そうぞく)(あなど)りにおぢて、
(くち)()じ、(もん)()なかったことがあるなら、
35ああ、わたしに()いてくれる(もの)があればよいのだが、
(わたしのかきはんがここにある。
どうか、全能者(ぜんのうしゃ)がわたしに(こた)えられるように。)
ああ、わたしの(てき)()いた
告訴(こくそ)(じょう)があればよいのだが。
36わたしは(かなら)ずこれを(かた)()い、
(かんむり)のようにこれをわが()(むす)び、
37わが(あゆ)みの(かず)(かれ)()べ、
(きみ)たる(もの)のようにして、(かれ)(ちか)づくであろう。
38もしわが田畑(たはた)がわたしに()かって()ばわり、
そのうねみぞが(とも)()(さけ)んだことがあるなら、
39もしわたしが(きん)(はら)わないでその産物(さんぶつ)()べ、
その()(ぬし)()なせたことがあるなら、
40小麦(こむぎ)(かわ)りに、いばらがはえ、
大麦(おおむぎ)(かわ)りに雑草(ざっそう)がはえてもかまわない」。
ヨブの言葉(ことば)(おわ)った。

第三十二章

1このようにヨブが自分(じぶん)(ただ)しいことを主張(しゅちょう)したので、これら三(にん)(もの)はヨブに(こた)えるのをやめた。 2その(とき)ラム(ぞく)のブズびとバラケルの()エリフは(いか)りを(おこ)した。すなわちヨブが(かみ)よりも自分(じぶん)(ただ)しいことを主張(しゅちょう)するので、(かれ)はヨブに()かって(いか)りを(おこ)した。 3またヨブの三(にん)(とも)がヨブを(つみ)ありとしながら、(こた)える言葉(ことば)がなかったので、エリフは(かれ)らにむかっても(いか)りを(おこ)した。 4エリフは(かれ)らが(みな)自分(じぶん)よりも年長者(ねんちょうしゃ)であったので、ヨブに物言(ものい)うことをひかえて()っていたが、 5ここにエリフは三(にん)(くち)(こた)える言葉(ことば)のないのを()(いか)りを(おこ)した。
6ブズびとバラケルの()エリフは(こた)えて()った、
「わたしは(とし)(わか)く、あなたがたは年老(としお)いている。
それゆえ、わたしははばかって、
わたしの意見(いけん)()べることをあえてしなかった。
7わたしは(おも)った、『()(かさ)ねた(もの)(かた)るべきだ、
(とし)()んだ(もの)知恵(ちえ)(おし)えるべきだ』と。
8しかし(ひと)のうちには(れい)があり、
全能者(ぜんのうしゃ)(いき)(ひと)(さと)りを(あた)える。
9()いた(もの)(かなら)ずしも知恵(ちえ)があるのではなく、
(とし)とった(もの)(かなら)ずしも道理(どうり)をわきまえるのではない。
10ゆえにわたしは()う、『わたしに()け、
わたしもまたわが意見(いけん)()べよう』。
11()よ、わたしはあなたがたの言葉(ことば)期待(きたい)し、
その知恵(ちえ)ある言葉(ことば)(みみ)(かたむ)け、
あなたがたが()うべき言葉(ことば)(さが)()すのを
()っていた。
12わたしはあなたがたに(こころ)をとめたが、
あなたがたのうちにヨブを()いふせる(もの)
ひとりもなく、
また(かれ)言葉(ことば)(こた)える(もの)はひとりもなかった。
13おそらくあなたがたは()うだろう、
『われわれは知恵(ちえ)()いだした、
(かれ)()つことのできるのは(かみ)だけで、
(ひと)にはできない』と。
14(かれ)はその言葉(ことば)をわたしに()けて()わなかった。
わたしはあなたがたの言葉(ことば)をもって
(かれ)(こた)えることはしない。
15(かれ)らは(おどろ)いて、もはや(こた)えることをせず、
(かれ)らには、もはや()うべき言葉(ことば)がない。
16(かれ)らは物言(ものい)わず、
()ちとどまって、もはや(こた)えるところがないので、
わたしはこれ以上(いじょう)()必要(ひつよう)があろうか。
17わたしもまたわたしの(ぶん)(こた)え、
わたしの意見(いけん)()べよう。
18わたしには言葉(ことば)()ち、
わたしのうちの(れい)がわたしに(せま)るからだ。
19()よ、わたしの(こころ)(くち)(ひら)かないぶどう(しゅ)のように、
(あたら)しいぶどう(しゅ)(かわ)(ぶくろ)のように、
(いま)にも()りさけようとしている。
20わたしは(かた)って、()()らし、
くちびるを(ひら)いて(こた)えよう。
21わたしはだれをもかたより()ることなく、
また何人(なにび)とにもへつらうことをしない。
22わたしはへつらうことを()らないからだ。
もしへつらうならば、わたしの(つく)(ぬし)(ただ)ちに
わたしを(ほろ)ぼされるであろう。

第三十三章

1だから、ヨブよ、(いま)わたしの()うことを()け、
わたしのすべての言葉(ことば)(みみ)(かたむ)けよ。
2()よ、わたしは(くち)(ひら)き、(くち)(なか)(した)物言(ものい)う。
3わたしの言葉(ことば)はわが(こころ)(ただ)しきを(かた)り、
わたしのくちびるは真実(しんじつ)をもってその知識(ちしき)(かた)る。
4(かみ)(れい)はわたしを(つく)り、
全能者(ぜんのうしゃ)(いき)はわたしを()かす。
5あなたがもしできるなら、わたしに(こた)えよ、
わたしの(まえ)言葉(ことば)(ととの)えて、()て。
6()よ、(かみ)(たい)しては、わたしもあなたと同様(どうよう)であり、
わたしもまた(つち)から()って(つく)られた(もの)だ。
7()よ、わたしの威厳(いげん)はあなたを(おそ)れさせない、
わたしの(いきお)いはあなたを(あっ)しない。
8(たし)かに、あなたはわたしの()くところで()った、
わたしはあなたの言葉(ことば)(こえ)()いた。
9あなたは()う、『わたしはいさぎよく、とがはない。
わたしは(きよ)く、不義(ふぎ)はない。
10()よ、(かれ)はわたしを()める口実(こうじつ)()つけ、
わたしを自分(じぶん)(てき)とみなし、
11わたしの(あし)をかせにはめ、
わたしのすべての(おこな)いに()をとめられる』と。
12()よ、わたしはあなたに(こた)える、
あなたはこの(こと)において(ただ)しくない。
(かみ)(ひと)よりも(おお)いなる(もの)だ。
13あなたが『(かれ)はわたしの言葉(ことば)
(すこ)しも(こた)えられない』といって、
(かれ)()かって()(あらそ)うのは、どういうわけであるか。
14(かみ)は一つの方法(ほうほう)によって(かた)られ、
また二つの方法(ほうほう)によって(かた)られるのだが、
(ひと)はそれを(さと)らないのだ。
15人々(ひとびと)熟睡(じゅくすい)するとき、または(とこ)にまどろむとき、
(ゆめ)あるいは(よる)(まぼろし)のうちで、
16(かれ)人々(ひとびと)(みみ)(ひら)き、
警告(けいこく)をもって(かれ)らを(おそ)れさせ、
17こうして(ひと)にその()しきわざを(はな)れさせ、
(たか)ぶりを(ひと)から(のぞ)き、
18その(たましい)(まも)って、(はか)(いた)らせず、
その(いのち)(まも)って、つるぎに(ほろ)びないようにされる。
19(ひと)はまたその(とこ)(うえ)(いた)みによって()らされ、
その(ほね)(たたか)いが()えることなく、
20その(いのち)は、食物(しょくもつ)をいとい、
その食欲(しょくよく)は、おいしい食物(しょくもつ)をきらう。
21その(にく)はやせ()ちて()えず、
その(ほね)()えなかったものまでもあらわになり、
22その(たましい)(はか)(ちか)づき、その(いのち)(ほろ)ぼす(もの)(ちか)づく。
23もしそこに(かれ)のためにひとりの天使(てんし)があり、
千のうちのひとりであって、仲保(ちゅうほ)となり、
(ひと)にその(ただ)しい(みち)(しめ)すならば、
24(かみ)(かれ)をあわれんで()われる、
(かれ)(すく)って、(はか)(くだ)ることを(まぬか)れさせよ、
わたしはすでにあがないしろを()た。
25(かれ)(にく)(おさ)()(にく)よりもみずみずしくならせ、
(かれ)(わか)(とき)元気(げんき)(かえ)らせよ』と。
26その(とき)(かれ)(かみ)(いの)るならば、(かみ)(かれ)(かえり)み、
(よろこ)びをもって、み(まえ)にいたらせ、
その(すくい)(ひと)()()らせられる。
27(かれ)人々(ひとびと)(まえ)(うた)って()う、
『わたしは(つみ)(おか)し、(ただ)しい(こと)()げた。
しかしわたしに報復(ほうふく)がなかった。
28(かれ)はわたしの(たましい)をあがなって、
(はか)(くだ)らせられなかった。
わたしの(いのち)(ひかり)()ることができる』と。
29()よ、(かみ)はこれらすべての(こと)
ふたたび、みたび(ひと)(おこな)い、
30その(たましい)(はか)から()(かえ)し、
(かれ)(いのち)(ひかり)()させられる。
31ヨブよ、(みみ)(かたむ)けてわたしに()け、
(もく)せよ、わたしは(かた)ろう。
32あなたがもし()うべきことがあるなら、
わたしに(こた)えよ、
(かた)れ、わたしはあなたを(ただ)しい(もの)にしようと
(のぞ)むからだ。
33もし(かた)ることがないなら、わたしに()け、
(もく)せよ、わたしはあなたに知恵(ちえ)(おし)えよう」。

第三十四章

1エリフはまた(こた)えて()った、
2「あなたがた知恵(ちえ)ある人々(ひとびと)よ、わたしの言葉(ことば)()け、
あなたがた知識(ちしき)ある人々(ひとびと)よ、わたしに(みみ)(かたむ)けよ。
3(くち)食物(しょくもつ)(あじ)わうように、
(みみ)言葉(ことば)をわきまえるからだ。
4われわれは(ただ)しい(こと)(えら)び、
われわれの(あいだ)()(こと)
(なに)であるかを(あき)らかにしよう。
5ヨブは()った、『わたしは(ただ)しい、
(かみ)はわたしの公義(こうぎ)(うば)われた。
6わたしは(ただ)しいにもかかわらず、(いつわ)(もの)とされた。
わたしにはとががないけれども、
わたしの()(きず)はいえない』と。
7だれかヨブのような(ひと)があろう。
(かれ)はあざけりを(みず)のように()み、
8(あく)をなす(もの)どもと(まじ)わり、悪人(あくにん)(とも)(あゆ)む。
9(かれ)()った、『(ひと)(かみ)(した)しんでも、
なんの(えき)もない』と。
10それであなたがた理解(りかい)ある人々(ひとびと)よ、わたしに()け、
(かみ)(だん)じて(あく)(おこな)うことなく、
全能者(ぜんのうしゃ)(だん)じて不義(ふぎ)(おこな)うことはない。
11(かみ)(ひと)のわざにしたがってその()(むく)い、
おのおのの(みち)にしたがって、
その()()りかからせられる。
12まことに(かみ)()しき(こと)(おこな)われない。
全能者(ぜんのうしゃ)はさばきをまげられない。
13だれかこの()(かれ)にゆだねた(もの)があるか。
だれか(ぜん)世界(せかい)(かれ)()わせた(もの)があるか。
14(かみ)がもしその(れい)をご自分(じぶん)()りもどし、
その(いき)をご自分(じぶん)()りあつめられるならば、
15すべての(にく)(とも)(ほろ)び、
(ひと)はちりに(かえ)るであろう。
16もし、あなたに(さと)りがあるならば、これを()け、
わたしの()うところに(みみ)(かたむ)けよ。
17公義(こうぎ)(にく)(もの)()(おさ)めることができようか。
(ただ)しく(ちから)ある(もの)を、あなたは非難(ひなん)するであろうか。
18(おう)たる(もの)()かって『よこしまな(もの)』と()い、
つかさたる(もの)()かって、『()しき(もの)』と
()うことができるであろうか。
19(かみ)(くん)たる(もの)をもかたより()られることなく、
()める(もの)(まず)しき(もの)にまさって
(かえり)みられることはない。
(かれ)らは(みな)()のわざだからである。
20(かれ)らはまたたく()()に、
(たみ)(よる)(あいだ)()われて、()えうせ、
(ちから)ある(もの)人手(ひとで)によらずに(のぞ)かれる。
21(かみ)()(ひと)(みち)(うえ)にあって、
そのすべての(あゆ)みを()られるからだ。
22(あく)(おこな)(もの)には()(かく)すべき(くら)やみもなく、
暗黒(あんこく)もない。
23(ひと)がさばきのために(かみ)(まえ)()るとき、
(かみ)(ひと)のために(とき)(さだ)めておかれない。
24(かれ)(ちから)ある(もの)をも調(しら)べることなく()(ほろ)ぼし、
()人々(ひとびと)()てて、これに()えられる。
25このように、(かみ)(かれ)らのわざを()り、
()()(かれ)らをくつがえされるので、
(かれ)らはやがて(ほろ)びる。
26(かれ)人々(ひとびと)()(ところ)で、
(かれ)らをその(あく)のために()たれる。
27これは(かれ)らがそむいて(かれ)(したが)わず、
その(みち)(まった)(かえり)みないからだ。
28こうして(かれ)らは(まず)しき(もの)(さけ)びを
(かれ)のもとにいたらせ、
(なや)める(もの)(さけ)びを(かれ)()かせる。
29(かれ)(だま)っておられるとき、
だれが非難(ひなん)することができようか。
(かれ)(かお)(かく)されるとき、
だれが(かれ)()ることができようか。
(こく)(うえ)にも、一(にん)(うえ)にも同様(どうよう)だ。
30これは(かみ)(しん)じない(もの)()(おさ)めることがなく、
(たみ)をわなにかける(こと)のないようにするためである。
31だれが(かみ)()かって()ったか、
『わたしは(つみ)(おか)さないのに、(こら)しめられた。
32わたしの()ないものをわたしに(おし)えられたい。
もしわたしが(わる)(こと)をしたなら、
(かさ)ねてこれをしない』と。
33あなたが(こば)むゆえに、
(かれ)はあなたの(この)むように(むく)いをされるであろうか。
あなたみずから(えら)ぶがよい、わたしはしない。
あなたの()るところを()いなさい。
34(さと)りある人々(ひとびと)はわたしに()うだろう、
わたしに()くところの知恵(ちえ)ある(ひと)()うだろう、
35『ヨブの()うところは知識(ちしき)がなく、
その言葉(ことば)(さと)りがない』と。
36どうかヨブが(おわ)りまで(こころ)みられるように、
(かれ)悪人(あくにん)のように(こた)えるからである。
37(かれ)自分(じぶん)(つみ)に、とがを(くわ)え、
われわれの(なか)にあって()をうち、
(かみ)(さか)らって、その言葉(ことば)をしげくする」。

第三十五章

1エリフはまた(こた)えて()った、
2「あなたはこれを(ただ)しいと(おも)うのか、
あなたは『(かみ)(まえ)自分(じぶん)(ただ)しい』と()うのか。
3あなたは()う、『これはわたしになんの(えき)があるか、
(つみ)(おか)したのとくらべて
なんのまさるところがあるか』と。
4わたしはあなたおよび、
あなたと(とも)にいるあなたの友人(ゆうじん)たちに(こた)えよう。
5(てん)(あお)()よ、
あなたの(うえ)なる(たか)(そら)(のぞ)()よ。
6あなたが(つみ)(おか)しても、
(かれ)になんのさしさわりがあるか。
あなたのとがが(おお)くても、(かれ)(なに)をなし()ようか。
7またあなたは(ただ)しくても、(かれ)(なに)(あた)()ようか。
(かれ)はあなたの()から(なに)()けられるであろうか。
8あなたの(あく)はただあなたのような(ひと)にかかわり、
あなたの()はただ(ひと)()にかかわるのみだ。
9しえたげの(おお)いために(さけ)び、
(ちから)ある(もの)(うで)のゆえに()ばわる人々(ひとびと)がある。
10しかし、ひとりとして()(もの)はない、
『わが(つく)(ぬし)なる(かみ)はどこにおられるか、
(かれ)()()(うた)(あた)え、
11()(けもの)よりも(おお)く、われわれを(おし)え、
(そら)(とり)よりも、われわれを(かしこ)くされる(かた)である』と。
12(かれ)らが(さけ)んでも(こた)えられないのは、
()しき(もの)(たか)ぶりによる。
13まことに(かみ)はむなしい(さけ)びを()かれない。
また全能者(ぜんのうしゃ)はこれを(かえり)みられない。
14あなたが(かれ)()ないと()(とき)はなおさらだ。
さばきは(かみ)(まえ)にある。
あなたは(かれ)()つべきである。
15(いま)(かれ)(いか)りをもって(ばっ)せず、
(つみ)とがを(ふか)(こころ)にとめられないゆえに
16ヨブは(くち)(ひら)いてむなしい(こと)()べ、
無知(むち)言葉(ことば)をしげくする」。

第三十六章

1エリフは(かさ)ねて()った、
2「しばらく()て、わたしはあなたに(しめ)すことがある。
なお(かみ)のために()うべき(こと)がある。
3わたしは(とお)くからわが知識(ちしき)()り、
わが(つく)(ぬし)正義(せいぎ)()する。
4まことにわたしの言葉(ことば)(いつわ)らない。
知識(ちしき)(まった)(もの)があなたと(とも)にいる。
5()よ、(かみ)(ちから)ある(もの)であるが、
(なに)をも(いや)しめられない、
その(さと)りの(ちから)(おお)きい。
6(かれ)()しき(もの)()かしておかれない、
(くる)しむ(もの)のためにさばきを(おこな)われる。
7(かれ)(ただ)しい(もの)から()(はな)さず、
(くらい)にある(おう)たちと(とも)に、とこしえに、
(かれ)らをすわらせて、(たっと)くされる。
8もし(かれ)らが(あし)かせにつながれ、
(なや)みのなわに(とら)えられる(とき)は、
9(かれ)らの(おこな)いと、とがと、
その(たか)ぶったふるまいを(かれ)らに(しめ)し、
10(かれ)らの(みみ)(ひら)いて、(おしえ)()かせ、
(あく)(はな)れて(かえ)ることを(めい)じられる。
11もし(かれ)らが()いて(かれ)(つか)えるならば、
(かれ)らはその()幸福(こうふく)()ごし、
その(とし)(たの)しく(おく)るであろう。
12しかし(かれ)らが()かないならば、つるぎによって(ほろ)び、
知識(ちしき)()ないで()ぬであろう。
13(こころ)(かみ)(しん)じない(もの)どもは(いか)りをたくわえ、
(かみ)(しば)られる(とき)も、(たす)けを()(もと)めることをしない。
14(かれ)らは(とし)(わか)くして()に、
その(いのち)(はじ)のうちに(おわ)る。
15(かみ)(くる)しむ(もの)をその(くる)しみによって(すく)い、
(かれ)らの(みみ)逆境(ぎゃっきょう)によって(ひら)かれる。
16(かみ)はまたあなたを(なや)みから、
束縛(そくばく)のない(ひろ)(ところ)(さそ)()された。
そしてあなたの食卓(しょくたく)()かれた(もの)
すべて()えた(もの)であった。
17しかしあなたは悪人(あくにん)のうくべき
さばきをおのれに()たし、
さばきと公義(こうぎ)はあなたを(とら)えている。
18あなたは(いか)りに(さそ)われて、
あざけりに(おちい)らぬように(こころ)せよ。
あがないしろの(おお)いなるがために、おのれを(あやま)るな。
19あなたの(さけ)びはあなたを(まも)って、
(なや)みを(まぬか)れさせるであろうか、
いかに(ちから)をつくしても(やく)()たない。
20人々(ひとびと)がその(ところ)から()たれる
その()(した)ってはならない。
21(つつし)んで(あく)(かたむ)いてはならない。
あなたは(なや)みよりもむしろこれを(えら)んだからだ。
22()よ、(かみ)はその(ちから)をもってあがめられる。
だれか(かれ)のように(おし)える(もの)があるか。
23だれか(かれ)のためにその(みち)(さだ)めた(もの)があるか。
だれか『あなたは(わる)(こと)をした』と
()いうる(もの)があるか。
24(かみ)のみわざをほめたたえる(こと)(わす)れてはならない。
これは人々(ひとびと)(うた)いあがめるところである。
25すべての(ひと)はこれを(あお)()る。
(ひと)(とお)くからこれを()るにすぎない。
26()よ、(かみ)(おお)いなる(もの)にいまして、
われわれは(かれ)()らない。
その(とし)(かず)(はか)()ることができない。
27(かれ)(みず)のしたたりを()きあげ、
その(きり)をしたたらせて(あめ)とされる。
28(そら)はこれを()らせて、(ひと)(うえ)(ゆた)かに(そそ)ぐ。
29だれか(くも)(ひろ)がるわけと、
その幕屋(まくや)のとどろくわけとを
(さと)ることができようか。
30()よ、(かれ)はその(ひかり)をおのれのまわりにひろげ、
また(うみ)(そこ)をおおわれる。
31(かれ)はこれらをもって(たみ)をさばき、
食物(しょくもつ)(ゆた)かに(たま)い、
32いなずまをもってもろ()(つつ)み、
これに(めい)じて(てき)()たせられる。
33そのとどろきは、
(あく)にむかって(いか)りに()える(かれ)(あらわ)す。

第三十七章

1これがためにわが(こころ)もまたわななき、
その(ところ)からとび(はな)れる。
2()け、(かみ)(こえ)のとどろきを、
またその(くち)から()るささやきを。
3(かれ)はこれを(あめ)(した)(はな)ち、
その(ひかり)()のすみずみまで(いた)らせられる。
4その(のち)(こえ)とどろき、
(かれ)はそのいかめしい(こえ)をもって()(わた)られる。
その(こえ)(きこ)える(とき)
(かれ)はいなずまを()きとめられない。
5(かみ)はその(おどろ)くべき(こえ)をもって()(わた)り、
われわれの(さと)りえない(おお)いなる(こと)(おこな)われる。
6(かれ)(ゆき)()かって『()()れ』と(めい)じ、
夕立(ゆうだち)および(あめ)()かって『(つよ)()れ』と(めい)じられる。
7(かれ)はすべての(ひと)()(ふう)じられる。
これはすべての(ひと)にみわざを()らせるためである。
8その(とき)(けもの)(あな)(はい)り、そのほらにとどまる。
9つむじ(かぜ)はそのへやから、
(さむ)さは北風(きたかぜ)から()る。
10(かみ)のいぶきによって(こおり)()り、
広々(ひろびろ)とした(みず)(こお)る。
11(かれ)()(くも)水気(すいき)()わせ、
(くも)はそのいなずまを()らす。
12これは(かれ)(みちび)きによってめぐる。
(かれ)(めい)じるところをことごとく
世界(せかい)のおもてに(おこな)うためである。
13(かみ)がこれらをこさせるのは、(こら)しめのため、
あるいはその()のため、
あるいはいつくしみのためである。
14ヨブよ、これを()け、
()って(かみ)のくすしきみわざを(かんが)えよ。
15あなたは()っているか、
(かみ)がいかにこれらに(めい)じて、
その(くも)(ひかり)(かがや)かされるかを。
16あなたは()っているか、(くも)のつりあいと、
知識(ちしき)(まった)(もの)のくすしきみわざを。
17南風(みなみかぜ)によって()(おだ)やかになる(とき)
あなたの着物(きもの)(あつ)くなることを。
18あなたは()(かがみ)のように(かた)大空(おおぞら)を、
(かれ)のように()ることができるか。
19われわれが(かれ)()うべき(こと)をわれわれに(おし)えよ、
われわれは(くら)くて、言葉(ことば)をつらねることはできない。
20わたしは(かた)ることがあると
(かれ)()げることができようか、
(ひと)(ほろ)ぼされることを(のぞ)むであろうか。
21(ひかり)(そら)(かがや)いているとき、(かぜ)()ぎて(そら)(きよ)めると、
人々(ひとびと)はその(ひかり)()ることができない。
22(きた)から黄金(おうごん)のような(かがや)きがでてくる。
(かみ)には(おそ)るべき威光(いこう)がある。
23全能者(ぜんのうしゃ)は——
われわれはこれを()いだすことができない。
(かれ)(ちから)公義(こうぎ)とにすぐれ、
正義(せいぎ)()ちて、これを()げることはない。
24それゆえ、人々(ひとびと)(かれ)(おそ)れる。
(かれ)はみずから(かしこ)いと(おも)(もの)(かえり)みられない」。

第三十八章

1この(とき)(しゅ)はつむじ(かぜ)(なか)からヨブに(こた)えられた、
2無知(むち)言葉(ことば)をもって、
(かみ)(はか)りごとを(くら)くするこの(もの)はだれか。
3あなたは(こし)(おび)して、(おとこ)らしくせよ。
わたしはあなたに(たず)ねる、わたしに(こた)えよ。
4わたしが()(もとい)をすえた(とき)、どこにいたか。
もしあなたが()っているなら()え。
5あなたがもし()っているなら、
だれがその度量(どりょう)(さだ)めたか。
だれが(はか)りなわを()(うえ)()ったか。
6その土台(どだい)(なに)(うえ)()かれたか。
その(すみ)(いし)はだれがすえたか。
7かの(とき)には()けの(ほし)(あい)(とも)(うた)い、
(かみ)()たちはみな(よろこ)()ばわった。
8(うみ)(みず)(なが)れいで、胎内(たいない)からわき()たとき、
だれが()をもって、これを()じこめたか。
9あの(とき)、わたしは(くも)をもって(ころも)とし、
黒雲(くろくも)をもってむつきとし、
10これがために(さかい)(さだ)め、
(かん)および()(もう)けて、
11()った、『ここまで()てもよい、()えてはならぬ、
おまえの高波(たかなみ)はここにとどまるのだ』と。
12あなたは(うま)れた()からこのかた(あさ)(めい)じ、
夜明(よあ)けにその(ところ)()らせ、
13これに()(ふち)をとらえさせ、
悪人(あくにん)をその(うえ)から()(おと)させたことがあるか。
14()(いん)せられた(つち)のように(かわ)り、
(ころも)のようにいろどられる。
15悪人(あくにん)はその(ひかり)(うば)われ、
その(たか)くあげた(うで)()られる。
16あなたは(うみ)(みなもと)()ったことがあるか。
(ふち)(そこ)(ある)いたことがあるか。
17()(もん)はあなたのために(ひら)かれたか。
あなたは暗黒(あんこく)(もん)()たことがあるか。
18あなたは()(ひろ)さを()きわめたか。
もしこれをことごとく()っているならば()え。
19(ひかり)のある(ところ)(いた)(みち)はいずれか。
(くら)やみのある(ところ)はどこか。
20あなたはこれをその(さかい)(みちび)くことができるか。
その家路(いえじ)()っているか。
21あなたは()っているだろう、
あなたはかの(とき)すでに(うま)れており、
またあなたの()(かず)(おお)いのだから。
22あなたは(ゆき)(くら)にはいったことがあるか。
ひょうの(くら)()たことがあるか。
23これらは(なや)みの(とき)のため、いくさと(たたか)いの()のため、
わたしがたくわえて()いたものだ。
24(ひかり)(ひろ)がる(みち)はどこか。
東風(ひがしかぜ)()()(わた)(みち)はどこか。
25だれが大雨(おおあめ)のために水路(すいろ)()(ひら)き、
いかずちの(ひかり)のために(みち)(ひら)き、
26(ひと)なき()にも、(ひと)なき荒野(あらの)にも(あめ)()らせ、
27()れすたれた()をあき()らせ、
これに若草(わかくさ)をはえさせるか。
28(あめ)(ちち)があるか。
(つゆ)(たま)はだれが()んだか。
29(こおり)はだれの(たい)から()たか。
(そら)(しも)はだれが()んだか。
30(みず)(かた)まって(いし)のようになり、(ふち)のおもては(こお)る。
31あなたはプレアデスの(くさり)(むす)ぶことができるか。
オリオンの(つな)()くことができるか。
32あなたは十二(きゅう)をその(とき)にしたがって
()()すことができるか。
北斗(ほくと)とその()(ぼし)(みちび)くことができるか。
33あなたは(てん)法則(ほうそく)()っているか、
そのおきてを()(ほどこ)すことができるか。
34あなたは(こえ)(くも)にあげ、
(おお)くの(みず)にあなたをおおわせることができるか。
35あなたはいなずまをつかわして()かせ、
『われわれはここにいる』と、
あなたに()わせることができるか。
36(くも)知恵(ちえ)()き、
(きり)(さと)りを(あた)えたのはだれか。
37だれが知恵(ちえ)をもって(くも)(かぞ)えることができるか。
だれが(てん)(かわ)(ぶくろ)(かたむ)けて、
38ちりを一つに(なが)()わさせ、
(つち)くれを(かた)まらせることができるか。
39あなたはししのために食物(しょくもつ)()り、
()じしの食欲(しょくよく)()たすことができるか。
40(かれ)らがほら(あな)()し、
(はやし)のなかに()()せする(とき)
あなたはこの(こと)をなすことができるか。
41からすの()(かみ)()かって()ばわり、
食物(しょくもつ)がなくて、さまようとき、
からすにえさを(あた)える(もの)はだれか。

第三十九章

1あなたは岩間(いわま)のやぎが
()()むときを()っているか。
あなたは()じかが()()むのを()たことがあるか。
2これらの妊娠(にんしん)(つき)(かぞ)えることができるか。
これらが()(とき)()っているか。
3これらは()をかがめて()()み、
そのはらみ()()みいだす。
4その()(つよ)くなって、()(そだ)ち、
()()って、その(おや)のもとに(かえ)らない。
5だれが()ろばを(はな)って、自由(じゆう)にしたか。
だれが()ろばのつなぎを()いたか。
6わたしは荒野(あらの)をその(いえ)として(あた)え、
()()をそのすみかとして(あた)えた。
7これは(まち)(さわ)ぎをいやしめ、
御者(ぎょしゃ)()(こえ)()きいれず、
8(やま)牧場(まきば)としてはせまわり、
もろもろの青物(あおもの)(たず)(もと)める。
9野牛(やぎゅう)(こころよ)くあなたに(つか)え、
あなたの飼葉(かいば)おけのかたわらにとどまるだろうか。
10あなたは野牛(やぎゅう)手綱(たづな)をつけて
うねを(ある)かせることができるか、
これはあなたに(したが)って(たに)(たがや)すであろうか。
11その(ちから)(つよ)いからとて、
あなたはこれに(たの)むであろうか。
またあなたの仕事(しごと)をこれに(まか)せるであろうか。
12あなたはこれにたよって、あなたの穀物(こくもつ)
()()(はこ)(かえ)らせるであろうか。
13だちょうは威勢(いせい)よくその(つばさ)をふるう。
しかしこれにはきれいな(はね)羽毛(うもう)があるか。
14これはその(たまご)(つち)(なか)()()き、
これを(すな)のなかで(あたた)め、
15(あし)でつぶされることも、
()(けもの)()まれることも(わす)れている。
16これはその()無情(むじょう)であって、
あたかも自分(じぶん)()でないようにし、
その苦労(くろう)のむなしくなるをも(おそ)れない。
17これは(かみ)がこれに知恵(ちえ)(さづ)けず、
(さと)りを(あた)えなかったゆえである。
18これがその()(おこ)して(はし)(とき)には、
(うま)をも、その()()をもあざける。
19あなたは(うま)にその(ちから)(あた)えることができるか。
(ちから)をもってその(くび)(よそお)うことができるか。
20あなたはこれをいなごのように、
とばせることができるか。
その(はな)あらしの威力(いりょく)(おそ)ろしい。
21これは(たに)であがき、その(ちから)(ほこ)り、
みずから()ていって武器(ぶき)()かう。
22これは(おそ)れをあざ(わら)って、(おどろ)くことなく、
つるぎをさけて退(しりぞ)くことがない。
23矢筒(やづつ)はその(うえ)()り、
やりと()げやりと、あいきらめく。
24これはたけりつ、(くる)いつ、()をひとのみにし、
ラッパの(おと)()(わた)っても、()ちどまることがない。
25これはラッパの()るごとにハアハアと()い、
(とお)くから(たたか)いをかぎつけ、
隊長(たいちょう)大声(おおごえ)およびときの(こえ)()()る。
26たかが()いあがり、その(つばさ)をのべて(みなみ)()かうのは、
あなたの知恵(ちえ)によるのか、
27わしがかけのぼり、その()(たか)(ところ)につくるのは、
あなたの命令(めいれい)によるのか。
28これは(いわ)(うえ)にすみかを(かま)え、
(いわ)のとがり、または(けわ)しい(ところ)におり、
29そこから獲物(えもの)をうかがう。
その()(およ)ぶところは(とお)い。
30そのひなもまた()()う。
おおよそ(ころ)された(もの)のある(ところ)には、これもそこにいる」。

第四十章

1(しゅ)はまたヨブに(こた)えて()われた、
2非難(ひなん)する(もの)全能者(ぜんのうしゃ)(あらそ)おうとするのか、
(かみ)(ろん)ずる(もの)はこれに(こた)えよ」。
3そこで、ヨブは(しゅ)(こた)えて()った、
4()よ、わたしはまことに(いや)しい(もの)です、
なんとあなたに(こた)えましょうか。
ただ()(くち)()てるのみです。
5わたしはすでに一()()いました、また()いません、
すでに二()()いました、(かさ)ねて(もう)しません」。
6(しゅ)はまたつむじ(かぜ)(なか)からヨブに(こた)えられた、
7「あなたは(こし)(おび)して、(おとこ)らしくせよ。
わたしはあなたに(たず)ねる、わたしに(こた)えよ。
8あなたはなお、わたしに責任(せきにん)()わそうとするのか。
あなたはわたしを()とし、
自分(じぶん)()としようとするのか。
9あなたは(かみ)のような(うで)()っているのか、
(かみ)のような(こえ)でとどろきわたることができるか。
10あなたは威光(いこう)尊厳(そんげん)とをもってその()(かざ)り、
栄光(えいこう)華麗(かれい)とをもってその()(よそお)ってみよ。
11あなたのあふるる(いか)りを()らし、
すべての(たか)ぶる(もの)()て、これを(ひく)くせよ。
12すべての(たか)ぶる(もの)()て、これをかがませ、
また悪人(あくにん)をその(ところ)()みつけ、
13(かれ)らをともにちりの(なか)にうずめ、
その(かお)(かく)れた(ところ)()じこめよ。
14そうすれば、わたしもまた、あなたをほめて、
あなたの(みぎ)()
あなたを(すく)うことができるとしよう。
15河馬(かば)()よ、
これはあなたと同様(どうよう)にわたしが(つく)ったもので、
(うし)のように(くさ)()う。
16()よ、その(ちから)(こし)にあり、
その(いきお)いは(はら)(すじ)にある。
17これはその()香柏(こうはく)のように(うご)かし、
そのももの(すじ)(たがい)にからみ()う。
18その(ほね)青銅(せいどう)(くだ)のようで、
その肋骨(ろっこつ)(てつ)(ぼう)のようだ。
19これは(かみ)のわざの(だい)一のものであって、
これを(つく)った(もの)がこれにつるぎを(さづ)けた。
20(やま)もこれがために食物(しょくもつ)をいだし、
もろもろの()(けもの)もそこに(あそ)ぶ。
21これは酸棗(さんそう)()(した)()し、
(あし)(しげ)み、または(ぬま)(かく)れている。
22酸棗(さんそう)()はその(かげ)でこれをおおい、
(かわ)(やなぎ)はこれをめぐり(かこ)む。
23()よ、たとい(かわ)()れても、これは(おどろ)かない。
ヨルダンがその(くち)(そそ)ぎかかっても、
これはあわてない。
24だれが、かぎでこれを(とら)えることができるか。
だれが、わなでその(はな)(つらぬ)くことができるか。

第四十一章

1あなたはつり(ばり)
わにをつり()すことができるか。
(いと)でその(した)(おさ)えることができるか。
2あなたは(あし)のなわをその(はな)(とお)すことができるか。
つり(ばり)でそのあごを()(とお)すことができるか。
3これはしきりに、あなたに(ねが)(もと)めるであろうか。
(やわ)らかな言葉(ことば)をあなたに(かた)るであろうか。
4これはあなたと契約(けいやく)(むす)ぶであろうか。
あなたはこれを()って、ながくあなたのしもべと
することができるであろうか。
5あなたは(とり)(たわむ)れるようにこれと(たわむ)れ、
またあなたのおとめたちのために、
これをつないでおくことができるであろうか。
6商人(しょうにん)仲間(なかま)はこれを商品(しょうひん)として、
小売(こうり)商人(しょうにん)(あいだ)()けるであろうか。
7あなたは、もりでその(かわ)()たし、
やすでその(あたま)()(とお)すことができるか。
8あなたの()をこれの(うえ)()け、
あなたは(たたか)いを(おも)()して、
(ふたた)びこれをしないであろう。
9()よ、その(のぞ)みはむなしくなり、
これを()てすら(たお)れる。
10あえてこれを(げき)する勇気(ゆうき)のある(もの)はひとりもない。
それで、だれがわたしの(まえ)()つことができるか。
11だれが(さき)にわたしに(あた)えたので、
わたしはこれに(むく)いるのか。
(あめ)(した)にあるものは、ことごとくわたしのものだ。
12わたしはこれが全身(ぜんしん)と、その(いちじる)しい(ちから)と、
その(うつく)しい構造(こうぞう)について
(だま)っていることはできない。
13だれがその上着(うわぎ)をはぐことができるか。
だれがその二重(ふたえ)のよろいの(あいだ)
はいることができるか。
14だれがその(かお)()(ひら)くことができるか。
そのまわりの()(おそ)ろしい。
15その()(たて)(れつ)でできていて、
その(かた)()じたさまは密封(みっぷう)したように、
16相互(そうご)密接(みっせつ)して、
(かぜ)もその(あいだ)に、はいることができず、
17(たがい)相連(あいつら)なり、
(かた)()いて(はな)すことができない。
18これが、くしゃみすれば(ひかり)(はっ)し、
その()はあけぼののまぶたに()ている。
19その(くち)からは、たいまつが()えいで、
火花(ひばな)をいだす。
20その(はな)(あな)からは(けむり)()てきて、
さながら()()つなべの水煙(みずけむり)のごとく、
()える(あし)(けむり)のようだ。
21その(いき)炭火(すみび)をおこし、
その(くち)からは(ほのお)()る。
22その(くび)には(ちから)宿(やど)っていて、
(おそ)ろしさが、その(まえ)(おど)っている。
23その肉片(にくへん)密接(みっせつ)相連(あいつら)なり、
(かた)()()いて(うご)かすことができない。
24その心臓(しんぞう)(いし)のように(かた)く、
うすの(した)(いし)のように(かた)い。
25その()(おこ)すときは勇士(ゆうし)(おそ)れ、
その衝撃(しょうげき)によってあわて(まど)う。
26つるぎがこれを()っても、きかない、
やりも、()も、もりも(よう)をなさない。
27これは(てつ)()ること、わらのように、
青銅(せいどう)()ること()()のようである。
28弓矢(ゆみや)もこれを逃が(にが)すことができない。
(いし)()げの(いし)もこれには、わらくずとなる。
29こん(ぼう)もわらくずのようにみなされ、
()げやりの(ひび)きを、これはあざ(わら)う。
30その下腹(かふく)(するど)いかわらのかけらのようで、
(むぎ)こき(いた)のようにその()(どろ)(うえ)()ばす。
31これは(ふち)をかなえのように()きかえらせ、
(うみ)香油(こうゆ)のなべのようにする。
32これは自分(じぶん)のあとに(ひか)(みち)(のこ)し、
(ふち)をしらがのように(おも)わせる。
33()(うえ)にはこれと(なら)ぶものなく、
これは(おそ)れのない(もの)(つく)られた。
34これはすべての(たか)(もの)をさげすみ、
すべての(ほこ)(たか)ぶる(もの)(おう)である」。

第四十二章

1そこでヨブは(しゅ)(こた)えて()った、
2「わたしは()ります、
あなたはすべての(こと)をなすことができ、
またいかなるおぼしめしでも、
あなたにできないことはないことを。
3無知(むち)をもって(かみ)(はか)りごとをおおう
この(もの)はだれか』。
それゆえ、わたしはみずから(さと)らない(こと)()い、
みずから()らない、(はか)(がた)(こと)()べました。
4()け、わたしは(かた)ろう、
わたしはあなたに(たず)ねる、わたしに(こた)えよ』。
5わたしはあなたの(こと)(みみ)()いていましたが、
(いま)はわたしの()であなたを拝見(はいけん)いたします。
6それでわたしはみずから(うら)み、
ちり(はい)(なか)()います」。
7(しゅ)はこれらの言葉(ことば)をヨブに(かた)られて(のち)、テマンびとエリパズに()われた、
「わたしの(いか)りはあなたとあなたのふたりの(とも)()かって()える。あなたがたが、わたしのしもべヨブのように(ただ)しい(こと)をわたしについて()べなかったからである。 8それで(いま)、あなたがたは雄牛(おうし)(とう)雄羊(おひつじ)(とう)()って、わたしのしもべヨブの(ところ)()き、あなたがたのために燔祭(はんさい)をささげよ。わたしのしもべヨブはあなたがたのために(いの)るであろう。わたしは(かれ)(いのり)()けいれるによって、あなたがたの(おろ)かを(ばっ)することをしない。あなたがたはわたしのしもべヨブのように(ただ)しい(こと)をわたしについて()べなかったからである」。
9そこでテマンびとエリパズ、シュヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルは()って、(しゅ)(かれ)らに(めい)じられたようにしたので、(しゅ)はヨブの(いのり)()けいれられた。
10ヨブがその友人(ゆうじん)たちのために(いの)ったとき、(しゅ)はヨブの繁栄(はんえい)をもとにかえし、そして(しゅ)はヨブのすべての財産(ざいさん)を二(ばい)()された。 11そこで(かれ)のすべての兄弟(きょうだい)、すべての姉妹(しまい)、および(かれ)旧知(きゅうち)(もの)どもことごとく(かれ)のもとに()て、(かれ)(とも)にその(いえ)()()いし、かつ(しゅ)(かれ)にくだされたすべての(わざわい)について(かれ)をいたわり、(なぐさ)め、おのおの(ぎん)一ケシタと(きん)()一つを(かれ)(おく)った。 12(しゅ)はヨブの(おわ)りを(はじ)めよりも(おお)(めぐ)まれた。(かれ)(ひつじ)一万四千(とう)、らくだ六千(とう)(うし)一千くびき、()ろば一千(とう)をもった。 13また(かれ)(おとこ)()(にん)(おんな)()(にん)をもった。 14(かれ)はその(だい)一の(むすめ)をエミマと()づけ、(だい)二をケジアと()づけ、(だい)三をケレン・ハップクと()づけた。 15全国(ぜんこく)のうちでヨブの(むすめ)たちほど(うつく)しい(おんな)はなかった。(ちち)はその兄弟(きょうだい)たちと同様(どうよう)()(ぎょう)(かれ)らにも(あた)えた。 16この(のち)、ヨブは百四十(ねん)()きながらえて、その()とその(まご)と四(だい)までを()た。 17ヨブは年老(としお)い、()()ちて()んだ。