訳者序

サンダー・シング

金井為一郎 訳

(オリーブ園編集版)

この書は彼が著書として発表した最初のものであって、今まで説教において引用した多くの比喩が含まれているが、主から直接受けた啓示が、このような形式をもって表現されたところに東洋的な単純さと深さとをもっていて、福音書中の比喩を思わせるものである。

「サンダーシングの生涯と思想」の中に共通のものがあるが、また特種なものもあり、殊に最初と最後に掲げた彼の祈祷こそは、その全生涯の不思議な能力と智慧との授けられる態度であって徹底的な献身と服従の精神を現している。

これは彼がオーストラリアから帰って更に危険の多いチベットの伝道に行く前に、人々の要求に応じて書いたのである。現在他に「実在と宗教」という著作がある。(後六冊書いている)しかし今後どんな作が彼の手によって書かれるかは全く未知数である。

この書は、彼の伝記の著者パーカー夫人がその夫と共に英訳したのを、一度サドゥーの目を通して出版したものから訳したのである。

彼が人に語る仕方は全く東洋的で、独特な長所をもち多くはインドに適した仕方で自然の中に静かに座し、四周から集ってくる老若男女の各階層の者に、彼自らが体験した真理を語るのである。「その時彼は極めて自由な表現を以てその洗練された常識と野卑に流れぬ諧謔とを時々加えて静かに話を進めて行く時、そこに自ら一種の霊的雰囲気を造り、人をして霊界の実在を目に見るよりも鮮かに感ぜしめるものがあり、彼に聞いた者は誰も忘れる事の出来ぬ印象を受け、彼と共に主の足下に座る事を実際に意識せしめられ、崇敬の感に打たれて自ら頭を垂れ主を渇仰せずには居れないものがある」と。

文字では十分にその人格を伝え得ない。殊に翻訳においてはなおさらである。「しかし有るは無きに優る」。準備のある心には梢頭一輪の花にも天下の春を知らしめる、一つの暗示によっても、大なる天地の実在をうかがい知らせることを信じ、敢てこの拙訳によって世に紹介する所以である。

一九二五年三月一八日

金井生