キリストのかたちに

「その様は人と異ならず、おのれを低くして、死に至るまで、しかも十字架の死に至るまで従順になられました。それゆえに、神もまた彼を高く上げて、すべての名に優る名を彼に与えられました。それはイエスの御名によって、天上のもの、地上のもの、地下のものが、すべて膝をかがめるためであり、また、あらゆる舌が『イエス・キリストは主である』と告白して、父なる神に栄光を帰すためです。」（ピリピ二・八～十一）

われわれはイエスの生涯をしばしば見つめてきた。そして、おそらく、それを偉大な権威と自由を有するものとして見てきたかもしれない。これは部分的にしか正しくない。キリストの素晴らしいパースンを見つめる時、われわれは神の御子が人の様をしておられたことを見る。キリストは、実は、聖書原典が描写しているように、「その栄光の輝きであり、その本質の明確な型である御方」だったのである。キリストは「その本質の正確な型」だった。神ご自身の本質の正確な型だったのである！（ヘブル一・三）。

肉体にある神がそれを通して働かれた諸々の経路を、われわれは見ることができる。そして、彼がご自身の選択を選ばれた事例は皆無だったことがわかる！自分自身の選択を通して、また、悪魔的勢力との「取引」を通して世を支配するべきだ、というすべての提案に対して、彼は辛坊強く、決然と背を向けられた。彼はご自身の死によってのみ支配できたのである！彼は、アダムのように「彼ご自身に似ているもの」で満足されなかった。ご自分の母親の優しい顔を見つめても、彼の行程は変わらなかった。彼は背を向けて神の選択を選ばれたのである。

少年期に、彼は神聖な権威をもって、「わたしはわたしの父の仕事に携わらなければなりません」と宣言された。彼は決して、地的な形の人々の考えや意見を混ぜ合わせることに満足されなかった。彼の目は単一であり、絶えず彼の目標としてきたものしか選ばれなかった。それは、あらゆることで御父を喜ばせた、という証しを保つためだった。

それとは対照的に、われわれの始祖がエデンの園でした選択はなんと異なっていることか。われわれの主イエス・キリストは神の選択しか選ばれなかった。アダムは自分自身の選択を選んだ。キリストは肉における神ご自身の明確なかたちだった――他方、アダムはそのかたちと似姿に創造された。単一な目から、御父との合一・交わりから離れて、アダムはその道と模範から逸れていき、善悪を知る知識の木を選んだ。それは全く悪いわけではなかった。事実、それもまた良いものだった。しかし、それは二重のものであって、単一のものではなかった。もともと、すべては良かったのである！堕落して神の選択から離れた後、善と悪が生じた――二重性、混合が生じた。エデンの園の中央には命の木もあった！今日、人類が夕方の涼しい頃に歩く時、神の園には両方の木が立っている。善悪を知る知識の木（選択と目的の二重性）と命の木（神との合一）である。神に愛されている方にはただ一つの選択、御父の御旨しかなかった。われわれの始祖は離れてさすらいの地に行った。自分自身の選択を選んで、善と悪の両方を知った。視線を漂わせて昨年のことやその頃持っていた特権を振り返り始めるとき、われわれは単一な目から離れたことに気づく。そして、昔の人々と同じように、神が定められたあの道から逸れたことに気づく。時として、われわれはロトの妻に降りかかった厳しい裁きにとまどう。神が命じて、彼女のために救いの道を備えてくださったのに、彼女はソドムを振り返った。そこに住むことをかつて神が容認された地を振り返ることは、彼女にとって小さなことに思われた。しかし、今や、神は彼女を山へ召されたのである。彼女とその夫はその寂しい神の山頂に逗留しなければならなかったのである！

上を見上げる

われわれもまた不思議に思ってきたのだが、今この時に流れている諸々のメッセージは、われわれが歩むうえでなぜこれほど著しくまっすぐに思われるのか？しかし、ここでもまたわれわれは思い出さなければならない。後ろを振り返ることは死だが、上を見上げることは命である！神はわれわれを単一の目に召された。「すべての良い賜物とすべての完全な贈り物は上から、光の父から下って来ます。父には変化や回転の影はありません」（ヤコブ一・十七）。彼の視覚は、善悪の木から食べることによって曇っていない。むしろ、彼の目は純粋で悪をご覧にならない！彼との合一は単一な目と、命の木にあずかることによる澄んだ視覚をもたらす！われわれの主イエス・キリストは、世の基が据えられる前からほふられていた神の小羊だった。最初の降臨の前から彼は地位的にほふられていたが、実際に、肉身をとった御言葉となってわれわれの間に宿られた。彼はまさに事実上また経験上、その究極的力に関して三重の誘惑を耐えなければならなかった。御父が彼の地上の旅路のために与えられた生涯を、それが支配した。彼は実際にカルバリの木の上でほふられて、世の罪を担われた！なぜ神は今この時、このように細く狭い歩みに召しておられるのか？完全な全き明け渡し以外の何が、変化や回転の影のない方である御父の御心の願いを満足させられるのか？命の木――その中には彼の選択以外の選択はない――ではなく、善悪の知識の木を選ぶおそれが常にある。われわれは愛されている方にあって選ばれている！贖いの日のために証印を押されている！われわれの巡礼の旅で、岩なるキリスト・イエスの中には何の罪も宿っていないことを知って、彼の中で安全を享受するよう召されている。彼にあって、われわれは御父に近づく！彼にあって、われわれは御父と一つにされる！アダムが神のかたちにしたがって造られたのを見て、われわれは満足してきたかもしれない。自分たちもまた神のかたちと似姿にされれば十分である、とわれわれは思ってきたかもしれない。われわれは自分たちのことを「神の完全な子供」と称してきたかもしれない。しかし、ああ、そのようなかたちの中にすら、キリストから離れた意志や選択の力が存在するのである。モーセのように神の選択を選んで、キリストの完全さの中にある時だけ、われわれは安全である。モーセは「罪のはかない歓楽を享受するよりは、むしろ神の民と共に苦しみを被ることを選び、キリストのゆえに受ける謗りをエジプトの宝にまさる富と考えました。なぜなら、彼はその報いの報酬に関心を寄せていたからです。信仰によって、彼は王の怒りを恐れずにエジプトを立ち去りました。なぜなら彼は、見えない方を見ているようにして、忍び通したからです」（ヘブル十一・二五～二七）。

キリストが生きておられる

聖書を読むとこう書かれている。「私はキリストと共に十字架につけられました。それにもかかわらず、私は生きています。しかし、私ではなくキリストが私の内に生きておられるのです。そして、いま私が肉体にあって生きているその命を、私は神の御子の信仰によって生きます。御子は私を愛して、ご自身を私のために与えてくださいました」（ガラテヤ二・二〇）。今われわれが生きているのはキリストの命である。これが明確に示しているのは、キリストにあるわれわれの地位上の立場である。われわれはキリストにあって完全である。キリストにあって完全になるよう、われわれは世の基が据えられる前から召されていた。主がかつてわれわれに語られたように、召される者は多いが、「資格づけられる者は少ない！」。選ばれるためのそのような資格は、イエスに与えられたあの二者択一――地上の命よりも神の選択を選ぶ二者択一――による。「大衆受けする救い主」になってこの世の諸々の王国を支配すること――この申し出が彼になされた――や、石をパンに変える能力よりも、力ある命と御父の指示を選ぶことによる。この申し出はとても重大なものだったが、われわれの主の目は堅く定まっており、その足は「エルサレム」とゴルゴタに「向けられて」いた！彼は世の基が据えられる前から十字架につけられていたが、彼は御父の御旨に従って前進し、カルバリの十字架上の自分の場所に至られた。その地上の巡礼を達成して、「これはわたしの愛する子、わたしはこれを喜ぶ」という御父の御声を聞いた時、彼の心はどれほど喜んだにちがいないことか。

神の至上のみこころは、哀れな死すべき存在であるわれわれがわれわれのキリストと同じ罪無き姿になることではない。それでも、われわれの完全さはキリストの中にある！彼の選択がわれわれの内に造り込まれることなくして、われわれは地的選択に対して真に死ぬことはできない！生ける神の御霊がわれわれを静めてくださった後、そして、地上の物音が消え去った後、われわれの多くはありがたいことに、あの輝かしい合一を感じてきたし、われわれの心の内なる礼拝所の中であの甘い交わりを耳にしてきた！われわれは部分的にだが、すべての主権や権力を遥かに超えた天上でキリストと共に座らされるという驚異を経験してきた。われわれは言わば、戦いが終わる前に、この喜びと勝利を経験してきたのである。

ああ、愛する人よ、自分自身の選びの道を求めないようにしようではないか！この世で地位のある人や権力のある人は、いくつもの夜を会議に費やす。助言を求めて神に相談に行ける御方を、彼らが知っていれば！しかし、これらの約束はわれわれ――神の単純な子供たち――のためのものである。なぜなら、これらの約束はキリストにあって然り、アーメンだからである！一度かぎり永遠に、自分たちの生活様式をすべて御足下に置く人々がいる。彼らは、彼がそれを終わらされたことを自覚しつつ、そうするのである！この御業がなされ、勝利が勝ち取られた。そして今や、われわれはキリストの勝利の内に安息することができる！今この世が直面しているこのような時に、「ですから、安息が残されています……」という言葉を、われわれはどうして大胆に発することができるのか。このような安息は環境によるものや、一時的状況によるものではありえない。そうではなく、神の中にある安息である。われわれの労苦の日は過ぎ去って、彼の成就された御業の中にわれわれは安息する。その後、われわれに対する地上の労苦の日は実際に過ぎ去ったことをわれわれは見いだす。人の魂のための救いが成就された後に、御父の「よくやった！」という御言葉によって究極的に完成されたあの安息を、われわれは知り始める。然り、あなたの主の喜びの中に入るのである！主のおきてを愛する人々には大いなる平安がある。決して何物も彼らを害さない！ああ、「わたしはわたしの目であなたを導き、あなたを栄光の中に迎え入れる！」と仰せられた御方を、単一な目で見続けようではないか。

この人々の谷間を歩んでいると、われわれは人類の兄弟愛についてよく耳にする。今やそれは、「兄弟愛週間」によって世界的注目を集めている。この兄弟愛週間の間、この世は黒人、黄色人種、褐色人種、白人を結び付けようとしている。しかし、どうやって盲人に一人一人の色がわかるのか？神はわれわれを肉に従ってではなく御霊に従って知るようにしてくださる。われわれは御霊に関してとても「弱い」ため、自分の右手と左手を区別することもできない。どうして「兄弟愛週間」を祝えよう！われわれの神は、われわれがご自身との交わりの中に生きるようにしてくださる。そのため、われわれは御子と共にこう言えるようになる。「わたしの母とは誰ですか？わたしの兄弟とは誰ですか？そして彼は御手を弟子たちの方に伸ばして言われた。見よ、わたしの母とわたしの兄弟たちを！天におられるわたしの父の御旨を行う者はみな、わたしの兄弟、姉妹、母だからです」（マタイ十二・四八～五〇）。

もしわれわれが単一な目を保つなら、キリストとの合一に関してたとえわれわれが赤子の段階にあっても、あるいはそれ以上の段階にあっても、われわれはあのハレルヤ・コーラスに浴する栄光を経験することができる。そのコーラスは、天上に座してキリストにある完全を享受している人々に許されている特権である！なんという救い主！彼はわれわれのためにすべてを成就してくださった！ああ、愛する人よ、われわれの御父の要求を満たせるのは、御子の中にある完全さしかない。今この時、誰がこの要求に十分に応じられるのか。御子は肉体における神格の明確なかたちとされた！われわれは今やこの栄光のからだの肢体であり、御父及び御子との合一の中にある。そして、われわれのものであるあの知識を享受することができる。この知識は人の争いの駆け引きを超越しており、戦いが荒れ狂っている地上を超越している。われわれは自分の目で悪者の報いを見るだろう！なぜなら、主の御口がそう告げられたからである！戦いは主のものであることを、われわれは確信している。そして、われわれはいつまでも主と共にいるようになる！上に向かって、また外に向かって、われわれは御霊の中で飛行しつつ進む。そしてついには、われわれの祝された主のように、雲がわれわれを迎え入れて、われわれは見えなくなる。この雲はシェキナの栄光の雲である！われわれの神はなんと素晴らしいことか！われわれはわれわれの王と共に祝宴を祝っているのである！