エホバは全世界を遍く見そなわし己にむかいて心を完うする者のために力を顕し給う（二歴代誌十六・九）。
一、屏東のリバイバル
台南より高雄市に移った。すでに全市に広告を撒き散らし諸般の準備調い居たれば、毎夜聴衆天幕に充ち救いを求むる者多く起こった。又高雄病院に於いて最早瀕死の状態になり居たる病人癒され、神癒の栄光を拝した。高雄に集会中屏東の長老教会牧師呉師来たり、我が教会は甚だ貧弱にしてとても謝礼をなすことは不可能なるべきも来たって助けられること出来ずやと求められた。その時我等の渡台せる目的は名利のためにあらず、ただ貴き魂を救わんがため殉教の覚悟を以て来たれるなれば御要求あらば喜んで応ずべしと答えたら、呉氏いたく喜び、直ちに帰って準備を調えられた。
我等は高雄を移りて屏東に至り、先ず呉牧師夫人に導かれ、準備祈祷のため公園に行った。その時呉姉は眼病にて包帯をなし居られたから先ずそのために祈らんと計ったところが、呉姉声を改めて言わるよう、私の眼位はたとえ潰れるとも厭う所にあらず。斯かることのために貴兄等を迎えたるにあらず。この町の亡び行く民の救われんがために招きたるなれば、私の眼などは棄て置き、その代わりに一言にても市民の魂のため祈られたしと申され、同姉はその時黙示録を開き、現代教会の状態と主の来たり給う時の近きを説き、今は教会が眠り居るべき時にあらず、醒めて伝道すべき時なりと滔々一時間にわたって説き尽くされた。
元来呉牧師はその時を去る十六年前聖霊のバプテスマを受けられ、爾来屏東の魂のみならず、台湾全島リバイバルのために日夜祈られ、それがため身体まで痩せ衰え､常に殉教的奉仕の生涯を送られた人にして、準備祈祷会の時にもすでに山に入り、断食徹夜をなしてリバイバルのため祈りて帰り来られず、留守は夫人多くの子供を連れて一切をなし、その時も背に小児を負い、態も風も構わず、己を忘れ、彼の眼中ただ亡ぶる魂の外何ものもなくして尽くし居られた。斯かる状態を目撃した我等は如何にも微温きことを恥じ、悔い改め、主の前に打ち伏し、今一度賜の再び盛んにせられんことを祈り求め、かつ屏東リバイバルのために祈って宿に帰った。
屏東市外中央の公園に天幕を張り、先ず始めに内地人のため三日間伝道集会をなし、昼は信者のため聖別会をなしたるに、ここに於いても主の御栄光顕れ、多くの救わるる者起こり、信者は初めて純福音に接し、新しき恵みに浴し喜びに満たされた。而して台人の集会となり、三日目の夜の伝道会に至り、聴衆はすでに千余名集まり居た。
その夜は罪の価は死なり、神の賜は我等の主イエス・キリストに於いて賜る永生なりとの使命を受け、先ず罪について述べ、罪の恐るべきことは深刻に開展せられ、聴衆一同息を殺して熱心に聴き居た。その夜の光景は何となく厳かを極め、聖霊は個人個人に迫り、罪の呵責に苦しみつつある状態を見受けた。更に神の賜は我等の主イエス・キリストに於いて賜る永生なり。この罪を贖わんがため、天の宝座を棄て難き事とせず、世界の一小国の小さきベツレヘム、客舎の槽に生まれ給うた奥義を述べ、殊に人類の最下級に生まれ、弱者の友、貧者の伴侶、病者の慰めとなり、公の御生涯に於いては嘲り罵りの中を歩み給うて、ゲッセマネには血の汗を流し、祭司の庭にて衣を剥ぎ取られ、見るに忍びざる恥辱と御苦しみを受け、ピラトの法廷に於いては無法の宣告となり、遂に死罪と定められ、重き十字架を負い、倒れながらもカルバリー山に登り給いて、呪いの十字架に玉体を釘づけられ、肉体の御苦しみと心の御痛みを以て死の権威を滅ぼし、魂の御苦痛につき贖いの真理と父なる神及び主イエスの無限の愛とを説きすすめる時、ほとんど説教の終わりに近づきたる頃、同教会日曜学校生徒の上に俄然火は下り、彼等は涙を流して泣き叫びだし、他の聴衆は厳然として神を崇め居る内に、呉姉妹小児を背に負いながら、その日曜学校生徒を指揮し、生徒と共に聴衆の中を縫い歩きて、悔い改めよ、救われよと勧め始めた。生徒が涙ながらに近づきて手を触るるや、聴衆はそれからそれへと入り乱れて地上に倒れ、一同全く夢中になり、目に涙をたたえ、洟を出し、涎を流し、物凄き光景となって救いを叫び求め出した。
その物音は屏東市街中に響き亘り、人々は何事ならんと群がり来たり、その光景をしばらく見ている内に忽ち聖霊に感じ、同じく倒れ、罪を悔い改め、救いを叫ぶに至る。私は如何する術もなく説教を止めて下りて側に立っていると、内地語をよくする高慢な一青年、杖を手にして私の許に近づき来たり、これは何だと言う。私は静かにこれは神の霊に感じ罪を悔い改めているのですと答うるや、その青年も直ちに霊の感動を受け打ち倒れて悔い改めを叫び出した。
斯かる光景打ち続くと共に日曜学校生徒は五人十人と群れをなして市内各方面に飛び出し、何とも言えない一種悲壮な声で悔い改めよ、亡ぶる……亡ぶる……と叫び巡る、物凄き声は深夜全市に響き、この光景を見聞きせる人々はこは唯事にはあるまじと市民はぞくぞく公園に押しかけ、悔い改むる状全くこれ真のリバイバルに外ならず。
その夜は一先ず集会を閉じ、翌日台人聖別会に於いて更に信者の中にリバイバル起こり、会を重ねる毎にますます栄光顕れ、とても集会を閉じ得ざる状態なりしも次の働きの迫り居るため、この働きを呉牧師に任ね、一先ず集会を閉じた。呉牧師は集会の初めより山に這入りて更に帰り来たらず、そのリバイバルの夜も山にて祈り居られたとの事、そもそもこのリバイバルの起こった所以はこの熱心なる聖徒が十六年の長き間、この町のため祈りの手をあげ続けた結果であったことは明らかである。
二、呉牧師を出せる家
呉牧師の家は祖父呉着氏初めてマクスウェル氏より福音を聞きて信じたのであるが、その当時の台湾は全く福音未伝の地にして迫害いよいよ甚だしく、とても信仰を有ち続くことは不可能ともいうべき時代であったが、祖父夫妻は熱心に神に仕え、神の祝福を蒙りつつ七人の子供を与えられ、皆神を信じて立派な人物となり、その長兄呉葛氏は父母の信仰を受け、立派な聖徒にして神に仕え、凡ての点に祝福せられ十六人の子供を挙ぐるに至った。その内多くは牧師、医師、教育家、実業家となり、台湾中相当の地位を占めておられる。孫を合わせて現今九十六人の多きに達している。物質にも祝され、多くは内地の教育を受け、数国の国語に通じている。神を畏れ神に仕える者の如何に祝福せらるるかを示す信者の鑑とすべき家族である。
我等は数日この家族と交わりたるに、その敬虔の念に富み一家こぞって神に仕え、一致和合して互いに謙りて神に仕えおらるる有様は他に多く例を見ざるほどである。斯かる家より、かくの如き熱心なる牧師の出でたるは当然のことにして、我等の通訳をせられたる医師呉克巳氏はその兄弟にして堂々たる紳士風の人、又神に仕える上に於いては僕の位置に止まり、その謙遜にして高徳なること一大人格者である。